書きフライ☆wiki支部

二章

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shousetsu

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だれでも歓迎! 編集
 明るい。
 目を閉じているこの状態でも朝だと分かる。
 カーテンもまだない窓からは、太陽の光が何も遮る事無く降り注ぐ。
 ベットには薄い布団が一枚しか用意されてなく、かなり寒いし、ベットも硬くて、体が痛い。
 時間は?ポケットの中に寝ていた間押しつぶされていた携帯を取り出す。時刻は七時五分。ルールの五分を過ぎている。まあこの程度なら権一もまだ危害を与える行動はしていないだろう。それに出てから帰ってきているのか。もしかしたらまだいない可能性もある。
 私が部屋を確認すると、あのまずいメロンジュースと弁当が一個なくなっていた。つまり帰ってきて、誰かが私の部屋に入って来ているということだ。権一か、或いは例のマフィアか。前者だろう。それにしても権一は女の子の部屋に無断に侵入する行為も躊躇わずに行うらしい。私も「子」って歳じゃないけど。
 まあ入ってきたにしても居るかの確認くらいだろうが、私は寝ていてその間の確認はできないが、多分ルールくらいは守る男だとは思う。だが、この五分間の間に入ってきていたのだとしたら、何かしているかもしれない。
 私は部屋をひとつひとつ確認してみる。盗聴器の一つや二つくらいは有るかも知れないが、いちいちこんな事を気にしていたら埒が明かない。それに連絡ならこの他の場所で取ればいい。
 それにしてもどうしてあのジュースを選んだのか、もしかしたら権一も好きなのかも知れない。それなら意外な発見だ。
 とりあえず、まずは起きることにしよう。まずはそれからだ。



 一階まで落りると、堅そうな木の椅子に座りながら権一がテレビを見ていた。見ているのはワイドショーで、司会はあの年収数億という稼ぎでありながら、庶民を名乗る胡散臭いおっさんだ。権一はそれをつまんなさそうに見ていた。ちなみに私は生理的にこのおっさんが嫌いだ。
 まあ朝のこんな時間なんてどこも同じようなものだろう。
 そして一面を見渡すと、色々な家電製品が揃っていた。権一が買ってきたのだろうか。まあそれ以外に考えられないのだが。
「おはよう」
 こんな奴に挨拶するのもあれだが、礼儀も時には必要だ。
「……」
 予想通りの無視だ。別に返してほしいわけでもなかったわけだが、もしを想像すると何故か滑稽に思える。
 そこで私は鍵を渡すのを思い出した。鍵は二つありどちらも複製の物で、マスターキーはお父様が持っているのだろう。それは部屋に置いたままなので、二階に取りに戻る。



「はいこれ」
 権一に鍵を差し出す。
 だが反応はない。
「聞いてるの?」
 私は手を肩に掛けようとしたが、ルールに触れてしまうのを思い出し、権一の前に立った。
「……聞いてる」
 権一はそうは言うが、受け取る気どころか、動く気配すら見せない。とりあえず隣にあった椅子にでも置いておこう。失くしたとしても私は無視する。
 それにしても、こんな生活が始まったが、別に特に変わったことはない。それどころかすることがなくて暇だ。確かにすることはあるが、まず何をしたら見当もつかない。それは多分権一も同じだろうから、テレビをみて寛いでいるのだろう。それとも或いはもう手は打っているのだろうか?
 ……駄目だ。こんな生活していたら全てを疑って深読みしすぎて、気疲れしてしまう。
 今は何か事が起こるまで気楽に行ってもいいのではないだろうか?
 とりあえず私もテレビに目を向けると、芸能人が結婚したという報道がされていた。今は見たくなかった気分かもしれない。よく考えたらこいつと結婚した後はどんな生活になるのだろうか、一回も考えたことなんてなかった。どこかに幽閉でもしてしまおうか?それもそれで駄目な気も自分でもしてきたが。
 そして後の幾つか内容も日常的な話で、強盗が捕まっただとか、景気問題だとか、歴史ある資料館が閉館したなどで、今の私には全く必要のない内容ばかりだ。それ以前に必要のある話題なんて取り上げられたら、それこそ問題という状況だ。落ち着いていけば問題は無いはずだ。
 まあ今のところは何もないのだろう。部屋に戻って朝飯にでもしようか。







