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過去における絶望の話

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匿名ユーザー

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長い沈黙。
静かな時間。
実際に流れた刻は、刹那のことだったのかもしれない。
そんな不確定な空間になってしまったのも、ファントという言葉が原因だろうか。

言葉に力は無いというのも、また仮説なのだけれども。
言葉に力は有るというのも、また奇説なのだけれども。

ただ一つ絶対なのが、ファントにはあまり関わらない方が幸福なのだという事。
そんな風に哲学者の真似事で物事を考えながら、俺は突風に煽られていた。

+++

タイニーとお互い、情報交換をして分かったことは、どれも朗報とは言いがたいものだった。
具体的には、自分達の敵は『絶望的に強大な魔力の主』が一つと。
時空と妖精界の時間の流れ方は違うということが一つ、だった。
つまり、こちらで1日にも満たない時間が、あちらでは一週間経っていたことになっているのだ。
世界のバランスを調整する儀式をするまでの時間は、あまり無い。
アブソー達はアルファの背中に乗って空を飛んでいるのには、そういう事情が絡んでいた。
「けど、本当に良かった。アルファも向日葵も助かってさ」
「それは良いんだけどよ――もしファントと戦うことになったらどうするんだ?」
「現在、ファント以上の魔力を持つ者はいないとだけ言っておきましょう」
「・・・・それこそ絶望的じゃねぇか」
憂鬱にため息をつくチェインを、アブソーは隣で心配そうに見つめた。
そんな不穏で居心地が悪い空気をとっぱらうためにティーが放った一言。

それがちょっとした騒動の始まりだったとは、勿論誰も予測していなかった。

「あ、そうだ! アブソーって人間界にいたんだよね?」
「はい。そうですけど」
「人間の名前にも力がこもってるものなの?」
「無いですよ。ヒトの名前はただの名前です」
「へぇー。じゃあ、アブソーの名前って何だったの?」
「あぁ、アブソーは人間界の頃に持っていた名前は忘れてるんだよ」
と。チェインが続けようとした瞬間。少女は口を開き――

「クルー・ガディス、です」

普通に、機械的に、当然のように、あまりにも衝撃的な一言を放ち、
「「・・・・え?」」
周りの者はただ目を丸くして驚いていた。
「・・・・」
ただし、ある一人を除く。


+++


「・・・・ノヴァ叔母さん。その子は誰ですか?」
白髪交じりの、しかし背はまっずぐと伸びた、ノヴァ叔母さんと呼ばれた老婆はその手にしっかりと、一人の少女を抱きかかえていた。
長い黒髪を持ったその少女は、スヤスヤと可愛らしい寝顔をうかべ、眠っていた。
「この子は空から降ってきたのよ、驚くべきことにね」
「え?! 空からですか? それって、もしかしたら――」
「あなたが考えていることは分かるけど、まだそうだとは限らないでしょう? アポトニティー」
アポトニティーと呼ばれた、7,8歳ほどの黒髪を持った少年は、そうですね、と呟き。

「何事も憶測で判断してはいけませんね」

冷静に、子供とは思えない言葉を紡いだ。
「あら、『憶測』」なんて言葉、どこで覚えたんです?
ノヴァが問うと、アポトニティーは当然のように、

「ココですよ。『知識』の力です」

頭を指差し、言ったのだった。

+++

これはまだ彼らが時空に旅たつ前の。
これはまだ彼らが彼女に会う前の。
これはまだある少女が果実に願う前の。

一人の少年と、空から降ってきた幼い女神の昔話。
そう。
まだ、何もかもが平和だった頃の、淡い思い出。

クルーは皆に向かい合い、その記憶を、取り出し、そして――・・

+++

「兄さん! かくれんぼしましょうよ!」
はぁ・・・・。またきたんですか。
「ガディス、ぼくの今の状況を見てそういうことは言おうよ。さて、ぼくは今何してるでしょう?」

ぼくの質問にあごに手を当てて、健気に考えている彼女。
彼女の名前はクルー・ガディス。ぼくの妹だ。
補足するならば、その名前はノヴァ叔母さんがつけたものだ。
ガディスには、『女神』という意味が込められているんです。
……由来? ぼくが彼女を一目見て、まるで女神様みたいだって言ったからですよ。
そして気の毒なことに、彼女はぼく達に出会うまでの記憶がないんです。
だから、彼女が本当に妖精なのか、はたまた人間なのかはあやういところなので、
ぼく達は彼女を新しい家族として向かえた。

