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「オレはお前に逢えて良かった」


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静寂と絶望。
それらが螺旋しながら、時間は着実に過ぎていった。
クルーの死を乗せて――。
「嫌です・・・・そんな、クルーさんが・・・・・・」
アブソーが、弱弱しい声で言った事をきっかけに、皆は今の状況が決して夢では無いと理解する。
横たわったひとつの屍の目が、二度と開かれないということを。
横たわったひとつの屍の顔が、二度と微笑まないということを。

その、悲しくも絶対な事実を。

「嘘、だろ・・・・こんなこと、在ってたまるかよ・・・・・・!」
チェインは、言いながら、今は亡き親友の姿を見る。
「チェイン、駄目だよ、駄目なんだよ――リビーの力を使ったとしても、クルーはもう刺された時点で死ぬ運命にあったんだ・・・・・・」
タイニーは、チェインの服の裾を――涙を堪えて震える手で、掴む。
「あいつ・・・・ファントは、剣に何か魔力をかけてたんだ――剣が薄く光を放ってたから。・・・・僕がそのことにもっと早く気付いていれば、対処法はいくらでもあったのに・・・・!!」
だけど、しかし。
人がいくら後悔しようと、人がいくら行動しようと。

――死んだものは、決して蘇らない。

還らない。戻らない。
会えない。遭えない。
それは絶対の真実。

「いやぁあああああああああああああああ!!!」
リビーは、叫ぶ。
大粒の涙をこぼして、
叫ぶ。
いつまでも。
それは続くかのように。
「アポト二ティー様アポト二ティー様アポト二ティー様ぁあ!! 私が代わりに死にますからあ、早く目を開けてくださいよお!!」
リビーは、もはや正気では無かった。
人一倍、『人の死』に敏感な彼女は――クルーの死によって、壊れてしまった。
今までの、苦痛と、悪夢を、開放するように――。
それはまるで祈り。
と。
リビーは己の羽を紫色の剣に変えて、自らの喉に添える。横に居たエドワードは血相を変えて、剣を持つ腕を抑え、
「リビー・・・・!!」
「エド兄様離して――」

「おいおいおい仲間割れしてていいのかよ――世界が崩落しそうな時だって言うのに」

そんな、言葉。
足がすでに金色の粒子に変わっている――ファントから、声がした。
「・・・・ファント、もう、死んだんじゃ・・・・!」
クルーの傍らで、涙を流しながら、ティーは睨みつける。

「そうだね、多分、もうじき――『オレ』は死ぬから、そんな怖い顔すんなよ」
「え・・・・」
そして。
アブソーは、気付いた。
赤い絶望の不自然な口調と雰囲気に。
『私』がファントの人格――つまり、本能。
ならば。
『オレ』と言う理性とは――。

「貴方はビーさんなのですか?」

「へぇ、オレのニックネーム知ってるっていうことは――あんた、オレの知り合いでも知っているのか?」
ファントは、さきほどよりも幾分か穏やかな表情で、訊く。
「・・・・ノヴァ叔母さんから、貴方のことは聞いています」
「成程、ノヴァのお孫さんってことか・・・・名前は?」
アブソーは、ほんの少しだけ迷ってから、こう答える。
「――アブソーです」
他の皆は、二人の会話の半分も理解できておらず、目の前の光景に呆然としていた。
「そ。でさアブソー、コアを見てみな」
アブソーは素直に、コアに視線を向ける――そこには、輝きを失った水晶があった。
「僕の作戦には、ひとつだけ欠点があった」
タイニーは、静かに話し始める。
「マニが巨木の力を借りて力を使うと――その周辺に、その魔力の影響が及ぶことがあるんだ。だから、もしそういう事態が起きたら、僕は生命の珠を使うつもりだったんだ」

「コアを元に戻したいっていう、願いを叶えるためにね」

そこで、チェインは「だけど」と、前置きを入れて言う。
「レンシー、レンシーの力を使えば・・・・また過去の世界に戻れば――」
「それも、無理だね」
と。
突然、チェインの目の前に現れたレンシー。
「おまっ! いつから起きてたんだ」
「唄が始まった時から。――まあ、それよりともかく。実はさ、クルーが刺された直後に、その事実を変えれるかどうか、過去とか未来を行ったり来たりしてたのさ」
レンシーは珍しく、目に悲しみを浮かべながらクルーを一瞥し、続ける。
「ケド、駄目だった。この『今の状況』以外は――僕たちがどう足掻いたって、世界は崩落してたよ。おかげで、何回も死にそうな状況に出くわしちゃった・・・・」
と。
すでに足が金色の粒子となって無くなったファント――ビーは口を開き、
「つまり、お前達は選ばなきゃいけないってことだな――

