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雷は大地を轟かし、悲惨は電波に乗って世界を回る


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 空気を焦がし、舐め回すかのように燃え上がる炎、燃やされた者たちの悪意が湧き上がってきたかのように辺りを満たす濁った灰色の煙、鼻をつく肉の焼けた臭い。
 そこは、まさしく地獄絵図だった。
 恐怖と絶望で染色された悲鳴が飛び交い、さらにそれらをあざ笑うかのように炎が喧しい音をたてて燃え広がっていた。

 突然、そんな地獄絵図を切り裂くかのように蒼い光が走った。
 そして、その光の後を追って地獄の喝采をかき消すほどの爆音が鳴った。

「あァ、眩しいなァ、オィ。 それにうっせェなァ」
 そんな混乱と混沌の中で、リジェンはその白髪をかきむしりながら、面倒くさせうに、しかし邪悪な笑みを浮かべながらそう言った。
煙の中からゆらりと現れたその不気味なまでの白を見て、逃げ惑っていた研究者たちはその顔をより一層、深い絶望の色で染めあげる。恐怖の重圧で押しつぶされそうな肺へ、必死の思いで空気を送り、無様に手足を連動させようと、無駄な努力を試みる。
 だが、彼らの恐怖で締め付けられた脳では、まともに逃げ道を考えることなど到底できず、ただでさえデスクワークで弱りきったその足腰ではたいしたスピードはでないのに、まるで陸にあがった魚のように、みっともなく手足をばたつかせての走りでは、いくら薬物と拘束に体の弱っているリジェンでも簡単に追いつくことができ――。
 実際、息を荒げ膝をおった白衣姿の1人の男性に、リジェンは今追いついていた。
「ひっ、は、ひやっ」
 悲鳴にも呼吸にもならないような滑稽な音が男の口から漏れる。
 しかし、リジェンはそんな男性に死の雷を放つのではなく、こう言った。
「大丈夫ですか先生? 立てますか?」
 そして、不気味なほど優しい笑みを浮かべて男の手をとり、こう【願った】。
『こいつの全身に電流を流したい』
 その瞬間、男の口から、目から、耳から、身体中の穴という穴から煙が噴出し、男だったものは焼け焦げた肉の塊へと変わった。
「「全身から煙が噴き出るほど元気です」てな」
 リジェンはゲラゲラと笑いながらそんなことを言って男の手を振り払った。
 男だったものは、鈍い音をたててタイルばりの床に崩れ落ちた。
 そして、崩れ落ちたのは男の死体だけではなかった。

 リジェンの少し先で、さきほどの男と同じデザインの白衣をまとった女性がペタリと腰をついていた。
 そんな女性にも、リジェンは容赦なく死の判決を下そうとする。
『あいつに雷を・・・』
 だが、女性の恐怖で青ざめ、ガタガタと歯を震わす顔を見て、リジェンはその願いを中断した。
 そして、変わりにその脳裏にはあるシーンが思い浮かんでいた。
 それは、何度も何度も何度も繰り返されてきた研究の一場面。
 だが、他のどれとも違う一場面だった。

――「こんなことをしてあなたには悪いと思ってるわ。でもね、きっとあなたの力が解明できれば世界はもっとステキになると思うの。そのためにこんなことをするのは間違ってるかもしれないけど、でも、これが今できる最善のことなの。だから、協力してちょうだいね」
 畏怖と興味の瞳の中で唯一優しさという温かな光を宿していた瞳。
 嘘で塗り固められたのではなく、心から発せられた言葉。
 その言葉の正しい、間違ってるは別として、その女性はリジェンのことを確かに一人の人間として見てくれていた――

「チッ」
 記憶の旅から戻ったとき、リジェンは女性に背を向けて舌打ちをした。
「甘ェんだよ、俺もお前もよ」
 そう呟いたリジェンの顔は、邪悪な笑みを浮かべた悪魔の顔などではなく、悩みや苦しみを浮かべた少年の顔だった。
 だが、そんな苦悩を浮かべた少年の顔はすぐに拭われ、まばたきの内に、元の邪悪な悪魔の顔へと変わっていた。

 そして、その不気味な白い眼球は新たな犠牲者をとらえる。
 上空にはいくつかの黒い点があるいは旋回し、あるいは静止していた。
 それらはおそらくテレビ局や軍のものだろう。
「ヒャハ。 これで俺も一躍有名人てわけだ」
 そんなふうにゲラゲラと笑いながらリジェンは研究所を後にしていた。 イヤ、厳密には研究所だった建物か。
 今やそれは、半壊したガレキの山であり、死体置き場でしかなかった。
 おそらく生きている者はただ一人、いるかどうかだろう。

「さァて、次はどうすっかなァ。 クソ親どもに復讐すっか・・・ あァ、それとも研究者どもが言ってたオーストラリアにいるとかいうもう1人の能力者にでも会いにいくかァ?」

――――――――

 アレックスは薄暗い室内で煌く人口の光にその目を釘付けにし、静まり返った室内に響く音声に耳をかたむけていた。

「――本日未明、ドイツの研究所で謎の爆発事故が起こりました。 発見された生存者は確認されているかぎり1名のみで、現在現地の病院で治療を受けているようです。 また、事故当時撮影された映像には研究所から出てくる人影らしきものが確認されており、今回の事故との関連性が調べられています」

 揺らめく煙と炎の奥に、それらにとけてしまいそうなほどうっすらとした人影が確かに画面に映っていた。
 だが煙が濃く、それはあくまでぼんやりとした人影としてしかとらえることができなかった。
そこで、アレックスはこう願った。
『あの人影の正体を見せろと』
 そして、そう願った彼が見たのは1人の少年だった。
 その髪も、肌も、瞳も、全てが白い少年。
 純白などではなく、寒気がするような毒々しい不気味な白色をした少年だった。

 その姿を見たアレックスは今まで体感したことのない感覚を味わった。
 背中から冷たい嫌な汗が噴出し、震えがたるんだ腹を、あごを揺らす。
 住み慣れた、薄暗く密閉された室内が、まるで獣の胃袋のようにかんじられるほどのプレッシャー。
 言い換えるならば、心臓をわしづかみにされたような感覚。

 全身が、わずかに残った動物としての本能が警報を鳴らしていた、【こいつにかかわってはいけない】と。
 その感覚が恐怖なのだとアレックスはそこでようやく理解した。
 或いは、同族嫌悪ともいうべきものだろうか? 能力者としての本能は、狼のように、自分と同族の見知らぬ相手に対するのと同じように、牙を剥いていた。無論、アレックスがこの狼を相手に勝つことはできないのだが。自分よりも強いものを相手に逆らう――これが、人間としての唯一の本能だろうか。

 警報はまだ鳴り続けていたが、アレックスにはそれが今まで聴いたことのないような極上の音楽のように聴こえていた。
 興奮による震えが肉を揺らしていた。
 冷たい汗はいつのまにか温かなものになっていた。
 恐怖は好奇心へと変わっていた。

「・・・h、ha」
 アレックスはその弛んだ口元をひきあげ笑い声をもらした。
 そして、また一つ新たに願った。
『【俺と同じように特別な力を持った人間】を見せろ』