「1話」(2009/08/20 (木) 08:02:14) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
その男は王宮の敷地の東のはずれ、一般には存在すら知られていないその
場所へ向かいひた走っていた。
国の極秘事項であるがゆえに、このことを知っている者はほんの一握りで
あったが、今回の決定はその者達を驚かすには十分な出来事だった。
この国には『盾』と呼ばれる武人達がいる。皇族と一握りの国の重臣が所有
している暗殺者で、彼らの仕事は主人の警護及び、命令に応じて対象を拉致、
暗殺すること。
数十年前の帝位継承争いでは、彼らを使っての暗殺合戦が裏で繰り広げられ
て いた。それを制し帝の座を勝ち取ったのが今の陽光(ユェグァン)帝だ。
今回男が向かっているのが、皇族の闇の部署によって、王宮のはずれに造
ら れた『盾』の養成施設である。これから新人の『盾』を迎えに行くのだ。
その新人が何を驚かせたかというと、その者が女であること、さらには
女の身で帝の第二皇子である星光(シングァン)皇子の盾になったというこ
と だ。金龍(ジンロン)が何を考えているかはわからないが、ともかくその
者 は、盾の長老が認めるだけの実力を持っているということだ。武人として
の十 分な実力を認めること、盾の名を与えることについては彼が一任されて
いるた め、他の者が口を挟む余地は無い。
男は、目指す建物が近付いてくるのに気付いた。あと数分駆ければ到着す
る だろう。彼自身、史上初の女の盾に、個人的に興味があった。どのように
戦う のかや選ばれた理由も気になったが、それ以上に、強いかどうかが非常
に気に なった。それを確かめるべく男は道中を急いだ。
しばらく駆けて、男は目的の場所にたどり着いた。どうみても古びた空き
家 にしか見えないが、この中にあるのだと長老は言っていた。
少し辺りを見回し、男は軒下に落ちていた10cm程度の長さの錆び付いた金
属 の棒を拾い上げ、教えられた通りに、腐ってぼろぼろの窓枠を叩いた。
『コツ、コツコツ、コツ、コツ』
しばらく何も起こらないかに思えたが、数秒後、押し殺した男の声が
聞こえた。「誰だ?」
男は答えた。「最長老より、皇子様の盾を迎えに行くよう仰せつかりた。」
「どちらの皇子様だ?」少し間を空け、男は答える。「星光(シングァン)
皇子様です。」
「貴様、名は何だ?」「樫(ジィェン)と申します。」
一連のやりとりが終り、扉の鍵が開く音がした。男は肩の力を抜き、誰に
も見られていないか確認し、中に入った。
中は薄暗く、遠くで微かに蝋燭の明かりが揺れている。先ほどの男が彼の
方を振り向き、ついてくるよう合図した。
進むには階段を通っていくらしく、樫(ジィェン)はゆっくりと用心しなが
ら 降りていった。
次第に明るくなっていき、自分の腕を掴んでいる男の顔が見えるように
なった。
歳は40歳程度だろうか。口元にヒゲをたくわえ、典型的な大男という体系
だ。
突然階段が終り、廊下に出た。そのまままっすぐ廊下を渡り、大男は
突き当たりの部屋の扉を開けた。
中には女が一人立っていた。10代後半で鋭い目つき、身長は150を少し超え
るといったところだろうか。一緒に来た大男が声をかけた。
「こいつだ。さぁ、連れて行け。」それを聞いて、樫(ジィェン)は鼻を
鳴らした。
「ご冗談を。私をからかわないでください。もしこいつがそうなら、猿に
だ ってばれますよ。どう考えても気配が強すぎます。こいつ、女官宮の警護
兵でしょう。」
それを聞くと、大男は突然大きな声で笑い出した。「ふっはははは!
