コラボレート短編 その1 『ねここの風』
・・・。
日が燦々と照らす新緑の葉。影は短く濃いが、暑さとまではいかない穏やかな日。
全く平和な気候に反して彼女は不機嫌であった。
ローファーの靴の踵をカツカツと鳴らしながら、肩をいからせ、その細く整えられた眉を吊り上げながら、一見して機嫌が悪いと解る表情のままに人通りの少ないブロックを歩いていた。
そのポニーで括られた碧が僅かに混ざった頭の上で。一体のマオチャオが少し寂しそうな感を漂わせてちょこんと座っている。
「みさにゃん・・・」
「何?」
かけられた声に、多少ぶっきらぼうに答えながら。彼女、風見美砂は、マオチャオ・・・ねここの問いに反応する。
「あのね。ねここ・・・もういいから」
「ダメなのっ」
そう、少し強い語気で言われ。ねここは尚も何かを言おうとしたが、やがてしょんぼりと尻尾を垂らして押し黙った。
日が燦々と照らす新緑の葉。影は短く濃いが、暑さとまではいかない穏やかな日。
全く平和な気候に反して彼女は不機嫌であった。
ローファーの靴の踵をカツカツと鳴らしながら、肩をいからせ、その細く整えられた眉を吊り上げながら、一見して機嫌が悪いと解る表情のままに人通りの少ないブロックを歩いていた。
そのポニーで括られた碧が僅かに混ざった頭の上で。一体のマオチャオが少し寂しそうな感を漂わせてちょこんと座っている。
「みさにゃん・・・」
「何?」
かけられた声に、多少ぶっきらぼうに答えながら。彼女、風見美砂は、マオチャオ・・・ねここの問いに反応する。
「あのね。ねここ・・・もういいから」
「ダメなのっ」
そう、少し強い語気で言われ。ねここは尚も何かを言おうとしたが、やがてしょんぼりと尻尾を垂らして押し黙った。
一つの『鈴』だった。
神姫用に誂えられ、美麗な装飾が入った、その金のベル付きネックレス。
値段は決して安くない・・・むしろ、神姫用のアクセサリーとしては破格の値段と言えるだろうが、金銭的余裕の大きな彼女にしてみれば値段は関係ない。
都内郊外のデパートで限定で発売されるという、その鈴をネット上の情報サイトで実物の画像を見た時に。美砂は自身のパートナーであるねここに、これをプレゼントしようと即決した。そう思わせるまでに見事なその作品を、何とかして手に入れようと、その発売日に高校をお休みまでして買いに行った。
が。
マオチャオ、ツガルなど。鈴が似合う、人気のある武装神姫シリーズのオーナーが予約を殺到させたらしく。
予約無しでも、値段が値段だし買えるだろうと甘く見ていた美砂は。見事に目の前で最後の一つを、見知らぬツガルのオーナー攫われる形で。買う事が出来ず無駄足となってしまったのだ。
値段は決して安くない・・・むしろ、神姫用のアクセサリーとしては破格の値段と言えるだろうが、金銭的余裕の大きな彼女にしてみれば値段は関係ない。
都内郊外のデパートで限定で発売されるという、その鈴をネット上の情報サイトで実物の画像を見た時に。美砂は自身のパートナーであるねここに、これをプレゼントしようと即決した。そう思わせるまでに見事なその作品を、何とかして手に入れようと、その発売日に高校をお休みまでして買いに行った。
が。
マオチャオ、ツガルなど。鈴が似合う、人気のある武装神姫シリーズのオーナーが予約を殺到させたらしく。
予約無しでも、値段が値段だし買えるだろうと甘く見ていた美砂は。見事に目の前で最後の一つを、見知らぬツガルのオーナー攫われる形で。買う事が出来ず無駄足となってしまったのだ。
当初は美砂とお出かけ。それもサボリというちょっとワルいドキドキな雰囲気を楽しんでいるのか、嬉しげに振舞っていたねここも、一気に機嫌の天候が急転直下したマスターに、今では無言で頭に乗っている事しか出来なかった。
(もう! あれは・・・ねここに一番似合うのに!)
