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史無国 拾四」(2010/01/15 (金) 00:27:56) の最新版変更点

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エルムッドは、震えていた。 その隣でセリックとテレシスも、震えていた。 寒いのでも、怖いのでもない。 「……これが、武者震い、か」 「あんまり、いい気分はしねぇな。だが、不思議と力は湧いてくる」 「前線戦闘部隊じゃない僕らですら、これなんだ。シェルさんやアドルフさんはどうなってるんだろう……」 参軍のテレシスですら震えているのである。 相手はフォスター・ラタナージ子爵が指揮する、帝国中央軍2万。 対するデインガルド・トリエスト混合軍は、デインガルド兵が5000、トリエスト兵が2000である。 エルムッドらの300は、このトリエスト兵2000の中の一部隊であった。 トリエスト兵の指揮官は、デインガルド軍統括役のジェリノール子爵が執るらしい。 「どうせなら、シェル兄とアドルフ兄貴の直轄が良かったな」 「……文句を言うな、セリック。ジェリノール卿はシェルの家庭教師も務めたことのある人なのだそうだ」 「そうなのか?」 「うん、そうらしい。だから戦争の腕にかけては、折り紙つきってことさ」 「何でそう分かるんだよ?」 アドルフが不思議そうに尋ねた。 エルムッドが呆れたように言う。 「……無能なら、わざわざ太守になったシェルの為に、公爵が遣わす筈がないだろう」 「そういうことか」 アドルフは妙に納得したように手を叩いた。 と、その時である。 「エルムッドさん、伝令です!」 「……イースか、どうした」 「いま、シェイリル様からの使者で、『直ちに北西の陥穽を切り崩し、その中に潜め』との命令が」 「……陥穽の中に? 死.ねということか」 「いえ、どうもその陥穽は底まで2mほどしか無いらしく、また地盤もしっかりしているので隠れるには最適のこと」 「……塹壕の代わりか。分かったと、使者に伝え.ろ」 「はい!」 イースはすぐに走り去っていた。 「……では、俺の部隊は命令通り、陥穽の中に潜むことにする。伝令は入っているだろうが、ジェリノール卿にその旨を伝えよ」 「はい!」 エルムッドの傍にいた兵が一人駆けていく。 それを見送って、エルムッドの部隊は動き出した。 四分の一刻後、エルムッドの部隊は陥穽の前にやってきた。 『公爵の智嚢』が手をまわしてくれたのか、すでにかなり崩されて地盤が固められている。 「セリック」 「おう、何だエル」 「歩兵は残りの土を運び出して、陥穽の前に土塁を。空気穴を確保して、穴はカモフラージュしておけ」 「エルはどうすんだ?」 「……俺は騎兵だからな。穴の中に入るわけにはいかん」 「そういうことか」 エルムッドは騎兵を連れて、ちょうど陥穽から死角になっている小山の裏へと駆けていた。 セリックはイースとネアに命令を出して土を運ばせる。 と、テレシスがダナンを呼んで何かを話している。 ダナンはテレシスに何かを聞いたあと、兵を数名連れて走り去って行った。 「何言してたんだ?」 「この辺りの地形の確認をね。僕はこの辺りの地形を完全に知らないからさ」 「おう、精が出るねぇ。お前のそこが、お前の兄貴とは違うところだな」 「……兄上は、天才だから。僕は、追いつくためには努力しないとね、ハハ」 「お前みたいなやつのことを、俗に秀才って言うんだよ」 セリックは、大笑いした。 それにつられてテレシスも笑う。 その時、ダナンが帰還した。 「参軍殿! 敵の分隊2000が進軍中です!」 「地形は調べたかい?」 「それはもう、ばっちりですよ。下準備も終わらせました」 「それじゃネア君に、そっちの方の指揮をしてもらおうかな。ダナン君とイース君は、セリックと一緒に歩兵の指揮をしてくれると嬉しいね」 「了解です」 三兄弟は、それぞれの責務を果たす為に配置につく。 と、向こうの方に砂煙が見えた。 「若干騎兵が多いようだな」 「まあね。ここはグラムドロスの中でも、まだ騎兵が使える場所だからね」 「だな。んじゃ、やるか」 「うん」 そう言って、テレシスはネアに見える位置に立った。 そして、敵が手前500mぐらいに迫ったとき。 手を上げて、振り下ろした。 刹那、大地が揺れる音がした。 デナールは、チャンスルの軍営でうつらうつらとしていた。 クリノール陥落後に残るは、オリノールだけである。 なので、昨日そのオリノール領主マキャベリアン・ガラディノール公爵が居を構える州都・ジェンロンに、降伏を勧める使者を送ったのだ。 しかし、そろそろ帰ってくるだろう、と思い待っていたのだが一向に使者が帰ってこない。 何時の間にやらうつらうつらとしていたのであった。 が、その浅い眠りは帝国兵の叫び声で破られる。 「で、デナール様ぁぁ!」 「……! ぬう、寝ていたか……」 「デナール様、大変でございます!」 「なんだ……!」 「こ、これが軍営の傍に、お、おちて……」 「……これは」 兵が持っていた物。 それは、昨日送った使者の首だった。 「……ご丁寧に、返書まで認めておるわ」 首の後ろに、血ぬりの羊皮紙が張ってあった。 それをはがすと、デナールは広げて一瞥する。 ――我が領地が欲しくば、戦って奪い取られよ―― 「……くそっ!」 返書を破り捨てると、即座に外に出る。 そして、指揮官に向いた、よく通る声で怒鳴る。 「全軍……! 出撃ぃぃ!」 その声に呼応して、帝国中央軍の兵たちもすぐに動き出す。 総勢21万を擁するオリノール攻撃軍が整然と整列する様子は、まさに圧巻であった。 軍が動き始めて、暫く経った時。 デナールのもとへ近づく人影があった。 「デナール卿、いえ、陛下」 「ああ、遅かったな」 「いろいろと下準備か必要なものでね」 「フン、そうか。それでは、策の通りに動いてくれ」 「仰せの通りに」 「期待しているぞ」 「はっ」 その人物は、静かに立ち去った。 「くっく……これで、帝国のすべてが私の物になる……くっははは」 軍営の中ではしばらく、デナールの笑い声が響き渡っていた。 [[史無国 拾伍]]へ

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