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向日葵の悲劇、八妖精の戦闘」(2009/02/16 (月) 00:36:02) の最新版変更点

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「一つ確認させてくれ」 チェインは珍しくまじめな顔で言うと、目の前のテディベアを睨みつけて、 「お前は妖精界で一番の美少年で、八妖精になった最年少の妖精のマニなのか!?」 早口で、叫んだ。 すると、チェインの下にある地面がうごめきだし、文字が描かれた。 [YES] 「嘘だろ! そんなわけない「だけどチェイン、実際にあったんだ」だけど・・・」 ティーはマニを抱き上げ、マニを指差した。 「これがなによりの証拠だろ?」 [これじゃないよ。マニだよ] 「あぁ、ごめんね。マニ」 ティーは、急に暴れだしたそれをあやすように頭を撫でた。 「あの・・・さっきから気になっていたんですが・・・」 アブソーは、風で消えかかっていたYESの文字を指して、マニに尋ねた。 「何故マニさんは砂で文字が書けるんですか?」 マニはその問いに対して、 [これは僕の力。『実操』の力。生き物が触れる物を、全て思いのままに操れるんだよ] 砂、で答えた。 「マニさんはすごいですね!」 少女はテディベアに近付くと、ティーと一緒に頭を撫で始めた。 マニの顔は赤くなっていった。 その瞬間、チェインとクルーは二人して同じ事を思った。 ――マニ・・・羨ましすぎる・・・。 ――マニ・・・羨ましいです・・・。 +++ クルーはそんな微笑ましい場面の中、こう切り出した。 「マニがテディベアになったしまったのは分かりましたが、そもそも何故こんな事に?」 すると、クルーの足元がうごめき始めた。 [一人だけ、犯人に心当たりがあるよ] 皆の顔が緊張で強張る。 「それは・・・誰ですか」 クルーのそんな問いに、マニは簡潔に、こう答えた。 [時空に飛ばされる前に、タイニーに変なジュースを飲まされたんだよ] 皆は、すぐに納得した。 +++ 「・・・へックション!」 [大丈夫? 風でもこじらせた?] 「いや・・・いたって健康だけど・・・」 [ふーん。誰かが君の噂でもしてるんじゃない?] 城の庭で、花を通じて巨木と話す少女はケラケラと笑って。 「僕は色んなイタズラしてるから、噂の心当たりが多すぎるよ!」 +++ 「だからさ、チェイン。 もう少しここにいてくれない?」 「そんなこと言われたって・・・」 「だけどチェインさん、見捨てるのは良くないですよ?」 アブソーのその言葉に、チェインは何も言い返せなかった。 時は少し遡る。 タイニーのジュースの騒動があったあと、 チェインはもう一度マニに質問した。 「マニはこんなのになっても、マニだ。八妖精には変わりないんだろ?」 [こんなの、っていう表現は気に入らないけど。確かにその通り、儀式はできるよ] するとチェインはみんなに向かって、 「じゃあ、ここに長居する理由もないってことで「まだ帰らないで!」・・・ティー?」 ティーは重苦しく、口を開いた。 「このままだと――アルファが、死んじゃうんだ」 「・・・その原因は、おそらくはあの向日葵」 「向日葵たちが、アルファさんを苦しめているのですか?」 「少し違うよ、アブソー」 ティーはマニを抱く力を、少し強めた。 そして、ゆっくりと口を話し出す。 「あの向日葵は、いわばこの時空の太陽そのもの。太陽はいかなる時でも、生きるものに『生』を与える」 すると、砂が再びうごめいた。 [だけど、最近向日葵の花が枯れ始めているんだよ] 「だから、もし太陽がなくなったら・・・アルファは・・・・」 珍しく泣きそうなティーを見て、事の重大さを理解したクルーは、ティーの手をとって。 