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~始まりのoverture~

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~始まりのoverture~




「はぁ・・・・・はぁー・・・・・・」
疲れた足を引きずって、緋色の髪をした少年はため息を吐いた。
重たい頭を上げて、空を見上げる。
ぎっしりと生い茂った木々の枝が空を殆ど遮って空は見えない。
まだ昼間にもかかわらず、ラグジュリエントの森は夜のように暗かった。
「つ、疲れた・・・・・」
暗い森の中で、少年は側の大木に寄りかかった。
重くなりかけた目蓋の裏に、今日の出来事が甦る。



早朝の教室――――
『・・・返して、よ』
伸ばした手は空を掴んだ。
『やーだよ。返して欲しかったら、俺から奪ってみろってーの』
少年より30cm以上も背の高い子供が、茶色い筆箱を持っていた。
『ファレンってチビだよなー。ビビッてばっかで女みてー』
緋色の髪の少年の名はファレン。
幼い頃に母を失い、孤児院で育った。
気弱で相手の顔色を覗ってばかりのファレンは、いつもいじめっ子の標的にされていた。
『返して・・・・!』
ファレンは再び手を伸ばしたが、また避けられる。
今日もまた、自分はバカにされる。
昨日も、一昨日も、こうして馬鹿にされていた。
『返せって・・・言ってるじゃないか!』
ファレンは、憤りに任せていじめっ子の腹を蹴り上げた。
自分でも考えられないほど俊敏な動きに、いじめっ子が避けられるはずもなく。
『ぐっ』とうめいて、いじめっ子は倒れた。



「あー・・・・なんであんな事しちゃったんだろ」
母親譲りの緋色の髪を引っ張って、ファレンは自分を責めた。
あんなことしたら、怒られるのは自分だ。
「解ってくれないだろうなー・・・・・」
再びため息を吐いて、辺りを見回す。
すると――――
「・・・・はぇ?」
ファレンの顔を、光る何かがかすめた。
それはあたり一面に舞っていて、いつも暗いはずのラグジュリエントの森を明るく照らしていた。
(な、何これ・・・・)
足元に落ちた、その光るものを拾い上げる。
それは細長い形状の、まるで広葉樹の葉のようだった。
だが、その光る不思議な葉はファレンの手に触れるとすぐに消滅してしまった。
ファレンの手に残ったのは、まるで灰のように脆く崩れてしまうもの。
ファレンは葉の元があるはずの方角を見上げた。
「イグドラシル・・・・」
その方角には、かつて人間と天使、そして悪魔が二つの勢力に別れ争った頃の最後の記憶―――神木イグドラシルの姿があった。
神々しさを漂わせる木の寿命は計り知れず、ただ解るのはイグドラシルは上記の戦争時代に、終止符を打つために植えられたこと。
戦争自体が眩暈がするほど遠い記憶のことなので、イグドラシルの樹齢はわからないそうだ。
「なんで・・・イグドラシルの葉が・・・・?」
ファレンが呟いた今でも、イグドラシルの葉は散っている。
(イグドラシルの葉が散るなんて・・・・聞いた事ない)
イグドラシルは永遠の象徴ともされ、そう言われる一つの要因がこの散らない葉だった。
だが、今その葉が散ってしまっているのだ。
「何か、あったんだ」
ファレンは光の吹雪の中を、疲れている事すら忘れさせるほど力強く走り出した。



深海を思わせる穏やかな暗闇に、黒紅の瞳が光る。
「・・・・アスタトロ様、お呼びでしょうか?」
獣が話すような、低く野性味を若干帯びた声が、暗闇に響いた。
足音なく暗闇のに現れた声と、そしてもう一つ。
「ん・・・遅かったなぁ」
「申し訳ありません、アスタトロ様」
退屈そうな男の声。
野性味のある方の声は、申し訳無さそうに頭を下げて、主の名を呼んだ。
退屈そうな声の主は、かつて人間の世界であった戦争―JIHAD―でその名を連ねた暗黒の公爵、アスタトロだった。
「・・・何か、御用でしょうか?あ、コーヒー豆足りないのならあの双子の方に言ってください」
面倒臭そうに言われ、アスタトロは黒紅の瞳は少しだけ歪ませた。
「馬ー鹿、そんな内容じゃないって」
「とりあえず、明かりつけてください。幾ら昼寝してたからって、俺を呼んでおいて明かりつけないのは、ちょっと」
「お前なぁ・・・・」
しょうがない、とアスタトロは暗闇の中に手を伸ばした。
ボッ・・・と、辺り一面の蝋燭が灯される。
暗闇が一気に振り払われたかと思われたが、それは蝋燭のある一部分だけだった。
だが、お互いの姿は確認できる。
「・・・・で、ご用件は?」
そういったのは、影の如く漆黒の体をした狼だった。
ヘルハウンド。魔界の猟犬。
瞳は血のように紅く輝き、黒い体は光を寄せ付けない。
そして、アスタトロ。
鴉の濡れ羽色と詠われる艶やかな髪。
雪の如く白い肌。
いつも余裕の笑みを浮かべている紅い唇。
ルビーのように輝く黒紅の瞳。
彼は男だが、それにしても美しすぎる外見だった。
女、ではない。どちらかといえば、動物を美しいと感じるようなものだ。
完全なる男の魔王の中で最も美しいとされる魔王アスタトロは、美しいだけが取柄ではない。
内に秘められし―――秘めていても周りに溢れ出してしまうほどの魔力。
あの細い腕で振るわれる魔剣グランザームは、上位天使すら簡単に切り裂くと言われている。
ヘルハウンドも、それなりに実力のある魔物だ。
だが、アスタトロ前では足元に及ばないのだろうな、と思う。
「・・・・・我僕、ギルティ」
そんなアスタトロに突然改まって言われたため、ヘルハウンド――ギルティは一瞬身を凍らせた。
「――――はい」
「お前に、重要な任務を与えよう。お前だから頼むことだ」
アスタトロの目は真剣だ。
「なんでしょうか」
「お前に、俺の息子を迎えに行って欲しい」
(あぁ、そんな事か。息子ねむす――――はぁ!?)
「も、もう一回!ワンモア!」
うろたえるギルティに首をかしげて、アスタトロはちょっと大きな声でいった。
「息子を迎えにいけ、だよ」



