|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|

一章.


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「柚姫起きなさい」
 そう言いながら机に倒れこみながら寝ている私の親友を起こそうと揺さぶる。
「ふわぁ……おはよ……」
 顔をあげた親友は呑気そうに起きる。
「おそよう」
 私は挨拶されたので少し皮肉を入れて挨拶を返す。
 もう既に本日最後の授業を終え、ホームルームの担任を待っているだけだった。
「それにしてもここ最近ちゃんと寝てる? 夜更かしのしすぎじゃないの」
「うーん」
 柚姫は曖昧な返答をする。
 これが私の昔からの親友の九十九柚姫、九十九なんて名前は、フィクションでしか存在し無さそうな名前にはよく初めて会った人には関心が持たれるようだ。それと一緒に惹くのは容姿だ。彼女はどんどん綺麗になっている。
 しかしこれは良い事とは限らないのが現実だ。小学時代と中学時代に余りにもずば抜けてもてていて、告白も良くされていた。いや、異常なほどだった。それと同時にストーカー被害にもあっていた。それから彼女は中学三年の時学校には行かなくなった。これが原因で今では男性恐怖症を患っている。
 だから私達は少し遠めの女子高まで通っていた。いや、正確には近くにも女子高はあったのだが、それは結構名の知れた私立の女子高で、偏差値も二回りほど高めだった。ここで問題になったのが柚姫の成績だった。柚姫は容姿端麗ではあるが、才色兼備とはいかなかったので、必死に一緒に勉強したものの私は受かったのだが、柚姫は落ちてしまった。もちろん私は彼女とここで別れる選択肢もあったが、私は一緒にいる事を選択した。
 だが、これは良かった選択なのかもしれない。その理由はというと去年の十二月に大手企業を狙った大規模なテロがあり、その私が行こうとしてたあの学校の運営元が関係していたらしく、今年一杯で廃校になるそうだった。私達は今二年生なので、多少面倒になったかも知れない。
 というのは新聞に乗っていた。
「席についてー」
 担任が扉を開けて入ってきた。
 手には大量のプリントがあったので少し嫌な予感がよぎった。
「まず初めにプリント配りますよ」
 そういいって列ごとに数往復して、何枚かのプリントを配り、私達生徒は後に回していく。
「皆さんが二年生になって一ヶ月経ちますね。私も担任として、それどころか教師としてまだ一ヶ月しか経っていません。ですから私はまだ生徒の知らない事が多いので、今週中にその最後に渡したプリントに書いてきてくださいね」
 などと言っていたのを軽く聞き流しはするものの、プリントを見ると、丁寧にいくつかの枠が出来ており、どう呼んで欲しいかとか、先生に質問したい事はないかとか、そんな事が書かれていた。真っ先に呼び方は「苗字で」と、書いておいた。名前の方で呼ばれるのは少し恥ずかしいからだ。
 私のフルネームは城岬 乙女。昔は良くからかわれたけど、今はそんなに気にはしていないが、呼ばれると少し恥ずかしくなってしまう。
 とりあえず私はそれだけ書いて鞄にしまう。
「後は各自で読んでおいてくださいね」
 適当すぎるが、生徒にしてみればすぐに帰れるから別に良かったりする。
 その後は委員の報告やらあって、最後に挨拶をしてホームルームは終わった。
 そして私達はいつものように一緒に家に帰る。

 通学には流石に男性恐怖症でも電車に乗らなければいけない訳で、事実少しでも男性に触れるのを極端に嫌っている。でもこれでもましになった方だ。引き籠った当初は男性の顔すら見たくないというような感じで、触れる事が出来ないにしろ、近づく事まで出来るようになったのは大きな進歩だと思う。
 電車で座るときは柚姫が窓側に行くのはずっと変わらず、立っている時は背もたれでもない限りどうする事も出来ない。まあ女性専用車両という便利な物があるのでいいけど、毎回この時間になるわけではなく、女性専用になるのは朝は始発から九時まであるから良いが、帰る時は午後五時からなので、少し時間を潰さないとといけない。しかしこの時間帯はあまり私達の地域は乗客が少ないので、大体座る事が出来、運悪く出来なくても背もたれも使う事も出来る。
 こんな事を考えたとおり、今日もちゃんと席は空いていた。
「ほら、座って」
「うん」
 私に手招きされて、柚姫は先に窓側の席に座る。
「今日は大丈夫だった?」
「大丈夫だよ」
 私は柚姫に問いかける。
 先ほど説明したとおり、柚姫はもともと重度の男性恐怖症だったのは、未だに少しは思うとこがあるらしく、最近では男性に近付かれてもどうもならないが、時たま気分が悪くなったりする。
 恐怖症というのは当人にしたら、かなり精神的に来るものだ。柚姫といたらそれは嫌でも思い知らされる。
「良かった。ところでせんせーの出したプリントどうする?」
 ホームルームで配られた例のプリントについて聞いてみる。
「私もう書いたよ」
「うそっ!」
 まさかホームルーム中既に書いていたとは、
「じゃあもう提出した?」
「まだだよ。一応まだ書ききれてないところもあるから」
「そっか、とりあえず見せて貰ってもいい?」
「いいよ」
 柚姫は快く承諾し、プリントを見せて貰う。
うむ、相変わらずの字の汚さと言ったら、どうして容姿だけがずば抜けているのだろうか。恐らくゲームで言うとステータスで容姿に全部振ってしまったのだろう。そう思っておこう。
「えーと、呼ばれ方は「姫」」
「皆そう呼んでるから」
 説明しなくても、柚姫だから姫、随分分かりやすい。
「何々、趣味は睡眠、好きな物はお菓子、嫌いな物は勉強と運動」
 実に怠惰していらっしゃる。それに食っちゃ寝て運動してないくせにそのスリムな体形は喧嘩売ってるとしか思えない。
「色々言いたい事があるけど次々」
 色々思ったけど口に出して言わないのは優しさである。
「……現在の財布の所持金……?」
 なんつー事を質問してるのか。この担任は相変わらず何処か沸いているのだろう。
「三千円、って別に律儀に答えなくてもいいでしょ!」
「え? だって質問されてるんだから答えなきゃ」
 ……もういいや。こういう子だし。
 後の質問も意味がよく分からないのばかりで、そのプリントを破ってしまいたいという衝動に駆られが、とりあえず耐えきった。

