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史無国 弐 数十分後、三組の親子は、一際大きな広間に通された。 奥には少し高い段が設えてあり、その上には華美な椅子と長机が置いてあった。 六人は机の向かい側に直立した。 間もなく、初老の男性が一人、入ってきた。 六人は、男性に向かって膝を折った。 はずだった。 「ちょ、エルムッド、何やってんだよ?」 「……え? ……ああ、そうか」 どうやらエルムッドはまた呆けていたらしい。 セリックに促され、ようやくエルムッドは膝を折った。 初老の男性はそれを微笑みながら言った。 「いまさらではないか、のう? エルの呆けぶりは」 「……申し訳ありません、公爵様」 エルムッドの父が首を垂れる。 「よいよい。形式的なことが嫌いじゃからのう、そっちの方が気が楽でいいわい、ほっほっほ」 侯爵はひげを揺らしながら笑う。 エルムッドはいまだに何が起こっているかわからない様子で、やり取りを見ていた。 「して、今日はどういう用件か? 大体の見当はついて居るが」 「はい。この度は、私たち三人の息子が19歳になりましたので、ご挨拶に参った所存です」 テレシスの父が言う。 「レイムッド・ヴァンディールが第一子息、これにエルムッドだ」 「クラムディン・フォンベルグが第二子息、これにテレセリノスでございます」 「ティタルニア・エレナーデが第二子息、これにシャムロックです」 三人の父親が次々に言う。 それにならって、エルムッドら三人も礼をした。 「ほっほっほ、今更じゃのう。とっくの昔より知って居るではないか。 エルもテレシスも、セリックもな」 「ですが、一応は形式を……」 「じゃから言ったじゃろう? わしは形式的なことが嫌いじゃと、な」 公爵は、その柔らかい言葉の中に、有無を言わせない威圧を含ませていった。 ようやく諦めたのか、レイムッドは公爵に近づきながら言った。 「本当に久しぶりだ、クォリアス。およそ一年ぶりか。息災だったか?」 「ほっほっほ、以前よりは、年をくった感じはしよるがのう。が、息災じゃて」 エルムッドら子供組は、ぽかんとした表情で見ている。 そんな事はお構いなしに、クラムディンとティタルニアも公爵――クォリアスの傍に歩み寄り、談笑していた。 公爵……だよなぁ?」 「たぶんそうだと思うぜ」 「……侯爵の間違いじゃないのか?」 「……いや、それはないと思うよ?」 三人は訝しげに、それぞれの父を見ているのだった。 数分後、談笑を終えたレイムッド達に、テレシスは尋ねた。 「あの、レイムッドさん?」 「何だ」 「さっきの人って、公爵、ですよね?」 「お前たちもこれまで何回か会っているだろう」 レイムッドは言う。 セリックが今度は聞いた。 「いや、でも、公爵相手に、あんな馴れ馴れしくていいんですかい? 公爵って言えば、一応はリムノール皇室の血を引く人でしょうが」 「ああ、まあ、そうだがな。が、クォリアスはちょっと頭が緩くてな」 「エルとどっちが緩いですかね?」 「……そこで俺を出すか、セリック……」 エルムッドの言葉に、笑いが起きる中、レイムッドは言った。 「エルとはちょっと違う緩さだがな。クォリアスは、公爵じゃない公爵なんだよ」 「どういうこと?」 セリックが身を乗り出して聞く。 彼がこういう態度を取る時は、決まって興味がある話の時だけだった。 他の興味のない話の時は、寝ているか、あるいは逃亡しているかのどっちかだった。 「別の言い方をすれば、公爵らしくない公爵、ってことかね。政務の一切は自分が見るし、巡察もするし、税はあんまり取らんし。正直、20年付き合ってきて、驚かされるばかりだ」 レイムッドが笑う。 それにつられて、クラムディンも笑いだした。 「本当に、ですよ。あの人は、まさに変人です」 「まあ、ともかく、今日公爵に顔を見せに行ったからな。近いうちに任官が有るだろう」 ティタルニアが言った。 「あー、かったるいな。任官、か」 「そういう事を言うもんじゃない、セリック」 「俺は、自由に遊び回ってる方が性に合っているさ」 セリックの言に、ティタルニアは溜め息をついた。 「はっはっは、これは仕方がない、セリック。うちのエルムッドですら受けるんだ。お前も諦めて受けるんだな」 「レイムッドさんに言われちゃあ、仕方がないね」 「おい、なんで父親の言う事は聞かんのに、レイの言う事は聞くんだ?」 「反抗期ってやつさ」 「……おまえなぁ」 ほんわかした空気が、六人の中に流れていた。
