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「ルドルフとクリスマス事件」(2009/02/22 (日) 22:39:28) の最新版変更点
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高いモミの木が隙間なく並ぶ森の真ん中にぽっかりと空いた空間に、その家は建っていた。
ご丁寧に金の文字で『サンタクロース』と書かれている木の表札を懐かしむように見てから、赤いスーツを着た少年は頭に乗った白い雪を手で払い、躊躇いもなくドアノブに手をかけた。
「んん、こりゃまた珍しい客だな」
蝋燭が灯る部屋の真ん中に位置する、豪華な椅子にふんぞり返って座っていたのは赤い服を身にまとった青年。
「お前、何で此処に居るんだ?」と、青年が問う。
「……貴方こそ何で、ニコラウスの椅子に座っているのですか」
「ニコラウスじゃなくたって、普通にサンタクロースって呼ばないのか?」
「貴方だってロヴェニエミ=サンタクロースでしょう」
ふう、と。少年は溜息をついて――ロヴェニエミを唐突に睨む。
「さきほどの質問の答えですが、僕が此処に来た理由は一つです。貴方はクリスマス事件を勿論ご存知ですよね」
「ああ、去年のイヴの夜に起こった事故だろ? 前のサンタだったニコラウスとトナカイ9頭が死んじまった事件だ」
「そう、それです。しかし未だにその事故の原因は分かっていない。そこで僕は僕なりに推理をしてみたんです」
ロヴェニエミは話を聞きながらも、赤い帽子を被った小人から書類を受け取ってはそれに判子を押し続ける。
「ロヴェニエミ、貴方はニコラウスが死んだことによってサンタクロースになりました。そしてそれが指し示す事実は一つ――貴方にはニコラウスを殺害する十分な動機があった」
「ほう、成程。だがしかしそう言っているお前はどうなんだ、赤鼻のトナカイ・ルドルフ。お前は確か去年『その事故で他の8頭のトナカイと一緒に』死んだはずじゃ?」
「僕は他のトナカイよりも魔法が使えたんです。だから、空を飛ぶ魔法を変身する魔法に変えて何とか此処までたどり着いたんです」
それはそれはご苦労なこった、と。ロヴェニエミは大袈裟に言うと、小人から受け取った羽根付きペンで何枚かの書類にサインをし始める。
「話は変わるが、クリスマス憲法を知ってるか?」
「ええ、知ってますよ。サンタやそのトナカイが守るべき――」
「そんな解説はいらねえよ。俺はただ頭数を急激に減らさないために、サンタクロースのトナカイは自殺を禁じられてることを言いたかっただけだ。つまり、トナカイ達は自殺はしていない」
「だから、僕はさっきから貴方が犯人だと主張して――」
「まあ、俺の推理も聞けよ。ルドルフ」
サインをし終わったロヴェニエミは足を組み、話し始めた。
「さっき言ったとおり、この事件は他者が手を加えた可能性も高い。だがな、俺がもし犯人だとしてもそれは不可能だ。何故かって? ニコラウスの方が俺よりも年老いている分、魔力も強いんだよ! だから俺が何かやらかそうとしたって、ちょちょいのちょいで俺は星の彼方へ吹っ飛ばされてるって訳だ。お前は何でもかんでも悪そうな奴に疑いの眼を向けすぎなんだよ」
「た、確かにその通りでしたが。ならば貴方は誰が犯人だと思ってるんです?」
するとロヴェニエミは――哀れんだ目でルドルフを見つめて、
「 俺はな、ルドルフ。さっきから『自分自身にも疑いの眼を向けろ』って言ってるんだ」
すっ、と。
空気が固まったような感覚に陥るルドルフ。
「ぼ、僕ですか? そ、そんな馬鹿な、僕はただソリを轢いていただけで」
「お前が何やってようが関係ねえ。要はお前の忌々しい赤鼻が原因なんだよ! 去年のイヴの夜、お前の赤鼻はニコラウスの『年老いている分悪い目に眩し過ぎたんだ』」
クリスマス事件の犯人はお前なんだよ、ルドルフ。
お前はサンタクロースとトナカイを殺したんだ
「……は、はは。そんなのは嘘、だね」
「嘘じゃないさ。現に、そういう事例は今までに何回かある。その説が一番有力なんだ。ほぼ確実と言っていいくらいな」
ルドルフはその言葉を聞いた途端「う、嘘だ」とつぶやきながら、イヴの夜空の下へと駆け出した。
外は思いのほか寒かった、けれど。
それよりも何よりも今は耐えられないものが在る。
急に夜空が鉛のように重くなる。
身を射るような視線を感じる!