「ただいまー」
 私は鍵を開けて家に帰って来て、すぐ自分の部屋に入り制服から服を着替える。
 それから私はリビングに向かうと、兄貴も久しぶりに帰ってきていた。
「あ、帰ってきてたのか」
「兄貴も帰ってきてたのね」
 相変わらず何を書かれているのかよく分からないレポートを大量に読んでいた。
 私の兄は既に大学を卒業しており、何処かの研究所で働いていた。兄はずば抜けて頭がよく、天才と言っても過言ではない人物で、研究所からスカウトされて働いている。ちなみに分野は生物生命という、とてつもなく難しい気がする物で、マッドサイエンティストと呼ばれてもおかしくはない。名前は城岬縁。性格は色んな意味で良いとは言えない。
「柚姫ちゃんは?」
 と、もう一人が言う。
「柚姫は着替えに帰りましたよ」
「そっかそっか」
 そう柚姫の姉さんにいう。
 まあなんだ、ここに柚姫の姉さんがいるのは偶然ではなく、何が起こったのか私の兄、縁の恋人である。
 名前は九十九 百々。ひらがなで書くと「つくももも」なの友人からはであだ名で「ももも」と呼ばれていたりするそうだ。
 恋人になったのは恐ろしい事に中学生の時だったらしく、その頃から兄貴はこんな人物だったらしく、本当に百々は一体兄貴の何処に惹かれたのか不思議でしょうがない。
「乙女ちゃん、冷蔵庫にお土産のプリン買ってあるから柚姫ちゃんが来たら四人で食べよ」
「有り難う御座います」
「俺は要らないぞ」
 兄妹揃って違う事を言うが、いつもの事である。
 その余った一個は柚姫の胃の中に入るのは分かり切っていた。
 とりあえず久しぶりに六人で夕食になりそうだ。
 私達の家族構成は私、縁、父、母の四人家族で、共働きなので、帰ってくるのは七時くらいだ。
 それに対して九十九家は、柚姫、百々さん、父、母の同じ四人家族で、共働きなのだが、二人揃って有名なデザイナーという夫婦で、今も世界の何処か遠い所にいる。今はフランスだったかな?それで、柚姫と百々さんは城岬家で面倒を見たりしている。まあ家がかなり近くにあるってのもそれが出来た訳だけど。
 まあこれで城岬家に柚姫と百々さんを交えた六人で食事をとったりしているのだが、縁は研究所に泊まることの方が多く、家に帰ってくるのは結構珍しい。だから普段は五人の時の方が多い。
「お邪魔します」
 そう言って柚姫が着替えて来て家に上がってきた。
「柚姫ー」
 そう言って百々さんは柚姫を見た瞬間柚姫に抱きつこうをするが、サッと避ける。
「プリンだ!四個あるから二個貰っていいよね?」
 いつものように縁は入らないと言うと思い、二個掻っ攫っていく。ちなみに行き場を無くした百々さんの体は壁にぶつかっていた。

