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「平和ですね」


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そして、コアの内部では。
平和と期待と運命と――そして希望が、互いに螺旋していた。

美しく咲いていた花は徐々に枯れて、唯の雑草と化していく中、チェインはディーバの腕を掴ん
だままで、
「――なあ、何か無いのかよ」と、言う。
「何がです?」
「お前が死ぬことなく、世界の崩壊を止める方法だよ」
チェインのそんな問いに、ディーバは微笑んで答える。
「無いですね」
即答。
僅かに抱いていた希望もそんな一言で破られて、チェインは深いため息を吐く。
――方法が無いからって諦めたら、あいつ等に会わす顔が無いしな・・・・。
と、チェインが心の中でぼやいていると、目の前の少女が突然。

「あ、だけど・・・・もしかしたら、可能かもしれない」

「ホントかっ!?」
するとチェインは、ディーバの両肩にそれぞれ手を置いて、真っ直ぐにディーバの目を見つめる。
「どうすればいいんだ!」
「え、あ・・・・ま、まず! 貴方、どうやってコアの中に入ったんです?」
ほのかに頬が朱に染まりつつも、ディーバは凛とした声で言う。
「ああ、これだよ。このリンゴに八妖精の力を込めたんだ」
チェインはそう言って、肩から手を話すと、懐からリンゴを取り出した。ディーバはそれを少し眺めた後、手に取って両手で包むように持つ。
「・・・・おい、何するんだ?」
「・・・・私の魔力を込めるんです」
すると同時に、少女の手は淡く光る。光りが消えても尚、リンゴは光を放っていた。
「これを、どうする?」
チェインが問う。
「――天秤に触れるように、立てかけて置くんです。そうすれば、私の代わりに魔力を天秤に注ぐはずですから私とアブソーは死なずに済みます。だけど、二つの世界の繋がりがおかしくなってしまうかもしれない」
そしてディーバは、「それでもいい?」とチェインに改めて訊いた。
彼は、小さく頷いて、

「勿論だよ、親愛なる女神様」

キザっぽく笑って、言ったのだった。

+++

この気持ちは何だろう、と。

自分にずっと問い続けていた。

チェインさんといると、一刻一刻が楽しくなって。
チェインさんといると、一秒一秒が美しく見えて。

この不思議は何だろう、と。

自分にずっと問い続けていた。

チェインさんが傷つくと、私は悲しくなって。
チェインさんが疵つくと、私は苦しくなって。

これは何だろう。
これは何だろう。

――そして、やっと。

これは、想いだと気付いたんだ。

アルター・チェインという人は、私にとって大きな存在なんだと。
理解して、解釈して。

ああ、そうなんですね、ノヴァ叔母さん。

確かにこれは、とても美しい感情だと思います。

私は、この想いの名前を、今なら自身と誇りを持って言えます。
だから。
時間はかかってしまったけど――。


私は今、幸せです。


+++

「――・・・・チェイン、さん?」

と。
聞きなれた、しかし、くすぐったいような声が聞こえて――チェインはまじまじと、少女の顔を見る。

黒い双眼。

ディーバの瞳から、強きな光が消えていて。
アブソーの瞳から、優しい光が溢れていて。
長い髪もすっかり短くなっていて――。
実際、アブソーがディーバになっていたのはとても短い時間だったかも知れないけれど、チェインはアブソーを懐かしく感じて、
「・・・・アブソーの人格に、戻ったのか?」
確かめるように、チェインは言う。
「そう、みたいです。だけど、何でチェインさんが此処に?」
そう問うのと同時に、アブソーは急に『本能』が裏に引っ込んだことを不可思議に思いながら、自分の髪を摘むように触る。
「まあ、色々とあってな・・・・とりあえず、ここから出るか」
「はい、そうですね・・・・ところでチェインさん、私が戻るまでの間に何かあったんですか?」
そんな問いに、チェインどこか言いずらそうにしながらも、
「・・・・分かったよ」と、前置きをしてから、今までディーバがやったことを大雑把に話し始めた。

