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「私は貴方の騎士【ナイト】ですから、貴方を死ぬまで護ります」


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あの時から――
後悔はしなかったのか、悔しくはなかったのかと、
自分にずっと問い続けてきた。
自分にずっと唱え続けてきた。

忘れないように。
忘れないように。

自分を言葉で痛め続けて。
決して忘れないように、と。

そして、
これはきっと、復讐なのだろう。
けど、きっと彼女は復讐などという悪意に満ちた言葉を、嫌うだろうから。

オレはこれを、奇跡とでも呼ぼうか。

+++

「お前ら全員こっち向きなよ!!」
タイニーが突如、叫ぶ。
皆は無意識にそちらを向く形になり――結果的に、その言葉に従う。
一人の少女に、視線が集まった。
「た、タイニー、一体どうしたんですか」
「もう儀式をする準備は整ってんだ。早くお前もこっち来いよ」
クルーとチェインが、それぞれにそんなことを言った。
「そうそう、二人の言う通りだよ、タイニー。さっさと儀式を終わらせようよ」
呆れた表情で、レンシーがなだめる様にタイニーに声を掛けた。
と。
タイニーの隣で、ずっと黙って立っていたアブソーが、透るような声で、

「――それは、悲劇を始めるためですか?」

それがすなわち合図の言葉。
タイニーが声を張り上げる――!
「チェイン!! そいつはファントに操られているレンシーなんだよ!!」
「っ?!」
レンシーが驚いて目を丸くする。
その一瞬の隙。レンシーが力を使って逃げる前に――
「状況が分からなくても、お前の眼が完全な緑でないことは分かるぜ!!」
チェインは剣のつかをレンシーの腹に突き、気絶させた。レンシーの体は重力の法則に従って、崩れ落ちるように倒れる。

「ふぅ――どうやら、貴方は未来からやってきたのですね。小さな女神」

同じように。
『いつか視た未来』のように。
ファントはコアの上に立っていた。
「おい、赤い絶望。僕は今から予言してあげるよ――

――君は、僕達との最後の戦いに、負けるだろうね」

そんな、堂々とした発言に、ファントは軽く笑った後、
「・・・・なかなか、面白い冗談ですね」
「冗談かどうかは、終わった後に決めなよ」
そして、タイニーは――今まで懐に入れていた、己の力で小さくしていおいたテディベア、もといマニを手のひらに乗せて、ただ一言。

「解除【リセット】」

解除とは、それまで己のかけていた力を消去する呪文。
つまりタイニーの場合、今まで小さくしていたものを元の大きさに戻せるのだ。
それだけの、はずなのに。

まるで魔法のようだ、としか言えない。

テディベアは光りながら、徐々に大きくなり、そして――
少しずつ少しずつ、人の形になっていく。
そして、
幾分かの時間。
腰まで伸びた銀髪。
幼さを強調する大きな淡い青色の双眼。
子供。

「この姿では、はじめましての人もいるかと思うから、自己紹介です」
現れたのは、大人びた調子で、そんなことを言う八妖精の一人。

「シューマ・ルマーニュです。友達からはマニと呼ばれています。以後、お見知りおきを、お願いします」

こうして、
一人の幼い少年が、
悲劇の舞台に現れた。

「だからと言って、何が変わるんです?」

ファントは可笑しく笑ってから、続ける。
「確かに――八妖精は皆、魔力と技術、そして精神が優れている。・・・・その少年は確か、物と人を自由自在に操れる力、ですよね」
そんな問いに、マニは頷いて、
「そのとおりです、ファント。しかし、だからと言って貴方をマリオネットのように操れるだけの力は、今の僕にはありません」
と、きっぱりと言うマニに、チェイン達はますます、何故ここにきてマニが出てきたのかが分からなくなる。
と。
クルーはさきほどの言葉に違和感を覚えて、

「マニ、今貴方は――『今の』僕には、と言いましたか?」

その問いに、マニは先ほどと同じように、薄く笑みを浮かべながら、頷く。
「そう・・・・今の僕はできない、けど、力を解放した僕なら――ファントの動きくらい、制御できる」
マニが強く言い放つのと、手が異常な量の光を発したのは、同時だった。
「っ!」
そのまま、ファントは、体が空気に縫い付けられたように動かなくなった。ファントの顔に焦燥と、疑問の色が浮かぶ。
――何故、どこから、私を操る力を・・・・!!

