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「ほら、今日から、あなたの目はこんなに美しい・・・」ゆっくり医者が私の眼にかかっている包帯を取った。医者がうっすらと目を開けた私に光沢がある手鏡でその成功を映してくれた。まだ光に慣れない私の眼に映し出された自らの瞳は世界の光を帯びていた。私の眼は…これから、この輝かしい『姫君の眼』で物を見るようになるのね…近未来――より手術の技術が発達し、人々の間では、目の移植がブームとなっていた。そして、私は、今年、オークションで出品された、世界でもっとも美しい眼、『姫君の眼』を手に入れることができたのだ。オークション会場で、この私に電話から必死で挑んでくる人間がいたのはまだ記憶に鮮やかだ。その意地を尻目に私は莫大な資金を投資した。そして、真っ白で空虚な病院に私は赤い手鏡をのぞきこみ、自分を見つめる……それは、エメラルドともサファイアとも取れそうな色合いだが、どれも似て非なるものだった。むしろ、その眼は宝石などという劣等物と比較してはならないくらいの美しさだった。吸い込まれそうで、誰もがその瞳に虜になる……しばらくして、世界の光が弱まってきた。だが、白い病室であることは変わりないようだ。赤とピンクの鮮やかに栄える薔薇の花が花瓶に添えられていた。一度ゆっくりその瞳を閉じる……私は、どういういきさつで、この眼がオークションに出品されるようになったのか、知る気は無かった。さしずめ金に困った地方の愚民が人体売買したのだろうと思っていた。再びその瞳を世界に晒す……だが!その一瞬、何か見えたのだ!うっすらと現実と交錯する、別の何か……何かの風景……?仄暗い古びた何か暗く灰色がかった、湿りを感じさせる世界が、現実と重なった……「え!?ちょっと!?何!?」私はあわてた。それが、こんな真っ白な部屋には似つかわしい、廃墟と化した世界が重なったからだ。しばらく私は考えた。もう一度あの世界が見えるように、何度も瞬きを繰り返したが、その願いはかなわなかった。ある一つの答えが出た。無信教の私らしい答えを出してしまったことに、自分でも苦虫を噛んだ。『私の眼の過去ではないか』ということ……それなら合点がいく。私の眼の持ち主は、臓器提供するような愚かな人間と……この答えに至ってしまった私は、似つかわしいものを手に入れたと恥じた。
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