そうも考えながら。美砂は駅へと来た道を戻っていた。
そうも考えながら。美砂は駅へと来た道を戻っていた。
・・・。
ねここは。別段、鈴が欲しかった訳じゃない。
普段は高校。そして休日はバトル・・・いつも一緒とはいえ、とてもじゃないが一般の女子高生らしいとは言えぬ嗜好の持ち主の美砂が、学校を休んで一緒にお買い物に行こうと・・・それもバトル用品ではなく。オシャレな物を買いに行こうと誘ってくれたことが嬉しかった。だが。
(・・・つまんない)
美砂の歩き方のせいか、いつもより『特等席』が揺れる。別段変化の無い壁が続く閑静な住宅街。その、つまらない景色に視線を向けながら、ねここは小さく溜息をついて頬を膨らませた。
ねここは。別段、鈴が欲しかった訳じゃない。
普段は高校。そして休日はバトル・・・いつも一緒とはいえ、とてもじゃないが一般の女子高生らしいとは言えぬ嗜好の持ち主の美砂が、学校を休んで一緒にお買い物に行こうと・・・それもバトル用品ではなく。オシャレな物を買いに行こうと誘ってくれたことが嬉しかった。だが。
(・・・つまんない)
美砂の歩き方のせいか、いつもより『特等席』が揺れる。別段変化の無い壁が続く閑静な住宅街。その、つまらない景色に視線を向けながら、ねここは小さく溜息をついて頬を膨らませた。
そんな瞬間。美砂の足が、止まった。
「・・・?」
遺伝子操作され、一定以上の高さにならないように揃えられた街路樹から落ちる木漏れ日。その先に。
一軒の小さな喫茶店があった。
住宅街の真ん中。一軒家と一軒家の間に挟まれる形で、ぽつんと・・・明らかに異質であるが、それでも空気のように周囲の風景に溶け込んでいる白い壁。
(・・・つかれたかな)
肩で溜息を付き。美砂はそのお店に向かった。
「ちょっと寄っていこ?」
「・・・」
ねここの返答も聞かず、店の名前も見ずに。美砂はその扉を押しくぐった。
「・・・?」
遺伝子操作され、一定以上の高さにならないように揃えられた街路樹から落ちる木漏れ日。その先に。
一軒の小さな喫茶店があった。
住宅街の真ん中。一軒家と一軒家の間に挟まれる形で、ぽつんと・・・明らかに異質であるが、それでも空気のように周囲の風景に溶け込んでいる白い壁。
(・・・つかれたかな)
肩で溜息を付き。美砂はそのお店に向かった。
「ちょっと寄っていこ?」
「・・・」
ねここの返答も聞かず、店の名前も見ずに。美砂はその扉を押しくぐった。
扉の硝子に、不機嫌そうな自分の顔を見て、より一層不機嫌そうな顔をしながら。
カタンという音と共に。OPENの吊り看板を揺らし。
その吊り看板の上、扉の目線の部分には、『伯林』とだけ、書かれていた。
カタンという音と共に。OPENの吊り看板を揺らし。
その吊り看板の上、扉の目線の部分には、『伯林』とだけ、書かれていた。
コーヒーの香りが鼻をつく。白い物が混ざった髭を蓄えたマスターが顔を上げる。
「おや、いらっしゃい」
内装は普通のカフェ。客は時間帯の問題もあってか、他に誰もいないようだ。
入り口に程近い椅子に座り、モカのブレンドを注文して。美砂は一息をついた。何だか暗いな、と思えば。照明は落とされ、外からの日光だけが店内を照らしていた。
(・・・)
暖かな日が大きく開いた出窓から差し込み、板張りの床に光のストライプを落としている。その浮かび上がった木目を見るだけで。随分とささくれだった心が一応は落ち着いた。
ぴょんとねここが頭から飛び降り、テーブルに着地する。
「おや、いらっしゃい」
内装は普通のカフェ。客は時間帯の問題もあってか、他に誰もいないようだ。
入り口に程近い椅子に座り、モカのブレンドを注文して。美砂は一息をついた。何だか暗いな、と思えば。照明は落とされ、外からの日光だけが店内を照らしていた。
(・・・)
暖かな日が大きく開いた出窓から差し込み、板張りの床に光のストライプを落としている。その浮かび上がった木目を見るだけで。随分とささくれだった心が一応は落ち着いた。
ぴょんとねここが頭から飛び降り、テーブルに着地する。
とこん。
聞きなれぬ音が鳴った。
ねここ自身も目を丸くして足で。とことこ、とテーブルの天板を叩いている。
マスターの趣味なのか、全てが木製テーブルになっている。合成樹脂が基本となっているこの時代で、実に珍しい。
