武装神姫SSまとめ@wiki
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武装神姫SSまとめ@wiki
ja
2023-03-11T10:28:03+09:00
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キズナのキセキ・ACT0-8:理想の体現者
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&bold(){キズナのキセキ}
ACT0-8「理想の体現者」
◆
二階フロアへとつながる店内階段から上がってくる、細い人影。
花村は、片手をあげてほほえむ彼女の姿を認め、相好を崩した。
「こんにちは」
「おや……久住ちゃん、ひさしぶりだね」
「ええ、今回はちょっと長引いちゃって」
「遠征先は埼玉だっけ……どうだったの、遠征先は?」
「……イマイチでしたね」
微笑みながらも、辛辣な評価。
久住菜々子がここ「ポーラスター」に顔を出すのも三週間ぶりくらいか。
その間、彼女はまた武者修行と称して、他のゲームセンターを回っていた。
いまや彼女の二つ名も、『アイスドール』より『異邦人(エトランゼ)』の方が通りが良くなっている。
「最近は面白いバトルをする神姫がめっきり少なくなりました。噂の強い武装神姫を求めて大宮あたりまで行ったけれど……結局、勝つことだけを意識した連中ばっかり」
「それは仕方がないかもしれない。全国大会も盛り上がっていたからね。大会仕様のレギュレーションに合わせて、勝ち抜くことを考えると、どうしても似通ってしまうものだよ」
「それはそうですけど……」
菜々子は少し頬を膨らませた。いたくご不満な様子だ。
魅せる戦いか、勝ちを優先する戦いか。
彼女の疑問は、答えのでない問いである。
それこそ、前世紀の終わり頃、ビデオゲームで対戦格闘ゲームがブームになった頃から、幾多のゲームを経て問われ続け、未だに明確な答えは出ていない。
それは菜々子が、神姫マスター人生のすべてを通じても、答えが出ないかも知れない。
実際、ゲームのキャリアが菜々子の人生よりも長い祖母に、この疑問を投じたことがあったが、鼻で笑われた。そして、久住頼子の答えは、
「そんなの、楽しんだ方の勝ちなのよ」
それは答えになってないと菜々子は思うが、今考えると、頼子はすでに達観しているのではないか。
答えになっていない祖母の答えを思い出し、菜々子はそっとため息を付く。
「そういえばさ」
近くにいた『七星』のメンバーが、不意にこんなことを言った。
「最近、珍しい戦い方をする神姫がいるって、噂になってるけど、知ってる?」
「珍しい戦い方?」
「なんでも、インラインスケートみたいな脚部装備だけで戦うオリジナルタイプだって。俺も見たことはないけど、動きがすごいって噂だよ」
「動き、ねぇ……?」
聞いたことがない噂だった。
脚部パーツだけの装備というのが本当なら、ライトアーマークラスの装備より軽装だ。
それでフル装備の神姫よりもすごい動きができるというのは、ちょっと信じがたい。
「まあ、地上戦しかできないのは間違いないけど、『ハイスピード・バニー』って二つ名からして、かなり高速に動き回る神姫なんじゃないか?」
「ふうん……それで、どこにいる神姫なの?」
「T駅前の「ノーザンクロス」ってゲーセンだったかな」
「……すぐ近くじゃない!」
「ポーラスター」のあるF駅からは、電車で二駅しか離れていない。
すぐ近くで活動している神姫なのに、どうして『七星』の誰も噂を確認しに行こうとしないのか。その保守的な姿勢こそ、菜々子は批判しているのだ。
「あそこ、『三強』とかいう連中が幅利かせてて、雰囲気があんまり良くないんだよな」
「……だったら、わたしが行ってみる。『ハイスピード・バニー』がつまらない相手だったら、その『三強』ともどもぶっとばしてやるわ」
菜々子は不敵に笑う。
見たことのない相手に対する不安を闘志に変える術を、菜々子は放浪した二年ほどで身につけていた。
しかし、菜々子は同時にうんざりもしていた。
「全国大会常連」とか「エリア最強」とかいう肩書きの武装神姫とのバトルを求めて遠征し、実際何度も戦ったが、菜々子が記憶にとどめるようなバトルをしたのは二割に満たない。大会で勝とうとする神姫は、どうしても似通ってしまう。
菜々子が求める「魅せる戦い」は、「勝利を求める戦い」と対局にあることを、嫌と言うほど思い知らされていた。
そして、その二つを両立させようとする矛盾。「魅せる戦い」を求めながら、勝ち続けなければならないことの難しさ。
「魅せる戦い」は自分で戦い方を制限しているとも言える。単純に強い方法を使わず、あくまで自分の決めたポリシーからはずれた戦いはしない、ということなのだから。
菜々子の神姫、イーダ型のミスティは、魅せる戦いを旨としているが、勝利を優先する戦いもできる。
だからこそ、遠征先の強敵を相手にしても遅れは取らず、高い勝率を維持し続けられる。
しかし、「勝ちにいく戦い」は菜々子とミスティの本意ではない。
そこに生じる矛盾を、菜々子は嫌と言うほど感じていた。
だからこそ、面白い、珍しい戦いをする武装神姫とのバトルを求める。
そんな噂をたどっていった方が充実したバトルができる、というのも、遠征の経験から学んだことだ。
「でも、ライトアーマー程度なんでしょう? 秒殺しちゃうかもしれないわ」
「それで食い足りないなら、それこそ『三強』とやらもまとめて相手すればいいじゃない」
ミスティの不遜な言葉に、菜々子も自信満々で答えている。
花村は思う。
『エトランゼ』の実力は、もはや『七星』のメンバーを凌駕している。
桐島あおいとの再戦も近いのかもしれない。
だけど、桐島ちゃんに勝ったとして……久住ちゃん、君はどうする?
決戦の先、菜々子は何を目指すのか。大きな目的が果たされた後、強くなった彼女が何を望むのか。あるいは、大きな目的を失った彼女は、もう武装神姫をやめてしまうのではないか……。
花村は少し気がかりだった。
◆
翌日、菜々子はミスティを連れ、T駅で電車を降りた。
T駅はこの沿線で一番若者が多い街と言われている。近くに大学や予備校、学習塾もあるし、高校への通学バスも出ているから、自然と若者が集まるのだ。
もちろん、菜々子も何度かT駅で降りたことがある。
目指すゲームセンター「ノーザンクロス」ももちろん知っていた。
駅のバスロータリーから一本はずれた路地に入り、迷うことなく目的のゲームセンターにたどり着く。
肩に乗っているミスティと視線を合わせ、二人して頷く。そして、菜々子は敵地へと足を踏み入れた。
自動ドアをくぐれば、聞き慣れたゲームセンターの喧噪が彼女を出迎える。
一階の奥がこの店の武装神姫コーナーだった。
奥へと歩みを進める間に、バトルロンドの対戦を映す大型ディスプレイに目をやった。
「……この程度の対戦レベルの店に、面白い神姫なんているのかしら」
と口の中だけで呟く。
大きな画面上の対戦は、お世辞にもレベルが高いとは言えなかった。
その時、菜々子はふと視線を感じた。
武装神姫コーナーの奥の壁際に、二人の男が立っている。
真面目そうな青年と、ヤンキー風の大男。奇妙な取り合わせである。
その二人と視線が合う。
ちょうどいい。どうせ誰かに声をかけなければならないのだから、いっそこのまま彼らに協力してもらおう。
菜々子はその二人に向かって、まっすぐに歩を進める。
彼らの前に来て、
「こんにちは」
とびきりの営業スマイル。
これで九割がた、コミュニケーションは円滑に進む。菜々子が遠征で得た経験則である。
大男の方がこれ以上はないという嬉しそうな顔で応じた。
「こんにちは!」
「誰かお探しですか?」
菜々子は自分の営業スマイルを、斜めにすぱっと切られたような気がした。
真面目そうな青年は、表情一つ変えずに、言葉で切り込んできた。
大男の挨拶が終わるより早く切り出してきた、その妙なタイミングに、菜々子は少し驚いた顔を見せてしまう。
青年と視線が交わる。
ひどく真っ直ぐな視線だった。疑惑の色も、探る風もない。ただ真っ直ぐに菜々子を見ている。その視線で菜々子の本当の部分を見ようとしているかのようだ。だから、浮かべただけの笑顔を切られたような気がしたのだろうか。
菜々子は一瞬目を伏せる。
焦らなくてもいい。人を捜しにきたのは本当だ。用件を正直に切り出せばいい。
「ええ。……『ハイスピード・バニー』のティアっていうオリジナルの神姫をご存じですか? このゲーセンがホームグランドだって聞いたんですけど」
青年は眉根を寄せる。
この時気が付いたのだが、この青年は随分と端整な顔立ちをしていた。
「ハイスピード・バニー?」
「はい。なんでも地上戦専用の高機動タイプで、バニーガールの姿をしているとか。とても 特徴的な戦い方をすると噂に聞いています」
「……それで名前がティアなら、俺の神姫かもしれないけれど……。」
「本当ですか!?」
どうやら大当たりを引いたらしい。
この喜びは営業スマイルではなく、心からのものだった。
これが菜々子と遠野貴樹の出会いであった。
◆
ミスティとティアの初戦は、ミスティの敗北で終わった。
試合後、菜々子は久々の満足感を覚えていた。
ティアは並の神姫ではなかった。リアルモードを出さなかったとは言え、あの軽量装備でミスティを翻弄した神姫は今までいなかった。
つまり、装備ではなく、マスターの戦略や戦術、神姫自身の技で、ミスティと同レベルの強さを持っているという事である。
そしてなにより、ティアの戦いぶりは美しかった。
菜々子とミスティは、こんな神姫と戦いたかったのだ。それがまさか、遠征先ではなく、地元にほど近いゲームセンターにいるなんて。
この神姫のマスターともっと話をしてみたい。
バトル終了後、すぐに彼に声をかけ、二人してゲームセンターを抜け出した。
こんなことは、遠征先でもしたことはない。
思えば、もうこの時には、遠野貴樹というこの神姫マスターに特別な感情を抱いていたのだろう。
駅前のドーナツ屋での時間は、あっという間に過ぎていった。
話すのはもっぱら菜々子だったが、遠野はずっと彼女の言葉に耳を傾けていた。
その会話の中、菜々子に分かったことがある。
遠野は勝敗に固執していない。納得のいくバトルであれば、負けてもかまわないとさえ考えている。
彼の対戦のモチベーションは、独特の戦闘スタイルを追求し、彼の神姫・ティアの能力を最大限引き出すことにある。
「俺は、『強い』と言われるよりも……そう、『上手い』と言われるようなプレイヤーになりたいんだろうな」
この言葉に、遠野のバトルへの姿勢がすべて現れている気がする。
菜々子は内心、驚いていた。
バトルの内容にこそ価値を見いだす姿勢。そのためには、バトルの勝敗にさえこだわらない。
かつての桐島あおいが目指し、菜々子が受け継いだ理想の、ある意味極端な形。
遠野貴樹という神姫マスターは、彼女たちの理想の一端を体現していたのだ。
「しばらくこっちのゲーセンに通うわよ」
遠野と別れた後、菜々子はミスティにそう宣言した。
菜々子は遠野に惹かれていた。そして、理想を体現するマスターの戦いぶりをもっと見てみたいとも思っていた。
◆
しかし、理想の体現者への敬愛の念は、ある日唐突に裏切られる。
菜々子と同様に遠野と親しい大城大介が、ある日難しい顔をして、丸めた雑誌を持ったまま立ち尽くしていたのだ。
「どうしたの、大城くん。そんな顔して」
「菜々子ちゃん……」
どうにもばつの悪そうな顔をした大城。
いつも陽気な男だけに、こういうはっきりしない表情は珍しい。
菜々子が不思議そうに彼の顔を見上げていると、不意に背後から笑い声があがった。男たちの、蔑んだ調子の声。
振り返ると、そこには三強の一人が、取り巻きのメンバーと一緒に雑誌を広げている。
それが、今大城が持っている雑誌と同じものだとすぐに思い当たった。
「大城くん、その雑誌、何か書いてあるの?」
「あ、いや……菜々子ちゃんは見ない方がいいんじゃ……」
こういう時、大城は嘘が言えない性格である。
明らかに、菜々子が見て都合の悪いことが、その雑誌に書いてあるのだ。
「見せて」
「いや、でも、なぁ……」
しばらく迷っていた大城だが、うらまないでくれよ、と変な一言とともに雑誌を渡してくれた。
それは菜々子が今まで手にしたことも、手に取ろうとも思ったこともない、ゴシップ誌のたぐいだった。
ペラペラとページをめくり、雑誌のちょうど中央、袋とじになっているページで手が止まった。封は切られていた。記事のトビラに「神姫」の文字が踊っているのが異様だったことだけ覚えている。
意を決してページをめくった。
次の瞬間、頭をぶん殴られたような感覚、というのを思い知った。
「なに、これ……」
そこには、理想の体現者の神姫……ティアの痴態があった。なぶられ、犯され、悶える神姫の姿を、菜々子は初めて目にした。
そういうことがある、という事実は、知識で知っていても、目の前で画像として見せられると、ひどく生々しい。
「ティアは……風俗の神姫だったんだ……」
「ふうぞく、の……」
神姫風俗、というものがあることは、裏バトルに関わっていれば嫌でも耳に入ってくる。
バトルで残虐な方法で神姫を破壊するのにも吐き気がするが、性行為を神姫に働くことは、菜々子の理解の範疇を越えていた。
ティアは、人間の男の欲望を処理する神姫だった。
それじゃあ、遠野はいったいどうやって、ティアを手に入れたのだろう?
風俗店に通い、気に入った神姫を身請けした。それがティアだった……と考えるのが自然だろう。
ということは、遠野も神姫風俗の常連客だったのではないか?
なんと汚らわしい!
そこまで考えて、菜々子は遠野に「裏切られた」と思った。
理想の神姫マスターだと思っていたのに。
まさか、神姫マスターとして最低最悪の行為に手を染めていたなんて。
菜々子は、怒りと悲しみと失望と疑念が一度に押し寄せてきて、混乱し、頭がくらくらする。だから、顔に出てきたのは呆とした無表情だった。
肩の上の小さなパートナーが、なぜかわずかに眉をひそめただけで、いっそ冷静な様子が憎らしい。
菜々子は無言で、大城に雑誌を押しつけると、ふらふらとした足取りで店を出た。
その後、どこでどうしたのか、菜々子には記憶がない。
気がついたら、自宅のベッドでじたばたしていた、というわけだった。
◆
特別に思っていた男性の汚点を否定して見せたのは、彼女自身の相棒であるミスティだった。
ミスティは確信していた。遠野貴樹が神姫風俗に手を出すような人物ではないと。ティアと遠野の絆は本物だと。
なかば自分の神姫の言葉に引きずられ、菜々子は再び遠野を信じてみることにした。
ホビーショップ・エルゴに連れて行ったのは、菜々子が必死になって考えたアイデアだった。
いつもと違う服装で遠野を待ちかまえたのも、策と言うには幼稚だったのではないか、と菜々子は今思い出しても照れくさい。
しかし、結果はオーライだった。
真っ直ぐに向き合えば、遠野はすべてを話してくれた。
ティアを手に入れた経緯も、彼女に対する想いも。裏切られたと思っていた自分が恥ずかしくなるほどに、彼は真っ直ぐに、純粋に、ティアを愛していた。
それが分かったから、ちょっとティアに嫉妬した。
□
「ずっと……出会ったときからずっと、あなたは理想の神姫マスターだった。その後も、本当にいろんなことがあったけれど、全部覆して見せた。自分の信念を持って、真っ正面から立ち向かった」
「それは……それが出来たのは、君や大城や……みんなのおかげだろ」
俺が言うと、菜々子さんは頭を振った。
「あなたはティアを助けて、風俗の神姫をたくさん救って、雪華やランティスみたいな実力者とも渡り合って……少しくらい、偉そうになってもいいものなのに、全然自分のスタンスを変えない。ただ、理想のバトルを目指す……その姿こそ、わたしの理想を体現したマスターだわ」
「そんなのは、買いかぶりだよ」
今度は俺が頭を振る。
本当にいろいろなことがあった。
セカンドリーグ・チャンピオンの雪華との対戦、バトロン・ダイジェストに記事が載り、周囲の見る目が変わった。
宿敵・井山との決戦。事件の終結。
チームを組み、仲間ができた。八重樫さんと安藤が持ち込んだトラブルも解決したっけ。
塔の騎士・ランティスの挑戦。
それから……菜々子さんの告白を賭けた対戦。
武装神姫を始めてから、まだ一年も経っていない。その間、息つく間もなく、怒濤のような日々が過ぎていった。
そして、俺たちはまだその激流のただ中にいる。
そのことを後悔しているわけではない。しているはずもない。
こうして菜々子さんと二人で話している今は、確実に過去の出来事からつながっているのだから。
菜々子さんを見る。
月明かりと小さな街灯の光を受けた彼女は、本当に美しい。
無性に、彼女がいつも見せてくれる、あの反則な笑顔を見たいと思った。
なぜ俺はこんな時にかけられるような、気の利いた言葉の一つも持ち合わせてはいないのだろう。
「……あした……」
「うん」
菜々子さんの微かな呟きに、俺も小さく応じる。
「明日……ついにお姉さまと戦うのよね」
「ああ」
「……勝てるかな」
「勝てる。それだけの準備をしてきた」
俺は嘘つきだ。
確かに、『狂乱の聖女』に勝つための準備は全てやった。だが、勝てるかどうかまでは、わからない。
だが、今この時、これ以外に彼女にかける言葉があるだろうか?
