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 ―PM:17:22 March XX. 203X.
 ―Water Supply, B2F.
 
 7つ目の『運命の輪』の解体から、ミラは慎重にならなければならないと思った。少し前に大紀を負かしたが、彼が連れている黒服の姿をよく見かけるようになったのだ。
「ったく、邪魔くせぇな」
「しつこい男は嫌われるものだよ」
 あの場は逃がしてくれたようなものだったが、敗北に納得出来ず、ミラの本当の目的を探ろうとする為に後を追っているのかもしれない。
 だが、特設ドームの構造は十分すぎる程に把握している為、黒服を撒くのにはさほど苦労せずに済んだ。それに、関係者以外立ち入り禁止とされる場所をミラなら通る事が出来るし、更に桜に連絡し警備員に黒服の行動を制限するように頼んだのだった。
 
 
    ANOTHER PHASE-06
                『AbsoluteTruth』
 
 
 閑話休題、ミラは非常口の会談から地下へ降りて水道施設に来ていた。
 部屋の中は非常に薄暗かったが、部屋中に張り巡らされた様々な太さの無数の管が見てとれた。その中には、大柄で無骨なハンドルが付けられているものもあった。
 それらに繋がっている大型装置は、無機質な不気味な鳴動を立てている。今までに見たような機械類とはまるで異なる代物だった。
「何でこんな場所なんだよ?」
「半分の推測と半分の勘だ。タロットに水に関するカードが3枚はある。『節制』と『星』と『月』だ。が、『節制』は既に解除し、『月』は開閉式ドームにあった……となると、水にもっとも縁のある『星』が怪しい」
 トランクを開けて震電と連山を出しつつ、自分の推理を説明する。
「けどよ、水だったら他にもあるだろ? 例えば……調理場とかトイレとか?」
「調理場だったら、昼や夜など客のかき入れ時を狙うだろうが、『アルカナ』の爆弾が作動するタイミングは必ず、表彰式だ。そんな時に、暢気に食事に来る客は少ないだろう。トイレは尚更だ。必要な時しか人は来ないし、『星』の数字である17の数にも当てはまらない。それに図面を見たが、施設に効率の良いダメージを与える事は出来ないと判断した」
 ドームと言う施設である為、水を使う場所は限定される。ミラは更に言葉を続けた。
「だが、これだけ巨大な施設の地下には必ず、それらを支える基礎がある。この水道施設の排水量なら……裕に30トンは越えるだろう。それが全てでは無いし、万が一の事故の為に漏水しにくくなっている筈だろうが、地下に穴が開き大量の水が押し寄せてきたら…」
「電力室の漏電と、筐体制御室の壊滅ってか…きつい冗談だな」
 爆弾そのものよりも、爆破した後が最大の問題だ。
「さて、探そうか。出来る限り速やかにな」
 
 
 ―5 Minute Passed...
 
 烈風達が探索を始めて少し時間が経つが……。
(「ここではないと言うことか……?」)
 少し前に、半分は推理であり半分は勘だと自分で言った。なかなかの広さであるとは言え、烈風達三体がかりでも見つけられないと言う事は初めから無いのだろうか。
(「半分の勘に頼りすぎたか……いや、消去法だが根拠に根付いた推理もある」)
 弱気になりかかっていた自分に喝を入れる。他の17に該当する場所を探してきた。それで無ければカードの意味や柄から探してみる。そうして最終的に、ここだと推理したのだ。
 自分は飽くまでも神姫BMA公認の調査官であり、FBIのようなプロの捜査官ではないが、『アルカナ』を正確にプロファイリングする事でこれまでに三度もの凶行を阻止する事ができたのだ。
 もう少し、自分に自信をもってもいいのではないか。
 その時、ミラが持つ通信ユニットが鳴った。
「烈風、どうかしたのかな?」
『言うまでもねぇだろ。見つけたんだよ、【THE STAR】の逆の奴』
 どうやら、正解だったらしい。自分が信じたものに間違いはなかった。
「ふぅ……逆位置とは、偶然にしては嫌味だな。さて『星』だがその意味は主に、希望ある前途…かな。暗き夜空に輝く星の光は、人々の心に励ましを齎した。その逆は高望み、厭世観、不満といったところだろう」
『ミラぁ、希望の逆だったら、絶望とか破滅とかそんな意味じゃねぇのか?』
 烈風にしては珍しく、言葉を返してきた。
「いや、意味が180度逆になるわけではない。希望とは、そうであれば良いと望む心。だから逆位置とは、希望の前に立ちはだかる厳しい現実と言うことだ」
『要するにアレか。バトルに勝てたらいいな、でもこの装備じゃ無理って感じか?』
「まぁ…そんな例えでいいだろう。ところで、爆弾の形状と制御装置はどうなっている?」
 ミラが問うと、通信ユニット越しに烈風ら三体が話し合っているのが微かに聞こえた。どう表現すればいいのか少し悩んでいるらしい。と思ったら、相手が烈風から震電に変わった。
『……大型貯水タンクの上部に、星型の装置に確認。輝度センサーとトレーらしき装置が付いている。奇妙な事に、タンクの上部に大きな穴を開けて、その中に幾つかのセンサーを通している。また、制御装置本体に二つの水瓶の様な形状の物体が、コードで繋がれているのを確認した』
 『アルカナ』の時限爆弾が難解であるとは言え、これはあまりにも不可解である。時限爆弾なのに何故態々、タンクに穴を開けるのか?
 だが、震電の正確な説明を受けて、ミラは逆に確信に至った。
「…成る程、前例どころか類似したものも無いな。だが、それだけの舞台装置を用意していれば、『星』のタロットの絵柄を真似しなさいと言うようなものだ。解除の方法を説明する。先ずは……誰でもいい、輝度センサーに直接、強い光を当てるんだ」
『……誰でもいいのか。ならば……連山、EODツールからライトを選び、輝度センサーに直接、光を当てろ。ミラの指示だ』
『ふぇ? 何だか分かんないけど~やってみる~』
 通信ユニットから連山の声が聞こえてきた。どうやら震電は、自分ではやらないようだ。
 暫くすると、再び震電から報告が来た。
『……ライトを照らしたら、時限装置が起動した。残り、17分……』
 本来は慌てるべきところなのだが、震電もミラも一切慌てる様子は見せなかった。
「17分もあれば十分過ぎる。さて次だが、二つの水瓶の様な物体…だったかな。連山はそのままで居なければならないから……烈風か震電、どっちでもいいから二つの水瓶を持って、その貯水タンクから水を汲むんだ」
 ここまで来ると、聞いている方も流石に訳が分からなくなってくる。
『……烈風、任せたぞ』
『オイ、何さりげにボクに押し付けてんだよ!!』
『……烈風は力仕事向きだからだ』
『オマエだって、”フレスヴェルグ”を使えばいいじゃねぇか!!』
 今度は烈風と震電の口論が聞こえてきた。連山が止めに掛かろうとしているが、その場を下手に動く事が出来ずに戸惑っている様子が容易に想像できた。
 ミラは何だか情けなくなり仕方なく、
「烈風、いいから君がやってくれ。」
『ミラぁ、オマエもかよ……ったく、濡れて漏電でもしたらどうすんだよ』
「故障でもしなければ、多少の水に漏電しないのが武装神姫。文句を言う暇があったらさっさと行く」
『分かったよ、行くんだろ、行ってやろうじゃねぇの、行けばいいんだろ!』
 今度は、烈風が不貞腐れる姿が想像できた。
 続けて震電が、
『……ミラ、私に出来る事は無いのか?』
「こうして、私の指示を烈風に伝えてくれればいい。例えそれが、理解しがたいものであってもな」
『……了解した』
 
