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一章


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 俺はこの時をどれだけ楽しみにしていたか。
 あのあと俺は事情を聞かされた。西と東が提携を組むのだという。
 俺らの組は東を仕切っているのだが、最近西の方で朝鮮系マフィアが活発に動いているらしい。
 まだ猶予はあるかも知れないが、いつこちらに攻め込んできてもおかしくない状況だという。

 そこで統制を図る為に提携を組む、俺たちはその証明に使われるのだと。
 もちろん、西の勢力は落ちているため攻め込んで無理やりシマを貰っていくこともたやすいだろうが、それではうちの印象が悪くなると思い、平和的に結婚という形で収まったようだ。

 今日は別に式を挙げるわけではない。
 いきなり挙げる訳ではないあたり、親父に考えがあるのかもしれない。
 もちろん婚姻届も出さない。
 親父が言うには式を挙げてから、或いは俺が良いと言ったら出すと言った。
 まだ俺にも猶予はあるらしい。
 あの女は絶対何かを「奪い」に来る。
 俺はその前にあの女を壊さなければならない。
 結婚を破棄させるためにどんな手段を使ってもだ。
「絶対に壊してやる」
 俺は親父に聞こえないような声で囁いた。







「うふふ……」
 ついにこの時がやってきた。
 あのあとお父様は私に事情を話してくれた。
 私の思っていた通り政略結婚だった。
 あの頃私たちの西のシマを朝鮮系のマフィアが荒らすという事があった。
 初めはただの暴漢だとでも思ったらしいのだが、どうも後にマフィアが絡んでいることが分かり、それからどんどん勢力を伸ばしていき、とれもでもないが厄介な存在になってきた。

 そこで、東との提携を組むのだという。
 私たちはその証明として使われると理解できた。
 これが一番の最善の方法だった、今の状況では東が攻め込んできたらすぐにでも潰れただろう。
 東も私たち西に攻め込んでは後々面倒だということで、結婚で承諾してくれたらしい。

 今日は顔をもう一度会わせるのだという。
 今日いきなり式を挙げる訳ではなく、婚姻届も出さない。
 これは東側の意向らしい。
 さすがにそれでは私も納得しなければいけなかった。
 だがこの結婚は私にとっては確実に好機だ。
 しかしあの男は何かを「壊し」に来る。
 私はその前にあの男を奪わなければならない。
 結婚を成功させるためにどんな手段を使ってもだ。
「絶対に奪ってやる」
 私は誰もいない部屋の中でひっそりと呟いた。







 着いた場所は、一般住宅街の一軒だった。
 中流家庭が住んでいると思われるくらいの敷地面積で、車が二台止めれるくらいの庭があり、家自体は三階建て、極々普通の家だ。
 だが、表札はついてはいないところをみると、つまりは空き家ということだろう。
「入ってください」
 玄関の戸が開き中からメガネをかけたひょろめの男性が出てきた、あの女の親父だ。
「入れ」
 親父はそう言い、俺の背中を押した。
 内装は西洋風だったが、インテリアなどは一切見られなく、殺伐としていた。
 家具や電気器具も一切なく、新築の家であると理解した。
 明かりは裸電球が数個あるくらいで少し暗い。
 時計もなかったが、時間としては日が暮れそうな時間帯だろう。
「そちらにおかけください」
 あの女の親父は、小さな椅子二脚持ってきた。
「では娘呼んできます」
 いよいよだ、あの女を壊す時がやってきた。
 だが、簡単には壊せないだろうな。
 だから、いたぶってから壊してやる。
 そう思いながらあの女を待った。







 暗い部屋、私はこの家に連れてこられ、この部屋で待っているようにお父様に言われた。
 ベットと机、それと椅子が一脚あるだけの部屋だった。
 私は仰向けになり今後の事を考えていた。
 まずこんな場所に連れてこられた理由だ。
 見たところ新築で、誰かの目を欺くには向いていない。
 むしろ違和感しかない。
 会うだけであればシマのどこかですれば良いはずだからだ。
 確実に何か別の事が行われるのだろう。
 だけど私はその理由にたどり着くことが出来なかった。
 まあ、そんなことはすぐに解かるだろう。
 そんなことよりだ、あの男をどう奪うかを優先しなければならない。
 簡単には奪えないだろう、下手に動くと確実に失敗するのは目に見えている。
 じゃあどうするか。
 私はそのことだけを考えているときだった。
「御着きになりました、来てください」
 私は体を起こし、お父様のいる扉まで向かった。
 何としても奪ってやる。
 そう思いながらあの男の許へ向かった。