――100%の世界の平和と友の死か、99%の世界の崩落と友の生か、どちらかを」

「――そんなの、答えは決まってます」
マニは、静かに、しかしきっぱりとそう言って、

「僕たちは、世界かクルーを救うなんて選択はできません。だから、両方救います」

と。
皆は、それに同意するようにうなずく。
リビーは兄の手を握りながら、
エドワードは妹の手を握り返しながら、
ティーはクルーの体を支えながら、
タイニーはリンゴを抱えながら、
チェインは剣を持ちながら、
そして、

アブソーは何かを決意しながら。

マニは口を開いて、
「コアが魔力の影響で狂いかかっている今、世界は崩落しつつあります。――生命の珠をクルーのために使うとしたら、またその対処法を考えなければいけません。その対処法を。貴方は、何か知っているんですよね」
長い言葉の後、マニは視線と指をビーに向ける。
「お前の言っていることはまちがいない。オレは知ってる。だが、これは危険で難しいうえに、一部の者しかできない。――ファントならあるいはできたかもしれないが、今はもう、いない」
ビーは、今はまだ赤い眼を――期待を織り交ぜて、『希望』へ向ける。

「今、この場で、それができるのは――もうお前しか居ないんだ、アブソー」

それは、もしかしたら。
アブソーが本当の意味で、『ディーバ』としての義務を果たした瞬間なのかもしれない。
唯一の希望。
それは暖かくて明るい光。それは強くて凛とした心。それは美しくて優しい女神。
アブソーは言う。
「はい、分かりました――私が、希望を、創りあげます」
その一瞬。
否、もう一度。
「・・・・・・・・」
アルター・チェインはアブソーに一目ぼれをした。
そして、
「・・・・さすが、オレの恋人だ」
ビーは、誰にも聞こえないような、小さな小さな声で呟く。

「ノヴァ・・・・お前の遺志は、ちゃんと継がれてたよ」

+++

「本当に、大丈夫なの?」
「はい、大丈夫です! 私はきっと生きて帰ります!」
ティーの不安そうな声に、コアの前に立つアブソーは、笑顔でそう答える。
「さっき言ったことは、ちゃんと覚えてるよな?」
ビーは確認するように問う。アブソーがそれに短く肯定の返事を返すと、
「それじゃあアブソー。オレはもうじき生命の珠となって消えそうだから、最後に言っておくよ」



「オレはお前に逢えて良かった」

そして、突然ビーは、まるで独白するように、静かに語る。
「『ファント』に成ったあの時から――
後悔はしなかったのか、悔しくはなかったのかと、 自分にずっと問い続けた。自分にずっと唱え続けた。
忘れないように、忘れないように。自分を言葉で痛め続けて、決して忘れないように。
そして、
これはきっと、『ファント』に対しての復讐なのだろう。
けど、きっと彼女は復讐なんていう悪意に満ちた言葉を、嫌うから。

オレは、アブソーという名の女神に手を貸したことを、奇跡と呼ぼう」

そんな言葉を遺して、ビーの体は完全に金色の粒子と成った。
愛する彼女にやっと会えるという喜びからなのか、それは星や月よりも輝き、そして、タイニーの持つリンゴへと吸い込まれていく。

そして、結果的にそれが、ファントの最期となった。

ファント。
絶望的に強大な魔力の主。
彼は。
ずっとずっと、昔から。
人苦しめて人を傷つけて人を滅ぼして人を憎んで、そして何よりも――人を愛して。
星の数ほどの人々と、様々な形や姿で関わってきた。

