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フォルテの私的空間


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そして

あれは結局夢だったのか。
もしくは現実か。
今となっては分からないけど、しかし――

+++

「オレ様の部屋に勝手にあがるとは、いい度胸しやがって」

その人は、
黒いワイシャツとズボンに赤いベスト、そしてシルクハットとステッキを仕上げに・・・・。
そんな成り立ちで――何故か椅子に縛り付けられた僕の前で、開口一番にそう言った。
「随分と余裕の表情してやがんな、小僧」
「・・・・もし僕が余裕だったら、大口開けて笑ってますよ、おじさん」
僕の言葉に、その人は眉を顰めると、右手に持つステッキをクルッと回し、僕の額に向かって――突いた。痛かった。泣くほどじゃないけど。
「何するんですか、ひどいですよ」
「ひどいのはてめぇだぜ? 小僧。オレ様のプライベートルームに無断入室した上、嘘をつくとはな・・・・外道のやることだろうぜ」
いささか大袈裟ではないですか。
と、僕は言おうとしたけど、幸いにも学習能力が備わっているので、口には出さなかった。
「だけどおじさん。なんで嘘だと分かったんです」
「ああ? なんとなくに決まってるだろ、あんなのは勘だ、勘。オレ様は天才の中でも郡を抜く天才だが、さすがに人の心までは読めねぇよ。あとな、小僧、おじさんじゃねぇ、フォルテだ」
「なら僕も小僧なんかじゃありません。ちゃんとシーモという名前があります」
お返しとばかりに言ってみると「ああ、そうかい」と、興味なさげにフォルテさんは言って、スタスタと薄暗い部屋の奥へと歩いていく。
――そして、彼の姿は闇に紛れて、見えなくなった。
「・・・・・・・・」
ひとりぼっち。すごく不安だ。
自分の呼吸するヒューヒューという音が、四割増し大きく聞こえる・・・・気がした。
「おい、シーモ。よぉおおく聴いとけ」
闇から――否、フォルテさんから唐突に、そう呼びかけられた。

そして

ポロン、と。
澄んだ音。
「これは・・・・ピアノ?」
「ご名答、まったくもってそのとおり。二重丸だよシーモちゃん」
続いて、ケラケラとからかうように笑うと、フォルテさんはキザっぽく言った。
「せっかくだ、この部屋から蹴りだされる前に土産でもプレゼントしてやる――

――オレ様の音楽に酔いしれろ」

+++

その後のことはよく覚えていない。
音楽のことはもったいないなとも思ったけど、よくよく考えればいきなりあんな状況はありえなかった。

フォルテと名乗る男のプライベートルームだって?
今まで自宅の庭で昼寝をしていた僕が、何のひょうしでそんなおじさんの私的空間に。

もし、僕がフェアリーストーリーに出てくるキャラクターだったら、ありうることかも知れない――けど。

けど、もしも。

今、僕の額がズキズキと痛んでいるのが、庭にあるものが原因でないとしたならば。

「オレ様の音楽に酔いしれろ」
僕は思わず微笑んで、彼のそんな言葉を思い出していた。