さすが だな!いやぁすまん、これも必要手続きでな。気を悪くするな。」
そう言うと、部屋の中の女を追い払い、廊下に向かって手招きした。
「おい、入ってこい。」
その女が入ってきたとき、樫(ジィェン)はしなやかな柳の木を思い出し
た。歳は20を少し超えたほどだろうか。短く切った黒い髪から細い三つ編み
が 二本流れている。
黒い目は穏やかさをたたえ、身のこなしには全く無駄がない。
普通なら女官だと思い込みそうな身なりだが、下位であっても盾の一人で
ある 彼には女が盾であることがわかった。「・・・・こいつか」
彼の呟きに、大男が答えた。「こいつ、なんてふうに呼ばない方がいい
ぞ。 なにしろこの歳で既にあんたより上位の名を持っているからな。」
樫は女に問うた。「『名』を教えてくれ。」
「豹(バオ)」女は答えた。「蒼豹(ツァンバオ)だ。」
その男は王宮の敷地の東のはずれ、一般には存在すら知られていないその
場所へ向かいひた走っていた。
国の極秘事項であるがゆえに、このことを知っている者はほんの一握りで
あったが、今回の決定はその者達を驚かすには十分な出来事だった。
この国には『盾』と呼ばれる武人達がいる。皇族と一握りの国の重臣が所有
している暗殺者で、彼らの仕事は主人の警護及び、命令に応じて対象を拉致、
暗殺すること。
数十年前の帝位継承争いでは、彼らを使っての暗殺合戦が裏で繰り広げられ
て いた。それを制し帝の座を勝ち取ったのが今の陽光(ユェグァン)帝だ。
今回男が向かっているのが、皇族の闇の部署によって、王宮のはずれに造
ら れた『盾』の養成施設である。これから新人の『盾』を迎えに行くのだ。
その新人が何を驚かせたかというと、その者が女であること、さらには
女の身で帝の第二皇子である星光(シングァン)皇子の盾になったというこ
と だ。金龍(ジンロン)が何を考えているかはわからないが、ともかくその
者 は、盾の長老が認めるだけの実力を持っているということだ。武人として
の十 分な実力を認めること、盾の名を与えることについては彼が一任されて
いるた め、他の者が口を挟む余地は無い。
男は、目指す建物が近付いてくるのに気付いた。あと数分駆ければ到着す
る だろう。彼自身、史上初の女の盾に、個人的に興味があった。どのように
戦う のかや選ばれた理由も気になったが、それ以上に、強いかどうかが非常
に気に なった。それを確かめるべく男は道中を急いだ。
しばらく駆けて、男は目的の場所にたどり着いた。どうみても古びた空き
家 にしか見えないが、この中にあるのだと長老は言っていた。
少し辺りを見回し、男は軒下に落ちていた10cm程度の長さの錆び付いた金
属 の棒を拾い上げ、教えられた通りに、腐ってぼろぼろの窓枠を叩いた。
『コツ、コツコツ、コツ、コツ』
しばらく何も起こらないかに思えたが、数秒後、押し殺した男の声が
聞こえた。「誰だ?」
男は答えた。「最長老より、皇子様の盾を迎えに行くよう仰せつかりた。」
「どちらの皇子様だ?」少し間を空け、男は答える。「星光(シングァン)
皇子様です。」
「貴様、名は何だ?」「樫(ジィェン)と申します。」
一連のやりとりが終り、扉の鍵が開く音がした。男は肩の力を抜き、誰に
も見られていないか確認し、中に入った。
中は薄暗く、遠くで微かに蝋燭の明かりが揺れている。先ほどの男が彼の
方を振り向き、ついてくるよう合図した。
進むには階段を通っていくらしく、樫(ジィェン)はゆっくりと用心しなが
ら 降りていった。
次第に明るくなっていき、自分の腕を掴んでいる男の顔が見えるように
なった。
歳は40歳程度だろうか。口元にヒゲをたくわえ、典型的な大男という体系
だ。
突然階段が終り、廊下に出た。そのまままっすぐ廊下を渡り、大男は
突き当たりの部屋の扉を開けた。
中には女が一人立っていた。10代後半で鋭い目つき、身長は150を少し超え
るといったところだろうか。一緒に来た大男が声をかけた。
「こいつだ。さぁ、連れて行け。」それを聞いて、樫(ジィェン)は鼻を
鳴らした。
「ご冗談を。私をからかわないでください。もしこいつがそうなら、猿に
だ ってばれますよ。どう考えても気配が強すぎます。こいつ、女官宮の警護
兵でしょう。」
それを聞くと、大男は突然大きな声で笑い出した。「ふっはははは!
さすが だな!いやぁすまん、これも必要手続きでな。気を悪くするな。」
そう言うと、部屋の中の女を追い払い、廊下に向かって手招きした。
「おい、入ってこい。」
その女が入ってきたとき、樫(ジィェン)はしなやかな柳の木を思い出し
た。歳は20を少し超えたほどだろうか。短く切った黒い髪から細い三つ編み
が 二本流れている。
黒い目は穏やかさをたたえ、身のこなしには全く無駄がない。
普通なら女官だと思い込みそうな身なりだが、下位であっても盾の一人で
ある 彼には女が盾であることがわかった。「・・・・こいつか」
彼の呟きに、大男が答えた。「こいつ、なんてふうに呼ばない方がいい
ぞ。 なにしろこの歳で既にあんたより上位の名を持っているからな。」
樫は女に問うた。「『名』を教えてくれ。」
「豹(バオ)」女は答えた。「蒼豹(ツァンバオ)だ。」
NEXT>>[[2話]]
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: