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「オギャアァァ、オギャァァァ」静まり返った室内に、自らの誕生を天地にしらしめるが如く、泣き声が響き渡る。またひとつ、新たな命がこの世に生を受けた。しかし、その誕生に盛大な拍手や歓声を送る者は誰1人としていない。1組の男女が、自分たちの赤子の顔を覗き込む。しかし、その顔に愛情という感情など微塵も浮かんでおらず、ただただ嫌悪の念があらわれているだけだった。自らの赤子の顔を見るのも早々に、男は1枚の紙をとりだし、なにかを記入し始めた。その紙には【クーリング・オフ】と書いてある。しばらくボールペンを走らせたあと、男は女の腕の中から赤子を取り上げ、さきほどまで記入していた紙と共に看護師に渡した。その動作には1点の迷いもなく、赤子への愛情のなさを、改めて、明確に表していた。赤子は自らが捨てられたのを悟っているかのように、看護師の腕の中で、大声で泣きじゃくる。しかし、男女はその泣き声に未練をかんじるような様子はまったくなく、むしろ不快そうな表情を浮かべただけだった。にぶい音とともに、扉が開けられ、赤子は連れ出されていく。狭まっていく扉の隙間から、赤子の声が尾を引くように、いつまでも室内へと流れていく。しかし、扉が閉まりきるとともに、その声も届くことはなくなり、再び室内に静寂がおとずれた・・・
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