「赤い絶望は幕開けを告げる」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

赤い絶望は幕開けを告げる」(2009/03/01 (日) 18:02:52) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

微かに泣き声が聞こえる中で、場にそぐわない、轟々と鳴る音が聞こえる。 アブソーはまだ、炎の中にいる。 チェインは遂に、いてもたってもいられなくなり立ち上がった。 「・・・・チェイン?」クルーが訝しげに彼に視線を投げる。 「・・・・」 チェインはそれに無言で答えて、炎へと歩き出す。 クルーは目をみはり、リビーを置いてチェインの腕をつかみにかかる。 「・・・・・・っ! チェイン! 貴方一体何を――」 チェインはクルーを一瞥し、腕を引いてクルーの腕を振り払った。 そして、 「何もできないことが苦痛なんだよ!!」 誰とも無く、語り始める。 「あいつが、炎の中で今・・・・体中が炎で燃えているかもしれねぇってときに、俺はただ黙って見てることしかできねぇってのが――悔しくて仕方が無ぇんだよ」 「何故、ですか」 クルーが言う。 平然と、言う。 「何故、そんなにアブソーのことが信じられないのです?」 「はっ。信じるも何も、今あいつは――」 「私の妹は、できる子なんですよ、チェイン」 微笑して、クルーは続ける。 「だから今は――心配する気持ちも分かりますが、信じてあげてください」 それが、ファントには無くて、私達にあるものですから。 と。 刹那。 タイミングを謀ったようにアブソーは炎の中から現れた。 アブソーの体は、彼女自身を護るように淡い光で包まれていた。 「・・・・・・あ、は」 アブソーは笑顔を浮かべて――唐突に倒れる。 「――っ」チェインが真っ先に動いて、彼女が倒れる前に受け止めた。 視線を、炎で向けた。 動いてはいなかった。 消えてはいなかった。 「ふむ、意思はアブソーのおかげでなくなったようですが、炎自体は消えないようですね」 「・・・・え?」 リビーは泣き止み、落ち着いたところで、クルーに声をかけ、 「なら、この状況はとてもとても、マズいですよ・・・・?」 周りを見渡すと、まさしく炎の海だった。 「東洋の言葉で四面楚歌というものがありますが、まさしくそれはその状況ですね」 「おい!! ソメンシカだがシメカソだが知らねぇけどよ、どうするんだよこの状況!!」 肩をすくめて、クルーは言う。 「私には、どうにもできませんよ」 「だったら――」 「私には、と言ったんです」 そして。 炎は停止した。 時間が止まったように。 ユラリと、揺らぎもせずに。 炎はその動きを停止した。 否、――炎はその動きを停止されたのだ。 まるで、『誰か』の力で抑えつけられているかのように。 「エド・・・・兄様」 リビーが呟いたのと、炎が移動し始めたのは同時だった。 赤い炎は、三人の目の前を通り過ぎ――どこにも燃え広がることなく去っていった。 そして、 目の前に、人影が一つ。 リビーは、もう一度名前を呼んだ。 「エド兄様!!」 「――少し、遅れたね」 眼鏡の奥にある紫色の眼を細めて、エドワードは微笑んだのだった。 +++ 「『虚操』の力、ですか・・・・」 「そう。『虚操』の力だ」 アブソーが言って、エドワードは繰り返した。 その後――エドワードが四人を危機から救った後、リビーは真っ先に兄へと飛びつき、お互いを確かめ合うように抱きしめあった。 腕の中にいる妹を見て、安心したような笑みを浮かべたエドワードを見て、チェインは思った。 ――ああそうか、いままでこうやって支えあってきたから、リビーは今まで壊れなかったのか。 そして、今。 目を覚ましたアブソーに、今まで起きたことを説明しているのだった。 エドワードは続ける。 「ほら、マニの持っている『実操』の力は知っているだろう? 