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三章


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 権一君、君は実に面白い。
 よく私の策略に気付いた物だ。
 しかし一つ教えるとすれば、別に殺そうとしていた訳ではなかったのだよ。銃にも弾丸も入っていない。撃たれた奴も弾痕もあらかじめ用意していたのだよ。本当は殺そうとしているという風に思わせる為だ。しかし君のあの行動のお陰で、より効果的だっただろう。予定ではもともと爆発で引きつけたの理由は、二人の位置を固定し狙いやすくし、その隣に撃たれたと見せかける要員を配置する為だ。位置についてはそのままの意味で本当に狙われてると思わせる為で、要員は普通に歩いている状態で、隣に付きっきりでは明らかには可笑しいからだ。爆発での野次馬に交じれば全く違和感もない。
 そして弾丸が外れたと思わす予定だったので、これには多少の違和感もあったが、権一君が輪廻を助けるという咄嗟の行為によって勘違いしてくれている。私は実に幸運だ。
 それに君達二人にはまだ死んでもらっては困るのだ。まだ私の下で踊って貰わなければ。
 次は時間稼ぎにちょっとしたゲームでもしようか。



 そして二人には期待しているよ。最後の演奏まで踊ってくれると信じているよ。






 あれから二日が経った。
 その間は大した出来事は起きはしなかった。
 あの後の経緯は説明するほどの事ではなく。帰りしに寄ったホームセンターで買い物をし、近くにあったファミレスで食事を取った。服は残念ながらその日に纏めて買えなかったので、しょうがないから本家にある服を配達するように言っておいた。新しい服はまた後日に買う事には決めている。
 そして家の内装も整い、私の部屋は以前の殺風景な部屋ではなく、明るい部屋になった。健一の部屋はというと、勝手に覗いたのだけど、特にというものはなく、見た目としては殺風景なままだった。まあ私には関係ないんだけど。
 あとはネット回線も繋ぎ、パソコンを設置した。ちなみに前日に権一が二台買ってしまっていたので、一台欲しいと言ったら、簡単にくれた。曰く、こんな筒抜けな場所で何かをする馬鹿もいないだろうという事だ。でも、私はもう少しでその馬鹿に含まれそうだったわけで。
 ここまではいいとして、あの後の処理についてだ。実は私にも権一にもあの後の話は話されていない。ニュースにはなったものの、車の爆発だけしか取り上げられていおらず、銃で撃たれた人の事は何も取り上げられなかった。もちろんどういうことかは考える。その時本当に狙われていたのは私で、この事が世間に知れてしまうと、一般市民を巻き込んだ事には違いないので、面倒な事に発展するだろう。しかし取り上げられていないという事は、お父様がどこかで話を揉み消したのだろう。撃たれた人には言っては悪いが、結構な額の見舞金が渡されているのだろう。もし他の野次馬が通報してしまっても、本人が否定してしまえば、ある程度捜査は入るかも知れないが、その程度だろう。
 お父様はあまり自分のした事を私にも教えてくれない、昔は何度か私の失敗を揉み消してくれたけど、その時も何も言わなかった。
 それはさて置き、今日だ。
 今日は家に直接とある手紙が届いた。例のマフィアからだった。



「お前はどうみる」
リビングのテーブルの上に手紙を広げて、この手紙の内容を話合っている最中だ。
「どうって、どうみても罠としか思えないわよ」
「そうだ、だが俺はこの誘いに乗らなければ奴等を掴む事も出来ない。それにもし行かずに書いてある事が実行されれば大問題だ」
「じゃあ行くのね」
「当たり前だ。絶対に奴等を掴んでやる」
 そこで権一は顔をにやつかせる。その表情は笑ってはいるが、確実に怒りも見せている。そして喜びとしても感じられた。
「それに奴等もこれを挑戦状として送ってきたのだろう。裏切り者を捕まえろとな」
 手紙には脅迫紛いの事が書いてあった。いや、脅迫なのだろう。
 内容はとある指定した場所来いとあり、来なければそこを爆破すると書いてあった。これだけではどういう問題なのかは分からないだろう。そしてそのとある場所が内部の共犯がいる確信を持たせる場所でもあった。
「確かにカジノはまずいわね」
「そうだ、爆破をされてしまっては、このカジノの存在が表に出てしまい、それどころか各界の著名人なども捕まり、政治にも兆という単位で金も動く。組を守るだけの問題じゃない」