菜々子さんはゆっくりと俺の方を向いた。
吸い込まれそうな瞳の色。
「ほんとうに?」
「君が勝つ。それ以外は想定してない」
俺の視線は菜々子さんの瞳に吸い込まれた。
菜々子さんの引力に導かれるままに。
俺と菜々子さんの唇が重なった。
■
結局、わたしとミスティは、何も言葉を交わすことはできなかった。
わたしはミスティさんの想いを伝えたかったけれど、また激しい口調で拒否されるのではないかと思うと、声に出せなかった。
決戦を目前にして、ミスティの気持ちを乱したくなかった……と思っているのは、わたしの体のいい言い訳に過ぎない。
帰り道、マスターの胸ポケットの中で、考える。
無理矢理にでも伝えるべきだっただろうか。
たとえ拒否されたとしても、話してしまえばよかったのではないか。
でも、それじゃあ、本当の気持ちが伝わらないような気がした。
虎実さんは「想いは必ず伝わる」と言ってくれたけれど。
言葉がなくても、想いは伝わるだろうか。
わたしは一晩後悔しながら過ごし、いつの間にか決戦の朝を迎えていた。
もう後悔したところで遅いのだけれど。
もしわたしが、ミスティさんの言葉を伝えていれば、今日の決戦はまた違った結果になるのだろうか……。
◆
翌朝。
夜が明けたばかりの朝の空気は、肌にひんやりと感じられる。
街灯も消え、日が射し始めた。
花咲川公園は、その名の通り、東京湾に注ぐ花咲川の川沿いに作られた公園だ。この時期、桜並木が美しいことで有名である。
川沿いの道を迷うことなく歩を進める。
指定された場所……花咲川公園の表の入り口はもうすぐである。
朝六時ちょうどにたどり着くと、そこには小さな人影がひとつあるきりだった。
髪型はショートカット。ブラウスの上にハーフコート、細いジーパンを履いた、ボーイッシュな出で立ち。
銀色の無骨なアタッシュケースを手に提げている。
美しい顔立ちには、凛とした決意に一抹の不安を乗せている。
「……菜々子」
きれいになったわね。
桐島あおいは口の中だけでそう言った。
久住菜々子は微笑んで、あおいを迎えた。あおいもまた、微笑みで応える。
二人は無言で頷き合うと、並んで公園に足を踏み入れた。
満開の桜。
数え切れないほどの花が、今を盛りと咲き乱れ、並木道を淡い 桃色に染めている。
無数の花びらが音もなく舞い、並木道の先を霞ませる。
目指す場所は桜色に霞んだ道の先にある。
二人は並んで歩く。
その姿が霞みそうなほどの、桜の乱舞。
息を飲むほどに美しい。
その光景の中で、二人が手にしているもの……無骨なアタッシュケースだけが異彩を放っている。
桜吹雪の中、二人は静かに歩いてゆく。
「……こうして、またあなたと話せるとは思っていなかったわ」
「わたしもです、お姉さま……お話したいことが、たくさんありました」
「そう?」
「ええ」
「どんなことを?」
「たとえば……」
菜々子は少しはにかんで、そして言った。
「たとえば、そう、恋をしたこととか」
本当は、ずっとこんな話がしていたい。
いや、そんな日常を取り戻すため、菜々子はこれから戦うのだ。
二人の向かう先、桜吹雪の先にあるのは……決闘の地だった。
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2023-03-11T10:28:03+09:00
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キズナのキセキ・エピローグ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2749.html
&bold(){キズナのキセキ}
~ エピローグ ~
□
俺は今日も、ティアを連れて、ゲームセンター「ノーザンクロス」に来ている。
四月を半ばを過ぎた土曜日の午前中。
チームメイトはまだ来ていない。
高校生のメンバーは午前授業の日だし、大城はランキングバトル目当てだから、昼過ぎにならないと来ない。
新年度が始まって間もない頃だ。常連客もまばらで、ゲーセンの中はいつになく平穏だった。
菜々子さんと桐島あおいがバトルした日から、二週間が経つ。
菜々子さんは、いまだに顔を見せていない。
体調が悪いわけではないようだ。彼女の様子は、頼子さんからのメールで知っている。新学期が始まり、忙しくしているのは間違いない。
しかし、以前は忙しくても無理矢理時間を作ってまで顔を見せた彼女だ。あの日以来、ゲームセンターに来ない彼女を心配して、八重樫さんたち高校生メンバーが先日、久住邸を訪ねたらしい。
頼子さんが玄関先に出て言うには、
「もう少し時間がほしい」
とのことだった。
今はまだ心の整理がつかないということだ。
「……早く戻ってきてくれればいいのに」
八重樫さんたちは少し寂しそうにそう言った。
俺も大城も、菜々子さんが帰ってくるのを待っている。
だが、彼女が帰ってこられない原因の一端は、間違いなく俺にあった。
あの日、バトル終了後に警察が踏み込んできた。
その手引きをしたのは俺だった。
警察には離れたところで待機してもらい、バトルが終わってから踏み込む手はずになっていた。
バトルの勝敗に関わらず、『狂乱の聖女』は捕らえられる予定だった。
そこまでのお膳立てをする代わりに、現場でのリアルバトルと多少の無茶は目をつぶってもらえるよう、警視庁の地走刑事とは話を付けていた。
結果、任意同行ではあったが、桐島あおいは警察に連れて行かれた。
すべてが終わった後、そうする必要があったことは説明したが、菜々子さんにしてみれば、俺の裏切りに見えても仕方がない。
俺は言い訳しなかった。菜々子さんの落胆は痛いほど分かったが、慰めの言葉をかけることはできなかった。このときほど、自分の口下手を呪ったことはない。
その日以来、俺は時間を見つけては、できるだけゲームセンターに入り浸るようにしていた。
日々の状況をメールで菜々子さんに知らせる。以前、彼女が俺に、そうしてくれたように。
たまに短い返信が返って来ると、ほっとする。彼女との絆が断たれていないことを実感するのだ。
そして俺は待ち続ける。
彼女が来るのを待っている。
□
「あっ……マスター……あの方は……」
先に気がついたのは、ティアだった。
俺は顔を上げる。今入ってきた客の姿を確認する。
一瞬、本人かと見間違えそうになる。だが、ティアの言うとおり、俺の待ち人だった。
その客は女性である。
軽やかな春物のワンピースとカーディガンを身まとい、清潔感のある大人の女性、といった佇まい。
帽子をかぶっていないせいもあってか、過去に見た印象をまるで違って見えた。
その女性が俺の視線に気づいたように、顔を上げた。
彼女は迷わずに俺の前までやって来る。
「遠野くん……ちょっと、いいかしら?」
涼やかなその声は、一度ならず聞いている。
俺は応える。
「やっと来てくれましたね……予想より遅くて心配しましたよ」
振り向かずにはいられないほどの美貌が目の前にある。少し緊張しながら、名前を呼んだ。
「……桐島さん」
俺の待ち人……桐島あおいは少し困ったような微笑みを浮かべ、肩をすくめた。
□
やかましいゲームセンターで立ち話も何なので、俺は行きつけのミスタードーナッツに桐島あおいさんを案内することにした。
甘いものは大丈夫かと訊くと、大好き、と笑顔と共に返事が来た。
マグダレーナと一緒だった時とは明らかに雰囲気が違う。不敵な笑みを湛えた、超然とした雰囲気はなく、人好きのする明るい雰囲気に入れ替わっている。こちらが桐島あおい本来の姿なのだろう。
店に着いて、ドーナツを取って席に座る。
店の奥、窓に近い席だ。俺が入り口が見える方に腰掛けると、桐島さんが向かいに座った。
「あの子が……マグダレーナがかばってくれたみたい」
桐島さんがそう話し始めた。
彼女が警察にいたのはバトルの日の夜までで、その後二回ほど警察に出頭して終わりになったという。
厳重注意されただけで、何のお咎めもなかった。
それというのも、マグダレーナのメモリから、桐島あおいに関する一切の情報が出てこなかったからだ。最凶神姫から直接的な手がかりが出てこなかったため、証拠不十分として注意だけで終わったらしい。
もっとも、マグダレーナのメモリから桐島さんの記録が出てきたとしても、大きな罪には問われないだろうとは予想していた。
裏バトルに出入りして、賭博に関わっていたことは事実としても、証人の方も裏バトルの運営者や、裏バトルに参加するマスターや観客だから、桐島さんの証言をすれば、やぶへびになりかねない。
また、警察が今回の件でターゲットにしていたのは桐島さんではなく、マグダレーナだ。彼女はどちらかと言えば、重要参考人だった。
だから、警察が掴んでいる以上の罪には問われないと思っていた。
それにしても、マグダレーナが警察の調査の前に、桐島さんの記録を消したというのは、どのような心境の変化だったのだろうか。
「マグダレーナも……桐島さんとの絆を自覚した、ということでしょうか?」
テーブルに座っているティアが言う。
俺と桐島さんは小さく頭を振った。今となっては想像の域を出ない。真意を知っているのはマグダレーナだけだ。
だが俺も、ティアと同じように……マグダレーナが最後には、人間との絆を信じるに至ったと、思いたい。
「それに、世の中はそれどころじゃないものね」
桐島さんが苦笑しながら言うのに、俺は真顔で頷く。
そう、今、世間はそれどころではない。
マグダレーナの記録から、亀丸重工によるMMSの軍事研究利用が明るみになったのだ。
日本有数の大手企業によるMMS国際憲章違反。丸亀重工には、先日、強制捜査が入る事態にまで発展していた。
この事件は連日報道されている。警察は蜂の巣をつついたような騒ぎになっているはずだ。
先日、バトルの現場を押さえた警察の真の目的がこれである。
亀丸重工よりも先にマグダレーナを確保し、亀丸のMMS不正利用を暴き出す。それは見事に成功した。
また、桐島さんとマグダレーナが救い出して保管していた神姫たちも、彼女たちのアジトだった廃倉庫から発見された。
百体近い神姫の保護は前代未聞だ。しかも、いずれも人間のマスターによって虐げられてきた神姫ばかりである。
警察のMMS犯罪担当は、普段でも全然手が足りていない。そこへこの大規模事件に大量の神姫の保護である。裏バトルの参加容疑者一人にかまってはいられない状況だった。
今の状況を改めて整理してみて、思う。
マグダレーナは、彼女が望んだ方法ではなかったにせよ、結局は彼女自身の復讐を果たしたのではないか。
マグダレーナ自身が犠牲になることをきっかけに、恨みのあった企業にダメージを与え、研究を停止させて仲間を救い、さらに人間たちに虐げられていた神姫たちを数多く救った。
それは紛れもない事実なのだ。
「その後はどうしていたんです?」
「祖父母のところに戻って、いろいろ話したり。祖父母はずっと放任だったのにね……警察に世話になって、病院で検査して……なんてことしてたら、怒られるやら、心配されるやら、泣かれるやら……不思議よね」
桐島さんが、肩をすくめて苦笑する。
それが桐島さんの家族の絆だということなのだろう。血のつながりはそう簡単に断てるものではないのだ。俺はふと、頼子さんと、自分の父親のことを思い浮かべていた。
「それから、心療内科に検査に通ったわ。長い間、マグダレーナの催眠術を受けていたから、念のために」
「結果はどうでした?」
「まあ、深刻な影響は出てないみたい。でも……結局のところ、どこまでが自分の意志で、どこまでがマグダレーナの操作だったのか……いまとなっては、わたしにも分からないの」
桐島さんはうつむき、苦渋の表情を浮かべながら、続けた。
「菜々子には悪いことをしたわ。後悔している。あの子から、ミスティを奪うなんて……どうかしていたと、今になって思う。
でも、あのときの気持ちは……はっきりしないの。マグダレーナの意志なのか、自ら望んだことなのか……今となっては分からない。
もしかしたら、もう後戻りできない自分を止めてもらいたかったのかも知れない」
後戻りできないように未練となる妹分と戦ったと思っていたが、実際には逆だったのか。
二度の敗北を喫してもなお、菜々子さんは立ち上がり、そして勝利した。
かつて桐島さんが語った「理想の神姫マスター」となった菜々子さんが、かつて菜々子さんが「アイスドール」と呼ばれた時の思想を極めた桐島さんを倒した……そして桐島さんは、心のどこかでそうなることを望んでいた……なんとも皮肉な話だ。
そう言えば、桐島さんの暴走を止めたいと願う人が、もう一人いたことを思い出す。
「……姐さんには会いましたか?」
「姐さん……? だれ?」
「M市のゲームセンターで働いてる、バイトの姐さんですよ」
「ああ……」
「あの人も心配していましたよ、桐島さんのことを。一度会って、無事を伝えた方がいいと思います」
「っていうか、あんなとこまで行って、調べたの?」
ちょっと睨みながら、それでも口元には笑みを浮かべて、桐島さんが小さく抗議する。
その表情がどこか菜々子さんを彷彿とさせて、なるほど姉妹なのだなと、妙なところで納得した。
俺はその抗議をどこ吹く風と受け流しながら、コーヒーのカップを口に運ぶ。
よくやるわね、と桐島さんは肩をすくめ、一段落したら姐さんに会いに行くと約束してくれた。
「それで……これから、どうするんです?」
俺の問いに、桐島さんは自嘲するように笑った。
「……もう武装神姫はやめるわ。あの子にも、もう会わない。それがわたしの、せめてもの償いでしょうから……ね。
今日はそれを言いに来たのよ。あの子に……菜々子に会えなければ、もうそれっきりのつもりで……」
「……」
「だから、遠野くん、菜々子に伝えてくれる? もうわたしのことは忘れて、あの子の望む道を行きなさいって……」
「駄目です」
俺は彼女の言葉を即座に否定した。
少し目を見開いて驚いた桐島さんに、俺は真顔で続ける。
「菜々子さんに償うというなら、あなたは武装神姫を続けなくては駄目だ。それが菜々子さんの望む道だ。あなたがここでやめてしまえば、彼女の今までの苦労がすべて無駄になってしまう。それは俺が許さない」
「でも……」
「それに、ルミナスもマグダレーナも……あなたの神姫たちは決してそんなことを望んではいない。新たな神姫を手にして、絆を育む。それこそが、彼女たちが本当に望んだことでしょう」
だからこそ、マグダレーナは自らの記録から桐島さんを抹消し、彼女を守ろうとしたのだ。俺はそう信じている。
桐島さんは、深いため息を一つついた。
「厳しいわね、遠野くんは……そして優しい」
「優しくはないです。……俺の言うことなんて、誰かを追いつめてばかりだ」
俺がもっとうまく話ができたなら、もっとうまく立ち回ることができたなら、誰も傷つけずに解決できたかも知れない。いつも、そう思う。
「それに、俺は菜々子さんのためだけに動いています。彼女のためなら、厳しいことなんていくらでも言いますよ」
「菜々子が好きなのね?」
「……一応、恋人なので。
それに……菜々子さんはかけがえのない恩人です。
俺が絶望しているときに、手を差し伸べてくれたのは、彼女だった。
あなたが、絶望の淵にいた菜々子さんに、手を差し伸べたように」
「……」
「彼女の気持ちはよく分かる……だから、こんなメールも送ります」
俺は桐島さんに携帯端末の画面を向けた。
彼女の眼が大きく見開かれ、顔色を失った。
「このメール……いつの間に打ったの?」
「この店に来る道すがら」
ドーナツ屋に案内しながら、桐島さんに背を向けていた俺は、自分の身体をブラインドにして、素早くメールを打ち、送信していた。
タイトルだけの短いメール。
『いますぐドーナツやにきて』
相手先にはそれだけで用件が伝わると確信している。
桐島さんが驚きのあまり腰を浮かせた。
俺は彼女の肩越し、今し方入ってきた客に視線を向けながら、言う。
「逃げられませんよ?」
息を切らして入ってきたその客は女性。
ショートカットの髪。春物のブラウスに、細いパンツという出で立ち。肩に神姫を乗せている。
どうやらメールを見て、急いで来てくれたらしい。ベストタイミングだ。
俺と視線が合う。
すると、まっすぐにこちらにやってきた。
「貴樹くん……!」
確信は現実になった。
俺は彼女に小さく手を挙げたのみ。もはや何を語ることもない。俺の役目はここで終わりだ。
メールの宛先……久住菜々子さんは、桐島さんの真後ろまで迫っている。
菜々子さんが、ぴたりと歩みを止めた。
「……あおい……おねえさま……?」
おそるおそるその名を口にする。何ともいえない表情が、彼女の複雑な心の内を物語っている。
桐島さんも、負けず劣らず複雑な表情をしていた。驚き、苦渋、そして慈愛。いくつもの感情が彼女の表情を行き過ぎる。
だがそれでも、大きな吐息一つで心を整えたようだ。視線をあげた桐島さんの瞳には、覚悟の色が見て取れた。肩をすくめて薄く笑う。
そして、俺にしか聞こえない声で、言った。
「ありがとう、遠野くん」
俺は小さく頭を横に振った。
桐島さんは立ち上がり、振り向く。
「菜々子……」
菜々子さんは動けずにいる。
一瞬の沈黙。
二人の間に万感の思いがよぎる。
今にも泣き出しそうな、菜々子さんの顔。
ふと、桐島さんが微笑んだ。作り物でない、本当の笑みは、とんでもなく魅力的だった。
そして、今一度、愛しい妹分の名を呼ぶ。
「菜々子……!」
「……お姉さまっ!!」
菜々子さんが、桐島さんの腕の中に飛び込む。しっかり抱き合う。
ようやく菜々子さんは分かったのだ。出会った頃と同じ、本当の桐島あおいが戻ってきたことに。
桐島さんは優しく微笑んでいる。
菜々子さんの閉じた瞳の端に、光るものがにじんでいる。
二人の間に言葉はない。
だが、離れていた二つの螺旋は、ようやくここに同じ方を向いて重なった。
菜々子さんの肩にいた神姫が、こちらのテーブルの上に飛び降りてきた。
「ティア!」
「ミスティ……!」
二人の神姫も、抱き合って再会を喜ぶ。二人の間にあったわだかまりも、もはや遠い。
ミスティは自分のマスターを見上げ、眩しい笑顔になった。ティアも明るく笑っている。
店の中が少しどよめいている。
店員も他の客も、何事かとこちらを見ている。
菜々子さんと桐島さんは抱き合ったままである。
だが、俺は彼女たちに声をかけることはしなかった。
周りの目など気にする必要もない。
なぜなら、二人は様々な困難を乗り越え、二年もの時を越えて、ようやく真の再会を果たしたのだから。
しかし、すべての事情を知る俺が、その様子をじろじろと見ているのは、あまりに無粋というものだろう。
だから俺は、そっと、目を閉じた。
(キズナのキセキ・おわり)
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2023-03-11T10:23:58+09:00
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キズナのキセキ・ACT1-24:武士道
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2679.html
&bold(){キズナのキセキ}
ACT1-24「武士道」
□
春になって、日が昇るのが早くなったことは、今朝の俺にはありがたかった。
早朝の花咲川公園で、俺と大城は準備をしていた。
桜並木に囲まれた広場。ここが決闘の舞台になる。
俺は二人の対決を見届けなければならない。この決闘の立会人に近い立場だった。
なにしろリアルバトルの立ち会いだから、それなりの準備も必要だ。C港での大ケガみたいなことは、二度とごめんだった。
「……こんなものかな」
「……遠野よぉ……やっぱ考えなおさねぇか? 俺はどうしても納得いかねぇ」
大城はこの期に及んで、ぶつぶつとぼやいていた。俺はあえて堅い口調で答える。
「今さら何言ってるんだ。今回の策は、どうしても必要だし、お前に嫌な思いはさせないって何度も言ってるだろ」
「けどよぉ……」
「俺が信じられないか、大城」
俺は大城を見た。
大城が気に病んでいることは、痛いほどに分かる。だが、それもしばらく後に分かることである。
決戦はもう目前なのだから。
視線をはずしたのは大城の方だった。
「……わかった。俺も覚悟を決めらぁ」
「よし」
俺は頷く。
俺の策にずっと協力してくれていた大城だからこそ、菜々子さんにも内緒にしているこの策を任せられるのだ。
もうそろそろ、二人が来る。
その時だ。
俺たちの後ろで、何かが動く気配があった。
「誰だ」
俺は緊張する。
このバトルを知るのは身内のごく一部だが、『狂乱の聖女』が絡んでいるだけに、用心にしすぎるということはない。
大城もまた身構え、気配の方に鋭い視線を投げている。リアルに修羅場をくぐり抜けているだけあって、その姿はやけに様になっていた。
茂みががさがさと動く。
出てきた顔は、よく見知ったものだった。
「安藤……それに君らもか」
安藤の後ろに、ライトアーマー・シスターズの四人が揃っていた。
安藤が少し不機嫌そうに口を開く。
「俺たちに声をかけないのは、ちょっとひどくないですか?」
「いや、今回はゲーセンでの対戦とは訳が違う。危険が伴うんだ。君らを危険にさらすわけにはいかない」
「そんなこと分かってます。でも、わたしたちには、菜々子さんのバトルを見届ける権利があるはずです」
八重樫さんもいつになく強い口調だった。
他の三人も頷いた。
蓼科さんが、俺を真っ直ぐに見て、言った。
「だって、わたしたち、チームメイトじゃないですか」
困ったものだ。
あれほどに不信を抱いていた菜々子さんのバトルを、危険を承知で見に来るとは、変われば変わったものである。
いや、彼女たち自身も決着をつけたいのかも知れない。揺れ動いていた心の決着を。
俺は小さくため息をついた。
「仕方がないな。俺の後ろの茂みに隠れて、静かに見ているんだ。ケガをしても知らないぞ」
「はい!」
嬉しそうな五人の声が重なった。
喜ぶなというのに。
これから始まる戦いは、バーチャルじゃない。
神姫をぶつけ合い、壊し合う、リアルバトルなのだ。
そして、この戦いに栄光はない。どんなバトルをしたとしても、勝利を得たとしても、人々の話題に上ることもない。
ただ、これから戦う二人の、二人のためだけのバトルなのだ。
「来た……」
大城の囁きに、みんなが息を飲む。
大城を含めた六人は、俺の後ろで身を縮めながら、植え込みの隙間から広場を見ている。
俺は桜の木の近く、植え込みの一つから立ち上がり、二人にその姿をさらしていた。
菜々子さんが立ち止まると、桐島あおいを振り返る。
桐島あおいが、一瞬俺を見て、そして一歩進み出た。彼女はそれで悟ったのだ。ここが決闘の舞台であることを。
彼女もゆっくりと歩を進め、距離を取ったところで振り向いた。
俺の位置からは、向かい合う二人が見え、それぞれ同じ距離にいる。まるで試合の審判のようだ。
一拍の沈黙の後、菜々子さんが宣言した。
「あなたを倒します、お姉さま。今ならはっきり言える。今のあなたは間違っている、と」
菜々子さんは、静かに宣言する。
すでに瞳は神姫マスターのそれだ。彼女からは微塵の油断も感じられない。
「……そうだとして、あなたにわたしが倒せるの?」
「倒します」
「……すでに二度負けていても、まだ倒せると思うの」
「……ある人が教えてくれました。わたしはもう『アイスドール』 と呼ばれていた頃のわたしではありません。
今のわたしは『エトランゼ』。
その名にかけて……あなたを倒す」
菜々子さんの揺るぎない口調に、桐島あおいもまた、瞳の色を強くする。
「わたしは、今のわたしが間違っているとは思わない。かつて、 あなたに教えたことこそが間違っていたと確信している」
「あおいお姉さま……」
「わたしはあなたを倒すわ、菜々子。そして、今のわたしが正しいことを証明しましょう」
「……ならば……勝負です、お姉さま!」
公園の緊張が爆発的に高まった。
空気の流れさえ止まりそうな緊張の中、二人は同時に動き出す。
桐島あおいは、叫ぶ。
「マグダレーナ!」
アタッシュケースが開き、呼びかけに応えた神姫が勢いよく飛び出してくる。
『狂乱の聖女』マグダレーナ。
漆黒のシスター型は、黒い閃光と化して一直線に突き進む。
菜々子さんも、アタッシュケースの持ち手に付いた開閉スイッチに指をかける。
「ミスティ、リアルモード起動。入力コード「ETRANGER」、タイプ……ブシドーーーーッ!!」
スイッチが押し込まれ、銀色のケースが直角に開く。
そこにいたのはグリーンの装備をまとう神姫……『異邦人(エトランゼ)』のミスティ。
「了解!!」
刹那、ミスティが緑の閃光となって飛び出す。
真向かいで飛び出してきた黒き閃光と、同一線上。
二体の神姫は、広場の中央へと突進、邂逅する。
そして。
次の瞬間、その場にいたすべての人間、すべての神姫が驚愕した。
ただ一人……俺を除いて。
◆
当事者であるミスティ自身が驚きを隠せない。
すべてを賭けた決戦、その初撃。
それがこんなにもあっさりと受け止められてしまうとは。
いや、手にした剣、エアロ・ヴァジュラの袈裟斬りが、この最凶神姫相手にそう簡単に決まるとは思っていない。
あらゆる攻撃が当たらない。それがマグダレーナの強さではなかったか。
初代も、以前の自分も、この神姫に一撃すら与えられずに敗れ去っている。
にもかかわらず、今、奴はこの一撃を燭台状の槍の柄で受け止め、鍔迫り合いをしていた。
交差した剣と槍の間、目の前に仇敵の顔がある。
マグダレーナこそは、この場にいる誰よりも驚愕していた。
それを知って、ミスティはむしろ落ち着いた。不敵な笑みを口元に浮かべ、口走る。
「どうしたの? 『狂乱の聖女』ともあろう神姫が、余裕ないじゃない」
その言葉に、マグダレーナははっとして、ようやく自分を取り戻した。
「……図に乗るな!」
しわがれた声の一喝を合図に、お互い一挙動で得物を引く。
二人の神姫は大きく後退し、身構える。
そこでようやく、マグダレーナはミスティの全身像を確認した。
「……なんだ、その装備は」
「いいでしょう? タカキのコーディネートよ」
武装のコンセプト自体は、イーダのミスティの武装から大きくはずれてはいない。
しかし、よく見れば、同じ部分の方が少ないことがわかる。
マウントされた二門の「アサルト・カービン」、手にした「エアロ・ヴァジュラ」、ホイールはオミットされているが、副腕の肩部と変形の要になる背面装備は、イーダ型を引き継いでいる。
しかし、副腕はストラーフMK.2のものだし、それに装着された自動車のカウル状のアーマーは見たことがないものだ。
脚部装備はストラーフのごとく大型だが、オリジナルのものと知れた。そして、足首の横に左右一つずつ、ホイールが装備されていた。
ミスティの新装備が、マグダレーナの予測を狂わせていたのか。
否、その程度の誤差を埋められないマグダレーナではない。
では何だ。何が予測を狂わせている?
