「史無国 拾壱」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

史無国 拾壱」(2009/09/24 (木) 21:13:58) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

皇帝ジルノール3世、崩御。 リムノール中を震撼させたこの報は、デナール側の使者によって各地の諸侯に伝えられた。 デナール側は、各地に封じられている領主や諸侯に、帝都へ上ることを命令。 しかし、諸侯らは、理由は違えど答えは同じ、『拒否』であった。 ある者は、自らが皇帝になる野望を持っていたり。 ある者は、皇室への忠義を果たす為に。 ある者は、リムノールを見限り、独立した国家を築かんとするために。 これに怒ったデナールは、帝国中央軍を出動。 各地へと軍を進発させる。 手始めに、帝都サレム・ノティスのある、テル・ジ・リムノール地方北部にある城塞都市アルシを攻め落とし、ここを前線拠点とした。 デナールは、圧倒的軍事力を恃みとし、軍を三分。 一つは、テル・ジ・リムノール地方西部に位置する、ラタノール地方州都ジャコパールへ。 二つは、反対側の東部にあるテスコノール地方州都チャンスルへ。 三つは、二つ目の軍に追従し、チャンスルを陥落次第、北部にあるヤイマール地方州都クレイモンを攻め落とす為に、動き出した。 ラタノール領主である、コルノステ・ナッド・オルノディア公爵はこの報を聞き、前言を撤回して即座に降伏。 しかし、デナールはこれを許さず、コルノステは絞首刑に処された。 テスコノール領主アルマス・クォッド・ハルノーゼ公爵は、テスコノール中の軍をかき集め、帝国中央軍に対抗する。 しかし、中央軍総司令官であり、ブレウ・ドゥ・ラプテンディア(血絶の落日事件)の共謀者である、マーカス・アストリア・フラムドレインの巧みな軍略と、圧倒的兵力の前に打ち破られ、アルマスは戦死する。 そして、ヤイマール地方領主クロウン・デーチル・ファン公爵にいたっては、州都クレイモンを放棄し、東方へ逃亡中、部下に殺されてしまう。 こうしてデナールは瞬く間にリムノールの半分を掌握。 軍の整備を行い、次なる目標へと進む。 テスコノール地方チャンスルを落とした軍のうち、半数を守備においたマーカスは、そのまま軍を東方へと向ける。 即ち、次の標的。 それは、クリノール地方州都トリエストであった。 トリエスト郊外。 此処に張られた軍営に、トリエスト中から軍が集められた。 といっても、軍を置いている都市は此処、トリエストとシェルが太守を務めるデインガルド、あとは南方のトリノリーというところだけであった。 なので、数はそれほど多くはない。 総勢で、2万といったところだった。 「どんなもんだ、レイムッド」 「ティタルニアか。これは、ちょっと厳しいか……」 「向こうは、どれぐらいなもんだ?」 「チャンスル攻撃軍の公称は、35万だな」 「となると、実称は15から20万といったところか」 「半数は守備軍に残すらしいから、ここに来るのは10万前後とみていいだろうな」 二人は、軍営の中央部の本営で、軍議を行っていた。 二人でのことだから、軍議と言えるかどうかは曖昧だったが。 「しかし、2万か……」 「気を落とすな、ティタルニア。この2万は、精鋭中の精鋭だ。兵数で劣れど、兵力では劣らん。それに」 「それに?」 「トリノリーにも、まだ軍はある。ただ、あの人が来てくれるかどうかはわからんがな」 「老公様か。確か……」 「ああ、俺の、義理の父に当たる。ウィノナの父だからな」 クリノール地方南部のトリノリーは、レイムッドの義父で、妻のウィノナの父であるジェディア・アルマーズ卿が、太守を務めていた。 通称老公と呼ばれており、クォリアスと同い年で義兄弟の契りを結んだこともあるという。 ただ、如何な危急の事態であろうと、気が乗らなければ動かないその性格を読める者はいない。 