「二人の騎士・前編」(2009/03/01 (日) 18:11:37) の最新版変更点
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正式名称、エミールハミング自然公園の無差別殺傷事件。
そして、その惨劇は世間ではこう呼ばれた――赤い公園での殺戮事件。
『殺傷』などと言う言葉では、あの惨酷さやあの残刻さやあの残酷さやあの惨さやあの酷さやあの恐さやあの怖さやあの震えやあの惨殺やあの斬殺やあの惨事を表せない――故に『殺戮』。
そして。
全ての言葉の中であの絶望を表せるものは唯一無二であれ一つ――故に『赤』。
素晴らしき手際にして恐ろしい殺意を持って、『赤い絶望』は義務を果たした。
見事に、実に見事に果たしたのだ。
死亡者は106人。
生存者は数名。
さらに、その僅かな生存者の全てが、子供だった。
親を亡くして、無力に成った子供。
彼の恐怖から、生きる気力を失った子供。
どこかの薄暗い路地裏で、そのほとんどが、罪の無い命を落とした。
そう、なのだ。
最後まで、彼は手を抜かなかったのだ。
人々に絶望を与えるという、その義務を。
しかしその中で――
――二人の子供が、正しく生き残ったのだ。
一人は、親を亡くし。
一人は、妹と叔母を亡くしていた。
一人は、金髪碧眼の少年。
一人は、黒髪黒目の少年。
その名は、アルター・チェイン。
その名は、クルー・アポトニティー。
二人は後に八妖精となり、そして――。
――希望の名を持つ少女と出逢うのだ。
これは、二人の少年が二人の騎士に成るまでの、小さな小さな御伽噺。
そしてそれはやはり、二人が出逢う場面から始まるのだ。
+++
「おい、大丈夫かよ」
ぼくは声のした方へ目を向けた。
そこには、ぼくと同じくらいの背丈の、金髪碧眼の、少年が立っていた。
「・・・・・・・・」
呆けた顔で、彼を見つめる。
「おーい、大丈夫かって聞いてんだ、よ!」
ゴンッ、と。
言いながら、彼はぼくの頭にチョップをくらわす。
「・・・・痛いんだけど」
は、と。彼は軽く笑って、続けて言う。
「あたりめーだろ? けど、その様子だと、精神まで病んでいるわけじゃねぇんだな」
そんな、彼の言葉に、・・・・ん? と思う。
ぼくは気になって、周りを見渡した。
あの赤い彼に追われている時は、逃げることに夢中で気付かなかったけど。
成程。路地裏には子供が数人、特に外傷が無いにも関わらず、倒れていた。
否、息はもうすでにないだろう。
「あいつ等、あの妙に赤い奴に会ったりしてよ。肉体的にも精神的にも――ズタズタにされちまったらしい」
「・・・・赤い奴って。君も、あの公園にいたの?」
すると彼は、苦笑して、快くぼくの質問に答えた。
「あぁ、いたよ。ついさっきまで――親の埋葬をしていたところだった」
と。
彼は、言った。
親がいなくなったにも関わらず、そして、もう二度と戻っては来ないのに。
さらりと、あっさりと――悲しそうな素振りさえ見せずに。
ぼくはその瞬間。
驚愕と戸惑いで思考停止。
そして、
「そんなこと聞いたりして、御免」と言おうとしたときに、
「あ、御免なんて言うなよ? 俺はたいして悲しんだりしてねぇから。俺、たいして親と仲良くなかったしな。埋葬は、そのまま放っておくわけにもいけねぇし。義務としてだ」
「・・・・そうですか」
ぼくとは――大違いだな。
もうぼくはさっきから、大声で泣きたい気分だというのに。
「本当に、すごいね」
君は強くて、ぼくは弱い。
そうだよ、簡単なことだった。
ぼくは――弱いんだ。
弱いから、失ったんだ。
「・・・・ていうかよ、初対面の奴にこんな重い話するってーのも、間違ってるよな・・・・」
彼は気まずそうに、頬を指でかいて、
「なぁ、お前。名前は?」
閃いたように顔を上げて、ぼくの目を見て問う。
ぼくは特に隠す必要性は無い、と判断したので、素直に答える。
「クルー・アポトニティー、です」
すると彼は案の定、目を見開いて、
「なんだよその長い名前は。言い難いことこの上ねぇな」