史無国 弐 数十分後、三組の親子は、一際大きな広間に通された。 奥には少し高い段が設えてあり、その上には華美な椅子と長机が置いてあった。 六人は机の向かい側に直立した。 間もなく、初老の男性が一人、入ってきた。 六人は、男性に向かって膝を折った。 はずだった。 「ちょ、エルムッド、何やってんだよ?」 「……え? ……ああ、そうか」 どうやらエルムッドはまた呆けていたらしい。 セリックに促され、ようやくエルムッドは膝を折った。 初老の男性はそれを微笑みながら言った。 「いまさらではないか、のう? エルの呆けぶりは」 「……申し訳ありません、公爵様」 エルムッドの父が首を垂れる。 「よいよい。形式的なことが嫌いじゃからのう、そっちの方が気が楽でいいわい、ほっほっほ」 侯爵はひげを揺らしながら笑う。 エルムッドはいまだに何が起こっているかわからない様子で、やり取りを見ていた。 「して、今日はどういう用件か? 大体の見当はついて居るが」 「はい。この度は、私たち三人の息子が19歳になりましたので、ご挨拶に参った所存です」 テレシスの父が言う。 「レイムッド・ヴァンディールが第一子息、これにエルムッドだ」 「クラムディン・フォンベルグが第二子息、これにテレセリノスでございます」 「ティタルニア・エレナーデが第二子息、これにシャムロックです」 三人の父親が次々に言う。 それにならって、エルムッドら三人も礼をした。 「ほっほっほ、今更じゃのう。とっくの昔より知って居るではないか。 エルもテレシスも、セリックもな」 「ですが、一応は形式を……」 「じゃから言ったじゃろう? わしは形式的なことが嫌いじゃと、な」 公爵は、その柔らかい言葉の中に、有無を言わせない威圧を含ませていった。 ようやく諦めたのか、レイムッドは公爵に近づきながら言った。 「本当に久しぶりだ、クォリアス。およそ一年ぶりか。息災だったか?」 「ほっほっほ、以前よりは、年をくった感じはしよるがのう。が、息災じゃて」 エルムッドら子供組は、ぽかんとした表情で見ている。 そんな事はお構いなしに、クラムディンとティタルニアも公爵――クォリアスの傍に歩み寄り、談笑していた。 公爵……だよなぁ?」 「たぶんそうだと思うぜ」 「……侯爵の間違いじゃないのか?」 「……いや、それはないと思うよ?」 三人は訝しげに、それぞれの父を見ているのだった。 数分後、談笑を終えたレイムッド達に、テレシスは尋ねた。 「あの、レイムッドさん?」 「何だ」 「さっきの人って、公爵、ですよね?」 「お前たちもこれまで何回か会っているだろう」 レイムッドは言う。 セリックが今度は聞いた。 「いや、でも、公爵相手に、あんな馴れ馴れしくていいんですかい? 公爵って言えば、一応はリムノール皇室の血を引く人でしょうが」 「ああ、まあ、そうだがな。が、クォリアスはちょっと頭が緩くてな」 「エルとどっちが緩いですかね?」 「……そこで俺を出すか、セリック……」 エルムッドの言葉に、笑いが起きる中、レイムッドは言った。 「エルとはちょっと違う緩さだがな。クォリアスは、公爵じゃない公爵なんだよ」 「どういうこと?」 セリックが身を乗り出して聞く。 彼がこういう態度を取る時は、決まって興味がある話の時だけだった。 他の興味のない話の時は、寝ているか、あるいは逃亡しているかのどっちかだった。 「別の言い方をすれば、公爵らしくない公爵、ってことかね。政務の一切は自分が見るし、巡察もするし、税はあんまり取らんし。正直、20年付き合ってきて、驚かされるばかりだ」 レイムッドが笑う。 それにつられて、クラムディンも笑いだした。 「本当に、ですよ。あの人は、まさに変人です」 「まあ、ともかく、今日公爵に顔を見せに行ったからな。近いうちに任官が有るだろう」 ティタルニアが言った。 「あー、かったるいな。任官、か」 「そういう事を言うもんじゃない、セリック」 「俺は、自由に遊び回ってる方が性に合っているさ」 セリックの言に、ティタルニアは溜め息をついた。 「はっはっは、これは仕方がない、セリック。うちのエルムッドですら受けるんだ。お前も諦めて受けるんだな」 「レイムッドさんに言われちゃあ、仕方がないね」 「おい、なんで父親の言う事は聞かんのに、レイの言う事は聞くんだ?」 「反抗期ってやつさ」 「……おまえなぁ」 ほんわかした空気が、六人の中に流れていた。 [[史無国 参]]へ

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