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「それでは、戻ります」


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「――どうして、退学なんかしたの?」

「その理由は・・・・お前なら分かるだろ」

「・・・・もう、抑えられないのね・・・・」

「オレだってもっとここに居たかった。けど、それよりも、好きな人を巻き込みたくは無い」

「なら! 私が、貴方の傍に死ぬまで居てあげるから――!!」

「無理なんだよ、もう」

「だけど、私は貴方の対極だから・・・・私なら貴方を――」

「駄目、なんだ。・・・・今、目の前にいる最愛のお前でさえを――」


「オレは壊したいと思っている」




雷の音が、今まで快晴だった空を埋める。
地響きが、今まで平和だった地を染める。

希望が絶望に成っていく。

「・・・・アブソー、チェイン・・・・すいません」
「・・・・なんでお前が誤るんだよ・・・・クルー」
クルーは情けなく、ティーは泣きそうな声で言う。
[タイニーさえ、彼女さえ今、いてくれれば・・・・]
マニが――タイニーの髪の中にいたマニが、ゆっくりと、ゆっくりと、そんな小さな文字を、コアの欠片を使って、床に彫る。

[僕がファントを倒せるのに]

「え・・・・」
ふと、床に視線を落としたアブソーが偶然、そんな意味深な文字を見る。
ファントを倒せる。
ファントを倒せる。
最強の絶望に、勝てる――!
――タイニーさんには、何か作戦があったんですね・・・・!
と。
「へぇー。タイニーには、何か作戦があったんだねぇ・・・・」
この場にそぐわない、のんびりとした声が、すぐ横で聞こえた。
「――レンシー・・・・さん?」
その眼は、
もう、赤ではなく、澄んだ緑となっていた。
「・・・・ああ、僕がなんで正常な状態でいるかって? まぁ、推測なんだけど、多分もう用済みなんじゃないの?」
そして、自分の言ったことが可笑しかったのか、くつくつと抑えながら笑って、

「僕が君を過去に飛ばそう」

そう、言った。
「僕が行ってもいいんだけど――何せ、君は女神だから」
「・・・・・・・・」
「まず、自分の飛びたい時代に行くんだ、その後、儀式の間に入る直前まで飛ぶ」
「それだと、何も変わらないんじゃないですか?」
「だから、最初に行く時代の中で、だれかに聞くんだよ。色んな知識を持っただれかに」



――ファントを倒す方法を。

「分かりました、タイニーさんに会いに行けばいいんですね?」
アブソーがそう言うと、レンシーは首を横に振った。
「折角だし。今となっては会えない人に会えば? もしかしたら、本当に世界が消えちゃうかもしれないんだし・・・・ふふ」
そうならないために、僕もがんばるけどねぇ、と。
レンシーは、言って。
アブソーの頭に、手を乗せる。
「多分、チャンスは一回だ。ここに――過去から戻ってきたとき、もしも失敗したら、今度こそファントに殺されちゃうかもしれないし」
「・・・・分かりました」
アブソーは、緊張した面持ちで、レンシーを見つめて、

「私が未来を変えて見せます」

凛と、言う。
「・・・・まいったなぁ。これだから美少女は・・・・」
「何か言いました?」
「ううん、何でもないよ。それじゃあ――」

「いってらっしゃい」

レンシーの手が、光り始める。



「ふふ・・・・なんだか、可笑しいねぇ・・・・」
世界の崩落が着々と進む中で、レンシーは一人呟く。

「『ディーバ』はきっと、『ディーバ』に会うんだろうね」

+++

此処では、

常識なのか非常識なのかは判断がつかない。
現実なのか非現実なのかは明白がつかない。

そんな風に思うほどの、不可思議で不確定な空間だった。

「これ、が――」
時間。
それは例えば、黄金の小鳥、虹色の樹、鉛色の蜂。
奇妙奇天烈という言葉を実体にしたような光景。
「すごく・・・・綺麗です」
思わずそう呟いて、アブソーは何処かに歩く。
そうは言っても、実際は、歩いてなんかいないかもしれなかったが。
そして。
「――――あ」
ふと、見つけたそれは。
ある世界のある時間を刳り抜いた、空間。
時間の中で、一番キラキラと輝いていた、

思い出。

「・・・・・・・・」
じっくりと、それを眺めた後。
アブソーは、そこに、一歩、進んで――

+++

季節は冬だった。
「珍しいお客さんだ」
老いぼれていながらも、真っ直ぐに伸びた背筋と、凛とした声は、確かに彼女だった。
「・・・・ノヴァ、叔母さん」
今。
泣きそうになる衝動を必死で抑えて、アブソーは言う。
「あの・・・・私、実は未来から――」
「ああ、待って」
そしてノヴァは、アブソーの額に手を乗せて、
「貴方の――ガディスの今まで体験したことを、今から読み取るからね」
直後。
しわだらけの手が、青く淡い、優しい光を発す。
アブソーは一瞬、頭の中が軽くなり、気付いた時には光は消えていた。
「あの・・・・ノヴァ叔母さん?」
「ガディス、いいえ――アブソー、そんなことがあったのね」
そして、ガディスは確かめるように、