 暫くすると、通信ユニットから凄まじい羽音と共に烈風の声が聞こえてきた。
『ミラぁ……汲んできたぜ』
 震電が説明した”水瓶”がどれほどの大きさか分からないが、羽音から察するに相当な大きさだったのだろう。それなら口論になってしまっても仕方が無い。
「ご苦労様、と言いたいところだがまだ終わりではない」
『……烈風、まだ継続するようだ』
『チッ、初めっから分かってるよ!』
 震電の代弁に烈風はかなり苛々しているようだ。それでも、すぐには八つ当たりはしない。
「烈風、両手にそれぞれを水瓶を持っている事だろうと思う。そこで、右手の水瓶の水を、制御装置のトレーに注ぐ」
『……烈風、右手の水瓶の中身をトレーに注ぐ』
『はいはい、分かったよ…足が地に着く分、楽でいいよな、本当に!』
 ぶつくさと文句が聞こえてきたが、ミラは思い出したかのように説明を続けた。
「そうそう、右手のをトレーに注ぐと同時に、左手の水瓶は、タンクの中に戻さないように何処か適当に中身を捨てればいい」
『……烈風、追加だ。右手と同時に、左手の水瓶を、タンクの中に戻さないように適当な場所に捨てれば良いらしい』
『はぁ!? 何なんだよ訳分かんねぇ!?』
『……後で、ミラが説明してくれるだろう』
 烈風の苛々が限界に達しかかるも、言われた事はきちんとこなしているようだった。広大な水道施設の何処かで、少量の水が床を跳ねる音がミラの耳に響いてきた。
 すると、
『……緑ランプの点灯を確認。解体成功と判断』
 震電から、解体成功の声が聞こえてきた。
「よくやったよ。連山はライトを消して動いても大丈夫だ。さて烈風、不満は幾らでも聞いてやる」
 言った途端に、烈風は苛立ちを隠さずに怒鳴ってきた。
『でかくて重たすぎんだよ……あの水瓶! 一つだけで200ccはあったぞ!!』
「併せて400グラムか、それは骨が折れただろう。だが、『星』に描かれている人間は、両手に水瓶を持っていたから仕事を分担させる事も分ける事も許されなかった」
 ミラは飽くまでも、タロットの絵柄による見立てに拘ったのだ。水瓶にセンサーが付けられている辺り、誤魔化しは通じないことだろう。
『だったら、左手の水瓶を捨てなきゃならないんだったら、初めから汲んでも……』
 続けて文句を言うがやはり、
「『星』に描かれている人は、右手の水瓶を泉に注ぎ、左手の水瓶を大地に齎した。態々、タンクに穴を開けてまでセンサーを通している制御装置なのだから、タンク内の400ccの水の減量を確認していた可能性が高い」
『えぇい、もう、このっ!!』
 ドゴッ、と何かがへこんだような音が聞こえてきたが、聞こえていない事にした。
 震電の報告が正確だった為、実際に目で見ていないミラにも正確に受け答えすることが出来たのだ。烈風は反論しようにもミラの言った事に間違いは無いし、文句すら付けられなかった。
「八つ当たりは、『アルカナ』にでもぶつける事だ。尤も、本人が見つかればの話だが」
 
 
 ―PM:18:16 March XX. 203X.
 ―Cleaning Room, B1F.
 
 8つ目の『運命の輪』を解体した後、ミラは再び地下に降りていた。
 地上は隅々まで探してみたものの、残されたタロットの見立てに合う当てが無かったのだ。それで仕方なく再度、地下へ降りる次第となった。
 この部屋にはミラ達以外には誰もいなかった。
「然し、清掃室に何かを求めてもな……」
「ミラぁ……冗談にしちゃ……この匂いは…きついぜぇ」
 清掃室にしては非常に綺麗にされており人間の目から見たら清潔なのだが、嗅覚の鋭い烈風には地獄そのものだった。主に残飯の匂いを烈風は感知しているのだろうか。烈風はミラの肩の上にうずくまり、心底参っていた。
「やはりここは外れかな?」
「おい…コラ…それなら最初から……!?」
 げんなりしている烈風が毒づきかけたが、何かに気付いて言葉が途切れた。
「マジかよ……ゴミに紛れて、RDX系の匂いがする…」
「ふむ…違法の世界なら話は別だが、神姫に使う武装の炸薬にしては強力すぎる。烈風、ここは震電と連山に任せて、トランクの中で休むんだ」
 然し烈風は何とか身体を起こして、ミラの目の前で羽ばたいて見せた。
「へっ…この程度で……うぐっ!?」
 やはりやせ我慢だったか、姿勢を崩して墜落しそうになる。
 ミラは烈風を受け止めつつ、厳しく窘める。
「君の嗅覚がおかしくなったらこれからに差し支える。それに、連山に無用な心配をかけさせたいのかな?」
『あうぅぅ~…れっぷぅぅ…無茶しちゃ駄目だよぉ~……』
 トランクの中から連山の心配そうな声が聞こえた。
「……仕方ねぇ、少し……休ませて貰うぜ…」
 ミラがトランクを開けると、烈風は震電と連山と入れ替わった。烈風が休眠するのを確認すると、ミラはトランクを閉めた。
「………やる気の空回り以下だな」
「あぅぅ~…早く終わらせるからね~」
 震電は呆れたように冷たく言い放つが、連山は糸目の笑顔は崩さなかったものの、心配そうだった。
「さて、役割分担だが……震電は天井部より、連山は床から探索するんだ。情けない話だが私には、ここで『アルカナ』が何を見立てたのか見当がつかない」
 申し訳無さそうにミラは言った。残る爆弾は11種で、その内の3種は会場内で確認した。
「……了解した、探索を開始する」
「ゴミ箱の中には~…無いといいんだけどなぁ~」
 流石にそれはない……とは言い切れず、せめて何も言わないでおいた。
 
 
 ―1 Minute Passed...
 
