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五章


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 準備は整った。
 よく二人とも、いや、皆さん踊っていただいた。
 そろそろ私が出演する時間ですね。
 主演は私、残りの皆さんは共演者、最後まで騙されるのはエキストラ。
 それとも誰かが私の主役を奪う事など出来るでしょうか?

 指示したとおりテロを行った事をテレビでも確認する。
「それでは君も行きましょうか」
「そうだな、御互いの勝利を祈って」
 目の前の男、いや、獅戸 兇鑢と最後の杯を交わす。
 獅戸は自分に都合が良ければ敵味方気にしない取引をして頂ける、最高の相手だ。それに彼は手筈を整えるのを早いのが時間を余りかけずに進めてくれた。
「それにしてもお前が黒幕だとあいつらはすでに分かっているんじゃないのか?」
「ええ、恐らくそうでしょうね」
「それだとサプライズにもならないな」
「そうですね、ですが輪廻は昔から少し鈍いところもありましたし」
「ああ、あいつは気づいて無さそうだな」
「一人だけでもサプライズになれば、楽しいじゃありませんか?」
「その性格嫌いじゃないぜ」
「君のその性格も私は嫌いじゃないですよ?」
「それにしても何故こんな事をするのか聞いて無かったな」
「それは聞かない約束でしょう。ですが、すぐに分かる事です」
「そうか、まあ俺も儲けになれば何でもいいしな。それにこれが終わったら園芝組からおさらばだ」
「そうでしたね、ところで移転先は決まってるのですか?」
「イタリアにな」
「ほう、それはいいですね」
「お前もこの後色々あるだろ、それが終わったら歓迎するぜ」
「それは楽しみですね。っと、こんな事している場合じゃないですね」
「じゃあ、行くか」
 私は彼と最後の戦場へと向かう。

 私は朝鮮第四連合最高指揮者、祖国の為に勝利を!







「緊急ニュースです」
 権一の見ていたテレビが急に慌ただしくなった。
 テレビに映し出されていた光景はあまりにも凄まじかった。
 権一がチャンネルを変える毎に映し出される場所はどこも違ったが、光景はどこも似たようなものだった。
 地獄とまでは言わないが、それに近いものである。その光景は建築物が炎上している。それもどれも大手企業である。自動車メーカー、電気機器、食品会社、チェーン店のグループ元など様々ではあるが、どこも日本産業を支えている企業である。
 これが狐の言っていた同時テロなのか。それにしてもこんな大手なら警備も十分すぎるはずだ。簡単にこれほど同時に出来る事ではない。
 だが、これは国としても一大事であるのは一目瞭然だ。テレビにも警察、消防、救急が大量に出動している。これがたったあれだけの武器でどうにか出来るはずが無いとまで思う。だが現に今起こっている事なのだ。信じがた事ではあるが。
 権一がチャンネルを変えるのを止め、先ほど見ていたチャンネルにした。
「未だ犯人と思われる者からの要求等は無いようですが、政府では自衛隊の派遣を行う模様です。今入って来た情報によりますと、このテロは八ヶ所に上る同時多発によるテロが起こっている模様です。テロの被害にあっているのは、トヨダ自動車株式会社愛知本社、四菱電気株式会社本社、味の出汁株式会社本社、任店堂株式会社本社、株式会社ジャパネットたなか本社、イゾン株式会社本社―――」
 そこで権一の電話が鳴る。
 権一はそれをすぐに取り出し耳に当てる。
 ただ頷くだけで、相変わらず話の内容は聞き取れなかったのだが、携帯を仕舞い、私に告げる。
「犯行声明が来たようだ」

