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喜劇悲劇笑劇!」(2009/02/17 (火) 23:00:31) の最新版変更点

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デパート一階の隅にあるアイスクリーム店。 そこにある二人がけのテーブルにクルーとリビーは向かい合って座っていた。 店内はシックな色で飾られており、天井に内臓されたスピーカーからクラシックが流れている。 クルーとリビーの他にも、家族連れや男女の客が何組かいた。 「んー! 美味しいですね!」 リビーはストロベリー味のアイスを一口食べて、感想を漏らした。 顔は、これ以上ないくらいに幸せそうだった。 「リビー・・・・良かったんですか? 自分だけ買えばよかったのに・・・・」 と言うクルーの手には、バニラ味のアイスがあった。 ちなみに、まだ手をつけていない。 「いいんです。いいんですよ。いいに決まっているんです。愛しのアポトニティー様のためでしたら、230円くらいどうってことは無いです」 230円がどのくらいの価値なのかは分かりませんけど、と言って、リビーはもう一口、アイスを口に運んだ。 「そうですか。それでは、お言葉に甘えて・・・・」 そして、クルーがアイスを食そうとした瞬間。 何故かアイスに深々とナイフが刺さっていた。 「なっ・・・・!」 「きゃっ!」 リビーが小さな悲鳴をあげた。 クルーが急いで周りを見渡すと、店内にいた客達が皆武器――包丁。ナイフ。バット。スタンガン。エトセトラエトセトラ・・・――を持って、こちらを向いていた。 否。 店内に限らず、入り口近くにある窓の外にある廊下にも、その類の人間がいることを、クルーは確認する。 どうやら、アイスに刺さったナイフは誰かが投げたものらしかった。 「リビー、まずいですね」 「うわわわわわどどどどどうしましょー!!」 「慌てないでくださいよ。何故こんな状況なのかは分かりませんが、とにかく――」 言いながらクルーは、背にある羽に手を伸ばした。 「貴方は私が守ってあげます」 +++ クルーが剣を持って防衛している頃。 三人はのんきに気楽に平和に歩いておりました。 そこで、アブソーは隣のチェインに聞く。 「そういえば、あちらではどのくらいの時が経っているのでしょうか?」 「あちらって、妖精界のことか?」 「はい」 「けどよ、タイニーに聞かないと分かんねぇし。それによ、聞くにも植物が無ぇから」 「あ、そういえば・・・・」 周りには雑草すら、無い。 緑がまるで無かった。 「大丈夫でしょう。もしも間に合わなかったらここが崩壊してる」 未来、といっても、あくまで人間界ですから。 エドワードは言って、さらに歩を進めた。 補足をいれよう。 この時のエドワードの頭の中にはリビーのことしか無かった。 そのことが、この後起こる事件に少なからず影響を与えてしまうことに、本人はまだ気付いてはいない。 +++ そして、一分後。 エドワードを見失った。 アブソーとチェインは、灰色の都会の真ん中に、ただずんでいた。 そもそも、トウキョウにはさっき来たばかりという状態だったので、無闇に動いたらそれこそリビーの 、またはエドワードの二の舞だった。 という事情により、とりあえず二人は立っていた。 「あの、チェインさん。これからどうしますか? ずっとこのままというわけにはいかないですし」 「まぁそれは正論なんだけどよ・・・・」 そして、お互いがそれぞれで今後の行動について思案している時に。 チェインはそれを聞いた。 微かな、ほんのわずかな音だったからこそ、戦いの場を踏んできた彼にしか聞こえなかった。 「どうしました?」 少しだけ身にまとう空気を変えたチェインにアブソーは訊いた。 彼は答える。 