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希望的に強大な魔力の主


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「火事ですか。困りましたね。さて、どうしましょうか・・・・」
「どうしたもこうしたも無いですよアポトニティー様!!」
リビーはクルーの両手を『再生』しながら、今にも泣きそうな顔で言う。

そして、その横で――アブソーはじっと遠くの赤い炎を見ていた。
どこか憂いのあるような、恐れているような、曖昧な表情で。

リビーは掠れた声で言う。
「デパートからも出れないし、さっきのお店に戻っても、ファントが――」
「その点は問題ナッシングだぜ」
ふざけたように、皆の背後でチェインは言った。
「あ、チェイン様」
「え、ていうか火事かよ!! どーすんだよ、これ」
ま、とりあえず、と言って、チェインはクルーの目の前でしゃがみこみ、
「クルー、ありがとよ」
「? 何がです?」
「いや、俺が言いたかっただけ「あぁ!! チェインさん手から血が出てますよ!!」
アブソーは叫んで、チェインの手に自分の手を押し当て、止血をした。
突然の出来事に、チェインは赤面。
「・・・・なーるほど」
「リビー、何がなるほどです?」
「恋のベクトルの向き、よ」
最後にそう締めくくって、リビーは真剣に治療に勤しみ始めた。

+++

そして、クルーとチェインの治療が終わり、改めて炎を見やる。
「で、どうするんだよ、クルー」
クルーは少しばかり思案し。
「助けを待つしかないでしょうね」
望の薄い答えだった。
「・・・・あの、」
アブソーが遠慮がちに言った。
「ん?どうしました?」
「ファントさんは、赤いのですか?」
そんな突拍子も無い質問に驚きながら、クルーは静かに答える。
「確かに、ファントは赤髪赤眼です。だから、彼は二つ名で『赤い絶望』とも呼ばれています」
「そうなんですか・・・・」
そして、アブソーは再びさらに燃え広がった炎を眺める。
そんな妹を見て、クルーは一つの仮定を出す。

――すでに、アブソーの中の『ディーバ』が、覚醒しようとしているのでしょうか・・・・。

そこまで考えたところで、リビーが口を開く。
「そういえば、エド兄様はどうしたのでしょうか」
「あ、そういえばそうだよな・・・・。クルー、今エドワードは何してる?」
んー、そうですね、と言って、しばし目を閉じてクルーは答えた。
「あちらこちらを移動していて、リビーのことを必死に探しています」
「そうですか・・・・無事ならいいんです」
少し笑って、リビーのうす紫色の髪が、揺れた。
そして。

紫の髪の間から、赤い絶望が見えた。

ユラリユラリと愉れていたのは。
果たして、少女か、少年か。

突如現れた歓迎されない存在。
ケラケラと笑う。

ただひたすら、
苦しく、
くるしく、
クルシク、

狂しく。

ふと、笑い声が止んで、少年が言う。
「皆さん、どうしてこんなに私のことを凝視するんです? うっかり自惚れますよ」
「な、なんでお前・・・・気絶したはずじゃ・・・・」
さきほど己が倒したはずの少年に、チェインは至極納得いかないという風に言った。
「ふむ、打ち所が良かったのですかね。まぁ、それでもダメージは皆無とは言えませんが」
と。
視線を感じた。
目をやると、アブソーが不安そうな顔で、見つめていた。
否、恐怖に染まっていく顔か。
「おや、小さな女神よ、どうしました――」

「これ以上、私の友達を傷つけないでください」

少年の声を遮るように、アブソーは声を少し張り上げて言う。
そして、確かにその時のアブソーの目は――

――恐怖に、支配されていなかった。
   綺麗で澄んだ、少女の瞳が、そこには在った。

「アブソー様・・・・?」
今一度、身にまとう空気が変わったアブソーに、リビーは確かめるように名を呼び、
「・・・・・・」
クルーは、黙って妹を見つめていた。

「誤解しないでほしいな、小さな女神。説明が、必要かな――私は本来このような姿では無い。操っているだけだ。かと言って、子供の体が丈夫になるわけじゃ無い、つまり、私はすでにそこのお二人の騎士に、負けてるのですよ」
チェインとクルーを指差して言い、一旦そこで息を整える。
「私はこう見えても勝負に関してはフェアでね。敗者はもう勝者には手をだしませんし、勿論、そこの少女達にも被害を与えようなんて思っていませんよ」
紳士なのでね、とキザっぽく言う。
「あと、敗者は敗者らしく戦いの後片付けをしましたから。――分かりやすくいえば、『さきほどの人間達は安全な場所に避難させました』」
「な、何で・・・・」
チェインが赤い絶望に言う。
「お前、こんなことを「おっと、私は善人じゃありませんから」
少年は、後ろを向き、皆に背中を向けた。
「敗者としての、義務は果たしたつもりですので、ここからはファントとしての義務を果たします」
「ぎ、義務って・・・・何をするのですか!!」
リビーが疑問をぶつけ、少年はそれに静かに答えた。

