戦うことを忘れた武装神姫 その31
H市の駅から近い裏通り。
アクリル製の電飾看板に明かりが灯った。 だが、中の蛍光灯が切れかけているのか、なかなかきちんと点灯しない。
アクリル製の電飾看板に明かりが灯った。 だが、中の蛍光灯が切れかけているのか、なかなかきちんと点灯しない。
・・・カウンター席が5つとテーブルが2つだけの小さなショットバー。壁一面には沢山のボトルが並べられ、それぞれの存在を示すかのように、電球の明かりに琥珀色の輝きを静かに、しかし美しく放っていた。
本日の選曲は、マスターの趣味で集められたCDコレクションからの80年代のジャズ。。。 と、ジャズのリズムに併せるかのように軽やかな炒め物の音が混ざる。カウンターの片隅でマスターが調理を始めていた。 今日の突き出しは・・・ナッツの炒め物。
カウンター上では、ひとりの神姫が伝票の整理を行っていた。白いボディはアーンヴァルと同じ塗り分けだが配色が空色と藤色。 そして・・・顔はストラーフ。 暗がりで見ればアーンヴァルとストラーフの組み換えにも見えるのだが・・・。
一通りの整理が終わり振り返った神姫の横では、調理を終えたマスターが炒め物を皿に小分けしていた。マスターがフライパンを片付け、神姫が伝票をしまい終えたとき。
一通りの整理が終わり振り返った神姫の横では、調理を終えたマスターが炒め物を皿に小分けしていた。マスターがフライパンを片付け、神姫が伝票をしまい終えたとき。
キィ・・・。
古びた扉が開き、お客がやってきた。
「こんばんはー。」
胸ポケットには武装神姫、ストラーフが収まっている。お客は、ストラーフとなにやら楽しげに言葉を交わしている。
「こんばんはー。」
胸ポケットには武装神姫、ストラーフが収まっている。お客は、ストラーフとなにやら楽しげに言葉を交わしている。
・・・いつものあの人だ。 今夜も、楽しく長い夜になりそう。。。
「いらっしゃいませ。 今日はリゼさんと御一緒ですね。」
「こんばんは、マスターさん、お久しぶりっす!」
久遠のポケットからリゼが先に挨拶をした。
「今日はリゼさんだけですか?」
「こんばんは。 ・・・そうなんです。まぁ、メンテナンスの帰りとも言いますけれどね。 あ、まずはいつものをお願いします。」
おしぼりを受け取りつつ早速注文の久遠、リゼの足を拭いてカウンターに座らせる。
「こんばんは、マスターさん、お久しぶりっす!」
久遠のポケットからリゼが先に挨拶をした。
「今日はリゼさんだけですか?」
「こんばんは。 ・・・そうなんです。まぁ、メンテナンスの帰りとも言いますけれどね。 あ、まずはいつものをお願いします。」
おしぼりを受け取りつつ早速注文の久遠、リゼの足を拭いてカウンターに座らせる。
「いらっしゃいませ、久遠さん。」
マスターが久遠の注文に掛かると同時に、今度はカウンターにも並べられた酒瓶の隙間から声が響いた。 どこから声がしたのか判らず、あたりを見回すリゼ。
「ここですよ、ここ。」
再び瓶の間から、透き通るような声が。 久遠は、リゼのあたまをチョイと突付いて独特の形状のリキュールの脇を指し示した。 そこには・・・
マスターが久遠の注文に掛かると同時に、今度はカウンターにも並べられた酒瓶の隙間から声が響いた。 どこから声がしたのか判らず、あたりを見回すリゼ。
「ここですよ、ここ。」
再び瓶の間から、透き通るような声が。 久遠は、リゼのあたまをチョイと突付いて独特の形状のリキュールの脇を指し示した。 そこには・・・
「え・・・神姫?!」
「こんばんは。貴女がリゼさん・・・ですか?」
「は、はいっ!!!」
突然名前を呼ばれて、背筋を正して座るリゼに、瓶の向こうに立つ細い目の神姫は優しい笑みを浮かべていた。
「何もかしこまる事はありませんよ。貴女のマスターの久遠さんから、よくお話を伺っておりましたので。。。」
マスターからマドラーを受け取りながら、
「私の名前は あずさ と言います。 以後お見知りおきを・・・。」
と、あずさ と名乗った神姫は小さく一礼した。 リゼも、つられて一礼。 マスターは二人を邪魔せぬように静かに久遠にジントニックを差し出した。 久遠も、黙ってふたりの様子を見ながらジントニックをすする。
「こんばんは。貴女がリゼさん・・・ですか?」
「は、はいっ!!!」
突然名前を呼ばれて、背筋を正して座るリゼに、瓶の向こうに立つ細い目の神姫は優しい笑みを浮かべていた。
「何もかしこまる事はありませんよ。貴女のマスターの久遠さんから、よくお話を伺っておりましたので。。。」
マスターからマドラーを受け取りながら、
「私の名前は あずさ と言います。 以後お見知りおきを・・・。」
と、あずさ と名乗った神姫は小さく一礼した。 リゼも、つられて一礼。 マスターは二人を邪魔せぬように静かに久遠にジントニックを差し出した。 久遠も、黙ってふたりの様子を見ながらジントニックをすする。
興味深そうに、しかし不思議そうな面持ちで あずさ を見つめるリゼ。
同じ顔なのに。 何故、あなたは・・・。
「あのっ」
