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悪党


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「に、逃げたわね、ノア……事が終わったら、承知しないんだから……!」
怪物にしばらくの間、振られ続けられたアイリスは、もうすでに意気消沈としていた。さきほどの元気はどこへやらである。
そんな姿を、校門の外より発見したものが二人。
「あ、アイリスさん!」
リムジンから真っ先に降りたエレナは、ぐったりとしたアイリスを見て今にも泣きだしそうだ。しかしその隣で零は、あくまでも冷静に、
「この怪物、さっきの黒い閃光と何か関係があるのか……?」
と、呟く。
一方怪物は、リムジンと共に現れた二人に気付いているのかいないのか――再びアイリスを振り出した。
と。
ノアが、居た。

学校の屋上から身を投げて――落ちていた。

落下していく先には、怪物の頭。
ノアの手には、掃除ロッカーから取り出したモップ。
「――っ!」
零はその光景を見た瞬間、動いた。
校門に手をかけて、一気に乗り越えて――ひたすら走った。
そして。
「アイリス!」
ノアは声を張り上げながら、モップを構える。
彼の声に反応した怪物は――上を、向いた。
まるで謀った様な、絶妙なタイミングだった。

ノアは渾身の力を込めて、モップを怪物の額に向かって振り下ろした――!

……が、しかし。
割れたのはモップの方だった。

どうやら、怪物は頑丈らしい。
「……へ?」
ノアは思わずそんな声を漏らしながら、怪物の横に向かうように落ちていく。
エレナは顔を覆い、アイリスは目を見張ってそれを見ていた。

……が、しかし。
落ちたのはモップの方だった。
「……誰?」
ノアは思わずそんな問いをしながら、己を間一髪で受け止めた少年を見つめた。
そして零は受け止めた衝撃で痺れる腕に顔をしかめながら、その問いには答えずに、
「……お前は、何でそんなに勇敢なんだ」
と、切実にそう聞いた。
この時。
柏乃曲零は腕の痛みと、そして感覚より――これは現実なのだと認めた。

俺は今、妖精界に居る。

はっきりとそう思った。
「え、それは……危ない!」
ノアが零の問いに答えようとした瞬間、背後に居た怪物が伸ばした爪から避けるように、零を引っ張りながら横へと逃げる。ちなみにアイリスは怪物に捕まったままである。
続く爪の追撃をかわしながら、ノアは言う。

「言っても君は分からないかもしれないけど――八妖精っていうのが昔居て、その中でもアルター=チェインとクルー=アポト二ティーという妖精が、世界が終わった戦いで活躍したんだ――

――ぼくには、その勇敢な騎士の血が流れている」

だから、怖いもの知らずなんだ、と。
ノアは言って――そして、零に名乗った。
「ぼくの名前はアルター=ノアといいます」
「……俺は、柏乃曲零」
「さっきはありがとう。よろしく、レイ」
そしてノアは――余裕たっぷりに――怪物に捕まったままのアイリスを指差す。
「ついでだけど、彼女の名前はクルー=アイリス。ぼくと同じく、勇敢な騎士の血が流れてる」
「そんな説明はいいから早く助けろノア!」
「危ないですよカシノキさん!」
アイリスとエレナは、同時にそう叫んだ。

+++

ここでいきなりだが――さきほどノアが居た学校の屋上へと場面を移そう。
「……び、吃驚した」
上半身を起こした状態で倒れている少年は、『隠れた』時にずれてしまった銀縁眼鏡を指で直し、
「僕の仕業だってばれたのかと思っちゃったよ……」
そして、少年は安堵の溜息を吐いた。