 そう、そこは園芝組が運営するカジノだ。日本では禁止されている賭博行為だが、隠れた場所に店を構え、会員制を取って営業をしている。それも存在すらも知っているものは極一部の人間だけだ。親の遺産を受け取り財を得た者、警察等公務員の上層部につく者、政治家、各界の多大な功績をあげた著名人等様々で、日本だけではなく、外国からも通ってくる者もいる。そして会員になるには色々審査があり、それを通って初めて会員権を受け取る事が出来る。そして会員権を受け取る物は富豪、或いはそれ以上の人間に成ってしまうためで、それ故に最低レートも途轍もなく高く設定してある。
 そういう事もあり、絶対に阻止しなければいけないのだ。
「爆破予告は今日から日付の変わる零時ね」
「そうだな、俺は今から向かう。お前は勝手にしてろ」
 私は留守番させられるらしい。確かに前日足手まといとしか思えないような状況だったので、権一の考えも分かる。
「でも、もし権一がいない間に私が襲われたらどうするのよ」
「お前が死ねば俺は好都合だが?」
 そうだった。私が死ねば結婚自体もなくなるわけで、自分の身は自分で守らなければならない。そんなことすら忘れていた。
「じゃあ一緒に行くわ」
 権一はあまり動かない表情だけど、しっかり分かるように嫌な顔をした。そこまで私は嫌われているらしい。
「勝手にしろ」
 そう言われ私は無理やりついて行くことにした。

 そして権一は忘れているだろうけど、あのカジノは私と権一が初めてあった場所だ。






 カジノの場所は分かりにくいように地下にあり、会員証で扉が開く仕組みになっている。
 俺は今カジノに到着したところで、時間はまだ午後六時を回ったところで、予告の時間には余裕がある。
 客にはこの事態を伝えてはいないが、従業員には伝えて異常がないか調べて貰っている。
 俺は入口に立ち、会員証を通すと扉が開き、俺と輪廻は中に入る。中は煌びやかな内装になっており、まさに金持ちの娯楽をイメージしたような物だ。
「ようこそいらっしゃいました、権一様」
 俺が入るとここの責任者が迎えた。そもそもこのカジノ自体は園芝組の物で、オーナーは宮左御極陽だ。そして、そこで雇われている最高責任者がこいつだ。俺はあくまでオーナーの息子という立ち位置で、それほどの権限はない。
「何か見つかったか?」
「いいえ、何も。お客様も調べさせて頂きましたが、不審な点は御座いませんでした」
「そうか、戻っていいぞ」
「権一様もごゆっくりどうぞ」
 そう言って、そいつは仕事に戻って行った。しかし俺は彼の言うとおりゆっくりしている暇はない。
 しかしまだ何も無いという事なら、時間ぎりぎりにでも来るのか、或いはただのはったりなのか。しかし今は待つ以外に術はなかった。
「権一君じゃないかね?」
 一人の老人が声を掛けてきた。いかにも紳士というような格好をして、立派な白髭を生やしている。しかし俺はこいつを知らない。誰だこいつは。
「鉄の小父さんじゃないですか。お久しぶりです」
 そう言って輪廻が前に出た。
 そして鉄という名前に一つ心当たりがあった。元瀬戸組幹部で、俺の生まれて間もなく組を抜けた人物で、今でも瀬戸組に助言をしていると聞いた事があったが、この老人がそうだったか。名前は鉄魄。
「もしかして、輪廻ちゃんかい?」
「そうですよ」
「おお、いつの間にかこんなに大きくなったのかい。それにこんなに赤く髪を染めて」
「いつの話ですか、小父さんたら。それにしても権一とはいつ知り合ったのですか?」
「ああ、私はたまに此処にくるのだが、その時稀に顔は合わせていたんだよだよ。尤も権一君は気づいていなかったようだがね」
「貴方が今尚組を抜けても活躍成されている鉄様でしたか、失礼いたしました」
「いきなりそんなにかしこまれても困るよ。普通に喋ってくれたまえ。それに私は活躍というほどの事はしておらんしな」
 何を言うか、謙遜しているようだが、組員の時代からとても優秀で、国家とのパイプも作ったという大きな功績も持っているほどの人物だ。
「それにしても君達揃ってどうしたんだい? どうやら遊びに来たわけじゃなさそうじゃが?」
 さすがに鋭いな。どこかで気付いたわけでなく、直感でもあるのだろう。それにこんな人の事だから俺達の現在の状況も知っているのだろう。しかしここは隠し通さなければいけない。
「いいえ、息抜きに遊びに来たんですよ」
 そう先に輪廻が答えた。とりあえずこれはこの流れに乗るとする。
「ほう、それなら私と何かしないかね?」
「そうですね、何にしましょうか?」
「私は何でもいいよ、輪廻ちゃんが決めておくれ」
「そうですか、じゃあどうしましょうか」
 そう言って輪廻はあたりを見回す。このカジノでは色々な賭けごとが出来る。ルーレット、トランプゲーム以外にも花札なんて物もあるし、ダーツなどもある。