 私は今まで使用していなかったナイフ一式を服に仕舞う。権一もまだ準備は出来てはいないようで、私は先に車に乗り込む。
 犯行声明はもちろん朝鮮第四連合のものであり、それもボスとも言えるような人物自らが姿までも現したようだ。
 そしてその要求は園芝組、瀬戸組の解体であった。もちろんそんなこと聞きいれられるはずもなかったがそうもいかないのだ。同時多発テロにより大手企業が狙われ、その目的が私たちの組だと公に公表されたのだ。もちろん放送規制等は敷かれてはいるものの、すぐに民衆が広めていくだろう。正直これはもう手の打ちようがないのだが、その犯行声明はトヨダ自動車株式会社愛知本社で出されたものであり、解散までの猶予はあり、指定時刻は今から五時間後というまるで私たちに来いとでもいうようなものでもあった。
 公園町から愛知県豊田市までは約三時間半掛かるものの、余裕があるが、あくまで到着までだ。解決するのには一時間半という短い時間しか残されていないのだ。トヨダ自動車株式会社愛知本社以外の場所には政府が乗り込むらしいが、私たちの向かう場所にはわざわざマフィアの方から警察や公安、自衛隊を向かわせた瞬間全ての場所を崩壊させるという事まで言ったようだ。
「輪廻様これを」
「ありがとう」
私は御付きから防弾ジョッキを受け取る。
「待たせたな」
「遅いわよ」
 権一は普段使っている銃とは別に何処にあったのか、マシンガンなどを持って来ていた。
「権一様もこれを」
「ああ」
 権一も防弾ジョッキを受け取る。
「それでは向かいます」
「お願い」
 私たちは愛知へと向かう。

 車内では空気が張り詰め緊迫していた。
 私はこういう雰囲気が嫌いだった。でも私が一番気を張り詰めていたのかも知れなかった。それでつい言葉が出てしまった。
「それにしても安西と江崎とは長い付き合いね」
 私は御付きの二人に声を掛ける。この二人は幼い頃から私の御付きとして、護衛として、教育係として様々な世話をしてくれた。私が落ち込んだ時にも慰めてくれたりもしたし、ナイフの使い方を教えてくれたのはこの二人だ。結果的には私の方が扱いが上手くなったものの、この二人がいなければここまで出来なかった。正直御父様よりも誰よりも頼りになると思っている。今では権一と一緒に行動しているものの、その前はずっとこの二人と行動を共にしたものだ。それに私がこんな役目をする事に涙を流したりもした。御父様よりも父親の様な存在なのかもしれない。
「ええ、そうですね」
「私も安西も輪廻様に付いてから十五年くらいになりますかね」
「それがどうかしましたか?」
「私は二人に感謝したいの」
「感謝? 何を言いますか。むしろ私たちの方こそ輪廻様に付けて光栄だと思っています」
「そうですよ、輪廻様に付けたからこそこれほど充実した刺激のある生活をさせて貰っているのですから」
「そう、かな?」
「輪廻様に付く前なんて事務仕事ばっかりでしたからね」
「そうそう、今だから言いますがあんな事もう正直したくないですよ」
 二人は笑いながら言う。この会話は私はとても楽しい。
 権一はずっと窓の外を向いていたのだが気になったのか、私たちの方を見ていた。
 それは五月蠅いと思ったのか、それとも混ざりたいと思ったのか、それとも他の事なのか分からないけども、私はこれでしっかりこなせると思った。

