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赤い絶望は幕開けを告げる

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微かに泣き声が聞こえる中で、場にそぐわない、轟々と鳴る音が聞こえる。

アブソーはまだ、炎の中にいる。

チェインは遂に、いてもたってもいられなくなり立ち上がった。
「・・・・チェイン?」クルーが訝しげに彼に視線を投げる。
「・・・・」
チェインはそれに無言で答えて、炎へと歩き出す。
クルーは目をみはり、リビーを置いてチェインの腕をつかみにかかる。
「・・・・・・っ! チェイン! 貴方一体何を――」
チェインはクルーを一瞥し、腕を引いてクルーの腕を振り払った。
そして、
「何もできないことが苦痛なんだよ!!」
誰とも無く、語り始める。
「あいつが、炎の中で今・・・・体中が炎で燃えているかもしれねぇってときに、俺はただ黙って見てることしかできねぇってのが――悔しくて仕方が無ぇんだよ」
「何故、ですか」
クルーが言う。
平然と、言う。
「何故、そんなにアブソーのことが信じられないのです?」
「はっ。信じるも何も、今あいつは――」

「私の妹は、できる子なんですよ、チェイン」

微笑して、クルーは続ける。
「だから今は――心配する気持ちも分かりますが、信じてあげてください」
それが、ファントには無くて、私達にあるものですから。

と。
刹那。
タイミングを謀ったようにアブソーは炎の中から現れた。
アブソーの体は、彼女自身を護るように淡い光で包まれていた。
「・・・・・・あ、は」
アブソーは笑顔を浮かべて――唐突に倒れる。
「――っ」チェインが真っ先に動いて、彼女が倒れる前に受け止めた。
視線を、炎で向けた。

動いてはいなかった。
消えてはいなかった。

「ふむ、意思はアブソーのおかげでなくなったようですが、炎自体は消えないようですね」
「・・・・え?」
リビーは泣き止み、落ち着いたところで、クルーに声をかけ、
「なら、この状況はとてもとても、マズいですよ・・・・?」
周りを見渡すと、まさしく炎の海だった。
「東洋の言葉で四面楚歌というものがありますが、まさしくそれはその状況ですね」
「おい!! ソメンシカだがシメカソだが知らねぇけどよ、どうするんだよこの状況!!」
肩をすくめて、クルーは言う。
「私には、どうにもできませんよ」
「だったら――」

「私には、と言ったんです」

そして。
炎は停止した。

時間が止まったように。
ユラリと、揺らぎもせずに。
炎はその動きを停止した。

否、――炎はその動きを停止されたのだ。
まるで、『誰か』の力で抑えつけられているかのように。

「エド・・・・兄様」
リビーが呟いたのと、炎が移動し始めたのは同時だった。
赤い炎は、三人の目の前を通り過ぎ――どこにも燃え広がることなく去っていった。

そして、
目の前に、人影が一つ。

リビーは、もう一度名前を呼んだ。
「エド兄様!!」

「――少し、遅れたね」
眼鏡の奥にある紫色の眼を細めて、エドワードは微笑んだのだった。

+++

「『虚操』の力、ですか・・・・」
「そう。『虚操』の力だ」
アブソーが言って、エドワードは繰り返した。

その後――エドワードが四人を危機から救った後、リビーは真っ先に兄へと飛びつき、お互いを確かめ合うように抱きしめあった。
腕の中にいる妹を見て、安心したような笑みを浮かべたエドワードを見て、チェインは思った。

――ああそうか、いままでこうやって支えあってきたから、リビーは今まで壊れなかったのか。

そして、今。
目を覚ましたアブソーに、今まで起きたことを説明しているのだった。
エドワードは続ける。
「ほら、マニの持っている『実操』の力は知っているだろう? 私の力はその力の対極にあるようなものなんだよ」
「つまり、どういうことですか?」
「そうだね――、一言で言ってしまうならば、マニにできないことができるけど、マニができることはできないのだよ、私は。まぁ、簡単に言うと触れないものを操れるんだ。空気然り、炎然り」
そうなんですか、と納得した顔で相槌を打つアブソーを見ながら、クルーは思い出していた。

あの時。
アブソーが炎に入る直前の時。
どこか違和感があった。
今、それが分かった。

眼、だ。

アブソーの、優しい眼ではなかった。
力が漲っているような、強い眼だった。
それは、まるで――、
まるで別人のような。
まるで――ファントのような。

いや、あるいは・・・・ディーバなのか?

「おい、クルー。何ボーッっとしてんだよ」
チェインがクルーの隣に腰を下ろしながら、言う。
「アブソーのことばっかり見てよ、自分の妹に惚れたのか?」
そして、ははは、と笑いながら「冗談だよ」と言うチェインに、クルーはからかい半分で、
「まぁ、惚れていましたよ」
クルーは言った後、隣を見た。
こちらを見たまま、固まっているチェインがいた。
「冗談です」
クルーはしてやったり、という顔で言うと、視線をエドワードとリビーの話を聞いて笑っているアブソーに戻す。
そして、ふとチェインに訊いた。

「貴方は、アブソーのことが好きですか?」

金髪碧眼の青年は、その問いに赤面もせず迷いもせず真っ直ぐに答えた。

「好きだよ。誰よりも、な」

+++

そして。
エドワードを含めた五人は、建物の外に出た。
それには少なからず、心の準備をする必要があったが――荒れたビルから出てくるなんてことは、普通ではない――、兎に角外に出たのだ。

しかし、視線が集まることが無かった。
「あ、あの金髪の人格好良いね」「えー、私あの眼鏡かけてる人も好きだな」「黒髪の人が一番」
などという声が聞こえるだけで、特に不振な眼を向けられることは無かった。
その『異常』に、いち早く気付いたクルーは、すぐさま今出てきたビルを見る。

何も――無かった。
戦いの跡が、無かったのだ。

三人も、そんなクルーに釣られビルを見た。
そのうちの一人――アブソーがクルーに言う。
「これは・・・・どういうことでしょうか・・・・」
クルーは一つだけ、思い当たる節があった。
「おそらく、いや、確実にこれはファントがやったことです」
「はぁ?! なんであいつが・・・・」
チェインが当然の疑問をぶつけ、クルーはそれに、やんわりと、答える。
「これが、彼なりの、『敗者の義務』なのでしょう」
苦笑して、答える。

+++

それは異様な光景とも言えるだろう。
何せ、五人が手を繋いで輪になっているのだから。

「皆さん、手は繋ぎましたね?」
「もう何回目だと思ってんだよ」
「私も、準備は万全だ」
「ううう、周囲からの視線が痛いです・・・・」
「大丈夫ですよ、リビーさん」
そして、クルーは呪文を唱える。
エドワードは、他の人間に見られないように、空気を操り蜃気楼を作った。
あとは、戻るだけ。

そして、ある一つのビルの上に。

赤い絶望がいた。
五人を見て、不敵に笑っていた。

「『悲劇』は、まだまだこれからですよ? 小さな女神」
冷たい声でそう言ったその言葉は、誰にも届くことは無かった。

+++

そして、妖精界に戻った時。
最悪と最良の知らせを聞いた瞬間から、その『悲劇』は幕を上げる。

最後の戦い。

最期の騎士。

そして――最強の絶望。

茶番は終わった。
泣いても笑っても、これで終幕。

それはまだ少し先の話。
しかし、それほど先の話でもない。

確実に、確実に。

フィナーレは、近付いているのだ。

そして、全てが終わった時。
笑っているのは――、               

                              それはひとつの果実からⅣ End,,,