走りすぎて呼吸ができない。体が酸素を欲してる。辛いよ。痛いよ。苦しいよ。
だけど、『彼ら』のほうがよっぽど辛くて痛くて苦しくて――。
「……あ……あぁああ……!」
世界から愛されてきたあの人を。
子供達の夢を運んだあのトナカイ達を。
殺した。
僕が、殺した。
「あぁあああああああああああああああああああああっあああああああああああ!!」
嗚咽とも叫声ともとれない。己の感情すら消し去った、声。
いつのまにか止まってしまった歩みは、どうすることもできない後悔や懺悔のためか。
ルドルフはロヴァニエミに使うはずだった銀のナイフの切っ先を、半ば本能的に胸に当てて、涙をボロボロと流しながら、
「……僕はっ、この十字架を、背負えきれ、ない」
これ以上こんな生き地獄を味わいたくない。
これ以上あんな視線を受けたくはない。
僕は死にたい。
「生きたくないんだ」
そしてルドルフはナイフを己に刺した。
真っ白な雪原に真っ赤な血が飛び散る――ことはなかった。
「……え」
ナイフを見ると、何がどうなったのか、根元からポッキリと折れている。
『クリスマス憲法って知ってるか?』
唐突に、ロヴァニエミが言っていたことを思い出した。
『頭数を急激に減らさないために、サンタクロースのトナカイは自殺を禁じられてる』
高いモミの木が隙間なく並ぶ森の真ん中にぽっかりと空いた空間に、その家は建っていた。
ご丁寧に金の文字で『サンタクロース』と書かれている木の表札を懐かしむように見てから、赤いスーツを着た少年は頭に乗った白い雪を手で払い、躊躇いもなくドアノブに手をかけた。
「んん、こりゃまた珍しい客だな」
蝋燭が灯る部屋の真ん中に位置する、豪華な椅子にふんぞり返って座っていたのは赤い服を身にまとった青年。
「お前、何で此処に居るんだ?」と、青年が問う。
「……貴方こそ何で、ニコラウスの椅子に座っているのですか」
「ニコラウスじゃなくたって、普通にサンタクロースって呼ばないのか?」
「貴方だってロヴェニエミ=サンタクロースでしょう」
ふう、と。少年は溜息をついて――ロヴェニエミを唐突に睨む。
「さきほどの質問の答えですが、僕が此処に来た理由は一つです。貴方はクリスマス事件を勿論ご存知ですよね」
「ああ、去年のイヴの夜に起こった事故だろ? 前のサンタだったニコラウスとトナカイ9頭が死んじまった事件だ」
「そう、それです。しかし未だにその事故の原因は分かっていない。そこで僕は僕なりに推理をしてみたんです」
ロヴェニエミは話を聞きながらも、赤い帽子を被った小人から書類を受け取ってはそれに判子を押し続ける。
「ロヴェニエミ、貴方はニコラウスが死んだことによってサンタクロースになりました。そしてそれが指し示す事実は一つ――貴方にはニコラウスを殺害する十分な動機があった」
「ほう、成程。だがしかしそう言っているお前はどうなんだ、赤鼻のトナカイ・ルドルフ。お前は確か去年『その事故で他の8頭のトナカイと一緒に』死んだはずじゃ?」
「僕は他のトナカイよりも魔法が使えたんです。だから、空を飛ぶ魔法を変身する魔法に変えて何とか此処までたどり着いたんです」
それはそれはご苦労なこった、と。ロヴェニエミは大袈裟に言うと、小人から受け取った羽根付きペンで何枚かの書類にサインをし始める。
「話は変わるが、クリスマス憲法を知ってるか?」
「ええ、知ってますよ。サンタやそのトナカイが守るべき――」