 苦戦するかと思われた捜索だったが、意外にも早く……。
『ミラちゃ~ん、あったよ~』
「爆弾或いはカードのどっちで、何処で見つけた?」
『えっとね~骸骨のナイトさんが馬に乗って~大きな旗を掲げているよ~逆さまだったけど~。それと~ゴミの分別室で見つけた~』
 タロットカードで骸骨といえば、間違いなく死神のカードだ。逆位置になると意味が大きく変わる札だ。だが、ゴミ分別室との関連性が全く繋がらない。
「正位置が死・喪失・終わりを意味する……逆位置にしたと言う事は、その逆の意味……完全な変化の逆は障害・停滞だったか? 或いは失う事に非ず、『審判』と違う新たな始まりか?」
『みゅぅぅ~…そんな事言われてもぉ』
 そんな事を言われても困る。タロットカードに関し特に勉強したのは間違いなくミラなのだ。
「まあいい、それは後で考える。震電を呼び出して、その辺りの捜索に集中するんだ」
『は~い』
 通信を切った後、ミラは暫く逆位置の『死神』とゴミ分別室の繋がりを見出そうとしてみた。
「………リサイクル? まさかそんな」
 形を変えて復活する事には違いないが……ミラは深々と溜息をつき、分別室に向かった。
 
 一方、震電は上空を飛びつつ全センサーを活動させて危険物の探索を行なっていた。
「震電ちゃん~見つかった~?」
 床では連山が、”フレスヴェルグ”に乗る震電を見上げていた。暢気過ぎる様子に震電は苛立ち、
「……いいから貴様も探索していろ」
 怒気を含めた重みのある声で連山に返答した。無数のセンサーを全て使用している間は、AIに相当な負担が掛かる。他の事に気を逸らされては堪ったものではない。
「あぅぅ…そんな怒んなくてもぉ~…」
 くすんと軽く拗ねたような仕草を取り、連山も仕方なく探索に励む事にした。
 思わず冷たい返事で返してしまったが、震電にはどうしても不可解な事があったのだった。震電は通信ユニットを取り、ミラに連絡を入れる。
『震電か、どうだ?』
「……室内全体を捜索中、ニトロセルロース及びニトログリセリンは危険物処理室より微量検出……例のトリメチレントリニトロアミンが何故か、清掃室各所に点在している」
 トリメチレントリニトロアミンとはRDXの事で正式名称である。烈風の場合はただ単純に覚えにくいだけでRDXと呼んだのだ。
 震電の奇妙な報告を受けてミラは少し悩んだ。
『清掃室各所…? よく分からないが、もっとも近いのを探して見てみるんだ』
「…了解」
 通信を切り、震電はもっとも近くに反応があった所へ着地した。茶色の紙で梱包された四角い物体があった。大きさから察するに3kgはある。
 だが、それだけしかないのである。制御装置どころか発火装置すら取り付けられていない。再度通信ユニットを手に取った。
「…トリメチレントリニトロアミン、推定3kgを確認。だが、装置類は一切確認できず」
『3kg…正気か? それに爆薬だけ、とは奇妙な話だな。逆位置の【死神】との関連は十分にある。だが、どう言うことだ…?』
「……その他の箇所を探索に向かう。以上だ」
 ミラが暫く悩んでいると、連山から通信が割り込んできた。いつになく少し困った様子だった。
『ね~…ミラちゃ~ん、ちょっと分からない事があるの~…』
「どうした、分からない事とは?」
『機械の部品のようなものを見つけたんだけど~…赤ランプと緑ランプがくっついている変な回路なの~。緑色のは消えてるんだけど~赤色のは点灯しっぱなしなの~』
 これまでの解体なら、緑色のランプの点灯は解体成功を意味する。だが、赤色のランプが点灯しているとはどう言うことだろうか。
「回路…だけなのか?」
『そうなの~…何なんだろ~ね~?』
 震電の報告とはまるで逆だった。制御装置の一部は見つかったが、今度は爆薬が存在しない。
「何だか嫌な予感がするんだ。連山は震電に連絡を取り、各所にあるとされる爆薬の場所を聞いて一箇所に集めるように」
『危なそうだけど~頑張ってみるよ~?』
 ここで連山と通信を切り、今度は震電に再度連絡を取る。
『……用件は?』
「震電、探索対象を爆薬から、超小型の完成された回路及び装置類に変更。神姫等の廃棄部品と間違えるなよ…それらを発見次第回収せよ」
「……了解した」
 なんとも珍妙な命令だったが、震電はすぐに了解した。
 ミラの推測が正しければ、時限爆弾の常識を遥かに覆す爆弾を見る事となる。
 ほんの微かな期待と、大きな不安を抱きながら、ミラは震電と連山を待った。
 
 
 ―18 Minute Passed...
 