 『瀬戸組十六代目組長 潺 白夜』、あの女の親父の名だ。
 見た目は確かにひょろいが、頭は相当切れるらしい。
 もちろんあの女も血を引いているだろう。
 あの女、いや『瀬戸組若頭 潺 輪廻』は、年は俺と同じくらいかそれ以上だろうか、しかし見た目では分からないのが最近の人間の成長だ。
 輪廻はやってくるとすぐに俺の目を見据えた。
 あの時と変わらず、鋭い目で俺を見据え、赤く長い髪を靡かせる。
「今日は何でこんな所にやってきたか分かるな」
 親父が口を開く。
 もちろん分かっているつもりだ。
 ここは新築の家で、家具等も一切なく、誰かが住んでいるような形跡もない。
 何かを行うのであれば、こんな場所は選ばないだろう。
 新築が必要で、俺の今の状況だ。
「一緒に暮せと言うんだろう」
「そうだ、いきなり結婚しろとは言わないが、それなりの事はしてもらう。何故だか分かるな」
 俺は頷いたが、輪廻は違った。
 どちらかというと驚いている感じだで、俺と同じで聞かされていなかったが、この展開を予想していなかったのだろう。
 ある意味好機なのかもしれない。俺よりも何かが欠けているのだろう。
「察しがよくて助かるよ、さすが園芝組若頭 宮左御 権一君だ」
 俺の名が呼ばれる、『園芝組十八代目組長 宮左御 極陽』の息子、それが俺だ。
 権一、権利を持つ一番の存在になれという意味でつけられた。
 俺はその名に恥じないように、今まで行動は行ってきた。今では若頭の一人だ。
 自分より年上や、面の悪い奴も顎一つで使える。後には、組を預かる存在になるだろう。
 人生の中で一番の転機だろう、俺は失敗は許されない







 予想外だった、まさか同棲しろというとは全く予想すらしていなかった。
 いや、予想できただろう。しかし奪うことだけ考えていて頭が回らなかった。
 今のあの男、権一はどうだ。余裕の笑みを浮かべているではないか。
 くそ、私の方が劣っていたのか。まあいい、こんな展開も悪くないだろう。
 結果がすべてだ、結果さえ出せばいい。
 それにしてもだ、権一は私の知っている外見ではなかった。
 身長は私より少し低めだがそれでも百八十はある。体つきもいい。顔も年相応といったところか。
 面白い、この好機を絶対ものにしてやる。
「息子だ」
「よろしく」
 権一は手を差し出してきた。笑ってはいたが、明らかに含み笑いで、末恐ろしい。
 これでも私と一才しか違わないという。一才の差なんて無いに等しい。
 確実に長けている方が勝つ、私はそう察した。
「ええ、よろしく」
 私は差し出された手を握る。冷え切った手、これは私も同じ、同じ様な存在なのだろう。
「これからどうするか言う、一度だけだ」
 私は生唾を飲んだ。こればかりは、権一も息を潜めていた。
 一言一言を逃さずに聞かなければ、その時点で負けだ。聞き逃しは許されない
「二人に此処で住んでもらう、以上だ」
 たったそれだけだった。もちろん権一も拍子抜けしていた。しかしそれでも他に何かあるはずだ。或いは試されているのかもしれない。
「質問は宜しいですか?」
「いいだろう」
「目的は私たちの結婚のはずですが、それでは意味のないはずでは?」
 そう、結婚しなければ目的は達成されない。いくら同棲したとしても、全く証明にならない。
「いいだろう、お前は結婚しなければならないと思っているようだが、いきなり結婚して何かあった時は困る。お前らの喧嘩とかだ。結婚すれば簡単だろう。しかし法律というものは避けられない部分もある。その辺りの考慮だ。お前たちには恋愛、いや、恋愛ごっこでもしてもらおうか。他人にそう見せ、その証明をすませて愛とでも作ってもらおうか」
「はっきり言うな、親父。つまり恋でも何でもしろって事か」
「そういうことだ」
 好機だ、既成事実さえ作ってしまえば私の勝ちだ。法律を律儀に守るとは思わなかった。確実にもし何かあったとしても警察内部にもパイプはあるだろう。
 しかし、権一にも考えはあるだろう。出方でも見るとしようか。