「それじゃあ麻雀なんてどうですか?」
「ほう、私は構わんよ。確かレートは点10からじゃったよな?」
「ああ、そうだ」
 俺はすぐに答える。当たり前のようにここでのレートはとても高い。そして点10というのはあくまで最低レートなので、それ以上は面子で勝手に上げてもらっていいという形式だ。
 そして此処の麻雀ではコンビ打ちなどいかさまの無いように、台ごとに見張りがついている。
「ところで輪廻ちゃんはここでのチップは持っているかい?」
「あ」
 もちろん持っているはずが無かった。それにここではチップを買う事が出来ない、チップの購入と換金は別の場所で行っているからだ。
「どうしましょうか……」
 輪廻は戸惑っているが、それ以上に不自然だった。そして鉄も遊びに来たんじゃない事を気づいていた。本当に遊びに来たと思っていたのなら、チップを持っているかなんて聞かないからだ。
「構わんよ、上げる事は出来ないが、貸すことなら出来るからの」
「すいません」
 輪廻は謝っているが、鉄は全く気にしていないようだった。
「それじゃあレートはいくらにするかの? 点100位でも構わんぞ?」
 おいおい、流石に点100はないだろう。此処での最低レートの10倍なんて俺でも正直恐ろしい。
 だが輪廻はそれ以上に恐ろしかった。
「レートよりもTOPの総取りなんてどうかしら?」
「ほう、それは面白そうだ。それで幾らかけるんだい?」
「小父さん、三千万貸していただけること出来ますか?」
 二人の会話を聞いていた周辺の奴等がざわめく。ふざけるなよ、三千万だと?そんな大金かけれるはずがない。確かに勝てば一瞬で一億弱を手に入れる事が出来るかもしれないが、明らかにリスクが高い。俺なら三千万なんて賭けに乗る事は出来ない。このカジノにいる客でもしようと思う奴いないだろう。つまり面子なんて集まるはずもなければ、そんな大金貸してくれるはずがない。はずがないのだ。だが鉄は違った。
「そのくらい構わんよ」
 恐ろしい。朝鮮に攻撃を受けているというのが嘘としか思えない。
「じゃあ面子はどうするかね? 私達以外に乗ってくれる人はいなさそうだしの……」
 しかし乗るような人物はいた。
「俺が乗ろう」
「面白い嬢ちゃんじゃねえか、俺もだ」
 あっさりと面子が揃った。このふざけた賭けに乗った二人の人物は俺は知っている。一人はここで雇っている一番のの用心棒の奴で、もう一人は逆に賭場荒らしのような強さを持つ人物だ。
「ところで俺からも提案があるんだがいいか?」
「何かしら?」
「牌は竹牌にしないか?」
 用心棒は竹牌を提案したのには意味がある。ガン牌だ。竹は目がどれも違うのでガン牌しやすいらしいが、俺にはそんな違いを覚える事は出来ない。だが、一つ言えるのは、本気で勝つつもりだ。そして此処ではガン牌はいかさまには指定されていないので、この条件を飲んでしまえば勝つのは難しいだろう。
「いいわよ」
 迷うことなく輪廻はこの提案を飲んだ。
「ルールは持ち点2万5000点、一荘一回で飛びなし赤4ってところでどう?」
「私は構わんぞ」
「俺も竹牌にさえしてくれればなんでもいい」
「俺も異議はない」
 そうして四人は台に着き、チップを回収し開始する。
 席は、東が用心棒、南が鉄、西が賭場荒らし、そして最後に北が輪廻だ。
 そしてまだ配牌もしていないのにギャラリーが集まり始めてきた。一人三千万という掛け金なので当然かもしれない。
 俺は配牌の終わった全員の牌を見て回るが、全員なかなかいい配牌だったようだ。特に鉄は七対子の一向聴だった。
 そして用心棒がいつの間にか牌を捨てて、鉄が自摸っていた。
「リーチ」
 早速ダブリーを見せつけていた。待ちは五萬で、まだ他の奴の手牌には無いようだった。
「早いな、御老人」
「偶々じゃ」
 これは本当に偶然なのか、それとも何かの因果か。しかしまだ始まったばかりなので見守るしかなかった。
 そして二巡目に鉄は五萬を引いた。
「ダブリー一発ツモ七対子じゃ」
「偶々だよな、偶々」
 用心棒と賭場荒らしは点俸を差し出す手が震えていた。
 だが、その本当にこれは偶々だったのか、この後和了る事無く東場が終わった。
「おいおい、大丈夫か嬢ちゃん、焼き鳥じゃねえか」
 そう、今だに輪廻は一回も和了る事無く残り5400点だった。飛びは無いとはいえ、きついことには変わりはなかった。
 現在のTOPは賭場荒らしで、二位が用心棒だった。賭場荒らしと用心棒との差は僅かだったが、用心棒はガン牌しているのに負けていることに苛立っているようだ。
 そして南場も終わり。
 ここで用心棒と賭場荒らしの順位が入れ替わり、輪廻はついに飛んで-2000点になった。鉄もぎりぎりのところで耐えているだけで、いつ飛ぶのか分からない状況だ。