「そんな解説はいらねえよ。俺はただ頭数を急激に減らさないために、サンタクロースのトナカイは自殺を禁じられてることを言いたかっただけだ。つまり、トナカイ達は自殺はしていない」
「だから、僕はさっきから貴方が犯人だと主張して――」
「まあ、俺の推理も聞けよ。ルドルフ」
サインをし終わったロヴェニエミは足を組み、話し始めた。
「さっき言ったとおり、この事件は他者が手を加えた可能性も高い。だがな、俺がもし犯人だとしてもそれは不可能だ。何故かって? ニコラウスの方が俺よりも年老いている分、魔力も強いんだよ! だから俺が何かやらかそうとしたって、ちょちょいのちょいで俺は星の彼方へ吹っ飛ばされてるって訳だ。お前は何でもかんでも悪そうな奴に疑いの眼を向けすぎなんだよ」
「た、確かにその通りでしたが。ならば貴方は誰が犯人だと思ってるんです?」
するとロヴェニエミは――哀れんだ目でルドルフを見つめて、
「俺はな、ルドルフ。さっきから『自分自身にも疑いの眼を向けろ』って言ってるんだ」
すっ、と。
空気が固まったような感覚に陥るルドルフ。
「ぼ、僕ですか? そ、そんな馬鹿な、僕はただソリを轢いていただけで」
「お前が何やってようが関係ねえ。要はお前の忌々しい赤鼻が原因なんだよ! 去年のイヴの夜、お前の赤鼻はニコラウスの『年老いている分悪い目に眩し過ぎたんだ』」
クリスマス事件の犯人はお前なんだよ、ルドルフ。
お前はサンタクロースとトナカイを殺したんだ
「……は、はは。そんなのは嘘、だね」
「嘘じゃないさ。現に、そういう事例は今までに何回かある。その説が一番有力なんだ。ほぼ確実と言っていいくらいな」
ルドルフはその言葉を聞いた途端「う、嘘だ」とつぶやきながら、イヴの夜空の下へと駆け出した。
外は思いのほか寒かった、けれど。
それよりも何よりも今は耐えられないものが在る。
急に夜空が鉛のように重くなる。
身を射るような視線を感じる!
走りすぎて呼吸ができない。体が酸素を欲してる。辛いよ。痛いよ。苦しいよ。
だけど、『彼ら』のほうがよっぽど辛くて痛くて苦しくて――。
「……あ……あぁああ……!」
世界から愛されてきたあの人を。
子供達の夢を運んだあのトナカイ達を。
殺した。
僕が、殺した。
「あぁあああああああああああああああああああああっあああああああああああ!!」
嗚咽とも叫声ともとれない。己の感情すら消し去った、声。
いつのまにか止まってしまった歩みは、どうすることもできない後悔や懺悔のためか。
ルドルフはロヴァニエミに使うはずだった銀のナイフの切っ先を、半ば本能的に胸に当てて、涙をボロボロと流しながら、
「……僕はっ、この十字架を、背負えきれ、ない」
これ以上こんな生き地獄を味わいたくない。
これ以上あんな視線を受けたくはない。
僕は死にたい。
「生きたくないんだ」
そしてルドルフはナイフを己に刺した。
真っ白な雪原に真っ赤な血が飛び散る――ことはなかった。
「……え」
ナイフを見ると、何がどうなったのか、根元からポッキリと折れている。
『クリスマス憲法って知ってるか?』
唐突に、ロヴァニエミが言っていたことを思い出した。
『頭数を急激に減らさないために、サンタクロースのトナカイは自殺を禁じられてる』
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