はは、と。本当に面白いように笑ってから、彼は言う。
「申し遅れた・・・・俺の名前はアルター・チェイン」
「アルター・チェイン・・・・」
「ああ、チェインでいいぜ。・・・・と、お前は・・・・」
「じゃあ、クルーって呼んでください。名前は、言い難いのでしょう?」
そのとおりだ、と彼は可笑しいように言って、ぼくの方へ手を伸ばす。
彼は言う。
「まぁ、お互い『あんな事件』で『大切な人』を失くした仲だ。こんな奇妙な偶然も、何かの縁だろ。これから――よろしくな?」
・・・・正直、言うと。
こんな境遇で――彼の言ったとおり『あんな事件』で『大切な人』を失くした後だというのに、いきなり友達申請をする意味なんてあるのかと思った。
けれど、後々良く考えてみると。
ぼくは彼を必要としていたのだろう。
彼はぼくを必要としていたのだろう。
そう、思う。
そう――思った。
「こちらこそ、よろしく――チェイン」
ぼくはチェインの手を握り、歓喜の握手をした。
ぼくがアルター・チェインに出逢った時の第一印象。
口の悪い自信家。
+++
――、たくよ。
「クルー。おめぇ、どこかに当てとかねぇのかよ」
「当て、ですか?」
「今夜過ごす場所だよ。こんな有様じゃ、俺の家も崩壊しているだろうし。おめぇの家でも俺は別にかまわなかったけど――」
「・・・・すいません。遠くて」
心の底から、申し訳なさそうに、クルーは言った。
・・・・って、別にそれはおめぇの責任じゃねぇだろうが。
「一晩中歩いていくのも面倒だな・・・・」
クルーはそこで、気がついたように言う。
「そうだ――チェインは。チェインは当てはあるんですか?」
「・・・・・・まぁ、」
あるっちゃあるんだが。
あまり、使いたくはない手なんだがな・・・・。
ま、この際しかたねぇだろ――。
「俺の、友達んとこなら」
「じゃあ、そこでいいんじゃないですか?」
気楽に言うなよ阿呆。
俺にとっては苦渋の決断なんだぞ?
「・・・・取り合えず、付いて来いよ・・・・」
俺は言って、そそくさと歩き出した。
足取りは、重い気がした。
+++
表札には『ハートピア』と書かれているその家は、なかなか立派な造りだった。
「・・・・ここ、ですか」
クルーは確かめるように、俺に言ったが、俺はそれを無視して、木造のドアを叩く。
「夜分遅く失礼しまーす」
「・・・・ん? その声はもしかしてチェインかなー!?」
少し声を張り上げて言うと、中から子供の声が聞こえた。
バタバタと、廊下を走る音が聞こえたかと思った頃には、もうすでにそのドアは開かれて――
――茶髪を後頭部でポニーテールにした、少女がそこに立っていた。
「あれ? チェイン、その子は?」
「あぁ。こいつはさっき道で会ったばっかでな、名前は――」
「クルー・アポト二ティーです」
チェインの言葉を遮り、クルーは言った。
茶髪の少女は、驚きで眼を丸くし、
「・・・・すごい名前だね、君」
「さっきも、チェインに言われました。クルーでいいですよ」
そしてクルーは、茶髪の少女に手を差し出して、握手を求める。
少女は、微笑んで、それに答える。
「私は、ハートピア・ティー。ティーでいいよ。よろしくね、クルー」
そしてティーは、握手を済ませると、チェインに向き直って、
「で、何しにきたの? あんた等」
「遅せぇよ聞くのが!!」
チェインはすかさず言った。
「えぇー、そうかな。ひとまず初対面の人とは、挨拶しとかないといけないものじゃない?」
「そんな場合じゃねぇんだよ、今回に限っては・・・・」
その、ティーが普段知っているチェインの振る舞いとは違うそれに、何かただならぬ事態が起きていることを、ティーは覚る。
そして、気が付いた。
「・・・・なんか、血の臭いがするね」
と。
ティーは臭いの元を探って、目を動かす。
そして、ある一点で止まった。
チェインの服に付着した、彼の両親の血。
「はっ! まさかチェイン、遂に人殺――」
「違うに決まってんだろ!!」
――だからこいつと絡むのは疲れるんだよ、と。