「そんなに心配しなくてもいいですよ。ここに私がいる限りは、ね」 +++ 「・・・分かった、俺も残る。だけど、何で向日葵が枯れ始めているんだ? 強い魔力を持つあの向日葵が、枯れるなんてことはないはずだろ?」 「チェインにしては珍しく頭が回りますね」 チェインはクルーを、一瞬睨んだ。 「私、あなたたちが来る前にずっと向日葵を観察してたの」 「それで・・・何か見たんですか?」 そんな少女の問いに、ティーはおおげさな身振りをいれて、言った。 「一輪の向日葵が、突然赤く光って、そのまま・・・枯れたの」 +++ 現在、アブソー達のいる時空には、夜というものがない。 向日葵達が一日中太陽として活動することで、夜の時間も昼のようにしてしまうのだ。 そして空が明るい今、実質的には夜の刻に、アブソーとチェインは隣同士で座っていた。 「あったかい・・・ですね」 「そうだな」 「なんだか、眠くなりますね・・・」 「俺達は今見張りをやっているんだろ? 今は眠いのを我慢しろ」 「あぁ、そうでした。・・・向日葵達が枯れてしまう瞬間を見ていないと・・・」 アブソー達は、とりあえず向日葵が枯れる原因を調べましょう、というクルーの提案の下、アブソーとチェイン、そしてクルーとティーの二手に分かれて向日葵達を見張ることになったのだ。 しかし、本来はこの時間にはもうすでに夢の中、のアブソーにとっては、この仕事は難しいものだったらしく、もうすでに彼女のまぶたが落ち始めていた。 「・・・そんなに眠いか?」 「・・・いえ・・・大丈夫・・・ですよ」 「もう目が開いてないけど」 「そんなこと・・・ないです」 そんな虚ろなアブソーを見かねたチェインは、 「眠いんだったら寝とけ。何かあったらすぐに起こすから」 「じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・」 アブソーはそういい残して、完全に思考を停止し、眠りについた。 頭をチェインの左肩に乗せて。 「・・・え。そこで・・・?!」 チェインの顔は一瞬で見事に赤くなった。 ――か、顔が・・・近い近い!! チェインはその後、左の方向を見ることはなかった。 だが、しっかりと、チェインは左肩を通じて彼女の温かさと儚さを感じた。 +++ そのころ、アルファに乗って見張り中の二人は。 「・・ん?」 「どうしたの?」 「いや、チェインの心が動揺していたので、何かと思ったら・・・」 「アブソー関係・・・だった?」 クルーはその言葉に、ティーの声色を真似て、 「ビンゴ」 とだけ言った。 「はは、全然似てないよ!」 「そうですか? けっこう自信はあったのですが・・・・・あ」 「今度は何?」 クルーは振り向いて、 「ティー、マグマは生き物なのですか?」 +++ ――とても暇です。・・・とても。 マニは『実操』の力で自分の体を動かし、比較的見晴らしのいい場所にいた。 見上げると、アルファがゆっくりと飛んでいる。 ――ティーはクルーと二人っきりですし、気に入りません。 そして、マニはふと視線を動かした。 そこには、茎の部分がほのかに赤い向日葵があった。 ――あれって・・・。 すると、頭上から声と風が降ってきた。 「マニ! あなたも気付いたんですね!!」 風の音に負けないように、クルーは声を張り上げて続ける。 「その現象の原因が分かりました!」 それを聞いたマニは地面に大きな文字を書いた。 [原因? いったいなんですか?] クルーはいっそう声を張り上げて答えた。 「生きているマグマです!!」 +++ 「はぁ・・・おい・・・無事か?」 「チェインさんのおかげで無傷です。チェインさんこそ、大丈夫なんですか?」 「俺は・・・はぁ・・・八妖精だぞ・・・傷一つついてねぇよ・・・」 チェインはアブソーにそう答えると、『マグマ』に向かって剣を振り下ろした。 