 だけど、これがもしかしたら最後の日になるかもしれない。









 時刻は十八時を過ぎていた。
 連絡を受けてから既に四時間経っており、三十分早く着くはずだったが、案の定テロによる渋滞に巻き込まれたのが原因だが、その割には早く着けた。
「ここか……」
 トヨダ自動車株式会社愛知本社のビルは十二階建てで、七階から九階までが炎上しているようだ。
「来たか」
 そこには既に極陽が到着しており、組員二百人余りを引き連れている。
「「「若頭!お久しぶりです!」」」
 組員は俺を見たそうそう一斉に言う。
 その声に驚いたこのテロに群がっていた野次馬や、ここの関係者が俺達に視線を向ける。その視線は余りにも来るものがあるが、俺達に何も言ってこない。流石に原因ではあるが、俺達を敵に回したくないのだろう。
「久しぶりだな。だが、今こんな悠長にしている暇はないぞ」
「へぃ。それでは状況を申し上げます。ビル六階下の関係者は全員救助済みの様です。テロは関係者の話によりますと大量の銃声が聞こえ、小さい爆発が連続して起こったという話で、生存の確率は低いと思われます。警察、公安、政府上層部内部にもスパイが紛れ込んでいるものとして想定し、要求通りここには出動させていないようです」
「それと先ほどまた犯行声明があり、取り残された人を人質をして、残り時間一時間から十分毎に二十人づつ殺害していくというもので、これは八ヶ所で行い、十分で百六十人の犠牲者が出るものと思われます」
 十分で百六十人か、しかし最後には一斉爆破だろう。
 そう考えていた時だった。
 ぐしゃ、と、何かが潰れた音がした。俺はその音の先に目を向けた。そこには、
「あれって……」
 それは死体だった。だがその死体は内臓が飛び出し、骨が砕けたのか異様な体形で、近くにいた奴等に血が飛び散っている。その光景に恐怖の声も誰も出さない。それは余りにも悲惨な姿だったからだ。映画でもドラマ等とは全く違うその惨状。その光景に耐えられる者は多くはなく、いきなり泣き出す者、吐いてしまう者、失神してしまう者、だが誰も悲鳴というものを上げない。恐怖が大きすぎて叫び方を忘れてしまったかのようだった。
 それからすぐに更に死体の近くに人が落ちてくる。それも同じようにぐしゃ、と、潰れる。
 十分毎に殺害すると言っていたが、これが奴等の殺し方なのか、俺は落ちてくる先を見るとビルから、次々と人が投げ出されてくる。
「この落としてるのって此処の社員じゃないか?」
 組員の一人が口にした。そいつは双眼鏡を持っており、
「そいつを貸せ!」
 俺はそれを奪い取る。
 確認すると確かに救助された社員と同じ制服を着ていたが、そいつがスパイという事は無さそうだ。わざわざ殺される様な場所に顔を出すはずもないし、口に何か張られている為、脅されているものだと考える。恐らくそいつは、仲間を落とせとでも命令されたのだろう。それはとんでもなくえぐい。
 この光景を誰が予想したか。テレビのリポーターらしき人々もカメラの電源を落としている。
 それから計二十人の落ちてきた人々は全員即死だった。手当をする事すらない。その死体は普通の怪我人と同様、救急車で運ばれて行く。
 残ったのは静寂。
 恐らく野次馬はここに来た事を後悔しただろう。記者も、消防も、救急も、誰もかもが後悔しただろう。脳裏に焼き付く事だろう。
 それに輪廻も今にも泣きだしそうだった。
「お前大丈夫か」
 俺は声を掛けると頭を縦に振るが、とても大丈夫そうには見えない。だが輪廻は目に滴らせるが、その涙を拭う。
「敵の規模はどのくらいなの?」
 輪廻は涙を拭うと同時に気を引き締めたかのように聞く。いつもと違う気迫すら見せていた。
 その言葉を復唱するかのように組員に聞く。
「二百五十人近くだと想定されています」
「多いな」
「ええ、ですがそれは全体でです」
「全体?」
「ですから、ここにはその一部、別の場所にもその一部と……」
「じゃあここは何人だ?」
「三十人から四十人だと思われます」
「そうか」
 他の場所も同じような人数だろうが、それでもテロにしてなら結構な人数だろう。
「奴等の乗り込みの手口は分かるか?」
「数名はここの社員として紛れ込んでおり、テロを起こし、その騒ぎの間に一般人として紛れ込んでいた者が乗り込んだと見られます」
「じゃあ俺らはどこから突入すればいい」
「そのことですが……」
 組員は口を閉ざす。
「それは俺が言おう」
 そこに極陽が口を挟む。
「エレベーターは一切使えないのはもちろんだ。消防の奴等が救助に向かった際、六階と七階の間にある階段にある非常用ハッチが作動していて、それ以上上には行けない」
「通常ルートからは乗り込めない訳か」
「そうだ」
「それなら残るのは屋上だが」
「一気に乗り込む事が出来ない。全滅だって考えられる。さあどうする」
 極陽はこんな状況下において、まるで楽しんでいるかの様だった。それもそうだろう。この男はそういう奴なのだ。
「どうもしない。俺がいく」
 俺は淡々と告げた。このまま何も案が出ないとなれば、完全な敗北だろう。
「私も行く」
 輪廻も俺の言葉に続く。
「それでは」
「私たちも」
 安西と江崎と言ったか、この二人もさらに続く。
「それではお前等のお手並みでも拝見させて貰うか」
 極陽は笑う。
 これは恐らく怒りだろう。そして俺に期待をしているのだと思っておく。
 それから組員の数人が名をあげる。

