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「ならばもう終わりにしましょう」


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「ねぇ」

「ん?」

「・・・・ちょっと、話、いいですか?」

「何だよ、そんなかしこまって。お前にしては珍しいな」

「・・・・そういうときも、あるんです」

「あっそ。で、話って?」

「えっと・・・・何から、話せばいいのか・・・・・・・・」

「・・・・・・・・おい」

「はい?」

「その前によ、俺もお前に用件あんだけど、先にそっち済ませていいか?」

「・・・・いいですけど、何です?」

「簡単に、本当に簡単に言うと、その用件ってのは、お前に一言言うだけなんだけどよ――」


「――お前のことが、どうしようもなく、好きなんだ」




――どうしようもなく。

否、どうしようもできないくらいの、力。
それが今、目の前にあった。
「・・・・レン、シー・・・・じゃ、ないよね」
タイニーが、確信を持って、しかし不安そうに、『レンシー』に訊く。
「おや、小人とあろうお方が珍しい。違います、私はレンシーですよ――」

――ただし、体だけですけど。

彼は、そう続けた。
「・・・・成程。あのときの、子供のように――ファント、貴方はレンシーを操っているのですね」
「はは、ご名答だよ、クルー」
言いながら、先刻までひとつの命を奪おうとしていた剣を引いて、コアの方へ振り返り、

「本体は『あっち』です」
「本体は『こっち』です」

二つの声が重なる。
二つの声が聞える。

そして、視線を上にあげると。
そこには、
コアの上には、
『赤い絶望』が、堂々と、堂々と――

「ふむ、なかなか――綺麗だね」

と。
彼の二つ名には到底似合わないような、透き通った声で、足元にある水晶を見て、言う。

その姿は、あまりにも、魅惑的で。

そして何よりも絶望的で――。

一瞬。
彼に眼を奪われたアブソーは、声の震えを悟られないように気をつけながら、
「レンシーさんを、解放してくれませんか」
しかし、きっぱりと言う。
「それは無理なご相談という奴ですよ、小さな女神」
その時、クルーは会話に割り込む形で、
「・・・・時空に、八妖精達を飛ばしたのは、『貴方が操っていたレンシー』なのですね?」

「それは、ご想像におまかせするよ、とにかくだ――」
と。
レンシーが言うのと、斬撃が飛ぶのは、同時だった。

突如リビーの背後で血が舞った。

「うぅぁあっ――!」
リビーは呻いて、床に倒れこむ。
文字で綴られたそれは、赤く、赤く、染まっていく。
赤い水溜りに、ニヤリと笑うレンシーの姿が映った。
「リビー!!」
エドワードは、一目散に――すぐ傍にいるレンシーに警戒する暇も無く、妹の下に駆け寄り、
「早く、『再生』の力を・・・・!」
腕を上げることすらできないくらいに、力の無くなった彼女の腕を、背中の剣傷へと無理矢理当てる。

その時だった。

「馬鹿ですか貴方は。私がこんな絶好のチャンスに――」

再び、奇襲。
今度は、ナイフだった。
すなわちそれは、投擲。
『遠い場所』からの、攻撃。

「絶望させないわけがない」

エドワードは、『近くの場所』で、気配が動くのを感じたら、直ぐにでも剣を取って、己とリビーの体を守るつもりだった。
しかし、
攻撃は――最初のリビーへの攻撃から、今の攻撃までの時間で、移動できるはずもないような、離れた距離から放たれていた。
つまりは、瞬間移動。
時間を無視した空間移動。
時間を遡る。
空間を翔る。

レンシーの力。

『時航』の力――!

「これで、まずは二人」
そして、『本体』は当然のように、義務のように、高らかに、高らかに。

「さぁ、『悲劇』の時間です」

+++

「これは・・・・困りましたね」
クルーは、背後に素早く剣を構える。
直後。

ガギンッ

と、刃のぶつかる音がした。
「ふむ、さすがですね」
『本体』が感心したように言う。
「敵の思考を読む力というものは、本当に面倒臭いですね。だけど――」

防御するだけでは、何も変わらない。
それもまた、事実。

「こうして、無傷でいられることは――っ、決して、悪いことではないんですけど」
レンシーからの、『時間を越えた攻撃』を完璧に受け続けながら、クルーはチェインと、彼の背後にいるアブソーに目を移す。
「チェイン!! 私の妹にかすり傷でも負わせたら、承知しません、よ!!」
言った直後、横からの突き。
クルーはよろけながらも、それを辛うじて避ける。
「――わりぃ、クルー」
焦燥した、声。
「もう俺達は、無傷とは言えねぇ体になってる」

二人の――チェインとアブソーの体には、ところどころに切り傷があった。
何もなかったはず場所からの、突然の攻撃。
予兆も予想も何も無い攻撃。
そんなものを――『知識』の力無しで全てを避けることは、不可能に近い。
今までの時間の中で、これだけの被害に抑えただけでも、十分なくらいだった。

「――チェインさん!」
少女の声が聞こえた。
背後に緑と赤の混じった、人影。
そして、

「・・・・・・・・チェイン」

と。
ボソリと言われたその言葉は、
確かに、
『レンシー』の、声だった。

操り人形と化したはずの『彼』の眼から、涙が一筋流れていた。

チェインは、それを見た。
見てしまった。
見てしまった。
見て、しまった。

防御が遅れる。

赤い剣が少女を襲う。

「――レン、」
青ざめた顔で、それだけ言う、チェインの目の前に――

――まるで謀ったように、タイニーとティーがいた。

「ったくよ。こういう戦闘は、普通男がやるものなのに!!」
「まったくだよね、ホント、呆れるよ」
ティーが、剣を防いでいた。
タイニーが、己の剣でレンシーの喉を捉えていた。