「俺はもういくぞ、後は好きにしろ」
「ちょっと待てよ、他にすることがあるんじゃないか」
 俺は親父を呼び止めたが、親父はその足を止めずに出て行き、その後に続き輪廻の親父も出て行った。
「ねえ」
 どういうことか理解できずにいる俺に輪廻は声をかけてきた。
「どういうこと?あんたは何か言われてないの?」
 輪廻は分かっていて聞いているだろうが、多分確認のためだ。しかしここで嘘を言っても何も意味はないだろう。
「お前もか、一体どうしろって言うんだ。まあいい俺の部屋はどこだ?」
「そんな事知らないわよ。あと私の部屋は2階の一番手前だから」
「そうか」
 俺はそう言い残し、2階へと上がろうとした。
「ねえ、あんたは私の事どう思ってる?」
「お前こそ俺をどう思っている」
 俺は振り返らずに質問を返した。質問を質問で返すのは礼儀がないがこんな奴だ、罰はあたるまい。
「ま、そんな簡単に教えてくれるとは思ってなかったけどね。じゃあこうしない、子供っぽいけどせーのでいうっていうのはどう?」
「子供っぽいがいいだろう」
 先に言ってしまっては、自分に弱気があるのを悟られてしまう。それを避けるにはこうするべきだ。だがこれで確実に輪廻が言うという補償はないが、かける価値はある。
「じゃあせーの」
「奪われる」「壊される」
 驚愕した。向こうも同じ事を考えていたのか。何故俺が壊そうとしていたことを知っている。同じような存在なのか? それだとしたら確実に面倒だ。だが、輪廻も同じ考えをしているかもしれない。
 いや、面白い。待ちわびた事だけある。神がいるとすれば廻り合わせたのだろうかと、思うくらいだ。
 そして面白い考えを思いついた。
 そして輪廻の方を向く。
「ゲームをしよう」
 輪廻は何を言っているのか、分からないような状態だ。さすがに無理もない、いきなり俺はゲームとか言い出したんだからな。
「ゲーム?」
「そう、ゲームだ。お前は俺を奪おうとしている。俺はお前を壊そうとしている。利害関係で言えば、俺が得をするか、お前が得をするかの二つに一つだ。俺としても面倒なのは避けたい。そこでだ、平和的にゲームをしよう」
「で、何のゲームをするの? 簡単に一瞬に決まるのだと面白くないわよ」
「ああもちろんだ。それに親父の言った事を考慮する」
「何、恋愛ごっこでもするとでもいうの、馬鹿馬鹿しい。私は恋だの愛だのそんなものは必要ないわ。欲しいものはあんたらの権力だけよ」
「本音をズバッと言うな。まあ俺はそれを阻止するために、壊したいわけだがな。とりあえず話は最後まで聞け。ルールは俺がお前を好きになったらお前の勝ち、俺がお前を嫌いのままなら俺の勝ち。簡単だろ?」