 プリンを食べ終え、私は自分のの部屋に向かった。
 私の部屋良く柚姫が出入りするので、綺麗に整頓されている。逆に最近は柚姫の部屋に入ったことがなく、柚姫の家に行く事は時たまあるのだが、その時に入れてもらおうとしても嫌がるのだ。まあどうせ部屋が汚いのだろう。昔は入ったりしていて、その当時は部屋が散らかってばかりいたので、よく私と一緒に片づけて、それだけで一日が過ぎたりした。確かに柚姫はこんな性格だから分からない事もない。一応毎回家に行く時は聞いているのだが、一向に入れてくれる気配は無さそうだ。どれほど汚いのか想像はしたくはない。
 ともかく私は柚姫を部屋に招き入れる。
 私の部屋にはテレビやパソコンもあって、正直あまりリビングに出なくても生活は出来るが、リビングにある大きな液晶テレビとは違って、少し小さめなアナログしか映らないようなテレビで、そろそろこれも買い替え時かも知れない。もう少しでアナログが見れなくなるそうだし。それからパソコンも型が古いのでメモリも256Mbしかなく、最近みたいな2Gとかもない。まあ余り使わないから困りはしない。
 他には今まで使った教科書があったり、好きな小説家の本が全巻揃えてあったり、なんとなく気になった漫画を中途半端に途中の一冊だけ買ったりしたのを、キチンと立ててあるとある本棚があり、私は服は余り持っていない為、中が結構スカスカなタンスがあったり、その上には化粧品やらが乗せてあったり、余り場所を取らない折りたためるベットがあったり、何の特徴もない四角の机があったり、そんな部屋だ。別に壁にポスターを張ったり、マイ冷蔵庫なんて物はない。
 後あるのはすぐに人気の無くなったMDのコンポやゲームくらいだろうか。ゲームは昔はよく四人でやっていたが、余りやらなくなった頃から、リビングから移動して私の部屋の一部となっている。まあ今でも柚姫とやっていたりする。新しいゲームは買う事は無く、ずっと同じ物ばかりしてるけど。
 私はまだ制服のままだったので、普段着に着替えようとタンスに直行する。流石に服のレパートリーが少ないので、ジーパンと長袖のシャツといつも同じチョイスになる。それに比べて柚姫は色々持っているので、良く見た目は女の子らしくていいなとは思う。中身については触れない。
 私が着替えている間、柚姫にはリビングで待っていてもらっている。と言っても着替えて、制服をハンガーに掛けたらすぐで、別に化粧も余りしない。髪も特別長いわけでもないので、梳くのは風呂上がりくらいだ。
 私は普段着に着替え終わると、柚姫を呼びに行く。
 リビングでは柚姫と百々さんは二人で談笑していて、縁は何かの資料かレポートを片手に、テレビを見ていた。テレビに映っていたのは、昨年のテロを行われた企業に国が補助をようやく出す案が可決されたというものだった。国というのは手続きが面倒だそうだ。よく知らないけど。
「柚姫ー、いいよー」
 私は柚姫に声を掛けると、柚姫は百々さんに一言言って私の方に向かってくる。
 私はそのまま柚姫を連れて私の部屋に向かう。

 柚姫は私の部屋に入るなり、すぐにカーペットの上に寝転がる。
 私は学校の鞄の中から例のプリントを取り出し、机に向かう。
「さて、何書こうかな」
 呼び方は苗字と書いていたのでいいとして、好きな物は読書と妥当な事を書いて、嫌いな物はむしろ饅頭がこわいと適当な事を書く。
とりあえずここまではいいだろう。しかしここからが問題であるわけで、
「うーん」
 私が別に悩まなくていい事を悩んでいると、寝転がっていた柚姫は体を起こす。
「私が書こうか?」
「ん、断るよ」
「何で~?」
「柚姫に書かせたら碌な事にならないから」
「どういう意味ー」
「そのままの意味、だって字も汚いし、この間だって国語の抜き打ちテスト間違えまくってたでしょ」
「うー、あれは先生が悪いんだよ。いきなりテストとか」
「抜き打ちって言ってるでしょうが」
 そう、この間あった春休みが終わって、始業式のすぐ後にあるテストとは別に、国語では抜き打ちテストがあり、春に出た課題以外の場所が問題に出た。と言っても、文章を抜きだすとか面倒なのは無くて、漢字の読み書きや四字熟語の意味(選択肢付き)など簡単な物だ。それに高校以前の中学に習った物が多く出ていたのだが、見事に柚姫は三十点満点中四点という記録を出したわけである。ちなみに平均は確か十点は超えていたはずだった。まさか六分の一しか取れないというのには少し呆れた。
 その後はみっちり平均以下の生徒には課題も出された。柚姫は本気で破り捨てようとしていたのを止め、どうにか書いて提出させた。
 まあ他にも変な事を書かれては困るというのももちろんある。でも何を書くのがいいのか、いっそ白紙でも良い気がしてきた。よし、そうしよう。
 一々書くのも面倒だし、あの担任の事だ、別に書かなくてもどうも思わないだろう。
 別に成績にも関係なさそうだし、そのまま私は三ヶ所以外の場所を白紙のまま鞄にしまう。
「ところで今日は勉強見なくてもいい?」
 私はプリントを鞄に舞い終えると、柚姫に問いかける。
「今日は大丈夫だよ」
「良かった、昨日はあれだけやってまだ残ってたって言われたら困るからね」
 私は成績があまり良くない……いや、普通に悪い柚姫に勉強を教える事がある。と言ってもただ単に学校で出された課題を教えながら二人でするだけだ。私も分からないところがある時は親に聞いたりしているし、縁がいる時は縁に教えて貰っている。なんだかんだ言っても、天才というだけあって、国立の大学を難無く卒業している。
 特に昨日は柚姫がいくつもの教科の課題をするのを忘れていて、私が奮闘する羽目になった訳だ。たまにある事なのだが、これはこれで正直面倒な話ではある。まあ今日は無くて良かった。同じクラスだし、する事も一緒というのが不幸中の幸いとでもいうのか、恐らく言わない気もするが、今日は課題をどの教科も出さなかったので、柚姫の言葉が本当なら大丈夫だろう。

