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御昼

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【妹の暗き心を浄化するのは兄の優しき愛情と絆】



エミールハミング自然公園。
妖精達の憩いの場でもあり、悲劇の舞台ともなった場所。
そんな、矛盾した公園。
もしかしたらあるいは、あの物語は此処から始まったと言っても正しくのかもしれない、が。
今は、そんなことが重要ではなく。

サイラー・リビーにとっての岐路が此処に存在していたということが、重要であって。
サイラー・エドワードにとっての日常が此処で滅却されたということが、重要であって。

実は、重要などという言葉はこの際関係ないのかもしれないということが、重要なのかもしれないが。
こんな戯言のような前置きは、これくらいで締めくくることにして――。

とにかく。

リビーはエミールハミング公園に在る二人がけの白いベンチに、孤独に一人で座っていたのだ。
ベンチから遠くとも近くとも言えない、そんあ距離に生える此処の公園のシンボルとも言える大きな木をどこか懐かしいように――否、恨むように、呪うように、そして悲しそうに。そういった負の感情をその紫色の瞳に宿し、見つめる。
リビーの他には、誰もいない。おそらく、夕方から行われる宴のために準備やら料理やらで忙しいのだろう。そんな時に公園に来る人はきっと、宴に興味が無い人や、宴の仕事が無い暇人。
しかし、リビーはどちらにも当てはまらない。
彼女はただ単にきっと、あの昔に起こった殺戮事件を――。

と。
リビーは小さな声で、

「嫌い」

私は、
私の体も私の心も私の人生も私の宿命も私の運命も私の使命も私の悲劇も含めて――私に関わる万象全てが、嫌い。

大嫌い。

嫌いというよりも、それは苦手とか絶望。
そう結論付けると、今ではもういないはずのあの赤い絶望が「まさに悲劇のような笑劇だ」と、背後で笑っているような気がしていたので。
「リビー」
「!?」
驚いて、即座に、リビーは背中の羽に手をかけた――と言っても、剣の扱いには自信がない――。が、振り向いたその瞬間、そこにいたのは勿論赤い絶望ではなく、彼女の実の兄。すなわち、
「エド兄様・・・・」
「どうしたんだ、てっきりホーリーハウスにいると思ってたんだが・・・・」

「ホーリーハウスは、八妖精達が集う家ですよ。双方の世界が近付いた今、もう世界調整の儀式をする必要はないから、私は、もう八妖精の名を語る必要はないはずですっ」
何故か自信満々に、腕を組んでそう答えるリビー。
「まあ、それはそうなのだが・・・・リビー、何で『此処』に来たんだ?」
その問いの裏には、

どうしてわざわざ平和な時に、心の古傷を再び開くようなことを?

という問いも混じっていることを、察して。リビーは少し真面目な顔つきをして、
「清算しようとしたんです。決着をつけようと思ったんです。私は、もう、自分が嫌いになっちゃいそうだから」
そして、自嘲気味に小さく笑って「何で私は私なんでしょう?」と、問いかけた。

私の生きる道は何故こんなにも悲劇が惨酷なのでしょうと、問いかけた。

公園から離れたところで、人々の明るい声が聞こえる。世界は平和で何よりも希望に満ちている。自然は色とりどりに空間を染め、生物は様々に空間を照らす。時も前より、ゆっくりと流れるようになった。
静かな空間と空気。
それを打ち破り、低い声でエドワードは、
「リビーが、まだ父上や母上のことで悔やんでいるのなら、それは確かに無くてはならない感情だが、無駄だとも言える」
「・・・・・・・・」
リビーはうなだれたようにして、己の足元を見ながら、言葉の続きを待つ。
「だが、私は、リビーがリビーを嫌いだとは思ってほしくは無い――

――私は妹としてのリビーを、誇らしく、愛すべき存在と思っている。

だからその苦難を、『彼が遺した』悲劇を、乗り越えたら、世界は変わる」
「・・・・はい、分かりました、エド兄様」
顔を上げて――綺麗に、薄く、リビーは微笑む。
「なら、私はまず、アポト二ティー様に失恋したことを、乗り越えます」
「・・・・そうか」
こういう話題には、どう触れたらいいか分からないエドワードはとりあえず、短くそう返した。

と。
視界の端に金髪が見えた。
よくよく見ると、それはチェインの髪だと分かり、同時に、彼の向かう先には夕日のよく見える丘だということも分かった。
空を見上げると、日がすでに傾いている。
「・・・・もうすぐで、宴の準備も終わるだろう。リビーも私と宴に来るか?」
「はい、勿論です!」
リビーは明るく吹っ切ったように言うと、エドワードの腕を取り、並んで歩き出した。

+++

私は、
私の体も私の心も私の人生も私の宿命も私の運命も私の使命も私の悲劇も含めて――私に関わる万象全てが、嫌い。

大嫌い。

そんな感情が好きに変わるまでは、時間がかかるかもしれないけど。
だけど。
エド兄様は、いままでもこれからも、ずっと大好きですからね。
リビーは心の中でそう呟くと、少しだけ美しく見えるようになった町へ、一歩。