書きフライ☆wiki支部

密かに進む過程と、静かに来る結末を見てみましょう

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匿名ユーザー

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――そして。
エレナが五秒かけて間を置いて、四秒かけて深呼吸をして、三秒かけて零の目を見て、二秒かけて口を開いて、一秒かけて『己自身の能力』の話の一文字目を発した――瞬間。

そんなタイミングで。
「……、……ん…………って――はあ?!」
と、いう具合にアイリスは目覚め、己のおかれた絶望的状況に気付いたのであった。
まあ、比較的遅すぎる覚醒だが。
というか、特殊な状況故、比較の対象になるものが彼女以外に居ないが。
「ど、どうなってる訳よ――これ」
これ(そしてまたは特殊な状況)、とは要するに。
アイリスが木の怪物――否、ゴーレムに身体をとらわれた状態のことを指す。つまりは、前回の、または先日の学校校内ゴーレム出現事件と同じく、アイリスはただ救助やら王子やら騎士やらを待つだけの、姫的立場にある(何故もう一度このような状況を描写説明するのかと言うと、まあ粗筋の意味もかねてのことである、と答えを出すべきであろう)。
「まったく……私がこんな状況だって言うのに、あいつは――ノアは一体何処に居るのよ!」
「いや、此処に居るけど」
「そう……って、居たのなら返事くらいしなさいよ馬鹿ノア! おかげで私の独り言がさらに痛い類のものになったじゃない! どうしてくれるのよどう責任とるのよというか何で此処に居るのよ?!」
「…………」
一番最後の台詞を、一番最初に言うべきであったが。
それを今訂正するほどの余裕を、ノアは持ち合わせていない。
何故なら。
こうして久しぶりに会話をしている間にも、アイリスをとりこんでいるゴーレムはノアに攻撃しているのだから――!

ひたすらひたすら――数えられないほどの量の鋭い葉を、まるで手裏剣のように飛ばし続けているゴーレム。
ひたすらひたすら――数えられないほどの量の鋭い葉を、まるで曲芸師のようにかわし続けているノア。

そんな、エンドレスに続くかのように思わせる光景を、『セシルはゴーレムの背後から除いていた』。
「ふむふむ、全ては作戦通り――かな」
と、キザっぽく、またはよくある小説の主人公が言う台詞よろしく、呟いてから。
彼は、叫ぶ。

「ナイトメア=セシルによる、人体貫通マジックショーを開幕しますっ!」

と、大袈裟に言葉を吐いて見せてから――セシルは口から身の丈ほどもあるサーベルを取り出すと。
それを、あろうことか。

アイリスと共にゴーレムに突き刺したのだ――!

もちろん、セシルとゴーレムの位置や向きの関係で、アイリスの胸からはサーベルの先端が覗いている。
人体貫通マジックショー――というよりは、もうただの殺,人劇である。
しかしそれは、本当にアイリスが死んでいたときの話だが。

と。
瞬間。
ゴーレムが、奇声を上げた。
それはもう、聞き取れないような異形がだす異常な言語だったために描写はできないが、真正面で直に聞いていたノアが両耳を両手で押さえて歯をくいしばっていた、というだけ伝えておこう。
在る意味――もはや、何も言うまい。
「……っと、上手くいった、かな?」
顔を微かに歪めながら、微笑むように努めているセシルはそんなことを言う。
目の前の空へたなびいている『黒い煙』を見つめながら。

そう、つまり。
何故ゴーレムがアイリスをとりこんだか、である。まあ、とりこませたのは『空操(からくり)』の力を持つ、例の悪党もどきであるが、どちらにしてもである。
アイリスをとりこんだのは――隠したかったものがあるから。
隠したかったもの。
つまりはそれは、ゴーレムの弱点――あの心臓のような鼓動を打つ、黒い宝石である。
そこまでのことを、ノアとセシルは『アイリスをまるで防具のように装着しているゴーレム』を観察して、察したのである。

とまあ、そんな経緯があって。
クルー=アイリスは無事救助された。
無論、先程のサーベルの被害は彼女には皆無である。
手品なのだから――種も仕掛けもあるのである。
それぐらい、妖精界一のマジシャンを目指すセシルにとっては簡単なことであるのだ。
アイリスとゴーレムに剣を刺して、ゴーレムだけを本当に貫通させることなど。
まだ――序の口なのだ。
彼にとっては。
「――と、言ってもよ? 先に一言言っておいてくれたっていいじゃない! いや、助けてくれたことはきちんと感謝はするわよ? セシル……ついでにノア、ありがとう。おかげで助かったわ」
「はは、そんな……オレは君の友達として、当然のことをしたまで、さ」
「だけど、ぼくはついでなんだね……」
予想はしていたけど。
と、最後はどこか皮肉に締めくくって――