 それから私と柚姫は数年前に買ってからずっとしている最高四人まで出来る双六形式のゲームをして時間を潰した。ちなみに柚姫はゲームに関しては私よりは強いが、飽くまでそれは二人だけの話で、世間的には私達は下手という部類な訳だ。コンピュータの普通にも勝てたり負けたりするくらいのレベルだが、まあ下手なりに楽しい部分もある。
「惨敗だー」
 私はそう言って仰向けに倒れる。今日は見事なまでに突き放されて負けた。一周毎に行われるミニゲームもほとんど勝てなかったし、サイコロの目もひどかった。これだからゲームは、などと屁理屈を思ってみる。
「っと、そろそろご飯作らなきゃね」
 時間は六時を示している。もちろん夕方である。
 基本的に夜は親が帰ってくる前に私が作っている。朝は夫婦揃って早いので、作るのが面倒なので食パンだけというのが多い。
「今日は何作るの?」
「それは出来てからのお楽しみ」
 そう言って私達は一旦リビングに下りる。
 ごはんは朝炊いておいたので、おかずを作る。今日の献立は豚の生姜焼き、鮭のムニエル、レタスとブロッコリーのサラダ、と数日前に決めて買い溜めした物で作る。
 比較的時間も掛からないのがいい。要は手抜きでもある。
 サラダは最初に作っておく。適当にレタスをほぐし、茹でてあるブロッコリーを載せるだけで完成。ドレッシングは好みが違うので、取り分けてから、各自で掛ける事になっている。
 生姜焼きのタレは市販のものではなく、自分で作る。醤油、味醂、酒、そして摩り下ろした生姜を入れ、掻き混ぜる。これを焼いた豚肉に絡めるだけで完成だ。中には砂糖も入れる人もいるそうだけど、うちの家庭では入れる事無い。
 最後の鮭のムニエルは鮭に塩コショウを振って、小麦粉を塗して、バターと一緒に焼くだけで、ソースはさらにバターとしょうゆを混ぜたものという比較的簡単なものを作った。
 と、料理の過程を説明するとこんなものである。
 私が料理を作っている間に両親揃って帰って来ていたので、そのまま夕食にする。
「みんな運ぶの手伝って」
 と、出来た事を伝えると、柚姫と百々さんと縁は皿と料理を運んでを配るのを手伝いに来る。
「流石乙女ちゃん、いつもながら美味しそう」
「百々、さっさと運べ」
「柚姫、私肉多目ね」
 と、各々述べて皿を運んで行く。
 兎にも角にも、私は最後に茶碗にごはんをよそって持っていくのだ。

 テーブルの右側に百々さん、緑、お母さんの順に座り、左側に柚姫、私、お父さんの順に座って、食事の時はテーブルを囲んでいる。
 うちでは、食事中はテレビをつけないのが鉄則で、要は家庭の絆をなんとやらという事だ。
 ちなみに私としてはテレビを見ながらの方が会話が弾む気もしない事もない訳ではあるが、その辺りは録画しておけばいいだけなので、今となっては気に留める事でも無かった。
 親との談笑もしつつ食事も進んでいるのだが、ここで一ついつもの出来事が起こる。
 さて、テーブルには大皿に料理を盛ってあり、各々が小皿に取り分けていく事になっている。
 故に取り合いと言うのも起こるが、同時に嫌いな物を食べないというのも起こる。と言う訳で、
「緑~、はい」
 百々さんは勝手に縁の小皿の中にサラダをぶちまける。表現は間違っていない。
「……頼むからやめてくれ」
 縁は余り野菜を嫌う所があるのだが、それを駄目だと思った百々さんは彼女として、健康的に野菜を食べてほしいと思って必ずとる行動である。基本的に研究所泊まりの緑なので、野菜をそこで少ししか食べてない為に、食べれる時は無理やりにでも食べさせようとしている。その考えはいいかも知れないのだが、極端であり、大皿に合ったサラダの大半が縁の小皿に入れられ、小皿からはみ出しまくっている。私も馬鹿ではないので、縁の小皿だけ私達以上の大きさにした事があるのだが、余計に入れられる量が増えて逆効果だったので、縁が帰って来ている時はサラダ全体の量を減らすという強行策に出ている。まあ縁は無理やりでも残さず食べてはいるようだ。
「ところで日曜日二人とも暇?」
 百々さんは縁のサラダにドレッシングをこれもまた豪快に掛けながら、私と柚姫に向かって聞いてきた。
「私は大丈夫ですけど?」
「私も何も無いよ」
 ああ、いつものかと思いつつ、暇な事を言う。
「じゃあさ、これ行こう!これ!」
 百々さんは懐から何かのチケットを取り出した。
 とりあえず説明しておくと、百々さんはよく突拍子もなく変わったものに興味を出したり、ふらっと何処か遠方まで遊びに行ったりする。これもその一つで、たまにクラシックや日本民芸などから、スポーツや美術品など様々な物に興味を出しては、それをしたり、見に行ったりすることがある。これは縁とのデートと称して良く二人で行っているのだが、縁は忙しい身分でもあり、行けない事の方が多いため、私達が誘われることがある訳だ。因みにお金は百々さんが出してくれるので、正直悪い言い方だが暇つぶしにはいい。今回はチケットと言う事は何かを見に行くのだろうか。
 私と柚姫はチケットを見る。
「日本舞踊?」
「そうよ、このチケット手に入れるの苦労したんだがら。日本舞踊の有名どころが集っての公演だからプレミアまで付くほどなんだから。あ、これパンフレットね」
 何処から取り出したのか疑問になるような大きさのパンフレットを受け取る。
 日本舞踊の中からいくつかの舞踊が順番に見せるというものだった。出演者の中にはテレビでも聞いたことがあるようなないような名前も含まれていた。というか、こういうのは不祥事とかで名前を初めて聞くような気もしない事もない。
「でねでね、中でもこの麻倉 美月って人が一番の見どころでね、最近の新人さん何だけど、世界でも有名な人なんだよ」
 百々さんは喜々としているが、もちろん私は知らない。
「ああ、私知ってるわ」
 と、お母さんが口を挟んだ。
「あれでしょ、この間能楽の期待の新人ってテレビに取り上げられてた」
「そうそうそれですっ!」
 どうやらその人は能楽をしている人らしい。私には能と狂言の違いも良く分からないけど、能楽の人ということを覚えておく。
「あの子凄いわよね。別に流派の本家とかの子じゃなくて、何処かから引き抜かれて来たそうじゃない。天才って言うのはああいうのを云うのよね」
「おいおい、うちの息子だって十分凄いじゃないか」
 お父さんは縁の事を取り上げる。
「でも、どちらかと言うと辛気臭くて、折角ならああいう煌びやかな方が良かったわ」
 見事に息子の存在を否定するが、これも家族愛なのだと思う。別に本気で思っている訳でもないしね。
 とりあえず私と柚姫はどうせする事もないので、行く事を伝えた。もし大量の課題が出たら金曜日と土曜日に終わらせるのはきつい気もするのだが。主に柚姫が。