そんな、赤い絶望。

ファントはビーと共に、消えて。
後に残ったのは、八妖精とディーバと、そして――
金色に輝くリンゴ。
ひとつの果実。

「ほら、アブソー」
タイニーは、今まで大事そうに持っていた生命の珠を、アブソーに手渡す。
「アブソー、僕は――君がこの戦いを終わらせるべきだと思うんだ」
そして、タイニーは顔を上げ、アブソーの顔を見つめて、
「君が此処に来た時から、すべてが始まった気がするんだよね」
ニッコリと、綺麗に笑った。
「タイニーさん・・・・」
アブソーは、頷いて、改めて己の手にあるリンゴを見つめる。
――前に食べた時は、何を願いましか?
自分自身に、そう問いかける。
――妖精に、会いたい、と。そう、願いました。
リンゴを両手を使って、口の高さまで持ち上げる。
――だけど、きっと、それは自分のための願いだったから。今度は、他人のために願います。
小さな口を、遠慮するように開ける、

――皆に希望がありますように。

一口、かじる。
ほのかな甘みが口全体に広がった。
「あっ!」
と、背後から驚いたティーの声。
「・・・・クルーが・・・・呼吸してる・・・・!」
ほっと胸をなでおろしながら、ティーは言う。
と。
「なぁ、アブソー」
チェインは、アブソーの手をとっさに握って――アブソーの黒い眼を真っ直ぐに見つめる。
「え、あ、あの・・・・チェインさん?」
心臓の鼓動が早くなったことを不可解に思いながら、アブソーはとぎれとぎれにそう言った。
すると、チェインは、顔をだんだんと赤くしながら、
「お、お前・・・・生きて、帰れるんだよな?」
「あ、はい。大丈夫だと・・・・思います」
「そうか」
「はい」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
二人は、手を繋いだまま、長い沈黙を過ごし。
そして、
「――お前が、ここに戻ってきたときに・・・・は、話したいことが、あるんだ」
一層顔を赤くしながら、チェインはそう紡ぎ、手を名残惜しそうに離した。


「だから、絶対帰って来い」



命令口調で、そんな事を言う彼は。
まさしくアブソーが知っているアルター・チェインだったので――。

アブソーはずっとこの時間が止まらなければいいのに、と思った。

何故、そう思ったのかは、まだ少女には分からないけど。
「ずっと、前。チェインさんは私に約束してくれました」
そして。アブソーは、微笑んで、
「私のことを守る、と。だから私は、今、この場所に臆して立ってはいないんです――

私がディーバだと、堂々と言えるのは、チェインさんのお陰なんです」
「アブソー・・・・」
そして、アブソーは。
手をコアに添えて、『吸収』の力を使い始めた。
手が、淡い光を放つ。
「アブソーがコアの力を『吸収』――まあ、実際はコアのほうが魔力が強いから、コアの中にとり込められる形になるけど――ディーバの力をコアの残った力を合わせれば、世界の崩落を食い止めることができるはず、か・・・・さて、どうなるんだろうねえ」
そう言ったレンシーは、儀式の間の天井を見上げて、誰かに言うように、
「君が、最後に遺した絶望の種は――芽を出さずに済むのかな、ファント」
と。
アブソーの姿が、だんだんと透けていって、
「――それでは、いってきます」
すこし前に、誰かに言ったような台詞を言う。
そして、
一瞬の閃光。
「っ!」
チェインが光に慣れて、眼を開いた時には――

アブソーの姿は、無かった。

アブソーが消えて――閃光が完全に消えた後。
ぼんやりと、あるいは虚ろに、チェインはコアを見つめていた。


――遂に、行っちまったな・・・・。
チェインはすでに剣を羽に戻していて、どこか物足りなそうに、開いた手を見る。
多分、初めて、アブソーの手を握った。
そして、はやり。
繋いだ手は、暖かかく――。
「何一人でニヤニヤしてんるのさ」
「うおっ! ・・・・タイニー、吃驚させるなよ」
ワザとではないかと疑わせるほど、チェインの動きが大袈裟だったので、タイニーは思わずケラケラと笑う。
「吃驚させる気は無かったはずなんだけどね・・・・ところで、さっきアブソーに言った」
「わぁあああああ!! そうだった、やっちまったよ俺・・・・」
――遂に、言っちまった・・・・!
と。
今頃、その発言の重大さ――アブソーは気付いていない様だが――を理解したチェインは、赤面する。
タイニーはそんなチェインに――あるいは自分に、どこか呆れて肩をすくめる。
何故僕はこんな男に惚れたんだろう、と。