私の力はその力の対極にあるようなものなんだよ」 「つまり、どういうことですか?」 「そうだね――、一言で言ってしまうならば、マニにできないことができるけど、マニができることはできないのだよ、私は。まぁ、簡単に言うと触れないものを操れるんだ。空気然り、炎然り」 そうなんですか、と納得した顔で相槌を打つアブソーを見ながら、クルーは思い出していた。 あの時。 アブソーが炎に入る直前の時。 どこか違和感があった。 今、それが分かった。 眼、だ。 アブソーの、優しい眼ではなかった。 力が漲っているような、強い眼だった。 それは、まるで――、 まるで別人のような。 まるで――ファントのような。 いや、あるいは・・・・ディーバなのか? 「おい、クルー。何ボーッっとしてんだよ」 チェインがクルーの隣に腰を下ろしながら、言う。 「アブソーのことばっかり見てよ、自分の妹に惚れたのか?」 そして、ははは、と笑いながら「冗談だよ」と言うチェインに、クルーはからかい半分で、 「まぁ、惚れていましたよ」 クルーは言った後、隣を見た。 こちらを見たまま、固まっているチェインがいた。 「冗談です」 クルーはしてやったり、という顔で言うと、視線をエドワードとリビーの話を聞いて笑っているアブソーに戻す。 そして、ふとチェインに訊いた。 「貴方は、アブソーのことが好きですか?」 金髪碧眼の青年は、その問いに赤面もせず迷いもせず真っ直ぐに答えた。 「好きだよ。誰よりも、な」 +++ そして。 エドワードを含めた五人は、建物の外に出た。 それには少なからず、心の準備をする必要があったが――荒れたビルから出てくるなんてことは、普通ではない――、兎に角外に出たのだ。 しかし、視線が集まることが無かった。 「あ、あの金髪の人格好良いね」「えー、私あの眼鏡かけてる人も好きだな」「黒髪の人が一番」 などという声が聞こえるだけで、特に不振な眼を向けられることは無かった。 その『異常』に、いち早く気付いたクルーは、すぐさま今出てきたビルを見る。 何も――無かった。 戦いの跡が、無かったのだ。 三人も、そんなクルーに釣られビルを見た。 そのうちの一人――アブソーがクルーに言う。 「これは・・・・どういうことでしょうか・・・・」 クルーは一つだけ、思い当たる節があった。 「おそらく、いや、確実にこれはファントがやったことです」 「はぁ?! なんであいつが・・・・」 チェインが当然の疑問をぶつけ、クルーはそれに、やんわりと、答える。 「これが、彼なりの、『敗者の義務』なのでしょう」 苦笑して、答える。 +++ それは異様な光景とも言えるだろう。 何せ、五人が手を繋いで輪になっているのだから。 「皆さん、手は繋ぎましたね?」 「もう何回目だと思ってんだよ」 「私も、準備は万全だ」 「ううう、周囲からの視線が痛いです・・・・」 「大丈夫ですよ、リビーさん」 そして、クルーは呪文を唱える。 エドワードは、他の人間に見られないように、空気を操り蜃気楼を作った。 あとは、戻るだけ。 そして、ある一つのビルの上に。 赤い絶望がいた。 五人を見て、不敵に笑っていた。 「『悲劇』は、まだまだこれからですよ? 小さな女神」 冷たい声でそう言ったその言葉は、誰にも届くことは無かった。 +++ そして、妖精界に戻った時。 最悪と最良の知らせを聞いた瞬間から、その『悲劇』は幕を上げる。 最後の戦い。 最期の騎士。 そして――最強の絶望。 茶番は終わった。 泣いても笑っても、これで終幕。 それはまだ少し先の話。 しかし、それほど先の話でもない。 確実に、確実に。 フィナーレは、近付いているのだ。 そして、全てが終わった時。 笑っているのは――、                                              それはひとつの果実からⅣ End,,,

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
記事メニュー
目安箱バナー