 しかし西場、少し変わったことが起きる。
「ロン、混一色、中」
 やっと輪廻が和了る。だが明らかに変な鳴きがあった。わざわざ鳴かなくても三翻でいけていたのを鳴いて二翻にしたのだ。これは全員が気づいていた。だが、ただ単に早とちりの鳴きだと思っていた。その後も輪廻は安い手で上がって-からは戻っていた。しかし相変わらず四位なのは変わる事はない。
 そして北場。ここで用心棒が逃げ切ってしまえば勝ちだ。
 しかし賭場荒らしも近い点数で簡単に逃げるのは難しいようだ、その時二人の眼中には輪廻は無かった。それは鉄も同じだったのか、輪廻のあの自信に拍子抜けしていた。
 そして北4局、もう終わりだろう。このまま用心棒が勝つのだろうと思っていた。
 だが、違った。ここで輪廻が安い手で和了り始めた。このギリギリの局面で、安和了だが、誰にも和了らせない。どういう事なのか、分からなかった。これまで負けていた奴がいきなり和了り始めるとは思いもしなかった。
「おいおい、冗談じゃねえぞ……」
「これで八連荘っと」
 この対局で初めてで、最後であろう役満だ。八連荘はローカルルールだが、ここではありになっている。しかし八連荘がありになっていた事を知っていたことよりも、何故いきなりこんな真似が出来たのか、知りたかった。八連荘は運や実力で出来るが、そんな簡単なものじゃないからだ。
「ねえ、どこまで覚えたの?」
 輪廻は用心棒にそう言った。つまりガン牌の事だろう。もちろんの事だが、すべて覚えているのだろうが、返答はしなかった。
「竹牌って面白いよね。側面にまで目があるんだから」
 そこでようやく気付いた。覚えたのか、全ての牌を。たったこれだけの時間で。ありえない。それも牌毎に五つも覚えていた。それならあのおかしな鳴きも納得が出来た。あの鳴きで他の誰かの和了りを消したのだろう。
「ふざけるな!」
 用心棒はこの展開に怒り狂う。今の八連荘で順位が引っくり返っていたからだ。輪廻が四位から一転しTOPになっている。
「八連荘だと? ありえない! いかさまだ!」
「落ち着け」
 俺は用心棒に声をかけた。
「何だお前は!」
「雇い主の顔まで忘れたか」
「宮左御……様……」
 俺がいた事にどうやら気づいていなかったようだ。しかしそんなことはどうでもいい。
「何だその醜態は? こんな奴を雇っていた俺は情けない」
「そ、それは、確かに俺は負けました。ですが!」
「そんな事はどうでもいい! 勝ち負けなんて気にしてはいない!」
 この男は俺が負けたのを見て怒っているものだと勘違いしているようだ。
「負けたのは貴様の実力不足だと何故分からん。もういい、首だ。出て行け」
「それは勘弁を!」
「捨てておけ」
 俺はそう言うとここで見張りをしていた奴等が外に連れ出す。連れ出してる間も暴れて何か叫んでいた。
「お前の勝ちだ、持って行け」
 そう言って総額一億二千万のチップを渡す。
「じゃあ小父さんには三千万お返ししますね」
「こりゃ勝てなくて残念じゃわ」
 そういって鉄は貸した分受け取る。
「あとこれは場代ね」
 そう言って差し出したのは五百万近くの分のチップだった。まあこれは有り難く受け取っておくことにしよう。
「そういえば賭場荒らしの奴いつの間にかいなくなってるな」
「そう言えばそうね」
 知らない間に賭場荒らしはいなくなっていた。悔しくて逃げたのか、これ以上恥をかきたくないのか、どちらにせよ意味は同じだった。だが、最後にもしあいつが例のマフィアに関係あったのだとしたら……。俺はそれを思いすぐさま周辺を調べさせる。
 まだ何も始まっていないのだ。ただ輪廻が麻雀に勝ったというだけで、何も起こってはいない。
 しかしこの麻雀で輪廻の能力を思い知った。記憶力。これは確実に脅威にもなるだろう。
 俺はそう思いながら予告の時間まで待つことにした。






 予告の零時まで時間が迫ってきたが、全くと言っていいほど何も状況が変わらず、法外な金がいたるところで動いているだけだった。
 そして小父さんにも悪いが、何も喋っておらず、ただの世間話をしていたが、小父さんは相変わらずの洞察力で、私が時間を気にしている事を悟っており、何かが起こるという事は分かっていたようだ。
「どうしたんだい、そんなに時間を気にして」
 あからさまに聞いてきた。これは確信を持っているのだろう。
「気にしないでください」
「そうかい、変な事を聞いてすまなかったね」
「いいえ、お気になさらず」
 時間は残り十分を切っていた。
「ですが、時間を気にしているのは確かです。なのでそろそろ」
「何があるのか分からんが、頑張って来なさい」
 そして私は権一を探しに向かった。