 暫くして、震電と連山が集めてきたのは合計13kgもの爆薬と、幾つかの回路とビスにコードと言った無数の部品だった。見つけにくい位置にはあったらしいが、それら全てが態々ビニール詰めにしてあった。
 最初に連山が見つけたと言う、赤色と緑色のランプが付いた回路は確かに赤いランプが点灯していた。震電がその回路を暫く見つめると……。
「……4kgのトリメチレントリニトロアミン内部に電波通信反応、その赤いランプの回路と繋がっていると確認。遠隔式小型発火装置ではないかと推測」
 と、淡々と述べた。
 それを聞きミラは、
「爆弾としてはバラバラなように見えて、結局は起爆するようになっているのか…計13kg、地下のこんなところで爆発すれば、逃げ場を失った衝撃波が廊下に洩れ、天井は大きく吹き飛ばされ無数の瓦礫が降り注ぐ。そして地下は彼方此方に亀裂が走り崩壊、地表の3分の1以上は陥没することだろう。推定死傷者は3000名以上……」
 目の前の『死神』の爆弾をそのように推測した。カードの意味に相応しい、最悪の爆弾である。
「ど、ど、どうすれば~解体出来るの~っ!?」
「……貴様がじたばたしたところで何も解決はしない」
 ミラの言葉を聞いて連山は慌てふためくが、冷徹な震電の言葉で抑えられた。
「……」
 暫くミラは、バラバラになっている火薬と部品類を見つめていた。
 何故、時限爆弾らしい体裁を整えていないのか。そもそも、遠隔式発火装置を備えている時点で爆弾として機能する筈。震電と連山が集めてきた、それらしい部品が何故清掃室に散らばっていたのか。
 冷静になって考えてみる。遠隔式発火装置さえ無ければ、時限爆弾ですらない唯の危険物だ。つまりそれは時限爆弾ですらないと言う事。そして、連山が見つけた『死神』のカードは逆位置だった。それは何かの始まりであり誕生でもある。
 考えた末にミラは、解体方法を述べた。
「震電、連山。集めてきた部品と火薬を使い、ここでその爆弾を組み立てるんだ」
 
「えええええ~っ!?」
「…!?」
 あまりにも予想外な言葉に連山は仰天し、震電も流石に面食らったようだった。
「確かにこれで時限爆弾として機能はしているが、態々、清掃室の彼方此方に時限爆弾の部品を隠してあった。時限爆弾にとっての死とは解体を意味するのだろう。だが、目の前のこれは一見するとこれで完全に解体されているようにも見てとれる。だから、『死神』の逆の意味を行なわなければならない」
「な、なんか変な感じ~…」
 ミラは清掃室の扉にロックをかけつつ説明を続け、取り敢えず連山を納得させた。
「震電、連山。製作作業は初めての経験となるだろうから、私もアドバイスする形で手助けする。大変な作業となるが、出来るな?」
 ミラは外の人間を入れないためにロックをかけた。逆に言えば自分も逃げない事の証でもあった。
「……了解した。組立作業を開始する」
「も~そうするしかないんだから~頑張る~っ!」
 解体をすると言うことが、逆に爆弾を組み立てると言う事であるとは、普通の人間なら誰もが納得しないだろう。それでも、震電と連山は従ってくれた。
「いい返事だ。では、組み立てに挑んでもらう。少しでも分からない事があったら、必ず私に聞くように」
「…了解」
「頑張る~っ」
 
 
 ―14 Minute Passed...
 
 震電と連山は、ミラのアドバイスを受けながら何とか順調に時限爆弾を組み立てていた。
 部屋にはロックをいれて誰も入れないようにしたが、幸いな事にまだ誰も来ていなかった。
「…ミラ、9つ目の回路の繋ぎ方が分からない。プラグ式コードではない様だが……?」
「少し面倒だな……確か、部品の中に低温ハンダがあった筈だ。コードのビニール部分をカットして銅線部分をほんの少し露出させるんだ。その後、銅線を回路に固定し、低音ハンダを当ててレーザーで溶接。以上の手順で行く」
「…了解」
 震電が言われたとおりの作業を始めると今度は、
「ねぇねぇ~また外箱が出来たんだけど~これには何を入れればいいのかな~?」
 連山が、幾つかのビスを使って組み立てた箱をミラに差し出す。
「回路類を組み立てるにはしては大きいな。これは、火薬を詰めるのだろう。箱に合う火薬を選んでくれ」
「ふみゅぅ~…そんな事言われても~似たようなサイズの火薬が多いよ~?」
「組み立てた外箱に何か数字か記号でも刻まれていないかな。それと一致するのを選べばいい」
 そのようにミラに指摘されて連山は早速、幾つかのRDXを調べてみる。
「同じ数字を見つけたよ~この、2.5kgタイプみたい~♪」
 と言って、連山は軽々と2.5kgもする物を簡単に担ぎ上げた。
 
 
 ―13 Minute Passed...
 
 元々は部品だったものが、時限爆弾らしく形を成してきた。連山が最初に見つけた、緑色と赤色のランプが表面に出てきている形となっていた。
 かなり大柄になってしまったのも、13kgもあるRDXの所為であろう。
 唯、設計図も無しに組み立てた為、これで完全なのかどうかはミラにも分からない。
「……もうすぐか」
「ふにゅぅ~…これで最後だね~」
 連山が蓋を押さえつつ、震電は小さなビスを回して固定させる。
(「最後のビスを回しきったところで、采配を委ねられるか」)
 幾多のアドバイスをしてきたミラも、最後の最後を見届けなければならなかった。
 もうすぐ5時になろうとしている。すぐに6つ目の『運命の輪』の解体に移らなければならないが、それは成功してからの話である。
 もし、この『死神』の爆弾の解体方法に間違いがあったとしたら……。
「……終わりだ」
 震電がビスを回しきった、その瞬間……。
 
「………」
 
 組み上げられた時限爆弾の赤いランプが消え、代わりに緑色のランプが点灯した。
 デジタル表示の時限装置も、全ての数字が0と記されており稼動している様子はなかった。
「……ふぅ」
「……ふみゃぁ~大変だったよぉ」
 震電は軽く溜息をつき、連山は弱弱しくへたり込んだ。ミラは二体に語りかける。
「…震電・連山、本当によくやってくれた。だが連山、君には最後の仕事が残っている」
「ふぇ~?」
 少し困ったように連山は、ミラを見上げた。
 ミラの表情は穏やかであり、少し困っていた。
「合計13kg強のそれを、清掃員の誰にも目立たないところへ持ち運ぶんだ」
「あぅぅ~うそぉ~っ!?」
「安心しろ。都合のいい隠し場所は私が教えてやる」
「はぅぅ~……ミラちゃん酷い~~…」
 慣れない作業の後で疲労感を覚えたというのに、また重労働である。
「…震電、悪いが”フレスヴェルグ”を使って、牽引してやってくれ。流石に13kgは連山にも重労働だ」
「……了解した」
 時限爆弾としては解体されているとは言え、それが目立つところに存在すると言う事実が最大の問題なのである。
 その上、組み立てた時限爆弾は非常に重たい上に大きい。
「清掃員の立場となり、死角になる位置は……あの物置の真下の空間だろうな」
 と、ミラが指を差し出す所まで、10m以上の距離はある。だが、組み立てている途中で、人間の生体パルスを検出する回路が見つかった為、ミラが持ち運ぶ訳にはいかない。
「ふぇ~ん、しんどいよぉ~…」
「……弱音を吐くな。これでも無理をさせている」
 重たすぎる『死神』の爆弾を必死で押し出す連山と、”フレスヴェルグ”と爆弾をアンカー付ワイヤーで固定して、震電は遠隔操作で慎重にブースターを噴かしている。大変そうに見えるのは間違いなく連山だが、震電も”フレスヴェルグ”のオーバーヒートを避けるべく、かなり気を遣っていた。
 それでも、亀の歩みよりはまだ速く、あと少しで何とか終わりそうではあった。
(「これが終わったら再度、充電と調整が必要かな。だが、『運命の輪』も…」)
 頑張っている震電と連山を静観し、ミラは二体の事とこれからを考えていた。
 
 
 ―PM:19:11 March XX. 203X.
 ―East Passage, 1F.
 
