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二人の騎士・後編

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「それってさ、恋なんじゃねぇの?」
と。
チェインは、自信と確信を持って断言した。
「・・・・・・へ?」
クルーは、間のぬけた返事しかできなかった。

こんなやりとりのそもそもの原因は、少し時を遡ったところに在る。

+++

ハートピア家に快く出迎えられたチェインとクルーは、あの事件と身の上話を説明し、事が落ち着くまで居候させてもらうことになった。
そして、今。
二人はある一室で談話している。
元々その部屋は、ティーの父の書斎になる予定だったのだが、なかなか書斎をつくる作業をしなかったために、長い間客人を泊めるゲストルームとして利用されてきたのだ。
そのため、室内は二人が来ることを予想していたかのように、清潔で高級感あふれる造りになっていた。

そんな部屋の中をもの珍しそうに見ているクルーに、チェインは声を掛けた。
「なぁ、騎士って何だ?」
「きし、ですか?」
クルーはいきなりの質問に首をかしげる。
「ほら、よく童話であるだろ? 勇敢な騎士が」
「あぁ、成程。騎士ですか」
そうですねぇ、と一人呟いて、クルーは指を額に当てて、何やら考え始めた。
「騎士、というものは。馬に乗っている兵士。領主に仕え、武芸・礼節などの修業を通じて、騎士道を実践した・・・・らしいです」
クルーの答えに、今度はチェインが首をかしげる。
「は? なんだよ、それ。俺が聞いてんのは、そういうことじゃねぇんだよ」
「・・・・では、どういうことなんです?」
クルーは、訝しげに問いた。
チェインは「だからな、」と前置きを入れてから、言う。

「お姫様を助けるために命を懸ける『騎士』ってのは、何なんだよ」

真剣な、顔で、チェインは、問う。
「・・・・それはつまり、何故騎士がそこまでするのか疑問に思っているんですか?」
「まぁ、砕いて言えばそういうことだ」
そこで、クルーは至極当然の疑問を浮かべる。
「しかし、チェイン。何故いきなりそんなことを?」
その質問にチェインは、少し言いにくそうに、
「・・・・実はよ、前にある知り合いの餓鬼に言われたんだ。『ナイトさまはなんでプリンセスさまのためにいのちをおとすのですかあ?』ってな」
「・・・・それで?」

「俺が、そんなの知らねぇよって言ったら。『そんなこともしらないのですか? チェインさまはわたしよりもあたまがいいのにー』っだってよ」
「・・・・・・そう、ですか・・・・。要するに、面目が立たないと」
「そういうことだ」
「・・・・・・・・」

――チェインは年下の子にからかわれている、ということを分かってないのでしょうか?

と、クルーは思ったが、敢えて口には出さず、改めて質問に答える。
「――ぼくの個人の意見だけど、『騎士』には目的があるからじゃないのかな。例えば、プライドを守るため、とか。もしかしたら純粋に仕事を真っ当したいから、とか・・・・」
「へー。それらしい答えだな」
そこでチェインは、しばらく思案し、そして――

「ならよ、クルーがもしも『騎士』だったら、その目的ってのは、何なんだ?」

唐突な質問。
一見、くだらない質問にも見える。
一見、意味のない質問にも見える。
そんな、質問に――

クルーは、少しばかり真剣だった。

「もしくは、俺がそうだったら、か。そうだな・・・・俺だったら守りたいものを守るのが目的になんのかな」

守りたいものを守る。
守りたいものを、護る。

マモリタイモノ――。

自身の中でそう問いつづけて、最終的にでてきた単語に、少年は戸惑う。

茶髪の少女。

「――ティー、」
「ん?」

「ティーを護りたい」

もっともっと――
肉体的にも精神的にも技術的にも――
強くなって強くなって強くなって強くなって強くなって――
強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く――