マグダレーナは、疑念を浮かべながらも、次の戦闘機動へと移行する。
ミスティもまた動く。
距離を取った二人は、銃器を構えた。ミスティは背中から突き出るように装備された「アサルト・カービン」。マグダレーナは側面に備えた十字型の「クロス・シンフォニー」。
マシンガンの咆吼がこだまし、射線が交錯する。
マグダレーナの射撃は、威力も段違いだ。破壊するための違法改造も、裏バトルでは問題にならない。
しかし、ミスティは臆することなく、威嚇射撃をしながら、滑るようにマグダレーナとの距離を詰めた。
ミスティが仕掛ける。
ストラーフMK.2の副腕から繰り出されるのは、抜き手。指を揃えた鋭い突きがマグダレーナに迫る。
それを喰らうマグダレーナではない。迫り来る高速の抜き手を余裕の動きでかわす。
その時だ。
「……なにっ!?」
マグダレーナは咄嗟に手にしたビームトライデントの柄を引き上げ、ミスティの副腕の大きな爪を受け止め、捌く。
予想しない軌道を描いて、ミスティの爪が襲ってきた。連続の抜き手から、いきなり斜め下からの斬り上げ。
どうということはないコンビネーションに見えるが、マグダレーナにとっては全くの想定外だった。
ミスティのラッシュが続く。
マグダレーナは一度ならず、何度も予想を裏切られながら、徐々に追いつめられていく。
□
「出た、ミスティの武士道モード!」
園田さんが控えめに声を上げる。
そう、特訓場でミスティと対戦したなら、みんな知っている。
今のミスティが起動している「リアルモード」は、デビル・タイプ、ビースト・タイプに続く第三の形態だ。
その名も武士道・タイプ。
マグダレーナ対策として、俺が新装備の習熟と同時に着手したのが、新たなリアルモードの修得だ。
初代ミスティが身に付け、受け継がれたデビル・タイプ、今のミスティが苦行の中から見いだしたタイプ・ビースト、その両方ともマグダレーナに破れている。
新たな戦闘パターンを身に付けることは、このバトルの必須事項だ。
菜々子さんによれば、リアルモードとは「心構え」であるという。
今までの二タイプは、勝つことだけしか考えない。デビルは冷酷無比に相手を倒すタイプであり、ビーストは獣のごとく理性を捨てて襲いかかる。
どちらのタイプも、自分を捨てた戦い方だ。
その「心構え」を変える。
悪魔も獣も従えて、両方のスタイルをミックスする。そのための心構えは「戦いに勝つ」、ではなく、「戦いを制する」ということだ。
常に冷静さを失わず、自分を見失わず、はやる気持ちを抑え、焦る気持ちを消す。相手を破壊するのではなく、相手を制する。
それこそ、真にエトランゼが必要とする心構えだ。
自らを制し、相手を制し、戦いを制する。
俺はその心構えを「武士道」と呼ぶことにした。
デビル・タイプとビースト・タイプをミックスすることで、ミスティの動きはマグダレーナの予測を上回っている。
だから、ミスティの攻撃に対応できず、マグダレーナは苦戦しているのだ。
ここまではミスティが優勢。
そしてこの後、劣勢に追い込まれたマグダレーナがどう出るか。
俺には分かっている。
この状況を打破する手は、マグダレーナには一つしかない。
マグダレーナがその行動をとる瞬間。
それを俺は待ち続けている。
◆
ミスティの動きが読み切れないのは、戦闘パターンだけではない。
遠野が用意したミスティの新しい装備が、マグダレーナの予測に誤差を生んでいる。
特に、両足に装備されたホイールは、ストラーフ並の大型装備を身に付けていながらも、滑らかかつ高速な機動を可能にしている。
初代ミスティとも、先日のミスティとも、まるで違う機動。
以前の戦闘データは全く役に立たない。
ならば次の手を打つのみ。
それを悟ったマグダレーナの行動は早かった。
背部の大型バックパックに接続された、ランプのような形状をしたユニットが唸りを上げる。
一つ目の妖怪のような、中央のカメラが不気味に輝いた。
接続部がはずれ、二体のランプ型サポートメカが宙に浮く。
「……行け!」
マグダレーナが左手を振り、短く指示したのと同時。
二体のサポートメカが動き出し、ミスティに向けて殺到した。
◆
ミスティは焦る。
あのサポートメカは厄介だ。
二体の波状攻撃は、『街頭覇王』の異名を持つファーストランカー・三冬ですら苦戦したのだ。
二体の妖怪じみたマシンが高速で接近してくる。
「やるっきゃないわね!」
自らを鼓舞するように小さく叫び、サポートメカを迎え撃とうと、ミスティが一歩前に出たその瞬間、
「今だ!」
小さく鋭い叫びが聞こえた。
刹那。
光り輝く光芒が一筋、サポートメカの一体を貫いた。
「……え?」
驚く暇もない。
光の筋に貫かれた一体がどうなったのか確認する間もなく、もう一体との距離がゼロになる。
ミスティは、サポートメカの腕に装着されたクロス・シンフォニーを払いつつ、サポートメカのメインカメラを殴りつけ、そのまま地面に思い切り押し倒した。
さらに次の瞬間。
「あああああぁぁっ……!」
狂おしい女性の悲鳴がほとばしる。
声の方を見れば、頭を抱えてた桐島あおいが、いましも崩折れて膝を着こうとしているところだった。
「お姉さま!」
心配そうな顔で菜々子が駆け寄る。
一体どうしたというのか。
そこでミスティは気が付いた。
桐島あおいのやや後方、ティアが何かを抱えてバックダッシュしている。
それは、あおいの耳に装着されていた小型ヘッドセットだった。
ティアがいつもの華麗なトリックを決めて、桐島あおいの肩に乗り、ヘッドセットを奪った、という過程は想像に難くない。
この数瞬の間に、何が起きたのか。何をしたのか。
ミスティにとって確実だと言えるのは、自分が地面に押し倒したサポートメカが、行動不能になっていることだけだった。
◆
虎実は、いましがた引き金を引いた大型の武装……荷電粒子砲を残したまま、木の幹から飛び降りた。
一撃放ったら、命中してもしなくても、できるだけ早く遠くに逃げろ、というのが遠野の指示である。茂みの下に隠してあった、いつものエアバイクはアイドリング状態で、虎実が飛び乗るとすぐさま起動、蹴飛ばされるように広場を後にした。
作戦は成功した。
木の上から、遠野の合図とともに、マグダレーナのサポートメカを狙撃する。
エアバイクから銃器を撃ちまくるスタイルの虎実は、火器管制に優れた能力を持っている。だからこそ、この役目に選ばれた。
しかし、虎実は納得行かない。
成功しても、嬉しくも何ともない。
「ほんとに……本当にこれで良かったのかよ、トオノ!!」
正々堂々の決闘に、伏兵による狙撃など、卑怯極まりないではないか。
◆
「伏兵とはな……」
しわがれた声が憎々しげに呟く。
見れば、怒り心頭という顔で、マグダレーナはミスティを激しく睨んでいた。
「正々堂々の勝負だと言っておきながら、この仕打ちは何だ、『異邦人』!」
「し、しらないわ……」
「しらばっくれるな! よくも舐めてくれたものだ、このわたしを……」
ミスティは本当に知らなかった。
彼女も、マスターの菜々子も、こんな作戦は知らされていない。
正々堂々、一対一の勝負だと聞かされていた。
「そうだ、言っただろう。正々堂々一対一の勝負だと」
はっきりとした声が、横槍を入れてきた。
マグダレーナの苛烈な視線がミスティからはずれ、声の方を向く。
ミスティもその視線の先を追った。
視線の先にいたのは……遠野貴樹。
彼は、いつも通りの落ち着いた口調で、言った。
「四対一じゃ、ミスティにハンデがあり過ぎるだろ」
それを聞いたマグダレーナの表情が一変した。
愕然。
激しい怒りを一瞬にして吹き飛ばし、いつもの不気味な余裕さえなくし、ただただ驚いているばかりだ。
ミスティはいぶかしく思う。四対一? 貴樹は一体何を言っているのか? そして、マグダレーナは何をそんなに驚いている?
その場にいた誰しもそう思っていたことだろう。
すると、その遠野貴樹が、ゆっくりと言った。
「ミスティ、そのサポートメカの外装を引き剥がしてみろ。ティア、打ち合わせ通り、ヘッドセットのカバーをはずせ」
ミスティは押し倒したサポートメカに目をやる。
すでに台座の上の球体は半壊し、外装を剥がすのも難しくなさそうだ。
ミスティは半信半疑に思いながらも、遠野の指示通り、副腕の爪をその丸い外郭に引っ掛けて、剥がしにかかる。
■
マスターの合図とともに、わたしは桜の木の陰から飛び出すと、ジャンプして桐島あおいさんの肩の上に着地、すぐさまヘッドセットを奪い取って後退していた。
わたしの行動がバトルに何で必要なのかなんて、知らない。マスターはいまだに何も言ってくれない。
ただ、次の指示で、ヘッドセットのカバーをはずしてみんなに見せろ、と言い含められていた。
わたしはナイフを取り出すと、ヘッドセットのカバーの継ぎ目に二度三度突き立てる。すると、意外にあっさりとカバーははずれた。
わたしは、見た。
ヘッドセットの内部。
わたしは言葉を失う。
こんな……こんなことって……!
□
ミスティが剥がしたサポートメカの外装から見えた内部。
ティアがはずしたヘッドセットのカバーの中身。
「な……なんだ、あれ……」
そう言ったきり、大城は絶句した。
いや、その場にいた誰もが、神姫たちでさえ、その事実に声を失っている。
その二つは同じ形状をしていた。
円形の小さな板の上に、三角形に配置された三つの小さなくぼみ。そこにそれぞれ宝石のように輝くチップがはめこまれている。
神姫マスターならば、知らない者はいない。
なぜなら、必ず目にするものだからだ。
そう、不安と期待を入り交じらせながら、自らの神姫を立ち上げる最初の儀式……その時に。
「CSC……!?」
蓼科さんの声はかすれていた。
そこから導き出される信じ難い答え。
「それじゃ……あれは……あれが、神姫……!?」
八重樫さんの口をついて出た言葉。
正解だ。
俺はひとつ頷いた。
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2023-02-05T12:17:20+09:00
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キズナのキセキ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2266.html
**キズナのキセキ
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ちょっと気が強い神姫と、理想を追い求めたマスターの、絆の物語。
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著:トミすけ
○勝手な文章の改変はしないでください。大変迷惑です。
○バトルロンドのバーチャルバトルの設定を『[[Mighty Magic>http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/4.html]]』よりお借りしております。
○一部、武装神姫の性能などを独自解釈している部分があります。ご了承下さい。
○本作は前作「ウサギのナミダ」の続編です。前作からのキャラクターや設定が引き続き登場しますので、先に[[「ウサギのナミダ」>ウサギのナミダ]]をお読みになることをお勧めします。
○コラボ歓迎です。この作品のキャラクターや設定は無理のない限り、自由にお使いいただいてかまいません。
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[[登場人物紹介>キズナのキセキ 登場人物紹介]]
(本編のネタバレを含みますのでご注意下さい)
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[[~予告編~>キズナのキセキ・予告編]]
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***ストーリー
ACT0は過去編、ACT1は現在編となっています。
それぞれのACTごとの順番で、時系列順に追うことが出来ます。
お読みになる際には、下記リストの順番でお読みいただければ幸いです。
[[プロローグ>キズナのキセキ・プロローグ]]
[[ACT1-1 不機嫌の理由>キズナのキセキ・ACT1-1:不機嫌の理由]]
[[ACT1-2 情けないほど何も知らない>キズナのキセキ・ACT1-2:情けないほど何も知らない]]
[[ACT0-1 悲劇の後>キズナのキセキ・ACT0-1:悲劇の後]]
[[ACT0-2 ひどい顔>キズナのキセキ・ACT0-2:ひどい顔]]
[[ACT1-3 かりそめの邂逅>キズナのキセキ・ACT1-3:かりそめの邂逅]]
[[ACT1-4 敗北の記憶 その2>キズナのキセキ・ACT1-4:敗北の記憶 その2]]
[[ACT1-5 北斗七星>キズナのキセキ・ACT1-5:北斗七星]]
[[ACT0-3 アイスドール>キズナのキセキ・ACT0-3:アイスドール]]
[[ACT0-4 二重螺旋>キズナのキセキ・ACT0-4:二重螺旋]]
[[ACT0-5 敗北の記憶 その1>キズナのキセキ・ACT0-5:敗北の記憶 その1]]
[[ACT1-6 招かれざる客>キズナのキセキ・ACT1-6:招かれざる客]]
[[ACT1-7 聖女のルーツ その1>キズナのキセキ・ACT1-7:聖女のルーツ その1]]
[[ACT1-8 聖女のルーツ その2>キズナのキセキ・ACT1-8:聖女のルーツ その2]]
[[ACT1-9 雨音>キズナのキセキ・ACT1-9:雨音]]
[[ACT1-10 最悪の事態>キズナのキセキ・ACT1-10:最悪の事態]]
[[ACT0-6 異邦人誕生 その1>キズナのキセキ・ACT0-6:異邦人誕生 その1]]
[[ACT0-7 異邦人誕生 その2>キズナのキセキ・ACT0-7:異邦人誕生 その2]]
[[ACT1-11 夕暮れの対峙>キズナのキセキ・ACT1-11:夕暮れの対峙]]
[[ACT1-12 ストリート・ファイト その1>キズナのキセキ・ACT1-12:ストリート・ファイト その1]]
[[ACT1-13 ストリート・ファイト その2>キズナのキセキ・ACT1-13:ストリート・ファイト その2]]
[[ACT1-14 謝ることさえ許されない>キズナのキセキ・ACT1-14:謝ることさえ許されない]]
[[ACT1-15 たった一つの真実>キズナのキセキ・ACT1-15:たった一つの真実]]
[[ACT1-16 男たち>キズナのキセキ・ACT1-16:男たち]]
[[ACT1-17 遠野の企み>キズナのキセキ・ACT1-17:遠野の企み]]
[[ACT1-18 強者たちの宴>キズナのキセキ・ACT1-18:強者たちの宴]]
[[ACT1-19 親友だから その1>キズナのキセキ・ACT1-19:親友だから その1]]
[[ACT1-20 親友だから その2>キズナのキセキ・ACT1-20:親友だから その2]]
[[ACT1-21 キズナのキセキ>キズナのキセキ・ACT1-21:キズナのキセキ]]
[[ACT1-22 異邦人はあきらめない>キズナのキセキ・ACT1-22:異邦人はあきらめない]]
[[ACT1-23 決戦前夜>キズナのキセキ・ACT1-23:決戦前夜]]
[[ACT0-8 理想の体現者>キズナのキセキ・ACT0-8:理想の体現者]]
[[ACT1-24 武士道>キズナのキセキ・ACT1-24:武士道]]
[[ACT1-25 聖女の正体>キズナのキセキ・ACT1-25:聖女の正体]]
[[ACT1-26 狂乱の聖女>キズナのキセキ・ACT1-26:狂乱の聖女]]
[[ACT1-27 未知との対峙>キズナのキセキ・ACT1-27:未知との対峙]]
[[ACT1-28 すべてがつながるとき>キズナのキセキ・ACT1-28:すべてがつながるとき]]
[[ACT1-29 死闘の果て>キズナのキセキ・ACT1-29:死闘の果て]]
[[エピローグ>キズナのキセキ・エピローグ]]
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***番外編
黒兎と盗賊姫
[[前編>キズナのキセキ・番外編:黒兎と盗賊姫 前編]] [[後編>キズナのキセキ・番外編:黒兎と盗賊姫 後編]]
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この物語は、以下の作品の設定やキャラクターをお借りしております。
[[深み填りと這上姫>深み填りと這上姫]] [[HOBBY LIFE,HOBBY SHOP>HOBBY LIFE,HOBBY SHOP]] [[魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン>魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン]] [[ねここの飼い方>ねここの飼い方]] [[Mighty Magic>Mighty Magic]] [[ツガル戦術論>ツガル戦術論]] [[武装神姫のリン>武装神姫のリン]] [[凪さん家の十兵衛さん>凪さん家の十兵衛さん]] [[クラブハンド・フォートブラッグ>クラブハンド・フォートブラッグ]]
[[美咲さんと先生>美咲さんと先生]] [[15cm程度の死闘>15cm程度の死闘]] [[武装食堂>武装食堂]]
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感想などありましたら、こちらにコメントをお願いいたします。
過去ログはこちらにまとめました。↓
[[キズナのキセキ コメントログ>キズナのキセキ コメントログ]]
[[キズナのキセキ コメントログ・2>キズナのキセキ コメントログ・2]]
[[キズナのキセキ コメントログ・3>キズナのキセキ コメントログ・3]]
[[キズナのキセキ コメントログ・4>キズナのキセキ コメントログ・4]]
- 初めてコメントします。 &br()あおいお姉様のしてきた事を考えると手放しでハッピーエンドはやはり難しいですか… &br()それでも私は二重螺旋が笑顔で迎えるエンディングを期待しながら、最終話の投稿を楽しみに待って居ります。 &br() -- Yu (2012-08-16 01:55:08)
- アツい戦いでwktkです!! &br()ついに最終話!!楽しみに待ってます~ -- 神姫中毒 (2012-08-16 10:39:54)
- 最終回、とても楽しみです! コラボしたいんですが、何分バトロンから8年も経ってるとコラボしづらいですよね…… -- ユキ (2012-08-16 12:08:53)
- 死ぬな! &br()生きて帰って来て欲しい -- げしもちゃん (2012-08-16 21:20:17)
- さて、遠野が何を考えているたのかの種明しが楽しみですね。 &br()このまま終わったら奈々子が報われん。まああの刑事はおそらく……。 -- 第七スレの6 (2012-08-17 23:48:21)
- エピローグを投稿しました。最終回です。コメントログもまとめました。 &br()初投稿をさかのぼりますと、なんと二年も経っていました。 &br()執筆の遅い私の作品に長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。 &br()また、多くのコラボ作品の筆者様、素晴らしい作品をありがとうございます。皆様の作品なくして、「キズナのキセキ」はありませんでした。 &br()……あとがきを書こうと思ったのですが、どうにも陳腐なものしか思い浮かばず、断念しました。 &br()一つ私が言うならば、「キズナのキセキ」という作品は、完結を持って作者の手を離れ、読者の皆様のものになったということです。 &br()願わくばこの物語が、皆様に気に入ってもらえることを祈りつつ、筆を置きたいと思います。 &br()長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。 &br() -- トミすけ (2012-08-23 23:15:12)
- コメントにお答えいたします。 &br()Yu様>初コメントありがとうございます。嬉しいです(^^) エンディングはこのような感じになりましたが、いかがだったでしょうか。お楽しみいただけたなら、嬉しく思います。 &br()神姫中毒様>戦闘シーンは、私も書いていてとても楽しかったです。最終回はいかがだったでしょうか。 &br()げしもちゃんさん>まあ、死んだりはしなかったわけですがw 最終回もお読みいただければ幸いです。 &br()第七スレの6様>長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。エピローグはいかがだったでしょうか。 &br() -- トミすけ (2012-08-23 23:19:55)
- コラボの件があるので、別コメントで。 &br()ユキ様>コメントありがとうございます。コラボはこのページの上にもあります通り、歓迎です。 &br()時系列については……気にしなくていいんじゃないでしょうか(^^; そうじゃないと、バトマスから入った人の作品は、バトロン時代の作品とコラボできなくなってしまいますから。 &br()そこは自由に考えていただいて、キャラ設定とかはそのままに、バトマスに合わせた戦術戦略なんてのを妄想するのも楽しいと思います。 &br() -- トミすけ (2012-08-24 00:42:39)
- キズナのキセキ完結お疲れ様でした。 &br()そして、おめでとうございます。 &br() &br() &br()題名通りの「絆」が起こす様々な「奇跡」によって、この素晴らしい物語が完結しましたね~ &br()この度、エピローグを読み終わったのでコメントをしてみたのですが、これから後の物語も外伝として是非読んでみたいです。 &br() &br() &br()遠野さんと菜々子さんの今後。(警察へ連絡をしていた事による言い訳等の痴話喧嘩) &br()ティアとミスティの会話。(ティアがミスティのメンテナンス中に聞いた初代ミスティからの伝言を伝えたり等の2人の絆の確認) &br()桐島あおいと久住菜々子のコンビプレイ復活劇。(往年の二重螺旋の復活とその活躍風景等) -- ウサギの (2012-08-24 01:13:42)
- 更に追記。 &br()そして、今回のキズナのキセキのエピローグを読んでみて思ったのですが、マグダレーナは警察に逮捕され、丸亀重工への証拠物件として警察に保護されたままで終わるのか?と思いました。 &br()マグダレーナ自身、イリーガルとして、裏バトルに参加し様々な違法改造された神姫を殺しているし、桐島あおいを助ける為に人を傷つけていたりするかもしれません。 &br()それに、丸亀重工が軍事目的の為に開発した強力な神姫なので、普通には開放出来ないというのは分かるのですが、マグダレーナにも救いが欲しいと思いました。 &br()意識と本人の記憶等、犯罪に繋がる部分を除去して、普通のシスター型として、桐島あおいの元に戻ってきてくれたら良いのにな~と、エピローグを読んでいる途中から思い続けています。 &br() &br() &br()トミすけさんの中では、これで完全に完結しているのでしょうが、マグダレーナへの救いも欲しいと思いました。 &br()桐島あおいとマグダレーナの為の「キズナのキセキ」があっても良いかな~と。 &br() &br() &br()読者が、ウダウダと好き勝手に書いていて申し訳ありません。 &br()大変素晴らしい物語をありがとうございました。 -- ウサギの (2012-08-24 01:14:17)
- ついに完結ですか。長かったようで実際に楽しんだ時間は短かったというか…。 &br()これで残念ながら楽しみが一つ減ります。お疲れ様でした。 &br() &br() &br()やっぱりあの刑事でしたか。もう店長と並びお馴染ですね。 &br()この後どうなるのか、劇中では軽く流された遠野の家族関係の変化とかが気になります。 &br()そこら辺も読んでみたいかなぁと思っちゃったりとか、そんな一ファンの感想でした。 -- 第七スレの6 (2012-08-24 10:57:18)
- くっ…仕事中に読んで不覚にも泣きそうになったです…あくびしたデスとごまかしておきましたが! &br()読みだした当初からとても大好きな作品で完結したこと、読めたことがとても嬉しく思います。 &br()今後の作品を楽しみにしております! &br()そして完結おめでとうございます!! -- 神姫中毒 (2012-08-24 11:44:17)
- 物語の完結、お疲れ様です。長い物語での起承転結がしっかりしており、伏線もしっかり回収された丁寧な作りこみは見る度に感心し、学ぶものが多かったです。 &br()話の結末はしっかりとまとまった大団円で見ていて非常に気持ちのいいものでした。 &br()誰にも打ち明けずに進めてきた計画の上での遠野の行動は菜々子を助けるだけでなく、あおいを救い、結果としてマクダレーナの心すらも変えましたな。 &br()異なる三人の傷ついている心を開かせ、周りの人を変えていける遠野は本当に色々な意味で強い人ですね。 &br()たった一人のためにここまでできて、その上、周りを動かしていける人なんてそうはいません。 &br() &br() &br()素晴らしい物語をありがとうございました。トミすけさんの次回の作品を楽しみにしております。 -- 夜虹 (2012-08-24 21:50:59)
- ついに完結してしまいました……ッ! &br()読み終えた直後の感想がそれでした。完結、おめでとうございます。 &br()物語の開始当初、あれだけ凶悪だったマグダレーナが、最後にはあおいに対してあれだけの変化を迎えましたね。それも、ミスティとのすべてをかけたぶつかり合いや、あおい、遠野君たちとの関わり合いがあったからでしょうね。 &br()そして、遠野君や仲間たちの力を得て、全力で戦い抜いた菜々子さんとミスティ。彼女たちにも「お疲れ様です」と言いたいです(うちの食堂からも四人も出演させていただいて感激でした)。 &br()トミすけさんの次回作も楽しみにしています。 &br() &br() &br()……いや、以前のトミすけさんのコメントから察するに、まだ番外編が残ってるんですよね? ね? &br() &br() &br() -- ばるかん (2012-08-25 00:12:46)
- 完結おめでとう御座います。読んだ後、あぁ楽しかった。と思える本当に素晴らしいエンディングでした。 &br() &br() &br()ただ一つだけ遠野君にツッコミを「気を使うなら、目なんて閉じてないで、菜々子さん分のドーナツをゆっくり選んで来なさい」…まぁソコまで気を回したら遠野君らしくない気もしますが…w &br() &br() &br()もしあるのなら番外編や次回作も楽しみに待って居ます。 &br()個人的には、あおいお姉様に「武装神姫を続けるから私にピッタリの子を選んでね♪」とか無茶ぶりされて右往左往する遠野君と菜々子さんがみたいな番外編がいいなぁとか妄想しておりますw &br() -- Yu (2012-08-28 03:50:18)
- 読み返し中に怪しい文章ハッケン! &br()1-18 二つ目の「□」記号の直後「、八重樫さんくらいだ。彼女が考えたの対戦の組み合わせなら」 &br()部分、「考えた対戦の組み合わせ~」なのかな?と思ってみたり・・・ -- 神姫中毒 (2012-08-28 14:17:36)
- 長い間の執筆ご苦労様でした。 &br() &br() &br()一年半ほど前に神姫を知り、神姫とマスターとの絆を描いた前作 &br()そしてマスターとマスターとの絆を編み上げた今作を、ときには可笑しく &br()ときには大きな感動と共に読ませて頂きました。 &br() &br() &br()やはり神姫の物語は彼女らの存在理由そのものである「絆」という &br()テーマが似合いますね。 &br() &br() &br()個人的に冒頭の桜吹雪に佇む美女二人のシーンや、前作よりも寡黙で &br()「当たり前の積み重ねだ」と難局を打開する主人公が私の好きな &br()某古本屋の主の作品とダブり、この先どんなサプライズがあるのだろうかと &br()妙にワクワクしてしまいました。 &br() &br() &br()ともあれ、完結おめでとう御座いました。 &br()次のエピソードは「女帝」との決戦? 次回作も楽しみにしています。 -- のらくろ (2012-09-03 00:19:35)
- 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。 &br() &br() &br()多くの神姫とそのマスター達が紡いだ絆の物語堪能させていただきました。 &br()他の方も仰っていますが個人的にはマグダレーナさんのその後が気なりますね、きっともう1つの奇跡が起こるのだろうと勝手に妄想しています。 &br() &br() &br()次回作も楽しみにしています。 -- 紙白 (2012-09-04 21:40:54)
- ご無沙汰しております。 &br()最終回のコメント、たくさんいただきまして本当に感謝しております。 &br()遅くなりましたが、コメントにご返答させていただきます。 &br()ウサギの様>コメントありがとうございます。見たいシーンをいろいろあげていただきましたが、それらは読者の皆様の想像にお任せいたします。 &br()マグダレーナについては、作者からこれ以上申し上げることはありません。もしかしたら、どこか別の物語で登場してたりすると面白いかもしれませんね(笑) &br()第七スレの6様>投稿開始当時から長らくお付き合いいただきありがとうございました。遠野君の家族関係については……書けるといいなぁ。 &br() -- トミすけ (2013-02-03 00:31:53)