「アブソーは、『ディーバ』と『ファント』について、どれくらい知っているのです?」

「えっと・・・・あ、ファントさんはとても強いことは知っています!」
少し声を張り上げて、どこか嬉しそうにいうアブソーを見て、ノヴァは軽く笑う。
「違うわ、そういうことじゃなくて、もっと根本的なもの」
「・・・・では、それは、何なのですか?」
そうね、と前置きをして、ノヴァは話し始めた。
「ディーバは『神が必要な時に創りだす希望』。そして、ファントは『時代を超えて受け継がれていく絶望』なの」
そこで、アブソーは疑問が浮かぶ。
「えっと・・・・・ファントというのは、ファントさんという、名前ではないのですか?」

「それは違うわ。そうね・・・・例えるなら、『役』かしら。私を例にするなら、クルー・ノヴァという名前の人が、ディーバという名前の役についたってことなの」
「じゃあ、ファントとディーバというのは、本当の名前ではなくて――力の、名前、なのですか?」
ノヴァは頷く。
「そういうことになるわ。そして、その力が自分の中に在ると気付くのは、生まれてすぐという訳じゃないの」
ノヴァは話を一旦そこで区切って、説明を続ける。
「もしも、自分がディーバだと気付いたら、周りから祝福の拍手を受ける。けど、それがファントの場合は、周りから嫌悪の視線を受けなければいけないの」
「じゃあ、今のファントさんも・・・・」

「ええ――元は優しい人だったのに」

と。
何処か淋しそうに言う、その言葉に、
アブソーは確かに何かを感じて。
「あの・・・・ノヴァ叔母さん・・・・」
「どうしたの?」
アブソーは、遠慮がちに言う。
「貴方は――

――昔のファントさんのこと、知っているんですね」

すると、ノヴァは懐かしむように遠くを見て、
「そうね、私は彼をよく知っているし、想っていた」
アブソーが見たこともないような、少女の笑みを浮かべた。
「私は、彼のことをB【ビー】と呼んでいたわ」
そして。
ノヴァはアブソーの顔を見て、何処か優しく、温かく。
そして何より愛おしく、

「アブソー、Bはね――

――私の恋人だったの」





「・・・・ビー・・・・?」

「ノ・・・・ヴァ・・・・?!」

「何で・・・・髪も眼も、赤いの・・・・!?」

「全部・・・・分かってんだろ? ――もう、完全に『ファント』が・・・・目覚めたんだ。意識も飛びそうだ・・・・・・『理性』を、保っていられるのも、そろそろ・・・・限界、だ」

「そう、なのね・・・・やっぱり」

「ああ、だから・・・・お前はさっさとここから――」

「じゃあ、『理性』が廃るまで、そばにいるわ」

「なっ!」

「ビー、安心して」

「お、お前ちょっと待てよ、おい! 寄るな寄るな寄るな寄るな寄るなよ馬鹿野郎!! お前が近くにいたら、お前が真っ先に殺,され」

「抱きしめて、あげるから――私の愛を、最期くらい受け取ったら?」

「・・・・・・・・ははは、ノヴァ。お前は本当に馬鹿だ。けど」

「けど?」

「オレは、そんな馬鹿なお前を最高に愛してる」

「うん。私も、捻くれ者の貴方を愛してる」

――――どうも。

――――――それじゃあ。

――――――――さよならだ、ノヴァ。

「そして、はじめまして――


――私はファントと申します」




「その時なの、私が、死の呪いを掛けられたのは」
「そう、だったんですね」
長いような、短いような昔話を、アブソーは黙って聞いていた。
それでもやはり、ファントの昔の姿――ビーのことなんて想像もつかなかったけれど。
アブソーは、ビーには何も罪がないことを、理解した。
「ああ、アブソー。そろそろ戻らないといけないかしらね?」
「そ、そうでした・・・・つい、話を聞きいってしまって。みんな、頑張っているのに」
反省するように、うつむくアブソーに、ノヴァは微笑んで、
「ねぇ、アブソー。ここ、今の貴方ならすごく見覚えがあるんじゃないのかしら」
「え・・・・」
その言葉を聞いたアブソーは、まるでスイッチを押したかのように頭を上げて、キョロキョロと辺りを見渡す。
そこはかつて、最期にガディスの時間を過ごした場所。

すなわち――生命の珠【いのちのみ】を食べた場所だった。

「ここは・・・・」
「思い出した? 私が死ぬ場所でもあって、物語が始まる場所。今そう考えると、なんだか不思議ね」
「どうして、不思議なんですか?」
アブソーが、訝しげに聞く。それにノヴァは、はっきりと答える。
「だって、貴方が今までした旅や、恋――