「いや然し、本当に危ないところだったかな」
「ったく、ミラが走ったんじゃ絶対、間に合わなかったぜ」
 『死神』の爆弾の後始末に手間取り、ドームの東方面にあると推測した、9個目の『運命の輪』の制御装置が仕掛けられた壁掛け時計まで走っていく必要があった。
 だが、本当に走って行くだけでは間に合いそうになかった為、烈風はミラのトランクから飛び出て自分から飛んでいったのだ。その結果、ぎりぎりで間に合ったのである。
「私は肉体労働向きではない。その代理が烈風、君だ」
「それ、マジで言ってんなら殴るぞ?」
「冗談に決まっている。それにしても、気が付けばすっかり夜だな」
 外の景色を見て、ミラは小さく呟いた。客はすっかり少なくなり、参加者達は明日に備えて英気を養うのだろう。それでもこんな時間に残っているのは、ブースに出店しているスタッフくらいだ。
「あの、ピ○の黒服の奴等も諦めたようだぜ」
「まあそうだろう。無駄だといい加減気づいたのかもしれないな」
 煙たい存在も去ったようで、ミラは少し気分が良かった。
「ところでどうするんだ? そろそろ引き揚げてもいいんじゃねぇか?」
「まあ待て、折角の夜だ。夜になると出てくるものを見立てたのを、最後に見ておこうじゃないか」
 と言った瞬間、
 
『ゴゴゴゴゴゴゴ…』
 
 アリーナの方から不自然に低い音が響いてきた。
「おい、ミラぁ。コイツは一体……!?」
「少なくとも、爆発だったらもっと派手な音がする筈だがね」
 音の正体を確かめに、ミラは会場へと足を運んでみた。
 
 
 ―PM:19:16 March XX. 203X.
 ―Arena, 1F.
 
 ミラが会場を見渡してみると、天井が二つに割れ、その隙間から夜空を見る事が出来た。
「開閉式ドームが……明日に備えて開けるのか」
「ケッ、随分とまた豪勢な仕掛けを拵えやがって……」
 それを見て納得するミラと、大いに呆れ返る烈風だった。
「あ~あ、こんな早い時間に開けてどうすんだよ。外からゴミが入ってきたらどうすんだ?」
「それはきっと、二日目の開会の前に清掃するのだろう。それに、真夜中にこんな轟音を立てるわけにはいくまい。天気予報でも晴れだと聞いているし、特に風も強くないそうだ」
「やれやれ、そうかよ。ったく、あ~あ夜空のお月さんが何とも寂しげだぜ」
「そのお月さんを解体するなら今が良き機会だ。今日の締めくくりに、『月』の解体を進めたい。震電、準備を始めてくれ」
 ミラはトランクを開け、震電の装備をスタンバイする。
「……了解した」
「面倒くせぇ……けど、やるしかねぇか」
 準備中の震電を尻目に、烈風は真っ先に開閉式ドームまで飛んでいった。
 
 
 ―4 Minute Passed...
 
 会場の遥か上空。既に天井は開ききっており、月明かりが寂しげに輝いていた。
 少し遅れて震電が到着すると、
「……『THE MOON』の設置箇所だが、ドームの北側にある」
 当然だが、発見者である震電の情報を聞かなければ、烈風は何も出来ない。
「北の何処だよ?」
「……点検作業用のキャットウォークの遥か先だ。少なくとも、人間の手では届かない」
 と言いながら震電は、『月』を発見したポイントへ飛行した。
「んじゃ、仕掛けたのはいい加減なロボットか狂った神姫だろうな。然しそんなんじゃ、これだけしっかりした天井、多少の火薬じゃ花火と見間違えちまうぜ?」
「……火薬そのものは有線で別の位置に仕掛けられている。それそのものは人間の手で設置できるようだ。無論、解体前に火薬のみ除去しようとしたらアウトの様だ」
 震電が説明していると、逆さまになった小さな『月』の金属プレートが見えてきた。その近くには、輝度センサーとクロックのようなものが仕掛けられていただけだった。
「おいおい、これで『THE MOON』かよ。すっげぇしょぼいぜ?」
「……単純すぎる故に、解除方法は………ん?」
 震電は、二つの装置を見て何かに気づいた。
「おい、どうした?」
「……昼間は停止していた装置が、今は起動している。となれば今、解除が可能だ」
 震電はそう言いながら、”フレスヴェルグ”にぶら下げてきたある板状の物体を烈風に手渡した。
「何だよコレ…小せぇけど、鏡?」
「ミラ曰く、輝度センサーが関係しているなら、夜の緩やかな月光を当てれば解除できるらしい」
 と言い、震電は”フレスヴェルグ”を夜空の下まで飛行させる。その上に乗りながら鏡を掲げて、烈風の方に幽かな光を送った。
 然し、光というにはあまりにも儚く微弱すぎた。光として届いているとはとても思えない。
「オイ、コラ震電。光なんて全っ然見えねぇんだがよ?」
「……こちらの角度は寸分の狂いなく正確だ。見えないならその鏡、陰となる部分に向けてみろ」
 震電にそこまで言われ、烈風は渋々ながらも手渡された鏡を適当に傾けてみた。すると、影となるところにほんの微かにだが、鏡の形どおりの幽かな光を確認する事が出来た。
「ぼんやりしすぎ……ってかこんな弱い光、マジで感知出来んのかよ?」
「”フレスヴェルグ”の推進剤も安くはない。早くやれ」
「言われなくても分かってらぁ!」
 震電の発言にムカつきながらも、烈風は鏡を傾けてみる。が、後少しで輝度センサーに届きそうになるところで鏡が傾ききってしまう。
「おい震電! もうちっと右に移動してくんねぇか? あと少し届かねぇ」
「……了解」
 震電は鏡を傾けつつ烈風を軸に、”フレスヴェルグ”を右へと1メートルほど迂回した。
「おっけ、これならいけるぜ」
 震電の位置を確認し、烈風は再度鏡を傾けなおしてみる。今度は、月光が輝度センサーに届いた。
 だが、どういうわけか時限装置が反応を示す様子がなかった。
「おい震電! これはどうなってんだよ!?」
 そうしろと言われ、見事に期待を裏切られたと烈風は思った。
「……説明不足だった。ミラの推測では、18秒か18分、照らし続けなければならない」
「何だと!? 途中で月が陰ったらどうすんだよ?」
「……その心配は無い。今夜は、雲ひとつ浮かばぬ夜空だ」
 やっぱりそうなるのかよ、と烈風は諦めるしかなかった。せめて、18秒であって欲しいものだが……。
 
 
 ―16 Minute Passed...
 