- 神姫中毒様>当初から大好きと言っていただき、作者冥利に尽きます。ラストも気に入っていただけたならよいのですが。 &br()夜虹様>過分なお言葉をいただき、大変恐縮です。そして、最新作では全面的に夜虹様のキャラクターに出てもらってしまいました。ご容赦いただければ幸いですm(_ _)m &br()ばるかん様>武装食堂から四人出演いただいたこと、大変ありがたく思っております。お待ちかねの番外編、お楽しみいただけたら嬉しいです。 &br()Yu様>お楽しみいただけたようで、胸をなで下ろしています。確かに遠野は気が利きませんねw &br()のらくろ様>コメントありがとうございます。某古本屋の主といえば……京極堂でしょうか。思えば、桜吹雪に美女二人というシーンは、影響があったかもしれません。 &br()紙白様>完結お祝いいただきありがとうございます。久々の投稿、お楽しみいただければと思います。 &br() -- トミすけ (2013-02-03 00:32:35)
- さて、本編完結から半年近く経って、やっと投稿できます。 &br()この番外編は相当難産でした。 &br()ですが、本編の「特訓場」のシチュエーションにおいて、皆さんが見たい対戦カードではありませんでしたか? &br()いや、私が一番読みたかった対戦なのですw &br()ちょうど夜虹様が新作を投稿された、絶妙のタイミングで一人悦に入っております。 &br()お楽しみいただければ幸いです。 &br() -- トミすけ (2013-02-03 00:36:09)
- ティアと蒼貴は超一流の神姫ですね &br()2人のマスターはプロ級です &br()すごいです -- げしもちゃん (2013-02-04 07:38:41)
- 番外編キター!!! &br()もう待ちわびてましたよ~ &br()本編ではあまり絡まなかった二人だけに確かに気になるカードでした! &br()個人的には復帰したアクアとか、成長した虎実の活躍も見てみたいなー…とか &br()作中に登場する神姫も人間も魅力的過ぎるので見てみたい組み合わせがいっぱいです>< &br()今後の更新も楽しみにしてますっ!! -- 神姫中毒 (2013-02-04 15:39:53)
- おせっかいながら文章的な疑問点… &br()前編 &br()尊氏の序盤のセリフ内 &br()「つまり、ネットワークをに強い神姫ってことだな」 &br()がありましたです。 -- 神姫中毒 (2013-02-04 16:06:44)
- 後編 &br()2つ目の♦以下 &br()装備を工夫し技を磨いき &br()がありましたです。 -- 神姫中毒 (2013-02-04 16:29:58)
- 黒兎と盗賊姫、見させていただきました。互いの手札を全て出し尽くしての総力戦は見事でした。 &br()武装奪取をこんな方法で防いでくるとは予想外でしたし、トミすけさんの描く蒼貴の戦い方、動きと学ぶ所も多かったです。 &br()話の内容も最初から最後まで尊と遠野、蒼貴とティアと神姫とマスターの共通の点の光る展開でとても面白いかったです。 &br()実際に対面してみると話し方、戦い方、性格と本当に近いもので、違いは戦い方と進む道ぐらいなものですね。それもまた個性という名の違いで、面白いものですよね。 &br() &br() &br()それにしても尊と遠野が手を組んで立ち向かう事件……もし、あるとしたらいったい何が起きるのか……面白そうですね。 -- 夜虹 (2013-02-07 00:44:24)
- 何となくウサギのナミダから読み返してて気付いたんですが、一番最初のティアvsミスティ戦で既に二重螺旋って単語が出てたんですね…こんな所に伏線があるなんて…。 &br()って今更気が付いたのかよって感じですね。 -- Yu (2013-02-10 15:18:53)
- ご無沙汰しております。トミすけです。 &br()この一年ほどで、わたしの作品2作が誰かに加筆されております。 &br()わたしの意図しない文章が入っているのは、正直気味が悪いです。 &br()これより修正していきますが、現状ではわたしが意図しない文章や展開が含まれることをご了承下さい。 &br()他のサイトでの公開も検討中です。 &br() -- トミすけ (2023-02-05 00:19:15)
- 文章の修復が完了しました。 &br()本来のキズナのキセキをお楽しみいただけます。 &br()文章を自分の好みで勝手に改変するのは、作者にも読者にも迷惑ですのでおやめください。 -- 名無しさん (2023-02-05 11:51:52)
#comment(vsize=2,nsize=30,size=30)
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2023-02-05T11:51:52+09:00
1675565512
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ウサギのナミダ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2101.html
**ウサギのナミダ
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#ref(usaginonamida.jpg)
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泣き虫な神姫とちょっと無愛想なマスターの、絆の物語。
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著:トミすけ
○勝手な文章の改変はしないでください。大変迷惑です。
○バトルロンドのバーチャルバトルの設定を『[[Mighty Magic>http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/4.html]]』よりお借りしております。
○一部、武装神姫の性能などを独自解釈している部分があります。ご了承下さい。
○コラボ歓迎です。この作品のキャラクターや設定は無理のない限り、自由にお使いいただいてかまいません。
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[[登場人物紹介>http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2106.html]]
(本編のネタバレを含みますのでご注意下さい)
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***ストーリー
ACT0は過去編、ACT1は現在編となっています。
それぞれのACTごとの順番で、時系列順に追うことが出来ます。
お読みになる際には、下記リストの順番でお読みいただければ幸いです。
[[ACT 1-1]]
[[ACT 0-1]]
[[ACT 1-2>http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2104.html]]
[[ACT 0-2]]
[[ACT 1-3]]
[[ACT 0-3]]
[[ACT 1-4]]
[[ACT 0-4]]
[[ACT 1-5]]
[[ACT 0-5]]
(注:微エロあり、神姫破壊描写あり)
[[ACT 1-6]]
[[ACT 0-6]]
[[ACT 1-7]]
[[ACT 1-8]]
[[ACT 1-9]]
[[ACT 1-10]]
[[ACT 1-11]]
[[ACT 1-12]]
(注:[[魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン]]、[[岡島士郎と愉快な神姫達]]より設定の一部をお借りしております。)
[[ACT 1-13]]
[[ACT 1-14]]
[[ACT 0-7]]
[[ACT 1-15]]
[[ACT 1-16]]
[[ACT 1-17]]
(注:[[HOBBY LIFE,HOBBY SHOP]]、[[魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン]]、[[Mighty Magic]]、
[[ねここの飼い方]]、[[ツガル戦術論]]
よりキャラクター、設定の一部をお借りしております。)
[[ACT 1-18]]
(注:この物語には、[[ツガル戦術論]]の若干のネタバレが含まれます。
こちらをお読みになる前に、[[ツガル戦術論]]をお読みになることをオススメいたします。)
(注:[[HOBBY LIFE,HOBBY SHOP]]、[[ツガル戦術論]]よりキャラクター、設定の一部をお借りしております。)
[[ACT 1-19]]
[[ACT 1-20]]
(注:[[HOBBY LIFE,HOBBY SHOP]]よりキャラクター、設定の一部をお借りしております。)
[[ACT 1-21]]
(注:[[HOBBY LIFE,HOBBY SHOP]]よりキャラクター、設定の一部をお借りしております。)
[[ACT 1-22]]
[[ACT 1-23]]
[[ACT 1-24]]
[[ACT 1-25]]
[[ACT 1-26]]
[[ACT 1-27]]
[[ACT 1-28]]
[[ACT 1-29]]
[[ACT 1-30]]
(注:[[HOBBY LIFE,HOBBY SHOP]]よりキャラクター、設定の一部をお借りしております。)
[[ACT 1-31]]
[[ACT 1-32]]
[[ACT 1-33]]
[[ACT 1-34]]
[[ACT 1-35]]
[[ACT 1-36]]
(完結)
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***番外編
●オリジナルの矜持
[[~前編~>ウサギのナミダ・番外編「オリジナルの矜持~前編~」]] [[~後編~>ウサギのナミダ・番外編「オリジナルの矜持~後編~」]]
●水中機動戦術論
[[~前編~>ウサギのナミダ・番外編「水中機動戦術論~前編~」]] [[~後編~>ウサギのナミダ・番外編「水中機動戦術論~後編~」]]
●少女と神姫と初恋と
[[その1>ウサギのナミダ・番外編 「少女と神姫と初恋と」その1]] [[その2>ウサギのナミダ・番外編 「少女と神姫と初恋と」その2]] [[その3>ウサギのナミダ・番外編 「少女と神姫と初恋と」その3]] [[その4>ウサギのナミダ・番外編 「少女と神姫と初恋と」その4]] [[その5>ウサギのナミダ・番外編 「少女と神姫と初恋と」その5]] [[その6>ウサギのナミダ・番外編 「少女と神姫と初恋と」その6]]
●黒兎と塔の騎士
[[~前編~>ウサギのナミダ・番外編 「黒兎と塔の騎士」前編]] [[~中編~>ウサギのナミダ・番外編 「黒兎と塔の騎士」中編]] [[~後編~>ウサギのナミダ・番外編 「黒兎と塔の騎士」後編]] [[~完結編~>ウサギのナミダ・番外編 「黒兎と塔の騎士」完結編]]
●LOVE&BATTLE
[[~本編~>ウサギのナミダ・番外編 「LOVE&BATTLE」]]
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***同人誌
2014年夏、コミックマーケット86にて、
&bold(){「ウサギのナミダ」上・下}
同人誌版を再度頒布します!!
金曜日(一日目)西地区・こ-16b
「チーム・アクセル」にて。
また、当日会場に来られない方のために、通販予定!
下記にて委託を予定しております。↓
[[けだねっと通販部>http://himecon.cart.fc2.com/]]
[[ウサギのナミダ 同人誌版 予告編]]
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感想などありましたら、こちらにコメントをお願いいたします。
過去ログはこちらにまとめました↓
[[ウサギのナミダ コメントログ]] [[ウサギのナミダ コメントログ・2]]
- 書きたくなった番外編をアップいたしました。 &br()今回は三話構成、バトルメインの予定です。 &br() &br() &br()林田様> &br()非武装はの言葉は、無意識に使っていました(笑) &br()ご希望の通り、コラボ表示は控えます。もし機会があれば、コラボさせて頂きたく思います。 &br() -- トミすけ (2010-05-24 00:18:33)
- しかし久しぶりに強烈な物言いの騎士型を見ましたねw &br()雪華を怒らせるあたり、無節操すぎるところかせあるみたいですが。 &br()そして貴樹、本当に大丈夫なのか次回!? &br()楽しみに待っています。 -- 第七スレの6 (2010-05-24 07:58:51)
- ええもん読ませてもらったわ &br()楽しい映画観た後の余韻を感じます -- 名無しさん (2010-05-31 21:21:35)
- 中編を投稿しました。長くなったコメントログを別ページに移動しました。 &br()調子に乗って書きすぎていまして(^^; 4話構成になりそうです。 &br()第七スレの6様>いつもコメントありがとうございます。ランティスはプライドの高い愚直な騎士、という感じが出ていれば成功です。 &br()名無し様>コメントありがとうございます。拙作を気に入っていただけたようで、私も嬉しく思います。今後も投稿を続けたいと思っていますので、よろしければ是非。 -- トミすけ (2010-06-04 01:27:03)
- 愚直で高貴。だがオーナー共々相手を完全に舐めている。 &br()力で劣るから技術を使う。今エピソードに限らず本作では基本的な法則ですね。 &br()さて、どう戦い抜くかな? -- 第七スレの6 (2010-06-04 17:03:12)
- 騎士とは斯く有るべきか・・・ &br()少々慢心されてる所が珠に傷ですが &br() &br() &br()案外打つタイミングが分かり易かったから &br()先に避けたってのが正解だったりして -- ナナシ (2010-06-05 04:25:14)
- PSPの武装神姫を見て、どんなものかとSS読みに来ました。 &br()一日で全部読破してしまった。良い物読ませて貰いました。 &br()今となってはPSPよりこのSSの続きが気になって仕方がありませんw &br()他の方のSSも読みながら、楽しみに次回を待ってます。 -- 名無しさん (2010-06-09 19:42:50)
- 格闘ゲームが好きです。格闘漫画も好きです。「修羅の門」「グラップラー刃牙」「エアマスター」大好きです。 &br()今回の番外編は趣味丸出しです。ごめんなさい。 &br()第七スレの6様>装備の不利を技術で埋める、技のぶつかり合う美しい戦い、というのは拙作のテーマの一つですね。 &br()ナナシ様>避けた理由は大したこと無かったわけですが(^^; 後編はいかがでしたでしょうか? &br() -- トミすけ (2010-06-12 17:01:57)
- 名無し様>拙作をご覧頂き、ありがとうございます。過分なお褒めの言葉をいただき、恐縮です。 &br()私もPSPの武装神姫、楽しみにしてます! SSでもアーンヴァルmk2とか出してみたいですね。 &br()投稿は続けていきたいと思っておりますので、今後もお楽しみいただければ幸いです。 &br() -- トミすけ (2010-06-12 17:06:59)
- ようやく安藤も貴樹を見る目が変わったな(そっちか &br()技と技のぶつかり合い、これほど燃えるが難度の高いた戦いもないだろう。 &br()そしてステージを揺るがす攻撃……こりゃすごい。 -- 第七スレの6 (2010-06-12 17:18:06)
- 熱い展開でよんでてワクワクさせていただきました完結編楽しみにさせていただきます -- 名無しさん (2010-06-12 20:39:00)
- おおう!!読んでたらホントに地面が揺れる感覚が・・・・。 &br()完結編、楽しみにしています。(^^) -- ichguc (2010-06-13 11:49:15)
- 十分とんでもない事をさも当たり前に言ってる辺りが恐ろしいですな &br()現状を良しとせず常に先を目指して居るからこその台詞なのでしょうね &br() &br() &br()格闘の攻防を文で伝える所相変わらず、お見事です -- ナナシ (2010-06-13 15:02:08)
- とりあえず一言。 &br() &br() &br()騎士子、お前はどこのジョンス・リーだ! -- どこかのテンチョー (2010-06-16 12:20:29)
- ジョンス・リー、かっこいいですよね!! &br()……調子に乗りました、ゴメンナサイm(_ _)m &br()完結編をアップしました。お楽しみいただければ幸いです。 &br()多くのコメントありがとうございます(^^) &br()こんなに反響をいただけるとは、予想外でした。ありがとうございます。 &br() &br() &br()番外編はあと一本書く予定です。今度は短めの話になる予定です。 &br() -- トミすけ (2010-06-22 00:48:34)
- ひとます、お疲れ様でした &br()どの辺りまで想定して訓練してたんだろう? &br()爆風や視界視界不良に対する備え何かも対策済みなんだろうなぁ &br()遠野やはり恐ろしい子<マテ &br() &br() &br()憑き物が落ちた騎士の話なんかも見てみたい物ですなぁ &br() &br() &br()神姫達だけのガールズトークってのも楽しそうですけど(笑) &br() &br() &br()次の短編も楽しみに待ってます -- ナナシ (2010-06-22 04:30:11)
- 安藤、ホントお前って奴は人を見る目がないんだな(マテ &br()しかし貴樹の性格が少しずつ平均的な主人公スタイルに変化していくあたり、本編の修羅場を抜けサポーターとして &br()他者を支援していった結果なんでしょうねぇ。 &br()とにかく、お疲れ様でした。 -- 第七スレの6 (2010-06-22 07:58:30)
- 番外編、最後の一本を投稿しました。今回は短めです。 &br()拙作「ウサギのナミダ」を応援いただき、ありがとうございました。 &br()これよりしばらくお休みを頂きまして、次回作の構想を練りたいと思っております。 &br()ナナシ様>憑き物が落ちた騎士の話……確かに面白そうですね。いつか書けるといいのですが。 &br()ガールズトークとか、私に書くのは無理です(^^; &br()第七スレの6様>長らく投稿して参りましたが、確かに遠野の性格は変わってきたかも知れません。それは私も予想していなかったことで、面白いですね。 &br() -- トミすけ (2010-07-07 23:59:42)
- 番外編、お疲れ様でした &br() &br() &br()やっと納まる所に納まった、と言う感じですね…って言うか今更ながら、どちらも告って無いのに気が付いた(笑) &br() &br() &br()御約束はしっかり盛り込んで、此で次の舞台への花道は出来ましたね &br() &br() &br()充填期間は焦らず納得がいくまで練って下さい &br() &br() &br()その日まで楽しみに待たせて貰います。 -- ナナシ (2010-07-08 04:05:41)
- ティアは,ヤキモチ焼かないの? &br()ナンカ可愛らしいワァ!! -- ゲシモちゃん (2010-07-11 20:08:19)
- 最後の番外編、お疲れ様でした。 &br()PSPのバトマスをプレイしつつ、楽しく最後まで読ませていただきました。 &br() &br() &br()次回作は…もしかして、過去編になるのでしょうか。 &br()久住さんが「本身を抜く」戦い方を身に着けるに至った「初代ミスティ」との話とか…。 -- 通りすがりの武装紳士 (2010-07-23 01:45:54)
- コメントありがとうございます。いつも励みにしております。 &br()ナナシ様>次の舞台の準備が整いました。次作「キズナのキセキ」もお楽しみいただければ幸いです。 &br()ゲシモちゃん様>ティアと遠野の関係は、色恋にしたくなかったので(^^; 可愛いと言っていただけて嬉しいです。 &br()通りすがりの武装紳士様>PSPのバトマス、いいですよね。アーンヴァルで話が書きたくなります(笑) &br()次回作の予告編を投稿させていただきました。いい意味で期待を裏切れるように頑張りたいと思います。 &br() -- トミすけ (2010-08-15 00:23:33)
- 初めまして。こちらのwikiに新しく作品を投稿した見習い料理人と申します。 &br()『ウサギのナミダ』、読んでいてワクワクしました。自分もこういった面白い作品を作りたい!と、そう感じてしまいました。 &br()いつかコラボなどできればとても嬉しいです。 &br()『キズナのキセキ』もこれからの展開が楽しみです。 &br()なんだか自分の言いたい事ばかりですみません(汗 -- 見習い料理人 (2010-10-03 00:31:31)
- 見習い料理人様> &br()拙作をお気に入り頂き、ありがとうございます。嬉しいです。 &br()新たに作品を投稿されているとのことで、このwikiの仲間が増えて嬉しい限りです。 &br()もし機会があれば、コラボも是非。 &br()今後ともよろしくお願いいたします。 &br() -- トミすけ (2010-10-14 00:25:19)
- ACT 0-6の対空時間は &br()こっちの滞空だと思うんですが... &br() -- 神姫オーナーの端くれ (2010-10-14 14:27:25)
- ご指摘ありがとうございます。早速修正いたしました。 &br()この手の誤字脱字はけっこうあるので、ご容赦いただければ幸いです(^^; -- トミすけ (2010-10-14 23:40:37)
- すごく面白かったです! &br()一話から一気に読ませていただきました &br()続編のキズナのキセキも楽しみにしてます! -- 璽儡 (2010-12-28 18:02:23)
- 璽儡様> &br()拙作をお読みいただきありがとうございます。 &br()お気に入りいただけたようで、嬉しく思います。 &br()「キズナのキセキ」の方はマイペース更新なので、気長にお楽しみいただければ幸いです。 -- トミすけ (2011-01-03 23:54:52)
- 今更ですけれど1-13で倒された三強の描写のところでヘルハウンドがマオチャオとなっているのはハウリンの間違いなのでは? -- 名無しさん (2012-07-23 22:55:19)
- 名無し様>ご指摘ありがとうございます。問題箇所を修正いたしました。 -- トミすけ (2012-07-24 21:44:32)
- お久しぶりです。 &br()コミケ一週間前となりまして、ようやく発表させていただきます。 &br()この夏コミに、ウサギのナミダの同人誌版を発刊します。 &br()上下巻、全350ページオーバーの大ボリューム! &br()表紙カラーイラストで、挿絵もつきます。素晴らしい出来ですよ! &br()興味のある方は是非お立ち寄りください。 &br()詳細は上にあります。 &br() &br() &br() -- トミすけ (2013-08-04 22:49:56)
- 同人誌版の予告編をアップしました。 &br()やっつけ感満載ですが、すみませんm(__)m &br() -- トミすけ (2013-08-09 23:32:01)
- 予告編見て、軽く雄叫び上げました(笑) &br() &br() &br()まだ買ってませんが絶対買います!! -- ユキ (2013-09-19 14:43:42)
- 久々にちょっとだけ更新しました。 &br()「ウサギのナミダ」の同人誌版を夏コミにて頒布します。 &br()今回は自分でスペースを取りました。 &br()チーム・アクセルは遠野君のチーム名からです。 &br()当日会場にいらっしゃる方は、お立ち寄りいただければと思います。 &br() -- トミすけ (2014-08-01 22:11:48)
- ユキ様> &br()もう同人誌版を手にされましたでしょうか? &br()この夏、コミケに参加しますので、もしよろしければお手にとっていただきたく思います。 &br() -- トミすけ (2014-08-01 22:14:46)
- ご無沙汰しております。トミすけです。 &br()この一年ほどで、わたしの作品2作が誰かに加筆されております。 &br()わたしの意図しない文章が入っているのは、正直気味が悪いです。 &br()これより修正していきますが、現状ではわたしが意図しない文章や展開が含まれることをご了承下さい。 &br()他のサイトでの公開も検討中です。 -- トミすけ (2023-02-05 00:18:11)
- 文章の修正が終了しました。 &br()不当な加筆部分を修正しております。 &br()本来の姿での「ウサギのナミダ」をお楽しみいただければ幸いです。 &br() -- トミすけ (2023-02-05 11:48:20)
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2023-02-05T11:48:20+09:00
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キズナのキセキ・ACT1-11:夕暮れの対峙
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2474.html
&bold(){キズナのキセキ}
ACT1-11「夕暮れの対峙」
□
「……で、どーすんだよ、遠野」
居心地がよくなさそうに、縮こまらせた身体を揺する。
俺は大城の方を向いて首を傾げる。
「どうする、とは?」
「いや、菜々子ちゃんとミスティの過去まで探るのにどんな意味があるってんだ? 今の菜々子ちゃんをどうするつもりだ?」
なんだ、そんなことか。
俺は椅子に座り直し、その場にいる面々を見回す。
そして気付く。俺が今しなくてはならないことを、まだ誰にも伝えていないことに。
俺はゆっくりと語り出す。
「菜々子さんの過去を調べていたのは、俺たちの知らない『エトランゼ』としての彼女を知る必要があったからだ」
「は?」
「彼女が本当は一体何を考え、何をしてきたのか……これからどうしたいのか。それを知りたかった。
それを知らずに、菜々子さんを助けることなんてできない」
おぼろげながら、それが分かってきた。
菜々子さんは、桐島あおいと決別したあの日から、前に進めないままでいる。
そして、彼女を助け、望みを叶えることで、きっと彼女は一歩踏み出すことができるのだろう。
そして、菜々子さんに深く関わってきた『七星』やエルゴの常連たち、日暮店長、頼子さん、ひいては姐さん……そして、桐島あおいも、きっと心のどこかで、立ち止まったままなのだ。
この事件を解決することで、彼らもまた前に進むことができるのだと、俺は思っている。
「まずは、菜々子さんをこっちに取り戻す」
「……あてはあんのかよ?」
「……あることはある」
「なんだよ、歯切れがわりぃな」
大城に返す言葉もない。
菜々子さんと桐島あおいが次にどう動くかは分かるが、どうやって菜々子さんを取り戻すかは、俺もまだ考えあぐねていた。
「次に二人が動き出すまでにまだ時間がある」
俺は自分に言い聞かせるように呟く。
「その時までには、何か策を考える」
「まあ、それならいいがよ……一人で抱え込むなよ?」
大城は少し心配そうな顔だった。
俺はそんなに信用がないか? そう思ったのと同時、いろいろと心当たりを思いつく。
俺は苦笑しながら、軽く頷いてみせるしかない。
そんな俺たちの様子を見ていた日暮店長が、PCの脇から何かを取り出した。
「それから、頼まれていたこと、調べておいたぜ」
プリントアウトした紙を一枚、俺に手渡してくる。
そこには簡単な箇条書きでいくつか項目が書かれていた。
「ネットの情報はもう調べてるだろうから、警察あたりの情報を中心に当たってみたんだが……知り合いに頼んで、ようやくたどり着いたのがそれだ」
まず、桐島あおいについては、特に大きな裏はない。女子大には今も通ってはいるようで、ごく普通の一般人だ。
しかし、裏バトルの出入りについては警察も確認しているらしい。
マグダレーナについては、素性が一切不明だ。
市販品を超える性能はただのハーモニーグレイス型ではないことを示しているが、どうしてマグダレーナがそれほどの性能を有しているのかは分かっていない。
しかし、注目すべき記述がある。
裏バトル壊滅時に摘発された、神姫マスターたちの証言の中にあった、二つの言葉。
アカシック・レコードとスターゲイザー。
「聞いたことねぇな。装備か、スキルかなんかか?」
紙を横からのぞき込む大城の問い。俺は考えを思いついたまま口にする。
「アカシック・レコードは、この世界のすべてを記録した図書館のことだ」
「はあ? そんなもんあんのか?」
「ない……というか、超自然的な存在らしいから、まあ概念上のものだな。
スターゲイザーは天体観測者のことだ。長じて、すべてを見渡す者のことを指す」
「……わけがわからん」
大城は早々に匙を投げた。
確かに、取り留めのない言葉である。
だが、俺の頭の中で、結びつく言葉がある。
マグダラ・システム。
推測だが、マグダラ・システムを構成する、装備かスキルの名称ではないか。聞き覚えがない、ということは公式でない、市販品にはない、おそらくマグダレーナ固有のものということだ。
それにしても、すべてを知る者と、すべてを見渡す者とは、どういう能力だというのだろう?