劣勢から優勢へ。
絶望から希望へ。
悲劇から喜劇へ。
変わった――気がした。

「えい」

タイニーの横で、そんな声がした。
ファントが剣を振るっていた。




「なんでそんなに悲しそうな顔してんだよ」

「そう――見える?」

「ああ。見えるっていうか、分かる。なんか気に病むことでもあったか」

「・・・・・・違う、けど。私達の『これから』を、改めて心配になって・・・・」

「何だ、そんなことかよ――その事についてはもうとっくのとうに、解決したはずだろ」

「うん、それは、分かってる・・・・。だけど、私達は、やっぱりそれでも『対極同士』だから」

「つまりはあれだろ、お前が心配しているのは、オレ達の愛が継続するかどうかじゃなくて――」


「――オレがいつ『理性』を完全に失くすか、だろ?」




「タイニーさん!!」
叫び声と悲鳴が、部屋の中で反響する。
タイニーの体は、血に塗れた状態で、床に倒れていた。
「これで、三人、と」
言いながら、ファントは剣を振って、付着した少女の血を飛ばす。

悲劇の舞台は確実に赤くなっていた。

「もう・・・許さねぇぞ、てめぇ」
チェインが、脅すような声で言う。
ファントはその言葉を鼻で笑って、
「ふふ・・・・貴方はただ認めたくないのでしょう? 自分がミスをしたせいで、自分の友達を一人、犠牲にしてしまったというその事実を!」

「黙れよ!!」

その、声は。
大声で紡がれたその声は。
チェインではなく、ティーの物だった。
「ファント、君はさ、何もわかっちゃいないよ、仁徳も友情も協力も――何にも、理解していない。そんな君に、簡単に、そんな風に説教されたくないんだよ!!」
「それはただの屁理屈でしょう」
さっきまでの、ティーの言い分なんてまるで聞いていなかったという風に、ファントは続ける。
「それに、私は間違ったことなんて一つも言っていません。全て、真実です」
「――そうかも、知れねぇな」
チェインは、言って、剣を構える。
攻撃の構えを作る。
反撃の準備をする。

希望は――ある。

「けどよ、お前はひとつ間違えてるぜ」
切っ先を、ファントに向ける。
その瞬間、
クルーとティーが――動いた。

「タイニーは『親友』だっ!!」

チェインが斬りかかる。
ファントは咄嗟にレンシーを操り、
失敗した。
視線を動かし、
レンシーを発見した。

クルーとティーの手によって捕らえられていた。
動かせない。
例えば今瞬間移動したって、
もう目前にせまった剣を避けることは、
困難。
不能。

しかし『赤い絶望』に困難なんて文字は似合うだろうか。
しかし『赤い絶望』に不能なんて文字は似合うだろうか。

「ならばもう終わりにしましょう」

今までの時間の中で、
クルーは不思議に思っていた。
クルーは不自然に感じていた。

何故ファントは八妖精を真っ先に殺.さなかったのか。

全員相手にしないにしても、一人一人確実に倒せばいいものなのに。

そうすれば、簡単に双方の世界を絶望させることができるのに、と。

ファントには義務がある。
『全て』に絶望を与える義務。
しかし、
ただ殺,しただけでは、絶望としては十分ではないだろう。
ファントはそう、考えた。

だから、
だからこそ今彼は――。

ピシッ

と、嫌な音がした。
コアにひびが入っていた。

「――――はは、」
妖しく、ファントは笑う。
可笑しいように、目も笑う。
「――っ!」
チェインは、それに戸惑いながらも、ファントの体に金色に輝く剣を――、

突き立てることは、できなかった。

もっと、具体的に言えば、『剣は弾かれて空中に舞った』というべきだろう。
あの時。
チェインが剣を、ファントに向けた、その一瞬。
ファントは有り余った魔力を使って、一時的に脚力を限界まで強くした。
そして、超人のようになった足を、勢い良く振り上げる。
ちょうど真上を通っていた剣は、その足に弾かれて、チェインの真上に飛んだのだ。

そして、追撃。
鳩尾への、魔力を籠めた拳。
「――がっ・・・・は」
苦しそうに、チェインの口から息が漏れる。
体勢が崩れる。
さらに、横からの回し蹴り。
「・・・・・・っ!」
声も、出ない。
反撃も出来ない。
それほどの、

痛み。

激痛がチェインの体をめまぐるしく回り、そして――

チェインは、遂に倒れた。

「チェイン!!」
ティーが、大声で叫び、チェインの元へと駆け寄った。
そして、
今まで、固唾を呑んで見ていたアブソーは、手で口を覆いながら――泣いていた。
心が痛む。
心が軋む。
心が傷む。

心が、叫ぶ。

よくもチェインさんをよくもチェインさんをよくもチェインさんを――!

「アブソー」
クルーは優しく、声を掛け、怒りで震えそうになる声を、必死に抑えながら、言う。
「チェインのことも心配ですが・・・・今はとてもそんなことは言っていられません」
そう言って、目を向けた先に――

――無残な姿のコアが在った。

「・・・・あ、あの、クルーさん。もしも、コアが壊れてしまったら――」
「妖精界と人間界――二つの世界は滅亡します」
「ははは! やっと、悲劇もクライマックスだ!!」
さあさあさあさあ! どうやって足掻き苦しんで、私を楽しませてくれるのかな!?
と。
そう、続けて。
ファントは、身の丈ほどある赤い剣を、魔力を使い、勢い良くコアに投擲した。
そして、真っ直ぐに、『赤』はコアへと向かって、

「果てしなく、絶望しろ」

コアは、粉々になりながら、その姿を消した。


世界の崩落が始まった。