チェインは一人、心のうちで毒づいた。
正式名称、エミールハミング自然公園の無差別殺傷事件。
そして、その惨劇は世間ではこう呼ばれた――赤い公園での殺戮事件。
『殺傷』などと言う言葉では、あの惨酷さやあの残刻さやあの残酷さやあの惨さやあの酷さやあの恐さやあの怖さやあの震えやあの惨殺やあの斬殺やあの惨事を表せない――故に『殺戮』。
そして。
全ての言葉の中であの絶望を表せるものは唯一無二であれ一つ――故に『赤』。
素晴らしき手際にして恐ろしい殺意を持って、『赤い絶望』は義務を果たした。
見事に、実に見事に果たしたのだ。
死亡者は106人。
生存者は数名。
さらに、その僅かな生存者の全てが、子供だった。
親を亡くして、無力に成った子供。
彼の恐怖から、生きる気力を失った子供。
どこかの薄暗い路地裏で、そのほとんどが、罪の無い命を落とした。
そう、なのだ。
最後まで、彼は手を抜かなかったのだ。
人々に絶望を与えるという、その義務を。
しかしその中で――
――二人の子供が、正しく生き残ったのだ。
一人は、親を亡くし。
一人は、妹と叔母を亡くしていた。
一人は、金髪碧眼の少年。
一人は、黒髪黒目の少年。
その名は、アルター・チェイン。
その名は、クルー・アポトニティー。
二人は後に八妖精となり、そして――。
――希望の名を持つ少女と出逢うのだ。
これは、二人の少年が二人の騎士に成るまでの、小さな小さな御伽噺。
そしてそれはやはり、二人が出逢う場面から始まるのだ。
+++
「おい、大丈夫かよ」
ぼくは声のした方へ目を向けた。
そこには、ぼくと同じくらいの背丈の、金髪碧眼の、少年が立っていた。
「・・・・・・・・」
呆けた顔で、彼を見つめる。
「おーい、大丈夫かって聞いてんだ、よ!」
ゴンッ、と。
言いながら、彼はぼくの頭にチョップをくらわす。
「・・・・痛いんだけど」
は、と。彼は軽く笑って、続けて言う。
「あたりめーだろ? けど、その様子だと、精神まで病んでいるわけじゃねぇんだな」
そんな、彼の言葉に、・・・・ん? と思う。
ぼくは気になって、周りを見渡した。
あの赤い彼に追われている時は、逃げることに夢中で気付かなかったけど。
成程。路地裏には子供が数人、特に外傷が無いにも関わらず、倒れていた。
否、息はもうすでにないだろう。
「あいつ等、あの妙に赤い奴に会ったりしてよ。肉体的にも精神的にも――ズタズタにされちまったらしい」
「・・・・赤い奴って。君も、あの公園にいたの?」
すると彼は、苦笑して、快くぼくの質問に答えた。
「あぁ、いたよ。ついさっきまで――親の埋葬をしていたところだった」
と。
彼は、言った。
親がいなくなったにも関わらず、そして、もう二度と戻っては来ないのに。
さらりと、あっさりと――悲しそうな素振りさえ見せずに。
ぼくはその瞬間。
驚愕と戸惑いで思考停止。
そして、
「そんなこと聞いたりして、御免」と言おうとしたときに、
「あ、御免なんて言うなよ? 俺はたいして悲しんだりしてねぇから。俺、たいして親と仲良くなかったしな。埋葬は、そのまま放っておくわけにもいけねぇし。義務としてだ」
「・・・・そうですか」
ぼくとは――大違いだな。
もうぼくはさっきから、大声で泣きたい気分だというのに。
「本当に、すごいね」
君は強くて、ぼくは弱い。
そうだよ、簡単なことだった。
ぼくは――弱いんだ。
弱いから、失ったんだ。
「・・・・ていうかよ、初対面の奴にこんな重い話するってーのも、間違ってるよな・・・・」
彼は気まずそうに、頬を指でかいて、
「なぁ、お前。名前は?」
閃いたように顔を上げて、ぼくの目を見て問う。
ぼくは特に隠す必要性は無い、と判断したので、素直に答える。
「クルー・アポトニティー、です」
すると彼は案の定、目を見開いて、
「なんだよその長い名前は。言い難いことこの上ねぇな」
はは、と。本当に面白いように笑ってから、彼は言う。
「申し遅れた・・・・俺の名前はアルター・チェイン」
「アルター・チェイン・・・・」