 さぁ、久々の戦場だ。





 私たちが乗り込んだヘリコプターは救命救急センターのドクターヘリで、医師と看護師を派遣してきたもので、既にそれに乗っていた医師たちは医療に取り掛かっているものの、未だに緊急患者が出ていないため、無理を言って拝借したものだ。極陽が来るときに乗っていた物はあくまで極陽の移動手段であり、人数が乗れるものではなかった。
 結局集まったのは、私と権一を含めて八人と操縦役の一人の計九人と少ないが、定員としてはぎりぎりであった。
 そして私たちが準備している間にさらに十分が経ち、ビルから人が投げ出されてきた。
 操縦はもちろんこちらの者で行っている。中は医療器具全てを出し切っていなかったのを全て外に出し、代わりに武器を入れていた。急いでいたためごちゃごちゃしているが、今はそんな事を言う事はできない。
「行くぞ」
 そう言って権一はロケットランチャーを構え、屋上と同じ位置にヘリコプターが到着したとき、それを放った。
 弾は屋上のど真ん中に当たり、大きな音をたてて弾ける。その行動には何の意味があるのかすぐに分かった。屋上に待ち伏せがいたという事だ。
 何人かは吹っ飛んで行ったものの、やはり全員は無理だったようで、奴等はヘリコプターに向かって銃を撃ち放って来ている。そしてこちらは権一とは別の人物がロケットランチャーをもう一発放った。
「よし、行くぞ」
 そう言って二人ずつ縄を伝って屋上に降り立つが、私の降りた直後にロケットランチャーを食らって尚まだ生きていた奴が、大砲の様な大きな物でヘリコプターに向かって放った。それは当り前のように命中し炎を上げて落ちて行く。その落ちたヘリコプターの中には操縦者と出遅れた一人の二人が命を落とした。
 犠牲は付きものとは良くいったものだ。だが、その犠牲が出た事を嘆いても仕方ないのだ。それにまだ屋上には何人か生き残っている。
「どうやら注意するのはさっきの大砲だったのかも知れないが、気を抜くな」
 そう言い物影に身を隠す。
 相手も私たちが降りたら、あの大砲を撃ってきた一人以外はすぐに隠れたようだ。ちなみに大砲を撃ってきた奴はさっき呆気なく組員に射殺されている。
 ここには合計最低三十人いると言っていたが、既に二十人も倒れており、隠れているのは三人だけのようだ。
 相手の三人の隠れる瞬間を見ていたので、全員に隠れた場所を伝える。
「良く見ていたな」
 権一は感心したかの様に言うが、ロケットランチャーの一発目と二発目の間に隠れていた事も告げる。
「隠れた後の行動も分かるか?」
 そこで私は気になっていた事を告げる。
「分かるけど、ずっと隠れていて、銃も発砲してこなかったわ」
 そう、直ぐに隠れた後何もしてこなかったのだ。まるで、
「何も知らない、或いはただの掻き集めかも知れないな」
 私はそれを確かめるが如く身を張って隠れた場所に特攻する。
「おい!やめろ!」
 権一の声を退けて、真正面から向かうと隠れていた奴が姿を現す、と同時に私は身を物影に滑らす。
 そいつが姿を現したのを確認すると、後から誰かが発砲し、それは頭に命中したのを見たので即死だろう。そいつが持っているのは恐らくマシンガンという事よりも、ここまで近づいて分かったのが、手が震えている事だ。どうやら予測は正しいかもしれないが、全員がそうとは限らない。
「大丈夫ですか!?」
 後ろから安西の声が掛かると、「大丈夫」、と言ってやった。この行為によって、相手が私たちの場所を把握しただろうが、正直相手から動いてこない気がした。あくまで足止めなのかもしれない。
 そこで一旦時間を確認すると残り三十二分くらいだろうか、かなりシビアだろう。
 その後残り二人も同じ手口で片付け、屋上の制圧を完了する。

 屋上は流石にこれほどの企業になると建物もしっかりしており、先程のロケットランチャーでも凹むくらいで、穴が開くという事は無く、もし十二階に誰かいたらと心配したが、その心配はする必要が無さそうだ。
 屋上から階段を細心の注意を払い、下に降りる。
 しかし、物音も一切なく、廊下を進んでも誰も見る事は無かった。そして、部屋も一つ一つ確認するが、それでも誰もいないのだ。
「もしかしてどこか一ヶ所に纏まっているのか?」
 それしかないとは思うが、まだ十一階と十階が残っているが、十階は既に火が回っているためいないだろう。それに此処でも下の火災の煙がやってくる。だから十一階にいるはずなのである。
 私達はもう一度階段の場所に引き返すとそこには数人の人がいた。
 そいつらは私達を見たそうそう銃を撃ち放ってくる。
 私達は逃げようとしたが、後を振り返ると、また組員が一人撃ち殺されていた。
「はぁはぁはぁ」
「またやられたか」
 権一は組員がやられた事を確認すると、武器を構え直す。私はまだ何も構えすらしていなかったが、ナイフを二本取り出す。
「変わった形してるな」
 権一は私が取り出したナイフを見ると、私に言った。
 一本は普通のサバイバルナイフで、もう一本はそのナイフは両端に刃が付いているもので、刃の先は少しカーブを描いているものだった。
 普通のナイフは斬るのと刺すのを主に使用方法とするが、このナイフは差し込み、抜くときに思いっきりダメージを与えるような物だが、正直言ってこれはネタとかそういう類だろう。
「他にも変わったナイフがあるわよ。これが終わったら全部見せてあげるわ」
 私は右手にサバイバルナイフを、左手両端に刃があるナイフを構えながらそう言うと、
「楽しみだな」
 権一は初めてだろうか、笑顔を見せてくれたのは。
「で」
 すぐに権一は緩めていた表情を戻す。
「輪廻、さっきの奴等の全員の数を覚えているか?」
「確認できたのは四人ね。纏まっていたから後ろにはもういないと思うけど。あと武器はさっきと違ってただのハンドガンみたいね」
「そうか」
 そう言っているうちに私達以外の複数の誰かの足跡が近づいてくる。
「行くぞ」
 そう言うと一斉に、バラけて迎え撃つ。
 すぐに相手と面を合わせる。
 私はここで何かしなければいけないと思った。いつもみたいに権一や安西、江崎に助けられるわけにいかない。
 私には男みたいに力もなく、体力もそこそこで、度胸もない。だけど私はやるしかないのだ。このナイフで鍛えた時に一緒に鍛え上げられた反射神経、瞬発力、それを生かす時だった。
 私は一気に相手の前まで近づき右のナイフで腹部を突き刺す。それを素早く引き抜き、首に突き刺す。その間に後にもう一人着ていたが、ナイフを引き抜き、後に転び、サバイバルナイフを投げつける。それはあたりはしなかったものの、一瞬怯み、私は素早く立ち上がり、左のナイフで裂こうをしたが、相手も後に避けた為、腕にしか当たらなかったが、深く入ったようで、
「くそっ!」
 と、言うとそいつは一旦腕を押さえつつ退いて行った。
 私は見えない場所まで行ったのを確認すると先程投げたナイフを拾う。
 私は一回深呼吸をする。実戦というのは何度やっても精神的に追い詰められる。
 一人は逃してしまったものの、もう一人は首に刺したため、即死だった。そして死亡を確認し他の人は大丈夫だろうかと直ぐに向かう。

「残りは五人か……」
 一応あの後私が逃がした奴は江崎が発見して始末したようで、四人とも倒す事は出来たが、こちらも一人の犠牲が出ていた。
 残っているのは私と権一と安西と江崎、それともう一人は名も知らない組員の五人と、正直きつい状況である。
「煙も多くなってきたな」
 天井には黒い黒煙が昇り詰めていた。
「急ぐぞ」
 階段から黒煙が昇っており、目が痛く、息も止めている状況だった。だが、十一階に降りたところに、予想していた待ち伏せがいなかった。いや、ここまで煙が多く此処で待機するのがきついとも思ったが、それならガスマスクでも用意しているものだとも思った。
 階段の場所からそう遠くない場所で物音がした。それは歩いたりしているものではなく、どちらかというと暴れているかの様に激しい。
「あそこか!」
 そう言って全員が一気に走り、その部屋を開ける。
 そこには人質と、いかにも犯人と思わせるような覆面を被っている奴等がいた。
「てめぇらのボスはどこだ」
「お前が宮左御 権一か、指導者様から聞いてるぜ」
 指導者か。変わった呼び方だと思った。
「そんなことどうでも良い。どこにいる」
「せっかちだな、指導者様は屋上にいらっしゃる。が、そろそろ時間だし見ていくか」
 何を見せるのかと思い時間を思い出した。時間は残り時間が二十分になっていた。つまり四回目の犠牲者である。
「好きにしろ。俺は屋上に向かわせて貰う」
 権一は人質を見捨てるかの様に背を向け、扉の外に出る。
「権一!放っておくって言うの!?」
 私は叫んだが戻ってくる様子はなかった。
「園芝組ってのは冷たいんだねぇ」
 覆面の一人がそういうと、
「てめぇ!」
 名も知らない組員がそいつの脳天を撃つ。
 それと同時に銃撃戦が始まるが、それは一方的なもので、向こう側に撃てば人質に当たってしまうからだ。
「輪廻様!ここは任せて屋上に!」
「でも、貴方達は」
「私達なら大丈夫です」
「後で私達も迎えに行きますから」
 私は二人を信用し、屋上へ向かった。
 私は誰かも知らないそのボス、指導者と権一が待つ場へ向かう。
 黒煙は先ほどより広まっており、勢いよく駆けていく。

 屋上に出るとそこには権一ともう一人が対峙していた。
 そいつがボスなのだろう。月の光が雲に遮られていたが、その雲が徐々ずれていき、その姿を現した。

「久しぶりですね。輪廻」





「御父……様……」
 輪廻は驚きを隠せず硬直していた。
「何で……ここに……」
 その小さい呟きはこの現実を受け入れられないかの様に、また、悲しみも隠せないかの様に、そう見える。
「何で何か聞かなくても分かるだろう、輪廻」
「嘘よ……嘘よ!」
 それはまるで駄々をこねる子供のように、純粋な感情だろうか。だが、その感情すらも否定する。
「輪廻、悪いがこれは現実だ。私がこの朝鮮第四連合最高指揮者だ」
 親が疑わしい事なんてはなっから分かっていただろう。でもそれを部下として、娘として否定していたのだろう。輪廻は地面に泣き崩れる。
「何泣いているんだい輪廻。私を捕まえる事が目的だったのだろう? 私はそう教えただろう?」
 輪廻の親父、潺 白夜はそう言う。
 いや、こう言おうか、
「本当のこいつの親父はどこだ?」
「え?」
 輪廻はその言葉をしっかり耳に聞きいれたのか俺の方に振り向く。
 そう、こいつは輪廻の実の父親ではないのだ。
「ほう、隠す必要も無さそうだね。これをとっておきのサプライズにしていたんだが、いつ気付いたんだい?」
「俺の知り合いが言ってたんだよ、『今の潺には似ておらんの』ってな。最初はいきなり何を言い出すのかと思ったが、こんな遠まわしに言われると思わなかったがな。説明もしておこうか、そいつは今の潺と違うという表現をしている。つまり一方的かも知れないがそいつはお前の事を、いや、以前のお前を知っていた。そしてお前がどこかで入れ替わった」
「でも、入れ替わったなら私は直ぐに気づくわ!」
 確かに輪廻には記憶力がとんでもなく長けている部分はある。だが、
「冥途の土産にしては早いだろうが、全て教えてあげよう」
 そう言うと白夜は語り始める。