――ノアはやっと、穏やかな笑顔を浮かべたのであった。

+++

所変わって。
場面は変わり。
上空にて。

ルノワールに『覚醒云々』について説明した後。引き続き長く長く、自分が敬愛する人物について、熱く熱く語っていたジャイル。
しかし、夢見る少年のように輝いていたその目は――突如曇るように淀む。
不安と困惑の色。
「――――あ」
先程まで活発に動いていた口を停止させた後、そんな風に気付いたように呟く。
ルノワールは耳が良い。
だからこそ、ジャイルのそんな一文字の言葉に奥にある意味も気付いた上で、一言。
「ん? 何かまずいことでも起こったのか?」
「……うん、起こったみたいだねえ」
と、あくまでも余裕の口振りで、しかし目は明後日の方向に向いていたのであった。
しかし――何度も言うようだが――ルノワールは耳が良い。
そんな虚勢を張っても、無意味である。
というか、そもそも、味方に余裕を見せ付けてもあまり意味がないように思われるが、そこはやはりジャイルとルノワールという特定の二人だからこそか。
要するにからかわれるのを予測してであろう。

そして。
悪党紛いが気付いた『まずいこと』というのは勿論、今さっきノアとセシルがゴーレム(と人質・アイリス)を倒したことである。
そのことは在る意味周知のことなので――慌てふためくジャイルを「ぎゃはは」と笑うルノワール
の、おもしろ可笑しなやりとりがあったが、それは省略することにする。

兎にも角にも。
今更、深刻な状況を把握した悪党どもの一場面であった。

+++

「――――と、いうわけで、私の話は終わりなのです」
と、エレナは千年樹の下で――そう言った。
己の秘密――『能力』を、暴露し終えた直後であった。
「……そう、か」
「…………」
そしてしばらく沈黙の時間がややあって、
「……その、零君、御免なさい。いきなりこんな話をしても、困るだけですよね?」
「いや、俺から聞いたことだ――それに、別に困っていない。寧ろ、話してくれて嬉しいと思っている」
と、優しく言葉を紡ぐ日本男児。
「……お互い、秘密を言い合ったと思えば良い。そのほうが気が楽になるだろう」
「そうですね。そうすることします」
ありがとう、零君。
ポツリといったその言葉は――何故か異常に、心に響いた。

それも彼女――エレナの『能力』のせいなのだろうかは、分からないが。
そんな気がしたので――

と。
「あああああああ! 居た、居たわ! 二人共無事みたいよ!」
懐かしく、しかし聞きなれた声が聞こえた。
アイリスの声だ。
そして遠くから――木々の間から三つの人影が見えたので、零は安堵の溜息をし、エレナは歓喜で手を振った。


結果的に。

零の超直感が当たったと同時に。
久しぶりに――五人が集う。
……いや、否。
五重奏になった瞬間であった。

今、考えると。
零君の超直感――即ち、千年樹の近くに居れば護られるというのは、はやり当たっていたのですね。
エレナはそんな風なことを思いながら、零に再会を感謝し、喜びを噛み締める。

合流した五人はまず始めに、お互いに怪我等をしていないか確かめた。
その際、エレナを庇いながら落下した零が「俺は大丈夫だ」と言ったのだが、当然それをそう簡単に信じられる訳も無かったので、零とエレナがノア達三人を納得させるのに時間がかかった。
まあそれも、零のことが心配だからなので、何ら支障は無い。
それに――あとはホテルに帰るだけである。
当初の目的、千年樹の見学もできたのだ。
終わり良ければ全て良し、である。
と。
唐突に。
千年樹を去ろうと、一歩踏み出した瞬間。
ノアはアイリスの腕を掴んだ。
「…………?」
脈絡の無い行動にアイリスは頭上にハテナマークを浮かべるだけだったが、ノアが身にまとう空気が――所謂、シリアスと呼ばれるものの類だったので、
「エレナに零にセシル! 悪いけど、先に行っててくれる?」
「? あ、はい、了解なのです」
「……分かった」
「ま、あまり遅くならないように、ね」
と、各人が返事をした後、緑の中に姿を消したのと同時に。
「御免、引き止めて、だけど、言いたくて」
ノアは――騎士は言う。

「アイリス、お願いだから――もうぼくの前から消えないで」

これ以上ぼくを悲しませないで。
これ以上ぼくを辛くさせないで。
これ以上ぼくを――

の繰り返し。
永遠と続く――そんな言葉を。想いを。
アイリスは、己を見つめる彼の碧眼から、ひしひしと感じた。
だけど感じたところで、どうしようもなく、どうしようもできず――どうしたら良いか、分からなくて。

幼馴染で友達の彼が、狂っているように見えてしまう自分が――嫌いで。

「ぼくは、君が危ない目に合っていると知っただけで――何故か、胸が凄く痛くなるんだ。ぼくは、もう――その痛みに耐えるのは、嫌だ」

嫌いだ。

そして、アイリスは。
困惑して。
後悔して。
後ろめたさを感じて。
「……馬鹿ノア」と。
アイリスは結局、それしか言えなかった。

――と。
ノアがふと、気つくと。
己の影が幾分か大きくなっている。
そして刹那。
そんな空気を壊すかのごとく、それは響く。
「ぎゃははははははははははははははははははは!」
下品で、いかにも――悪そうな笑い声。
「え?!」
「な、何なのよ……」
ノアとアイリスは訝しげに声をした方を――上を、見上げた。

ルノワールだった。
ルノワールが肩にジャイルを乗せ――ノアとアイリスの直ぐ上で浮かんでいた。

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