「ああ、チェインでいいぜ。・・・・と、お前は・・・・」
「じゃあ、クルーって呼んでください。名前は、言い難いのでしょう?」
そのとおりだ、と彼は可笑しいように言って、ぼくの方へ手を伸ばす。
彼は言う。
「まぁ、お互い『あんな事件』で『大切な人』を失くした仲だ。こんな奇妙な偶然も、何かの縁だろ。これから――よろしくな?」
……正直、言うと。
こんな境遇で――彼の言ったとおり『あんな事件』で『大切な人』を失くした後だというのに、いきなり友達申請をする意味なんてあるのかと思った。
けれど、後々良く考えてみると。
ぼくは彼を必要としていたのだろう。
彼はぼくを必要としていたのだろう。
そう、思う。
そう――思った。
「こちらこそ、よろしく――チェイン」
ぼくはチェインの手を握り、歓喜の握手をした。
ぼくがアルター・チェインに出逢った時の第一印象。
口の悪い自信家。
+++
――、たくよ。
「クルー。おめぇ、どこかに当てとかねぇのかよ」
「当て、ですか?」
「今夜過ごす場所だよ。こんな有様じゃ、俺の家も崩壊しているだろうし。おめぇの家でも俺は別にかまわなかったけど――」
「・・・・すいません。遠くて」
心の底から、申し訳なさそうに、クルーは言った。
……って、別にそれはおめぇの責任じゃねぇだろうが。
「一晩中歩いていくのも面倒だな・・・・」
クルーはそこで、気がついたように言う。
「そうだ――チェインは。チェインは当てはあるんですか?」
「・・・・・・まぁ、」
あるっちゃあるんだが。
あまり、使いたくはない手なんだがな・・・・。
ま、この際しかたねぇだろ――。
「俺の、友達んとこなら」
「じゃあ、そこでいいんじゃないですか?」
気楽に言うなよ阿呆。
俺にとっては苦渋の決断なんだぞ?
「・・・・取り合えず、付いて来いよ・・・・」
俺は言って、そそくさと歩き出した。
足取りは、重い気がした。
+++
表札には『ハートピア』と書かれているその家は、なかなか立派な造りだった。
「・・・・ここ、ですか」
クルーは確かめるように、俺に言ったが、俺はそれを無視して、木造のドアを叩く。
「夜分遅く失礼しまーす」
「・・・・ん? その声はもしかしてチェインかなー!?」
少し声を張り上げて言うと、中から子供の声が聞こえた。
バタバタと、廊下を走る音が聞こえたかと思った頃には、もうすでにそのドアは開かれて――
――茶髪を後頭部でポニーテールにした、少女がそこに立っていた。
「あれ? チェイン、その子は?」
「あぁ。こいつはさっき道で会ったばっかでな、名前は――」
「クルー・アポト二ティーです」
チェインの言葉を遮り、クルーは言った。
茶髪の少女は、驚きで眼を丸くし、
「・・・・すごい名前だね、君」
「さっきも、チェインに言われました。クルーでいいですよ」
そしてクルーは、茶髪の少女に手を差し出して、握手を求める。
少女は、微笑んで、それに答える。
「私は、ハートピア・ティー。ティーでいいよ。よろしくね、クルー」
そしてティーは、握手を済ませると、チェインに向き直って、
「で、何しにきたの? あんた等」
「遅せぇよ聞くのが!!」
チェインはすかさず言った。
「えぇー、そうかな。ひとまず初対面の人とは、挨拶しとかないといけないものじゃない?」
「そんな場合じゃねぇんだよ、今回に限っては・・・・」
その、ティーが普段知っているチェインの振る舞いとは違うそれに、何かただならぬ事態が起きていることを、ティーは覚る。
そして、気が付いた。
「・・・・なんか、血の臭いがするね」
と。
ティーは臭いの元を探って、目を動かす。
そして、ある一点で止まった。
チェインの服に付着した、彼の両親の血。
「はっ! まさかチェイン、遂に人殺――」
「違うに決まってんだろ!!」
――だからこいつと絡むのは疲れるんだよ、と。
チェインは一人、心のうちで毒づいた。
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