「確かに簡単ね、でもそれじゃあ私のがリスクがあるんじゃない? もし私が色仕掛けをしても、あんたは私の事を嫌いなままでいる自信があるからこそその提案を出した、違う?」
「もちろん合っているさ。じゃあこうしよう。法律では婚姻届が受理されれば夫婦になるのが決まりだ。そこでだ、お前は無理やりでも婚姻届を出せれたらお前の勝ちだ。もちろんこれにもルールを付ける。名前はお前が書いてもいい、だが、印鑑は俺の指紋だ。印鑑なんてもんは面白くない。まだルールはある」
「ルールがやたら多いわね」
「ある意味日本の全面戦争だからな。ルール、俺とお前は直接的に触れてはいけない」
「つまり、私が無理やり奪うのは不可能ってことね。じゃあこういうことかしら」
 輪廻が指を鳴らすと中に大男が二人入ってきた。
「お父様に内緒で尾行してもらったのよ。もし何かあったとき、例えば今みたいなね。ルールに問題はないでしょ」
「ああ、全くないな」
 俺は頷いた。そして懐に構えていた銃の引き金を引く。
「なっ!」
 輪廻が気づいた時には遅かった。すでに二人とも両腕とも撃たれていた。
「ルール、第三者には一切縛る事はしないが、手を加える事は許可。お前が今みたいに指示して行うのは全く問題ない。あと俺がこんな事を想定していないと思ったか? 今回は見逃してやる。帰れ」
 そういうと、腕を押えて逃げて行った。
「銃なんて持っていていいの、それ以前にそれで私を殺せば良かったじゃない」
「それじゃあ面白くない。何年待っていたと思うんだ」
「他にまだルールはあるの?」
「ルール、夜十時から朝七時までは第三者も接触も許されない」
「それは私たちが指示した場合ってこと?」
「そうなるな、ただし偶発的な事はこれを問わない」
「偶然ねー。絶対何か仕掛けるでしょ? ていうか何でそんな時間いるの?」
「寝させろ」
「あ、寝るんだ」
「俺をなんだと思っている」
「無機物」
 無機物はないな。俺は人間で寝る。睡眠は必要だ。そのための確保は必要となる。そのためのルールで、向こうにも意味はあるだろう。神経をずっと張り巡らせるのはさすがにきつい。
「まあいい、これで最後だ。お前も分かっているだろうが、確実に俺たちを狙ってくる輩がいるだろう。その時はそいつらを先に処分する」
 これは確実だ。俺たちの結婚をよく思わない組もいれば、件のマフィアも手を出してくるだろう。そんなことで命を落とす気はさらさらない。それなら輪廻にやられた方が幾分ましだ」
「私が死んだら楽しめないって事かしら、まあそれは私にとっては嬉しい限りよ」
「以上だ」
 俺は最後にそう言い残し二階へ向かった