 俺は今からすることは決まっている。
 例のマフィアを潰す。それだけだ。それさえ行えば、別に輪廻に手を出さずとも勝手にこの話は無かったことになる。
 そもそも発端はこのマフィアの脅威に対するものだ。それならばそれを潰せば全てが終わる。後は勢力の衰えている、瀬戸組は放っておいても廃っていくだろう。
 これに関して言えることは、例のマフィアのボスを見つけたとしても、瀬戸組は完全に潰すことはしないだろう。さっき言ったとおり、潰れてしまう事は、瀬戸組にとって苦しくなってしまうだろう。だが、全く手を出さなければ瀬戸組が逆に押されるという展開になり、園芝組にもその勢力は来るだろうから、生かさず殺さずといったところか。
 何にせよ例のマフィアが全ての鍵を握っている。早く見つけ出さなければ。
 だがまだ派手に動いているということもなく、手を出そうにも本部がどこにあるかさえよく分かっていない。それ以前に実態もきちんとした形で掴めていないのが実情だ。
 朝鮮系というのも奴等が名乗っているだけで、本部が朝鮮半島にあるとも限らない。だが捕まえた奴等は基本的に朝鮮系で、他にはアフリカ系くらいしかいなかった。それから朝鮮に何人か偵察を放っているのだが、例のマフィアは朝鮮では全くと言っていいほど活動はしていないようだった。名前すらほぼ認知されていないようで、他の国にも向かわせたが全くだった。つまり日本国内だけで動いているようだ。もちろん状況なら日本に本部を構えていると考えるのがいいだろう。だが、ひとつ疑問に残る事がある。人員だ。これはとても重要な話で、朝鮮ですら名前が多少認知されているだけで、募集などは一切なかった。じゃあ日本国内では?それは無いだろう。募集なんてあったらすぐに気づくだろう。
 今は動きがあるまで待つしかない。



 そんな事を考えていたら二階から誰かが降りてくる足跡が聞こえてくる。ここには俺と輪廻しかいない。
 輪廻は右手にコンビニ袋、左手にはゴミ袋を提げて降りてきた。
 輪廻は階段を降り切るとその辺に放っておいた昨日俺が食べた弁当のゴミをゴミ袋に入れた。そして例の紙パックの飲み物に手を掛けた。が、すぐに下ろした。ゴミだと思って捨てようとしたのだろうが、その中にはまだ大量には飲み物が残っていた。
「残ってるけどまだ飲む?」
 それは俺に言ってるのだろう。
「いらない」
「不味かった?」
「味覚を疑うな」
 俺は正直に言った。正直飲めたものじゃなかった。まあ俺もこいつの味覚を確認せずに選んだのが悪かった。
「味覚はあなたよりはマシだと思うけど? 適当に選んだ私も私だけど」
 つまりこいつも味なんて知らずに買ったのか。それなら納得がいく。じゃあこれを作った奴の味覚を疑うとするか。
「いらないなら捨てておくから」
 そう言って台所に向かい、紙パックの中の液体を全て捨てた。そのままそれを潰して、ゴミ袋に入れる。
「ところで聞いていい?」
「なんだ?」
「何で居間なんかにテレビを置いてるわけ? あなたの部屋だけに置いた方がいいんじゃないの?」
「そんなことの理由か。いいだろう、答えよう。自分の部屋に置いたとしても音が漏れて意味もない。ヘッドフォンなんてしたら、テレビ以外の音に反応が出来なくなる。最後にこれはただの娯楽だ」
 あ、こいつ娯楽なんて取るんだって顔を輪廻はしていた。こいつはいろいろ顔に出るな。
「娯楽ねー」
「他に何かあるか?」
「ないけど、頼みならあるわ」
 面倒な奴だ。
「買い物行くわよ」
 そういえば昨日そんな事を言ってたな。まあ今出来ることはない、それなら衣食住でも整えておくとしようか。







 同刻――。



 面白いように、描いた通りに事が進む。
 順調すぎて恐ろしいくらいだ。
 すべて順調だ。園山組も大した事などなかったし、結婚を破棄させる件もうまくいっている。
 だが、これでいい。これでいいのだ。
 私が誰だか奴等も到底掴めまい。
 さて、そろそろ遊戯を始めるとしようか。私の野望のために。
 私は電話を取り出し何人かを収集をかけ、あの二人を襲わせに向かわせた。



「さぁ、革命の始まりだ!」
 私としたことがあまりに興奮しすぎて、つい小さい声だが叫んでしまったが、誰もいないので気にすることもない。
 私も私で行動を起こさせてもらうか。