(へぇ・・・)
しかし特別の感慨も無いまま、彼女は運ばれてきたコーヒーに口をつけた。
・・・味なんてどうでも良い。とりあえず落ち着いたら帰ろうと。聞きなれぬクラシックのBGMを聞き流しながら、暗い店内から外を見やった。
平日の昼間、誰も通らない。風だけが、それなりに吹き、無機質ささえ感じさせる街路樹の葉を揺らせている。ねここは、テーブルの上の砂糖入れにちょこんと座り、同じく窓の外に視線を向けていた。
ねここ自身も目を丸くして足で。とことこ、とテーブルの天板を叩いている。
マスターの趣味なのか、全てが木製テーブルになっている。合成樹脂が基本となっているこの時代で、実に珍しい。
(へぇ・・・)
しかし特別の感慨も無いまま、彼女は運ばれてきたコーヒーに口をつけた。
・・・味なんてどうでも良い。とりあえず落ち着いたら帰ろうと。聞きなれぬクラシックのBGMを聞き流しながら、暗い店内から外を見やった。
平日の昼間、誰も通らない。風だけが、それなりに吹き、無機質ささえ感じさせる街路樹の葉を揺らせている。ねここは、テーブルの上の砂糖入れにちょこんと座り、同じく窓の外に視線を向けていた。
そんな感じで十と数分。おかわりを頼んだ時。かたたん、という音と共に。扉が開いた。
「?」
見た目、女子大生くらいだろうか? 長身の美砂からしてみれば、背の低めの小柄な女性が店に入ってきた。女性は客・・・美砂がいた事に一瞬驚いたような顔を見せたが、そのまま手に手提げの小さな袋を持ってカウンターのマスターの前に立つ。
「にゃっ?」
ぴくん、と。ねここが眼を輝かせて顔を向けた。それはそうだろう。その女性が入ってきた途端、ほのかな・・・甘い香りが店内に広がったのだから。
「おや、サクヤさん。大学はお休み?」
「ん、もう木曜は無いかな。大体必要なの取り終わったし」
女性は袋を置いて肩を竦ませた。
「これ。母さんのチーズケーキ。どうぞ」
「おお・・・ありがとう。新堂さんに宜しくお伝え下さい」
礼をするマスターに手を振って、美砂の隣を通るときに軽く会釈をする。
イヤリングが揺れ、軽く染めた髪が大人っぽい落ち着いたカラー。つられて会釈を返すのを見ると、ねここに気付いたのか。女性はそちらにも手を振って。扉を開けて出て行った。ほのかに香水の香りだけが残る。
「?」
見た目、女子大生くらいだろうか? 長身の美砂からしてみれば、背の低めの小柄な女性が店に入ってきた。女性は客・・・美砂がいた事に一瞬驚いたような顔を見せたが、そのまま手に手提げの小さな袋を持ってカウンターのマスターの前に立つ。
「にゃっ?」
ぴくん、と。ねここが眼を輝かせて顔を向けた。それはそうだろう。その女性が入ってきた途端、ほのかな・・・甘い香りが店内に広がったのだから。
「おや、サクヤさん。大学はお休み?」
「ん、もう木曜は無いかな。大体必要なの取り終わったし」
女性は袋を置いて肩を竦ませた。
「これ。母さんのチーズケーキ。どうぞ」
「おお・・・ありがとう。新堂さんに宜しくお伝え下さい」
礼をするマスターに手を振って、美砂の隣を通るときに軽く会釈をする。
イヤリングが揺れ、軽く染めた髪が大人っぽい落ち着いたカラー。つられて会釈を返すのを見ると、ねここに気付いたのか。女性はそちらにも手を振って。扉を開けて出て行った。ほのかに香水の香りだけが残る。
「・・・ご近所の。新堂さん家のお姉さんでね。お母さんが作ってくれたお菓子を・・・時々持ってきてくれるんだよ」
マスターはそう言いながら、慣れた手つきでケーキを切り分けていた。
「はぁ」
そして。
おかわりと一緒に。小さな皿にそのケーキが乗って、美砂の前に出てくるのに、数分とかからなかった。
「え?」
「どうぞ。それともダイエット中?」
「いえ。ですけど」
ただで貰う訳にはいかない。向こうはお店で、自分は一見さんだ。
「いいからいいから。サービスだよ」
髭を指先で遊びながら、マスターが笑って言うと。
「ありがとう!」
既に目をキラキラ輝かせて、ねここが返してしまう。
(あぁ、その台詞を言ってしまうのね)
と、溜息交じりに、美砂も頂く事にした。
「いただきます・・・」
ねここ用に、小さくフォークで切り分けてあげて。自身も口に運ぶ。