――それはひとつの果実から始まったんですから」

と。
アブソーはあるひとつの単語に――赤面して、反応した。
「こ、こ、恋、です、か?」
「ええ、恋よ。・・・・もしかして、自覚してないの?」
あからさまに狼狽して、アブソーはどもりながら言う。
「じ、自覚もなにも、わ、私は恋なんて――」
「・・・・・・・・」
半ば呆れて顔で小さな女神を見て、ノヴァはひとつため息を吐く。
「これは本来、自分で気付くべきものだと思うんだけど。アブソー、貴方、あの金髪碧眼の子のこと――」
「わーわーわー違います違います!! チェインさんは友達です!!」
「そう、チェイン君って言うのね」
そして、ふふふと、どこか妖しく笑う。
「容姿端麗で心は真っ白。ふふ、彼も恋には奥手なのね・・・・。けど、口が悪いわね。まるでどこかの誰かさんみたい」
「あの・・・・ノヴァ叔母さん?」
表情がいきなり、若々しくなった自分を不審そうに見るアブソーに気付き、ノヴァはいつもどおりの、柔和な顔を浮かべた。
「無駄な話をして御免ね――じゃあ、これを持って行きなさい」
と、言って。
リンゴの木から、赤く熟したそれをもいで、アブソーに手渡した。
「・・・・あの。これ、普通のリンゴですよね?」
「いいえ、違うわアブソー。高度な魔法でしか育てられない、貴重なリンゴなの。それ故、その存在も作り方のレシピも一部の人しか知らないの」
「・・・・それで、これを、どうすればいいんですか?」
すると、ノヴァは即答で、「ただ持っていけばいいの」と言った。
「それで未来は――希望に近付くのですね」
アブソーが、少し声を張り上げて、そう言った。
と。
ノヴァは、唐突に真剣な顔になって。
「けどね、アブソー――最終的には、貴方がやらなきゃいけないの」

貴方の、みんなに希望を与えるという、ディーバとしての義務を。

そんな言葉に、言い知れないような重みを感じ取って、アブソーは答える。
「・・・・はい!」

+++

「それでは、戻ります」

アブソーは、レンシーが彼女の体に蓄えさせておいた力を使い、空中に創った時間への穴に背を向けた状態で、ノヴァにそう言った。
渡されたリンゴは、ノヴァが持っていた大きめの布で包み、それをアブソーが手に持っていた。
「・・・・成長、したわね。それとも、大人びたと言うべきかしら」
ノヴァが唐突に、感心したように言う。
「これが――きっと私と貴方の本当の別れになるというのに。・・・・また明日会えるかのように、貴方は当たり前のように、普通に振舞っている。それはやっぱり、強くなったから?」
アブソーは黙って首を横に振り、
「ノヴァ叔母さん、分かりきっていることですよ。ノヴァ叔母さんは、私やクルーさんが覚えている限り――此処に、居ます」
言いながら、俯き、胸を押さえるアブソー。
そして、顔をあげた時。やはり目には涙は無く、
「ノヴァ叔母さん、私は貴方に――女神に誓います」

「世界と友達と、ビーさんを救うことを」

「・・・・そう」
その言葉に、ノヴァは微笑んで応えた。
「では、いってらっしゃい。ガディス」
「いってきます。ノヴァ叔母さん」

「「また会いましょう」」

決別の言葉は、交わさない。

+++

「ほら、アブソー。これが儀式の間だよ」
聞いたことがある、言葉が聞こえる。
隣を見ると、レンシー――よく見ると、微かに目が赤い気がする――がいた。
――ああ、そうでした。ファントさんが来る前に、戻ったんですね。
ふと、心配になって、リンゴがあるか確認。
しっかりと右手に握られていた。
――・・・・とりあえず、何か『従来の未来と違う行動』をしないといけませんね。
思い立ったらひとまず行動。
アブソーは取り合えず、タイニーの元へ駆け寄った。
「・・・・・・・・」
そんなアブソーを、レンシーが不審な目で見ていたことには、誰も気付きはしなかった。


「・・・・あの、タイニーさん」
いきなり自分のところへ走り寄り、小さな声で声を掛けるアブソーを、タイニーは訝しげに一瞥して、
「一体どうしたんだい? アブソー。もう儀式が始まるのにさ」
「駄目なんです」
「ん? 何がかい?」
信じてもらえないかもしれませんけど、と前置きをして、アブソーは続ける。

「タイニーさんが企んでいる策戦を、今使わないと、世界が――」
「ああ、分かった。どうせ、レンシーに飛ばされてきたんだろ?」
アブソーは驚いて目を丸くし、タイニーを見つめる。
「何で分かったんですか?」
タイニーは、「僕が小人だってこと、忘れちゃったかい?」とおどけて言って、
「・・・・いや、推測すれば簡単に分かるよ。けど、そういうことなら、ともかく――


――史上最高で前代未聞な楽しい楽しい悪戯を、始めようか」