+++

――そして、幾分かの時。

話し終えたチェインは、疲れたようにため息を吐いた。
すると、
「何をしているのですか!」
案の定、アブソーは大声で叫ぶ。
「もしも・・・・もしもそれで世界がどこか可笑しくなってしまったら・・・・私は――」

「生まれた意味が無い、とか言うんじゃねぇぞ?」

と言って、チェインは、頭をかきながら、
「あのよ、お前は『全ての生きるもの』に希望を与えるのが義務であり、使命なんだろ? だったら、その中にお前もいるんじゃないか?」
「・・・・どういうことですか」
アブソーが首をかしげて言うと、チェインは「つまりだな、」と言って。

「アブソー、お前も『生きるもの』だったら、誰かしらに救われないといけない

――そのための、『騎士』だろ?」

と、言って。
チェインは自らを指差す。
すると、アブソーは目を伏せて、どこかきごちなく問う。
「・・・・あの、チェインさん。貴方が『騎士』だと言うんなら、どうして私を助けてくれるんですか?」
顔を上げて、アブソーは大きな目でチェインの顔を真っ直ぐに見つめる。
チェインは思わずその純粋な目から視線をずらし、顔を僅かに赤らめて、しかし、きっぱりと、ゆっくりと、
「・・・・本来なら、よ。か、帰った時に伝えるはず、だったんだけど、な・・・・・・」
そこで、小さく深呼吸。
そして、チェインは必死に、アブソーを見つめた。

女神の黒眼と騎士の碧眼が交差する。

「お、俺、さ・・・・お前が――」

刹那。
地面が割れた。

眼の交差が、同時に、無くなる。

枯れた花が、
渇いた土が、

地面に存在しているものが、割れて。
そしてそのまま――沈んでいく。

「な、何だよ、これ・・・・!」
チェインは突然の状況に困惑しつつも、すぐさまアブソーの傍に近寄り、
「早く逃げるぞ!」
と言って、少し乱暴にアブソーの腕を引っ張る――だが。

アブソーは、動かない。
ディーバは、動かない。

「・・・・私が、・・・・・やらなければいけないんです。そうしないと、世界は・・・・」
「けど、もう魔力を込めたリンゴは天秤に立てかけて置いた――なら、世界は崩壊なんてしないはずじゃねぇのかよ」
「きっとそれじゃ、駄目なんです。私じゃないと、いけないんです」
そんな言葉を紡ぐアブソーの眼は――どこか違和感のある雰囲気をかもちだしていて。
と。
再び割れた場所から、周りが引きずまれるように沈んでいく。
そしてその範囲は、もうすでに二人がいる場所まで侵食してきて――。
「きっと、リンゴにつめた魔力だけじゃ、足りなかったんです・・・・やっぱり私が直接・・・・!」
アブソーはそういい残して、今や岩場と化した地面を、どこかおぼつかない足取りで走っていく。
「な・・・・おい! 止めろアブソー・・・・っ!」
焦ったチェインは、その後を追うために足を一歩踏み出す、が。
その瞬間。
アブソーが、振り返り、
惑わすように、魅せるように、薄く笑う。
それは、まさに、希望の女神――ディーバの笑みで。

「希望が枯渇している」

と、言う。
そして、続ける。

「純潔なる私に、こんな絶望等は要らない。無垢なる己に、こんな悲愴感は入らない――

私にもっと笑顔と歓喜と喜びを・・・・!」

そうして、アブソーは、天秤へと足を進めた。

もしも。
ファント。
彼が絶望だけを追い求める絶望中毒者だとするならば。
ディーバ。
彼女が希望だけを追い求める希望中毒者だとするならば。

時と場合によって、どちらも大して変わりもなく人を不幸にさせるのだろうと、その時チェインは思った。
「待てアブソー! その先に地面は――」
「・・・・え」
フワッ、と。
独特の浮かぶ感覚。
その先には先の見えない暗闇。
その先には不安にさせる黒色。