マグマは剣に触れた瞬間、ジュッ、っと音を立てて、しぼんで消えた。 ――くそ、お前ら! 一体何者なのか分からないが、よくも、よくも・・・。 チェインは近くにいたマグマに向かって走っていく。 ――アブソーとの時間を邪魔しやがって!! 剣はマグマの中心を貫いた。 「許さない、絶対に」 +++ 「マグマが生きているなんてありえるのか?」 「普通はありえませんが、実際に動いていますし・・・」 [なにより、ここは時空です] 「それもそうですね。あ・・・」 「どうしたの? クルー」 クルーは羽を剣に変えると、二人を見据えて、 「チェインとアブソーがマグマに襲われているので、助けに行きます」 そして走り出した。 [どうしたの? 追わないの?] マニはそうティーに尋ねた。 するとティーは、さきほどのクルーと同じ動作をした。 手に持っていたのは――七色に輝く剣。 そして、それがマニに対しての答えだった。 「もちろん。行くしか無いじゃん」 ティーは、マニを片手に持って、走り出した。 +++ 「あれが・・・向日葵が枯れた原因の・・・」 助太刀をするため、チェインのところに向かったクルーが見たものは、真っ赤にうごめく「何か」と、その赤の中にいる二つの人影。 その一人は金色に輝く剣を持ち、もう一人はその後ろでうずくまっていた。 「アブソーをかばいながら戦うなんて・・・いくらなんでも無茶しずぎですよ」 クルーは己の手にある青く輝く剣を握りなおし、二人の下へ走っていった。 そして、クルーが走り去った後に、また人影一つ。 +++ 赤いマグマが、チェインの頭に向かって飛ぶ。 チェインはそれを気配で感じ、正面にいたマグマを切った剣をそくざに引き、 そのままソレに向かって振り下ろした。 「アブソー! ふせろ!」 周りをうかがうために立ち上がろうとしたアブソーにそう叫ぶと、 チェインは、また次のマグマに剣を振るった。 「チェインさん!」 どうした?! と返す暇はなかった。 背後からマグマの集団がまとめて飛んでくる。 「よけてください!!」 ――ダメダ。ソシタラ、オマエガ・・・。 「私の事はいいです! お願いです! チェインさん!!」 もう、「危険」はすぐそこまで迫っていた。 チェインは決めた。 いや、もうずっと前から、時空に旅たつ前から決めていた。 『お前のことを、命を懸けてでも守ってやる。絶対にな』 それは、彼が彼女へと送った言葉。 決意、約束、契約。 そのどれにも属さない、それはただの言葉。 だけど、その言葉は確かに、彼の心に根をはやし、息づいている。 例え、彼女がソレを忘れていても、これから一生、彼はソレを忘れない。 チェインは彼女の盾となることを決めた。 彼は静かに目をつぶった。 そしてその瞬間、もう一人の騎士【ナイト】が現れた。 チェインが目を再び開けると、そこには赤かったマグマたちと、黒髪の青年がいた。 「まったく、チェインは私がいないと何もできないんですね」 チェインは目を見開いた後、フッと笑って、 「俺はお前のそういうところが嫌いだよ」 クルーに背を向け、再び剣を持ち舞い始めた。 ――クルー・アポトニティーが剣を持ったら、それはすなわち「無敵」に等しい。 そんなことを、昔誰かが言っていたことを、チェインは先頭の真っ只中で思い出していた。 「はっ!」 クルーは素早く剣を回したり、時には振り下ろし、 文字通りバッサバッサと、マグマを倒していった。 「チェイン、いくらなんでも敵が多すぎます! ここはいったん引きましょう」 「俺も逃げようとしたさ! けど、マグマが密集しすぎて逃げ道がねぇんだよ!」 チェインの言ったとおり、周りには赤い絨毯でもひいたように、マグマたちがうごめいていた。 そこで、アブソーはふと視線を横にずらした瞬間、気付いた。 「あの、チェインさん、クルーさん。