「いや、なんか悲鳴みたいのが聞こえたんだけど・・・・」 +++ 「きゃああ!! アポトニティー様ぁあ!!」 リビーがそう叫んで視線を向けた先に、彼は立っていた。 体のところどころから血を流したままで。 足はふらついたままで。 目もどこか虚ろなままで。 彼は、立っていた。 「もう止めてください・・・・私は平気ですからぁ・・・・」 泣きながら言うリビーをチラリと見て、そして、クルーは目前の集団を見た。 いくらクルーが剣術の達人とは言え、前回のマグマとは違い、今度の相手は人間。それも尋 常じゃない人数がいた。 最初よりも数は半分以下には減っているものの、まだまだ少ない人数とは言えなかった。 ――血を、幾分か流しすぎましたか・・・・私としたことが、少し油断しましたね。 頭のなかではあくまで冷静に状況分析すると、再度剣を構え、目を閉じた。 呼吸を整え、そして、目を開き、彼は敵に突撃した。 +++ 「・・・・オカシイよな。あきらかに」 「罠、のようにも見えますが」 チェインが悲鳴の発信源へと向かい、目の前にあったのは高いビル。 そして、その入り口部分に、黒い制服を着た人間が列をなして並んでいた。 「チェインさんが悲鳴をここから聞いたのなら、行かないわけにはいきません。困っている人は助 けないといけませんし、あの悲鳴の持ち主はリビーさんかもしれません」 アブソーは言うと、颯爽と入り口へと向かう。 「まてまてまてって。絶対に通す感じじゃねぇぞ、あれは」 「確かにそうですが・・・・じゃあどうするんですか? チェインさん」 ははは、よくぞ聞いてくれた、と大袈裟に言って、 「一つ、策があるんだ」 +++ 「あの、チェインさん?」 「何だ」 「それって、策、というほどでもないんじゃないですか?」 アブソーとチェインは、ビルの裏に向かう途中、策について話していた。 裏に行けば行くほど人数は少なくなっていったので、人混みばかり見ていた二人にとってそ の光景は少し不気味に見えた。 まるで、誰かが人を追い払っているような、そんな不気味。 そして、アブソーは怪訝そうな顔をして、 「チェインさんが『変化』の力でビルの壁を紙にするなんて、あまり『策』とは言わないじゃない んですか? どちらかというと、方法というか・・・・」 「そんな細かいことをいちいち考えなくたって良いだろ? ・・・・さて、ここら辺でいいか」 チェインは歩みを止めると、おもむろに壁に手をついた。 そして、手が光りだす。 +++ その頃。 クルーとリビーは窮地に立たされていた。 二人はそれぞれ人間達の手によって紐状のもので拘束されていた。 勿論、クルーとリビーはすでに武器を持っておらず、クルーにいたっては血を流しすぎたのか、 意識が朦朧としていた。 「リビー・・・・すいません、貴方を最後まで守れないようです」 力なく、クルーが言った。 「あの・・・・アポトニティー様。私思ったのですけど、この人達、どこか不自然なんですけど」 「不自然・・・・」 リビーの言葉にある可能性をおぼえたクルーは、目を閉じ、人間達の思想を視た。 「・・・・・・? アポトニティー様、どうしたのです?」 リビーが心配そうにクルーに問いかけた瞬間、クルーは目を見開いて、 「これも、これもファントの仕業なんですか!!」 誰かに怒鳴るように、彼は叫んだ。 「あ、アポトニティー様、ファントってもしかして――」 ドゴッ。 と。嫌な音がした。 リビーの向かいにいるクルーの背後に、バットを持った、少年がいた。 そして、少年は言う。 「さぁーて。悲劇の幕開けだよ」 +++ あの赤く染まった公園で、私の両親は死んだ。 私のもとへ帰ってきた時、彼らはすでに人間の形をとどめてはいなかった。 私とリビーと一緒に駆けてくれた脚も 私とリビーを抱いてくれた腕も 私とリビーを撫でてくれた手も 私とリビーの涙をふいた指も 私とリビーが好きだった顔も 私とリビーと同じ色の眼も 愛していたのに。 