 それから食事が終わると、百々さんと柚姫は家へと帰って行った。
「そういや縁、今回はいつまで残っているんだ?」
 お父さんは縁に徐に聞く。一応日曜に行けないという事らしいから、最長でも土曜日には研究所へ戻るのだろう。
「明日にはもう戻るぞ」
「そうか」
 お父さんは寂しそうに頷く。縁は一人暮らししてもいい歳だが、お父さんは未だに子離れ出来ないので、研究所以外の時はここに戻って来ているだけというのが正直な話だった。
「悪いな親父、今重要な件が進んでいてな。変わりと言っては何だが、酒位は一緒に飲むぞ」
「そうか!それならとっておきのを用意してあるぞ!」
 そう言って何処かへとっておきの酒とやらを取りに行った。
 私はその背を途中まで追って、自分の部屋に戻り、ベッドにうつ伏せに倒れる。
「ぐあ」
 ちょっと勢いが付きすぎて、少し腹圧迫する。大した事ではないけど。

 それから普通に風呂に入ったり、歯を磨いたり、美白効果とかある化粧品を付けて、睡眠を取った。



 寝惚けた顔が鏡に映る。
 食パンだけの朝食を終え、顔を洗って歯磨きしている最中である。
 朝起きると普段は既に出社準備しているお父さんとお母さんなのに、お母さんしか見えず、昨日お父さんは縁と一緒に飲み過ぎて酷い二日酔い状態になっているようで、有給を取ったようだ。だが縁は何も変わらず、ピンピンシテいた。若さというのがあるからだろうか?もちろん私は酒が飲める歳ではないので、その真偽は分からない。
 歯磨きをし終え、もう一度顔を洗い、髪を整える。髪は少し癖が付いており、横の方に跳ねているので、それを押さえる。まあこれは一時凌ぎなので、時間が経てばまた跳ねてしまうのがちょっとした悩みだ。ワックスなどを付けるのが簡単なのだが、それはそれで正直面倒なので、櫛で何度も梳いて落ち着かせる。前髪は何故か横に流れているので、目にかかる事も少ないので、その辺りはそのままにして置いている。
 最後の身支度を終わらせる為に制服に着替える為、自分の部屋に戻る。うちの高校は最近多くなってきているブレザーで、色は普通に紺色だ。しかし私立だからなのか多少値が張っている。因みに昔はここもセーラー服だったらしいが、数年前にブレザーに切り替えたらしい。学年毎の違いは胸ポケットに刺繍されている校章の色が違うという点だけで、それ以外は差はない。
「よし」
 時間も少し早めだが、柚姫を呼びにいく。