 権一は二階に上がったが、私はどうしようか。
 そもそも、此処は何処なのだろうか? いきなり連れてこられたので、場所は全く聞いてない。もちろん住むなんて思っていなかったからだ。
 それなら近場を回ってみようか。さすがに場所は分かるだろうし、運が良ければ店などの場所も分かる。さすがに住むとなったらそれなりに必要だ。
 しかし、この間に権一が何か仕掛けてこないとも限らない。一か八かで誘ってみようか?いや、聞くまでもなく無理だろう。仕掛けてこなくとも、私といること自体疎ましそうだからな。
 それではどうしようか。食料だけは絶対確保しなければならない。例えば、団員に頼んだらすぐにでも持ってきてくれるだろうが、権一が勘違いして、発砲するかもしれない。
 策がないな。とりあえず一か八かで誘ってみるとしよう。
 私は二階へと足を運んだ。
 二階には四部屋あり、廊下は少し幅が広い。一番手前が私が一番最初にいた部屋なので、私の部屋とは言ってみたが、特に何もない。たぶんどの部屋もベッドと机と椅子くらいはあるとは思うけど、もしかして私の部屋だけかな。それならば、お父様に少しの感謝を。
 とりあえず、一番手前は私の部屋で、扉は閉まっている。そして、一番奥の部屋は大きく開いていた。権一は多分あの部屋にしたのだろう。
 私は一番奥の部屋を覗くと案の定権一はいた。いなかったら別の部屋を探せばいいだけだけど。
 それにしても無防備に寝ているではないか。寝たふりっていうのも考えられるので、とりあえず扉越しに声をかけてみた。
「起きてるわよね。買い物に付き合いなさい」
「いいぞ」
 案外あっさり来てくれるようだ。もしかして権一も食事でもするのか?
「今俺が食事しねえとでも思っただろ」
 御名答だ。読心術でも出来るのだろうか。私は読唇術ならできるが、さすがに読心術は出来ない。
「ただ単にそう思っただけだ。お前は俺の事を機械だとでも思っているのか?」
「それはないわよ。機械の方が愛想はいいもの」
 ちょっと嫌味を言ってみたが、少し新鮮な気がした。
 私は男とはよく喋る。といっても、年の離れた団員がほとんどだ。同年齢近くの男とは喋る機会もなかった。
 こんな奴でも、多少は人間味はあるのだろう。
「行くなら行くぞ。他に買うものもあるしな」
「分かってるわよ。ところであんた此処の住所とか分かったりしないわよね」
 現在位置くらいは、今のうちに知っておかなくてはいけない。此処から組本部までの距離の算出に必要だからだ。しかし、知っていたとしても権一は教えてくれるだろうか?普通は教えないだろう。聞いておきながら不安だ。
「分かるぞ。その紙見てみろ」
 権一はポケットから、折りたたまれた封筒を取り出し私に差し出した。
「住所から郵便番号、地図まで入ってるけど、これ何処にあったの?」
「机の上に普通に置いてあった。多分俺がお前と距離を置くとでも思って置いたんじゃないか」
「何で私の方にはないのよ」
「そんなこと俺が知るか」
 私の方は無く、権一にはあった。置いたとしたら私のお父様だろうが、普通は私にも渡して置いてくれてもいいんじゃないだろうか。とりあえずこの事は本人がいないと分からないので、まずは紙に書いてある住所を携帯でメモを取ろう。
「いちいち携帯でメモ取らなくても、お前にやるぞ」
「え、いいの?」
「もう覚えたからな、それはお前が好きにしたらいい」
 記憶力に随分自信があるのだろう。私は有り難く紙を封筒にしまってポケットに仕舞った。
「もういいだろう。いくぞ」
「分かったわよ」
 私たちは一階に行く途中だった。
 クラシックのメロディが流れた。たしか「エリーゼのために」という曲だったと思う。流れていたのは権一の携帯で、すぐに通話ボタンを押していた。
 権一はそのまま相手側の声を聞いているだけなのだろうか、何も言わずにただ単に携帯を耳に当てているだけにしか見えなかった。私は気になって耳を傾けたが、よく聞こえなかった。
 だがすぐに携帯をしまった。
「用事が出来た」
 ただその一言だけ告げると、権一はそそくさと外に出た。
 いったい何なのだろうか。
 帰ってきたら聞けばいいだけだが、さすがに気になったので私もすぐに外に向かったが、影一つなく、車が走り去って行った。
 車の迎えでも来ていたのだろうか? 来るにしては早い。権一も何かあった時に用意していたのだろう。
 しかし、急いで向かったところを見ると、面倒な事でも起こったのか。だが私には関係ないのだろう。
 私は今しなければならないことがある。食料調達等を済ませよう。
「そういえば、鍵はどうしようか。」
 来たときはお父様が鍵を開けてくれたが、その鍵は見当たらない。
 と思っていたら、玄関に普通に置いてあった。わざとそこに置いたのか、渡すのを忘れていたのかどっちなのだろうか。
 まあそんなことはどうでもいいか。
 私はそのまま鍵を閉めて、外に出た。







