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 例えば友人。  私には俗に言う親友という者はいない。  友人はいるにがいるが、それはネットで知り合った顔も本当の名前も知らない、遠い場所にいる誰かも分からない友人で、これを友人と呼んでいいものかどうかも甲乙つけがたいが、これを友人ということを否定してしまうと友人と呼べるものは一切誰にも該当しなくなってしまう。これを思うと結構寂しいと今更ながら思う。  流石にネットで知り合って、名前も顔も知らなくても、親しいなら友人では呼べなくもないだろう。  ネットで友人になるかも知れない人とはコミュニティーサイトで知り合う事が多い。コミュニティサイトは主に情報を交換したりする場所で、ソーシャル・ネットワーキング・サービス、匿名掲示板やブログ、登録制でオンラインゲームコミュニティサイトと呼ばれるような場所など、色々あり規模も大きいものから小さいものまである。  中でもソーシャル・ネットワーキング・サービス、略称SNSは大きく発動範囲を広げている。SNSというのはネット上に、自分の事を紹介するプロフィールを作って公開することが出来たり、このSNSでブログを書いたり、他にも同じような趣味を持ったような人とコミュニケーションをはかったりするようなもので、他にもアバターと呼ばれる自分の分身としたキャラを作る事も出来る。  そもそもSNSの目的は人間関係の繋がりを作ったり、深めあうことを後押しするような目的で、もともとは既存の参加者の誰かから紹介を受けて会員登録するというのが一般的だったが、最近は誰でも簡単に会員登録することが出来る。  他にもSNSは携帯専用というところもあり、それはそれで口コミなどで会員を増やして大きな規模を誇っていたりするようだ。  という前置きはこれまでにして、とある友人に知り合ったのはそのSNSと呼ばれる場所で、一番親しい人である。  とは言っても名前も顔も知らないが、その友人とは私と同じくちょっとした小金持ちだという事を知って、株もやっているという事で話も合い仲が良くなった。一応ネット上では男が女のアバターやキャラをネットおかま、通称ネカマと呼ばれる物が存在する。これはネット上でも結構大きなことで、中にはちょっとした嘘をついてみたノリでやっている人がいるが、男は女の気を惹くために何かを貢ぐなんてこともある。それがネカマだとしてもネット上では現実での性別は確認できずに、そのまま貢ぐなんてこともある。  まあその友人は女であるのは間違いない。  何故なら名前も顔も知らないが、ボイスチャットをしているからだ。このボイスチャットは電話と違って、電話料金も掛からず話せるのがいい。インターネットの活用方法はどんどん進歩していって便利である。  私がその彼女について知っている事は、結構驚かされることだった。まず歳が中学生と私の歳より十歳近くも離れていた。その歳で小金持ちなのは私と同じく親が金を持っているからだそうだ。それで株は暇潰しみたいな事でやっているそうだが、私と同じように株で生活しようと思ってるのかなと思っていたら、見事に予想が外れる。  彼女は聞けば既に働いているそうだ。何をやっているかは詳しくは聞けなかったが、どうやら芸能活動をしているそうで、もしかして実はドラマとかに出ている子なのかも知れず、親もその手の大御所なのかも知れない。  他にも彼女は金が好きで、株でもう買った分や、仕事の収入で金のインゴットを購入して集めているそうで、他にも金で出来たアクセサリーや金で出来たベッドなど大きな物から小さな物まで収集しているそうだ。しかも聞けば聞くほどその量は異常で、どう考えてみても小金持ちの域に収まることなく大金持ちの部類だろう。簡単に計算したとしても、私の財産の三十倍近くはありそうだ。まあ初めはこの話は誇大発言か嘘じゃないかと思ったら、これも予想に反して金が大量に映った写真を送りつけられてきて、何処かの誰か別人の写真を何処かから拾って来たのだとも思ったが、よく見ればその金とともに写っていた部屋は和室で、流石に和室で金を保管するなんて普通は無いだろうと思い、それに彼女は金が好きだがその前に部屋は流石に普通だと聞いていたので、これは本当に彼女のものだと思った。  最近では彼女も仕事が少し忙しくなってきたそうで、株の話もあまり出来ず、大型の匿名掲示板に行ってみたりはするものの、そこでは基本的に少人数で語り合うという事は無いので、大人数で且つ、色々な話が交わりすぎて、あまり付いていけないのだ。  だから基本的にはSNSの方でのんびりやっている。  私はブログは書いていないが、プロフィールは書いている。どうせ誰かも気づかれないので身長や無職だという真実を書いているが、しかし金を持っているという事は一応伏せてはいる。  乞食と呼ばれるような、物乞いをされるからで、そもそもそんなことは知らせる必要もないからである。 「っと」  私は株の動きを見ていると、話をしていた彼女からボイスチャットの誘いがきた。  私はそれを承諾した。 「こんばんわ」 「やほ」 「最近は御免なさい、少し色々用事があって連絡が取れなくて。さっき仕事が終わって風呂に入ってきたところで、久しぶりの休日が頂けました」  彼女の声はまるで大和撫子を思わせるような優しい声で、それで且つ言葉も綺麗だ。しかしその大和撫子がパソコンに向かっているとなると、その光景を想像するとギャップが面白かった。 「別にいいよ、というか休んだ方がいいんじゃない?」 「いえ、大丈夫ですよ。移動中も仮眠は取ってますから」 「そっか、でも仕事は順調?最近とても忙しそうだけど」 「正直少し問題がありまして」 「どうしたの?」 「いえ、大した事ではないのですが、数分遅刻してしまいまして、御父様に叱られてしまいました」  私からしては本当に大した事はなかった。あとそのしょんぼりしているような声が可愛いとも秘かに思う。 「あー、流石にそれは忙しいんだし、しょうがないんじゃない。でもまー貴女のお父さんの事だから結構色々言われてそうだね」  私は彼女のお父さんの事を何度か聞いていた。彼女のお父さんは私の親以上に厳しい人で、本当に些細な失敗でも何時間も反省させられるそうだ。まるで一家揃って有名人なのかと思わせるくらいだ。 「ええ、おかげで三時間ほど説教を受けまして、その間していた正座のおかげで足も痛いのです」 「そもそも普通に三時間も座ってたら痛くもなるよ。私の場合はお尻が」 「重いんですね」 「おっと、聞き捨てならねえな」 「じゃあ軽いです」  と、彼女は時々ジョークもかましてくれる。しかしどっちに転んでもいい気はしない。誰だ尻が軽いなんて言葉作ったのは。  それから私達は日付が変わってからも、二時間近く話をしてから彼女は先に寝た。  私もそれに続くかのように、少し早いが寝る事にした。

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