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サイラー兄妹」(2009/02/17 (火) 21:57:01) の最新版変更点

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私は鼓膜を劈くような金属音で、目を覚ました。 横を見ると、目覚まし時計が鳴っている。 私はそれを止めると、その反対側に視線を向けた。 「うー。あ、エド兄様、おはよぉ・・・・」 うす紫色の髪を乱れさせて、愛しい我が妹は私にそう言った。 「おはよう、リビー。ところで、髪がすごいことになっているよ」 「え、ホント? ちょっと鏡見てくる!」 リビーはベットから降りると、洗面所の方へとことこと歩き出した。 そこで改めて今の状況を確認する。 まず、私達は何故ここにいる? 私達は確か、馬車に乗って城に帰っていたはずだなのだ。 そして、気付いたら妖精界ではない世界にいた。 私が思うに、ここは時空なのだとは思うが。 幸い、宝石をいくつか持っていたので、ここの世界の紙幣に替えて生活することはできるのだが――帰れるかどうか分からない、というのが現状だ。 ただ、一番心配なのは私達の使命を達成できるかどうか。 確か、そろそろ儀式をしなければ、世界は―― 「エド兄様」 「・・・・どうした、リビー」 「あの、あれって・・・・」 言いながら、リビーは窓の外を指差す。 私はそれに従って、外を覗く。 ここは『マンション』という建物なので、いささか高さが邪魔し、リビーが何を指差しているのか 分からなかった。 そこで、彼女が一言。 「あれは、アポトニティー様ではありませんか!!」 「なに!?」 さすが我が妹。 クルーを探すことに関しては一流だ。 「とりあえず、迎えに行こう。リビーも行くか?」 「もちろんですよ!」 そこで私達は早速服を着替えると、玄関のドアを開いた。 +++ 「リビー、クルーはどこら辺にいたんだ?」 「えーと。こっちかな?」 リビーはキョロキョロと必死に大きな紫色の目を動かしていた。 まったく、何故ココはこんなにも人ごみが多いのだ。 この――『トウキョウ』という都市は。 一度はぐれたら、二度と会えなくなってしまいそうだ。 「リビー、迷子になると大変だ。くれぐれも私から離れないように・・・・」 目を彼女がいるはずのところへやる。 我が妹の姿は無かった。 どうやら、待ちきれず勝手に一人で行ってしまったらしい。 …………。 心臓が止まったような気がした。 「・・・・絶対に探し出からな。リビー」 私は決意を固めると、騒がしい都市へ一歩を踏み出した。 +++ サイラー・エドワード。 サイラー・リビー。 二人合わせてサイラー兄妹。 彼らは、貴族。 彼らは、天才。 そして、何よりも誰よりも絆が強かった。 困難災害障害天災事故試練にも、対抗し、尚且つ、切れない絆。 それが彼らの、最大の武器にして、唯一の切り札。 例えばそれは旧友同士の腐れ縁のような――、 例えばそれは恋人同士の赤い糸のような――、 例えばそれは天敵同士の因縁のような――、 ――絆。 人と人を繋ぎ、架ける物。 それを持つサイラー兄妹の片割が、何故か一人で、俺の前に座っている。 +++ 「で、どうやって時空に飛んだのかな、君達は」 「それは後で話すが・・・・それよりも、リビーはどうした」 「・・・・・・・・不覚だった。私が不注意なばっかりに、リビーは・・・・」 エドワードは最後、消え入りそうな声で言うと、頭を抱えて何やらぶつぶつと呟き始めた。 アブソー、チェイン、エドワードはとある喫茶店にいた。 少し時間を遡る。 アブソー達は無事に時空に、トウキョウに着いた。 しかし、人ごみにまみれ、クルーとはぐれてしまったのだ。 そして、残った二人が適当にさまよっているのを、偶然エドワードが見つけたのだ。 以上、経緯。 「けど、クルーさんのことは見たんですよね?」 「・・・・・・見たのはリビーだけだが」 「まぁ、リビーとクルーが合流していれば取りあえずは安心なんだが」 そこで、チェインは置いてあったカフェオレを一口飲んだ。 ちなみに、アブソーの前にはオレンジジュース。 勿論、全てエドワードの奢りだった。 「ああそうだ。確か・・・・アブソー、でしたか。貴女、人間界にいたんですよね?」 「はい、そうですけど」 「人間界ってものは、こんな感じだったのか?」 そうですね・・・・、と言いながら、アブソーは改めて周りを見渡した。 高くそびえる灰色の建物。 そこに映し出される映像。 自動で走る色とりどりの馬車。 人混み。人混み。人混み。 「・・・・少なくとも私が知っている人間界は、こんな風では無かったと思います」 「そっか。それじゃあここは、さしずめ未来の人間界ってことになるかな」 「未来の・・・・か。時空ってのは、そこまで含んじまうのか」 感心したようにチェインは言って、空になったカップの底を見つめた。 +++ 「・・・・リビー」 「何ですか?」 「あなたは一体何がしたいのですか?」 「アポトニティー様。それは乙女にしてはいけない質問ですよ」 そう言って少女は、クルーとつないでいる手を少し強く握った。 リビーはクルーを見つけた直後、自分が兄とはぐれていることに気付いたが。何分クルーと二人っき りになれたので、すぐそばに自分の仮住いとしてのマンションもあったが、 「アポトニティー様、私、ずっとずーっと前からエド兄様とはぐれてしまったんです。しばらく一緒に探 してくれませんか?」 勿論言われなくても分かるが、一応言おう。嘘である。 しかし、そこで断れないクルー。 というわけなので、現在はリビーの思惑通りに進んでいた。 「しかし、貴女さっきから視線を動かしていないですよね。それはエドワードを探していないとも解 釈できてしまうのですが」 「えぇえ?! あ、アポトニティー様は、わわわ私のことを、こんな純粋で可愛らしい女の子を疑う と、そう言うのですか!!」 「い、いえ。そういうわけでは・・・・」 あまりの剣幕でそのようなことを言われてしまったので、クルーはもう黙るしかなかった。 「まったくもう。いくらアポトニティー様でも、そのようなことを言われては、傷つきます」 あぁ、痛い痛い、と言いながら、リビーは大袈裟に胸の辺りに手をあてる。 ――昔からこの子は、本当に世話が焼けるというかなんというか・・・・。 クルーは一人思案しながらも、黙々と目を動かしていた。 +++ そして、場所は変わり。 喫茶店。 「あぁ、そういえばよ。エドワード、お前って『ファント』のことは知ってるよな」 「いちおうは。・・・・何故いきなりそんなことを」 「実はよ。お前らも含め、八妖精が時空へ飛ばされてんだよ」 エドワードは少しだけ、驚いたように表情を変えた。 「・・・・それは、本当か」 「おう。厳密に言うと、俺とクルーは無事だったんだがな」 そうか、と相槌を打って、エドワードは言う。 「それをやったのが、ファントだと。貴方はそう言いたいわけですか」 「そうだな・・・・それだけのことをやるためには、それぐらいの魔力を使うからな」 チェインはそう締めくくって、もともと置いてあった水を飲んだ。 「しかし、至極納得がいかない」 何がだ? とチェインが聞き返すと、 「こんなにも素敵なアブソーがチェインの恋人だなんてな」 「「・・・・へ?」」 「まったくもって不可解だ」 勝手に話を進めるエドワードに、二人は力強く言った。 「ち、違うに決まっているだろ! 馬鹿じゃないのか?!」 「断じて! 断じて違いますですよ、エドワードさん!!」 「です、が多いよ。アブソー」 エドワードは冷静に言って、 「大丈夫。からかってみただけだ」 「・・・・・・」 そんなエドワードにチェインは無言で睨み。 アブソーは心底ほっとしたように胸に手をあてていた。 +++ 「アポトニティー様。私、エド兄様がいる場所に心当たりがあるんですけど・・・・」 その言葉につられて、クルーとリビーはある大きなビルの1階にいた。 勿論、リビーにはまったくエドワードを探す気がないので、クルーだけが無駄に目を動かすはめにな っていた。 「アポトニティー様。ところで、ここには一人で来たんですか?」 唐突に、質問。 「ここ、というと・・・・」 「この時空――ここではトウキョウと呼んでいるようですが」 あぁ、それでしたら、一人ではありませんよ、と前置きをして、クルーは続ける。 「チェインと、アブソーという名前の女の子と来ました」 「女の子!?」 リビーはカッと目を見開いて、クルーに詰め寄った。 「その女の子とはど、どのような関係ですか?!」 「関係と言われましても・・・・」 ――今ココで妹だと言っても、信じてくれるでしょうか・・・・。 なので、クルーは嘘をつかずに、こう答えた。 「親しい関係、と言えばいいでしょうか」 「親しい・・・・関係・・・・」 ならば、と言ってリビーは問う。 「アポトニティー様は、その、アブソーというお方をどう思っているのですか」 「愛していますよ」 即答。 なんの迷いも躊躇も無く、クルーは言った。 リビーは固まっていた。 「アブソーは私の大事な人です。だから――」 もう、彼女を失いたくはありません。 クルーは言い終わって、隣で唖然とするリビーに、 「・・・・あぁ、すいません。私らしからぬことを言ってしまいました」 ははは、と爽やかに笑うクルーにときめく暇もないくらいに、リビーは落ち込んでいたのだった。 +++ 「くしゅんっ」 「ん? 大丈夫か」 「あ、はい。ただのくしゃみですから」 「ふむ、誰かが噂でもしたか?」 なにせ、アブソーは美人だからな、と言って、エドワードは突然立ち上がって、 「ここにじっと座ってお茶をしてても仕方ない。リビーと・・・・クルーを探そう」

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