 外は嫌になるくらい日が指しているが、冬という季節には勝てずやはり少し寒い。
 といってもまだ十一月だ。そこまで着込む必要もないが、少し上着を着ておかなければ肌寒くはある。
 もちろんいきなり同棲させられるとは思ってもいなかったので、今着ているものしかない。権一も同じ様で、昨日と同じ服を来ている。
 とりあえず今日はまとめて全部買うことにしている。権一は電化製品しか買ってなかったので、家具やさっき言った服、そして食べ物。衣食住全部だ。
 これだけ買えば帰る頃には夜にでもなっているだろう。
 もちろん組に頼んで適当に持って来てもらってもいいが、権一の場合容赦なく銃をぶっ放すと思いやめておいてるが、服は自分で選びたい。一応女の子だし。
 ちなみに今は玄関を出たところで権一が来るのを待っている。また誰かに電話しているようで、すぐに来ると言って待っていた。
「すまない」
 権一が玄関を出てきた。
「誰と電話してたの?」
「愛人」
 ジョークも言えるようだ。
 権一は家に鍵をして、私の前に立った。
「行くぞ」
 そして偉そうだ。



 私たちは最寄駅のJRの長浜駅に向かう。行先は米原なので、時間はそんなにはかからないだろう。
 なんなら米原に家を構えてほしかったが、いろいろ事情もあるのだろう。
 まあ家から駅が近いというのは楽だ。
 長浜は新快速が延長されて止まるようになってから、京都大阪方面へ通勤で使用する人が増えていたり、多少の賑わいはあるようだ。
 そこで一つ思い出したことがある。何気に米原がJR西日本と、JR東海の境界で、長浜は東海側にあたる。
 結構どうでもいい事だけど、私はIC○CAだが、権一はSu○caを取り出した。
「どうした?」
「何でもないわよ」
 ちなみに相互利用されているので、どちらでもいける。
 そう言いながら電子音を鳴らして改札を通る。
 時間は九時くらいで通勤ラッシュの時間を過ぎてはいるが、ホームには多少まだ人は多くいる。
 ちょうど電車も来て乗り込むが、もちろん席には座れる事はないので立っておく。
 そこから十分近くで米原についた。



 米原は大きい駅なだけあって、賑わいもある。
 というか駅舎が大きくて、ややこしかったりもする。
「で、どこに行くんだ?」
「適当に」
 権一は頭を押さえた。正直駅が大きいという理由だけで来て、探せばあるだろうという考えだった。新幹線も止まるようだし。
 無かったら無かったで、別の場所にいけばいいだけだし。
 私たちは見知らぬ場所に足を踏み出した。っていうほど大げさなものじゃないけどね。







「まずは服を買いましょう」
 何処にあるのかも分からないのに、輪廻は言う。しかし服屋なら大抵の場所にあるだろう。もっとも俺は服装はあまり気にすることはない。基本的にスーツを着ている。動きやすいし、客人を招くときにも向いている。
 自然に輪廻を先頭に俺が後ろからついて行く。当たり前なのだが輪廻の赤く長い髪は人目を惹く。髪が左右に靡く度に、老若男女問わず目を向けているのが窺える。彼等から見て輪廻はどう思われているのか、珍走団のメンバーやヴィジュアル系バンドあたりだろうか。それなら俺はどうだ?あまり考えたくはないが、あまり良い様には思われてはいないだろう。まあ正解なのだが。
「まずはあそこに行きましょう」
 輪廻が指を指した店に入ることになった。
 俺はさっき言ったとおり服に関心がないので、ファッションなんてものには疎い。そんな俺を傍目に輪廻は服を見ている。この店は女性用ばかりで、俺には全く必要な場所ではなかった。そしてあまりにも場違いだろう。
「彼氏さんですか?」
 少しの間立ち尽くしていた俺に声がかかった。この店の店員だ。多分彼女が彼氏を余所に服を漁っていると思われたのだろう。
「近しいところです」
 俺はそういう曖昧な返答をした。ここで肯定しておいた方が怪しまれないだろうが、相手がこいつだと思ったら気が引けたからだ。だが、店員もよく分かっていないようだ。とりあえず俺は輪廻の方に向かう。
 輪廻は右往左往しながら服を見ている。俺から見たらどれも似たようなものだ。
「決まったか?」
 俺は後ろから声をかけた。
「何言ってるの、まだ入ったばかりじゃない」
 店に入ってから二十分弱くらい経っているのだが、女性の買い物は長いものだ。そして輪廻も残念なことに例外ではないようだ。
 その後も何度も試着して、一時間以上経ったところでやっと決まったようだ。両手一杯に服を抱えてレジに向かっていた。その姿は凄く滑稽に見えた。
 レジの人はその量に驚いてはいたが、仕事なので会計をする作業に入る。結構な量なので、袋に入れる人も大変そうだった。
「合計二十一万四千八百円です」
 やっと終わったようだ。そこで輪廻はクレジットカードを出した。もちろん黒の。
 予想通り店員は驚いていた。あまり普通には目にかかれないからだ。
 そして店員に見送りされてやっと出る事が出来た。