「八妖精とあろうお方が、それは愚問ですね」
少年は首だけ振り返り、

「絶望を、貴方達に贈りましょう」

後ろから唸るような音が聞こえた。
振り返ると、先ほどの何倍にも膨れ上がった炎が轟々と燃え上がっていた。
「こ、これは――!」
「炎にね、命を与えて、命令を下しました。まぁ、その命令の内容は言わずとも貴方達には分かりますよね?」
気付くと、すでに炎は周りを囲んで、逃げ道を防いでいた。
万事休す。
そんな言葉が、皆の頭に浮かんだ。

「さて、私はこれでお暇しましょう――――」

そして、少年は、アブソーを、その赤く染まった瞳で射抜き、言う。

「果てしなく、絶望しろ」

それは、以前のファントとは違った――冷たく冷え切った、例えるならば殺人鬼のような声だった。
果たして、どちらが本当のファントなのか――。

それが分かるのは、まだ後の話である。

+++

それはまさしく文字通り、赤い絶望だった。

「あ・・・・ああぁ・・・・!!」
「落ち着いて、リビー」言いながら、クルーは震える少女の肩に手を乗せた。
「落ち着いてなんかいられませんよ!!」
リビーはクルーの手を振り払うと、轟々と燃える炎へと駆け寄る。
チェインがそれを見て、叫ぶ。
「なっ! 何やってんだ!!」
リビーは、ゆっくりと振り向いて、言う。
「私が――私がここに来なければ。私が浮かれたりしなければ。私が勝手なことをしなければ。私がエド兄様とはぐれなければ。私がアポトニティー様を見つけなければ。――少なくとも、こんなことには・・・・!!」
リビーは小さな体躯を、炎に向けて、何か決心したように、

「だから私は責任をとって死にます」
――皆さんは、その間に、逃げてください。

途切れ途切れに言って、リビーは赤い炎に身をゆだねた。
少女の体が、炎に包まれた。

が。
サイラー・リビーは死ななかった。
アブソーが、己の手を炎に突っ込んでいた。
「ふぅ。危なかったですね」
僅かに、苦痛に歪むその顔で、アブソーは言う。
「炎の熱を、『吸収』してみました。・・・・賭けでしたけど、成功して良かったです」
「アブソー様・・・・」
クルーが、リビーの腕をとって、炎から引き出した。
「おい!! お前も早くでろ!!」
と。
チェインがアブソーに向かって叫ぶ。

「いいえ。私はまだ出ません」

とうてい、少女とは思えないような、表情でアブソーは言う。
「この前、タイニーさんの力を吸収することができましたから、もしかしたら、この炎もファントさんの力を吸収したら――」
「んな無謀なこと・・・・。もし失敗したら」
お前は炎に焼かれて死ぬんだぞ、とチェインは低い声で言う。
アブソーはそれに、凛と答える。
「大丈夫です。私は――

――『ディーバ』ですから。

問題ナッシングです」
さきほどのチェインの様におどけて言うと、アブソーは炎の中へと呑まれていった。

+++

「ふむ。ついにディーバが目覚めましたか。これでやっと、最高の喜劇ができそうです」
某所で様子を見ていたファント――すでに少年の姿では無い――は、その赤い眼を細めていう。
誰かに向かって、言う。
「君も、そう思うでしょう?」

+++

私は役立たずです。

あの、悪夢のような一夜――赤い公園での殺戮事件。
平和を絶望の一色に染めた犯人の名は、ファントだと伝えられた。
けど、その時の私にとって、犯人が誰かなんて関係なかった。

私の両親が殺された。
その一つの事実で絶望するには十分だった。

時々悪戯をする私を怒ったけど、とても気さくだったお父様。
色んな私の感情や気持ちを、優しく受け止めてくれたお母様。

一瞬にしていなくなった。
たった一夜で、かげがえのないものを失った。
鍵をうっかり落としてしまったように、あっけなく。

もしも、あの晩、私が公園で忘れ物をしなければ。
二人は、生きていたに違いないというのに・・・・。
何もできなかった何もできなかった何もできなかった――!

お父様とお母様を殺 したのは、私だと言うのに!!


けれど、それでも。

人は――二度と戻らない。

その、絶対の真実を、私は初めて呪った。

+++

「――――リビー」
「・・・・あ・・・・・・・・・。」
目の前には、赤い炎。
後ろを振り返ると、自分を抱きとめるクルーがいた。
「・・・・アポトニティー様・・・・あの方は・・・・」

「そう、『ディーバ』。またの名を、『希望的に強大な魔力の主』」

「あんな、小さな子供が・・・・」
そんなにも大きな使命と名前を持っているなんて――。
リビーは、消え入りそうな声で言った。
そして、クルーはあやすように言う。
「それは――貴方にも同じことが言えるかもしれません」
「・・・・・・」
「まだ、あのことを忘れられないのでしょう? だから、炎が迫った時に私達の死について敏感になってしまったのでしょう。けど、貴方は分かっていません」
クルーは、リビーの目を真っ直ぐに見て、

「貴方が死んで苦しむのは、何もあなた自身だけではないのですよ、リビー」

と。
リビーの目から一雫の涙が流れる。
何故、涙が出たかなんて、その時は分からなかった。
ただ――ただ単に。

無性に泣きたくなった。

そんな二人のやり取りを、チェインは黙って見つめていた。