マスターはそう言いながら、慣れた手つきでケーキを切り分けていた。
「はぁ」
そして。
おかわりと一緒に。小さな皿にそのケーキが乗って、美砂の前に出てくるのに、数分とかからなかった。
「え?」
「どうぞ。それともダイエット中?」
「いえ。ですけど」
ただで貰う訳にはいかない。向こうはお店で、自分は一見さんだ。
「いいからいいから。サービスだよ」
髭を指先で遊びながら、マスターが笑って言うと。
「ありがとう!」
既に目をキラキラ輝かせて、ねここが返してしまう。
(あぁ、その台詞を言ってしまうのね)
と、溜息交じりに、美砂も頂く事にした。
「いただきます・・・」
ねここ用に、小さくフォークで切り分けてあげて。自身も口に運ぶ。
「わ・・・ぁ!」
(・・・美味しい)
ねここの歓声も当然。それも並の美味しさじゃない。料理はそれなりに自信のある彼女であるが、これが主婦の力なのか? いや、まさか。とてもじゃないがそこいらのお店で出されるチーズケーキとは桁が違う。とろけるような口どけと、濃厚な甘みは。そうそう味わえる物じゃない。
きっと、相当な・・・。
(・・・美味しい)
ねここの歓声も当然。それも並の美味しさじゃない。料理はそれなりに自信のある彼女であるが、これが主婦の力なのか? いや、まさか。とてもじゃないがそこいらのお店で出されるチーズケーキとは桁が違う。とろけるような口どけと、濃厚な甘みは。そうそう味わえる物じゃない。
きっと、相当な・・・。
そこまで考えたとき、はっと美砂は顔を上げた。
「あの!」
「・・・んー?」
「やっぱり、御代、お支払いします。さっきの・・・新堂さんですか? にお渡し下さい」
マスターは驚いたように目を見開いていたが。
ややあって、磨いていたカップをカウンターに置き、大きく息をついた。
「んー・・・どうしてだい?」
「料理をする者なら解ります。これ、きっと・・・」
きっと。それこそ存分に素材にも拘った物に違いない。そう言おうとしたが。マスターが手を出して止める。
「・・・?」
「そっちの、マオチャオ君?」
テーブルの上で、それこそ一心不乱にチーズケーキを口に運んでいたねここが、頬張ったまま顔を上げる。その仕草を見て嬉しげに微笑み、マスターは問いかけた。
「美味しいかい?」
そのまま答えようとしたが、行儀の悪い事に気付いたのか。
ごくん。と口の中の物を飲み込み、ねここは満面の笑みで答えた。
「あの!」
「・・・んー?」
「やっぱり、御代、お支払いします。さっきの・・・新堂さんですか? にお渡し下さい」
マスターは驚いたように目を見開いていたが。
ややあって、磨いていたカップをカウンターに置き、大きく息をついた。
「んー・・・どうしてだい?」
「料理をする者なら解ります。これ、きっと・・・」
きっと。それこそ存分に素材にも拘った物に違いない。そう言おうとしたが。マスターが手を出して止める。
「・・・?」
「そっちの、マオチャオ君?」
テーブルの上で、それこそ一心不乱にチーズケーキを口に運んでいたねここが、頬張ったまま顔を上げる。その仕草を見て嬉しげに微笑み、マスターは問いかけた。
「美味しいかい?」
そのまま答えようとしたが、行儀の悪い事に気付いたのか。
ごくん。と口の中の物を飲み込み、ねここは満面の笑みで答えた。
「うん、おいしいのー!」
そして、また食べ始める。意を介する事が出来ず、ぽかんとする美砂。
「お金を求める物。そうでない物。そんなことは些細なこと。代価を求める物には代価。そうでない物には、そうでない」
「けど・・・でも、それでも」
美砂は、思わず困ったように声を上げた。
(一見の私が・・・こんなに高級な物を)
マスターは優しげな表情のまま、カップを片付け始めた。
「お金を求める物。そうでない物。そんなことは些細なこと。代価を求める物には代価。そうでない物には、そうでない」
「けど・・・でも、それでも」
美砂は、思わず困ったように声を上げた。
(一見の私が・・・こんなに高級な物を)
マスターは優しげな表情のまま、カップを片付け始めた。
「『美味しく食べて欲しい』って、ただそれだけの想いを込められた物が・・・」
「え?」