沈黙を破りリゼが口を開いた。 エプロン姿のあずさは、細い目をさらに細くするかのようにニコニコと小さく頷いて応える。 だが、リゼは次の言葉が出てこなかった。
同じ顔なのに。 何故、あなたは・・・。
「あのっ」
沈黙を破りリゼが口を開いた。 エプロン姿のあずさは、細い目をさらに細くするかのようにニコニコと小さく頷いて応える。 だが、リゼは次の言葉が出てこなかった。
再びの沈黙。。。
CDチェンジャーの作動音が響く中、たまりかねた久遠がリゼをつまみ上げ、あずさに紹介した。
「どうも、あずささん。 こちらが以前も何度かお話しました、ストラーフのリゼです。 ウチの4人の中では末妹に当たるのかな。」
「こ、こんばんは・・・。」
久遠に促され手の上で頭を下げるリゼ。
「私はこちらの店でマスターの補佐を務めております。」
と、あずさもぺこりと頭を下げた。 しかしまだ、無言で見つめ続けるリゼにあずさは静かに話しかけた。
「お顔や身体の見た目は貴女と同じですが、私、『武装』神姫ではないんです。」
その言葉に、
「えっ?」
目を皿のようにするリゼ。
「ふふ、エルガさんも、シンメイさんも、イオさんも。皆様、リゼさんと同じ反応をしましたよ。 あ、マスター。 リゼさんにアレをお願いします。」
マスターは 黙って頷くと、神姫サイズの器にホットレモンリキュールを注いでリゼに差し出した。
「冷めないうちにどうぞ。 こちらはサービスです。」
CDチェンジャーの作動音が響く中、たまりかねた久遠がリゼをつまみ上げ、あずさに紹介した。
「どうも、あずささん。 こちらが以前も何度かお話しました、ストラーフのリゼです。 ウチの4人の中では末妹に当たるのかな。」
「こ、こんばんは・・・。」
久遠に促され手の上で頭を下げるリゼ。
「私はこちらの店でマスターの補佐を務めております。」
と、あずさもぺこりと頭を下げた。 しかしまだ、無言で見つめ続けるリゼにあずさは静かに話しかけた。
「お顔や身体の見た目は貴女と同じですが、私、『武装』神姫ではないんです。」
その言葉に、
「えっ?」
目を皿のようにするリゼ。
「ふふ、エルガさんも、シンメイさんも、イオさんも。皆様、リゼさんと同じ反応をしましたよ。 あ、マスター。 リゼさんにアレをお願いします。」
マスターは 黙って頷くと、神姫サイズの器にホットレモンリキュールを注いでリゼに差し出した。
「冷めないうちにどうぞ。 こちらはサービスです。」
差し出されたホットを、リゼはひとくちすすった。
「おいしい。。。 こんなやさしい味のお酒、初めてっ!」
ようやく緊張のほぐれた顔付きとなったリゼに、
「私が神姫向けに選んだ味です。 もちろん、食事機能の無い神姫でも飲めますよ。」
と、店内のジャズを妨げることのない美しい声で語るあずさ。
「ありがとう、あずさ・・・さん。 あ、あの、さっき訊きそびれたんですけれど、あずささんはクラリネットタイプなんですか?」
「うーん、残念。ちょっと違うんですよ。 でも貴女、いい耳してるわね。 トーン落として話していても、武装神姫とは違う声と見抜いたんですから。」
「リゼもあずささんとほぼ同じ声帯を持っているんですよ。だからではないですかね?」
ジントニックを飲み干した久遠が口を挟んだ。 リゼは久遠と目を合わせると再びあずさの方を向いて小さく頷く。
「なるほど。 それでは私の事も少々お話をしましょうか。 ・・・の前に久遠さん、次はどうされますか?」
ジントニックを飲み干した久遠に次を促す。 久遠は考えることもなく、マスターの後ろの棚を指した。マスターは小さく頷くと、
「かしこまりました。ワンショット・・・残っていませんね。今、倉庫からお持ちします。」
と、マスターは後ろの扉から奥へと入った。
「おいしい。。。 こんなやさしい味のお酒、初めてっ!」
ようやく緊張のほぐれた顔付きとなったリゼに、
「私が神姫向けに選んだ味です。 もちろん、食事機能の無い神姫でも飲めますよ。」
と、店内のジャズを妨げることのない美しい声で語るあずさ。
「ありがとう、あずさ・・・さん。 あ、あの、さっき訊きそびれたんですけれど、あずささんはクラリネットタイプなんですか?」
「うーん、残念。ちょっと違うんですよ。 でも貴女、いい耳してるわね。 トーン落として話していても、武装神姫とは違う声と見抜いたんですから。」
「リゼもあずささんとほぼ同じ声帯を持っているんですよ。だからではないですかね?」
ジントニックを飲み干した久遠が口を挟んだ。 リゼは久遠と目を合わせると再びあずさの方を向いて小さく頷く。
「なるほど。 それでは私の事も少々お話をしましょうか。 ・・・の前に久遠さん、次はどうされますか?」
ジントニックを飲み干した久遠に次を促す。 久遠は考えることもなく、マスターの後ろの棚を指した。マスターは小さく頷くと、
「かしこまりました。ワンショット・・・残っていませんね。今、倉庫からお持ちします。」
と、マスターは後ろの扉から奥へと入った。
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