 だが、あまりにも広く、結構人数は多いので、十分で探し出すのは難しいだろう。
 腕時計を見ながら零時を確認したその時だった。
 いきなり照明が落ち、騒がしい声だけが聞こえる。
「おい!どうなってるんだ!」
「スロットが止まったぞ!」
「こっちもだ!」
 恐らくブレーカーが落とされたのだろう。
 だが、その騒がしい声の中に落ち着いた会話が微かに聞こえる。
「悪いね、権一君」
「まさかあんただったなんて思いもしなかったな」
 聞き覚えのある二人の声だ。
「そうだろう、なんていったって自分でも私は真面目、いや、している事は悪人だったかも知れんが、組を裏切る様な人物ではないと自負しておったからの」
「あんたの上にいるのは相当なんだろうな。金で動いたわけでもなさそうだ。スパイだったのか?」
 一体誰がこの会話を聞いているのだろう。しかしカジノを楽しみに来ている人達はきっとこんな事よりゲームの方が大切だろう。
「それを答える必要はないだろう」
「そうらしいな」
 でもまさか……あの小父さんが、組を裏切ったなんて。
「しかし殺すには惜しい人物だな君は」
「あんたに言われても嬉しくはないな」
「ところで権一君は目上の人には敬語を使う事を習わなかったのかね?」
「生憎敵に使う敬語は持ち合わせていないからな」
 二人の声がする方に向かっていくと、暗くてよく分からないが何かを誰かの顔面に突きつけている人影があった。恐らく何かを突き付けているのが小父さんで、突きつけられているのは権一だろう。だが何を突き付けられているのか?恐らくあんな場所に持っていくのは拳銃だろう。その拳銃はもういつでも撃て、絶対に外さない近さだ。小父さんが引き金を引いてしまえばそれでもう権一は死んでしまうだろう。
「まあ、最後の君の言葉だ。大目に見てやろう。何か言い残す事はあるかい?」
「未練が多すぎて残す言葉を纏められないな、時間をくれないか」
「私にはそんな余裕はないな、その言葉は死んでから纏めてくれたまえ」
「ああそうかい、それじゃあそうさせて貰うのも悪くないかも知れないからな」
「グッバイ、少年」
 まさか、権一が死んでしまうなんて……。
 そして火花が散った。それと共に聞こえたのは発砲音ではなく、爆発音だ。
「何だ今の音は!」
「一体停電といい何が起こっている!」
「早く明かりをつけろ!」
 先ほどと違い凄まじい怒号が沸き起こる。
 その状況を把握しきれていない人達と違い、私はその瞬間を見ていた。
 暴発。
 それは奇跡なのだろうか、小父さんが撃とうとしていた拳銃が暴発したのだ。そして小父さんはそのまま後ろに倒れこんだ。
 その一瞬の出来事が終わった数十秒後に明かりがついた。
 そして私はその光景を見て言葉を出すことが出来なかった。それは小父さん右手が完全に吹き飛んでいた。あの爆発は異常な大きさだったようだ。小父さんはその痛みに転げ回り、出血も凄まじく直視することが出来なかった。そして撃たれるはずの権一も何が起こったのかまだ整理出来ていないようで、棒立ちのままだ。
 その間も小父さんはずっと左手で右腕を押さえ転げ回り、声にならない叫びを上げている。
 この光景は誰もの目を惹き、そして誰もが私と同じように声を出せずにいた。
 小父さん以外の沈黙が続いた。それは話で聞くかのように、その沈黙していた時間が長かったのか短かったのか分からない。
「どういうことだ……」
 そこで権一がようやく声を出した。
「これは、何なんだ」
 それは偶然暴発したという事だけが真実だ。
「ふざけるなよ」
 ふざけてなんていないだろう。この手から出る夥しい程の出血も遊びじゃない。
「だが残念だ。本当に俺からしても惜しい人物だったがしょうがない。それにこれほど出血があると僅かな時間しか持たないだろうな。逆に俺が聞こうか、遺言があるなら聞くぞ?それとも雇い主でも教えてもらおうか」
 だが権一の質問にも答えられないような惨状で、作り話の様に綺麗に纏まる事はない。
「どうした、何も言えないのか」
 そう言いながら右手を踏みつけるその姿はとても残酷だった。踏みつけと共に発せられる泣き声はより一層恐ろしくする。私はやり過ぎだと感じても、これは仕方のない事だ。何も文句は言えないのだ。これはただ単に裏切り者に罰を与えているだけの行為であって、当たり前のように私は今まで見てきた。しかしその見てきたものはあくまで躾けの一種で、拷問と呼ぶに相応しいこの光景は初めてだった。そしてこの光景に耐えきれなかったのか気絶する者も現れた。
 だが、声を出す力もなくなり、転げ回る力もなくなったのか、反応しなくなった。
 それは確かな死だろう。あちこちに血が飛び散り、肉片が転げ落ち、そこに死体がある。
「事故だな」
