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例えるならば、それは甘い音色を延々と垂れ流しされるように


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 空を覆う灰は、その色を一層と深め、その内に内包する水のしたたりを、大地に吐き出していく。
 大地に当たっては爆ぜ、霧散する水の無形。次第に勢いを増していく雨の音色は、轟々という音を立てながら地面を強く叩いてゆく。
 赤いレンガ造りの地面、長方形が規則正しくならんだ赤い絨毯を濡らし、その合間を川のように流れてゆく雨は、一体何処へ向かうのだろうか。
 そんな他愛の無い事を考えている、一人の少年が居た。
 櫻井雪、
 そう名付けられた少年は、プラスチック材の屋根が立てられたベンチに座り、流れる滝が如く様々な思考をつらつらと流しながら、その双眸を深みを増していく空へと向けていた。
 艶のある黒髪の合間から覗く黒曜石の瞳、日本人独特の線の細い、儚さを感じさせる輪郭に、整った鼻梁。見る者にガラス細工のような儚い魅力を感じさせるような少年だった。
 黙考し、思案に耽る彼。その内に流れるのは無数の思考、煩雑な音で溢れ返る中で、集中を切らせる事が無いというのが、少年の得意とする事だった。
 様々な思考でごったになる中で、その思考が急に一つに纏る。
 彼の唇が、無意識にゆっくりと動き、言葉を紡いぎだす。 

 ――そういえば、”あの日”も、こんな雨の日だった。

 「ああう、ぐぅっ?!」
 懐旧の念が彼の頭をよぎった時、想像を絶する痛みが彼の体に襲い掛かった。
 体が、頭が、心が、軋む音がする。
 痛みの元凶は一つの記憶、止めようとも決壊したダムに貯留された水が止まらないのと同じように、いくら拒絶してもその映像は彼の脳内を流れ、雪の意識を刈り取ろうと鎌首を上げた。
 「はぁっ―――はぁ、――――はぁっ!」
 吐く吐息が荒くなり、心臓がバクバクと動悸する。
 体から飛び出すかのような心臓の動きを止めようと雪は両手で胸を押さえ付けるが、それも意味の無い事。落ち着く事の無い胸の動悸は、激しさを増す度に雪の身体を痛めつけた。
 それでも再生する事をやめないその記憶は、徐々にその鮮明さを増していく。

 それは、彼が最も輝き、そして穢れた日の記憶。
 それは、無数の生命の灯火が一瞬で掻き消えた日。
 それは、彼が許される事の無い罪を犯した日。

 消す事を許されないその記憶は、辛苦の魔の手となって雪の精神を掴み、離さない。そしてその握った手を強め、彼を少しづつ、陰険に苦しめてゆくのだ。
 彼の時計は、あの日を境に止まってしまっていた。
 再びその針が時を歩める事は、きっと、無い


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  • 雨は音色は→雨の音色は、かな? 相変わらず上手くて色々と羨ましいです、はい -- 名無しさん (2009-04-05 19:52:22)
  • 雪が犯した罪って何でしょうか。そして文章がやっぱりキザで格好いいと思いました。 -- 名無しさん (2009-04-06 18:40:29)
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