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<p>車の中に入ると、ルールがなにやら拳銃をいじくっていた。</p> <p>拳銃・・・</p> <p>黒光りするその姿をみて、脳が一気に活動を再開する。<br /> まず恐怖が、その後から強烈な吐き気が込み上げてきた。<br /> 思わず嘔吐する。<br /> 「あちゃー。 大丈夫かい翔矢くん?」<br /> 龍さんが心配そうに声をかけ、ハンカチを渡してきた。<br /> 俺はなんとか吐き気を押し殺.し、口元をそのハンカチでぬぐう。<br /> 「ええ、少し・・・よくなりました。」<br /> どうにか笑おうとするが口元がひきつる。 <br /> 「まあおちつくまで静かにしときや。 その間にこの仕事について説明させてもらうわ。」<br /> ニコニコと笑いながら龍さんはそう言った。</p> <p>「まず、わてらの仕事は怪物の掃除や。 君も見えてたやろ? 怪物?」<br /> 全てお見通しだとでもいうように、龍さんの怪しく光る。</p> <p>(怪物・・・ あの牛みたいなのか・・・)</p> <p>「たぶん・・・」<br /> 実際にこの目で見ていても、それが真実なのだと確信することができていないので、その声は弱々しいものになってしまった。<br /> 「自身もってえーよ。 君の見た牛さんが今回のターゲット、怪物さんやったんやから。 ちなみにわてらはあの象の怪物をベヒーモスて呼んどる。」<br /> にこやかに笑ってはいるが、龍さんの目は品定めするかのように不気味に光っている。<br /> 「ベヒーモス、ですか・・・?」<br /> 言われてみればゲームなどに登場するベヒーモスに似ていたかもしれない。<br /> 「そう。 まあ怪物はベヒーモス以外にもいっぱいおるんやけどな。 んで、そいつら怪物の正体なんやけど、なんと人間の【欲】からできてるんや。」<br /> ガオーと襲いかかるようなポーズをとりながら龍さんは続ける。<br /> 「たいていの人間はな、欠けているもんと望んでるもん、つまり欲はだいたい同じ量なんや。 欠けている分望んどるわけやな。 だけど欲のが欠けとるもんより多い欲深いヤツがたまにおってな、そうすると、はみ出た分の欲が怪物になって姿をあらわすんや。」     「・・・」<br /> あまりに話が非現実的過ぎていまいち実感できない。 たとえそれが自分自身の目でみたことだとしても、だ。<br /> それに、いくつか疑問点がある。<br /> 「姿をあらわすって言ってましたが、他の人たちにはあの怪物の姿は見えていないように思えたんですが?」<br /> 学校でそうするように、俺は手を挙げそう質問した。<br /> 「ああ、それも今から説明するわ。 さっき欲が多すぎる人間がいるって言ったやろ? そういう人がいるってことはその逆の人間もいるわけや。 欠けているものが大きすぎる人間も、な。」<br /> ここまで言えばわかるやろ? とでも言うように龍さんはウインクをした。<br /> 「つまり、その欠けている人たちにのみ怪物は見ることができ、さらにその欠けている人たちってのが俺らのことってことですか?」<br /> 少しひかえめに俺はそう言う。<br /> 「そう、そのとおりや。 翔矢くんもわてもなにかが欠けているんやね。 たとえば、親の愛情とか。」<br /> ほのめかすかのように、龍さんはそう笑う。</p> <p>(【欠けているもの】・・・)</p> <p>新たな疑問が浮かぶが、それは心の底にしまっておいた。<br /> その答えはきっと、自分で見つけるべきだろう。<br /> だがとりあえず、疑問はひとつ解決した。<br /> 今いち実感はできないが、実際に体験したことだし、筋の通った話だからとりあえずその説明を受け止めるしかないだろう。<br /> 「これまでの説明はわかりました。 ですが、まだいくつか疑問に思うことがうるんですが・・・」<br /> 「ああ、べつにかまわへんよ。 どんどんきいてみい。」<br /> 笑いながら龍さんはそう言う。<br /> 「それじゃあ、なぜその怪物たちを倒さないといけないんですか? それに、あのサラリーマンを殺.したときに、あの怪物も一緒に消えたのは何故ですか?」<br /> (サラリーマンを殺した・・・)<br /> さきほどの映像が脳内で再生される。<br /> 血を撒き散らしながら、路面へと打ちつけられる頭部。<br /> またあの吐き気が襲ってきたが、なんとかおさえる。<br /> 「あ~、ほな最初の質問の答えやけど。 簡単なことや、怪物たちは人間に被害を与えるからや。 もっと具体的にいうと、あいつらが敵意をもって攻撃したとき、それは病気や事故なんかのなんらかの形で現実にあらわれるんや。 そんなの危険やろ? だから倒さなあかん。」<br /> 笑いながら言っているが、最後の『倒す』という言葉には寒気のするような殺意が込められていた。</p> <p> 「そんで、2つ目の質問やけど、これも簡単なことや。 臭いものには蓋をしろ。っていうやろ? つまり元から断てっていうことや。 理不尽な事に怪物さんたちにはわてらから触れることはできないんや。 一方的にやられるだけ。 じゃあどうしたらええか? 簡単や、発信源を潰せばいい。」<br /> パンと、龍さんは握り拳を平手に打ちつける。<br /> 「そういう理由でわてらは国から殺人を許可されとる。 まあ殺さなくてもええんやけどな。 欲を満たしてあげりゃあいいんやから。 でもそれがなかなか難しゅうてな。」<br /> 残念というふうに龍さんは、手を顔の横にあげ、首を横に振った。<br /> 「あ、それとな、本体さんの見つけ方やけど、怪物の行動見てるとなんとなくわかるもんやから。 まあ個体差はあるけどな。」<br /> 思い出したかのように龍さんはそう付け加えた。<br /><br /> 流れていく景色を車窓から眺める。<br /> あんなにも望んでいた快晴の空が見えるのに、俺の心にはもやもやとした暗雲が立ち込めていた。</p>

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