あれって、ティーさんじゃないですか?」 クルーが即座にアブソーの視線の先を追うと、 そこに微かに見えたのは、ゆれる茶髪だった。 「そうだ、ティーの力なら・・・」 クルーは先ほど見えた場所を確認すると、 そこに向かってマグマを倒しながら走っていった。 ――やっぱり、あいつは格が違う。キレもスピードもパワーも。 チェインは一人考える。 クルーは昔から戦いのセンスはあったが、運動能力が低かった。 八妖精になると決まったときに、まず選ばれたものがやることは二つ。 名前の力の訓練と、『武器』の訓練。 二つ目は平たく言えば、剣の訓練、というものだった。 そこで、クルーは自ら気付いたのだ。 自分には体力はないけど、テクニックはある。 クルーが剣術が得意なのはただ昔から努力を積んできたから、という理由だけではない。 彼は剣との相性がすこぶる良いのだ。 ただ、それだけ。 +++ 「ティー、お迎えにあがりましたよ」 「そんなかっこつけなくていいから・・・私がしようとしてること、分かってるでしょ?」 クルーは襲ってきたマグマを切りながら答えた。 「えぇ、そのために来ましたから」 「なら援護お願いね」 ティーはそれだけ言うと、地面に手をつけて、力をこめた。 そして、地面はティーの手から徐々に青くなっていく。 その『青』は、地面を伝ってマグマにも伝わっていく。 そして、マグマは己の変化に気付くと、凍ったように固まってしまった。 ――否、凍ったのだ。 その一連の場面を見たアブソーは、チェインに尋ねた。 「何故、何故マグマたちは凍ってしまったんですか?」 チェインは剣を羽に戻すと、答えた。 「ティーの『色彩』の力で生んだ色には様々なものに影響を及ぼす効果もあるんだ」 ただ、それだけ。 一方、ティーに危ないから、と言われて おとなしく戦いのさなかからはずれたところにいたマニは、一人心の中で呟いた。 ―剣の扱いもまだまともにできないのに・・・本当に危ないのはあなたの方です。 空からアルファの雄たけびが聞こえた。
「一つ確認させてくれ」 チェインは珍しくまじめな顔で言うと、目の前のテディベアを睨みつけて、 「お前は妖精界で一番の美少年で、八妖精になった最年少の妖精のマニなのか!?」 早口で、叫んだ。 すると、チェインの下にある地面がうごめきだし、文字が描かれた。 [YES] 「嘘だろ! そんなわけない「だけどチェイン、実際にあったんだ」だけど・・・」 ティーはマニを抱き上げ、マニを指差した。 「これがなによりの証拠だろ?」 [これじゃないよ。マニだよ] 「あぁ、ごめんね。マニ」 ティーは、急に暴れだしたそれをあやすように頭を撫でた。 「あの・・・さっきから気になっていたんですが・・・」 アブソーは、風で消えかかっていたYESの文字を指して、マニに尋ねた。 「何故マニさんは砂で文字が書けるんですか?」 マニはその問いに対して、 [これは僕の力。『実操』の力。生き物が触れる物を、全て思いのままに操れるんだよ] 砂、で答えた。 「マニさんはすごいですね!」 少女はテディベアに近付くと、ティーと一緒に頭を撫で始めた。 マニの顔は赤くなっていった。 その瞬間、チェインとクルーは二人して同じ事を思った。 ――マニ・・・羨ましすぎる・・・。 ――マニ・・・羨ましいです・・・。 +++ クルーはそんな微笑ましい場面の中、こう切り出した。 「マニがテディベアになったしまったのは分かりましたが、そもそも何故こんな事に?」 すると、クルーの足元がうごめき始めた。 [一人だけ、犯人に心当たりがあるよ] 皆の顔が緊張で強張る。 「それは・・・誰ですか」 クルーのそんな問いに、マニは簡潔に、こう答えた。 [時空に飛ばされる前に、タイニーに変なジュースを飲まされたんだよ] 皆は、すぐに納得した。 +++ 「・・・へックション!」 [大丈夫? 風でもこじらせた?] 「いや・・・いたって健康だけど・・・」 [ふーん。誰かが君の噂でもしてるんじゃない?] 城の庭で、花を通じて巨木と話す少女はケラケラと笑って。 「僕は色んなイタズラしてるから、噂の心当たりが多すぎるよ!」 +++ 「だからさ、チェイン。 もう少しここにいてくれない?」 「そんなこと言われたって・・・」 「だけどチェインさん、見捨てるのは良くないですよ?」 アブソーのその言葉に、チェインは何も言い返せなかった。 時は少し遡る。 タイニーのジュースの騒動があったあと、 チェインはもう一度マニに質問した。 「マニはこんなのになっても、マニだ。八妖精には変わりないんだろ?」 [こんなの、っていう表現は気に入らないけど。確かにその通り、儀式はできるよ] するとチェインはみんなに向かって、 「じゃあ、ここに長居する理由もないってことで「まだ帰らないで!」・・・ティー?」 ティーは重苦しく、口を開いた。 「このままだと――アルファが、死んじゃうんだ」 「・・・その原因は、おそらくはあの向日葵」 「向日葵たちが、アルファさんを苦しめているのですか?」 「少し違うよ、アブソー」 ティーはマニを抱く力を、少し強めた。 そして、ゆっくりと口を話し出す。 「あの向日葵は、いわばこの時空の太陽そのもの。太陽はいかなる時でも、生きるものに『生』を与える」 すると、砂が再びうごめいた。 [だけど、最近向日葵の花が枯れ始めているんだよ] 「だから、もし太陽がなくなったら・・・アルファは・・・・」 珍しく泣きそうなティーを見て、事の重大さを理解したクルーは、ティーの手をとって。 「そんなに心配しなくてもいいですよ。ここに私がいる限りは、ね」 +++ 「・・・分かった、俺も残る。だけど、何で向日葵が枯れ始めているんだ? 強い魔力を持つあの向日葵が、枯れるなんてことはないはずだろ?」 「チェインにしては珍しく頭が回りますね」 チェインはクルーを、一瞬睨んだ。 「私、あなたたちが来る前にずっと向日葵を観察してたの」 「それで・・・何か見たんですか?」 そんな少女の問いに、ティーはおおげさな身振りをいれて、言った。 「一輪の向日葵が、突然赤く光って、そのまま・・・枯れたの」 +++ 現在、アブソー達のいる時空には、夜というものがない。 向日葵達が一日中太陽として活動することで、夜の時間も昼のようにしてしまうのだ。 そして空が明るい今、実質的には夜の刻に、アブソーとチェインは隣同士で座っていた。 「あったかい・・・ですね」 「そうだな」 「なんだか、眠くなりますね・・・」 「俺達は今見張りをやっているんだろ? 今は眠いのを我慢しろ」 「あぁ、そうでした。・・・向日葵達が枯れてしまう瞬間を見ていないと・・・」 アブソー達は、とりあえず向日葵が枯れる原因を調べましょう、というクルーの提案の下、アブソーとチェイン、そしてクルーとティーの二手に分かれて向日葵達を見張ることになったのだ。 しかし、本来はこの時間にはもうすでに夢の中、のアブソーにとっては、この仕事は難しいものだったらしく、もうすでに彼女のまぶたが落ち始めていた。 「・・・そんなに眠いか?」 「・・・いえ・・・大丈夫・・・ですよ」 「もう目が開いてないけど」 「そんなこと・・・ないです」 そんな虚ろなアブソーを見かねたチェインは、 「眠いんだったら寝とけ。何かあったらすぐに起こすから」 「じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・」 アブソーはそういい残して、完全に思考を停止し、眠りについた。 頭をチェインの左肩に乗せて。 「・・・え。そこで・・・?!」 チェインの顔は一瞬で見事に赤くなった。 ――か、顔が・・・近い近い!! チェインはその後、左の方向を見ることはなかった。 