 柚姫は相変わらず、私以上の眠たそうな顔で玄関から出てきて、珍しく私が迎えに行ってすぐ出てきた。
 普段は私が迎えに行くとまだ朝食中だったというのも珍しくは無い。確かに此処から学校まで遠い為、早く起きるのは必然になるので、私もそこまで早く起きるのは結構辛かったりする。だから柚姫はその後慌てて用意したりするのだが、今日みたいに早く準備している時がある。しかし何故かそういう日に限ってやたら眠そうなので、恐らく朝まで夜更かしでもしていたのかもしれない。
 まあ一応身支度自体はちゃんとしているようで、長い髪もちゃんと梳いたりしたサラサラした髪で、制服もしっかり着ている。何気に忘れ物も余りする事もない。
「ほーら起きろー」
 私は柚姫の頬を軽くペチペチと叩いてみる。
 まあいつも通り頷くだけで、眠たそうな顔は覚めない。
 柚姫の腕を引っ張り、駅まで向かう。
 まだ5月と言えど、雲がない時は日光が降り注ぎ、多少気温も上がっては来る。まあまだ衣替えという時期にも早いので、気温もそこまで高くなる訳でもない。しかし直射日光は肌が黒くなるので、日焼け止めは良く持ち歩いている。対して柚姫はその辺りにはかなり気を使っているようで、肌はとても白くきめ細かい。流石外見だけは惚れ惚れする。
 勉強にもこれくらい力を入れて欲しいものだ。
 朝も早いので駅に向かう時は余り人にはすれ違う事もない。いるのは早朝からジョギングをしている人や、ペットの散歩をしている人、あとは会社通勤している人くらいで、流石にここまで少ないと、自然に行く先々顔を覚えてしまう。
 駅に着くと普段よりも一本早い電車に間に合い、それに乗車する。
 学校自体は駅の近くですぐ行けるが、その駅が快速列車か普通列車じゃないと止まらないので、普通列車では時間も更に掛るため、十五分に一本ある快速に乗っている。乗り込んだ女性専用車両は数人しか人が乗っていない静けさだが、そこでは化粧が行われてたり、コンビニで買ったような弁当を食べていたり、余り好ましくない光景だ。化粧は香水の匂いが漂い、弁当も結構臭う。
 しかし柚姫の為しょうがない訳でもあるので、我慢できる範疇なので我慢している。
 椅子はいくらでも空いているので適当に座る。
 私達はこのまま一時間くらい電車に揺られる。

 学校の校門は無駄に立派で、校門には不審者が入り込まないように警備員が立っていたりする。
 警備員は流石に男性だが、ただ警備をして立っているだけなので、柚姫は気には留めていないそうだ。
 それに女子高という事もあり、盗撮なども無いように塀も高く造られている。
 校門を通ると直線に校舎があり、右にはグラウンドやテニスコートなどがあり、陸上部が朝練で大声を出しながら走っている。左には一階が食堂と運動系の部室で二階が体育館の建物があり、そこではボールの跳ねたり、叩きつけられる音が響いて聞こえてくる。
 この学校では部活に入らなければいけないという事もなく、私達は部活に入ってはいないが、人数が少ない文化系の部活からは幽霊部員でいいから入って欲しいと誘われたりもする。それに文化系はかなりの数があり、マイナーな所は毎年部員がきついようだ。この学校は部員が五人と顧問の先生が付いてくれれば一応部活として認めてくれるようで、部室も片付けさえちゃんとすれば教室を貸してくれるそうだ。
 ともかく入る予定は今のところ無かった。
 教室には疎らに生徒が登校していた。
「おはよ」
「おはー」
「お早う御座います」
 私は親しい友人に挨拶すると、私達に気づき挨拶を返してくれる。
「姫もおはー」
「……はよ」
 柚姫も挨拶を返す。
「やっぱり姫は眠たそうだね」
「今日も授業中寝ちゃいそうですね」
 友人は揃って柚姫がいつも通りなのを確認する。
 先ほどから明るい声を掛けているのは、モロ運動系で柚姫と同じくらいの頭の悪さの夜鳥キツツキという変わった名前の子で、あだ名は夜と鳥で鵺さんという。
 それに対し御淑やかなのが、名井 茜で、そこまで大きくない会社の社長さんの娘であり、どちらかというとちゃんとしている茜の方が姫というあだ名でもおかしくない気もする。
「ところであのプリント書いてきた?」
「あのプリントって?」
「ああ、あれですか」
 鵺さんは何か分かっていないらしく、茜はそのプリントを取り出すと、
「ああ、それね!」
 と気付いたようで、
「無くした!」
 この辺りは柚姫以下だった。
「そうな事だろうとは思ったよ」
 私は呆れる。
「私は書きましたけど、ほとんど白紙ですね。余り公するのは好ましくなかったので」
「私も大体白紙よ。でも柚姫ったらちゃんと書いててね」
「マジで?あんなの書いたの?」
「無くした人には言われたくないよ」
 と、鵺さんには馬鹿にされたく無かったようで、チョップを食らわせる。
「ふふふ……そんな攻撃生ぬるいわ!」
 どうやら一年の時に近くのアパートに引っ越してきたようで、そのアパートはどういう意味か分からないが凄いらしく、よくこういう攻撃を受けているようだが、別に苛めとかではないようだ。
 しかしその言葉を受け、柚姫は鵺さんの腹に一発食らわせた。柚姫が運動音痴で、鵺さんが運動系でも流石に不意打ちの腹への攻撃は痛かったらしく、腹を押さえてうずくまる。
「馬鹿、やりすぎ」
「だって」
「だってじゃない」
 そう言って頬を抓って罰を与えておく。
「保健室行きますか?」
「この位で勝ったと思うなよ……バタッ」
 鵺さんは大丈夫そうだった。