 権一は唐突に何を言い出すのか、確かに事故だったが、すぐに処置すれば助かったかも知れないのだ。
 だがしかし、
「何だ事故か」
「事故なら俺達は関係ないな」
 などと面倒事を避けたいのだろう、全員で何も言わずとも取り調べがあったとしても口合わせするような勢いだ。
「輪廻」
 私はそこで声を掛けられた。
「これは事故だ」
 その形相に頷くことしか出来なかった。






 鉄ほどの男をこうもあっさり動かせる奴がいたことは、正直言って驚きだった。
 だが逆に言ってしまえば動かせる人間がいない事もない。だがしかしこれを肯定してしまうと全てが理解できない。この結婚という行為すらも何の意味があるのだろうか。
 鉄を生かしておくという選択肢もあったが、確実に口は開かないような人物だ。生かして置いて尋問しても何も得られず、時間の無駄だろう。
 だがまずはこの状況だ。死体があるというこの状況を片づけなければならない。
 口止めというのはここでは必要がないのが救いだ。こんな事とかかわっていたことが世間に知られてしまえば、大スキャンダルの様な人物しかおらず、自分からばらす様なバカはいないだろう。
 まあ片づける事よりも重要な事があった。
 鉄の拳銃だ。こんな場所だからこそ、拳銃なんて代物は持っていてもおかしくないような連中もいた。そのため入口で金属探知器など当てられたり、私物の点検等をするのだ。それなの何故鉄が持っていたのか。このカジノ内では銃を持ちいれられるのは、ここでの従業員、支配人等だ。つまり支配人の極陽はいない。結果従業員が持っているのを手に入れたのだ。それも裏切り者だろう。いや、スパイなのかもしれない。どちらにせよ、鉄自身の体は老体そのもので、特に格闘などが出来る訳でもないのだ。そんな体で銃なんて奪おうとしても逆に返り討ちにあう。だからこれしかないのだ。
 ここまでが推測だが、これが真実なら奴は一体何者なんだよ!
 自分がここまで踊らされているという事実もあり、嫌な気分になり歯を砕けそうなほど噛み締める。
 だが、ここで怒ってるだけでどうする。
「後は任せていいな」
「もちろんです、それではお帰りの車を用意します」
 俺は怒りを鎮めて此処から去ろうとするが、それでもまだ完全には落ち着きを取り戻していなかった。
「いや、外の風に当たってから帰らせてもらう」
「ですが」
「そうよ、そんなことするより早く帰ろうよ。それにもう夜も遅いし」
「お前だけ帰ればいい、俺はどこかのホテルでにも泊まるかどこかの店ででも時間を潰す」
「分かったわよ、私もついて行くわよ」
「何でくるんだ?」
「一緒にいたいの、悪い?」
 邪魔なだけだったが、それでも何故か言う事が出来なかった。
「好きにしろ」
 俺はどうにかしてしまったのか。



「少し休ませてくれ」
 ここ最近の疲れが出たのか、少し頭痛が起こる。
「いいけど、何処か入る?」
 そう輪廻が聞いてくる前に行く場所は決まっていた。
 そこはとあるバーで、大通りに面してとても繁盛しているような、落ち着きのないバーだ。しかしそこではある恩人が唯一姿を現すという事を知っている場所だった。俺がこのバーを知ったのもその恩人に連れられてからで、その恩人もよくここに来るというわけではなく、近くに来たときだけ寄るという感じだった。しかしその間隔は長かった。一度来たら半年、一年以上来ないという事も知って、ここでその恩人の情報をたまに聞きに来るのだ。
 中はジャズバーで、夕方から日が昇る辺りまでずっと様々なジャズバンドが交代しつつ演奏が流れ、人々を飽きさせる事は無かった。
 俺はここで情報を聴きに来たのだが、すぐに聞くことでもないだろう。またどうせいないのだから。
「私、ジャズってよく分からないな」
 ウェイターに席まで案内されて、席に着くと小さく輪廻が呟いたが、俺自身も良し悪しは分からずに、ただ聴くだけにしている。
 曲が演奏し終わる毎に拍手が送られ、また演奏者達も機嫌良く舞台を降りて行く。
「ねぇ、権一も演奏出来たりするの?」
 不意に聞いてきた。
「俺は楽譜も読めない」
「へー、私と一緒だね」
 何故か笑顔を向けてきた。それにしても最初出逢った時と雰囲気が全く違っていた。最初は敵としか認識しなかった。それはほんの少し前から一緒に暮らし始めた時も同じだ。俺は輪廻を今どう思っている。全てを掻っ攫われてしまうような威圧感なんて全くなくなっていた。それ以上に逆の感情を寄せられている様な気もする。しかし俺は西との共存を認めてしまってもいいのか?違うだろ?別に西も朝鮮も潰してしまえばいい話だ。やはり敵なのだ。だが輪廻は西の内のただの一人の女に過ぎなかった。
 それなら俺は輪廻をどうしたいんだ?