+++

時は少し遡る。
「まさかこんなに上手くできるとは思わなかったなぁ」
銀縁眼鏡の少年は屋上の手すりにもたれながら、怪物が暴れるグラウンドを眺めていた。

「『ゴーレム』って意外と『操りやすいねぇ』。予想以上だよ」

そんな意味深な言葉を言いつつ、彼は怪物の手をさらに振らせようとしたが――。
後ろから小さな音――屋上へと続く階段を登る音が、銀縁眼鏡の少年の耳に届いた。
「え、ま、まさか……?!」
人が此処に来ると思っていなかった彼は、屋上のドアを開いた時に死角になりそうなところへと、ひたすら走った。
しかし、ドアが開くと同時に――彼は、見事に転んでしまった。
運動神経は、決して良い方ではないらしい。
小声で「僕は関係ありませんから僕は何もしていませんからっ」と、まるで祈るように呟いていた銀縁眼鏡の少年だが、屋上へと着いた『誰か』は、一目散に手すりへと走り――そしてあろうことか、それを飛び越えて、落ちていった。
勿論、この『誰か』というのはモップを持ったノアである。
そしてうつ伏せになっていた体を仰向けに戻して、少年は、「……び、吃驚した」と呟いた。

+++

「…………待てよ、まだそう決め付けるのは早いかな」
先ほどの人が僕に気付いていない可能性を、果たして無いと言えるかどうか。

僕の髪は白い上に癖毛で、しかも、眼はどうしようもなく赤いというのに――!

ここで、少年について紹介しよう。
彼の名前はスクエア=ジャイル。
この話の、悪党役となる。

ジャイルは立ち上がると「まあいいや、言い訳はいくらでもあるしね」と言って(実際、ノアはアイリスを助けることに必死で、彼には気づいていなかった)、再び手すりへと向かう。
しかしまたしてもその背後で、ドアの開く音。
「うわっ!」
ジャイルは先ほど行こうとした場所に――今度は転ばすに――すべりこむ。

「ううん? さっきの金髪黒髪少年は……何処だ?」
そう言いながら、ドアから現れた茶髪の少年。

重ねて、紹介しよう。
彼の名前はナイトメア=セシル。
ノア達とこれから深く関わることになる人物であった。

+++

怪物がグラウンドに現れた時。
妖精界立第一高等学校の体育館では入学式が行われていた。
勿論、セシルは一人の新入生として出席していたので、安全が確認されるまでは体育館に待機しなければいけないはずなのだ。
しかし、セシルは見てしまった。

体育館の外の廊下を駆けて行く――ノアの姿を。

「しかも、何でモップ?」
それに――怪物が出現しているこの状況で、何やらかすつもりだ?
セシルは好奇心から、こっそりと体育館を抜け出すことを決定し、ノアの後を小走りで付いていった。

+++

「ううん? さっきの金髪黒髪少年は……何処だ?」
セシルは辺りを見渡すが――人影は見当たらない。
もしかして、と思い、手すりの下を覗きこむ。
「へえ、アレが例の怪物か……あ、さっきの少年」
ちょうど、零に受け止められている場面だった。
「成程成程、モップを使って撃退か。なかなか面白いね――

――そんじゃあオレもやってみようかな」

と。
彼は気楽に簡単そうに言うと、ニヤリと笑う。
「…………」
ジャイルはその後ろから、ひっそりとその様子を見つめた。
そして。
セシルは手すりに手をかけた。
とすれば――彼が今しようとしている行動は眼に見えているだろう。

セシルは躊躇も無しに飛び降りた。
それこそ、先ほどのノアのように――。

「!」
ジャイルは唐突に視界から消えたセシルに驚き、恐る恐る手すりの下を覗きこんだ。
セシルは落ちていた。
重力に逆らうでもなく、落ちていた。

+++

「――え?」
最初にセシルを見つけたのは、校舎から離れた校門に居るエレナだった。
「人が、人が落ちてるのです!」
エレナの声に反応して、アイリスを含めた三人が上に視線を向ける。
その瞬間。

セシルはどこからともなくロープを取り出した。

そしてそれを――怪物のほうへと投げた。すると、ロープはまるで生きているかのように、怪物の四肢を巻き上げた。
「え、ちょ、ちょっと待てってば――うわっ!」
捕まえられていたアイリスは怪物の手から零れ落ち――無事に、ノアと零に受け止められる。
そして怪物は地面を鳴らし、倒れた。
「ありゃ、やりすぎちゃったか?」

そう言うセシルは、空中に浮かんでいた。

ノア達がその光景を、目を丸くして凝視していることに気付いた彼は。
「……それじゃあまあ『お客さん』もいることだし、自己紹介でもしとこうか。オレの名前はナイトメア=セシル。将来の夢は――妖精界一の、マジシャンだ」

