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警告はきちんと聞き、出会いはいつも突然のものだと理解しましょう


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入学式からちょうど一ヶ月という、長いとも短いともとりずらい時間が経った本日。
二泊三日の宿泊学習の一日目である。

毎年、妖精界立第一高等学校では――諸事情によりどうしてもクラス内に限ってとなるが、生徒の親睦を深めることを主な理由に短い旅行を行っている。
それが、宿泊学習。

妖精界立第一高等学校においての、最初の行事ともなるのだ。

そんな――在る意味重要且つ大切なイベントだというのに。
「うわああああああ! 遅刻する遅刻する遅刻する――――っ!」
「……叫んだって空は飛べないよ、アイリス」
「分かってるわよ! ……ああ、今ほどノアが空飛ぶ絨毯だったいいのにと思った時はないわ。というか、飛びなさい!」
「…………はあ」
すでに決まり文句と化しているが――もはや、何も言うまい。である。
と、同時に。
――だけど、そこまで絶望的に時間が無いわけでもないな。とノアは思う。
確かに、此処から学校まで――全速力で、とはいかなくとも、走り続ければ間に合う距離に今現在自分たちは居るのだ。……が、しかしである。
「は、速いわよノア……貴方、本当に人?」
「いや、ただ単にアイリスが遅いだけだよ」
「なっ、そうはっきり言わなくたっていいじゃない!」
アイリスは体力は人並み以上あるが――運動神経は人並み以下なのである。何も無いところで転ぶのは日常茶飯事であるし(気をつけていれば『普通に』歩くことはできる)、スポーツなんてもってのほかである。ゴールがどこかすらも分からない――いや、それはいささか大袈裟かもしれないが、方向音ちなのは確かであるので、間違いではないのかもしれない。

とにかく。
速く走ることが出来ないアイリスが居るので――結果、遅刻は確定したと言っても過言ではない。
まあ、原因は目覚まし時計を壊し二度寝をしたアイリス本人にあるので、自業自得である。朝早く学校に行こうとして、寸での所で寝起きのアイリスに引き止められたノアもノアであるが――しょうがない。成るように成れ、である。

と、アイリスはふと歩みを止めて、
「――そうだ。近道を通りましょう、ノア」
と、言う。
「『きっと』この道よ!」
アイリスはそんな言葉を残して、わき道へと入った。
「き、『きっと』って……あ、ちょっと待ってよ!」
アイリスの前を走っていたノアは、素早く右回れ。そして、アイリスの背中を追う。
入った道は路地裏。
どうやら、もうひとつの大通りと繋がっているようだが、果たして――。
「あ……ノア、あれ見て!」
「?」
ノアがアイリスの指差す方を見ると――零とエレナが乗っている黒いリムジンが見えた。

当然、ノアとアイリスは黒いリムジンへと乗り、遅刻の難は免れたのであった。
「ラッキーだったね、ノア」
「元はと言えば誰のせいだ……」

+++

「――ウォールワット。妖精界を東西南北で分けると、東に位置する町だね。ふーん、森林が多いことで有名。また、民家を含む建築物は窓やドアに金の装飾がされていて、見るものを飽きさせない……らしいよ」
「へえ、そういうところなんだ。セシル、ご説明どうもありがとう」
「『そういうところなんだ』って、まさかアイリス、宿泊学習で何処に行くか知らなかったの?」
「え、そうだけど」
と、当たり前のように――または開き直ったように、アイリスは言った。

学校から二階建てのバスに乗り――ハミングシティステーションからウォールワット行きの汽車へ。目的地までは約二時間、線路の上を走り続けることとなる。
ノア達五人が居るのはその汽車内にある個室。その中には二列の椅子が向かい合うように設置されていて、それぞれ窓際から、エレナ、アイリス。そして零、ノア、セシル。のように、男女に分かれて座っていた。

「……ところで」
と、どこか神妙な面持ちで零は言う。
「先日会ったアイリスの父親――アポト二ティーさん、だったか。その人が言ってたことが本当なら、これからの三日間は一人で行動するのは控えたほうがいいな……」
「確かに、零君の言うとおりなのです」
エレナはそして、零と目を合わせ頷きあうと、窓を背に回した状態で皆のほうを向く。
「万が一にも『ゴーレム』が出てきたら、一人だと危ないのですからね!」

+++

「ようこそ――そしてはじめまして、アイリスの父親のアポト二ティーといいます」
黒色の長髪を後頭部で一くくりでまとめた、端正な顔立ちの男性。
名を、クルー=アポトニティー。
世界が終わった戦いで活躍した二人の騎士の内の、一人である。
かつて妖精界一の剣術の腕前を持つとも言われていたが――おそらく今現在もそうであろう。ノアに剣術を教えたのも、この人である。
「チェインから話は聞いています。立ち話もなんでしょうから、どうぞ上がって下さい」
「そういうわけだから、皆遠慮なく入って入って」
「…………」
クルー家とは小さい頃からからお世話になっているノアだったので、アポト二ティーとも仲が良かったが――未だに、何故あんなに礼儀正しい父親から『あんな性格』の娘が生まれたのかが、理解できなかった。まあおそらくは、母親から受け継いだのだろう。

アポト二ティーから話されたのは、やはり怪物についてだった。

怪物――正式には『ゴーレム』と呼ばれるそれらは、元は時空に住んでいた生き物だという。
時空、とは。
人間界や妖精界とはまた別に無数に存在する空間のことである。
「昔なら、時空から妖精界に生物が移動するのはありえないことだったんですが――人間界と妖精界が近くなったことで、それは『ありえる』ことになってしまったようです」
世界と世界の関係がずれたのなら、その周辺にある空間にも何かしらの影響が出るはずである。