したがって、今回彼が来てくれる確証を持っている者はいなかった。 「前の、ハン族だったか? 東方騎馬民族が攻めて来た時も、老公様は動いてくれなかったな」 「もしかしたら、今回も動いてくれないかもしれないな……」 二人はそう言うと、本営を出た。 外に出ると、丁度クラムディンが、地図を引っさげて、歩いているところだった。 「クラムディン、どうだ、頭の調子は?」 「まずまずといったところだね、レイムッド。総帥は、これ以上ないぐらい、働いているが」 「ランディール殿か。あの人も、本当ならばもう退官していてもおかしくはないのだがな」 ティタルニアが、外を走り回っているだろうランディールを慮る。 彼はかなり若く見えるが、実はクォリアスよりも二つほど、年上なのである。 「ともかく、少し休憩にしよう、クラムディン。こうも考えてばかりじゃ、頭の中が煮え切ってしまう」 「そうするか。本営の中に、何か飲みものはあったかな?」 「先日、シルクロード隊商から購った、唐産の高い茶があったはずだが」 「おいおい、レイムッド。あれはクォリアスがとっておいてくれと言っていた奴だろう」 「そうだったか? ならティタルニア、食糧庫から625年の葡萄酒取って来てくれ。俺が置いといたものだからな」 「分かった、レイムッド。クラムディンは、それでいいか?」 「構わないよ。付け合わせにクラッカーが欲しいかな」 ティタルニアは、右手をあげて、食糧庫の方へ向かった。 その後ろ姿を見送ると、クラムディンとレイムッドは、傍の木製机に折り畳み式の椅子を、三つ並べた。 暫くして、クラムディンがかなり年季の入った葡萄酒とクラッカーの籠を持って帰ってきた。 三人はそれを中央に置くと、しばし談笑する。 と、その時だった。 「伝令、伝令! トリエスト軍総帥レイムッド・ヴァンディール殿はいずこに?」 「ここだ、伝令。何事か?」 「ただ今、チャンスルの傍に配置してあった偵察隊から早駈けが参りました!」 「早駈けが出たのは、いつだ?」 「二日前の昼でございます!」 それを聞くと、クラムディンが持っていた地図を、机に広げる。 ティタルニアが人差指と中指を合わせて、辿って行く。 「二指5本分か。クリノールとの州境に到着するまで、5日。二日前のことだから、遅くとも三日後には州境に来る」 「そうか。伝令」 「はっ」 「直ちに軍営内に触れを出せ。二日後明朝、ここを発つ、と」 「畏まりました!」 伝令はきちっと姿勢を正し、そして駆け去っていく。 四分の一刻せぬうちに、軍営内があわただしくなってくる。 西の方では騎馬隊が原野に出て、最後の調練を施し始めた。 「いよいよ、戦争か。戦場はどのあたりだ?」 「荒地があり、出来るだけ隘路になっている場所だな」 「そうだな。こっちはそれほど騎馬隊がいないから、向こうの騎馬隊を封殺.せねばならん」 「州境付近でとなると……」 クラムディンが、人差し指で一か所を指す。 「グラムドロヌス」 「『堕.落の荒野』か」 「ここを超えられると、不味い」 「大丈夫だ。向こうからここを通るとなると、相当時間がかかる。それにトリエストからグラムドロヌスへは、半日でつく」 ティタルニアはそう言った。 三人は小さく頷くと、それぞれの幕舎へと解散した。 二日後、明朝。 トリエスト軍は、州境にあるグラムドロヌスへと進軍を開始した。 「寒気がするほどの、見事な朝焼けだな」 レイムッドは、中軍あたりで自分の馬に乗って、そう呟いた。 傍にいた兵が、恐る恐る聞く。 「あの……総帥?」 「なんだ?」 「我々は、勝てるんでしょうか」 レイムッドは、小さく微笑み、言った。 「勝てるさ。そう、信じている限り、な」 その兵は、喜色を浮かべ、そして力強く歩きだした。 レイムッドは、一抹の不安は感じながらも、さっきの自分の言葉に嘘はない、と思った。 [[史無国 拾弐]]へ

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
記事メニュー
目安箱バナー