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とある日本人の名前と能力について学んでおきましょう


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――そして、その頃。
森の地面に足をつけたノアとセシル。
空飛ぶ絨毯はすでにセシルの手によってハンカチへと戻され、今は彼の制服の胸ポケットの中で眠っている。
改めて考えると、何とも手ごろで便利な移動手段であるが――今はそんなことで会話に花を咲かせるわけにはいかないだろう。寧ろ二輪の命の花が散ってしまう。

と。
ノアは落ち着かない様子で、零が飛び降りた方向を見据える。
「零……大丈夫かな」
対し、セシルは妙に自信を持ったように、しかも微笑んで、安心させるように、
「彼はきっと、あれくらいの高さから落ちたくらいで死なない、さ。まあだけど零君もよくやるよね。君もそう思わないかい? いつもは冷静な彼が――珍しく、感情的になっている」
「…………」
「そう、まるで――さっきの君みたいに、ね」
「……ねえ、セシル。それは、皮肉?」
「いや、むしろ褒め言葉、さ」

一人の人間のためにそこまで変わることができる人は、なかなか居ないよ。

セシルは最後にそう締めくくって――途端に、表情を深刻なそれに変える。
「さて、このままぼーっと直立していてもしょうがない。オレ達も動こう」
「そうだね――ちなみに、歩いて探す? それとも、またセシルのマジックに期待していい?」
「はは、悪いけど……今回は前者」
と、申し訳なさそうに苦笑するセシル。
ノアはそれに「分かった」と素直に頷き、当ても無く走り出した。

全ては騎士の務めを果たすため――否。
友達を、護る為。

+++

零とエレナが木のゴーレムと遭遇し――戦いが始まってから、幾分かの時間が経った。
その間、零はエレナを庇いつつの戦闘となったので、ほとんどゴーレムに攻撃をしかけられていなかった。
何せ相手はアイリスを(身体に埋め込むことで)人質にとっている上に、零の武器は丈夫な枝一本だけなのだ。
しかし。

庇うだけでは――勝てないのだ。
護るだけでは――護れないのだ。

そこで、零は戦い方を変えた。
「エレナ、千年樹のところまで――全速力で逃げるぞ」
「……え?」
エレナは零のその言葉の真意が分からないままで、しかし素直に従い、敵に背を向けて駆ける。

その様子を、ジャイルが上空から見物していた。
勿論、ルノワールの背の上で。
「おいおいうさたん。あんな格好良い決め台詞を吐いといて、高みの見物するのか? 悪いが、それを格好悪いと呼ばずに何と呼ぶって感じだぜ?」
「仕方ないだろう? 僕は『あの方』のような戦闘力を持ち合わせていない。僕はあくまでゴーレムを操る役割――つまり指揮官的位置にいるのさ、『今はね』」
意味深深く言うジャイルの言葉に反応し、ルノワールは眉を顰めて問う。
「なあ、うさたん。今はって、どういうことだ?」
するとジャイルは待ってましたと言わんばかりに腕を組んで、得意そうに話し始める。
……こんなことをしていないで、ゴーレムを操る事に専念していたほうがより一人前の悪党に近づけるのだが。
ともかく。
ジャイルは答えた。

「それを説明するには――少し時間がかかるねえ」

ジャイルはそして、話の順序等を構成するためにしばし思考してから、ルノワールの逆立った髪に向かって喋り始める。
「――まず、ルノワールはファントというお方を知っているか?」
「あ? 誰だそれ?」
「……絶望的に強大な魔力の主だ」
「は? 何だって?」
「絶望的に強大な魔力の主だっ!」
「うわっ。お、おいおい、大声で叫ばなくても聞こえてるぜ、うさたん。それを騒音と呼ばすに何と呼ぶって感じだぜ」
ジャイルの大声を耳元で聞かされたルノワールはその上、先刻も証明した通り、異常に――人外なまでに聴力が優れているので、ジャイルの怒鳴り声は彼が思っている以上にルノワールの耳にダメージを与えるのだ。まあだからと言って、耳が聞こえなくなったり機能が劣ることは無いし、ましてやジャイルにそのことで怒るわけでもないのだが。

