「はあ……」
拙者は眠い目を擦りながら、この城下町の店を回っていた。その理由は当然、あの日カガリがくれた石のお返しを探しているのだ。だが、眠い。三日も連続で早起きして、カガリにばれぬように店を回っているのだ。正直今まで夜行性だった拙者には朝はつらい。しかし、その甲斐もあってなのか、無事にカガリに似合いそうなお返しを買えた。
――そして当日。
「のう、カゲリ。次の目的地は何処じゃ?」
「ああ、二日三日はかかるよ」
「うえー……」
「ああ、二日三日はかかるよ」
「うえー……」
カガリはあの日のことを、そして今日が何の日かを忘れているかのように、いつもの態度だ。
「なあ」
そういって拙者は、カガリに一つの包みを渡す。かさかさとした音が、その包み紙の繊維の粗さを物語る。カガリは不思議そうな目でその包みを見ている。
「ん、これはなんじゃ?」
「ほら、覚えてないのか?二月十四日のお返しだよ」
「え……!?えええええええええええっ!!!!」
「ほら、覚えてないのか?二月十四日のお返しだよ」
「え……!?えええええええええええっ!!!!」
カガリは大声をあげた。此処がもし町や村だったら五月蝿い、と怒られてしまうぐらいの近所迷惑になる声だった。顔を見ると頬が桜色に染まっていて可愛らしい容貌だった。
「まさか……覚えてるとは。しかもいらぬと申したはずじゃぞ!?」
「それでも、お返しはせねばな。申し訳がたたぬ」
「……そうか」
「それでも、お返しはせねばな。申し訳がたたぬ」
「……そうか」
そういってカガリは包み紙を開けた。中には薄桃色の桜の髪飾りが入っている。
「これは?」
「拙者の梅の髪飾りと御揃いにしたのだが……、嫌だったか?」
「なっ、そんなことは言っておらぬだろう!?と、ともかくありがとうなのじゃ」
「拙者の梅の髪飾りと御揃いにしたのだが……、嫌だったか?」
「なっ、そんなことは言っておらぬだろう!?と、ともかくありがとうなのじゃ」
そういうとカガリは顔を背けてしまった。それが余りにも愛くるしいので、思わずくすり、と笑う。
「んなっ、カゲリ今笑わなかったか!?」
「いや笑ってないぞ?」
「ふむ……、本当か?」
「本当だ、誓うから、な?カガリ」
「じゃあ、これを髪に着けてくれるか?」
「はいはい」
「いや笑ってないぞ?」
「ふむ……、本当か?」
「本当だ、誓うから、な?カガリ」
「じゃあ、これを髪に着けてくれるか?」
「はいはい」
そういってカガリから拙者の手に髪飾りは移り、その髪飾りは拙者の手からカガリの頭に移っていく。梅の花散り、桜の蕾が膨らんだ、そんな暖かくも寒いある日の出来事であった。