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今は斯く


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「この木が裸になる前に、ぼくは死ぬだろうね」

病院。
裏庭が見える窓側の白く清潔なベット。
病人が死んでいく純白の棺桶。
そんな真っ白で惨酷な、矛盾した場所に、居た。
奴は静かにそう呟くように言うと、窓から見えるイチョウの木から俺に端正な顔を向ける。
死んだ様な目。
深い洞窟の目。
生気が無い目。

俺の嫌いな目。

「ほら・・・・今落ちたので17枚目――つまりぼくは17回生き残ったんだ」
どんな理屈だよ。
なにがつまり、だ。
お前は三段論法を知っているのか。
俺はよく知らないけど。
「ねぇ、もしかして退屈してたりする?」
奴は伺うように俺の顔を覗き込む。
俺は無言で答える。
「そうだよね、何も無いもんね。ぼくは今君がいるから、退屈はしていないけど」
ふふふ、と小さく、遠慮するように笑う。
久しぶりに奴の笑顔を見た気がした。
否。
奴の笑顔なんて、とっくのとうに忘れていたから、初めて見たような錯覚に陥った。
「お前、そうやってもっと笑っていれば、少しは長生きするんじゃねぇの?」
気付いた時には、口に出ていた。
自分でも吃驚した、けど、それも必然だったかもしれない。
それもとっくのとうに決まっていたことなのかもしれない。
「うんうん、確かに、笑うと病気が治るっていう話は聞いたことがあるよね」
奴は無邪気な笑顔を浮かべたまま、続ける。
俺の嫌いな目を俺に向けたままで。
「けど、多分それは――100枚目が落ちるときが101枚目が落ちるときに成るだけのことなんだよ。きっと・・・・ううん、絶対に」
だんだんとトーンダウンしていく奴の声にうんざりしながら、俺はため息を一つ吐く。
ああ、ほら、まただ。
お前の目。
可能性を貪欲に求めようとする欲望が、枯渇している。
色んな大切なものが、渇いた目。

俺の嫌いな目。

「――別に、それでもいいじゃねえか」
100枚目が落ちたときから、101枚目が落ちるとき。
一枚分の時間。
その、短い時間の中に、何か価値を見出すことができるのなら。
例えお前の体が壊れていても。
例えお前の体が働かなくても。

イチョウの木が散っているのなら。
俺は笑ってお前の隣に居よう。
お前の最期まで歩いていこう。

18枚目が落ちた。
奴は、死なない。