 電話の相手は親父だった。
「すぐに来い。例のマフィアから手紙が届いた。いや、正確には投函されていた。拒否はない、車は家の前に用意している」
 それだけだった。
 が、親父から直接かかってくると言う事は、急を要するということだ。
 俺は輪廻に一言だけ告げ、車がある玄関前に向かった。
 用意された車は見た目は普通の車と変わらないが、ガラス等は防弾使用になっている特注品だ。まあ今説明しても意味はないな。
 俺は車の中に入ると、うちの団員が三人乗っていた。
「若頭、急ぎますぜ」
「ああ、出してくれ」
 BGMもならない車内は、とても重苦しい雰囲気で、俺ですらヒヤッとする。
「三時間くらいでつくと思うんで、それまで寝ていてもらって結構ですよ」
「すまない、そうさせてもらう」
 俺は車内で仮眠を取ることにした。



「若頭が御着きになりました」
「入れ」
 俺は戸を開けた。
「そこに座れ」
 親父はそう言うと懐から一通の封筒を取り出した。
「これが例の手紙だ、だがこの封筒をみて分かることがあるだろう」
 俺は封筒を手に取り確認した。封筒には住所や郵便番号、切手さえない。つまり郵便に出したわけではないということだ。
「直接郵便受けに入れられた」
「そういうことだ。知っての通りこの場所を知っているのは極僅かで、内部にスパイがいることも否めない。組内全員の裏を取っている」
「俺は信頼されているいうことか」
「ぬかせ、息子だろうが裏は取る」
「容赦ないな。だが確実に内部にいるということか。だが西の方はどうなんだ?」
 西にも俺らの結婚を知ってい奴は少なからずいるだろう。こちら側にいないとしても西にいないとは限らない。
「西は瀬戸組に任せてある」
「そうか、それならいいが。まあそろそろ本題に入った方がいいと思うが? こんな急に呼び出すんだからな」
「封筒には手紙と花が入っている」
「花?」
 俺はそういうと封筒に手をかけ、逆さにして取り出すと、確かに手紙と花が入っていた。
「その花は梔子(くちなし)というらしい。花言葉は「私は幸せ者」だとか言ってたな」
「「私は幸せ者」か、何かいい情報でもつかんだということか」
「それは知らん。手紙には婚約の取り消しをしなければ、双方の子を末梢すると書いてある」
「向こうにとってこの事態は脅威ということか、じゃあ早く結婚してしまった方がいいと思うんだが」
「お前は本当にそう思っているのか?」
 親父の顔が荒む。
「そんなはずないだろう。親父のことだ、俺の結婚はもっと金になる使い方をするだろう。それにすぐに結婚させないのは結婚させないためだ。必ず向こうは失敗を犯す。そこを叩こうというのだろう」
「息子にしては良くできた答えだ。だがお前は絶対に失敗を犯すな。組全員の問題だということを忘れるな」
 もちろんだ、そもそも俺は今まで輪廻を壊すことだけを考えてきた。絶対に失敗はしない。
 そして手紙の方だ。手紙の内容は親父の言ったとおり、「婚姻の取り消しをしなければ双方の子を末梢する」とだけ書いており、下方の端に小さく朝鮮第四連合と書かれている。もちろんワープロ打ちで、筆跡鑑定なんてものもできない。そして朝鮮第四連合というのが例のマフィアの名だ。何故第四なのかは掴めてはいないが、第一から第三もあると少なからず勢力の見通しを考えるべきだろう。
 だが事実、これが例のマフィアが出したとは確証は出来ない。ただの反対派が攪乱させる為に出したと考えてもいいだろう。
「それにしても手紙の内容はたった一行だけというのにも意味があるのか?」
「恐らく下手に文章を長くしたら逆にボロを出すとでも考えたのだろう。即ちこの文こそが誘導させる為の嘘で、本当は別の事が目的なのかもしれないな。しかしこれも嘘ではなく同時に行われる可能性の方が高い」
「面白い事をしてくれるじゃないか。どこのどいつか知らないが」
 俺は微笑をした。
「もういい、帰っていいぞ」
 親父はそう言いながら腰を上げた。
「このくらいの事なら電話で話せば良かったんじゃないか?」
「輪廻という女に聞かれては困るだろう。それに俺がまだ子離れできないとでも言ったら信じるか?」
「無理だな、じゃあ行かせてもらうよ」
 俺は立ち上がり一度自分の部屋に戻った。
 少しの間此処ともお別れだ。机の上に置いてある腕時計を付け、玄関まで向かう。
「またせてすまなかったな」
「いえ、若頭のためならいくらでも待てますぜ」
「その言葉嬉しいな。じゃあ戻るぞ」
 ふと少し気付いたことがあった。多分輪廻の事だ、まだ出来ていないだろう。だが今から俺がするにも時間が時間で、開いているかも分からないが、
「少し寄って欲しい所がある」
 そう告げた。



 輪廻は今頃何をしているのだろうか?







 権一は行ってしまったが、まあいいか。
 どうせ来ないことを想定してたわけだけど、現在位置が掴めたのは良かった。
 場所は滋賀県の長浜という町で、琵琶湖がすぐ近くにある町だった。正確には公園町。地図にはご丁寧に店やコンビニの場所が記されていた。近くに、駅もありたぶん不便はないだろう。なかなかいい場所を用意してくれたと思う。
 とりあえず今日は食糧さえあればあ大丈夫だろう。まずはコンビニだけ行って、戻ってくるとしよう。
 地図を見たところ片道10分というところか、そんなには遠くはない。その後にこのあたりを見て回っても、健一が戻ってくるまで時間的にはだいぶ余裕がだろう。