だから、さっき言ったぼくの妹という表現は適切ではない。
ぼくの『義理の』妹、といったところかな?
だけど、彼女の正体はだいたい推測はついている。
そしてもしも、それが真実なのだとしたら――
と。
ぼくが考えたところで、ガディスはぼくに叫んだ。
「分かりました! 兄さんは紙とにらめっこしてたんですね!?」
「・・・・まぁ、遠からず近からずかな」
正確には妖精史の勉強してたんですけどね。
「質問には答えました。さぁ、遊びましょう!」
「・・・・質問の意図が分かってないんですね、ガディス」
「何か言いましたか?」
ぼくは軽く片づけをして、木製の椅子から立ち上がった。
「いや、なんでも。さて、可愛い妹のために一肌脱ぎましょうか」
すると、ガディスは目を輝かせて、
「わーい! ありがとう兄さん、大好きです!!」
無垢な笑顔つきで、言った。

+++

場所は公園。
公園の中心には緑の生い茂った大きな木が生え、少し離れたところには遊具がある。
今日は休日ということもあり家族連れが多く、周りから子供の声が聞こえた。
それを聞いて、よくこんな暑い中で走り回れますね、とぼくは思っていた。

突然声が聞こえた。
「兄さん見ーつけた」
木の幹から顔を覗かせたガディスはぼくを見てそういうと、ぼくの隣に腰を下ろした。
「見つかっちゃいましたか」
「見つかっちゃいましたよ」
「暑くないんですか?」
ぼくはもうこの暑さで動けない。そもそも運動は得意じゃないんだ。
「暑いですよ。だけど、楽しいですから」
そうですか、とぼくが返すと、
「だけど兄さん、真面目にやっていないでしょう?」
「ぼくはもう疲れたんだ。しょうがないでしょう」
すると、彼女はむぅー、とうなりながら頬をふくらませた。
ふと、ぼくはその頬を押してみた。
彼女の口から空気がでる。
「・・・・」
「あの、兄さん。私で遊ばないでください」
「楽しいじゃないか」
「・・・・兄さん、暑さでおかしくなっちゃったんですか?」
「さぁ、どうだろうね」
確かに、こんな行動は前のぼくではありえなかったかもしれない。
それもこれも全部。
「君が妹になってからかな」
「何か言いました?」
いや何も、と。ぼくが言ったところで、『彼』は現れた。
彼は大きな木の上に現れて、そして、壊し始めた。
己の欲望を満たすために。

そして、『彼』は

ぼくと
彼女の
しあわせを

無常に、奪っていく。

+++

「つまらないですね」
彼は、少し落胆したように呟き、ため息をついた。
「これだけの人数がいたのに、こんなにもあっけなく壊れてしまうなんて」
彼の周りには、赤い海が広がり、その中に点々とヒトの形だったものがあった。
彼はその返り血によって全身が赤く染まり、周りと同化して見えなくなってしまいそうだった。
「汚い赤で汚れてしまいましたね・・・・お気に入りの服だったのに」
そう言って、彼は同じく返り血を浴びた己の顔を両手で覆い――次に手を下げたときには、そこに赤はなかった。
否。返り血を消しても、赤はあった。
彼の眼は灼熱に燃える焔のように紅く、彼の髪もまた熱を放つかのように紅く。
そして、その眼がぼく達を突然貫いた。

「それで隠れているつもりなら、それは笑劇ですね」
「この状況を自分達にとっての悲劇だと思っているでしょう?」
「馬鹿ですね」
「これから本当の悲劇になりますから、ご安心を」
「大丈夫です」
「私にとっては喜劇でしかないのですから」