+++

「な、何だよ今の……」
信じられないという顔で、ジャイルは屋上から身を乗り出し、空中に浮かびながら自己紹介をするセシルを凝視していた。手が動揺でわなわなと震える。
「しかも『ゴーレム』、いつのまにか縛り上げられてるし――まあだからと言って、白旗を揚げるつもりは毛頭もないけど」
あっさりと気持ちを切り替え、眼鏡を直し、ジャイルは元の手すりにもたれる姿勢に戻る。
そして――ふと校門に目を向けると、新たな人物。

金髪の男性だった。

+++

「そんな柔なロープで手足を雁字搦めにしたぐらいで、その『ゴーレム』を拘束したことにはならねぇぞ?」

金髪碧眼。端正な顔立ち。赤い眼鏡。ラフな格好。
彼の姿は知らなくても、名前ならばこの妖精界に住む人なら誰しもが知っているだろう。
それこそ教科書に載っているぐらいなのだから。
彼こそがアルター=チェイン。
静かな生活をするために、姿のみは公共に対し非公開にしているが、勿論、彼と友好関係にある者ならば素性を知っている人も居る。

チェインはエレナの横に唐突に現れると、ぶっきらぼうにそんなことを言った。
「え……あ、あの、ノア君のお父様が何故此処に居るのですか?」
エレナは訝しげに、首を傾げる。
「ああ、エレナか。いや、此処の方向に黒い閃光見えたから気になってな」
チェインはそして、目をエレナのほうには向けずに、真っ直ぐに怪物を捕らえる。
「それに、『ゴーレム』ってあの怪物の名前なのですか?」
「まあそんなとこじゃねえのか? 俺も実際、クルーから聞いた話だしな。詳しいことは分からねぇ。事が終わったら聞いてみたらどうだ?」
「えっと、貴方が言うクルーは確か……」
「アイリスの父の方だ。前も会った時に言ったけど、俺がクルーって呼ぶ時はいつもそいつだから」
そしてチェインは怪物を見据え――真剣な顔で、

「もしかしたら『ゴーレム』は――俺たちの活躍が在ったから、此処に存在しているのかもしれねぇな」

と、深刻そうに呟いた。

+++

ブツ、と。
まるで縄が解れ、千切れるような音が聞こえる。
聞きたくなかったのに、聞こえてしまった。
「……あ、あれれ?」
冷や汗をかきながらセシルが振り返ると――こちらを睨みつける怪物の姿が在った。相当ご立腹らしい。
「……あ、あはは。御免ね、どうやら手品は失敗みたい」
誤魔化すように笑うセシルに、アイリスはずかずかと詰め寄り、彼の制服の襟を掴む。
「何なのよ貴方! キザっぽく登場して怪物を倒したと思ったのに、何で怪物を怒らせてんのよ! セシルって言ったっけ、貴方、責任とってよね。大人しくこいつに食われてきなさい」
「む、無茶言うなよお嬢さん……オレだって精一杯頑張ったんだよ?」
「そんなこと知ったこっちゃないわよ!」
二人がそんな茶番劇をしている間も、怪物はゆっくりと爪を二人に向けて――。
「危ないアイリス!」
「え!?」
「!」
ノアは間一髪、アイリスを押しながら伸びた爪の攻撃を避ける。セシルもノアの声に反応し、横へと逃げていた。
「……此処は一旦、逃げたほうがいいんじゃないのか?」

零がノアに近付いて、焦るようにそう伝えると、
「だけど、そしたら校舎が危ない……今まではぼく達が怪物の気を引いてたし、何をしでかすか分からない」
ノアは言いつつ、アイリス達と怪物との距離を取り――己の父が居ることに気付いた。
「あれ、何で父さんが?」
「今はそんなことはどうでもいいだろ。それより、さっきから気になるんだけどよ――あいつの腹に何か付いてねぇか?」
チェインが指さした方を見ると、確かに、怪物の腹には鈍く光る黒い宝石のようなものが埋め込まれていた。