「どうしたのよ」
「なんでもない」
 俺はそう言ってメニューを確認せずにウェイターを呼んだ。
「注文をどうぞ」
「この料理とこの料理に合う酒を頼む」
「あ、呼ぶの速いよ、私まだ決めてない」
「後で頼め、今はこれだけ先に頼む」
「畏まりました」
 そういってウェイターはカウンターに向かっていく。
「先に一人だけ頼むってあり得ないわ」
「時間はあるんだ、別に後で頼んでも同じだろ」
「はぁ、本当に自己中心的ね」
「お前に言われる筋合いはないな。それに俺はわざとしているだけで、お前は素でしているだろう」
 などと言っている事は無視されてウェイターを呼んで注文をしていた。
 しかしそこに何も持って来ていないウェイターがこちらに向かって来て、俺の横に立ち耳元に口を近づけた。誰かから伝言だろうか、しかしここで誰かから伝言されるような人物はいなかった。ただ一人除いて。
「宮左御 権一様ですね。VIPルームで宮右御様がお待ちです」
「宮右御?」
 ふざけた名前で、俺の知り合いにそんな名前の奴はいないし、親戚にもいない。しかし偽名を使うなら知っていた。それにここでの伝言といえば一人しかしらず、その人物はこんな真似をする事もあった。だが、ほぼ会うのは不可能だと思っていた。しかし本当ならば最高のタイミングだ。
「……まさか」
 それでも信じられずにいた。
「ちょっと待ってよ!」
 後ろの声なんて構わずに向かう。
 そのVIPルームに一人の女性が腰を掛けて待っていた。
「お前と会うのは何年振りかの?」
 それは俺の恩人で、誰にも追いつけない人物で、俺が探していた人物だった。






 纏うドレスは黄色と黒の二色で自分で危険だと晒すかのように、その長身は誰もを見下すかの如く、そして眼光は人々の心を見透かす様な鋭さで、その素性も知らない女性に初めて逢ったにも関わらず、鳥肌が立つ。
「ほう」
 その女性は私に目を向ける。
「ほうほう」
 目だけを動かし、私の事を眺めた。
「彼女が西の娘かの」
「ああ、そうだ」
「あまり潺の娘にしては今の潺には似ておらんの。実は捨て子じゃないのかの?」
「なっ!」
 私に向けられた第一声が私を捨て子扱いなんて、それも今会ったばかりの奴にだ。
「何なのよ!この宮右御ってのは!」
「そちは面白いの。宮右御というのは妾のちょっとしたおちゃめだぞ?」
「じゃあ何て名前よ」
「それは秘密じゃ」
「……意味わかんない、権一教えてよ」
 私はこの意味の分からない女の名前を聞いた、だが、
「俺も知らん」
「は? どういうことよ。知り合いなんでしょ? それにどういう関係なのよ」
 さらに意味が分からなくなった。二人は知り合いだからこそこの女は権一を呼んだ訳だ。
「確かに知り合いだ。それに俺にとっては一番大事な人だ」
「大事な人ってどういう事よ……」
「それは妾が答えようぞ」
 そう言ってその女はコホンと咳をわざとらしくした。
「師弟じゃ」
「師弟?」
「そうじゃ、昔は可愛かったぞ。特に初めて会った時なんぞ、泣きべそまでかいておったわ」
「そ、その話は今言う事じゃないだろ」
 珍しく権一が動揺していた。でも私は今以前の事が知りたかった。
「ほれ、潺の娘も聞きたそうにしているじゃないか」
「……勝手にしろ」
 権一は諦めた様にし酒を煽っていく。
「では昔話を話そうか」


 それは妾が暇を持て余してる頃じゃった。
 その時、妾は気分転換に散歩をしていた時の事、路地裏でこやつが殴られていたのを見た時が出会いじゃった。
 もう見つけた時には服も体もボロボロじゃっての、こやつを誰が何で殴っていたのか知らんが、妾は気まぐれで助けてやっての。本当にその時は可愛くての……。おっと話が逸れてしまいよったわい。でな殴られてる間は目に涙の滴が溜まる程度じゃったのに、妾が追い払った途端大泣きしおっての、余程その時溜め込んでおったのじゃろう。