 勉強風景というのは至っておかしくもない、黒板に書かれた事を説明する教師の声とそれをノートに必死に書き込む音、それと外の木々のざわめきと車が通り過ぎる音と、何の変哲もない授業である。
 それに今受けている歴史、日本史というのは覚えればいいだけだが、それを覚えるのは結構必至だ。似たような名前の付いた一揆や戦や条約などがあってどれがどれか分からなくなるし、人名もどうやって読むのか分からないのだってある。というか、昔の人の名前って悪く言えば今よりもどうかしてると思う。
 しかし授業は流石に縄文から始めると、確実に現代まで終わらないので、歴史は江戸から進められていた。確かに縄文やらそんな事を言われても今ではある程度興味がなければ何の意味もない事でもあると私も思ったりしていた。
「城岬さん、1856年に下田に着任したアメリカの総領事は何ていう人ですか?」
 不意に教師から指名を受けた。しかし苦手だとは言っても、一応予習として教科書を先に何度か読んでいたので、今から書かれている場所を探すことなく素早く椅子から立ち上がる。
「タウンゼント・ハリスです」
「はい、正解です」
 そういうと、私は椅子に着席する。
 因みに私が答えたこのタウゼント・ハリスって人は牛乳好きで、当時は高価だったものの農家から買って飲んでいた。と、教科書の端の方に載っていた。
 その後も何度か質問も生徒に与え、授業の終わりを伝えるチャイムがなった。

「柚姫、次体育だよ」
「あ、うん」
 柚姫はまだ黒板に書かれていた事をノートに書き写している最中だった。最早私には記号のようにしか見えない文字が刻まれており、読むというより解読に近い。まあ自分で読めるのであればいいけど、時々柚姫自身も何を書いているのか分からない時があるそうで、自分で読めるくらいには綺麗な字になって欲しいと願うばかりだ。
「た!い!い!く!だー!」
 と、私が体操服に着替えようとしていたら、思いきり教室の扉が開いた。私の他に着替えていた生徒もその大きな音に、音の発信源を捉える。
 そう言えば鵺さんがあのまま保健室で休んでたの忘れてた。
「体育だー体育だー」
 鵺さんはそのまま自分のロッカーに向かい体操着を取り出す。
 他の生徒は鵺さんと気づくや否や、何事も無かったかのように着替えを始める。
 鵺さんは体育の時間にぴったし戻ってくるのはどうやら社会はサボっていたようだ。
 運動嫌いな柚姫は体育なんて無くなってしまえと思っていそうだが、鵺さんにとっては体育だけが唯一授業と思えているようだ。まあ筆記は柚姫と変わらないけど。しかし実技は色んな競技で高評価を得ており、よく運動系の部活からも誘われているそうだが、あくまで体育内で行われる運動やスポーツが好きなだけであって、過酷といってはなんだが、筋トレとか基礎練習なんて物は大嫌いらしく、すべて断っている。しかし基礎は余りやらなくてもいいと誘うところもある。良く勧誘されるのは陸上部で、鵺さんは長距離走は苦手だが、スポーツ特待生でもないのに学校内で短距離走を一番走るのが早く、下手したら県の記録を抜くくらいだそうだ。
 何と言っていいか、宝の持ち腐れとはこの事なのかも知れない。
 この休み時間と体育の終わった後の休み時間は案の定着替えと移動だけで時間が潰れてしまう。むしろ早く着替えないと遅れそうになる事もしばしばある。
 私と柚姫は着替え終わると運動場へと向かう。

 体育は二時間連続で行われ、学年の半分で行われる。全学年六クラスまであり、その半分の三クラスずつが合同で行うのだ。とは言っても競技で三つに分かれているので、事実上は一クラスと同じ人数だ。
 競技は学期ごとに変わり、現在一学期はバレーボールとソフトボールとテニスから選択出来るので、私と柚姫はソフトボールを選択していた。ソフトボールでは三チーム出来る為、二チームは試合をして、残りの一チームはキャッチボールなど簡単な練習をしている。
 女子高という事もあり、大半の生徒は力がなかったりするので、一部の生徒が強いなんて事も良くあるので、その時はいくつかハンデもあることもある。ソフトボールも投手がその部員なので、未経験者や苦手な生徒には投げる位置を遠くしたり、ベースの距離を短くしたりといくつかルールがある。
 私も体育の授業でしかやる機会がないので、遠めから投げて貰う事にした。いや、むしろ普通が短めの場所と言っていいほど、殆んどの生徒が遠めを希望していた。まあもちろんと言っていいほど、私と柚姫も含めて遠くから投げて貰ったとしてもバットにすら当たらないことの方が多かった。逆にうまい人は簡単に当ててそのまま外野を大きく通り越すなどかなりの差があったりもする。まあストライクが多く出る為、結構ゲームはスムーズに進む。
 試合は現在七回の表で、点数は三-五とどちらもうまい人が頑張っていたという点数で、私の入っているチームが負けていた。時間もそろそろ片付けも含めると切りが良いようなので、これが最終回になりそうだ。
 最初の打席はそのうまい人で、他の打席と同様安打を繰り出し二塁まで進む。次の打者は三振し、その次も同じくだった。
 二アウトで打席は幸か不幸か柚姫だった。どちらかというと不幸というのは否めない。今まで全打席ファールすらない三振で、打つのは奇跡に近いような物で、二塁で待っている人は走る準備すらしていなかった。
 その後は予想通りバットも振らないまま二ストライクを取られていた。
 そして最後の一球が投げられた。いや、最後ではなかった。
 大きな音を立てて、大きなアーチを描きながらボールが飛んでいく。
「……当たった」
 柚姫は打ったのに走っておらず、打てたことに呆然としていたようだ。
 生徒達もその当たりに歓声を上げていた。
 だが誰も走れとは言わなかった。何故なら、
「ファール」
 ボールはそのまま大きく横に逸れていた。