「その力は、元々巨木のものさ」

タイニーが短く答えて、説明を始める。
「そもそも、マニをテディベアにしたのは、単に僕の悪戯だった。けど、僕が時空から戻ってきた後、『テディベアのマニ』を使ってファントを倒す唯一の方法――悪戯を思いついた」
そして、タイニーは身動きのできないファントを見据えて、続ける。
「悪戯には、何か強い魔力が必要だった。そこで、僕が協力を要請したのが、とある時空で出逢った巨木。――皮肉なことに、君が飛ばしてくれた時空にいたんだけどね!」
君――ファントを指差して、タイニーは得意そうに言った。
「ふむ、成程。つまり、その巨木の力をマニに込めさせた訳ですね。そして、力を込めるためには何か入れ物が必要だった――それがテディベアだったんですね」
「そのとおりです、クルー。そして、現に僕は少しの間、こうしてファントを操れるのです」
と。
言い終わったとき、
どこからか笑い声が聞こえた。
赤い絶望が、ふふふ、と、

「だから、貴方達は何がしたいのですか?」


「・・・・どういう、ことですか?」
アブソーは不審に思って訊くと、ファントはかろうじて動く口を開いて、
「少しの間、と言いましたね、少年。つまり、その時まで私が気をぬかなければ、状況はこちらのペースとなる。かと言って、今のうちに私を殺.そうとするのも、決して賢明な判断では無い、むしろ無謀と言えるでしょうか――こんな束縛をするだけ、無駄だったんですよ少年」
「殺.すなんて言葉は、似合いません」
マニはいきなりそう言って、淡い青の双眸を、赤い絶望に向けて、珍しく、キザっぽく言う。

「僕は今からこの悲劇を、ミュージカルに仕立て上げます」

と。
皆は至極当然のようには、キョトンを首をかしげる。
「・・・・あはははは、ミュージカル、ね。君は歌を私に歌わすつもりかい?」
それならはりきってやりますよ、と。おどけていう彼に、タイニーは冷たく、しかし楽しそうに言う。
「『歌』じゃあなくて、『唄』だよ、ファント――

――生命の唄【いのちのうた】さ」

+++

「――あの、エド兄様・・・・生命の唄って何ですか?」
今までのやり取りを、一歩二歩下がった場所からしっかりと聞いていたサイラー兄妹。
レンシーが実は操られていたり、一連の事件の首謀者のファントがいきなり現れたり、マニが突然人に戻ったりと、そんな事柄に呆気にとられていたため、しばらく言葉を発することができなかったのだ。
そして、そんな不慣れな状況の中で、リビーがボソリと呟いたのがさきほどの問いだった。
エドワードは、目の前で動かなくなっているファントから目を離さないままで、その問いにゆっくりと答える。
「リビー、君は・・・・知らなくても当然だ。その唄は・・・・とてつもなく難しくて、危険で、何より・・・・美しいのだから」
「・・・・あの、危険なのに美しいとは、一体どういうことなのです?」
「それが何故かということは・・・・『今のリビー』には分からないかもしれない、だが・・・・確かにこれだけは言える、もしも――

――もしも、ファントが生命の唄を唄ったのなら、この戦いは、終わる」

+++

「・・・・ふふ、成程、よく考えましたね。さすが小人、と言った所か」
余裕の笑みを浮かべて、そんなことを飄々と言うファントに――
タイニーは困惑していた。
というより、驚いていた。
――何で・・・・こいつは笑っていられるんだ・・・・!!
「だけど、八妖精対赤い絶望の勝負は――赤い絶望の勝ちで終わったようですね。まぁ、それも無理はないでしょう。確かに、生命の唄を私が唄えば、あなた達の勝ちです。しかし、唄うだけでは足りないのですよ、小人さん」
そうおどけて言って、挑戦的な赤い眼で、射抜くように、タイニーを見て、
「史上最高で前代未聞の悲しい悲しい悪戯は、失敗したんですよ」
残念ながら、ね。
と。
最後に、そう言ったファントの眼に、また別のものが映っていた。
彼にとって、絶望的なあるもの。
「ファントさん、貴方はまちがってます」
アブソーは――右手に持っていた物を、布をほどいて外に晒す。

真っ赤に熟した赤いリンゴ。

「私も勝負には、参加しているんです」
アブソーは、強くそう言い放つ。
今、ファントの眼には、彼女はただの少女として、映っていなかった。


希望的に強大な魔力の主。
最愛の希望。
ディーバ。


「巫山戯るなぁあああああああああ!!!!」
咆哮。
そして、
「こんなことがあってたまるかよぉおお!! 赤い絶望は絶対的で圧倒的な存在にして誰からも恐れられる人物のはずだろうがぁあ!! おい少年、さっさと力を解け!! 私は絶望を与えるために生まれたんだからよぉおおお!!!」
怒号のような、しかし悲しい叫び。
アブソーは静かに、それを聴いて、
「ファントさん、私は希望を与えるために生まれました。だから、私は――その義務を果たします」
「小さな女神・・・・ならば、私を助けて希望を与えてみろ!! それがお前の義務であって仕事なんだろ!!」
「だから、今与えるんです」
アブソーは、目を丸くしているタイニーに、リンゴを渡して、赤髪が乱れたファントを見つめて――そのさらに奥を見るように、
「私はビーさんを救います」
と。
その瞬間。
ファントの口が、唐突に開いて――


