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様々な可能性

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匿名ユーザー

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「と、ということは・・・・アブソー、お前って・・・・」
「クルーさんの妹、ということになりますね。義理ですけど」
「嘘だろ・・・・そんな」
チェインはそう呟いて、頭をうなだれた。
「おいおい、世界が終わるわけじゃあないんだからさ」
「ま、実際に終わる危機になりつつありますけどね」
クルーがおどけて言って見せた。

結局、クルーはファントとすでに接触していることは話さなかった。
話したところで、同情されるだけだから。
結果的に、なんらかの事故でアブソーとノヴァが人間界に行くことになった、という事でおさまった。

……おさまった、のだが。

チェインは納得いかないらしい。
勿論、彼の愛するアブソーが私の妹だということに。
何度も言いますが、義理、ですけどね。

「で、何をそんなに拗ねているんですか? チェイン」
「拗ねてねぇよ! ただ・・・・」
「ただ?」
「ただ、生意気なお前と・・・・アブソーが兄弟とは思えないってゆうだけだ」
そして、チェインはクルーから目をそらした。光速で。
「それはつまり、私の性格が悪い、と」
クルーの声の調子がだんだんと冷たくなっていくのに対し、ティーは明るい声で、
「あー、確かに。それには同意するかも」
「・・・・ティーまで」
「大丈夫ですよ。クルーさん」
そこに入り込んで来た声は、無論アブソーのものだった。
「クルーさんにも、いいところはたくさんあります!」
「アブソー・・・・」

――妹から元気付けられるのも、どうかとは思うのですが。

すると、アブソーの口が再び開き。
そして、一言。

「元気をだしてくださいね。愛しい兄さん」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
しばしの沈黙。
そして。
「・・・・マニ。おふざけもいいかげんにしてくれませんか?」
「え? 何でです?」
答えたのはマニではなく、アブソーだった。
しかし、その顔はあらかさまに慌てていた。
「これも『実操』の力で、かな? そうでしょ、マニ」
「トライしてみるものですね。今のところ口しか動かせませんけど」
ティーの問いに対し、あっけらかんと応えるマニに、
「これ以上私の友達で遊んだら、承知しないからね」
凄みをつけて言うティーの声は、効果抜群のようで、
[・・・・]
テディベアは心なしか小さくなっているように見えた。

+++

「さて、帰りましょうか。皆さん、手をつないでください」
「分かった。じゃあね、アルファ」
するとドラゴンは一度咆哮を上げると、空へと舞い戻っていった。
「・・・・また、会えますよね」
そんな小さな少女の問いに、彼女は強く、優しく答える。
「そうだね。お互いが望めば、再会するもんだしね」
手が輪になり。クルーが呪文を唱えた。
地面は光だし、その光はアブソー達を包んで言った。

あの時のように。

ふと、クルーはチェインを見た。
この世の終わりを見たかの様な顔をしていた。

――まったく、マニのいたずらであんな風になってしまうなんて。

あなたも、そうとうアブソーに入れ込んでしまったみたいですね。
私のように。

最後に、彼は言葉を紡ぐ。

神よ 我を時空へ誘いたまえ

+++

アブソー達は時空から戻った後、タイニーと再度状況を確認するために城の中にいた。
取りあえず、残りの三人の八妖精を探すために再び時空に行くのは、アブソー、チェイン、クルーの三人ということになった。
残りの三人には勿論、城に留まる理由があった。
タイニーは引き続き犯人を捜しだすために、マニはテディベアだからという理由で、ティーはマニの面倒を見るためという理由だった。
それが決まった時、クルーが不服そうな顔をしていたのは、言うまでも無い。


「これはあくまで僕の予想なんだけどさ」
と、タイニーが突然切り出した。
「何の予想ですか? タイニー」
「ファントのことで、さ」
「・・・・ファント、さん。ですか」

八妖精を時空に飛ばし、向日葵を襲った、犯人。

タイニーは皆の視線を感じながら、きっぱりと、
「僕の情報が正しければ、ファントは魔力の使い方に制限があるんだよね」
アブソー達にとって、興味深い発言をした。
「・・・・制限、って言ってもさ、具体的に何があるの?」
「そうだね。たくさん、といっても、片手の指で数えられるくらいしかないんだけどさ」
といいながら、少女は実際に右手を使って数え始めた。
親指。
人差し指。
中指。
そして、薬指は折られなかった。
「・・・・今のところはね、三つほど分かってる」
「そ、それは、何なのですか?」
アブソーがせきたてるように言う。
タイニーは、そう焦るなって、となだめてから、皆に向き合った。
「まず一つ目は、『知識』の力みたいに相手の思考を読むことや、知識を得ることができないこと」
じゃあ、私の力は特別なんですね。と言ったクルーを、チェインは睨んだ。