「まあ、マグダレーナはかなりの重装備らしいから、装備の名前でもおかしくないかもな」
「は? 重装備?」
日暮店長の話に食いついてきたのは、意外にも虎実である。
「そりゃちがうぜ。ライトアーマー程度の……そう、通常のハーモニーグレイスの腰アーマーを少し派手にした程度だったぜ、奴は」
「何言ってんの、虎実。あいつはグラフィオス並にでっかい装備を背負ってるでしょ」
「おまえこそ何言ってんだ。アタシはつい昨日戦ってんだから、間違いねぇ!」
「わたしだって、週末に戦ったばっかりよ!」
虎実の話に、さらに食いついてきたのはミスティだった。
二人の口論は続き、虎実の意見には大城が賛同している。
少なくとも、昨日現れたマグダレーナは軽装備だったようだ。
しかし、ミスティが嘘を言っているとも思えない。そもそも、今ここで嘘をついて得などない。
ミスティもまた、直接マグダレーナを相手にしているのだから、見間違うはずがない。
結局、二人の舌戦は、マグダレーナに完敗したことをお互いに自ら暴露して墓穴を掘り、双方自己嫌悪に陥って、なし崩しに終わった。
だが、俺はそんな二人の神姫の口論の結末を意識していなかった。
二人の口論の内容に違和感を覚え、沈思していたからだ。
なぜ、虎実とミスティが見たマグダレーナの装備が違う?
ゲームセンターに来たときは軽装だった、と言うことは、マグダレーナが『ノーザンクロス』の神姫たちを侮っていたということだろうか。
いや、万が一にも負けたら、桐島あおいが企んでいたこと……菜々子さんを追いつめることが失敗してしまう。
使い慣れたフル装備の方が、より確実に勝てたはずだ。
それは、週末リアルバトルで対決したミスティが物語っている。ミスティほどの実力者に、フル装備のマグダレーナは完勝できるのだ。
しかも、裏バトルで一戦終えた直後に。
ゲームセンターで装備を使わない理由がない。なのに使わなかった。そこに激しい違和感を覚える。
……それとも、使えない理由があったのか?
もしかすると、ゲームセンターの緩いレギュレーションさえ満たせない、特殊な装備があるのかも知れない。
だとすれば、相当に規格外の装備なのか……。
「どうした?」
日暮店長の呼びかけに、はっと我に返る。
気が付くと、その場にいた全員が俺を見ていた。随分長く物思いに沈んでしまっていたのだろうか。
俺は頭を掻きながら、
「いえ……ちょっと考え事してただけです」
歯切れ悪くそう答えた。
事件の概要は未だ謎だらけだ。
手にしたなけなしの情報で動く以外に、俺たちに道はなかった。
□
結局、良策を思いつかなかった俺は、正攻法で行くしかなかった。
菜々子さんが桐島あおいと一緒に現れる時と場所は分かっている。
そこで待ち伏せ、罠を張る。
大城と相談し、結局二人だけで動くことにした。
これ以上、チームのみんなを巻き込んで、いらぬ心配をかけたくない。
また、協力を仰ぐには、菜々子さんのことも詳細に話さなくてはならないだろう。本人の承諾なしに、彼女の過去を広めるのははばかられた。
唯一、頼子さんには協力してもらうことにした。
菜々子さんの家での様子や、外出状況について、メールで連絡をもらう。
先日、久住家を訪れて以来、頼子さんはメル友である。
頼子さんは快く引き受けてくれた。一緒に暮らしているのだから、菜々子さんの異変に気付いているだろうし、心配しているに違いない。
頼子さんの報告によれば、菜々子さんはよく外出する。だが、夕方には戻って来るという。大学は休みの期間だから、いたって普通の行動である。
問題は「誰と会っているか」なわけだが、菜々子さんの後をつけてそれを確かめるのは至難の業だ。
そこまでしなくても、彼女と会うチャンスはある。
俺は週末まで待ち続けた。
◆
冬の夕暮れは早い。
夕方もまだ早いというのに、オレンジ色の夕日はすでに建物の陰に隠れ、空は夜闇が染み出してきている。
日が落ちて、いっそう寒く感じられる。
アスファルトと飾り気のない建物ばかりが並ぶ倉庫街ならなおさらだ。
そんな寒風が吹き抜ける路地に、人影が二つ現れた。
二人とも女性である。
一人は、いまなお最凶の神姫マスターとして名を馳せる美女。
もう一人は、その最凶の神姫を追い続けた神姫マスターである。
かつて『二重螺旋』と呼ばれた二人組は、寒そうにコートの襟を立てながらも、穏やかな表情で歩いている。
手には無骨なアタッシュケース。神姫収納用のものだ。
行き先は、この先にあるA街区の空き倉庫。
そこは裏バトルの会場になっている。
二人が顔を上げる。一区画先の会場の方に視線を投げる。
閑散とした倉庫街。
そこに。
倉庫の陰から、人影が一つ、現れた。
数歩歩いて立ち止まり、二人と向かい合う。
二人の内の一人……久住菜々子には、その姿に覚えがあった。
「……遠野くん」
呼びかけに、顔を上げた遠野貴樹は視線を合わせてくる。
いつものように、真っ直ぐに。
□
菜々子さんのその一言で、彼女の異常を確信した。
なにしろ、俺に下の名前で呼ばせることを強要するために、神姫バトルまで仕掛けてくる人だ。
いまさら俺を名字で呼ぶなんて、ありえない。
俺は対峙する二人を観察する。
左の耳に、小型のワイヤレスヘッドセットを発見した。なるほど、園田さんが言っていたとおりだ。
そして、菜々子さんの隣。
俺でも思わず息を飲むほどの美人が、穏やかに微笑んでいる。
薄い色のコートに、ロングスカート、ウェーブのかかった長い髪に、えんじ色のベレー帽。
菜々子さんとは対照的な出で立ちの、落ち着いた雰囲気の女性。
いろいろな人から話を聞いた。
だが初めて見る。
これがあの、桐島あおいか……。
話に聞くような凶悪なプレイヤーにはとても見えない。
「菜々子、彼は誰?」
「遠野貴樹くん。『ハイスピードバニー』ティアのマスターです」
「へえ……彼が……」
初めて聞く桐島あおいの声は、恐ろしいほど澄んでいた。
俺は緊張する。
少なくとも、俺の素性を少しは知っているわけだ、桐島あおいは。
菜々子さんは穏やかな表情のまま、俺に言う。
「……どうしたの、遠野くん。こんなところで」
「君を迎えに来た」
菜々子さんの問いに、間髪入れずに答える。
「この先には裏バトル会場があるんだろう? 君をそこに行かせるわけには……まして参戦させるわけにはいかない」
「……なぜ?」
「裏バトル会場にいるところを見つかれば警察に捕まる。君を犯罪者にしたくない」
「……わたしを見捨てたあなたが、今さらそんなことを言うの?」
菜々子さんは笑った。
彼女には全く似合わない、卑屈な苦笑。
「ねえ、遠野くん。わたし、新しい武装神姫を手に入れたの。今日は彼女のデビュー戦なのよ。たとえあなたでも、邪魔されたくないわ」
「新しい……神姫だと……!?」
「そうよ。今度もまた……ミスティって名付けたわ」
何を言い出すんだ。
菜々子さんには見えていないのか?
彼女の本当の神姫、イーダ型のミスティは、彼女の真っ正面、俺が着ているシャツの左胸ポケットにいるというのに!
■
「何言ってんの、ナナコ……」
わたしの頭上から、ミスティの呟きが聞こえる。
ミスティはマスターの胸ポケットにいて、わたしはジャンパーのポケットの中で待機している。
菜々子さんはどうかしている。
菜々子さんの位置からなら、ミスティの姿は見えているはずなのに。
「ナナコ! 目を覚ましなさいっ! あなたの神姫はここにいるでしょ!?」
言葉は強気だったけど、響きが悲痛だった。
そんな声を出すミスティは初めて見る。
だけど、彼女の声もなぜか菜々子さんには届いていないみたいだった。
穏やかな笑みを浮かべたまま、マスターを見つめている。
その菜々子さんの微笑を見ていると、わたしはなんだかとても嫌な気持ちになった。
あれは菜々子さんの本当の笑顔じゃない。
菜々子さんはもっと素敵に笑う。わたしが憧れてしまうほど、眩しく笑う。
そんな笑顔をマスターに向けられることが、とても羨ましく思ったりもする。
今のような、ぜんぜん気持ちのこもっていない、ただ顔に貼り付けただけの微笑みは、菜々子さんのと違う。
わたしがそんな風に考えて、一瞬眉をひそめたその時。
堅い音を立てて、菜々子さんのアタッシュケースが開いた。
そこに、一体の黒い神姫がいた。
「……っ!」
頭上のミスティが息を飲む気配。
わたしもとても驚いたけれど、躊躇している場合じゃなかった。
ジャンパーのポケットから飛び出し、空中で一回転して着地。
ランドスピナーを操って、マスターの前に立つ。
菜々子さんの神姫を阻むために、マスターを守るために、わたしは身構える。
同時に戦慄する。
あれが……あんなのが自分の神姫と信じているなんて。
今の菜々子さんは明らかに異常だった。
□
菜々子さんの神姫はストラーフBisだった。
もともと彼女はストラーフ型のマスターだ。相性のいい神姫であるには違いない。
だが、ティアにとっては相性のよくない相手だ。
ストラーフBisはストラーフ型の強化装備タイプである。追加武装の「ジレーザ・ロケットハンマー」は強力であるが、むしろ追加された装甲の方がやっかいだ。
ティアは攻撃力の低い武器しか持てないから、追加装甲に阻まれ、ダメージを与えるのがより厳しくなっているのだ。
その神姫とリアルバトル、しかも菜々子さんが『アイスドール』と呼ばれていた頃の戦闘スタイルで対峙する……なんて状況は、こんな時でなければ、間髪入れずに拒否しているところだ。
しかし、戦わないわけにはいかない。
俺の指示より早く、ティアが一歩前に出る。
ティアは今の状況をよく理解してくれている。
ならば俺は勝利への糸口を探すのみ。
俺が頭脳をフル回転させようとした、その時。
恐ろしく澄んだ声が、絶望を呼ぶ。
「二対一、でも文句はないわよね?」
そう言うのと同時、桐島あおいの右手に下がっていたアタッシュケースが、重い音を立てて開いた。
九○度に開いたアタッシュケースの上に佇んでいる、黒い影。
俺は息を飲む。
この一週間、何度もその名、その姿、その戦いぶりを耳にしていた。
だが、目にするのは初めてだ。
『狂乱の聖女』マグダレーナ。
彼女の金色に輝く四つの瞳が、俺を見据えていた。
マグダレーナの荘厳さを醸しつつも異様な姿が、俺の目を釘付けにする。
噂に聞くとおり、見た目はハーモニーグレイス型だ。通常のハーモニーグレイスとは異なる、金色の瞳とくすんだ銀髪が印象を変えている。
装備はさらに大きく異なる。デフォルトの軽装備とは似つかない重装備だ。
背面の左右に一つずつ、大型の武装が備えられているが、その形状が異様だった。ランプスタンドのような形をしており、正面に向いているカメラのようなものが金色に輝いている。まるで一つ目の化け物を左右に従えているようだ。
マグダレーナ自身の一対の瞳と合わせ、四つの目がこちらを睨んでいるように見える。
一つ眼の化け物にはアームがあり、ハーモニーグレイスのデフォルト装備である十字架型の重火器「クロスシンフォニー」を所持している。
十字架を正面に見えるようにしているため、あたかもマグダレーナの左右に十字架が浮かんでいるかのようだ。
また、一つ目の頭の上には、各二門ずつマイクロミサイルが装備されている。
マグダレーナ自身は、長い柄のついた燭台を持っている。
そして、デフォルト装備と異なる、腰に装備された特徴的なロングアーマー。
俺は思わず、その装備の名を口にした。
「ブルーライン……」
それは滅多にお目にかかることができない、個人工房で作成されたレア装備であった。
「ブルーライン」は、蝶をモチーフとした防具であるが、それ自体が高機動ユニットでもある。
なるほど、超重装備でありながら、あらゆる攻撃を捌くほどの高機動を有する理由がようやくわかった。
俺がマグダレーナの装備をつぶさに観察していると、少し不機嫌そうに、その黒い神姫はしゃべった。
「ふん……わたしはそなたたちと事を構える気はないのだが……成り行きだ、仕方があるまい……」
まるで老婆のようにしわがれた声。
何とも異様な神姫である。
その異様な神姫が、長柄の燭台を構えた。やる気だ。
俺は焦る。
どうする。
時間稼ぎが目的だが、菜々子さんの神姫だけならともかく、マグダレーナを含めての二対一では、どこまで持つか、自信がない。
しかも、女性マスター二人はやる気だ。
迷いは俺の方にある。
足下で、ティアが健気にも構えを取る。
もはや考えている時間はほとんどない。
どうする、どうする!?
頭の中で、思考が高速で回転する。
だから俺は気が付かなかった。
俺の左側の路地から現れ、俺の横に立った人影に。
「それなら、二対二、でもかまわないわよね?」
不意に隣で発せられた声に、俺はびくりと身体を震わせる。
声は女性。しかも聞き覚えがある。
俺は驚きとともに、隣の人物を見る。
「……頼子さん!?」
確かに、久住頼子さんだった。
だが、一瞬、本当に頼子さんかどうか、疑ってしまった。
表情が違う。纏っている雰囲気が違う。
孫娘の心配をする祖母の姿はそこにはない。
強敵を前にしたベテランの神姫マスターがそこにいた。
緊張と歓喜の入り交じった、凄絶な笑みを浮かべている。
「……どうしてここに?」
「だいたい想像がつくわ。菜々子があおいちゃんと組んだのなら、次に行くのは裏バトル。それなら、一番最近、あおいちゃんが関わっていた会場。待ち伏せるなら、菜々子が倒れていた場所……会場に行くには、そこを必ず通る。そうでしょ?」
「ご明察です」
頼子さんにはすべてを話したわけではなかったのだが。
この深い洞察は、やはり人生経験のたまものであろうか。本人が聞いたら怖いことになりそうだったので、あえて口には出さずにおく。
頼子さんは、菜々子さんとあおいに意識を向けながらも、ちらりと俺に視線をよこした。
「だけど、あなたともあろう人が不用意すぎるわね、遠野くん。二対一になることを想定していなかったの?」
「……すみません」
「助太刀してあげる。感謝なさい」
「助かります!」
俺は素直に頷いた。
願ってもない援軍である。俺の知り合いの神姫で『狂乱の聖女』を相手にしうるとすれば、頼子さんの三冬か、クイーン・雪華くらいしか思いつかない。
頼子さんと三冬が手伝ってくれるのであれば、まだこちらに勝算がある。
その時、マグダレーナが低く嗤った。
「ふ……ロートルが出てきて、今さら何の役に立つ?」
「我が奥様に対し、無礼千万な物言い。万死に値するぞ、『狂乱の聖女』よ」
間髪入れずに答えた声がある。
それは、頼子さんが左手に下げた銀色のアタッシュケースから聞こえてきていた。
頼子さんが不適な笑みを深くする。
重い音がして、頼子さんのアタッシュケースが開いた。
赤を基調にリペイントされたハウリン型が、片膝を着いた姿勢で出現する。
自らの姿を見せつけるがごとく、ゆっくりと立ち上がった。
頼子さんの神姫・三冬である。
彼女の自宅で一度会っているが、武装状態を見るのは初めてだ。
三冬の装備は、基本構成はノーマルと変わらないように見える。ハウリン型独特のアーマーが上半身を覆っている。
しかし、よく見ると間接部など細かいところが異なっている。よりシャープに動けそうな構成だ。
背面にマウントされた大型砲「吠莱壱式」は、フレキシブルアームで保持されている。
そして、背面には急加速用のバーニアが見える。
それ以外に、特別な武装はなさそうだった。
三冬の装備は、コンセプトが実に明快だ。基本はハウリン型と同じ地上格闘型であり、高機動型の神姫に対処するために増設バーニアでの瞬発力を得る。
しかし、この装備で、なみいる重装備のファーストランカーを向こうに回して戦うのだから、頼子さんと三冬には、よほどの戦術と技があるに違いなかった。
「ファーストリーグ四七位が相手では不服か、『狂乱の聖女』」
三冬の言葉の後、少しの間をおいて、マグダレーナが答える。
「四七位……『街頭覇王』か」
「そう、『街頭覇王』……またの名を『ストリートファイター』。お気に入りの異名なのよね。
それに……ぴったりでしょう? この状況に」
そう言った頼子さんの声は楽しげでありながら、剣呑な響きが込められている。
俺は思わず左足を引き、半身の姿勢を取る。
足下のティアは、構え直す。
三冬がアタッシュケースから一挙動で飛び降りると、ティアの隣で構えた。
対峙している二人の神姫マスターも、さすがに余裕の笑顔を引っ込めた。
この場でいまだ笑顔のままなのは頼子さんのみ。
不適に笑うベテラン神姫マスターは、言い切った。
「これからやるのはまさに、ストリート・ファイトなんだから」
寒々しい港の路地に緊張が満ちる。
その場にいた四人と四体の神姫は、同時に身構え、動き出した。
[[次へ>>キズナのキセキ・ACT1-12:ストリート・ファイト その1]]
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2023-02-05T11:33:26+09:00
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キズナのキセキ・ACT1-29:死闘の果て
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2743.html
&bold(){キズナのキセキ}
ACT1-29「死闘の果て」
◆
美しい、などと……。
マグダレーナはぎりり、と歯噛みする。
目の前の敵に対し、そんな気持ちを抱いた自分に猛省を促す。
今は戦闘中だ。そんな呑気な感情など持っている場合ではない。
思考を切り替えたマグダレーナは状況を分析する。
ミスティと久住菜々子の会話は意味不明だ。
だが、次に仕掛けてくるのは間違いなく接近戦。ブラックライオンによる攻撃以外はない。それしかミスティには残されていないのだ。
あるいは、白いストラーフのミスティのように、彼女を一撃の下に倒す技があるのかも知れない。
『花霞』の一手はマグダレーナとの一戦で、ミスティが最後に使った技だった。完成していれば、あるいはマグダレーナは倒されていたかも知れない。『アカシック・レコード』の検索結果が技の正体を導き出し、『スターゲイザー』が攻撃予測を割り出していた結果、先代ミスティの必殺技は不発に終わった。あの時も、自分に近づけさせないことで技を封じた。
そう、今度も奴を近づけさせなければいい。
ソリッドスネークを手にした今、先代との戦いよりもたやすいことだ。
この蛇腹剣の防御陣形がある限り、奴は間合いに踏み込んでくることはできないのだから。
マグダレーナは勝利を確信する。
次は容赦なく奴を引き裂く。そして、何のメリットもない、この無意味な戦いを終わりにする。
マグダレーナは剣の柄を持ち上げ、じゃらりと音を鳴らして構えた。地擦りの下段。
対するミスティも構えたまま、マグダレーナを見据えている。
ミスティの方は、剣の峰に手を添えて目線の高さで構えている。
二人は理解していた。次の攻防で勝負が決まる。
空気が緊張で張りつめる。
静寂。
二人の緊張が、すべての音を停止させたかのような静けさ。
睨み合うミスティとマグダレーナ。
すべてが静止した空間で、無数の桜の花びらがはらはらと舞う。
一枚の花びらが、ミスティが手にした黒剣の上に舞い降りる。
刃の上に落ちた薄い色の花びらは、しかしその上に乗ることなく、音も立てずに二つに割れた。
それが合図。
ミスティとマグダレーナは同時に地を蹴った。
被我の距離は瞬く間に埋まる。
「シャアアアァァッ!」
先に動いたのはマグダレーナだった。
地を滑りながら、鋼鉄の蛇をうねらせながら、切っ先を突き込んでくる。
ミスティはそのまま真っ直ぐに滑走していく。
このままではソリッドスネークの餌食になる。
しかし、ミスティはスピードを落とさない。
誰もが彼女の無謀に声を失ったその時、
「ティア! あなたの技、借りるわよ!!」
「え!?」
ミスティの叫びに、ティアは目を見張る。
迫る蛇腹剣の切っ先、飛び込んでいくミスティ。
蛇の牙が襲いかからんとした、その瞬間。
ミスティはステップを踏むと、ショートターンで切っ先をひらりとかわした。
しかし、意志を持った剣・ソリッドスネークはその動きを感知し、追尾しようと身を踊らせる。
刹那。
ミスティは手にした黒剣を迅らせた。
狙いは連結された刃と刃の間。
閃いたブラックライオンは、ソリッドスネークの蛇腹の隙間を正確に走り抜け、鋼の切っ先を切り離した。
勢いで飛んでいく、ソリッドスネークの頭。
しかし、蛇はさらにミスティを捉えようとうねり、蛇腹を鳴らしながら、横薙ぎに襲い来る。
ミスティは脚を交差させてステップ。
身体を回転させながら、またしてもソリッドスネークの先端をショートターンで回り込むようにかわした。
踊るように。
「……ファントム・ステップ!?」
ティアが驚愕に叫ぶ。
ミスティの今の機動は、ティアの技『ファントム・ステップ』に間違いなかった。
□
ミスティ恐るべし。そう言わざるを得ない。
ティアの『ファントム・ステップ』は真似しようとして出来る類のものではない。
『ファントム・ステップ』という技は、ティアが身につけている滑走の技術を駆使し、攻撃を紙一重でかわし続けながら一定距離を保つこと、である。
滑走に特化したティアの技すべてを駆使して初めて成り立つ機動のことだ。脚部にホイールを付けただけで真似できるものではない。
しかしミスティは、あの装備を装着して二ヶ月で、『ファントム・ステップ』を実現している。
対戦した神姫の特徴や技を吸収する能力に長けているのか。そうした能力がずっと続けてきた遠征で培われたのか、それともミスティ自身の特性なのか。
それとも……
「……天才か」
もはやそう言う他はなかった。
◆
ずっと見てきた。
ミスティはその神姫のことをずっと気にかけていた。
出会ったときから、今まで、ずっと。
過酷な境遇、容赦ない運命。
何度も膝を折り、涙を流した、その姿。
それでも彼女は、マスターと二人で絶望に立ち向かった。
二人の絆は、最後には運命を覆し、世界すらも変えた。
彼女の姿はミスティには眩しかった。
いつかわたしも、菜々子とともに運命を覆すことが出来るかもしれない。彼女を見ていると、そう信じられた。
だから、ミスティはティアが好きだったし、心から尊敬していた。
新装備を得て、滑走が可能になった時から、ミスティと菜々子は密かに練習を始めた。
今まで見続けてきたティアのデータと自分の機動データをすりあわせ、ティアのようなステップを実現する。
技が絆というならば、『ファントム・ステップ』は、ミスティとティアをつなぐ絆だ。
ミスティからティアへのリスペクトの形なのだ。
◆
ミスティは連続ターンしながら、蛇腹剣の連結部を切断し続ける。
ソリッドスネークの全長が縮まるにつれて、マグダレーナとの距離も縮まってゆく。
マグダレーナが、その手元にほとんど柄だけしか残っていないことに気づいた時、ミスティは目前に達していた。
「くっ……!!」
マグダレーナは、叩きつけるように、残った刃を振り下ろす。
ミスティは、副腕を交差させて防御。残っていた右副腕のアーマーがその一撃で破砕する。
返す刀で斬り上げる。狙いは副腕の交差部分。
すでに無数の傷が付けられた左右の機械腕が跳ね上がる。隠れていた腕の奥、ミスティの本体が露わになる。
「……!?」
はたして、そこにミスティはいなかった。
パージされた背面装備がスラスターの噴射で浮いているだけだ。
マグダレーナが思考を走らせる。奴はどこだ。
が、その予測を出すより早く、浮いている右副腕が、マグダレーナの左側を襲う。
その程度の奇襲に対応できないマグダレーナではない。
身体を右側に傾けながら、短くなったソリッドスネークで攻撃をはじく。
攻撃は、はじいた。右副腕の手のひらが砕け散る。浮いていたミスティの装備がバランスを失い、地に落ちる。
それと同時、マグダレーナもぐらりと身体のバランスを崩していた。
「……なっ……!?」
右足の踏ん張りがきかない。
あわててバランスをとり、何とか転倒を防ぐ。
同時に各部をチェック。
右太腿と「ブルーライン」の右側面の装甲がスラスターごと斬り裂かれていた。
いつの間に。
……ミスティがすれ違った時に。
ならば、いつすれ違った?