もっと、強い『騎士【ナイト】』に。

「・・・・あのさ、もしかして、いや絶対そうだと思うんだけどよ」
「何がですか?」

そして。
チェインは呆れたようにため息を吐き――――


以上。

『こんなやりとりのそもそもの原因』。

+++

「ふん。私もなめられたものですね」
そう悪態をついた声の持ち主は――何故か道のまんなかにぽっかりと開いた穴の淵に手をかける。
「こんな簡素な罠にかかった私自身と、想定外の穴の深さに吃驚した事は、まぎれもない事実ですけど、ね!」
勢いをつけて、一気に穴の外へ飛び出したそれは――赤い髪と眼を持っていた。
「まぁ、こんなことで挫けたり泣きべそをかくような私がいたら、それこそ笑劇だけど」

そして、赤い彼は、堂々と人気の無いその道を往く。
堂々と、往く。
早々に、歩く。
まるで――目的地があるかのように。

「さてさて、啖呵を切ったのは私なのですから、これじゃあファントとしての名が廃る」

――さっさとあの餓鬼共を始末しないと。

物騒なことを考えながら、直も足を動かしていた赤い彼。
しかし、唐突に、そこで、ふと立ち止まり、
「・・・・ん? 待て待て待てよ。さっき、私が穴に落ちた時点で私は負けたことになるのか?」
真顔で、そんなことを考え出す彼を見たら――少なくとも彼の被害を受けた人でなら、それこそ喜劇だ、と言うに違いない。
それぐらい彼は勝負に真剣だった。
特に、勝ち負けの判定には。
「・・・・否、か。そもそも『あちら』は反則をしている。あんな不意打ち攻撃は反則以外の何者でもないだろうな、うん。成程そうか。逆だったのか。私があの穴に落ちた時点で『あちら』の負けが決まっていたのか。・・・・ははは、何て言うか、ラッキーな喜劇だ」
その後もしばらく一人で抑えながら笑い、そして――

――その赤い眼は冷たく澄んでいく。

「それではそれでは――」
赤い彼は、再び歩き出す。
一軒の家に向かって。

「あの哀れな二人の仔に、絶望を、贈りましょう」

+++

文字通り、キョトン、と。
赤い彼は、眼を丸くしていた。
「それってさ、恋なんじゃねぇの?」
金髪碧眼の少年がきっぱりはっきりと言う。
「・・・・へ?」
黒髪黒眼の少年が間のぬけた返事をする。
その光景を、赤い彼は窓から覗いていた。
中にいる少年達からは、死角となる場所で、耳を澄ましながら。
「・・・・随分と、懐かしい言葉ですね」
部屋の中では、さきほどの黒髪の少年が、精一杯の弁解をしているようだった。

怒鳴ったり喚いたりの騒音が外まで響く中、赤い彼は郷愁漂う雰囲気で、呟く。

「『恋』、ですか・・・・」

そして。
その一瞬。
それは、その声は――ファントの声では無かった。
ファントの口から発されたその言葉だけが――別人の、声だった。

「・・・・ふふふ。久しぶりに『理性』が出てしまいました」
格別、慌てた素振りを見せずに、赤い彼は言い、そして――

――ストン、と。優雅に、二階の窓から道へと飛び降りた。

「なんででしょうね。すっかり絶望させる気が萎えてしまいましたよ」
可笑しいように笑って、赤い彼は、再び歩く。
今度は――目的地など、無い。
適当に、適当に、彼は行く。
「・・・・せっかくだし。この世界とあの世界を絶望させる計画でも考えようかな。時間はたっぷりあるし。それに――」

「それに、いつか、あの餓鬼共ときっちり精算しないとね」

そして。
彼は消えた。
深い闇の中に。
浅い空の中に。

彼は、消えたのだった。
後には、絶望を遺して――。

+++

これで、御伽噺は、終わり。
騎士とは何かを考え続けて、その答えを明らかにするのは、まだ先の話だけど。

しかし、この時。
確かに二人の少年は、二人の騎士に近付いたのだ。
一人は強くなることを目的に。
一人は守ることを目的に。

そして、これは後日談なのだが。
騎士の話題をい持ち出した――ある意味重要な意味を持った、少女。
彼女にチェインは最終的な答えを言う。
『ブー。ざんねん、まちがいですよチェインさま』
そして、少女は――リビーは、本当の答えを、言った。
実の兄から教わった。
真の答えを。

『ナイトさまはプリンセスさまが好きだから、いのちをかけてまもるのです!!』


                      それはひとつの過去から 二人の騎士編 End...

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