「それは二十年ほど遡るかな。
 当時私は表向きは取引相手として瀬戸組に出入りしていた。彼は当時輪廻と同じ若頭を務めていた。数人いる若頭の中でも一番有望な人物だったから彼を選んだのだがね。
 この白夜を言う人物には最初は驚いたよ。とても寛大だった。それで且つ仲間思いで、私が言うのも何だが優しい者だった。
 だが、逆に言うと扱いやすかった。そもそも私は日本に侵攻を掛ける為のスパイとしてやってきていた。だから連日のように瀬戸組にやってきても彼は歓迎してくれた。だが私はその間にも、彼の特徴を完全にまでとは言わないが覚えていった。仕事振りから癖、睡眠と起床の時間、風呂で洗い始める場所から全て聞き出した。そして顔まで完璧に分析し、そっくりに出来るようにまでした。
 そして調度今から二十年前だ。彼と入れ替わりを決行したのは。実に容易だったよ。私を信頼しきっていたのだから、いつものように酒を交わした後に殺したよ。その後すぐに整形し全て覚えたとおり真似をしたら誰も入れ替わったことに気付かなかった。
 これで西を仕切っていた瀬戸組を乗っ取り、我々の侵攻が進むと思った。だが、違った。それは輪廻という存在だった。
 彼と妻の間にいつの間にか輪廻が出来ていたのだ。流石にいくら完璧に近い変装をしたとしても私がいづれDNAや血液検査すれば白夜本人とは違うと思われただろう。しかし幸運な事に彼の妻は君を生んだと同時に無くなったよ。君は帝王切開で生まれてきたから母体には負荷がきつかったのだろう。それで一つ目の邪魔は片付いた。もう一つは輪廻。私はばれない様に振る舞った。だが輪廻も幸運な事に特殊な記憶力を持っていたから、生まれた時には白夜本人の代わりに私が親に成りきっていた。そのお陰で本当の親とずっと信じ込ませることが出来て疑われずに済んだよ」
「……そう」
「納得して貰えたかい?」
「そんな昔から企てていたのか。そこまでは俺も知らなかったな。だが輪廻、これでお前もこの野郎に―――」
「……出来ないわ……」
「お前、まだそんな事を言ってるのか?」
「確かに本当の御父様じゃないかも知れない、だけどここまで育ててくれたのは!」
「もういい」
 俺は呆れた。ここまで愚かだったとは。
「それでは権一君との一騎打ちとでも行こうか。と、その前にそろそろ時間か」
 何やら時間を確認したあとそう言った。俺も時間を確認すると残り時間十分に迫っていた。時間はまだあったはずだ。だが、
 下の階から大きな破裂音と爆発音、ガラスが割れるような音までし、その直後一気に炎の熱気が感じられた。
「何だこの爆発は!」
 俺は不意の爆発に驚く。
「ああ、彼等自爆しましたね」
「彼等?」
「私の仲間ですよ」
「つまり……」
「ええ、人質諸共あの世行きでしょう」
 自爆だと、それもかなりの大きさの爆発だった。
「貴様!まだ時間はあるはずだ!」
「確かにありますね。ですが悪人がそんなもの守るとでも思ってますか?」
 当たり前の様に言った。
「それにこれなら君達は逃げれません」
「それはお前も一緒の話じゃないのか」
「ええ、ですが、祖国の為になら死を惜しむ事はありません。それに組の崩壊をさせるのは失敗しましたが、企業にはかなりの損失、そして君達二人を始末できるのであれば、私にとってはむしろ得かもしれませんね」
「じゃあ俺達を道連れって事か」
「そうです。ですがこのまま一緒に炎に包まれて死ぬのは権一君も癪でしょう」
「ああ」
「ですから」
「最後の無意味な戦いと行くか」
「行きますよ」
 そう言うと懐から同時に銃を抜きだす。その速さは俺の方が勝っていた。これで引き金を引くだけだった。だが、
「ぐっ!」
 俺の腹部に激痛が走る。
 その場所に反射的に手を添えると、血が溢れ出していた。
「言ったでしょう? 悪人が約束を守って一騎打ちなんて物をするはずがないですよ」
 そう言うとさらに俺に銃を打ち放ってくる。

 俺は死んじまうのか……。
 なぁ、狐。
 死んじうまうのなら、生き返らせてくれとは言わねえ。
 輪廻がこのまま生き残ったら、最後の願いを聞いてくれ―――。







「権一……」
 私は呟いた。反応も帰ってくる事がない。
「権一……けんいち……けんいちー!!」
 権一は死んだ。呆気なく。
 ドラマや映画やゲームのように奇跡なんて起こらない。
 死んだのだ。私の目の前で、これほどまで呆気なく。
「ふぅ。スカッとしたぜ。こいつ嫌いだったし清々したぜ」
 声がどこからともなく聞こえた。
「それじゃあな」
 だがその声は少し喋っただけでパラグライダーで飛び立っていった。今までそいつがいたのか、それであいつが権一撃ったのか。
「どうしました? 輪廻。もう私達はする事もないでしょう。一緒に死にましょう」

 私は何をしていた?
 私は思考を巡らせる。
 ただこの事実に潰されていただけで、それにあの爆発で安西、江崎も死んだだろう。そして権一。
 三人も大事な人が殺され、実の親まで殺されていた。
 私は逃げていた。全てから、最後まで逃げていただけだった。
 私は今何をするべきなのだろうか?
 安西も江崎も権一も私のせいで死んだようなものだ。
 それを償う事ができるのだろうか?
 私はこのまま二人で死ぬ?
 それは安西も江崎も望んでいないだろう。
 それなら一緒に私も炎に燃やされる前に殺して貰う?
 それは権一が私の事を死んでも呪うだろう。
 じゃあ、私が償う方法。