……奴が副腕で防御した次の瞬間に、姿勢を低くして脇を抜けていった。
奴は今どこにいる?
……背面。
マグダレーナが思い至ったのと同時、頭の中に警報が鳴り響く。
スキル『アカシック・レコード』は、この日初めて、有用な検索結果をはじき出した。
しまった、反転攻撃は奴の得意技……!
マグダレーナが振り向く。
ようやく背後を見た視線の先。
奴はすでに反転を終えていた。必殺技『リバーサル・スクラッチ』。
肉薄する。
しかしマグダレーナはまだ半身すら振り向いていない。
奴が速い。
振りかざしたソリッドスネークよりも速い。
スキル『スターゲイザー』が正確な行動予測を行った。
一瞬後に来る斬撃の軌跡が赤い光線で表示される。
桜の花にも似た軌跡が、全方位から襲い来る。
先代ミスティの必殺技『花霞』の攻撃予測と一致する。
かわすすべは、ない。
「ミスティィィイイイイーーーーーッ!!!」
マグダレーナは、初めて、その神姫の名を呼んだ。
ミスティが吼える。
「おおおおぉぉっ!!」
刹那。
ミスティのブラックライオンが迅る。
それは、風に舞う桜の花びらを斬り裂くほどの、神速の斬撃。
黒剣が描き出す斬撃の軌跡は、一筆書きの桜の花のようだった。
上下左右、五枚の花弁を持つ斬撃の桜花。
来るとわかっていても回避できない。
それが『花霞』。
二人の陰が交差する。
すれ違い、二人の位置が入れ替わった。
刀を振り抜いた姿勢のミスティ。ゆっくりと身体を起こす。刀身を下げ、剣先が地を指す。
それと同時。
マグダレーナの影が崩れる。
装備も四肢もばらばらとまき散らしながら砕けてゆく。
狂乱の聖女は、ついに地に伏した。
◆
視界には、見上げる空と舞い散る花びらだけが映っている。
不敗を誇った自分が負けた。
四肢は断たれ、装備は砕かれ、マグダレーナを構成するのは、頭部と胸部のみだった。
いまやマグダレーナは身動きすることも出来ない。
負けたことがショックではないと言えば嘘になる。
だが、マグダレーナはそのことよりもむしろ、一つの疑念の方が大きく胸を占めていた。
光に満ちた視界に、一つ影が射す。
黒い剣先。
ブラックライオンで牽制しながら近づいてきた、ミスティだった。
「……わたしの勝ちよ」
言うまでもないことだ。
もはや話すことしかできないマグダレーナにしてみれば、今更そんなことを確認するミスティがおかしくすらあった。
マグダレーナは弱々しく口を開いた。
「……わたしは、どこで間違った……?」
独り言のような問い。
それこそが、今のマグダレーナの頭を占める最大の疑問だった。
ミスティが静かに答える。
「最初から」
「……なに?」
「あんたは最初から間違ってた。人を操って復讐を果たそうなんて、そんなことを考えたところから、すでに神姫として間違ってた」
「……」
「そして、桐島アオイという希有なマスターに出会っておきながら……人と神姫の絆を否定した。復讐を理由に、ずっと孤独なままでいた」
「はっ……絆など……」
「だったら、アオイから指示が出たときの動きは何? ぴったりと息の合ったコンビネーションは何だったの?」
「……それは」
「それこそが、あんたと、桐島アオイの絆なのよ」
「……」
「あんたはアオイに出会って、普通に神姫になりたいと言えば良かった。事情を話し、どうすればいいか相談をすれば良かった。そうすれば、きっと、彼女は応えてくれて……きっともっと別の、もっと幸せな結末が待っていたはずよ」
「……なんでそんなことが言い切れる」
「当たり前でしょ。アオイはナナコのお姉さんなんだから。ナナコがずっと追いかけてきた人なんだから。そうなるに決まってるのよ」
「……」
「だけど、あんたはそうしなかった。
強力なスキルと性能に頼って、勝利だけを求めて……今だってあんたは、アオイを、目的を果たすための道具くらいにしか思っていないんでしょう?
あんたの境遇には同情するわ。でも、あんたに共感は出来ない」
「……そうか……」
マグダレーナの表情は意外にも静かだった。安らいでいるようにさえ見える。
事実、彼女の心は静かだった。
なぜミスティに負けたのか。
彼女にあって自分にないもの、それが原因なのだとすれば、彼女の言うとおり、それは絆に違いなかった。
人と神姫の絆はもっと脆弱なものだと思っていた。そう侮っていたことが間違いだったのだ。
影が視界から消える。
ミスティはマグダレーナに背を向けていた。
聖女の瞳に映るのは、再び青い空と桜吹雪だけになった。
◆
二人は、お互いを見つめながら、無言で佇んでいる。
勝敗は決した。
しかし、菜々子は言うべき言葉が見つからずにいる。
やがて、小さく吐息をついて、あおいが口を開いた。
「……負けたわ」
「お姉さま……」
話したいことがたくさんあった。
だけど、どれも言葉にならない。何から話していいのか、わからない。
菜々子の胸には、この二年間にため込んだ万感の思いが押し寄せている。怒りも悲しみも憎しみも、あった。だけど、憧れも希望も嬉しさもある。
あらゆる感情がないまぜになった心が現したのは、ただの無表情だった。
そもそも、目の前の桐島あおいは、本当に菜々子のお姉さまなのか?
いまだマグダレーナの意志を実行する、『狂乱の聖女』の一人ではないのか。
だとしたら、戦いに勝った今も、言葉は届かないかも知れない。
疑念と失望。それもまた、菜々子を竦ませる。
菜々子はあおいを見た。かすかな微笑。
菜々子は微笑みを返せない。お姉さまの微笑みは、果たして心からのものだろうか?
菜々子が逡巡を続ける、その時のことだった。
突然。
不躾なざわめきと共に、広場に数人の男たちが侵入してきた。
「え?」
菜々子がぼうっとしている間に、男たちはてきぱきと行動を開始する。
男たちはスーツ姿の大人で、この場にはあまりにも不釣り合いだった。
彼らは、破壊されたマグダレーナの残骸を回収していく。
そして、大人たちの二人が近づいてくると、あおいの両側に立った。
「桐島あおい、かね?」
「はい」
素直に返事をしたあおいに、男の一人が懐から取り出したものを開いて見せた。
「警視庁MMS犯罪捜査課だ。君には裏バトルに参加し、賭博の協力をした疑いがかかっている」
「……」
「話が聞きたい。署まで同行願えるかな? もちろん任意だが」
「そんな……!」
菜々子は思わず口走っていた。
確かに、あおいは裏バトルに参加していた。だがそれがどれほどの罪になるというのだろう。
それに、警察が来るタイミングが異常に早い。まるでバトルが終わるのを待っていたかのようなタイミングだ。
つまり、誰かが『狂乱の聖女』を捕まえさせるために、ここでのバトルを警察に知らせた、ということだ。
誰が。
菜々子の勘が、彼女を振り向かせた。
「遠野くん!?」
振り返った菜々子の視線の先。
遠野のそばには、一人の刑事がいた。
菜々子は悟った。遠野は警察が踏み込んでくることを事前に知っていた。……もしかすると、警察を呼んだことさえ、彼の仕業かも知れない。
菜々子は首を振り、その考えを追い払おうとする。
嘘だ。
そんなことあるはずない。
今まで必死で支えてくれた、遠野の心情は本物だった。本物だった、はずだ。
菜々子は懇願するように遠野を見る。
しかし、遠野は視線を逸らすようにうつむくと、苦渋の表情のまま、ゆっくりと頭を振った。
その様子に菜々子は愕然とする。
信じられない。
このバトルは、最初から仕組まれていた。『狂乱の聖女』を警察に引き渡すための足止めとして。
わたしは……そんなことをするために、戦ってきたんじゃない!
「お姉さまっ……!!」
二人の刑事に連れられたあおいは、そこで足を止めてゆっくりと振り向いた。
どこか寂しげな微笑を浮かべ、言った。
「さようなら、菜々子」
それだけ言って、あおいは踵を返す。
公園の外に停まっている車には、着脱式のパトランプが載っている。覆面パトカーだ。
車に乗り込むまで、あおいはついに振り返ることはなかった。
警察官たちは撤収していく。
先ほどの刑事と遠野は何事か話していたようだったが、それも束の間、他の警察官と一緒にパトカーに乗り込む。
ものの一〇分とせずに撤収は完了していた。
あっという間の出来事だった。
菜々子は立ち尽くす。
車が立ち去るのを、ただ呆然と見送る他なかった。
こんなことにならないように、頑張ってきたはずなのに。
わたしは何のために戦ってきたの……?
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2023-02-05T11:20:23+09:00
1675563623
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キズナのキセキ・ACT1-27:未知との対峙
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2729.html
&bold(){キズナのキセキ}
ACT1-27「未知との対峙」
◆
その夜のことを、桐島あおいは忘れたことがない。
裏バトルで敗北し、最愛の神姫を失い、絶望に打ちひしがれた、あの夜。
裏バトル会場の裏口を出た壁に身を寄せてうずくまり、身体を震わせていた。泣いていた。握りしめた手の中には、もはや動くことのないパートナーの残骸。
身動きもとれなかった。泣くことしかできなかった。今夜ここで、神姫マスターとしてのすべてを奪われた。夢や希望は言うに及ばず、プライドも闘志も、装備も神姫も、すべて。
何のために神姫バトルをやってきたのだろう。
その意志すらも、彼女は失いかけていた。
圧倒的な絶望の前に、過去など意味を持たない。輝いている思い出も、今は絶望の厚い雲に蓋をされて、あおいの心の底まで、その光が届くことはなかった。
声を押し殺していても、しゃくりあげる声が、真夜中の路地裏に響く。
それほどに孤独な静寂。
そこに。
「……力が欲しいか?」
しわがれた声がはっきりと聞こえた。
あおいは力なく顔を上げる。瞳からはいまだに涙の滴がこぼれていて、目の前の小さな影をはっきりとは判断できない。
ただ、闇から滲み出してきたようなその小さな姿は、神姫だと思った。
しわがれた声が落ち着いた口調で続ける。
「力が欲しくはないか? そなたの神姫の仇を取る力が」
「ちから……?」
「そうだ」
「……そんなこと……できるわけない……」
相手は金にものを言わせ、カスタムも改造も思うさま行った違法神姫だ。
目の前の神姫は明らかに素体のまま。あおいがまだ残している少々の武装で勝てる相手ではない。
だが、目の前の神姫は言い切った。
「できる。わたしならば、あの程度の神姫、雑魚に過ぎぬ」
「そんな……そんなこと……」
「力を望むなら、我が手を取れ、桐島あおい。我が力で、そなたの大切な神姫を奪った連中に復讐するがいい。わたしは絶対の勝利を約束しよう。そのかわり、そなたはわたしの復讐に手を貸すのだ」
「ふくしゅう……?」
「そうだ、復讐だ。あのバトルで、そなたの神姫……ルミナスは破壊されるいわれなどなかった。あのような外道……神姫を破壊して悦に入っているような輩には、同じ地獄を味あわせてやればいい。あのバトルに歓喜していた連中も同様だ。そなたには復讐する権利がある」
復讐。
その言葉に、あおいの両の眼が開かれる。
そう、復讐だ。
ルミナスには、あの子には何の罪もない。愚かなわたしに命じられて、必死に戦っただけなのだ。
破壊される理由などありはしない。完膚なきまでに破壊し、殺す理由などありはしない。
自分の快楽のためだけに、優しい神姫を殺す……それは罪ではないのか。そんなことを平気でする連中が今日も高笑いしながらはびこっている。ルミナスのように破壊される神姫が、そしてわたしと同じように絶望に打ちひしがれるマスターが、これからも現れるかも知れない……いや、確実に現れる。
ならばどうする?
ルミナスの無念を誰が晴らすのか。これから絶望に落ちるかも知れない神姫とマスターを誰が救うというのか。
あおいは目の前の神姫と視線を合わせた。
なんと昏い眼をした神姫だろう。
しかし、その昏い視線から、底知れぬものをあおいは感じ、身震いした。
「勝てるの、あなたなら?」
「言ったであろう。絶対の勝利を約束しよう。ただし、そなたの復讐の後は、わたしに力を貸せ」
「……わたしの復讐は、あいつを倒すだけじゃ終わらない。このエリアの不良マスターたちを根絶やしにする……それができる?」
「造作もない。思う存分やるがいい」
「……わかったわ」
あおいは一つ頷いた。
目の前の神姫は、変わらず昏い眼のまま、表情一つ変えず、生真面目な口調で言った。
「……契約成立だ。証にこれを」
黒い神姫が抱えていたのは、小さなワイヤレスヘッドセットだった。
あおいはもはや何の疑問も持たず、そのヘッドセットを受け取り、耳に付けた。
この日、桐島あおいとマグダレーナ、二人の復讐は始まったのだ。
◆
二人はお互いの得物をぶつけ合い、再び鍔迫り合いとなった。
ミスティは正面にある神姫の顔を見る。
マグダレーナの顔は、怒りと焦りに歪んでいる。
ミスティは今まで、裏バトル会場などで何度かマグダレーナの姿を見てきた。けれど、これほどに追いつめられた彼女を、ミスティは見たことがない。
そして、未だかつてないほどにマグダレーナを追いつめているのは、紛れもなく自分だった。
交差した剣と槍の向こう側から、マグダレーナがしわがれ声を発する。
「絆など……何の実体もないただの思い込み……そんなものに何の価値があるっ!」
「寂しい奴ね、あんたは」
ミスティはふっと優しく微笑みかけた。
「絆ってのはね、双方向なのよ」
ミスティは思い浮かべる。
自分と菜々子、自分とティア、自分と他の神姫マスターや神姫と繋がっていく絆。
それはまた、繋がった先の人や神姫からも伸びて、また繋がっていく。
広がっていく絆の軌跡は、まるでシナプスのように描き出される。
あるいは蜘蛛の巣のように。
ウェブ。
そう、それは……
「絆ってのはね、ネットワークなのよ」
「ネットワーク……だと?」
「誰かと誰かが繋がって、またその先の人と繋がって、またさらに先の誰かと繋がって……どんどん広がっていく。しかも双方向。お互いがお互いのことを考える、助け合う。そしてみんなが幸せになれる。それが絆だわ」
「言っただろう……そんなもの……幻想に過ぎん!」
「幻想じゃないわ。その証拠に、みんなとわたしの絆が力になって、こうしてあんたを追い詰めてる」
「……思い上がるな!!」
マグダレーナは槍をはじき、間合いを取る。
ミスティは間髪入れずにダッシュする。
漆黒の修道女型は、間合いを保たん後退する。
「あんたは遅いのよ!」
叫びとともに、ミスティがダッシュ。両脚のホイールを回転させ、地面を滑りながら間合いを詰める。
「あんたの機動は、ティアにも、リンにも、シルヴィアにも及ばない!」
いとも簡単にミスティは間合いを潰して、斬りかかる。
マグダレーナはかわせず、エアロヴァジュラの一撃を捌く。続いて、ミスティの副腕による連撃。これも捌くが、ビームトライデントだけでは限界がある。腕やブルーラインの装甲が少しずつ削られる。
後退し続けてはジリ貧だ。マグダレーナは無理矢理踏み込んだ。
ミスティも踏み込んでくる。
力任せに得物をぶつけ合った。
また鍔迫り合いとなり、ミスティと視線が絡む。
「……弱い踏み込みね。ねここの突進に比べたら、蝿が止まったようなもんだわ」
嘲りの言葉に、マグダレーナは苛立つ。
力任せに押し返すと、今度は三つ叉槍を構え、連続突きを繰り出した。
速さは神速、狙いは正確。
あやまたず急所を貫くはずの槍はしかし、すべて刀と副腕によって捌ききられた。
「そんな連続技、フェフィーやランティスのコンボに比べたら、全然ぬるいわよ!」
マグダレーナは攻撃の手を止めない。
しかし、三つ叉槍一本の攻撃には限界があった。
ミスティはマグダレーナの連続攻撃を捌ききってなお、攻撃を当ててくる。
そう、攻撃が当たっているという事実が、マグダレーナに屈辱を与えていた。
亀丸重工の軍事研究所謹製のMMSボディは特殊な素材でできており、市販品の武装神姫の攻撃でダメージを受けることはない。あのファーストランカー『街頭覇王』の必殺技すら凌いでみせたのだ。
目の前の神姫からダメージなど喰らうはずがない。
はずだった。
「……なにぃっ……!?」
ミスティから繰り出される、すくい上げるような副腕の一撃を、からくもかわしたマグダレーナが声を上げた。
爪がかすめた腹部に、薄い裂傷ができていた。
気づけば、腕にも肩にも小さな傷ができている。
いずれも、ミスティの副腕の攻撃が当たったところだ。
ダメージ自体は微々たるものだが、自分を傷つけることが可能、という事実に、マグダレーナは驚き、そして……恐れを抱いた。
なぜだ、なぜ奴は私に傷を負わせることができる!?
マグダレーナの問いは口に出す直前で消えた。
ミスティは誇るようにマグダレーナに告げる。
「あんたは弱い……マイティや雪華の方がよほど手強かったわ」
ミスティは今、実感している。あの特訓が……みんなとの絆がわたしを支えてくれている、と。
□
「すげぇ……ミスティが押しまくってるぜ……!」
大城の感嘆に、俺は小さく頷いた。
今のマグダレーナは見るからに余裕がない。
彼女は下がらざるを得ない。なぜなら、ミスティの攻撃が当たれば、自らのボディが損傷する恐れがあるからだ。
『街頭覇王』三冬の必殺技の直撃を喰らってもボディは損傷しなかった。並外れたボディ強度も、彼女の余裕に繋がっていたはずだ。
だが、ミスティの副腕の爪は特別製だ。人工ダイヤモンドの欠片を研磨し、仕込んである。いくら丈夫な素体とはいえ、この世で最も硬い鉱物の爪で鋭く攻撃されれば、無事では済むまい。
それに、特別製のボディは丈夫だろうが、装備は違う。ボディよりも注意を払わなくてはならない。特にブルーラインはマグダレーナの機動を支えるものだ。破壊されれば、逃げようがなくなる。
マグダレーナにとっても、これほどに押し込まれて後退を強いられる戦いは初めての経験に違いない。
バトルの主導権はこちらが取った。あとはこのまま押し切って勝てればいいのだが。
◆
ミスティの猛攻が続く。
滑るように前に出ながら、マグダレーナに対し、次々に攻撃を繰り出す。
マグダレーナは下がる。
「ブルーライン」の浮遊機能を最大限に利用しながら、ミスティの攻撃を捌き続ける。
マグダレーナは防戦一方だ。
表情は苦しく、いつもの余裕はまったく見られない。
マグダレーナは苦し紛れに、攻撃予測スキル「スターゲイザー」を起動する。この短いバトルの間に入手したミスティの戦闘データを元に、この先の攻撃を予測、視界にその軌跡を赤いラインで表示する。
瞬間、無数のラインが表示され、視界が赤く染まった。
攻撃が絞りきれない。
迫るミスティからは、あらゆる方向から攻撃が来る可能性がある。
どうすればいい。
スキルなしに、どうやって相手の攻撃を見切り、攻撃に転じればいい!?
マグダレーナはその疑問に行き着き、そして愕然とする。
そう、彼女は今まで自分のスキルに頼りすぎていた。
だから、想定外の相手と戦うことはほぼなかった。未知の相手に対し、反撃の機会を掴むことさえ、マグダレーナはできない。
ならば、他の神姫はどうやって戦っているというのか。行動予測もなしに、どうやって未知の相手と対峙する?
マグダレーナがそう考えた時、戦場に声が響いた。
「ミスティ、三連撃から連続突き! 下から上へ、攻め上がりなさい!」
声の主は、久住菜々子。
ミスティはマスターの指示を忠実に守りつつ攻めてくる。それはマグダレーナが分析したミスティの行動パターンを逸脱したものだ。
久住菜々子の指示は「女の勘」に頼ったものだと言う。その場の閃きや感覚による指示はパターン化できない。今までの戦闘データの蓄積があればともかく、データなしの今の状況では、法則を導くことはできない。
久住菜々子こそがミスティの戦闘行動に無限の可能性を与えているのだ。
それこそがミスティの強さの秘密なのか。
いや、違う。
マグダレーナは気付く。
普通の武装神姫ならば、当たり前の関係……神姫とマスター、二人でバトルに挑むということ。マスターは戦況を分析し、敵の動きを見ながら、作戦を立てて指示を出す。神姫はその指示の元に戦う。
マスターのバックアップがあるということは、なんと心強いことだろう。
それでは自分はどうだ。
人間を憎み、マスターは持たず、自分の力のみで戦ってきた。背後を守ってくれるマスターはいないし、必要性も感じていなかった。
だが、今や頼りにしてきたスキルは無効化され、実力をまったく発揮できない。
しかも、相手神姫の武装は未知、相手マスターはパターン化できない思考の持ち主。相性は最悪だ。
負けるのか。
このまま押し込まれ、目の前の神姫に倒されてしまうのか。
人間との絆を憎悪してきたわたしが、絆を肯定するこの神姫に敗れるというのか。
この不敗を誇るマグダレーナが。
「……くそっ」
吐き捨てた短い言葉は、マグダレーナが初めて発した弱音だった。
その時、
「マグダレーナ! 十二時方向にコーン発射、同時に四時方向に後退、距離二!」
聞き慣れた声で指示が飛んできた。
マグダレーナは反射的に、その指示を忠実に実行していた。
◆
「ミスティ、後退! 避けて!!」
菜々子の焦る声がミスティの耳に届く。
マグダレーナを追い詰めている最中だというのに何を言い出すのか、と思いもしたが、ミスティもまた反射的にその場を飛び離れる。
次の瞬間。
二人が攻防を繰り広げていた地点にミサイルが着弾、爆発した。
「な……」
轟音とともに広がる爆炎が、黒い神姫の姿を覆い隠す。
菜々子の指示を聞いていなければ、ミサイルはミスティに直撃していただろう。
そもそも、ミサイルはどこから飛んできたのか?
ミスティが思考を巡らせていると、
「動きなさい、攻撃が来るわ!」
またしても菜々子の鋭い指示。
攻撃? 何の?
ミスティの一瞬の逡巡。それが彼女の行動を遅らせた。
突如、爆炎を貫いて、銃弾が飛来した。
避ける間もなく、銃弾は背後のアサルトカービンの片方に直撃した。
「な、なに……!?」
ミスティは焦る。
マグダレーナが持っている武装は、ビームトライデントだけだったはずだ。なのになぜ、銃撃が来るのか。
爆炎が晴れていく。
機動を続けながら、ミスティは見た。
爆炎の向こう、相対するマグダレーナの手には、ハーモニーグレイス型のデフォルト装備「クロス・シンフォニー」が握られている。
それはマグダレーナのサポートメカに装備されていたものだ。
ミスティは理解する。
ミサイルもサポートメカに装備されていたものだ。独立して行動することはできなくなったが、マグダレーナが直接装備を使う機能は生きているのだろう。先ほども遠野にミサイルを撃っていた。
ミサイルは距離を取るための布石。
案の定、ミスティとマグダレーナは飛び離れた。爆炎で姿が見えない隙に、サポートメカの残骸に残された「クロス・シンフォニー」を拾い上げたのだ。
クロス・シンフォニーの銃口はミスティに向けられている。
マグダレーナの態度にも少し余裕が戻ったように見える。
何があったの?