だが、しっかりと、チェインは左肩を通じて彼女の温かさと儚さを感じた。 +++ そのころ、アルファに乗って見張り中の二人は。 「・・ん?」 「どうしたの?」 「いや、チェインの心が動揺していたので、何かと思ったら・・・」 「アブソー関係・・・だった?」 クルーはその言葉に、ティーの声色を真似て、 「ビンゴ」 とだけ言った。 「はは、全然似てないよ!」 「そうですか? けっこう自信はあったのですが・・・・・あ」 「今度は何?」 クルーは振り向いて、 「ティー、マグマは生き物なのですか?」 +++ ――とても暇です。・・・とても。 マニは『実操』の力で自分の体を動かし、比較的見晴らしのいい場所にいた。 見上げると、アルファがゆっくりと飛んでいる。 ――ティーはクルーと二人っきりですし、気に入りません。 そして、マニはふと視線を動かした。 そこには、茎の部分がほのかに赤い向日葵があった。 ――あれって・・・。 すると、頭上から声と風が降ってきた。 「マニ! あなたも気付いたんですね!!」 風の音に負けないように、クルーは声を張り上げて続ける。 「その現象の原因が分かりました!」 それを聞いたマニは地面に大きな文字を書いた。 [原因? いったいなんですか?] クルーはいっそう声を張り上げて答えた。 「生きているマグマです!!」 +++ 「はぁ・・・おい・・・無事か?」 「チェインさんのおかげで無傷です。チェインさんこそ、大丈夫なんですか?」 「俺は・・・はぁ・・・八妖精だぞ・・・傷一つついてねぇよ・・・」 チェインはアブソーにそう答えると、『マグマ』に向かって剣を振り下ろした。 マグマは剣に触れた瞬間、ジュッ、っと音を立てて、しぼんで消えた。 ――くそ、お前ら! 一体何者なのか分からないが、よくも、よくも・・・。 チェインは近くにいたマグマに向かって走っていく。 ――アブソーとの時間を邪魔しやがって!! 剣はマグマの中心を貫いた。 「許さない、絶対に」 +++ 「マグマが生きているなんてありえるのか?」 「普通はありえませんが、実際に動いていますし・・・」 [なにより、ここは時空です] 「それもそうですね。あ・・・」 「どうしたの? クルー」 クルーは羽を剣に変えると、二人を見据えて、 「チェインとアブソーがマグマに襲われているので、助けに行きます」 そして走り出した。 [どうしたの? 追わないの?] マニはそうティーに尋ねた。 するとティーは、さきほどのクルーと同じ動作をした。 手に持っていたのは――七色に輝く剣。 そして、それがマニに対しての答えだった。 「もちろん。行くしか無いじゃん」 ティーは、マニを片手に持って、走り出した。 +++ 「あれが・・・向日葵が枯れた原因の・・・」 助太刀をするため、チェインのところに向かったクルーが見たものは、真っ赤にうごめく「何か」と、その赤の中にいる二つの人影。 その一人は金色に輝く剣を持ち、もう一人はその後ろでうずくまっていた。 「アブソーをかばいながら戦うなんて・・・いくらなんでも無茶しずぎですよ」 クルーは己の手にある青く輝く剣を握りなおし、二人の下へ走っていった。 そして、クルーが走り去った後に、また人影一つ。 +++ 赤いマグマが、チェインの頭に向かって飛ぶ。 チェインはそれを気配で感じ、正面にいたマグマを切った剣をそくざに引き、 そのままソレに向かって振り下ろした。 「アブソー! ふせろ!」 周りをうかがうために立ち上がろうとしたアブソーにそう叫ぶと、 チェインは、また次のマグマに剣を振るった。 「チェインさん!」 どうした?! と返す暇はなかった。 背後からマグマの集団がまとめて飛んでくる。 「よけてください!!」 ――ダメダ。ソシタラ、オマエガ・・・。 「私の事はいいです! お願いです! チェインさん!!」 