嗚呼、落ちてしまう。

まだ希望は完成していないのに、と。
『希望』しか求めない彼女には最早、己やアブソーの身の危険についての興味は皆無で――。
と。
腕に確かな感触。
チェインがアブソーの細い腕を必死に掴んでいた。
「・・・・っ、待ってろ、よ」
「・・・・・・」
そして、時間もあまり経たない内に、アブソーは無事に、地面の上に立った。
「やっぱり、意識だけを本能化しても、思うようには動けないんですね。・・・・何故、助けたのです?」
「は、ま、まあそりゃあ・・・・た、大切な存在だから・・・・」
顔を真っ赤にして答えるチェインに、アブシーはため息をついて、
「・・・・そ、もう、いいです。あなた達にはほとほと呆れました――それじゃあ、私は大人しくしています」

これ以上の希望を創ることは、もう無理そうですし。

と、言い残して。
最後に綺麗に笑って。
残ったのは、幼げな少女の眼。
「・・・・チェインさん? また私、意識が無くなってしまったんですが・・・・また何かあったんですか?」
「いや、何でもねぇ。そんなことよりも、早くここから出て――」

言って、チェインが立ち上がろうとした瞬間。
彼が立っていた地面が、まるで謀ったように、崩れて、奈落へと落ちていく。
驚愕の表情のチェインと共に、落ちていく。
「チェインさん!」
アブソーが、手を伸ばす。
チェインは一瞬で、彼女が自分の体重を支えきれないと、判断して。
その手を、振り払い。

「――――」

声には出さず、呟いて。
どこか、悲しそうに、悔やむように、しかしとびっきりの笑顔で。


ああ、落ちる。
けどそれも良いか。

彼女のためなら――・・・・。

+++

「あのさ、これは一体どういうことかな? マニ」
「僕に聞いたって・・・・分かりませんよ。タイニー」
タイニーとマニ――二人の視線の先には、

眩いばかり光を放つコアがあった。

「どうして・・・・アブソー様とチェイン様が何かしたのでしょうか・・・・」

「さあね――だけど、この様子は決して悪いわけではなさそうだよ」

そんな意味深なレンシーの言葉に、眠っているクルーの傍にいたティーは、
「レンシー、何が言いたいの? この世界は、どうしちゃったの?」
どこか不安そうに、訊いた。
すると、レンシーは上――天井を見上げて、言う。
「消去法だよ。もしもアブソー達が失敗してたら世界はとっくの昔に地獄になってるはず。ケド、そうなってないってことは、世界のバランスは保たれたってこと・・・・」
「しかし、もしもバランスが保たれていたのなら、このコアの輝きは一体――」
未だに光り続けるコアを不思議そうに見ながら、エドワードが言うと、
「僕が唯一分からなかったのは、それだよエドワード。だけど、冷静に考えるとさ――世界のバランスが正常になった場合に、そのコアの状態は有り得ないんだよ」
そう言って、レンシーはどこか楽しそうな顔を、皆に向けて、

「ならもう答はひとつしかないよ、それは――」

+++

そんな中。
コアの様子は一変していた。
枯れた花や乾いた土などは、もう無くて――。

「これで、終わったんでしょうか」
咲き乱れる花々をベットに横たわりながら、アブソーは言う。
「終わったはずだぜ、何もかも」
隣に同じように横たわるチェインは、そう返す。
そして二人は、お互いに顔を合わせて、同時に、笑って、

「平和だな」「平和ですね」


あの時。
「チェインさんっ――!」
と、アブソーが叫んだ時。

突如、チェンが落ちた地面の裂け目から花が飛び出したのだ。

驚く暇も無く、チェインはその花の勢いで上に吹っ飛ばされた後、姿勢を整えて、地面に降り立った。何が起きた、とアブソーに問う前に、全ては終わっていた。
さきほどの光景が夢だったかのように、静かに、綺麗に、花は咲く。

そして、今。
「――さっきのは、何だったんだろうな」
チェインは青空を見上げながら、隣に訊く。
「私にも、よく分かりません。だけど、世界の崩壊を止めることはできました」
「ああ、そうだな」
そして、静寂。
風邪のささやきだけが聞こえる。
と。
「そういえば、世界のどこが可笑しくなったのでしょうか」
「・・・・この様子だと、どこも変わってないように見える・・・・あ」
チェインは起き上がって、周りを見渡し――ある物を見つけた。
「・・・・?」
アブソーはそんな様子を不思議に思って、その先を追うように見る。