 黒き翼を羽ばたき続けるのは苦では無いが、鏡を支える腕がぶれそうになる。ドーム上空とは言え、そう滅多に風が吹き込んでくることが無いのは幸いだった。
「…畜生、やっぱ18分ってオチかよ」
「……後、2分だ。忍耐として耐えろ」
 震電は”フレスヴェルグ”の真上に乗っている為、高度調整に苦労しない。
「うっせぇな、分かってらぁ。にしても、コレ含めたら幾つ解体した事になるんだ?」
「……貴様が一番理解しているものと思っていたがな。これが終われば、14個だ」
「何だよ…先手を打つって言っておきながら、たった2個のリードじゃねぇか」
 烈風は心底呆れて呟いた。
「……明日にならなければ解体出来ない爆弾を『アルカナ』が用意したと考えれば、今日中に出来るものは殆ど解体出来た事になる……それと、『THE LOVERS』と『THE SUN』は発見して位置を特定してあるし、『WHEEL OF FORTUNE』も後一つ」
「ちぇっ。となるとやっぱ明日は、V.B.B.S.筐体のフィールドに仕掛けられた起爆プログラムの解体が必要ってワケか」
 そこからは、ミラージュコロイドを持つ連山の出番となる。試合と言う、非常に限定された時間にだけ現れる爆弾の解体は非常に困難だ。
「……後、10秒をきった」
「やれやれ、本当に解除してくれんだろうな?」
 残り、5秒。その瞬間、外から強い風が吹き込んできた。鏡を傾けている最中の烈風と震電に容赦なく襲い掛かる。
「うぉっと、こんな時に…!」
「……堪えろ、流されるな」
 烈風は咄嗟に、翼の角度を調節して風を受けないように傾け、震電は”フレスヴェルグ”のブースターを逆に吹かせて対抗した。
 あと少し、ここでぶれれば18分もの忍耐がお釈迦である。
 風は瞬間的なもので、あまり長く吹く事はなかったのが救いだったか。
「……烈風、うまくいったか?」
 そう震電は訊ねたが、遥か遠くに小さく輝く緑色のランプを見つめてすぐに結果を察する事が出来た。
「やばいとこだったが、上手くいったみてぇだな」
 構えていた鏡を片手に持ち、烈風は解除された『月』の爆弾を見つめた。
「……成功した。ミラのところに戻るぞ」
「オマエ……相変わらず思考の切り替えが早ぇな」
 淡々としている震電に呆れながらも、烈風はドームの上空から急降下し始めた。
 
「よくやったな、烈風・震電」
 降下したところでミラが迎えてくれた。震電はとっとと”フレスヴェルグ”と鏡をトランクの中にしまいこむが、烈風には一つ気になる事があった。
「そういや、『THE MOON』ってどんな意味なんだ?」
「意味か、勉強熱心なのは好ましい事だな。『月』だが、日によっては大きく満ちる事もあれば、痩せたように細くなる事もある。また、月の光は昔から人を狂わせるものだと言われてきた。満月の夜の日に交通事故が多く発生するデータもある。移ろい変わる姿と淡くも切ない月の光に、微かな不安を抱くことだろう」
 意味の前にミラはそう説明してみたが、
「そういうもんか? 月が満ちて不安になるのはオオカミ男とかじゃねぇの?」
「なかなか面白い事を言うな。が、『月』のカードはやはり、不安を意味する。逆位置なら不安な気持ちに惑わされず、真実を見抜く事が出来る」
 トランクの後片付けを済ませて震電をトランクの中に収容し、ミラはすっくと立ち上がる。
「このような解体、一人で行うには不安すぎたんじゃないかな?」
「不安以前に、ボク一人じゃ出来ねぇんだよ。だからアイツも来たんだろ?」
 と、アリーナを出るミラの肩に乗りながら、烈風は悪態をついた。
 
 
 ―PM:19:56 March XX. 203X.
 ―East Passage, 2F.
 