刹那。
エドワードがふと口を開く。
「そういえば――赤い絶望が最後に言った言葉に、気になることがある」
「え? エド兄様、どこか可笑しかったんですか?」
リビーがそう返すと、エドワードは皆のほうを向いて、
「99%の世界の崩落と友の生。結果的に私達はこの選択を選んだ、しかし、ならば何故――アブソーは世界の崩落を食い止めることが出来るというのに――『99%の世界の崩落』なのか・・・・」
「ふーん、そう考えれば、何か違和感はあるね・・・・」
タイニーはしばし、エドワードと共に首を傾げる。
チェインはその間、再びコアへと碧眼を向ける。

先ほどの会話で芽生えた――微々たる不安を心に抱きながら。

「アブソー、お前・・・・大丈夫だよな・・・・?」

+++

「・・・・・・・・」
アブソーは現在、コアの中で戸惑っていた。
否。
焦燥していた。

上も下も左も右も分からないのは勿論。
立っているのか聞こえているのか視えているのか喋っているのか生きているのか――全てが不確定。
この空間に在るもの、全てがあやふや。

その原因は――この世界が白だからだろう。
まるで、白いキャンバスに放り込まれたような――。

「・・・・取り合えず、何か見つけましょう」

『不確定な白』に飲み込まれないようにと、自分に言い聞かせながら――

アブソーは、まず、一歩、進む。

+++

「――まさか・・・・!」
コアの中で、アブソーが探索している時。
マニは珍しく動揺して、震える声を絞り出す。
「ど、どうしたの? マニ?」
ティーはリビーの力を使ってクルーの体を治癒しつつも、顔をマニに向けて言う。
「あくまで、仮説です。しかし、これが本当だとしたら・・・・」
「・・・・言ってみてよ。エドワードが言ったことについてかい?」
タイニーの問いにうなずいてから、マニは、とぎれとぎれに言葉を紡ぐ。
「――99%の世界の崩落、とファントが言ったのは、選ばせないためだったと思うんです。つまり、僕たちの選んだ選択は、どこか彼にとって都合の悪いことがあった・・・・」
「しかし、ファントはその時点で、死ぬことは決定されているはずだ」
と、冷静にエドワード。
「今更、彼にとって都合の悪いことなど――」

「もしも、彼がファントじゃなくて――アブソーは言った『ビー』という人だったら」

リビーはその言葉に、はっと気付いて、
「そういえば、アブソー様はそんなこと言ってましたよね・・・・」
「つまり、何かしら関わりがあるってこと、君はそう言いたいのかい?」
マニはうなずく。
「そして、もしそうだとしたら――世界の危機が迫っているこの状況で、ビーにとってそれに勝るほどの都合の悪いことと言うのは、多分――

――アブソーが、死ぬこと」

+++

無音無臭無色。
不確定な白色。
アブソーは今、そんな空間のちょうど中心に、居た。
上を見上げて、驚いたような表情を浮かべている。そんな少女の視線の先には――

巨大な天秤。

身の丈の何倍もある、その大きな天秤は――水平では無い。右に大きく傾いている。
そんな天秤に圧倒されながらも、アブソーは一度深呼吸をして、
「ここに、魔力を注げばいいのですよね・・・・」
そう言って、天秤に手を添えようとした瞬間。
どこからか、声。

――私を解放しなさい。

「・・・・え?」

――『本能』を、ありのままに。

声の居所が分からないこともあって、アブソーは少しその声に恐怖を抱いていたが――すぐにひとつの可能性にたどり着く。
「・・・・・・もしかして、ディーバさんですか?」
と。
不安そうな声で、そう言ったのと、アブソーの全身が光に包まれたのは、同時だった。
肩までの長さがあった艶の在る黒髪は――みるみるうちに腰まで届くくらいの長さまで伸び。
アブソーの体は、淡い光を放つ。
「ふふふ、ではさっそくですが――

――罪の無い人と愛する人のために、希望を創りましょう」

+++

「――おい、待てよ」
チェインは、マニを振り返って――どこか絶望した顔を見せる。
「それが、本当だったら・・・・あいつは俺たちのために死ぬっていうのか!」
「・・・・そういうことに、なります」
マニは、あくまでも冷静にそう答えて、コアに目を向け、続ける。
「けど、僕だって――アブソーに死んでほしくないです・・・・友達なんですから」
「なら――」
「チェイン。私達はもうすでに決断してしまったんです――

