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シーモの再的空間

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そして

あれは結局夢だったのか。
もしくは現実か。
今となっては分からないけど、しかし――

+++

僕はどうして、此処に居るのだろう。
眼前の『彼』を見ながら、どうしようもなくそう思う。
「……こんなことって、在るんだね」
「ああ、本当だな――シーモ」
そして『彼』は可笑しそうに、ケラケラと笑う。

昔、僕と初めて会った時と――まるで変わっていなかった。
と言っても、これで会うのは二回目。
その上、昔というのは、十年前。
子供だった僕という人間は、夢を持たない大人になっている。
だから、その理由もあって。
フォルテさんに変化が無いことは――僕にとっては異常に見えた。

と、まあ、こんなことをうじうじ考えていても話は進まない。
僕は眉を顰めて、訝しげに聞いてみる。
「よく、僕の名前を覚えていましたね」
「はんっ、天才のオレ様にとって、それは愚問だな。まあ、それだけお前が印象深かったっていうこともあるが」
……天才、か。
確かに『彼』は己のことを、天才の中でも郡を抜く天才と自負していた。まあ、そこには誇りと自信と言うよりも、空言と自称が混じっていた気がする。
だけど、
「印象深い……? 何処が」
「目だ」
「目?」
「オレ様のことを見下すように見る『小僧』の目、だ」
あん時は、驚いたぜ。
と、鼻で笑い、僕へと歩み寄る『彼』。
見下す、だって?

まさにその通りじゃないか。

僕はあの頃――世界に、いや、宇宙に存在する森羅万象を見下していた。
全てを哀れみ、全てを嫌がり、全てを嬲っていた。
何故なら。

僕は――天才だから。

全人類の中で、僕だけが正常で高尚な生き物だと、確信していた。
だが。
『彼』に出逢ってから、それは図らずも変わってしまった。
「お前の思っていることは分かるぞ、『小僧』」
僕はもう夢を持っていた小僧ではないと言うのに――何故貴方はそんなに突き刺さる呼称で呼ぶのですか。
貴方は、何せ。

僕が唯一、『天才』と認めた人。
僕が唯一――『音楽』に酔いしれられた人。

貴方は、誰ですか。
一体、何者ですか。


「オレ様は、フォルテだ」
『彼』はそれでも、そうとしか答えない。
頭の中を読み取るように――シーモと名づけられた僕という人間を、理解しているように。
「オレ様はお前に、ただの御伽噺を――フォルテの私的空間というタイトルのフェアリーストーリーを、提供しただけだぜ?」
「……だけど」
それが僕の人生を変えたんですよ?

現実しか知らない僕に、理想を教えてくれた貴方は。
僕は半端者だと気付かせてくれた貴方は――。

「茶でも出していきたいところだが生憎、オレ様は眠い」
そう言いながら『彼』は、昔のように真っ黒なピアノに向かう。
「おい、シーモ。よおおおく聴け。耳ん中に染み込むまで、弾いてやる」
「……はい」
僕は静かに返事をして、そのまま阿呆みたいに突っ立っていた。
『彼』は、薄く笑う。
(三度目は……あると思うか?)
(いえ、おそらくこれっきりでしょう)
そして。
合わせていた眼を――離して。
『彼』はとびっきり、格好良く言う。

「オレ様の音楽に――酔いしれろ」

+++

『彼』の音楽をかみ締めていた時。
僕は多分――涙を一筋流していた。
今となっては、分からないけどね。

結局。
僕の再的空間は、最適空間でした。
ということで。
めでたし、めでたし。

そんな風に、戯言を思って。
僕はようやく空を見上げる。