もう、「危険」はすぐそこまで迫っていた。 チェインは決めた。 いや、もうずっと前から、時空に旅たつ前から決めていた。 『お前のことを、命を懸けてでも守ってやる。絶対にな』 それは、彼が彼女へと送った言葉。 決意、約束、契約。 そのどれにも属さない、それはただの言葉。 だけど、その言葉は確かに、彼の心に根をはやし、息づいている。 例え、彼女がソレを忘れていても、これから一生、彼はソレを忘れない。 チェインは彼女の盾となることを決めた。 彼は静かに目をつぶった。 そしてその瞬間、もう一人の騎士【ナイト】が現れた。 チェインが目を再び開けると、そこには赤かったマグマたちと、黒髪の青年がいた。 「まったく、チェインは私がいないと何もできないんですね」 チェインは目を見開いた後、フッと笑って、 「俺はお前のそういうところが嫌いだよ」 クルーに背を向け、再び剣を持ち舞い始めた。 ――クルー・アポトニティーが剣を持ったら、それはすなわち「無敵」に等しい。 そんなことを、昔誰かが言っていたことを、チェインは先頭の真っ只中で思い出していた。 「はっ!」 クルーは素早く剣を回したり、時には振り下ろし、 文字通りバッサバッサと、マグマを倒していった。 「チェイン、いくらなんでも敵が多すぎます! ここはいったん引きましょう」 「俺も逃げようとしたさ! けど、マグマが密集しすぎて逃げ道がねぇんだよ!」 チェインの言ったとおり、周りには赤い絨毯でもひいたように、マグマたちがうごめいていた。 そこで、アブソーはふと視線を横にずらした瞬間、気付いた。 「あの、チェインさん、クルーさん。あれって、ティーさんじゃないですか?」 クルーが即座にアブソーの視線の先を追うと、 そこに微かに見えたのは、ゆれる茶髪だった。 「そうだ、ティーの力なら・・・」 クルーは先ほど見えた場所を確認すると、 そこに向かってマグマを倒しながら走っていった。 ――やっぱり、あいつは格が違う。キレもスピードもパワーも。 チェインは一人考える。 クルーは昔から戦いのセンスはあったが、運動能力が低かった。 八妖精になると決まったときに、まず選ばれたものがやることは二つ。 名前の力の訓練と、『武器』の訓練。 二つ目は平たく言えば、剣の訓練、というものだった。 そこで、クルーは自ら気付いたのだ。 自分には体力はないけど、テクニックはある。 クルーが剣術が得意なのはただ昔から努力を積んできたから、という理由だけではない。 彼は剣との相性がすこぶる良いのだ。 ただ、それだけ。 +++ 「ティー、お迎えにあがりましたよ」 「そんなかっこつけなくていいから・・・私がしようとしてること、分かってるでしょ?」 クルーは襲ってきたマグマを切りながら答えた。 「えぇ、そのために来ましたから」 「なら援護お願いね」 ティーはそれだけ言うと、地面に手をつけて、力をこめた。 そして、地面はティーの手から徐々に青くなっていく。 その『青』は、地面を伝ってマグマにも伝わっていく。 そして、マグマは己の変化に気付くと、凍ったように固まってしまった。 ――否、凍ったのだ。 その一連の場面を見たアブソーは、チェインに尋ねた。 「何故、何故マグマたちは凍ってしまったんですか?」 チェインは剣を羽に戻すと、答えた。 「ティーの『色彩』の力で生んだ色には様々なものに影響を及ぼす効果もあるんだ」 ただ、それだけ。 一方、ティーに危ないから、と言われて おとなしく戦いのさなかからはずれたところにいたマニは、一人心の中で呟いた。 ――剣の扱いもまだまともにできないのに・・・本当に危ないのはあなたの方です。 空からアルファの雄たけびが聞こえた。

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