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ベンジャミンの剣的空間


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そして

あれは結局夢だったのか。
もしくは現実か。
今となっては分からないけど、しかし――

+++

「ひゃははははははははははああああ――っ!」
と。
一人の青年が――可笑しく笑いながら、狂うように叫びながら。
一人の男性へ――真っ直ぐに駆けていき、一目散に駈けていき。

フォルテに向かって、剣を突く――!

……が。
フォルテは間一髪、手に持つステッキを器用に使い、その攻撃を受け止めた。
しかし、青年が繰り出したそれは――速度と強さをもうしぶんなく詰め込んだ類のものであったので、フォルテは剣を受け止めた際に、まともに衝撃を喰らってしまう。
「ぐっ――こ、の、馬っ鹿野朗が!」
そして痺れる腕を気にしながら、フォルテは反射的に悪態を吐いた。

+++

――少し時間を遡る。

彼は前兆も前置きもないままに、そこに居た。
「……何処だ、此処」
突然現れた彼は、首から上を除いた体全体を鎧覆った格好――大雑把に言ってしまえば、中世の騎士のような容姿である――をしていて、さらに腰には鞘つきの一本の剣を携えている。
するとそんな彼の呟きに答えるように、どこからか不機嫌そうな声。
「おいおいおい、てめえいきなり何言ってやがる。此処は、オレ様の私的空間だぜ?」
「……意味が、不明」
と。
短く青年は再び、何かを我慢しているように――否、抑えているかのように、呟く。
「はっ、意味不明なのはこっちのほうだ。てめえのその格好――仮装でもしているつもりか? この空間に、ハロウィンなんてくだらないイベントはねぇぞ?」
「……ならば、戦う」
「あ?」
おいおい、脈絡も何もねえことを言うんじゃねえ――と。
フォルテは続けようとした時。

彼は、腰に、手を、伸ばし――剣を、掴む。

刹那。
「いひひ」
と、不気味に不可解に、青年の顔が歪み始めた。
そしてそこで初めて、そして唐突に、彼は名乗る。
「俺っちの名前はベンジャミン――人は俺っちを『狂騎士』って呼ぶけどな。俺っちはやっぱり本当の名前の方が気に入ってるから、ベンジャミンって名乗ることにするぜ。というわけでだ――

――あんた、俺っちと一緒に熱く殺しあわないか?」


あ、ちなみに拒否権はないぜ?
青年――ベンジャミンは最後にそう締めくくり、大声で笑い始め――

+++

「楽しいな楽しいね楽しいだろあんたも!?」
「楽しいわけがねえだろうが!」
フォルテはそして必死の形相で、ステッキを持ち上げるように思いっきり剣をかちあげると――何故かそのままステッキを、上へと投げた。
その光景を、ベンジャミンはフォルテに追撃をしないままに、じっと見つめた後、
「……ひゃは、何してるのさ、あんた。降参のつもりか?」
「はっ、誰がするかそんなこと」
そして――ふいに。
ヒュンヒュンと、何かが回る音。
「さらに言うと、オレ様はお前と殺しあうつもりは毛頭もねえ。何故なら殺しあいにならなくなるからだ――」
フォルテは言いながら、ゆっくりと腕を音をする方――上へと伸ばし、何かを掴んだ。

何か、とは。
銀色に鈍く輝く――それは、一刀。

彼はそれを見せびらかすように、ベンジャミンに向けてから、
「――オレ様のほうが圧倒的に、てめえよりも強えからな」

+++

それからは早かった。
いやというよりも、数秒で決着はついた。
その過程は目にも留まらぬ速さだったために、詳細を伝えることはできないが。
――結果。
フォルテ対ベンジャミンの殺しあいという名の決闘は、前者の勝利でその幕を閉じた。

「……そんな、嘘だ」
「嘘じゃねえ。現実を見やがれ」
と言っても、此処自体は現実じゃねえけどな。
フォルテは言って、縄でがんじがらめに縛られたベンジャミンを見下ろす。

ベンジャミンは所謂、二重人格。
普段は無口で大人しい青年だが――しかし。
剣に触れた瞬間から、彼は『狂騎士』へと変貌する。
それでも、その二つの人格に共通することが在る。
「……俺っち、戦う」

……戦うの、好きだ。

「…………」
フォルテはそんな独り言のような呟きを、言いがたい意を込めた瞳で見つける。
「ならてめえは、音楽は好きか?」
「……音楽も、好き」
「は、そうかよ」
フォルテは軽く笑ってから――いつもの席へとつく。
それはすなわち、突如闇より現れた――黒いグランドピアノの前。
フォルテはひとつ、疲れたように溜息をついてから、言う。

「オレ様の音楽に、酔いしれろ」



+++

「ひゃははははははははははああああ――っ!」
と。
一人の青年が――可笑しく笑いながら、狂うように叫びながら。
一人の兵士へ――真っ直ぐに駆けていき、一目散に駈けていき。

そして、宣言する。

「俺っちはもう二度と負けねえからなあああああああ!」