一人の女神を犠牲にして、世界を救うということを」

エドワードが静かにそう言う。
そして、チェインは、その言葉と現実を、ゆっくりとかみ締めて、悔しそうに、
「これが・・・・お前が遺した、最後の悲劇だっていうのかよ・・・・!」
誰ともなく、呟く。
と。
「チェイン、君はさ――それでいいのかい?」
タイニーが、仁王立ちをしながら続ける。


「さんざんアブソーのことを守りたいとか言ってるくせに、誰かが何かを言っただけで、君は騎士の義務を諦めちゃうのかい? はんっ! 僕が知っているアルター・チェインは、もっとずっと格好良かったはずだ!!」

「『絶望』に負けたら、君は『騎士』なんかじゃない。だたの臆病者さ」

最後に、冷たく――しかし、何か期待するように、タイニーは締めくくった。

+++

「――順調、ね。ふふふ」
アブソーは、どこか大人びた調子で慎ましく言うと、手を天秤に添えたままで振り返る。

そこには、不確定な白の面影はどこにも無く。
代わりに、暖色の花畑と澄んだ青空が広がっていた。

「さすがの私でも、コアの中に入ったことは無いですから・・・・これは貴重な体験と言えるのでしょうね」
そして、小さくふふふと笑って、アブソーもといディーバは、世界の平和を願って、コアと共に世界のバランスを保ち続ける。
「嗚呼、だけれど、きっと・・・・コアが完全に回復したら」

私は膨大な魔力の影響で、死んでしまうのでしょう。

淋しく、悲しそうに、そう言いながらも。
しかし、その表情は恍惚と希望に満ち溢れていて――。

「アブソー!」

刹那。
そんな声が、聞こえて。
はっと気付いた時には、チェインが天秤に添えた手を掴んでいた。
「あ、貴方は・・・・」
「おい、早く此処から出ろ・・・・このままいたら死んじまう・・・・!」
必死の表情を浮かべるチェインに、ディーバは少し戸惑って、
「ちょ、ちょっと、離してくれませんか? このままじゃコアを直せません」
「直さなくていい!」
と、即答して、チェインは無理矢理天秤からディーバの手を引き剥がす。そして、その影響なのか、背後で綺麗に咲いていた花が、みるみる枯れていく。
「え、え、ま、待って! それだと世界が――」
「そんなのどうでもいい!」
「な、何を・・・・言うのですか」
ディーバは、意味が分からなかった。
何故、この男は、世界を救うことを拒むのか、と。何故、この人は、世界をどうでもいいと言えるのか、と。
ふと、ディーバは自分に向けられた碧眼を見て、その問いの答を知った。
――・・・・嗚呼、分かった。この子は私、いえ、アブソーを守りたいのですね。
なんて、美しい。
その澄んだ青き眼に宿るのは、愛しいという気持ち。
「お前、ディーバなんだろ? だったら、皆に希望を与えることがお前の使命なら、俺にも希望を与えてくれよ――


俺にとっての『希望』は、アブソーなんだ!」

+++

「へえ、やればできるもんなんだね」
レンシーはあくまでのんびりと、そんな事を言った。

あの後。
ティーはふと提案した。
マニが膨大な魔力を溜めるために使った方法を、もう一度、今度はチェインに試したら、と。
そこで、アブソーが一口だけ齧って、今はもう魔力の残っていない生命の珠を器として、そこに八妖精の魔力を溜めることにしたのだ。
コアの中には、魔力の強いものしか入れない。
チェインはその制限を魔力を溜めた生命の珠を媒介として、中に入ることに成功したのだ。

そして、残された者にできるのは、ただただ祈ることだけ。

「アブソー様とチェイン様・・・・大丈夫でしょうか・・・・」
「あの二人なら、平気だろう」
そんな兄妹の会話に、耳を傾けていたタイニーは、ケラケラと軽く笑ってから、
「じゃあさ、エドワード。その発言の根拠は何さ?」
悪戯っぽく聞いたタイニーに、エドワードは、少し躊躇してから、

「愛、というのは、時に奇跡を生むものだからな」