「惜しかったね」
 負けたチームは片付けだったので、片付けをしながら私は柚姫に慰めの声を掛ける。
「でも、初めて当たって嬉しかった」
 と、ファールだった事にもかからわず、嬉しそうな笑顔を見せた。
「良かった、もしかしたら悔しがってるかと思ったわ」
「そんなことないよ。でも当たった時がどんな気持ちになるのか分かった気がする」
 などと玄人染みた事を偉そうに言っていた。
 他の同じチームだった生徒も相手だったチームの生徒も姫と声を掛けて、あの時の事を賛美していた。確かに柚姫があの局面でファールだったが、打った事には私もかなり驚いていた。飛距離も長く、向きが違っていればホームランだったかも知れない。
 普段は走る事もままならないのに、一体何処にそれほどの力を隠していたのか。本当は運動も出来る超人だという事を隠しているのだろうか……。
 まあ絶対その確率は無いと思うけど。

 体育は三時間目と四時間目の二時間行われているので、着替えたら食堂に向かう。
 食堂にはバレーボールをしていた生徒達が着替えを後回しにして食堂に来ていた。
 その中の一人に見覚えがあったので声を掛ける。
「茜」
「あら、城岬さんと九十九さん。体育お疲れ様です」
「そっちもお疲れの様ね」
 茜は体操服のままタオルで汗を拭いていた。
「ええ、トスというのがなかなか苦手でして」
「私も苦手」
「柚姫は全部でしょ」
「でも、今日は頑張ったよ」
「九十九さん何かなさったんですか?」
 茜はそう柚姫に聞くと、柚姫は得得意気にさっきあった事を伝えていた。
 私は二人を後にし、先に券売機に向かっておいた。
 食堂派と弁当派と購買の菓子パン派がいて、弁当派と菓子パン派が多く、それほど混んではいないが、時間が経つにつれ少しづつ列が出来てくる。後ろを見ると私が並んだ後も続々と列をなしていき、話していた二人もこの事に気づき列に並んでいた。
 私は週替わりのランチセットを購入していた。このランチセットは量は少し少なめで、値段も安く、私個人には大好評である。
 私は柚姫と茜の二人より先に購入したので、席を確保しておく。
「お待たせしました」
「先行かないでよ」
 そう言いながら二人とも席に座る。
 二人が購入したのは、茜は私と一緒のランチセットで、柚姫とはいうとカツ丼だった。
「よくそんなの食べれるわね」
 私はそのボリュームを食べれる自信がない。
「私もそれはちょっと頂けませんね……」
 茜もその多さにちょっと引いていた。正確には女子的には多いというだけで、縁みたいに男ならば普通に完食出来るくらいだ。
 ちょっとその肉がどこの脂肪になっているのか、脇腹でも今度摘まませてもらおう。
「そういや鵺さんは食堂じゃ見ないわね」
「私も見たことないですね」
 私はちょっとした疑問を口にしてみると、意外なところから返答が返ってきた。
「この間重箱抱えてるの見たよ」
 と、柚姫が言う。
「重箱?」
 俄かに信じがたい。
「うん、三段位の幅が大きいの」
「柚姫が嘘を言ってるとは思えないけど、別人だったとかってない?」
「絶対ないよ。だってあんな能天気なのは一人しかいないよ」
 ちょっと鏡を見た方がいいと思う。
 ともかく本当なのかも知れないが、確証は持てなかった。
 この話題はそのまま迷宮入りとなった。

「って話なんだけど」
「これのこと?」
 鵺さんは普通に重箱を取り出す。
「何でこんなのを……」
 流石に一人で食べきれるとは思えない量で、それ以前に誰が作っているのだろうか。悪いようだが、鵺さん自身が作ってるとは思えない。
「これね、ちょっと私が住んでいるアパートの人が作ってくれててね」
「へー、いいじゃない」
「まあ弁当だけならね……」
 そう言って顔を伏せる。
 一体本当にそのアパート大丈夫か。ともかくこれ以上は話しかけると暗くなりそうだったので、会話を終了した。

 そして睡魔と五時間目と六時間目を戦い勝利し、ホームルームも終わったので、私の例のほぼ白紙の状態のプリントと、柚姫のちゃんと書いたプリントを提出して帰路に着いた。