 最後の『運命の輪』が仕掛けられている壁掛け時計の前まで来ていた。こんな時間になって残るのは警備員や関係者だけだ。
 あまりにも楽な作業なら、明日に回すより今日中に済ませてしまう方がいい。
「烈風、今日の最後の仕事だぞ」
「へへっ、今度もまた10分を待てばいいんだろ。楽勝だぜ」
 と言いながら烈風は壁掛け時計まで近寄ってみるものの……。
「ゲッ、最後の最後でどうなってんだ?」
「良かったな、まだ10分は考える時間がある」
 それは、今までに見かけたタイプの装置ではなかった。必要最低限の回路が組んであるだけで、内部が露出するような仕掛けどころかビスも無い、極めて小さくコンパクトな制御装置が時計に繋がれていた。
「畜生! 下手にバラせばドカンだな。くっ…どうすりゃいいんだよ!?」
 最後の『運命の輪』を前に、烈風は悩み苦しんだ。
 そこでミラは烈風にアドバイスをする。
「一つのものばかり注視して解決出来ないなら、他のものを見てみるといい」
「他ぁ?」
 そう言われて、烈風は制御装置から離れて違うところを見渡してみた。すると、時計の文字盤の所々に小さな穴が開いているのに気づいた。
「何で文字盤に穴が開いてんだ……?」
 穴は全部で9つ。2から10に至る数字の近くに一つずつ穴が開いており、意識して見つめないと文字盤に描かれた模様と見間違えそうだった。
 文字盤を前に熟考する烈風にミラは更にアドバイスした。
「さて、ここに来るまでに至り、君が手に入れたものを教えてもらおうか」
「一々何なんだよ、さっさと答えを出しやがれってんだ!」
 ミラの遠まわしな喋りに、烈風もいい加減、腹に据えかねていた。
 だが、烈風を見つめるミラの表情は極めて真摯だった。
「それでは駄目なんだ。君は分析力に洞察力と判断力が非常に優れている。これはバトルではないが、私の言う事ばかり聞いて鈍らせてはならない。常日頃から鍛えておけば、少し前のミカエルの戦いの時のような、無謀はせずに済んだだろう」
 戦闘経験の量は烈風とミカエルでそれぞれ、質も量もまるで異なる。烈風なら違法神姫の破壊であり、ミカエルなら無数のリーグ戦で勝利を納めてる。それぞれ土俵が違うのだから、経験はあまり当てにならない。
 そうなると必要となってくるのは、火力ではなく神姫自身の思考力であるとミラは考える。
「チッ、やっぱ駄目か」
「近づかせずに倒そうとする、とは見抜いたようだがね。だが、もう同じ手にはかからないだろう」
 勝利には違いないのだが、相手の油断と運気が強く絡んだ勝利に殆ど価値は無い。AIESに必要なのは必然の勝利なのだ。
「言われてみりゃ、あんな武装の塊の対処法が幾らでも思い浮かんできたぜ。ついでに、目の前の9つの穴の意味もな」
 その言葉を聞いてミラは微かに笑みを浮かべた。
「それはそれは。では、どうすればいいと思うかな?」
「今までの奴は9つ全部、ピンを抜いて解除したんだったよな。そんで、ピンの太さと文字盤の穴の大きさがほぼ同じだな。とすると、今までに集めてきたピンを……何かの順番で差し込むんだと思うぜ」
 烈風の推理にミラは軽く頷いた。トランクの中で控える震電に声を掛け、烈風が集めてきたビニール袋入りのピンを出してもらう。
「『運命の輪』は正位置で、10番目のカード。そして、君の目の前にあるのは時計じゃないか」
 新たにヒントを出され、烈風はミラの言いたい事を理解した。
「そうか、2の文字から順に時計回りにピンを差し込んでいきゃいいのか!」
「私の推理と一致したな。10分より始まり10時に終わる、と私は踏んでいる」
 そうなれば後は、推理を信じてやり通すだけだ。ミラから9本のピンを受け取ると、左手の指の間に4本挟み、口に4本咥え、右手に1本持って文字盤に取りに掛かった。
(「最初は…コイツだ」)
 文字盤の2のところまで近づき、最初のピンを差し込む。全く反応が無いが、悪い兆しとも言いがたい。
 そして立て続けに、ピンを順番どおりに差し込んでいく………そして、
「こいつで、ラスト!」
 震電は10のところに、最後のピンを差し込んだ。下の方で睨んでいた制御装置に、緑のランプが点いた。
 朝から始まった『運命の輪』の解除を知り、烈風はミラの肩へ軟着陸した。10時間もかけた疲労が、その表情から窺い知れた。
「すっげぇ……長い解体だったぜ」
「ご苦労様、だな」
 これで、『アルカナ』が仕掛けた爆弾も残り7個となった。
 
 
 ―PM:20:06 March XX. 203X.
 ―Defence Headquarters.
 
 すっかり夜が更けてきた。
「水無月様、ただ今戻った」
「お疲れ様です、ミラさん」
 すっかり静まり返ったと言うのに、警備隊責任者である桜は報告書をてきぱきと纏めていた。少し前に見た伊織と言う社長を陰で支える人物である、と改めて認識し少し可笑しくもなった。
「先ずは報告だが…」
 そう言うとミラはボールペンを手に取り、メモ帳に続きを書いた。
 
『疑わしき警備員がいると推測した為、暫く筆談とする』
 
 桜は静かに頷いて、筆談の続きを待った。
 
『全22個中、15個成功』
 
 冷静な桜も思わず驚きそうになった。普通の爆弾処理班でさえ、一個の普通の爆弾の解体に相当な時間を掛けるものだ。
 それをミラは、11時間近くかけて15個も成功させた。幾らスピード勝負とは言え、奇跡と言うべきだ。
 
『残り7つの内、2つは発見したが、翌日でなければ解除出来ないと推測。5つも同様に、明日にならなければ発見出来ないものと思われる』
 
 それを疑問に思い、今度は桜がペンを手に取った。
 
『何故ですか?』
『大会は二日に分けて行なわれる。二日目で無ければ解体出来ないとは、決勝リーグの試合中のV.B.B.S.筐体のフィールド内部に設置されている可能性が高い』
 
 ドームにある爆弾を隅から隅まで見渡して解除したなら、残りは刹那に生み出される仮想空間のみに存在する事となる……とミラは踏んでいた。
 
『例の、使用する機会はありましたか?』
『一回は必要と判断。が、警備員を欺く機会があった。無論、効果覿面。やはり犯罪に使用される恐れあり、要検討』
『承知しました』
『以上。速やかにこのメモはシュレッダーにかけ、焼却処分せよ』
 
 少し長い文章だけのやり取りが終わった。桜はメモを受け取り、懐にしまった。
「ふぅ、大会の一日は長くてあっという間だな」
「大変お疲れでしょう。今日はホテルに戻られては如何でしょうか?」
「そうさせて頂こう。水無月様はこれから?」
「まだ、仕事は残っておりますから……お先にお休み下さい」
 桜は少し残念そうに笑い、ミラも同情するように微笑み返した。
「では、明日も世話になる」
「お休みなさいませ」
 桜に会釈するとミラは本部を後にした。
 まず、これで一日目が終わった。今日は今日で大変だったが、寧ろ明日から本番となる。
 
 
 ―PM:20:15 March XX. 203X.
 ―Entrance, Grand Hotel.
 