 その後付き添って、落ち着いてきた時に聞けば、かの有名な園芝組の当時の新組長の一人息子だと聞いてその時は驚いたの。殴られていた理由を聞けば、ちょっとした営業をしておったらしく、そこで取引も失敗してしまったらしくの、それで叱られていたのじゃと。
 その事を聞いた後、妾は可愛くてつい……もといちょっと興味を持ってしまっての、柄にもなく師匠気どりで色々指導を始めたのじゃ。
 でもそれは妾が勝手に決めた事じゃったのだが、何故か妾の事を尊敬の眼差しを向けて来て、少し迷った後、師匠になって欲しいと言い出したのじゃ。
 始めは雑用をして貰ったのじゃが、それはもう何もしない方がいいというくらい不器用での、それでもこやつは不器用ながら頑張っての、少し時間はかかったがある程度こなせるようになっての、ようやくちゃんとした指導を始めたのじゃ。
 始めは人付き合いから、経営学やら、法律やら、精神の鍛錬やら、教え込んでの。
 それから色々あって四年くらいじゃろうか、妾が忙しくなってもう終わりにした時には、その短期間の間に見違えるように成長しおっての。貧弱で心も弱かったのが高身長で体も精神も立派になり、人付き合い等でパイプやらを増やしていって、法律にも触れないように行動も慎むようになって、本当に変わったもんじゃ。今思えば出会った時に組に圧力でも掛けて手籠めにしておいたら良かったのかもの。


「まあそれから二度くらい会ったくらいじゃ。因みにここが妾とこやつの集まる場所での」
 昔話はそれほど長くは無かったが、権一との関係は大抵分かったのだが、
「貴女の事が全然分からないのだけど?」
「そんな事よりもおぬしも酒を飲まんか? 今日は妾の奢りじゃ、何でも頼むがいい」
 あっさり分かり易いくらい軽く流された。それならお言葉に甘えて無茶な位頼もうとは思ったが、私はそれほど飲む方ではなかった。
 ふと気付いたら権一の前にはいつの間にか何本もの空いたボトルがあった。そういえば、来た時も結構な数が空いてはいたが、権一の前になかった。それに今まで私とこの女と喋っていたので飲んでいたのは権一だけになる。つまりだ、
「……権一って酒豪?」
「おぬしと比べればそうじゃろうな、酒も大層強いし、それに」
 そう言いながら権一の前にあった空のボトルを一本掴んで、こちらに見せてきた。
「度数を見てみ」
 そう言われて近づいて見てみると、私は驚いた。アルコール度数二十%と書かれているのだ。普通にそんな度数私には飲めるはずはない位高いわけで、それを何本も一人で空にしているという事実だけで結構なものだと思った。だが、この女はそれ以上だった。この女は私たちが来る前からかなりの数を飲んでいたようで、あちらこちらに空のボトルが落ちている。それをふと手に取って見てみるとどれも二十%が霞むような数字が並んでいた。酒豪というより肝臓を壊さない方が驚きである。
 まあ何でも頼めと言われたので、ここにあるのは流石にきついので、カクテルを頼んだ。
「ところで権一、最近はとても忙しいらしいの」
「ああ、聞くほどの事ではないとは思うがな」
「ここ最近眠れていないのではないか?」
「確かにそうだが、何が言いたいんだ?」
「いや、妾の愛弟子が心配での」
「そうかい」
 何だが私は少し蚊帳の外の様な空気だったが、二人は久しぶりの再会だというのだから、ここは黙ってておこう。
「じゃが、妾に今日の真相でも聞きたいのじゃろ?」
 今日の事? まさかさっきのカジノでの事だろうか。いや、そんな筈はない。それはつい先ほどの事だ。それに真相とはどういうことだろうか?私は黙って二人の会話に耳を立てる。
「流石だな。そうだ、今日のあの茶番は何だ?」
 権一はそう返答すると、この女は手を権一に向けると、権一はこの女の手に小切手を渡した。その額は五千万とあり、一体何の金なのか疑問に思った。そう私が不思議そうな目を向けていると、この女が口を開いた。
「何の小切手か不思議じゃろう。これはね昔師匠として指導した授業料じゃ」
「授業料にしては高すぎない?」
「何を言う