「じゃあ持って」
 何にかけての「じゃあ」なのか分からないが、要は持てということらしい。ずうずうしい。
「自分で持て」
「レディーに重いもの持たせる気?」
「自分で持て」
「ケチ」
 俺は決してケチではない。当たり前の事を言っているだけだ。だが、確かに結構な量を買い込んでいたので重そうなのだが、一体何着買ったのか。
「それじゃあ次行くわよ」
 輪廻は相変わらず前で歩く。そして俺は後ろからついて行く。
 そして輪廻は一つの店に先に入って行った。俺はその後から入っていく。女性用下着の店に。
「恥ずかしいでしょう」
 入ったところで輪廻は振り返り俺の方に向かって言う。
 多分男がこんな場所に入ったら、恥ずかしいと思うと決めつけているのだろう。世間的には間違ってはいないだろうが、俺にとってはただ単に縁のない場所と思うくらいだ。
「で」
 俺はそれだけ言った。
 そうすると輪廻はブラジャーをいくつか持ってきた。
「どれがいいと思う?」
 色は黒、白、ピンク、水色の四色で、どれも単色のブラジャーだ。しかしカップが少し大きめな気もする。だが輪廻は良くいえば「スレンダー」、悪く言えば、
「貧乳」
「死にたいの?」
 間髪入れずに笑顔で言う。
 まあ見た目だけでよく分からずに、適当に言ってみただけなのだが、どうも図星だったようだ。「貧乳」が。
「でも貧乳と言われるほど小さくはないわよ」
 しかしすぐに気にしていないように、平然そうに言う。しかしこめかみが少し震えているのが分かる。
「俺は胸の大きさなんて物は気にしない。要は権力だ」
「あなたらしい決め方ね」
 何故か輪廻は落ち着いていた。表情が忙しい奴だ。
 それから俺を無視して、試着もせずに適当に下着をレジに持っていく。
 さっきと同じように、黒のクレジットカードに驚くという事もあったが、ここでの買い物は先ほどに比べてすぐに終わった。



「食事でもしましょう」
 時間は十一時を過ぎそうなところで、そろそろ飲食店も混むような時間帯だ。
「そうしようか」
 俺はその意見に頷いた。
 午前は輪廻の買い物だけで時間を使い終わった。