「いいえ、決着を決めましょう」
「ほう、父に向っての最後の悪足掻きかい」
 私はもう騙されない、怯えない、逃げない。だから、
「いいえ、これは私の償い」
「そうか、それなら銃とはいかず」
 白夜と呼んでいたボスは日本刀を取り出す。
「これで相手をしようか。といっても、銃よりも私はこっちの方が慣れているんでね」
 日本刀か、日本人みたいな事して楽しいのかしら。でも相手が本気なら私も、
「私も本気でいくわ」
 私は身につけていた一本だけナイフを持って、残りは全部放り投げる。
「これが私の本気」
 もう使わないと思っていたナイフだった。
 一度これを使ったとき、その使う感触に溺れてしまいそうだった程だった。
「この距離じゃ良く分からないが、ただのナイフじゃなさそうだね」
「ええ、私以外知らないとっておきの一品よ」
 そのナイフは凶暴なものだった。刃の部分の面に大きな返しが大量に付いている。例えば釣りの針の先にもあり、要は抜けにくくするのだが、これを無理やり引き抜こうとすれば、抉れるのだ。それが人間の体なんて物なら簡単に銃以上の威力だろう。これは確実に仕留める為だけに用意していたもので、まさに今だった。
「さあ始めましょう」
「私は強いぞ」
「ええ、そうでしょうね。だけど私は―――」
 誰も守れなかった私に、大切な人を殺した貴女に、
「私は貴方と共に裁かれましょう!」

 私の掛声と共に私達は真正面に突っ込む。
 白夜はそのまま刀を振り下ろす。私はそれを後ろに避け、いや違う。私は後に避けて着地した直後横へと動く。
 日本刀は斬るよりも突くという方正しい使い方で、その突きは強力であり怖いからだ。
 しかし突きは隙が出来る。私は体に目掛けてナイフを刺そうとするが、それをいとも簡単に避ける。白夜は一旦間合いを取る。そしてナイフというのは間合いが短いのに対し、日本刀というのはナイフを使うときの倍近くも射程距離である。だから一瞬の隙も見逃すことは出来ない。
 私達は近づく事もなく離れる事もない、一定の間合いを取っている。
 だが、白夜は一気に間合いを詰めてくる、私はそれを離そうとするが、間に合わない。左腕が大きく裂ける。私はその痛みに耐えようと歯を噛みしめた。しかしナイフを使っている右手じゃないのは良かったが、今のはかなりの深手で動きが鈍くなる。
 流石というべきだろうか、ここまで重大な任務を渡されている最高指揮者と名乗るだけの事があると感心したが、そんな場合ではない。
「どうしましたか。そのままだと私がさっさと止めを刺しましょうか」
 確かにこのままだと私は……。
「実の娘ではないとはいえ、少し来るものがありますが、仕方がありませんね。さようなら」
 私は死ぬのか?
 やっぱり何も出来ないままなのか。
 結局誰も守れず、ただの棒の様な存在だったのか。
 いや、私は何の為に生まれてきたのかすら分からなくなってしまう。最後に、これが最後でいいから私に力をください―――。
 そう願った。叶うはずもない望み。だけど、このまま本当に終わらす事は出来ない。
 まだ私は生きている!
 私は刀を避け、白夜に連続で仕掛ける。白夜は避けると同時に刀を振り回す。
 この攻防は長く続く、いや、続いている。普段の私ならすでに刀に斬られているだろう。だけと私はそれを避けていた。左腕は余りの痛さに感覚を失っている。それどころか意識すら危ういかも知れない。だからもう終わりにしよう。勝っても負けても、これが最後だ。
「決まれー!」
 私は大声で叫び、最後の腕を振り下ろした。
 刺さった感覚があった。目も余り開かない状態でみるとしっかりと胸部に刺さっていた。私はそれを体重にまかせ抜く。
 その後の事は覚えていない。白夜は叫んだり苦しんだりしたかも知れないが、私はその前に力尽きてしまっていた。
 目をゆっくり閉じると体に冷たい物が当たる。

 雪が降り始めた。