「いらっしゃいませー」
 間延びした声が店内に響き渡り、私を迎えた。
 私は買い物かごを手に取り、店内を見て回る。広さとしては普通にあるようなコンビニで、別に特別大きかったり、小さかったりしない広さだ。
 量は明日の分まででいいだろう。明日何かあってもまた来ればいいだけの事だし。
 それにしても色んな種類の食べ物がある。最近のコンビニというのは、品揃えがいいとは聞いていたが、これほどまでにいいとは思わなかった。それにこんな場所に来たのは久しぶりな気がする。最後に来たのはいつだったか、長時間の移動中にお腹が空いて、その時にちょこっと寄ったくらいだったか。その時は弁当や菓子パン、お菓子に飲み物といったものが多かったが、今は文具や日用品、下着まであるじゃないか。さすがに下着をこんなところで買うのは気が引けるが……。
 とりあえずさっさと買ってしまおうと思うが、これだけあるとさすがに迷ってしまう。一応権一の分も買っておこうとは思うのだが、何を食べるか分からない。まあ金はあるから適当に見繕うか。
 私は適当に菓子パンや弁当を買い物かごの中に入れ、飲み物の場所に向かう。ここもたくさんの種類がある。牛乳やコーヒーなら権一でも飲めるだろうと思い、一リットルの紙パックを両方とも一本ずつ買い物かごにいれ、清涼飲料水も何本か買うとしよう。そこで私は手が止まった。期間限定と大きく書かれたポップの下にはメロンオレというのが置いてあった。私はメロンが好きである。なので買い物かごに入れる。
 あと紙コップを忘れるところだった。これは日用品の場所にあった。あとそこでゴミ袋やティッシュも買っておく。
 こんなところでいいだろう。私はレジに向かい会計を済ませると、そのまま家に戻った。


 私は自分の部屋に入り、買い物袋を机の上に下ろした。
「ふぅ、重かった」
 さすがにこれだけ買うと結構腕にくる。やはり権一の手は欲しかった。
 帰ってくるとさすがにあたりは真っ暗になり、外は静かになる。
「急ぐこともないし、見て回るのは明日になってからでいいか」
 私はそう思ったが、よく考えたらゲーム期限を決めていない。その事は帰って来てから聞くとしよう。
 それにしても暑い、そろそろ夏に入るような時期で、クーラーでもないとやってられない。お父様には体に悪いと言われるが、それでも暑いものは暑いから仕方がない。
 近くに電気屋さんでもあったかなー。もうなんていうか、ギンギンに冷え切った部屋で寛ぎたい。
 私は基本的には怠け癖がある。普段は若頭として職務をこなすが、それが終わると適当になる。もちろんこの事態の事を考えたりもしたが、夏は考える気が乏しくなってしまう。
 私は清涼飲料水を適当に取り、一口飲む。まだ買ったばっかりなので冷たいが、まだ冷蔵庫もないので、このまま温もる一方だろう。どうしようかと思っても、どうしようにもない。ほおっておくとしよう。
 さて、権一が帰ってくるまでどうしようか。
 まだ寝るには早い時間だ。それにルールでは夜の十時以降ではないと安全は保障されにくい。今だって私を狙い誰かが待機しているかもしれない。
 だがすることもない。
「はぁー、どうようかな」
 コンビニで雑誌でも買っておけば良かったかもしれないが、いちいち今から行くのは面倒だ。
 とりあえず食事でもしようか。
 私は弁当と期間限定のメロンオレを袋から取り出す。弁当はとんかつ弁当と書かれており、ありふれた定番の弁当だ。だが、作られてから時間がたっているため、温かくはない。コンビニで温めてもらったらよかった。そしてメロンオレのパックについているストローを取り、パックを開けてストローをさし、口をつける。
「……まずい」
 飲めなくはないが、おいしくはない。よく見たらパックに果汁1%未満と書かれていた。今度からよく確認しようね、私。だが買ってしまったものはしょうがないので、しぶしぶそのまま飲む。
 とんかつ弁当は冷めはしていたが、まずいということはなく、多少は美味しかった。さすが定番の美味さ。
 食べ終わるとゴミ袋を一袋取り出し、その中にゴミを入れた。一応言っておくと今回は分別をしなくてもいいが、基本的に私は分別もしない。