「二つ目。自分の体を治癒したりできないことさ」
「あぁ、リビーの『再生』の力みたいなもんか」
その言葉に、アブソーはチェインに視線を動かし、
「リビーさんって、誰ですか?」
すると、チェインは少し嫌そうな顔をいて、答えた。
「貴族で生意気で我侭で自分勝手な餓鬼だよ」
一気にしゃべったチェインは一息ついて、アブソーから視線をずらした。
アブソーは結局、リビーについてはあまり良いことは聞けなかったな、とだけ思い、タイニーに再び視線を戻した。

「で、最後なんだけど・・・・」
と、言葉を続けようとしたタイニーは突然口を閉じた。
「・・・・どうしました? タイニー」
「・・・・僕さ、まちがってた。二つだったよ」
ははは、と軽く笑ったタイニーは、どこかぎこちなかったが、
「そっか、まぁ誰にでもまちがいはあるしね」
ティーはそれほど気にせず、これで話は終わり! という風に立ち上がった。
「チェイン、アブソー、次の旅があるんでしょ? 何か買いに行く?」
すると、アブソーはチェインの手をとり、
「行きます! さ、チェインさんも行きましょう!」
「ちょ、わ、分かったから」
あらかさまに狼狽したチェインを眺め、面白そうに悲しそうに笑うタイニーに、
「で、話とはなんですか?」
「気付いてたか」
「まぁ、なんとなくですけどね」
タイニーは三人の姿が見えなくなってから、クルーの耳に顔を寄せた。
「いいかい? このことは口外しないこと」
「・・・・分かりました」
そして、タイニーは息を吸って、決心したように、小さな声で、告げた。

「三つ目は、『時航(タイムトラベル)』の力、そのものなんだよ」

「・・・・え」
「そうなんだよ、矛盾するんだ」
といいながら、タイニーは静かに身を離した。
「少なくとも妖精を時空に飛ばすには、その力が絶対に必要なんだよ。いくらファントのように――魔力が強大でも、ね」
それならば、何だというのだろう。
タイニーは何が言いたいんだ。
そんな可能性、私は考えたくも無い。
「クルー。僕たちの仲間の中に一人、そういう力を持った奴がいるだろ?」
「・・・・いたら、どうだと言うつもりですか?」
「僕はその人を『裏切り者』だと考えるけどね」
二人の間に静かな時間が通り、そして、クルーは冷静に、なるべく普通に、

「ベル・レンシー。それが『時航』の力を使える妖精の名です」
そして同時に、私達の仲間でもある妖精の名でもあります。

最後にそう付け足して、クルーは頭をうなだれた。
悔やむように。泣くように。祈るように。
そして――何かを期待するように。
クルーはどこかに存在している彼の思想を視た。

+++

クルーとタイニーが、シリアスな話をしている頃。

「で、いつから知ってたんだよ」
チェインは、隣で一緒に歩くアブソーに突然、問いた。
「何がですか?」
「ほら、お前がクルーの妹だった、っていうことだよ」
アブソーは思い出すように顎に手を当て、あぁ、それでしたら、と。チェインにまた顔を向けて、
「時空に行く前にクルーさんに教えてもらったんです。城の中で」

――やっぱり、あん時かよ。まぎらわしいことしやがって・・・・。

と。心の中で毒づくチェインの背を、ティーはポンと押して、
「まぁまぁ、そんな不細工な顔しないでさ」
「ぶさっ・・・・! ティー、口には気をつけろよ!」
「私は事実を言っただけですよー。ね、アブソー」
言いながら、ティーは後ろを振り返る。
アブソーは口に手をあてて、笑っていた。
「・・・・アブソーもかよ」
「ま、しょうがないじゃん。ホントのことだし」
「違いますよ。そのことで笑ってたんじゃありません」
チェインとティーは、アブソーをいぶかしげに見た。
「じゃあ、何が理由で?」
ティーが疑問を投げかけた。
「私、クルーさんの妹という事実を皆が知ってしまったら、今までのように振舞ってくれないと、
勝手に思っていたんです。そんな心配をしていた自分が、なんとなく可笑しくって」
えへへ、と無邪気に笑ってから、彼女は続ける。
「クルーさんは、私がノヴァ叔母さんの名前を出したら私がクルー・ガディスだと気付いたみたいで。
私もその時にクルーさんが兄さんなんだって分かって」
顔を上げて、二人の顔を見た、

「すごく、嬉しかったんです」

チェインとティーは、静かに言葉を待つ。
「だから、あの時。思いっきり抱きついちゃったんです。それぐらい、嬉しかったです」
と。アブソーが言った瞬間、チェインは驚いて、
「ま、まさか、お前が勝手に抱きついた・・・・のか?」
「そうなると思います」
またしても顔をうなだれたチェイン。
あいつだけあいつだけ・・・・、と呟き続けるチェインに、アブソーは唐突に、
「安心してください、チェインさん」
そして、小さな衝撃を、チェインは背中に感じた。
チェインは硬くなりながら、ゆっくりと後ろを振り返った。