全てを全ては全てが全てに、絶望だった。 今私の城にいるのは、何人かの召使と執事、そして、私とリビーだけだった。 ぽっかりと穴が開くとは、こういうことなんだと、実感した。 私はその痛みを忘れはしない。 もうその痛みを味わいたくはない。 だから私はリビーを守ると、心に誓った。 今となっては唯一の血の繋がった人を、失いたくは無いから。 もう二度と、もう二度と――。 +++ 「さて、ここはどこだろう」 エドワードはチェイン達とはぐれた後、己の勘を頼りに歩いていたのだが――勿論そんな歩き方をすればもっと迷うことは明らかだ――見知らぬ場所に出てしまっていた。 「いや、ここがどこかは関係ない。早くリビーを探し出さないと……変な人にひっかかってしまっては大変だからな・・・・」 エドワードは顔面蒼白になりながらも、必死に目を動かしていた。だが、相変わらず見えるの は灰色の建物や人混みだけだった。 そして、エドワードは眼鏡を手で押し上げて、一旦自身を落ち着かせる。 「・・・・仕方が無い。可愛い妹のために、少し仕事をしなければ」 疲れるのは嫌なんだけどな、と呟き、唐突にエドワードは目を閉じた。 彼の周囲の空気が、蠢いた。 しかし、それは微々たる動きだったので、気付くものは誰もいなかった。 +++ 少年は笑っていた。 とてもとても可笑しそうに、狂ったように、嬉しそうに、この状況を楽しんでいた。 その姿にリビーは、どうしようもないような恐怖を覚えていた。 何の躊躇もせずに、まるでそれが当たり前のように、クルーを殴ったこの少年に。 形は子供なのに、 中身は悪で満たされているような。 そんな有得ない不一致に、彼女はただ怯える。 「ねぇ、何でそんなに震えてるのぉ? おねーさん」 「あぁ・・・あ・・・・ぁ」 「口がガタガタ言ってるよー。あ、もしかして、ボクが怖いのぉ?」 少年はリビーに近付いて、顎を手でつかみ、自分の顔へと向かせた。 「ほら、こんなに可愛い男の子なのに。おねーさんおもしろーい」 「貴方は――!!」 リビーは叫ぶ。 「貴方はファントなのでしょう!! どこが可愛い男の子ですか!! アポトニティー様を平気で殴ってしまうなんて・・・・貴方は最悪な男です!!!」 「待ってよ、私がファントだという指摘は半分しかあってないよ。それに、そんな言いがかり困るよ。こっちも仕方なくやってるんだから、さ。」 そして、少年はそばにいた人間からナイフを奪うようにとって、どこか誇らしげに、 「なんたって、私は『絶望的に強大な魔力の主』なんだからね――観客に絶望を与えるのが、私の務めだろう?」 そして、少年――ファントは。 躊躇も無く迷いも無く後悔も無く慈悲も無く意思も無く――希望も無く 真っ直ぐに、ナイフを振り下ろした。 刹那。 確かに、微かに、遠くから、声が聞こえた。 「止めろぉおおおおおぉおお―――!!!」 チェインの、声だった。 「ん?何?」 折角のクライマックスなのに、と少年は振り返る。 目の前に回転しながら飛んでくる金色に輝く剣があった。 「うおぉお!!?」 即座に身をかわす。 そして、少年の後ろにいたリビーの後ろにいた人間に、一撃を食らわせた。 「あぁあああ!! チェインさん、何て事をするのですか!!」 「え、いや、まさか避けるとは思わなくて・・・・。第一、あいつら敵だろ?」 「敵だから傷つけてもいいなんていう道理はありません!!」 アブソーは叫んで、リビーのところへ駆け寄る。 チェインは剣を拾って、少年に切っ先を向けた。 「お前のお相手はクルーに代わって俺がしてやるよ」 「・・・・ふふふ。面白いですね、しかし、悪くは無い」 少年は、ナイフを構えて、目の前にいる金髪の青年へと目を向けて、 「さぁ、アンコールの時間です」

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