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トピカの絵的空間


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そして

あれは結局夢だったのか。
もしくは現実か。
今となっては分からないけど、しかし――

+++

「…………は、蜂蜜っ!?」
開口一番に何故かそう言った黒髪の少女は、反射的に仰向けになっていた体を起き上がらせようとするが、しかし。
直後。
ゴンッと、鈍い音が響いた。
「いったぁああああ!」
涙眼になりながら頭を押さえて、思わず体を丸める少女。どうやら狭い場所にいるらしい。
と。
「おい、うるせぇぞ」
いかにも不機嫌そうな声で――ピアノの下ですすり泣く少女を覗き込んだ彼。
少女からは見えないが、彼は黒いタキシードを完璧に着こなし、赤いネクタイを締めている。そして仕上げに黒いシルクハットを頭に。
「あーあ、よくもオレ様のピアノに一撃食らわしやがったな、小娘」
「……ふ、不可抗力ですぅ。それにおじさん、あたしは小娘じゃなくてトピカですから」
「なら言っておくが、オレ様もおじさんじゃなくてフォルテという素晴らしくセンスの良い名前が在るんだ。お前なんぞに、オレ様のことをおじさんなどと呼んでいい権利なんて、無い」
フォルテはトピカに言うと、ピアノから離れた位置に在る、木製の椅子へと腰を下ろした。トピカは彼についていくようにピアノから這い出ると、辺りをキョロキョロ見渡す。

どこもかしこも、キャンバスのように真っ白だった。

「トピカと言ったか――お前、絵が好きなのか」
「へ?」
トピカはフォルテの言葉に驚き、とっさに眼を彼に向ける。
「な、何で分かるんですかぁ……」
「おいおいおい、それは愚問だぜトピカ。オレ様は天才なんだから分かるのは当然だろう」
フォルテはそして、ニヤリと笑う。

しかし、その真相はというと。
トピカの頬についた青や緑の絵の具をフォルテが見たからという、単純かつ明快なものであった。
「ちょ、超能力だぁ……」とトピカは呟いたが、それは紛れも無く間違いである。
とまあ、そんな補足を挟みつつも、話は進むわけであるので。

と。
フォルテは言う。
「この白い空間は今、色を欲している。お前が頭の中で絵を描くだけで、ここはその絵の通りに彩られる――試しに、やってみるか?」
そして彼は楽しそうに、微笑む。
しかし大して、トピカは訝しそうにその白い空間を見つめるばかり。そしてたまらず、彼女はフォルテに声を掛ける。
「あのぅ、フォルテさん」
「何だ」
「もしも本当にそんなことができるなら……夢としか思えないんですけど」
「確かに夢だな」
フォルテは焦らすことなく――即答した。が、その後、彼はこう続けた。

「だが、同時にそれは間違いでもあるな」と。

「……い、意味が分からないです」
「ま、そうだろうな」
フォルテは椅子から立ち上がると、トピカへと歩み寄り――彼女の頭の上にポンと手を乗せる。
「……それで、試すのか試さないのか、どっちだ?」
トピカはしばし考えてから、はっきりと答える。

「試しますっ!」


+++

一面花だった。
トピカは、花畑を描いた。
何の変哲も無い、普通の花――しかし、それはどうしようもなく美しくみえた。
「ほお、なかなか上手いな」
「これでも一応、画家志望者ですからぁ」
トピカのそんな言葉を聞き終わらないうちに、フォルテはピアノの方へと歩いていく。
そして――椅子に座り、鍵盤に手をかけた。
「ではオレ様がこの色に溢れた絵的空間で、一曲引いてやろう――

――オレ様の音楽によ」

瞬間。
ガタン、と。
ピアノの中から音がした。
「……………………」
フォルテは鍵盤の一つをゆっくりと押した。トーンと、音が響いた瞬間、フォルテはトピカを睨みつけて、
「……………………チッ」
舌打ちだ。
すいません私のせいですと、トピカは思った。
「しょうがねぇな――別の楽器でやってやるよ」
そう言って、ピアノの脇からバイオリンを取り出し、構えた彼。
今度こそ本当に――彼は格好良く台詞を言う。

「オレ様の音楽に酔いしれろ」

+++

「…………ば、バイオリン!」
と、再び少女は意味不明な言葉を叫びながら、質素なベットの上で起床した。
「……絵的、空間」
彼はそう言っていた。

粗末な家からも推測できる通り、トピカは決して裕福とはいえない生活を送っている。
だから、筆や絵の具が変えない。
故に――思う存分絵が描けない。
頬についた絵の具も、昨日使い切ってしまったもののなごりだ。

そんな中での、夢だったのだ。

「楽しかったなぁ」
トピカは言って、幸せそうに微笑んだ。