「我は歌う――――」


そして、この唄が、
ある騎士の最期までのカウントダウンになることを――
まだ、誰も知りはしなかった。

+++

生命の珠【いのちのみ】という果実がこの世界には在る。
ある人曰く、それは危険で美しいらしい。
確かに、その果実を創った者は死んでしまう――故に危険なのだろう。
しかしその見返りに、その果実を食べた者は願いを叶えられる――故に美しいのだろう。
実際にある少女は生命の珠を食べ、妖精に会うという願いが叶った。

ならば、それを創るには何が必要なのか。
一つは、ある貴重で申請な果物。
そして、もう一つは――

+++

「我は歌う――」
そんな唄い始めから始まった唄は、とても綺麗に澄んでいて――到底、赤い絶望の歌声とは思えなかった。ファントを操っているマニの顔は、集中しているのか、無表情だった。
そして、唄は続く。
終わりに向けて――永久に続くかのように。

唄は続く。

唄は続く。
「倫理と現実と仮想を超え、

己を諦めることを決定しよう

全てを超越することを誓おう――」
タイニーは、アブソーから手渡されたリンゴを、大事そうに両手で持ち、その様子を見守る。唄はその場にいる皆を魅了しながら、響き渡る――遠く遠く、高く高く。
「我は願う――」

知恵や常識や学問を捨て、

純粋なるその想いに答えよう、

無垢なるわが生涯を捧げよう」
その時、少しだけ、マニの体がふらついた。ファントは凍てつくような赤い眼で、それを見ていた。

口がニヤリと、歪む。
「我は望む――」
と。
ファントが歌ったその瞬間。

マニは、己の精神の限界を超えた。
ピクリと、ファントの指が動き、空中から炎が出現し――そのままマニへと突撃する。
「――っ! マニ、避けろ!!」
いち早くそれに気付いたチェインは、叫んだ。
しかし、
マニは、避けようとしなかった――否、避けられなかった
ここから一歩でも動いたら、ファントを操るための集中力が、切れる。終わる。
炎が目前まで迫っても、マニは目を閉じることは無かった。
何かを覚悟したからではない。

エドワードが炎を操り、止めていた。

「こういう邪魔物は、私が排除しておく」
エドワードは静かにそう言って、炎を天井までおいやる。
ファントの顔に――絶望という文字が、浮かんだ気がした。
「体躯も精神も思想も捧げ、

自身を壊すことを覚悟しよう、

自我などの理解を放棄しよう」
その瞬間。
最後の一節を目前にして――


マニは力を尽きようとしていた。


それは刹那のことだった。

ファントは一瞬の隙――マニが力を弱めた時を見逃さなかった。
束縛から解き放たれたファントは、魔力を脚へと注いで、マニへ飛び――赤い剣を取り出した。
剣の切っ先が、銀髪の少年を捉える。
マニは己の力だけを使って、ファントの口だけを操る。
唄を紡ぐために。
悲劇の幕を下ろすために。
「マニッ!!」
と。
ティーは、言って。
マニの前に躍り出る。
そして、守るように、両手を広げて、
「・・・・・・・・」
目を、閉じた。

何かを覚悟したように、何かを諦めたように、何かを祈るかのように、そしてもしくは――

何かを、終わらせるように。
赤い絶望は、剣を引きながら、笑う。

これは――とてもとても愉快な悲劇だ、と。そう主張するように、

哄笑する。
「――ぁあははははははははははは!! 本当にお前達は馬鹿だな!!」

「果てしなく、絶望しとけ!! 」

と。
瞬間。
ティーの視界の隅に、何かが見えた。
「――私は貴方の騎士【ナイト】ですから

貴方を死ぬまで護ります」
そう、微笑みながら言って、 クルーが――自ら赤い剣の前に立ち。
そして、薄い笑いとともに、剣は、突き出された。


そこからはまるでスローモーション。


真っ赤な真っ赤な血が舞って舞って舞い続けて――!
同時に。
最後の一節が、空しく響く。

「この命を引き換えにし、

生命の珠を汝に贈ろう」