「それで結局、その絶望的云々の主って一体何なんだよ」
「…………」
ジャイルはもはや言い直すことを諦めると、溜息(この場合はルノワールに呆れたわけでもなく、疲れたわけでもなく、失望したわけでもなく、ただ単に先ほど叫んだために息切れをしてしまったがための、溜息のようなで呼吸ある)を一つすると、言葉を続けた。
「それを説明するには――ディーバについても話さなくちゃいけないねえ」
そして露骨に面倒くさそうな表情――人のためにすることはやる気が出ないという点については、ジャイルは悪党の素質はあるのだろう――を作る。
しかしルノワールの背中に乗っている状態なので、勿論ルノワールはその表情を見ることができない。
何というか、地味に計算された悪事であった。


と、そして。
ジャイルは、長く長く、語る。
「大雑把に言ってしまうと――

――ディーバは『神が必要な時に創りだす希望』。そして、ファントは『時代を超えて受け継がれていく絶望』なんだ。

分かりやすく言うと――ファントに成ったAと、まだ生まれていないBという人物が居るとする。そして、Aが何らかのことで死んだとする。Aが持っていた『ファントという役名と力』はあの世で彷徨い――Bを次の主、つまりは絶望的に強大な魔力の主と決めて、Bに力を与える――未来永劫、それの繰り返し。そしてファントがこの世に出現したと同時に、神がディーバを創り出す。その度に、ディーバという名の希望と、ファントという名の絶望は戦うのさ――

――この世の善悪のバランスを保つためにね。

ちなみに何故かは知らないけど、ディーバは女性、ファントは男性と決まっているようだねえ……いや、そんなことはどうでもいいんだ。とにかく僕が言いたいのは――僕はファントの後継者ということなんだ」

だからもうじき僕は――覚醒するだろう。
眼も完全に赤色に染まった。
後は――髪。
この忌々しい白髪が赤髪に成った時。
僕は一介のダークヒーローから――赤い絶望に変わる。

「だから、超人的な身体能力と膨大な魔力を持つまで、僕は指揮官的な働きしかできない……だから『今は』と言ったんだ」
と、最後にファントの後継者は、そう締めくくったのだった。

+++

唐突に、前触れも前兆も無く、彼は言った。
「俺の名前は柏乃曲零だが――かしのきれいではないんだ」

それは、ちょうどジャイルが暢気に自慢げにルノワールに『話』をしている時。
果たして悪党共から逃げおおせた零とエレナは――千年樹の根本に寄りかかって、立っていた。
先ほどまで息をととのえるためと、急展開が続いていたこともあって、しばらくお互い何も話さず無口だった、が。
零は静かに、そして確かに――そう言ったのだった。

エレナは突然の発言に少し驚きつつも、首を傾げる。
「零君、その……自分の名前だけど自分の名前ではないというのは、どういう意味なのですか? 凄く矛盾しているように思えるのですけど……」
「ああ、すまない。俺の説明不足だな――つまり、柏乃曲零は『かしのきれいとは読まないんだ』」
住んでいた場所が俺とは違うエレナには、分からないかもしれないけどな。
と、零は相変わらず冷静に答える。

そう。
それこそまさに――エレナが言っていた明白な矛盾なのである。
それは即ち、読み方の矛盾。
柏乃曲は強いて正しく読むのなら、かしわのきょく。
柏の曲――である。
柏、とは。
ブナ科の落葉高木、である。
そして、本名にして当て字の読み――かしのき。
樫の木――である。
樫、とは。
ブナ科コナラ属の常緑高木の一群の総称、である。
つまりは双方どちらにしても、それは木を連想させる姓なのである。
問題なのは――それが何を意味するか。