「美味しいと、ただそれだけで。嬉しそうに食べて、喜んでくれる心の場所に行く」
片付け終わり、マスターはゆっくりこちらに振り向いて、髭を撫でつつ、柔和な笑みを浮かべてみせた。
「そう。ただそれだけ。それの何処か・・・おかしいかな? お嬢さん」
・・・。
「え?」
「美味しいと、ただそれだけで。嬉しそうに食べて、喜んでくれる心の場所に行く」
片付け終わり、マスターはゆっくりこちらに振り向いて、髭を撫でつつ、柔和な笑みを浮かべてみせた。
「そう。ただそれだけ。それの何処か・・・おかしいかな? お嬢さん」
・・・。
美砂は喉の奥で。小さく、あっ、と。声をあげた。
あの時。あのデパートで。
目の前で買われてしまった、最後の鈴。
嬉しそうに首にかけてくるりと回ってみせるツガルタイプと、その喜ぶ姿を見て笑うオーナーの姿。
(・・・っ)
先の扉に映った・・・不機嫌そうな自分と。そして。
目の前で買われてしまった、最後の鈴。
嬉しそうに首にかけてくるりと回ってみせるツガルタイプと、その喜ぶ姿を見て笑うオーナーの姿。
(・・・っ)
先の扉に映った・・・不機嫌そうな自分と。そして。
つまらなそうな顔をしていた、一度も、そのネックレスを欲しいとは言っていなかった・・・ねここの顔を思い出して。
彼女はふと視線を落とした。大切なパートナーは嬉しげに、いつも通り、誰もを幸せにする満面の笑みで、チーズケーキをむぐむぐと口に含んでいた。
・・・。
ありがとう。という声を聞きながら扉を押す。肩越しに振り返れば、マスターは既に美砂から目線を切り、ミュージックデータディスクの整理を始めていた。
ありがとう。という声を聞きながら扉を押す。肩越しに振り返れば、マスターは既に美砂から目線を切り、ミュージックデータディスクの整理を始めていた。
美砂は喫茶店を出て、一度だけ小さく息をつくと静かに歩き始める。
先の、苛立ったような足音は耳に届かない。
日は傾き、ゆっくりと西日になりつつある。いつもの特等席・・・彼女の頭の上に戻り、お腹一杯になって満足そうなねここは尻尾をいつものようにゆったり振りながら、優しく陽光が照らしあげる白い壁を名残惜しそうに見つめていた。
「あのね・・・ねここ」
かつん、と靴音を鳴らし。伸びた影が足を止めた。
「? なぁに?」
ぽつっと、思い出すように、呟くように言った美砂に。ねここは首をかしげる。
「鈴、買いにいこうか?」
「え・・・」
多少不安げな声に、美砂は、いつもどおりの穏やかな笑みを浮かべて言う。
「大丈夫。今度は・・・『ねこことお買い物』をしに行くんだから」
先の、苛立ったような足音は耳に届かない。
日は傾き、ゆっくりと西日になりつつある。いつもの特等席・・・彼女の頭の上に戻り、お腹一杯になって満足そうなねここは尻尾をいつものようにゆったり振りながら、優しく陽光が照らしあげる白い壁を名残惜しそうに見つめていた。
「あのね・・・ねここ」
かつん、と靴音を鳴らし。伸びた影が足を止めた。
「? なぁに?」
ぽつっと、思い出すように、呟くように言った美砂に。ねここは首をかしげる。
「鈴、買いにいこうか?」
「え・・・」
多少不安げな声に、美砂は、いつもどおりの穏やかな笑みを浮かべて言う。
「大丈夫。今度は・・・『ねこことお買い物』をしに行くんだから」
その、言葉に。
ぱっと顔を輝かせて。
「あのね! あのね! じゃあ、ねここ・・・みさにゃんと・・・」
ぱっと顔を輝かせて。
「あのね! あのね! じゃあ、ねここ・・・みさにゃんと・・・」
後日。
いつものように通いなれたショップに向かう道。その美砂の頭の上。ねここの首元に、小さく、素朴な感のある鈴が揺れていた。
高級感は無いが、丁寧な作りで、温かみさえ感じる銀色の装飾鈴。
そして・・・。
いつものように通いなれたショップに向かう道。その美砂の頭の上。ねここの首元に、小さく、素朴な感のある鈴が揺れていた。
高級感は無いが、丁寧な作りで、温かみさえ感じる銀色の装飾鈴。
そして・・・。
おそろいの鈴が、美砂の携帯のストラップで、その涼やかな音色を奏でていた。
・・・。
吹く風は、きっと想いを運ぶ。
誰かを想う心を、それを待つ人の場所に。
吹く風は、きっと想いを運ぶ。
誰かを想う心を、それを待つ人の場所に。
了。