「眠い……」
 食事が済むとさすがに眠い。

 腕時計を見るとまだ九時で、まだルール的に危ない時間だったが、私はベッドに寝転がり、瞼を閉じた。







 午前一時。いつの間にか日付が変わってしまっていた。
 カーナビにぼんやりと時刻が指していた。腕時計の時間も間違ってはいない。
「若頭よかったですね、こんな時間に開けてもらえるなんて」
「そうだな」
 普通ならこんな時間に商売をしてくれるところなんて無いだろう。だが運の良い事に、組のシマの中に開けてくくれる店があった。
「着きましたぜ」
 そこは小さな電気屋で、個人経営の店だった。
「若頭、ようこそいらっしゃいました」
 店の主人らしき人物が迎えてくれた。背丈は百六十に満たない程度で、皺も多く老人に近い風貌だ。
 だが今はそんなことはどうでもいい。
「用意してくれたか?」
「もちろんですとも、こちらに用意させていただきました」
 その主人が指す方向には、こちらが用意したトラックがあり、その中にあるのだろう。
 今回買いに来たのは、電気製品だ。さすがに昨日の今日で輪廻が買っているとは思えないし、今買っておかなければ付き合わされる気がする。
 トラックは近くにある引っ越し業者に借りた。人脈というものは持っておくものだ。
「確認しろ」
 俺は三人のうちの一人に言った。そいつはトラックの中を確認しに行った。
「さすがに確認は必要ないと思ったが一応な。これが代金だ」
 俺は小切手に適当な金額を書く。適当ではあるが、零が一個ほど多いくらいの破格のはずだ。
「ありがとうございました!」
 主人はさぞ嬉しそうな顔をしていた。最近経営が悪化していたらしく、普段の収入も減っていたからだろう。
「行くぞ、お前らはトラックを頼んだ」
「はい、若頭」
「へい」
 二人にはトラックの方を運転してもらい、一人には先ほどと同じく車を運転してもらう。
 トラックは普通のトラックで、防弾加工なんて一切されているはずもなく、何かあった時に二人じゃないと危険で、例のマフィアが今俺たちをつけているかも知れないからだ。
 実に面倒だが、こいつらがいなければこの転機を迎えなかったはずだ。ある意味感謝をしなければ。



 特に問題はなくその後家まで戻ってきた。
「それじゃあ運ぶぞ」
「うす」
 さすがに俺はこいつらみたいにガタイも良すぎる訳でもなく、馬鹿力はないので、炊飯器やら小さいものを運ぶ。
 電気は通っているとは思うが、電球などがなかったので初めにそれを付ける作業から始める。
 まずは玄関に一つ、廊下に二つ、リビングにも一つ、食堂に一つと計五つ軽く付けた。そして明かりがつくのも確認してから、運ぶように指示する。
 廊下は結構幅もあり、楽に運べた。
 いくつかは段ボールや箱に入っていたので、それを処理するためにひとつにまとめて、捨ててくるように指示した。あとそのまま帰っていいとも言った。
 ほとんどは捨てに行ったが、数個ほど未開封の箱があるが、これはパソコンの類でまだなにも契約もしていないのでまだ開ける必要性もなかった。とりあえずこれはその辺にでも置いておけばいいか。
 時刻は午前五時で、仮眠くらいしかとれないくらいだった。それなら寝ない方がいいだろう。
 それならどうするか。二階に電球を付けるのと一緒に輪廻の様子でも見ておくか。
 俺は電球の入った袋を持ち二階にあがる。まだこの時間は暗かったが、天窓があり階段を照らしており、階段を踏む外すことなく二階に上がる。
 二階には二つだけの電球が必要だった。それをさっさと済まし、輪廻の部屋をノックする。が、もちろん返事などないが、そのまま部屋に入る。中にはベットで寝ていた輪廻がいた。顔はにやけて、涎まで垂らしている。子供かこいつは。
 部屋を見回すと弁当などが散乱していた。そういえば食事の事なんて考えていなかった。それにしてもこの量は一人で全部食おうとしていたのか?やはり見た目では分からないものだな。
 とりあえずこの量なら適当に貰ってもいいだろう。気付かれても金を払えばいいし、それだけだ。それと飲み物も貰っておくか。
 俺は近くにあった紙パックの飲み物を持っていくことにした。暗くて名前は見えないが、変なものではないだろう。それにそろそろ輪廻も起きる事を想定しなくてはな、さっさと出るか。
 俺は部屋を出て、戸を閉める。それにしても本当に気づいていなかったのだろうか。もしかしたら起きていたのかもしれないな。まあ芝居であそこまでするのもどうかとは思うが。
 とりあえず食事としようか。



 俺は適当な飲み物を取ったのを後悔した。