今は昔の話である。

姓を柏乃曲と名乗る、ある男が居た。
男には家族が居て、豊かではないにしても、特に不自由することなく暮らしていた。
だが――男は冬のある日、遠出をした帰りに山を越えようとし、吹雪にあった。
自然をなめていたのか、はたまたただ単に忘れていたのかは不明だが、その時彼は絶望的なことに防寒具類を持っていなかった。
急速に熱を失いつつある身体を抱きしめるようにしながら、彼は奇跡を信じて、とにかく歩いた。
そして実際に、奇跡は起きた。
しかし、それは奇跡というよりも――出逢いだった。

男は一本の木を見つけた。
それは特に大きいわけでもなく、貴重でもない――平凡な木であった。
他の木とも見分けがつかないぐらいである。
それぐらいに、ありふれた木。
しかし、彼は感じた。
直感で、分かった。

それが普通の木ではなく――神木だということを。

しかも、相当の霊力が詰まった類である。
そして、その時からだった。
彼が『吹雪から身を隠せる洞窟までの最短ルートを見つけられるほどの超直感を持ったのは』――!
その出来事をきっかけに。
今までかしわのきょくと読んでいた姓を、かしのきと読むようになった。
木への敬意をさらに表すためである。

しかし零は以上のことを説明する必要は無いと判断し(または面倒臭いので)、その昔話は省き、簡潔にエレナに説明することにした。
――そして。
これから話すことは、彼の家族や少数の友人以外、誰も知らないことだというのに。
零はいつもと変わらない表情で――そして淡々とした口調で、始める。

彼の友達――アルトゥール=エレナに向かって。

「俺は、感覚――いや、直感で分かるんだ。『それが普通の事柄や現象や人物ではなくて、異常な事柄、現象、人物だということを』。だから俺が初めてこの妖精界に来たとき――あの黒い閃光が自然現象云々ではなく、『異常で』危険なものだと、分かった」
だからあの時、俺は学校に行かないように促した。
「…………」
異常で危険なもの。
怪物――ゴーレムの出現。

零はそこで唐突に、天を仰ぎ――てっぺんが見えない、千年樹を見上げる。
緑色に色づいた木の葉の間から微かに、黄色い光がちらちらと覗く。何故かそこから緑色の夜空と、黄色い星を連想して、この樹が神秘的な物体に感じられる。
「この千年樹も、ただの樹じゃない。幹や枝や葉のうちに、『何かを秘めている』気がする」
「何かとは、何ですか?」
「分からない、だが、それが迷信やらに関係しているのだとは思う」
「確かに、その何かがあるからこそ、千年も生きることができるのかもしれませんからね……あ、そういえば、零君はどうしていきなりこんな話をしたのですか?」
と、エレナが今更な質問をする。
千年樹に着いて、しばらく休憩して――いきなりの話が、これなのだ。
不自然に思うのが遅かったくらいである。
零はそして、エレナの問いに、
「……先程、俺はお前に俺を信じろと言った。信じてもらうからには、俺の行動に根拠がないと不安だろうと思って、俺は『何故千年樹の傍に来たのか』を話したんだ――

――この樹の傍に居れば、護られる気がする。そんな直感が働いたんだ」

エレナはその台詞を黙って聞き、直ぐ傍に(というか背中に接した)その樹の存在を改めて意識する。それでもやはり、一般の木と変わらない気がしたが、感じた。

己の隣に居る人間――柏乃曲零に似た優しい頼もしさを。

と。
零は突如、どこか真剣な面持ちで、
「エレナ。これからお前にする質問に、お前が答えなくなかったら、答えなくていい」
「……え? な、何なのですか?」
エレナは訝しげに零の顔を見つめながら――しかし心のどこかで覚悟する。

やっぱりいつかは話さなくてはいけないことなのですね、と。

思いながら。
俯いて、足元を見た。
零は異常なものを感知する――超直感の持ち主。
ならば。
彼は、きっと気付いているだろう。

アルトゥール=エレナという人物は異常な何かを持っていることを――!

「エレナ、俺はお前の友達として知っておきたい――何か秘密を、持っていないか?」