天秤についてあるはずの二つの皿が、無くなっていた。

それは――天秤、とは最早呼べないだろう。
『柱』とでもいうのだろうか。
しかし、それが放つ威厳は未だに在ったので、『ただの柱』というわけではないらしい。
そこにはちゃんと、世界を調節するだけの魔力が在る。

「で、何で皿がついてないんだ?」
チェインは上半身を起き上がらせて、地べたに座る姿勢になる。
アブソーもそれにならって、同じ姿勢に。
「・・・・推測、です、あくまで」
言うと、アブソーは『柱』を指差して、
「天秤というのは、皿を使ってバランスを量る道具です――だけど、今の天秤には肝心の皿がついていません。つまり、その役目を終えたんだと思うんです」
「・・・・ていうことは、何が言えるんだ?」
チェインが眉をひそめて、隣へ首を向けて問うと、アブソーは何故か微笑んで、

「役目を終えた、ということを言い換えると、もうする必要が無い、ということです。
そう・・・・チェインさん、つまり世界は最終的に救われたんです。何故なら――

+++

「それは――人間界と妖精界、二つの世界はひとつになったってこと」

レンシーはきっぱりと言って、皆の反応をうかがうように見る。
案の定、その顔に浮かんでいたのは、驚きと困惑。
「え、ちょっと待ってくださいレンシー様。ならば、今ここにも人間が・・・・」
「いや、そういうわけでも無いと思うよ、リビー」
その声の方へリビーが顔を向けると、タイニーが指を顎に当てて、何やら考え込んでいた。
「もしも、人間達が直接この世界にやって来てたら、それこそ世界が丸ごと変わっちゃうはずさ。勿論、僕たちがいる儀式の間もね。だから――二つの世界がより密接な関係になった、と言ったほうが正しいと思うね」
長い説明を一気に言ったタイニーは、一度息を吸って「理解したかい?」とおどけて尋ねる。
すると、今まで黙っていたエドワードが頷いて、
「大まかに、だがな。・・・・まだ私達は全ての現状を把握しきれてはいないかもしれない、だが、ひとつ言えることはあるだろう?」
「そうだね、確かに」
そしてティーは、クルーに語りかけるように、彼の顔を覗き込んで言う。

「最後の戦いは、私達の勝利で終わったんだよ」

クルーの顔に、微笑みが浮かんだように見えた。


+++

「今度こそ、戻るからな・・・・」
「はい、今度こそ戻りましょう」
どこかうんざりしたように頭をうなだれるチェインに対して、アブソーは生き生きと笑顔を浮かべていた。
「くそ・・・・こんなに時間かけるつもりじゃなかったのに・・・・俺の気持ちも・・・・」
「チェインさんどうしました?」
「い、いや。何でもない」
そうですか、とアブソーは笑顔を浮かべて――

前兆も何も無く、チェインの腕に己の腕を絡ませる。

「な、おいアブソー! お、お前・・・・」
「チェインさん、私、嬉しいんです」
「な、何がだよ」
いつもどおり、赤面でそんなことを言うチェインに、アブソーは少し笑ってから答える。

「チェインさんもクルーさんも皆無事なままで、終わったことがです」

そして、二人は。
アブソーの力を再度使って、花咲く世界から出たのであった。

+++

そして、結局。
この物語は誰が主役だっただろうか。
愛した希望と壊れた絶望か。
無垢な少女と純粋な騎士か。
はたまた、赤い絶望の再生だったのか。
それは彼らが死んだ後の未来に遡ったって、分かりはしない。

しかし、それでも。
全てが終わった時。
笑っていたのは――彼女だったのだから。
世界は希望で満ちるだろう。
そこに、誰が話の中心かなど、関係が無い。


それはひとつの果実から始まり。
それはひとつの果実より終わる。

そしてそこから、また何かが始まるのだろう。



まだ、彼らの物語は、終わりではない――。



                               それはひとつの果実からⅤ End...
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