「・・・・結局、僕には何も出来ないのかな・・・・?」
ファレンは、神木イグドラシルの前でため息を吐いた。
まるで壁のように広がる幹は、ファレンなど比ではない。
谷の底にいるような感覚だ。言葉に出来ない。
とにかく、途方も無く大きいのだ。
そして、相変わらずイグドラシルの葉は散っている。
ただ違うのは、その舞う葉が白から黒へ変わっていること。
どうやら、イグドラシルの木の南側と北側で落ちている葉の色が違うのだろう。
ファレンは、南側に立っていた。
「イグドラシル・・・どうしておかしくなってしまったのだろう?」
問い掛けるように呟く。もちろん、返事は返ってこない。
ファレンが、やはりダメかとため息を吐いた頃だった。
「・・・・・・見つけたぞ」
「だ、誰ですか?」
ファレンは驚いて振り返った。
と・・・・・そこで、ファレンは我が目を疑うことになる。
「て、天使・・・・・・?」
茶色の、短い髪。
若葉のごとく美しい緑の瞳。
そして、純白の羽。
それは、古代の文献で伝えられる天使の姿そのものだった。
凛々しい顔立ちをした若いその天使は、溜息を吐いて言った。
「こんな所に隠れていたのか。奴の考えそうな場所だ」
「・・・・何のことです?」
天使は驚いたように、やや大げさに目を丸くした。
「知らないのか?何も?」
「あ、あの・・・・・なんの事だかさっぱりなんですけど・・・・・」
天使はまた溜息を吐いた。
気まずい空気が流れる。
しばらくそれは続き、ファレンは心の中で舌を打った。
(あー・・・余計な事聞くんじゃなかった)
ファレンは気を取り直して、もう一度話しかける。
「あの・・・どうして、天使がここに・・・?あの、僕そんなすごい人に探されるような人間じゃな」
「馬鹿をいうな。お前のその魔力は間違いなくアスタトロの波動だ」
ファレンは首をかしげた。
「魔力・・・・?それは、古代の戦争の時に失われたものでは・・・・?」
天使は首を振った。
「それは、大気中にある外魔力だけだ。それぞれに宿る内魔力は消えてない」
「詳しく説明してください」
ファレンは目を輝かせて言った。
古代の魔法の力、魔力。
使う人間の思い通りに動くそのエネルギーは、聖戦の時に使い果たされてしまったという。
永遠に続くかと思われた戦争が終わった原因でもあるのだ。
「・・・・面倒だな。だが、仕方ない。お前なら知ってて当然だったことだ」
天使は翼を一回はばたかせて、地面に降り立った。
(わぁ・・・・まじかで天使を見るのは初めてだ・・・・)
ファレンはどうしていいか分からず、静かに近づいてくる天使相手にわたわたするだけだった。
「・・・説明するぞ」



「・・・・外魔力を生み出すのはなんだ?」
天使に突然そう聞かれ、ファレンはビクッとして答えた。
「あ、あの・・・・イグドラシル・・・・ですか?」
「ご名答だ。だが、その外魔力が失われた原因は、イグドラシルの崩壊にある。いや、イグドラシルが開発される以前の外魔力の生み出し方の崩壊にあるんだ」
「イグドラシル以前の外魔力供給法・・・・・?」
ファレンは、天使から一旦目を離してイグドラシルを見上げた。
岩壁とも言われるこの大きな木ができる前の外魔力供給法・・・・それは、途方も無く遠い昔の物語のようだ。
イグドラシルはこの世界の植物同様、水と土の栄養、そして光合成で生きている。
だが、生み出す物質が魔力なのだ。二酸化炭素ではない。
そして、外魔力が無くなった原因は、聖戦のせいでイグドラシルの魔力供給機能が失われたことにある。
「どんな・・・・・・供給法なのですか?」
天使の瞳が、暗くなった。
「・・・・とある神が、たった一人で生み出していた。魔力を生み出すためだけに生まれ、地の底で永遠に喰い、吐き出すだけのサイクルを続ける神だ」
生きたまま、永遠の牢獄につながれているのと同じ―――なのだろう。
身代わりも居ない中で、永遠に見返りを求めず与えつづける・・・・。
地獄、だったはずだ。
「そんな・・・・馬鹿なこと・・・・」
ファレンは首を振って、否定しようとした。
「本当のことだから言っているのだ」
だが天使は苦々しくはき捨てた。
天界にとっても、辛い記憶だったのかもしれない。
黒紅の瞳を細めて、ファレンは天使から目を背けた。
だが、そのままではいけないと思い、話題を変える。
「あ・・・そういえば、貴方の名前は?後、貴方は何故ここに・・・・?」
「・・・俺の名前はアスエイジ。パワーの役目をしている。
お前を迎えに来た理由は――――」
「天使が・・・・我主のご子息に何を吹き込んでいる?」
天使が言いかけた瞬間、まるで獣が話すような声が聞こえた。
「だ、誰・・・・!?」

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