自問自答する。
ミサイル攻撃の前、飛んできた声。指示があった。マグダレーナのマスターから。
つまり……桐島あおいから。
◆
久住菜々子は軽く突き飛ばされた。
たたらを踏んで、二三歩後ろに下がる。
「お、お姉さま……?」
突き飛ばした本人……桐島あおいは、頭を押さえながら、ふらふらと立ち上がる。
いまだ吐息は荒いまま。
しかし、戦場を見て、また菜々子を見つめる瞳は、はっきりとした意志が宿っていた。
「悪いわね、菜々子……絆よりも何よりも、強さを望んだのは……わたし。ルミナスの復讐のために、操られていると知りながら、それでもマグダレーナの無類の強さを望んだのは、わたし自身の意志なのよ!」
「そんな……」
「強くなければ、自分の意志も貫けない。それどころか、外道な連中にいいように弄ばれるだけ。
……そう、弱さは罪。すべてを失い、絶望に落ち込み、たどり着いた……それがわたしの真理」
「……」
一瞬の沈黙。
あおいは脂汗を流しながらも、口元で微笑んだ。
「わたしとマグダレーナのコンビは不敗。……でも不思議ね。追い詰められている今この状況に、今までで一番ドキドキしてる」
「お姉さま……」
菜々子は確信する。あおいは強さの権化となり果てたわけではない。互いの死力を尽くすギリギリのバトル、その緊張感をも楽しむことこそ、菜々子が追い求めてきたバトルの形だ。
「そういう気持ちも尊いと教えてくれたのはお姉さまですよ?」
「そうだったかしら」
「そうですよ」
「だとしたら、この気持ちも否定しなくちゃならないけれど……少しもったいないわね」
「別に否定する必要なんてありません。その気持ちには価値があるんです。バトルの勝敗以上に」
「残念だけど認められないわ」
「認めさせてみせます……わたしたちが勝って」
「させないわ……行け、マグダレーナ!」
「走れ、ミスティ!」
二人のマスターから指示が飛ぶ。
ミスティとマグダレーナは同時に地を蹴った。
◆
バトルは一進一退の攻防となった。
マグダレーナはミスティに比べて手数が少ない。しかし、火力に勝り、盾としても機能するクロス・シンフォニーを手にしたことが大きい。
銃撃で接近を図るミスティを牽制し、接近戦でもビームトライデントとクロス・シンフォニーを巧みに使って、ミスティの格闘攻撃を捌ききる。
逆にミスティは攻め手を欠いていた。
マグダレーナの銃撃は裏バトルでのリアルバトルを想定しているから、破壊力は段違いだ。迂闊に飛び込むことはできない。
それでもなんとか格闘戦に持ち込んでも、十字架状機関銃をシールドがわりにして、マグダレーナ本体に攻撃を当てさせない。
しかも、今まで後退一方だったマグダレーナが攻めに転じてきている。攻撃パターンの変化の理由は明らかだった。
桐島あおいの指示だ。
彼女の指示は的確で、神姫マスターとしての実力が伺える。その指示をマグダレーナは忠実に実行している。
マスターがいるといないとではこれほどに戦闘力が変わるものなのか。今更ながらに理解したその事実に、ミスティは戦慄した。
◆
決め手を欠いているのはマグダレーナも同じだった。
あおいの指示が来るようになって、互角の立ち回りができるようになったとはいえ、戦況はむしろ不利である。
ミスティのレベルアップは著しく、なおかつこちらの絶対有利なスキルは封じられたままだ。
装備の差も大きい。
ビームトライデントもクロス・シンフォニーも火力の面では申し分ないが、連続使用には心許ない。
クロス・シンフォニーは弾切れした一丁を捨て、残る一丁を拾って入れ替えている。
ビームトライデントの出力はもうすぐ限界だ。ビーム装備は電気をやたら食うのがネックである。
元々、マグダレーナは短期決戦が前提の装備だから、バトルが長引くほどに不利になるのは当然のことだった。もちろん、今まで残弾を気にするほどバトルを長引かせたことはなかったが。
「くそ……」
マグダレーナが短く吐き捨てる。戦況を好転させる手段がない。焦りばかりが募ってゆく。
その時だ。
「マグダレーナ、あれを使うわよ!」
あおいからの指示に、マグダレーナは目を見張る。
「あれをか!? こんな市販品ごときに……!」
「だけど、このままじゃ勝てないわ。わかるでしょう?」
あおいに言われるまでもない。このまま戦闘を続けてもジリ貧なのは、彼女が一番分かっていた。
「……仕方あるまい!」
マグダレーナがミスティの猛攻を避けながら後退する。
「させないわ!」
ミスティは追いすがる。
何が来るかはわからない。しかし、このバトルでこれ以上相手に有利な要素を与えるわけには行かなかった。
距離を詰めるミスティ。
そこに、
「コーン発射! 十二時方向!」
またしても桐島あおいの指示。先ほどと同じだ。四発目……最後のミサイルが来る。
「くっ……!」
そうと分かっていては、ミスティも方向転換せざるを得ない。
ミスティは進行方向を横にスライドし、マグダレーナから距離を取る。
果たして、ミサイルは来た。
マグダレーナの正面、追い続けていれば、ミスティがいたであろう地点に着弾、爆発する。
紅蓮の炎と漆黒の煙が、再びマグダレーナの姿を覆い隠した。
この煙幕の向こう、マグダレーナはいったい何をしようとしているのか?
◆
あおいはコートの内ポケットに右手を差し入れ、何かを取り出す。
そして、そのまま広場の中へ……戦場へと放り投げた。
菜々子は見ていた。それは剣だ。長い、神姫の身長ほどもある長大な剣。
このバトルで装備の追加はルール違反ではない。元より、そんな規定はリアルバトルにはない。
その長剣は、マグダレーナのすぐそばに落ち、地面に突き立つ。
マグダレーナは手にした三つ叉槍と十字架銃を捨てた。
間髪入れずに長剣の柄を握り、地面から引き抜きながら加速する。
突撃。
「ミスティ! 奴の武器は剣よ!」
菜々子の言葉より早く、マグダレーナは爆炎の中へ飛び込んだ。
◆
菜々子の言葉がミスティの耳に届くのと同時だった。
炎と煙が巻き、突如空気のトンネルが出現した。そう思う刹那、漆黒の神姫がその中を弾丸のように突き抜けてくる。
瞬足にして無音、フィールド発生を利用して炎の壁に穴を開け、低空を飛翔する……ブルーラインの真骨頂とも言える使用法だ。
ミスティは思わず足を引いた。黒い弾丸を回避しようと後退する。
マグダレーナは瞬く間にミスティの目前に着地、長剣を上段から振り下ろした。
ミスティは上半身を下げ、回避の姿勢。
早めの回避が功を奏した。長い剣ではあるが、その間合いは見切れた。鈍色に光る鋼の長剣の切っ先はミスティに触れることはなかった。
続けて、マグダレーナの切り返し。
ミスティがさらに間合いを取ろうとする。
その時。
「!?」
長剣が、うねり、伸びた。
ミスティが掴んだ間合い、タイミングを覆し、長剣の切っ先が上に伸びたところで横薙ぎに変化する。
精一杯にかわしたミスティの頭上を刃風が舞う。
いやな音と共に、背部にマウントされていたアサルトカービンが、接続部からごっそりと奪われた。
「な……なにあれ……」
銃器が破壊された以外のダメージはない。
しかし、その結果以上に、ミスティの意識を引き付けたのは、マグダレーナの鋼の長剣だった。
その姿は異形。
一本の鋼と思っていた刃はいくつもの節に分かれ、動力パイプによって一本につながれている。今はまるで鞭のようにしなり、地面に垂れていた。
まるで鋼でできた蛇だ。
ミスティは先ほどの攻撃を見誤った理由も理解した。
蛇腹になった分、剣の全長が伸び、ミスティの間合いを狂わせたのだ。そして、蛇腹の剣は鞭のように動き、縦から横へ自在の動きを見せて、ミスティの想像を超えた。
今、その鋼の蛇は、先端を持ち上げ、鎌首をもたげている。まるで、ミスティを威嚇するように。
しわがれた声がミスティの耳を叩く。
「断罪剣……ソリッドスネーク……これを使わせたのは、貴様が初めてだよ……もう、楽には殺さん……」
それは地の底から響く魔女の声のよう。
ミスティは戦慄しながらも、手にした刀を構え直した。
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2023-02-05T11:18:38+09:00
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キズナのキセキ・ACT1-23:決戦前夜
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2667.html
&bold(){キズナのキセキ}
ACT1-22「決戦前夜」
□
その日、俺はいきつけのゲームセンター「ノーザンクロス」に開店直後から入った。
開店直後はさすがに人はいなかったが、そこは春休み、午前中から神姫マスターたちがバトルを求めて集まってきた。
「久しぶりだな、何やってたんだ? それにその腕はどうした?」
『ヘルハウンド・ハウリング』の伊達たち常連陣が声をかけてきてくれた。
俺たちがいなかったこの二ヶ月の間も、大して変わったことはなかったらしい。バトルロンドコーナーは相変わらずの盛況ぶりである。結構なことだ。
一通りの挨拶が終わると、常連たちはまたバトルに戻っていく。
一人になった俺は、いつもの定位置で壁に背を付け、見るともなしにバトル実況用の大型ディスプレイを見ていた。
今日、チームのメンバーは来ない。久住邸で、「特訓場」最後の日を名残惜しんでいるはずだ。
胸ポケットにはティアがいる。
緊張を紛らわすために、ティアと他愛のない話をする。
そう言えば、最近いろいろとあったから、こうしてティアと話をするのも久しぶりのような気がする。
俺たちはできるだけ、「特訓場」の話題を避け、ミスティたちと関係のない話を続けた。
昼過ぎくらいに、一人の客が入ってきた。
ここに陣取ってから、入店してくる客の一人一人をチェックしていた俺は、すぐに気づいた。
淡い色のコートを着て、えんじのベレー帽を身につけたその女性。
俺の待ち人である。
彼女は、まっすぐ俺に向かって歩いてきた。
目の前に来たところで、視線を合わせる。
振り向かずにはいられないほどの美貌が目の前にある。
差し向かいで話すのはこれが初めての相手。
桐島あおい、その人だった。
「随分と無礼な呼び出しではないか、黒兎」
しわがれた声が俺を非難する。
桐島あおいの口は動いてはいない。彼女が手に提げているアタッシュケースから聞こえている。
「それは仕方がない。君らの連絡先がわからないのだから。それに、呼び出しに応じない、という手もあったはずだが?」
「応じないわけにもいくまい。それに、こちらにも貴様に用がある」
「……俺に?」
それは予想されたことではあったが、俺はさらに緊張した。
命を狙われた相手からの要求となれば、緊張しない者はいないだろう。
一瞬の沈黙の後、口を開いたのは桐島あおいだった。
「それで、あなたの用は何かしら」
来た。
今までで最大のアドバンテージをここで使い切る。
俺は事前に用意していた言葉を思い浮かべ、ゆっくりと口に出した。
「明朝六時、花咲川公園表の入り口。そこで『エトランゼ』が待っています。正々堂々、一対一の勝負です」
「……わたしたちがそのバトルを受ける理由がある?」
「あります。他でもない久住菜々子の挑戦を、桐島あおいが受けないはずがない。それに、いつまでも『エトランゼ』にまとわりつかれるのも、あなたたちには不都合では?」
「……」
桐島あおいの瞳からは、感情が読みとれない。
この沈黙は、余裕の現れか、それとも逡巡の結果か。
今度は俺の方から問いかける。
「そちらの用件は?」
「……そなたが持ち去ったヘッドセットを返してもらいたい」
「ヘッドセット?」
「あの日、久住菜々子が耳に着けていたものだ」
応じたのは、アタッシュケースのしわがれた声。桐島あおいの神姫・マグダレーナ。
俺は切るカードを選ぶように、慎重に言葉を選んで口にする。
「返すのはかまわないが……今手元にない」
「本当か?」
「そもそも、あのヘッドセットが君たちの物だとは知らなかった。いつも持ち歩いているわけないだろう」
「……ふん、嘘はついていないようだ」
マグダレーナとの会話はひやひやする。大ケガを負わされた相手なのだから、緊張するのも仕方あるまい。
そして、理由はもう一つある。俺がマグダレーナの秘密に感づいていることを、決して悟られてはならない。
だからこそ、話す言葉にも慎重になる。
マグダレーナは続ける。
「ならば、今すぐ持って来い」
「……断る」
「なんだと?」
「正直、面倒くさい。明日、バトル終了後に渡すのはどうだ?」
「……痛い目を見るのが足りないか?」
「もうこれ以上はうんざりだ。だけど、お前がここで俺を傷つけると、君らには面倒なことになる」
「何?」
「俺に不審な様子があったり、合図したりすれば、ここの店長がすぐに警察を呼ぶ手はずになっている。そうすると困るのは君らじゃないのか?」
桐島あおいがゆっくりと後ろにある従業員カウンターを見た。
そこには、小柄で童顔な、この店の店長が俺たちをじっと見つめている。
俺が今日、ゲーセンに入ってすぐ、店長に協力を要請したのだ。
店長は快諾してくれた。
「なぜ我々が警察を呼ばれると困る、というのだ」
「C港でのバトルの時、パトカーのサイレンで、君らはあわてて逃げ出したじゃないか」
アタッシュケースから、小さな舌打ちが聞こえてきた。
マグダレーナはいらついている。つまり、追いつめている、という証拠だ。
再び、短い沈黙。
やがて、しわがれた声が一言発する。
「……仕方があるまい」
「わかったわ。受けましょう、そのバトル」
マグダレーナの意を汲んで、桐島あおいがそう言った。
よし。
目的は達成した。
俺は心の中だけでガッツポーズする。
これで舞台は整った。
あとは明日の準備を残すのみである。
俺の思考が先へと進んでいるその時、マグダレーナが意外なことを言った。
「……もう一つ、そなたに用件がある」
「……俺にまだ何かあるのか」
「そうだ。遠野貴樹……我々の仲間にならぬか?」
「……な……」
絶句する。こいつは一体、何を言って……
「なにを……何を言ってるんですか、いまさら! あれほどのことをしておきながらっ!」
俺より先に、胸ポケットのティアがまくし立てた。
また、これほどに怒りの感情を見せるティアも珍しく、俺は重ねて驚いてしまった。
「……わたしは初めから、そなたたちと事を構えるつもりはない」
「バカなことを! マスターにあんなケガさせておいて、そんなこと信じられるものですか!」
「本当なのだ。神姫風俗から多くの神姫を救った男、遠野貴樹と、その神姫・ティア……そなたたちと我々は協力できるはずだと思っている」
しわがれた声は、少し困ったような口調でそう言った。
さらに、桐島あおいが補足するように話を続ける。
「わたしたちは、裏バトルや神姫風俗で不当な扱いを受けて苦しんでいる神姫たちを保護しているわ。もう百体近いかしら」
「……!?」
あまりにも予想の斜め上を行った話に、俺は思考が止まりそうになる。
つまり……これが『狂乱の聖女』の真の目的だというのか。
混乱し、高ぶりそうになる感情を、無理矢理押さえ込む。
落ち着け。
一つ大きく深呼吸し、大きく鳴る胸の拍動を隠しながら、俺はつとめて冷静な声を出そうとした。
「……そのために、各地の裏バトル場を荒らし回っていた、と?」
「そう。わたしたちは、あらゆる神姫を破壊してきたわけじゃないの。
裏バトルでは、傲慢なマスターによって、望まない改造、望まない過酷なバトルを強いられる神姫がたくさんいるわ。
そうした苦しみに堪えている神姫を保護し、神姫虐待の温床でもある裏バトル場を閉鎖に追い込む。
それがわたしたちの目的よ」
「もっとも、戦闘の快楽に酔っておかしくなった神姫は容赦なくつぶしたが」
いともあっさりと肯定された。
俺は桐島あおいを見た。
頼子さんの言ったとおりだ。
桐島あおいの瞳に、狂気は感じられない。明確な目的意識と、強い意志を宿した視線。
俺は唇を開く。声が少し震える。
「俺は……俺とティアは、裏バトルで勝ち続けられるほど強くない」
「そなたたちにバトルを任せたいわけではない。保護した神姫のケアをしてもらいたい」
「ケア?」
「保護した神姫の多くは、心に傷を負っている。百を数える彼女たちのケアには、あおいだけでは足らぬのだ。神姫の……風俗の神姫の苦しみを知りながら、自らの神姫としたそなたなら……適役だと考えている」
マグダレーナがそんなことを考えていたとは意外だった。
自らにたてつく者は容赦なく排除する、冷徹な神姫だと思っていたが、それは俺の先入観らしい。しかし、それも仕方のないことだと思う。まともな会話をするのはこれが初めてなのだ。
マグダレーナの申し出には驚いたが、俺の答えは決まっている。
「残念だが、断らせてもらう」
「……理由を聞かせてもらいたい」
「理由は二つ。お前は俺を買いかぶりすぎだ。俺はただの神姫マスターにすぎない。神姫に注ぐ愛情なんて、ティアの分しか持ち合わせていない。
二つ目は……さすがに大ケガさせられた相手と仲良くするのは躊躇するものだろう」
沈黙が降りる。
マグダレーナも俺が快諾するとは思っていまい。
やがて聞こえてきたのは、しわがれた神姫の声。
「……ならば、こういうのはどうだ。明日のバトルで我々が勝ったら、そなたに仲間になってもらう、というのは」
「な……そんな賭け、受けられるはずがありません! 受ける必要もないでしょう!」
俺より先にティアが答えた。
彼女は未だに憤りを隠さない。珍しいことだ。
しかし、マグダレーナは冷静な口調で続ける。
「明日のバトル、そちらの要求ばかりでは不公平というものだろう。こちらにもメリットが無くては、やる気も起きない」
「だからって……!」
「そなたが口を挟むことではない、ティア。そなたのマスター、遠野貴樹に尋ねているのだ」
ティアが悔しそうに口を噤む。
一瞬だけ間をおいて、俺は答えた。
「……いいだろう」
「マスター!?」
ティアは驚いて俺を見上げている。……そんなに驚くことでもないだろ。
マグダレーナが念を押す。
「二言はないな?」
「ああ。ただ、お前が明日、『エトランゼ』に勝てたらの話だ」
「勝つさ。負けるはずもない」
自信満々だな、マグダレーナ。俺が仲間になるのは確実と思っているのだろう。
「それじゃあ、明日」
わずかな微笑みを残し、桐島あおいは踵を返した。
彼女の姿が、ゲームセンターの自動ドアの向こうに消えるまで、緊張は崩せない。
桐島あおいの姿が見えなくなって、たっぷり二分ほどした後、ようやくどっとため息をついた。
これで今日の俺の目的は達せられた。
明日、『狂乱の聖女』は確実に現れる。
俺は、店員用カウンターに佇む店長に頭を下げた。
「協力、ありがとうございます」
「何事もなくてよかったね」
にっか、と笑って、店長はサムアップのサインを俺に向けた。
さすがのマグダレーナも、衆人環視のゲームセンターで事を荒立てるわけにはいかなかっただろう。
会談の場所をここにして正解だったわけだが、それでも緊張してしまったのは、俺の肝っ玉が小さいからだろうか。
「……どうして、あんな約束したんですか?」
「え?」
胸ポケットから、不機嫌な声がする。ティアだ。
「なんであんな賭けしたんですか! もしもミスティが負けたら、わたしたち、マグダレーナの仲間に……あんな神姫の仲間にならなくちゃいけないんですよ!?」
「……そうする必要があったんだよ」
「必要って……なんでです!?」
「明日必ず、『狂乱の聖女』たちを菜々子さんの前に引っ張り出すためだ」
「……!?」
「バトルに勝てば仲間になる……そういう風にしておけば、マグダレーナは自らすすんでバトルをしに来るだろう。明日は必ず現れる。そういう風にし向けた」
「そんな……もしミスティが負けたら、どうするつもりなんですか!?」
「考えてない」
「そんな!」
「前に言わなかったか、ティア。今回の件、俺は菜々子さんのためにすべてを賭けると」
「あ……」
ティアはそれを聞いて、納得したようだ……いや、諦めたのか。自分のマスターがどんな人物であるのか、知らないティアではない。
それでも、ティアは小さく呟いた。
「でも……わたし、いやです……マグダレーナの仲間になるかもしれないってだけでも……」
「信じることだ。明日ミスティが勝つことをな」
すべては明日、菜々子さんとミスティの活躍にすべてがかかっている。
やれることはすべてやったのだ。
人事を尽くして天命を待つ。後はただ、信じるしかない。
……と思ったところで、まだ一つやり残したことがあるのを思い出した。
□
「てめぇ……それ本気で言ってんのか!?」
俺は大城に胸ぐら捕まれて、絞り上げられた。
眉をつり上げた大男の顔が間近にある。かなり怖い。
だが、大城のこの反応は予想済みである。一発殴られるくらいは覚悟すれば、大城のドスの利いた視線も受け流せる。
俺は努めて冷静な口調で言い返した。
「そうだ。俺の策に最初から参加しているお前にしか頼めない」
「……お前がティアにやらせりゃいいんじゃねぇのか」
「ティアには別の仕事がある。この仕事はティア以外の神姫にやってもらう必要がある」
「だからって……そんな卑怯な真似、俺たちにしろってか!?」
俺たちが話しているのは、久住邸の裏である。
「ノーザンクロス」を出た俺は、まっすぐに久住邸にやってきた。
ここでは、最後の仕上げの対戦と、借りていた機材の後片づけが行われている。
チームのみんなに仕事を任せていた俺だったが、ここはもうしばらく任せて、大城を呼びだした。
誰にも知られてはならないため、場所を変えての内緒話である。
「……確かに卑怯に見えるかもしれないが、結果がそうならないことは保証する」
「言ってる意味がわかんねぇ……だいたい、なんだってそんなことをする?」
「悪いが、言えない」
「……秘密主義もたいがいにしろよ!?」
「明日になれば……バトルの時にすべて分かる。だから、大城。何も言わずにやってくれ。もしお前ができないというなら、安藤に頼む。だが、安藤とオルフェはまだバトルを始めて日が浅い。お前と虎実の方が安心して任せられる」
「だからってよ……」
大城は見た目で勘違いされやすいが、一本気な性格で、卑怯なことが大嫌いだ。
俺の頼みの内容にどうしても納得行かないのだろう。
もっとも、こんな話をチームの誰に持ちかけても、同じように納得しないだろう。
だからこそ、大城一人に相談しているのだ。
俺を見つめる大男の瞳に、苦渋の色が見て取れる。
こいつのこんな顔は俺だって見たくない。申し訳ない、と思う気持ちが俺の中に生まれたとき、
「トオノ……」
大城の肩の上で、じっと話を聞いていた虎実が口を開いた。
「アンタが言ってることに嘘はないんだな?」
「ああ」
「……ならやるよ」
大城の肩から俺を見る虎実の顔は苦渋に満ちている。
視線はナイフのように鋭い。
「トオノは信じられる。だから、どんなに卑怯臭いことだって、アンタの言うとおりにやってやる。
だけど、アタシとアニキを裏切ったりしたら……タダじゃおかねぇ」
俺は虎実にうなずいて見せた。
「明日、もし俺が君らの信頼を裏切ったと思うなら……煮るなり焼くなり好きにしてくれていい」
「……覚えておくぜ、その言葉……」
大城は突き飛ばすようにして、俺から手を離した。
俺は少しせき込みながら、襟元を正す。
これでようやく、明日の策について話すことができる。
大城も虎実も、心の内では全然納得していないように見えた。
すまんな。お前たちに嫌な思いをさせているのは、不器用な俺のせいだ。
もっとうまい策、うまい話し方があるのかもしれない。
だけど、今の俺には無理だ。だから、ごめん。
俺は心の中で二人に頭を下げる。
明日、すべてが終わったら、しっかり口に出して言おうと心に決めて。
□
この事件に関わりはじめた頃、夕闇があたりを包むのはもっと早い時間だったように思う。
今は四月。あの頃に比べれば、日が射す時間も長くなった。