そんな理不尽なことを立て続けに並べながら、木の幹の裏に隠れていたぼく達に、先ほどガディスがぼくに言ったように、声を、冷たい声を掛けた。
「玩具、見ーつけた」

その時、ぼく達の目の前には『彼』と、絶望という二文字しかなかった。
希望など、無かった。

「やめてください!」
隣でぼくの手を握りながら、小さな彼女は叫んだ。
「何故こんな残酷なことができるのですか」
目の前の恐怖に怯え、声が震えていた。
「ノヴァ叔母さんがいれば、貴方だって」
そこで彼は、何か思い出したように、
「ノヴァ? ・・・・あぁ、今の『ディーバ』のことか」
「・・・・何故そのことを」
ぼくが問うと、彼はこれこそ喜劇だと言わんばかりに、
「彼女と昔争った時に、面白そうだから死の呪いを掛けてみたんだよ」
「死の・・・・?」
隣の彼女が目を見開き、か細く言った。
「自分の魔力を使って長生きしてるみたいだけど、彼女も歳だろ? もうそろそろ死ぬんじゃないのかな?」
絶望的だった。
何もかも、彼に奪われていくようで。
しあわせが、みるみる内に吸い取られていくようで。
「って、何でこんなにゆっくり話なんかしてんだろ」
彼はそう言うと、紅く輝く剣を腰から取り出し、
「あ、最後に質問していいかな」
そして、ぼくの隣に、紅い眼を向ける。

「君は何者なの?」

彼は、ガディスにそう質問した。
勿論彼女はいぶかしげに答える。
「・・・・クルー・ガディス。ただの・・・・女の子です」
すると、間髪つけずに彼が、
「それだと説明がつかないんですよ」
と言って、腕を組んで何やら考え始めた。
話についていけないぼく達は、ただ首をかしげるだけだったけど、今この状況が自分達にとって危機的状況だ、ということを思い出し、再度身を引き締めた。
「さっき私は最後の質問をすると言ったけど、それを撤回してこれからいくつか質問するから」
すると彼は再びぼくの隣に眼を向けた。
「Q【キュー】1。自分に何か変わったことは起きた?」
「・・・・無いです」
そぉかい、と彼は呟く。
「Q2。君はどこから来たの?」
「え・・・・どこからも・・・・自分の故郷は分からないんです」
おもしろいね、と彼が呟く。
「Q3。この世界にどうやって来たの?」
「えっと・・・・そ、空からでしょうか?」
わお。ビンゴだ、と彼は呟く。

……まてよ、何がビンゴなんだ? ……まさか、彼は気付いて――

「君に会えて良かったよ、ガディスちゃん」
子供をあやすような声でそう言うと、彼は剣を握り直した。
「君が次の『ディーバ』だって分かったんだからね。ホント、これこそ喜劇だ。感謝するよ。これでぼくは安心してこれからも破壊を続けられる」
彼によってどんどん絶望的になってい状況に、ぼくはついていけなかった。
そして、彼は、紅く輝く剣の切っ先を、彼女に向ける。
「Good bye Goddess」
剣を、振り上げた。

そして。

剣は、振り下ろされなかった。
光が飛び、剣を彼の手から落としたのだ。
彼は少し驚いた顔で落ちた剣を見つめていた。
ぼく達は光の発信源を探し、見つけた。
「「ノヴァ叔母さん!!」」

ぼくとガディスは、木から一目散にノヴァ叔母さんのところに走っていった。
彼が追ってこないか心配で、ぼくは後ろを振り返る。
彼はぼく達を、否、ノヴァ叔母さんを見つめていた。

冷酷さで研ぎ澄まされた、その赤い眼で。
真っ直ぐに見つめていた。

「大丈夫? 二人とも」
「はい! 大丈夫です。兄さんも無事ですよね?!」
あの眼を見て固まっていたぼくに、ガディスが言った。
「え? あぁ、ぼくも平気です。早く逃げましょう――」
「誰がどこに逃げるんですか?」
まだ彼が来ないうちに、と。ぼくが続けようとした途端――

――彼はすでにぼく達の目の前にいた。

「ノヴァ、お久しぶりです。よく生きていましたね。私は嬉しいですよ」
「・・・・そうですか。ゆっくりお茶でもしたいのですが、私達は急ぐので」
「そんなつれないことを言わないでくださいよ」
そう言いながら彼は、剣を取り出した。
「ショーはまだ始まったばかりでしょう?」
すると、ノヴァ叔母さんはぼく達を己の後ろに回りこさせた。
そして、眼を閉じ、地面に手をつけた。
瞬間。
青い光が三人を包み、大きな箱のような形になった。
彼の姿は、見えなくなった。

