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黄昏夢幻 Ⅱ

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 家に帰って部屋に戻ると、さっきの本を開いた。しおりなんて持ってなかったからどこか分からなくなっているかとも思ったが、どうやらあの女性がはさんでくれたらしい。葉の形のしおりが一枚、挟まっていた。
 とはいえ、いつ寝たか分からないからどこまで読んだかもわからない。ページを戻っていって、覚えていたところはしおりのページとは幾分離れている場所だった。しかも最初に近い。

「あー、くそっ……」

 とそこで、目の前に四角い画面が現れた。
 人体を介したネットワークプログラム。ここ数十年で急激に進展したこの技術で、意思一つで電話やらメールやら検索やら、今や衰退してしまった携帯電話っぽいことができるようになった。
 画面表示から見るに電話のようだ。発信先は幼馴染の瑠奈。

『やっほーぃ! 翔(かける)、元気ー!?』

 よくもまあ、毎日こんなハイテンションになれるものだ。電話越しの大声に、聞きなれているはずなのに眉をしかめる。

「何のようだよ」
『うわっ、なんでまたそんな不機嫌?』
「別に不機嫌じゃねーけど」

 そんなに俺はローテンションか?

『ならいいけど。いやさ、もう古書感想文終わってんのかなーって』

 意思一つで様々なことができるようになった今、衰退してしまったものは携帯だけではない。電話も然り、新聞も然り、そして書物も然り。
 一部の物好きと図書館以外扱われることのなくなった「紙に書かれた文」は、学校の科目選択で習う「古書」に該当する。俺達はこれを取っているため、夏休みに感想文を書くことになっていた。
 実は、さっきから読んでいた小説はこれのための本なわけで。

「いんや、そもそも半分も読んでない。なんつーかチョイスしくった」

 俺は読書というものはまったくもって苦手であり、本を選ぶときも適当に読みやすそうなのを選んだ。そもそも、読書嫌いなのになぜ俺は古書を取った……

『あー、やっぱり? 私も全然進んでないのよねー』
「へぇ。それで?」
『うわ、素っ気無い。っていうか冷たい』

 あいにく、今ちょっと眠いんでね。

『まあいいや。ただ聞きたかっただけー。じゃねー』

 一方的に切られた気がするのは俺だけだな、きっと。
 溜息を一つつくと、ベッドに横になって小説の続きを読み始めた。また寝そうだが、そん時はそん時だ。


  §


 世界の中心に、一人の少女が住んでいた。
 その少女は決して普通の生活を送ることなく、
 体は洗わないがために服と共に汚れ、綺麗な長い髪は絡まってちぢれていた。
 彼女は世界のありとあらゆるものを見ることができた。
 彼女はその力を使ってありとあらゆる知識を得た。
 彼女は「努力」をせず、ただそこに居るだけでよかった。

 しかし彼女は、その生活を嫌った。
 「外」へ出たいと願った。

 彼女には、彼女が唯一愛する弟が居た。
 弟は「外」に住んでいたが、自由に彼女の元を訪れることができた。

 彼女は弟と入れ替わることで「外」へ出た。
 弟は彼女の願いを快諾した。
 お姉ちゃんが幸せになるならと、笑って、世界と隔絶された。

 彼女は自分を責めた。
 弟は快諾したというのに、心中の懺悔は消えなかった。
 だから彼女は、自分への罰として、

 自ら声を奪った。


  §