「どこで食べる?」
 私はここから近くにある場所ならどこでもいいと思っていた直後だった。
 爆発音がした。あまりにも大きな音で、音の先にはトラックが炎上していた。
「え?何これ?」
 あまりにもいきなりで驚いた。私はトラックの周辺に集まった野次馬に交じり、トラックを確認した。不幸にも近くを歩いていた人が何人か倒れており、酷いのは体の一部が吹き飛んでいる。野次馬は阿鼻叫喚な者や、どこかに電話している者、何を考えているのか写メまで取ってる奴までいる。
 野次馬の話を訊くと、トラック自体には誰にも乗っていなかったようで、いきなり爆発したそうだ。多分爆発物を仕掛けられていたのだろう。だが何故こんな場所でなのか?
 しかしテロの可能性もある、それ以外にも、
「伏せろ!」
 権一が後ろから飛びかかってきた。
 その直後私の近くにいた人が叫ぶ。状況が分からないが、沢山いた野次馬達が一気に散り始める。
「走れ!」
 私は言われるまま立ち上がり、権一の後ろを追いかけていく。しかしあまりに野次馬が多く集まっていたらしく、前がつっかえているようだ。
「こっちだ!」
 店と店の間の狭い通路に入り込み、ある程度行ったところで足を止めた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
 私は息を整えてる間に権一は拳銃を取り出す。
「はぁ、はぁ、ちょっと待ってよ、どういうことか説明してよ」
「お前はそっちの組で救援を呼べ!」
 状況は把握しきれてないが、緊急という事は分かる。私は指を鳴らすと護衛に来ていた二人が現れる。
「これで足りるかしら?」
「車を用意しろ」
「なんなのよもう、車は用意してあるわよね?」
「輪廻様こちらに」
 護衛を用意しておいてよかった。そして私は実感した。私は狙われていたということ、あの時何かが私に向かって来ていて、権一がいなければ私が負傷していたのだろう。そしてマフィアとの戦いが始まっているという事を。それを想うと私は今更体が震えあがる。怖い。今まで私は護られて育ってきたようなもので、いきなり狙われるような事は無かったのだ。
「……案内して」
 私は冷静を取り戻し二人に言う。
 二人は銃を取り出し、私と権一の前後を挟み走って移動する。爆発の後とはいえ、銃なんかを持っていると人目を惹いたり、逃げ出す者もいる。しかし今はそんな事を気にしている暇はなく、ただ走るだけだ。
 私たちは車に乗り込み発進する。
「お前ら気付かなかったのか?」
「申し訳ありません」
 乗ってそうそう護衛の二人に権一が説教をしている。
「はぁ、はぁ、まだあまり理解出来てないのだけど、説明お願いできる?」
「お前はスナイパーに狙われていたんだよ」
「スナイパー? じゃああの爆発もそうなの?」
「そうだろうな、あの爆発で注意を向けて、狙ったのだろう。それで且つ足も止めることも出来た。動くものより動かないものの方が当たりやすいしな」
「そういうこと、でもよく気付いたわね」
 そうだ、あの状況でよく気付けたものだ。
「確かにあの爆発に目がいくが、あまりにも不自然だ。それに俺達を狙っているという可能性は外せないからだ。でも伏せたのは実は勘なんだがな」
 勘って……、あの何でもないような状況だったらどうするのだろうか、まあ普通に立ち上がって何も無かったかのようにするでしょう。
「しかし狙撃主は確認する暇は無かったのは失態だったな、お前らはどうだ?」
「そちらも申し訳ありませんが」
 護衛の一人が運転しながら答える。
「ですがこれからどこに向かいますか?」
「俺の組の方に向かってくれ、そっちの組長も呼んでおく」
「はい」
 そういうと、権一は携帯を取り出し電話を掛けた。
 それにしても私はとても情けない。何も出来なかったのだ。権一がいなければ死んでいたし、もし一発目が当たらなくても、二発目が撃ち込まれていただろう。本当に、今まで自分を過大評価していたのだろう。それを思い知った。目頭が熱くなり涙が零れそうになる。
「泣くな」
 いつの間にか通話を終えていた権一が私の頭を撫でていた。
「泣いてないわよ」
「強がるな、所詮弱かったってだけの話だ」
「うっさいわね、あんたなんかに慰められたくないわよ」
 でも私は弱かった。こんな奴と思っていた奴よりもとても測れないくらいの差で、こいつがあまりにも頼もしいと、思ってしまった。
「……馬鹿だな私……どうしようにもないくらい馬鹿だ」
「馬鹿は馬鹿なりに出来る事があるだろう」
 つい思っていたことが声に出てしまっていた。それも誰にも言ったことのないような弱音を吐いてしまっていた。弱音か、小さい頃に吐いた気もするけど、それ以外は無かったな。ずっとちゃんとやってきたんだ。それでも所詮私のやってきた事は簡単な事ばっかりだったのだろう。
「臭いセリフ吐くんじゃないわよ」
 私は出かけていた涙を拭い権一の方を向いた。
「…………」
「ばーか」