「二人とも、よく聞きなさい」
ぼく達は、周りの状況を認識できないまま耳を傾ける。
「ガディスは・・・・アポトニティーが思っていたとおりの人です。そして、今ここでガディスが殺されてしまうのはいけません。私達が悲しむ、だけではすまされない事態になります」
そこでノヴァ叔母さんは、一度言葉を止めた。
「私の今の状態では、彼を倒すことはできません」
絶望的に言う。そして、
「彼から逃げるためには、時空にいかなければならないと思います。だけど、私の今の魔力では二人が限界なの。だから、二人で時空に行って、生き延びてほしいの」
それじゃあ、ノヴァ叔母さんはどうなるんですか。と、ぼくが尋ねる前に、地面に魔方陣のようなものが現れた。
「これは私の最後の願いなの。あなた達に生きていてほしいの」
ぼくの妹はその思いの強さを理解し、分かりました、とだけ言って、魔方陣の上に乗った。
と、そこである考えが浮かぶ。
「さぁ、貴方も・・・・」
ノヴァ叔母さんが手をのばす。
ぼくはその手をつかみ、そして。
そのまま魔方陣へと押し込んだ。
彼女の変わりに、呪文を唱える。

神よ 我を時空へと誘いたまえ

魔方陣が光り、ノヴァ叔母さんとガディスの顔がぶれたように見えなくなっていく。
「アポトニティー! 何故その呪文を!」「兄さん! ダメです!」
そんな言葉を遺し、彼女達は、ぼくの家族はいなくなった。

「・・・・ここの力ですよ。『知識』の力です」

ぼくはノヴァ叔母さんの問いに答え、死への覚悟をし始める。

+++

青が消える。
ぼくを守っていた、青が消えていく。
青が完全に消滅した時、そこに残るのは赤だ。

彼の姿が見えてくる。
彼はにっこりと笑っていた。

おや? 一人おいてかれてしまったんですか?
それはそれは、ご愁傷様。
そして、お疲れ様。
もう生きていなくていいんですよ。
私が一瞬にしてその悲劇を喜劇に仕立て上げましょう。

そんなことを、あの二つの紅い眼で言われたような気がして、ぼくは二つの黒い眼で答える。

喜劇になんか、させないですよ。
最後まで、悪あがきしてやります。
ぼくの体が朽ちて枯れて壊れてしまうまで、ね。

ぼくは、彼の思考を視た。
無論、『知識』の力で。
「さて、あの邪魔な青い結界も消えましたし、ショーを続けましょうか」
彼はそう言って、剣を構えてぼくの左側から迫ってきた。
ぼくはその瞬間、右側に、全力で走り始めた。
左より近付いた後、下から上に斬り挙げる。
それがぼくが彼から読んだ思考だった。
「・・・・『知識』の力ですか。面倒な力ですね」
彼はそう呟いて、ぼくの後を追ってきた。

――そして一瞬にしてぼくの背中に追いついてしまった。

「結局、君はまだ子供だったのだということです。たかだか7、8歳のボウヤが私のような青年から逃げるなんて。それこそ、笑劇ですよ?」
そして、彼は冷笑と共に、ぼくへと剣を降りおろした。
ぼくは絶望する暇なく、死を感じた。

+++

その時、私は確かに泣いていたことを覚えています。
そしてそれを思い出す時は、必ずあの鳥肌の立つような恐怖も一緒に蘇ってくる。
だけど、私は、それを忘却しようとしたことは一度もありません。
思ったこともありません。
彼は、いや、皆さんにとってはファントと言った方がいいでしょうか? 
ファントは、私の愛しい人たちと、『ぼく』を、引き離したのですからね。

許すわけがありません。
許す理由がありません。

私は―――

+++

「止めろぉおおおぉ!!!」
そんな大声と共に、先ほどまで感じていた死は突然消えた。
恐る恐る、後ろを振り返る。
そこに彼の姿は無かった。

あったのは――何故か地面にポッカリと開いた穴だった。

「・・・・な、何で・・・・」
「おい、大丈夫かよ」
ぼくは声のした方へ目を向けた。
そこには、ぼくと同じくらいの背丈の、金髪碧眼の、少年が立っていた。

+++

この昔話は。
クルー・アポトニティーがアブソーと出会った話でもあり。
クルー・アポトニティーがファントと出遭った話でもあり。
そして、同時に。
アルター・チェインがクルーアポトニティーと出逢った話でもあった。

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