まだ夕闇が空を覆おう前に、チームメイトたちは帰って行った。
俺は一人、最後の片づけをしていて、久住邸を辞する頃には、もうあたりは真っ暗になっていた。
「駅まで送るわ」
一人帰ろうとする俺に、菜々子さんがついてきた。ミスティも一緒だ。
俺に断る理由もなく、二人並んで駅まで歩き始めた。
夜闇が降りるこの時刻ともなれば、住宅街といえど人影はほとんどない。二人の足音だけが静かに響く。
思えばここ数ヶ月、二人でゆっくり話す時間もなかったような気がする。
せっかく二人きりなのだ。何か気の利いたことを言うべきだろうか。
だが、そんな言葉がすぐに思い浮かぶはずもない。気の利いた言葉がすらすら出てくるようなら、苦労はしていない。
俺がぐるぐるとそんなことを考えていると、菜々子さんが小さく言った。
「ちょっと……寄り道していかない?」
「寄り道?」
「うん。少し、話したいことがあるの」
俺の胸がドキリとした。
決戦を明日に控え、彼女は何を話したいというのか。
俺には想像もつかない。
だが、俺には彼女の言葉を聞く責任があった。明日の決戦の参謀として、チームメイトとして、そして……恋人として。
菜々子さんは先に歩いていく。
住宅街の中、目印もないような角をいくつか曲がり、たどりついたのは……小さな公園だった。
小さな遊具さえない、ベンチと砂場と植木があるだけの、誰からも忘れられたような、小さな公園。
「ここは……」
俺は既視感を感じている。
この公園に来るのは初めてのはずだ。
だが、なぜかこの場所を知っている気がする。
薄暗い街灯の光を受け、菜々子さんはゆっくりと振り向いた。
愁いを帯びた微笑。
いつもと違う雰囲気にドキリとする。
今の菜々子さんは、儚く美しい。
「ここは……わたしがあおいお姉さまに負けた場所」
「……!」
そうか。
二年以上前、暑い夏の日、白いストラーフを従えた菜々子さんは、黒い修道女を相棒にした桐島あおいと、ここで対決したのだ。
ここは初代ミスティ最後の戦場であり、墓標でもある。
「明日のバトルの前に……貴樹くんには、ちゃんと話しておきたかったの。わたしとお姉さまのことを」
「ああ……」
「……聞いてくれる?」
「いいとも」
俺はベンチに腰掛ける。
菜々子さんは俺と一人分のスペースを空けて座った。
これが、今俺と菜々子さんが取らなければならない距離感。
夜空に瞬く星を見上げながら、菜々子さんは静かに語り始めた。
■
菜々子さんの肩にいるミスティが、マスターの胸ポケットにいるわたしをずっと見つめている。
頑なな表情で、何か言いたそうにしている。唇が開きかけては、言葉を出さずに、また噤んでしまう。
きっと、わたしも今、同じ顔をしていると思う。
わたしもミスティを見つめ返していた。
言いたいことがある。伝えなければならないことがある。
でも、ミスティは耳を貸してくれないだろう。ここが白いストラーフのミスティにまつわる場所であるならば、なおさら。
あのネット上で出会った、初代ミスティの言葉を、わたしはまだ彼女に伝えられずにいた。
想いは必ず伝わるって、虎実さんは言っていたけれど。
結局、あれから後、ミスティと話をすることはできずにいた。
ぎくしゃくした雰囲気のまま、わたしとミスティは大事なバトルの日を迎えようとしている。
それが嫌で、声をかけようとするけれど、何を話せばいいのか、わたしには見当がつかない。
それはミスティも同じようで、だからわたしたちは奇妙な見つめあいを続けているのだった。
□
菜々子さんの口から、彼女の過去がかいつまんで語られる。
両親の死、頼子さんから贈られた神姫、桐島あおいとの出会い、『アイスドール』と呼ばれた頃、コンビ『二重螺旋』の結成と解散、再び現れた桐島あおいの豹変、そしてミスティの敗北と破壊……。
知っているよ。
君を思う人たちが、俺に多くを語ってくれたから。
しかし、俺はその言葉を口にせず、じっと彼女の語りに耳を傾ける。
これは儀式だ。
菜々子さんが、明日、桐島あおいと戦う覚悟を決めるための儀式。
話は続く。
イーダのミスティを相棒とし、『エトランゼ』とあだ名されるほどに遠征を繰り返した。
桐島あおいの行方を追いかけるため、そして、『狂乱の聖女』を倒せるだけの実力を身につけるために。
そして……。
「遠征から帰ってきたときにね、「ポーラスター」の七星メンバーから、噂を聞いたの。珍しい戦い方をする神姫が、最近有名になってきているって。もちろん、対戦しに行ったわ」
俺は何となく相づちを打つ。
この先は、俺も知らない彼女の過去、彼女の想い。
そして、菜々子さんは、言った。
「そこで会った神姫マスターは、ある意味、わたしとお姉さまが目指していた理想通りのバトルをする人だった」
そんな人物がいるのか。
菜々子さんと桐島あおいが目指した理想を体現する神姫マスター。
「あなたのことよ、貴樹くん」
……この時の俺は、今までで一番間抜けな顔をさらしていたに違いない。
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2023-02-05T10:22:38+09:00
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ACT 1-17
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2133.html
ウサギのナミダ
ACT 1-17
□
その日は、あまりにもいろいろありすぎて、アパートに帰り着いたときには、すっかり疲れ切っていた。
水浸しの服を脱ぎ、熱いシャワーを浴びると、あとはもう寝床にごろりと横になって、他に何をする気も無くなっていた。
体は疲れていたが、意識は妙に冴えていた。
まだ興奮しているのだろう。
今日あった出来事を反芻しようとするが、うまく頭が回らない。
結局俺は、ボーッと天井を見上げながら、ただただ寝っ転がっていた。
どのくらいそうしていただろう。
携帯電話に着信があった。メールの着信音。
ゆっくりと手を伸ばし、液晶画面を見る。
約束通り、久住さんからだった。
メールの文面は、彼女らしく、簡潔だった。
「今日は生意気なことを言って、ごめんなさい。
明日、午前11時に、JR○○駅改札前で待っています。
追伸。 ティアの写真、送ります。」
添付ファイルを開く。
俺は小さく吹き出した。
ティアとミスティが一緒に写っている画像だ。
Vサインを出しながらティアの肩を抱いて余裕の笑顔のミスティに対し、ティアはなんとも間抜けな表情で肩をすくめている。
バカだな。笑えばいいのに。
俺はその画像だけで、ひどく安心してしまった。
ティアは無事だ。久住さんのところにいる。いまはそれでいいのだ、と思えるほどに、心に余裕ができていた。
メールの返事を送る。待ち合わせと画像の件に了解の旨を伝えた。
それにしても。
久住さんが指定した待ち合わせ場所が不可解だった。
最寄り駅からだと、ちょうど東京をまたいでいく感じになる。
そんなところで待ち合わせとは……他に行くところでもあるのだろうか。
まさか、彼女なりの嫌がらせというわけでもあるまい。
……そんなことを考えること自体、俺の心が疲れている証拠だ。
俺は目覚まし時計をセットする。
明日の約束に遅れるわけにはいかない。
そして、寝床に横になると、不意に睡魔が襲ってきた。
疲れた……。
そう思いながら、睡魔にされるがまま、眠りに落ちていった。
翌朝。
異常に早く目が覚めた。
まだ気が高ぶっているのかも知れない。
だが、体の疲れはとれているし、頭の中もすっきりしていた。
時間にはまだだいぶ余裕がある。
俺はゆっくりと身支度を整え、駅前で朝食を取ることに決めて、家を出た。
ティアのいない一晩で、俺は心の整理がついていた。
必要な時間、だったのだろう。久住さんはそれがわかっていて、俺にこの時間をくれたのかも知れない。
結局、一番大事なことは、ティアが俺のそばにいることだ。
そのためなら、別にバトルロンドにこだわる必要はないのだ。海藤とアクアのように。
誰に見せることもなくなるだろうが、ランドスピナーを自在に操り、走る楽しさをティアが感じ続けてくれるなら、それでいいのだ。
それをティアに言ってやるつもりだった。
ティアは……どんな顔をするだろうか。
それにしても、今日の待ち合わせ場所は不可解だ。
待ち合わせなら、うちの最寄り駅、そうでなければ、三駅ほど離れた久住さんの最寄り駅でもいいはずなのに。
なぜ二時間近くもかかる遠いところ、しかも大都市というわけでもない、ごく普通の駅前なんて指定したのだろうか。
久住さんは、よくわからない人だ。
彼女にはいつも驚かされる。
それは不快ではなく、むしろ嬉しいサプライズが多いわけなのだが。
今日の待ち合わせ場所も、彼女の特有のサプライズなのだろうか。
やっぱり、よくわからない。
俺は電車の中で、つらつらとそんなことを考えている。
二時間近くかかった列車の旅も、ここで終着だ。
たどり着いたその駅は、全く普通のJRの駅だった。
時間よりも十分ほど早い。
待ち合わせは改札の前なので、もう一度駅名を確認してから、改札を通った。
彼女は先に来ていた。
……だが、声をかけるのがためらわれた。
あそこにいる女性は、本当に、久住さんだろうか?
いつもと雰囲気がまるで違っていた。
いつもの久住さんは、細いジーパンなどを履き、スポーティーな格好だ。それに武装神姫収納用のアタッシュケースを持ち歩いている。
ところが、待ち合わせの場所にいたのは、
「あ、遠野くん」
そう言って、微笑みながら小さく手を振ったので、やはりこの少女は久住さんで、待ち合わせの相手はどうやら俺であることを、かろうじて認識できた。
「おはよう、久住さん……待った?」
なんとかここまで口にできた俺を、むしろ誉めてもらいたい。
女の子に免疫のない俺は、緊張がすでに最高に達し、思考は遙か彼方に吹っ飛んでいた。
もちろん、表情に気を使う余裕などこれっぽっちもない。
「わたしも今来たところ。……でも、早かったですね」
「……遅刻すると、いけないと思って。でも待ち合わせ場所に完璧に変装した人がいたからびっくりしたよ。その格好どうしたの?」
「さすが遠野くん、いい心がけです。これですか?それは…まだ秘密です」
にっこりと笑う久住さん。
反則度が五割増しくらいになっている気がする。
これは久住さんによる何かの策謀なのだろうか。
俺にとってはもうサプライズを通り越して、遠大な陰謀の一端ではないかと思われる。
この時点で俺はもうドギマギした気持ちをどうにも持て余しており、すがりつく話題を必死に捜していた。
そして、巡り巡った思考の末、一番大切な今日の本題にたどり着いた。
「あ、あの……てぃ……ティア、は……?」
「大丈夫。ちゃんと連れてきました。 いつも胸ポケットが定位置みたいでしたのでコートの内ポケットにしっかりと。
……ティア」
久住さんが、下げたハンドバッグにその名を呼ぶと、二人の神姫がバッグの口からひょっこりと顔を出した。
■
菜々子さん(ミスティのマスターも、名前で呼ぶことをわたしに要求した)の呼びかけに、左右の大きな内ポケットにそれぞれ隠れていたわたしとミスティは前を塞ぐボタンを弾け飛ばしてから顔を出した。
すぐに目が合う。
マスター。
一日会っていないだけなのに、ひどく懐かしい気持ちになった。
同時に、罪悪感が沸いてくる。
それは、わたしの噂で迷惑をかけたことと、マスターに無断でいなくなったことの両方の意識が入り交じった複雑なものだった。
マスターは少し驚いたようにわたしを見つめ、
「ティア……」
わたしの名前を呟いて……そのまま、地面に両膝と両手を着いてうなだれてしまった。
ええぇ?
マスターは大きく一つため息をつく。
「どんだけ心配したと思ってるんだ……」
あ……。
昨晩、久住さんが言ったとおり。
マスターは、本当に、わたしの心配をしてくれていたんだ。
わたしのことなんて、忘れてそれで……幸せになってくれればよかったのに。
それでも、マスターが心配してくれたことが嬉しくて。
自分が消えようとしてたことなんて棚に上げて。
なんてひどい神姫だろう。
「ごめんなさい……」
結局、いつもの言葉を口にするしかない、わたし。
でも、マスターは、
「おまえが無事なら……いいさ」
そう言って顔を上げた。
もう、いつもの無表情だった。
包帯を巻いていない、左手の甲を差し出す。
「戻ってきて……くれるよな?」
マスターは相変わらず表情を表に出さなかったけれど。
でも、声が、少し震えていた。
わたしは、菜々子さんのバッグから出ると、マスターの左手に乗り移る。
そのとき、後ろを振り返ると、ミスティが笑顔で頷いていた。
□
左胸のポケットの重さに、俺は心底ほっとする。
俺は立ち上がると、久住さんに頭を下げた。
「ごめん。見苦しいところを見せてしまって……」
「ううん……ふふふ、いいリアクションでした」
「それから……ありがとう。ティアを見つけてくれて……昨日も、気を遣ってくれて……」
「大したこと、してないわ」
そう言って、久住さんは首を横に振った。
彼女がどんな思いなのか、その表情から伺い知ることはできなかった。
久住さんは、一度目を閉じて、うん、と頷くと、俺を見た。明るい表情。
「さて、用事も済んだことだし……ねえ、遠野くん、連れて行きたいところがあるの。付き合ってくれる?」
「え? あぁ……」
やはり続きがあった。
「はじめから、そのつもりだったんだろう?」
「やっぱり、わかる?」
「そうじゃなきゃ、こんな遠くに呼び出したりしないだろう?」
「まあ、ね」
久住さんは反則度五割増しで笑っている。
彼女を勘ぐっているのは、俺の神経が過敏なのか、疑心暗鬼すぎるのか。
俺が何となく即答できずにいるのを見て、彼女は言った。
「大丈夫。ただのホビーショップなんだけど……遠野くんも、きっと気に入ると思うわ」
「ホビーショップ……?」
ただのホビーショップなら、途中過ぎた秋葉原でも事足りる。
わざわざこんなところまで来るというのには、理由があるのだろうが……。
まあ、考えていても仕方がない。
せっかくこんな遠くまでやってきたのだから、このあたりのホビーショップでバトルロンド観戦も悪くはないだろう。
俺たちの顔が知られているわけでもないのだから。
「わかった。付き合うよ」
「決まりね」
久住さんはにっこりと笑う。
俺と彼女は並んで歩き出した。
駅前の商店街を歩いていく。
何も特別なことなどない、どこにでも見られる、ごく普通の商店街だった。
いったい、何を考えているんだろう?
俺は隣を歩く久住さんを盗み見る。
……えらく細い肩が視界に入った。
久住さんは、男の俺に比べれば確かに小柄だったが……こんなにも細い肩だったろうか。
いや、全身が細くて華奢な感じがする。
それでも、痩せすぎという感じではなく、女性らしい柔らかな体つきだった。
いかにも、女の子という感じで……。
これでとても美人なのだから、俺が隣にいるのがえらく場違いに感じてしまう。
というか、端から見たらどうなのだろう。
一緒に並んで歩いているなんて、まるでデートみたいなのではないだろうか。
……デート!?
俺と、こんなに可愛い女の子が!?
いやいや、違う。
これは久住さんの厚意で、ホビーショップに案内してもらっているだけなのだ。
だが、一度意識してしまうと、頭では否定していても、感情が沸騰してしまう。
おかげで、女の子にろくに免疫のない俺は、久住さんの隣で緊張しっぱなし、彼女を意識しすぎて頭の中は真っ白という状態に陥った。
「ここよ」
目的地に着いたことを久住さんが教えてくれなければ、ぎくしゃくとした足取りのまま、どこまでも歩いていったかも知れない。
俺たちがたどり着いたのは、彼女が言ったとおり、ホビーショップの店先だった。
それほど大きいとは言えない、商店街にある個人経営の普通のホビーショップ。
店の看板を見上げる。
『ホビーショップ・エルゴ』とあった。
エルゴ……?
「って、ここ……あの、エルゴ……なのか?」
「うん」
久住さんはあっさりと頷いた。
「遠野くんだったら、きっと来てみたいだろうと思って」
それはもちろんだった。
ホビーショップ・エルゴといえば、武装神姫ファンならば知る人ぞ知る名店だ。
俺が知るエルゴ評でもっとも印象的だったのは「武装神姫の魅力がすべて詰まっている店」というものだった。
さらに、ここのバトルスペースの常連達は、有名な神姫プレイヤーばかりなのだ。
ティアを迎える前から、一度は来てみたいと思っていた。
久住さんは店の自動ドアをくぐっていく。
俺もあわてて後に続いた。
「いらっしゃいませ」
元気のいい女性店員の挨拶が出迎えてくれる。
店内を見渡した俺は、圧倒された。
気合いが入っている、なんてものじゃない。
武装神姫のパッケージ商品はもちろん、追加武装からカスタムパーツ、専用工具にメンテナンス用品、果ては神姫専用のオリジナル衣服まで。
ありとあらゆる武装神姫関連製品が所狭しと、しかしきちんと系統立てて、わかりやすく並べてある。
秋葉原などの大型店舗に比べたら小さい店ではあるが、へたをすればこっちの方が品揃えがいいんじゃないか?
店頭に置ききれない分は、検索端末で在庫確認、注文もできるようになっているみたいだ。
端から物色したい気持ちになるが、今日は久住さんの付き添いである。
とりあえず我慢して、久住さんに目を移す。
「おひさしぶり、静香さん!」
「あら、菜々子さん、元気だった?」
久しぶりの再会に、エプロンをつけた女性店員とハイタッチなんかしている。
女性店員はめちゃくちゃ美人だった。流れるような黒髪が印象的な美人。
久住さんとはタイプが違うが、男だったら思わず振り向いてしまうほどの美貌だ。
武装淑女にはえらく美人が多い気がするが……美人じゃないとバトルロンドをやってはいけないという掟でもあるんだろうか。
なんて、腐った思考をしていた俺に、その店員さんが視線を向けてきた。
俺の上から下までさらり、と視線を流し……
「彼氏?」
久住さんへの問いに、俺は思わず吹き出した。
久住さんは、店員さんの耳元へ口を寄せ、何事か囁いている。
そして、
「ふぅん……」
また俺をさらりと見渡した後、なにか納得げに頷いていた。
……なんなんだ。
「ところで、店長は?」
「奥で作業中。呼んでくる?」
「ううん、いいわ。こっちに戻ってきたら、わたしが来たこと伝えてくれますか? 言えばわかりますから」
「わかったわ」
店員さんが頷くのを確認して、久住さんは俺のそばに戻ってきた。
「先にティアとミスティを預けてしまいましょう」
「え?」
神姫を預ける?
久住さんは俺を店の一角に案内する。
そこは神姫サイズの机や椅子が並ぶスペースだった。
いまも数人の神姫がたむろしている。
あとで説明を受けたが、神姫学校と言って、エルゴで神姫を預かるサービスなのだそうだ。
「ティアはこっちね」
「ミ、ミスティ……ちょっとぉ!?」
ミスティはティアに腕を絡めて、ぐいぐい引っ張っていく。
以前にも利用したことがあるようで、勝手知ったる、という感じだった。
「わたしたちは、上ね」
久住さんは俺を店舗の二階へと案内する。
店の二階はバトル用のスペースになっており、バトルロンド用の筐体が並んでいた。
筐体の数こそ、ゲームセンターに比べれば見劣りするが、観戦用の大型ディスプレイも設置されているし、多人数対戦用の設備も備わっている。
休憩スペースで観戦もできるようになっていて、いたれりつくせりだった。
小さな店なのに、多くの常連が通うのも、当然だと思う。
近くにあったら、俺だって常連になっているだろう。
久住さんは差し向かいになれる小さなテーブルのある休憩スペースに、俺を連れてきた。ちょうど誰もいない。俺たちは向かい合って腰掛けた。
大型ディスプレイでは、現在プレイ中のバトルロンドの様子が映し出されている。
思わず目がいってしまう。
バトルをしているのは、アーンヴァルとマオチャオ。
アーンヴァルはノーマル装備の組み替えのカスタムらしい。
一方のマオチャオは、巨大なブースターを背負い、高速で滑空している。
バトルは白熱している。その動きから、両者ともかなりの手練れだとわかる。
「あの神姫……両方とも見たことあるな……」
「ああ……マイティとねここ、有名だもの」
久住さんのさも当たり前のような答えに、俺は吹き出した。
『公式武装主義者』と『雷光の舞い手』かよ!?
俺でもその二つ名を知っている、有名な武装神姫だ。
その二人が普通に草バトルしているこの状況って……。
いきつけのゲーセンにしか行ったことのない俺にしてみれば、スタープレイヤー同士のバトルをあっさり観戦できるこの状況が、とんでもなく贅沢なことに思えた。
「さっきの、店員の女の子もね、有名よ?」
「へえ……?」
「ドキドキハウリンのマスター」
「ぶっ」
俺が驚く様を、久住さんは面白そうに見ている。
まったく、俺は井の中の蛙だ。
彼女が『天才』戸田静香か。
秋葉原の神姫バトルミュージアムで、バトルロイヤル五二機撃墜を達成したハウリン。
そのマスターはあらゆる技術を身につけており、武装、ソフトウェア、果ては神姫用の衣服まで作成するとか。
バトルも強いが、ショーマンシップでバトルを盛り上げることを一番とする、趣味人。
どんな人物かと思っていたが、まさかあんな美人が……。
俺は首を振った。
世の中、わからないことが多すぎる。
俺たち二人は、そこでしばらくバトルロンドを観戦していた。
白熱の攻防を見ていると、やはり血が騒ぐ。
俺もバトルしてみたい、と思う。俺の、武装神姫と。
「やっぱり、バトルロンドはいいな……」
心からそう思う。
ティアに、バトルしなくてもいい、なんて言ってやるつもりだったが、心の底では納得していなかったのかも知れない。
バトルに挑む神姫達の美しい姿、マスターが繰り出す知略の攻防、そして神姫とマスターがともに掴む勝利の達成感。
何物にも代え難い、と思う。
「遠野くんは……どうして武装神姫をはじめたの?」
唐突な、久住さんの問い。
「どうしてティアを自分の神姫にしたの? あのレッグパーツはどこで手に入れたの? どうしてあの戦い方にこだわるの? ねえ……」
まっすぐな視線に射抜かれて、俺は身動きすることができなかった。
「教えて。わたし、あなたのこと……あなたたちのこと、何も知らない」
■
ミスティはわたしの腕を取って、ぐいぐいと引っ張っていく。
わたしは歩調を合わせるのがやっと。
彼女は妙に楽しそうに見えた。
神姫学校のスペースには、何人かの神姫が集まって、グループを作って歓談しているようだった。
ミスティは、グループの一つに近づいていく。
グループの輪で、中心になっていた神姫が、近寄ってくるわたしたちに気がついて、顔を上げた。
ツガル・タイプだ。
瞳に少し気位の高そうな光を宿している。
「あら、珍しい……ミスティ、ひさしぶりね」
「ごきげんよう。調子はどう?」
まずまずね、なんて答えたツガル・タイプは、ミスティに腕を抱えられているわたしを見た。
「その子は?」
「この子はティア。わたしの親友」
「親友? あなたの?」
何か信じられない珍獣を見るような視線。
それでも、ツガル・タイプの彼女は、微笑んで挨拶してくれた。
「はじめまして、ティア。わたしはシルヴィア。ミスティの昔なじみよ。よろしくね」
「は、はい……ティアです……よろしく……」
お辞儀をしたわたしの頭の中に、浮かんでくるものがある。
ツガル・タイプのシルヴィア……?
聞いたことがある。確か……
「レッド・ホット・クリスマス……?」
シルヴィアさんは頷いた。
その二つ名は全国大会でも知られた有名な神姫の名だった。
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2023-02-05T07:40:02+09:00
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