アブソーが、抱きついていた。

「な・・・・!」
「これで、平等ですよ」
道のど真ん中でのその光景は、とても微笑ましくも見えたし、恋人同士にも見えた。
なにせ、どちらとも顔が整っているのだ。
「おーい。イチャイチャするのは後でやってくんない?」
「い、イチャついてなんか・・・・」
「あ、ごめんなさい」
あっさりと手をほどいたアブソーを名残惜しげに思いながらも、人々の視線から逃げるように
歩を速めた。
「そんな怒ることないだろー」
「怒るってねぇよ! ただ・・・・」

――ただ、恥ずかしくて、顔が熱い・・・・。

「あ、チェインさん」
ふと気付けば、隣にアブソーがいた。
「な、なんだよ」
顔をそらしながら聞くと、アブソーははっきりと。
「私、チェインさんに抱きついた時から、なんだか胸がドキドキするんですけど。何ででしょうか?」
「・・・・え」

――それってそれってそれって、もしかして・・・・!

「アブソー、お前――」
「ティーさん! 着きましたよ!!」
そして見上げると、そこには目的の店の看板がぶら下がっていた。
なにやら雑談をしながら、アブソーはティーと店内へ入っていった。
「・・・・・・」
チェインは先ほどのアブソーの言葉の意味を考えながら、店の看板をうらめしく見つめていた。
顔を真っ赤にしながら。

+++

……………………。
……………………。……………………。
……ク……………ルー………。
チェイ……ン………………。
……皆………………どこに……………………。
……僕は……………………何を…………………………………………。
お……。
………………た……。
………………。
…………。
……。

+++

「・・・・で、どうたったんだい? クルー。レンシーの思想の中は」
クルーはゆっくりと頭を上げて、タイニーの目を真っ直ぐと見る。
「・・・・レンシーは、私達の名前を呼んでいました。私達を求めて、呼んでいました」
淡々と、しかしどこか明るい声で言うクルーは、微笑んで、
「レンシーは、裏切り者と決まったわけではありません。勿論、その可能性から目をそらすなんていうことはしませんが。少なくとも、彼は私達の仲間のままだと、信じましょう」

彼も私達のことを、信じて、呼んでいるのですから。

最後にそう締めくくって、クルーは口を閉じた。
そして視線を、空に向ける。
それは、淡く、赤く、染まっていた。
タイニーもそれにつられ、視線を上に向けた。
そして、何気なく問う。

「アブソーは『ディーバ』なのかい?」

「・・・・え」
クルーは目を見開いて、隣にいる少女を見た。
「とある巨木がね、アブソーに会った時に、そんな感じがしたんだってさ」
そうですか、と、クルーは呟いて、
「・・・・確かに、アブソーは『ディーバ』という存在のようです。ただ・・・・」
「ただ、何だい?」
「ディーバに関する情報としては、私の祖母のノヴァがディーバだったということと、ディーバには
女神という意味がこめられているということ、だけしか知りません」
するとタイニーは、ニヤリと笑って、
「じゃあ、ディーバは神が創ったということも知ってるかい?」
「・・・・タイニー、あなたは――」
「ディーバは人間とも呼べるし、妖精とも呼べることもかい?」
「どこまで知って」

「『ファント』に対抗できる存在が『ディーバ』という名前だということもかい?」

息を呑む。
静寂の時がしばらく過ぎ、そして。
「それは・・・・本当ですか?」
「ふふん。情報屋をなめないでほしいなっ」
これでも八妖精の一人だからね、と誇らしげに言うと、タイニーは立ち上がって、
「もう今日は疲れたし、寝るわ。お休み」
クルーは、まだまだ聞き足りないといった心境だったが、タイニーのことも考慮し、何も言わずにタイニーを見送った。

己もまだ、心の整理がついていないのだから。

アブソーは確か、あのおぞましい光景を見たショックで私と過ごした頃の記憶は無くなっている。
それは『知識』の力で確認したはず。

――問題は、彼女がその事実を受け入れることができるかどうか・・・・。

と。
クルーが考えにふけっている間に、アブソー一行は無事に帰還したようで、
「おーい、クルー。戻ったよー」
「・・・・あ、あぁ。お帰りなさい、ティー」
「お前、何か調子悪いのか?」
「え? そうなんですか? クルーさん」
真っ先に自分の異変に気付くチェインは、さすがと言ったところでしょうかね、と心の中で思いながら、彼は思う。

――どっちにしろ、彼女は受け入れるでしょうね。

私の妹は、そういう人ですから。

+++

そして、空は赤く紅く朱く染まる。
ゆっくりと。ゆっくりと。
青く、平和だった空を。
蝕むように、崩すように、壊すように。

それはまるで、これからの世界を暗示しているようで。
それはまるで、『彼』の赤のようで。

確実に、脅威が近付いていることに。
まだ誰も、感づいてはいなかった。

あの『悲劇』が幕を開けるまでは。

今は、まだ静かに。
時は、流れていた。
                                 それはひとつの果実からⅢ End,,,  

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