 この席に集まったのは五人だ。
 俺、輪廻、親父、輪廻の親父、そして、
「何故お前がいるんだ」
「金になりそうだからさ」
 気に食わない。何故此処にこんな奴がいるのか。
 園芝組若頭 獅戸兇鑢、俺と同じ立ち位置にいるやつだ。こいつはやたら金に執着心があり、武器の取り引きを主にしており、海外の戦争時の武器の取り引きには必ず名前が有る。そしてこんな状況でも金にしようとする。だが親父が呼んだらしい。明らかに何かをしようとしているような奴を。
「つまり奴等は本気という事だな」
「そのようだな」
 俺は親父に相槌を打つ。粗方の事は車の中で説明しておいた。
「あとお前が見失った狙撃主なら見つかった。だが、身体中に爆薬を仕込んでおって自滅しやがった。始めから捕まる事を想定していて、捕まっても喋らない様にしていたんだろう。自滅を図るまでの忠誠心は中々だが、そのお陰でこっちもその爆発で負傷した者がでた。軽傷という事だが休養を取って貰った。こいつ等の話では狙撃主は顔を包帯で巻いており、顔すらも晒しておらず、国籍等の手掛りにすら成りそうではない。それと回収した銃は口径十二mmのライフル銃で、銃その物は調べてはみたが該当する物が無かった。恐らくオリジナルという可能性もある。入手経路は不明だ」
 親父は俺が来る間にここまで掴んでいたのだ。これが園芝組十八代目組長である、宮左御極陽の凄さの一つだ。しかし何故兇鑢を呼んだのか分かる。武器の取引となれば専門の分野だからだ。
「兇鑢」
「経路を探ったが、このモデルに一致するものは無かったぜ。恐らく国内製造の一品物だろうな。国外からの輸入なら何かしら確実に情報が残る。大量生産というのも同じくだ」
「そうか」
 親父は兇鑢から目を背け白夜の方に目を向ける。
「私の方では全くです。それに極陽さん以上に情報を集められませんよ。後どうせ一緒に西側からの入手経路も洗ってるのでしょう」
 それにしてもこの白夜というのは話し方に拍子抜けする。あまりに緊張感のないように見える。娘が狙われたというのにこの状態だ。だが、昔からこんな人だというのを知っているし、俺が生まれる前の話も親父から聞いている。
「白夜さんといえども西ですからもちろん調べさせてもらいましたとも」
 そう兇鑢が言う。当たり前の事だった。交友を築こうとはしているものの、まだ敵対関係にあるからで、信頼し切る事も出来ない。まだそれだけの関係という事だ。
 その後も話合ったが、輪廻はその間一言も話す事はなかった。

 話し合いも終わり俺はここにいる理由は無くなったので帰る事にしようと思ったが、輪廻は白夜と話をしていた。極陽も兇鑢と何処かに行ってしまっていたので、俺は輪廻を待つことにした。
 輪廻と白夜は俺の近くで座って話しており、俺にもその会話が聞こえる。その内容はやはり親なのか、白夜は輪廻の状態を心配していた。相変わらず緊張感の無さそうな話し方だったが、しっかり心配はしていたようだ。
「権一君今回は本当に有難う。君のお陰で娘は無事に助かったよ」
「…………」
 俺は何も言わない。俺自身もこの男をあまり信頼していない。こういう男ほど何を仕出かすか分からないが、あくまでそれはフィクションの中だけの話だ。しかし俺はそれ抜きでこの男を良く思っていない。簡単に言うと生.理的に受け付けないというものだろう。
「話は終わったなら行くぞ」


 俺は先に部屋を出た。その後に輪廻は白夜に一言言って着いてきた。

「お腹減った」
 この女はさっきの席では黙っていたと思ったが、車に乗り込んで来て口を開いた早々これか。そしてさっきまでの暗い顔では無く普段の人を見下す様な顔をしていた。暗いままでははりあいがなかったが、これはこれで少しいらつく。むしろ普段より増してだ。だが俺も食事を取りたいと思ったのは同じで、あの後すぐに此処まで来たのだ。そして時間は午後五時を回っており、もう晩飯のような時間帯だ。これならば此処で食べて行こうとも思ったが、親父の事なので他人を持て成す様な事をしないだろう。
「それではどこかに寄って行きましょうか?」
「そうして頂戴」
「畏まりました」
 そういうと護衛の男は車を発進させた。
「あ、服忘れた……」
 今更気づいたようだ。恐らく狙撃されて走った時にでも忘れたのだろう。俺も一々そんなことを気にしてられなかったので、あくまで可能性だが、あの時既に手には握って無かった気がするが、無くなってしまえばどこで忘れようが関係なかった。
「最悪、また買いなおさなくちゃ」
 また付き合わされるのだろう予感がしたので先手を打っておく。
「すまないが、一緒に衣食住が揃う所に寄ってくれないか?この時間ならまだ大丈夫だろう」
 護衛はミラーで輪廻の顔を見据えた。輪廻は縦に顔を振り、護衛も頷いた。
「それでは大型のホームセンターでもよりましょう」
「そうしてくれ」
 これで後は二人別々に行動出来るだろう。
 俺達はまだこのだけは夜は共に行動を続ける。

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