その結果が――ゴーレムの出現。

それに加えてもうひとつ、『ノア達にとって』都合の悪いことがあった。
「実は君たちが見たあのゴーレムが、最初に妖精界に現れたゴーレムなんです。ゴーレムの出現は前々から学者達が予想していたひとつの可能性だったのですが……見事、現実になってしまいました。しかし、それよりも――その最初に出現した場所が妖精界立第一高等学校の敷地内ということが、問題なんです」
妖精界は人間界と同じくひとつの世界なのだから――それなりに広い。

その中でよりによって、わが子が通う高校にゴーレムが『最初に出現』したことが、アポト二ティーは心配でならないのだ。

「勿論、偶然という可能性のほうが大きいです。しかし、学校の『誰か』を狙ってゴーレムが意図的に現れたという可能性は無いわけではないですから。日頃常に神経を張り詰めてまで気をつけろとは言いませんが、一応用心にこしたことは無いでしょう――

――しかしもしもの時は、くれぐれも死なないようにしてください」

以上が、宿泊学習の約一ヶ月前にノア達が聞いた、話の内容である。
そして、この翌日。
柏乃曲零は転校生という形で、妖精界立第一高等学校に入学したのだった。

+++

それは――ノア達が二時間の汽車の旅を終えて、ウォールワットの地へ足を踏み入れた頃。

黒い閃光が晴天に奔った。
今度は、二本。
1本はハミングシティ。
もう1本は――東へ。

「綺麗だなあ……」
ジャイルは丘に寝そべっていた。
緑色の草の中に、白髪がよく映える。
ちなみに、彼は学校には通っていない。その稀有な髪色や目の色から他人にあれこれ言われることが、彼は苦手なのだ。それ故、こうして外に出るのはゴーレムが出てきた時に限っている――が、それも時間の限界なのだろうと、彼は思い始めている。
ダークヒーローはアクティブでないと。

「さて、近くに閃光が奔ったようだし、ゴーレムを操るとしようか」
ジャイルは起き上がり、ずれた銀縁眼鏡を直す。

「僕の『空操(からくり)』の力でね」

+++

世界が終わった戦い。
それが完結する前まで、妖精には例外なく、特別な力を持っていた。
が、しかし。
今ではもう――そうゆう妖精はほとんど居なくなった。
そう。
ほとんど、である。

居なくなったわけではないのだ。

スクエア=ジャイル。
彼が生まれながらに得た力とは――『空操(からくり)』。
人以外の生きているものを自由に操る能力である。

その力で、今回も前回と同じように操ろうとしていた。
しかし、想定外のことが起きた。
いや、ゴーレムは確かに出現し――それこそ目の前にいるのだ。
ただしその姿は異形のそれではなく――。
「……君、本当にゴーレム?」

ジャイルの目の前に居るゴーレムは――人の形をしていた。

重力に逆らい逆立った髪。真っ黒に塗りつぶされたような眼。赤い口の中の鋭い牙。
精々人と違うと言えるのは、それぐらいだろう。
もし、百人がこの場に居たとしても、一人も『これ』がゴーレムだとは思わないだろう。しかしそれでも、『これ』は間違いなく人以外の何かであり、凶悪なのであろう。
「ぎゃはは、何だよその間抜け顔!」
「間抜け顔……?」
「そうさ、その顔を間抜け顔と呼ばずに何と呼ぶってな!」

そしてもう一度、ぎゃははと楽しそうにひとしきり笑うと、彼はジャイルに顔を近づける。
「へえ、赤い眼か。こうしてみるとお前、兎みてぇだな」
「なっ……う、兎?!」
ジャイルの顔は憤怒と羞恥で赤くなっていた。完全に――彼のペースに引き込まれていた。このような点があるからきっと、ジャイルはまだダークヒーローに成りきれないのだろう。悪党は例外を除き、相手の話を聞かないものである。
「お前を兎と呼ばすに何と呼ぶんだよ――ところで、此処は何処だ? 答え,ろ兎」
「僕は兎じゃない!」
「じゃあ、うさぎくん」
「うさぎくんでもない!」
「うさたん」
「もう止めてくれ!」
「ぎゃははははは……って、お、お前、何泣きそうな顔してんだ!」
……とんだ茶番劇である(もしも赤い彼がこの場にいたら、笑劇だとも言うのだろうか)。

ジャイルは己に「みっともない」と叱咤を加えると、ゴーレムに向きあう。
この時。
彼にはひとつ、この場で生まれた考えがあったのだ。

ゴーレムを操るよりも、ゴーレムを説得して勝手に暴れさせたほうがいいのでは、と。

ジャイルは言う。
「――僕の名前は、スクエア=ジャイル。君は?」
「あ、名前か? 名前は無いぞ」
「…………え」
またも想定外である。
すると、「しょうがないなあ」とジャイルは呟いて。
「ルノワール=オブ=ゴーレム」
「ん?」
「ルノワール=オブ=ゴーレム。僕が決めた――君の名前だ。ルノワールが名前で、ゴーレムが苗字」
「じゃあオブは何だ?」
「ミ、ミドルネーム……?」
疑問系である。
本当に頼りない悪党であった。

しかしこうして、彼の作戦の第一段階は無事に終了したのである。