 ホテルの回転式ドアを潜り抜けると、豪華だがシックに落ち着いた広大なフロアが広がる。
「さて、本当の戦いは明日からだ」
「あ~あ。ミラったら、ホントやる気満ま……ってゲッ!? てめぇ、冗談は体だけにしとけよ…!」
 軽口を叩いて呆れて見せる烈風だったが、目前の人物を見て驚き、続けて疲れを覚えて嫌になった。
「待ってたぞ、『Destiny of 6in』のオーナー!!」
 ミラの目の前にいたのは、鶴畑大紀だった。横に大きい巨体と黒服達は、優美ながらも落ち着いたホテルのフロアの空気をぶち壊しにしてくれる。
「困った子供だ……女性の宿泊先を調べるのは悪い趣味だ」
「この僕を待たせといて何を言う!!」
「待たせてって、私は君に来て欲しいとは………あぁ、しまった」
 そう言えば去り際に『それでも戦い続けたいなら、次は現実で』、と言ってしまったのだった。VR筐体の電源が落とされ、次はリアルで戦う事を躊躇するかもしれないと思っての発言だった。
 発言には責任を持たなければならないな、と思いつつミラは深々と溜息を吐いた。
「……やれやれ、態々待っていたところを見ると本気のようだな」
「この野郎、マジでボコされてぇみてぇだな!」
「まぁ待て」
 ホテルの場所を付きとめてまで喧嘩を売る厚かましさに、怒りを覚えた烈風は手の平に拳を打ち付けるが、ミラに静止された。
 ミラは、軽く意地悪そうな笑みを烈風に見せた。
「烈風、8時前に私が言った事を覚えているか?」
「んな昔のこたぁ忘れた」
「今日の最後の仕事。だから今日は君が何と言おうと終わり」
 一瞬、烈風の思考回路が停止した。そう言えば、最後の『運命の輪』を解除する時にさり気なく言っていたような気がする。
 が、すぐに猛烈に反論してきた。
「ふざけんな! 仕事以前に売られた喧嘩だろうがよ!」
「喧嘩も君の仕事だ。それに、そろそろバッテリーの限界だろう。一介の武装神姫として、バトルの最中に脱力したり倒れてもらっては困る」
 図星だった。烈風と震電と連山の中で、最大稼働時間が飛びぬけているのは烈風なのだが、今日は無理をさせすぎた。それに昼に大紀と戦った後のメンテナンスで、補給の必要が無いとされたのも烈風だった。
「チィッ…!!」
「八つ当たりするなら私を蹴ってくれよ。ホテルにされたら弁償しきれない」
「そんくらい分かってるよ、畜生!」
 と言って烈風は、容赦なくミラの首筋を思い切り蹴飛ばした。
「痛った!! ふ~…流石に今回は脊髄に響くかと思ったよ」
「手加減してやったんだ。これが武士の情けって奴だろ」
「それはそれは。だが、武士は人の首を蹴飛ばしたりなんてしないよ」
「あぁそうかよ、じゃあボクの情けにしてやる! これでいいのかよ!?」
「駄目に決まっているだろう」
「おい!! つまらない漫才は見飽きたんだよ!!」
 怒りを通り越して疲れてきたか、大紀が二人の会話に割り込んできた。昼に初めて大紀と会った時と殆ど同じである。無駄な与太話で無視するパターンだ。
「「チッ」」
 ミラと烈風は互いに舌打ちした。このまま呆れて帰ってくれれば良かったのに。烈風は疲れたような表情で、改めてミラに言葉をかけた。
「おいミラぁ……どうすんだよ?」
「単純な話だ。君の代わりに戦える神姫は二体もいる。そうだろう、震電、連山?」
 トランクの中の二体に呼びかけると、
「……無論」
「えへへ~烈風の為だったらいくらでも頑張れちゃうんだから~!」
 簡潔にして静かな言葉と、快活で元気な台詞がトランクから響いてきた。
 震電と烈風の声を聞き、ミラは改めて大紀に話しかける。
「相手が昼とは異なるが……それでも構わないかな?」
「ふん、あんたが持つ神姫に勝てればいいんだ」
 そう言いきる大紀に、烈風は溜息をつきそうになったがやめた。本当に痛い目を見ないと懲りない性分なのかもしれない。そもそも、そこまでして戦う理由が烈風には理解できなかった。
「それはいいとして、何処で戦うのかな」
 決闘を申し込んできたのは大紀その人なのだから当然、戦う場所は決まっている筈である。
「付いてこいよ」
 大紀はぶっきらぼうに言い放つと、ミラの脇を抜けてエントランスフロアを出て行った。
 その後ろ姿を見て、烈風は、
「ミラぁ、いっそシカトしちまおうぜ。かったりぃ」
「それは駄目だな。約束は約束だからだ。そこで君には、二人にミカエルの装備の特徴を説明してやって欲しい」
 そう言いながらミラは大紀の後に従った。
 
 
 ―PM:20:27 March XX. 203X.
 ―Free Square, Public Park.
 
 ミラが招かれたのは近くの公園だった。唯の公園のように遊具などは無く綺麗に石畳が敷かれており、ベンチや噴水に木々に恵まれた広場と言う感じの場所だろうか。
 人通りは無く、唯、公園を昼のように照らす屋外灯がその存在感を示すだけだった。
「真夜中のデートとしては、何とも寂しい場所を選んだものだな」
「それがアメリカのジョークか? 面白くもな……!?」
 ミラの言葉に露骨な不快感を示す大紀だったが、その場に控えていた二人の人物の姿を見て動揺した。
「明日が決勝と分かっていながら随分と余裕なのだな?」
 長身のすらりと長身の青年がそこで待っていた。彼は大紀を鋭く冷ややかに睨んでいた。
 青年と大紀の間を、耐えがたい沈黙が支配する。
(「成る程、彼は明日の大会に出場するのか。そしてあの彼は家族に違いないな」)
 思わぬ先客により傍観者にされてしまったミラは、二人の間柄を考察する事しか出来なかった。大紀の表情から明らかな焦りを見て取る事が出来たが、ミラには彼をかばう動機も理由も無かった。
 今日の出来事で疲労したミラが小さく欠伸をした時、長身の青年が沈黙を破ってミラに話しかけてきた。
「鶴畑興紀と申します。此度、弟の無礼に付き合ってくださったそうですね?」
「何っ、弟だと? ……私はミラ、ミラ・ツクモ。別に無礼と言うほどの事でも無い」
 興紀と名乗った青年はどう比較しても、容姿にしても顔つきも大紀と似ていない。だが、腹違いの兄弟と言う可能性は十分にありうる。
「弟は昼頃に、貴女を無理にバトルを強いました。それは確かですね?」
 丁寧で紳士的に興紀は問いかけてきた。だがISIとして培ってきた勘が働いたか、初めから全て分かっていて問うているようにしか聞こえない。目の前の好青年は、大紀より厄介な人物であるとミラは悟った。
 多くを語るとあちらのペースに乗せられてしまうと思い、ミラは無難に返事した。
「まぁ、そうかな」
「こうして二度目の戦いをさせるところでしたが…これ以上の非礼は兄として許すわけにいきません」
 丁寧に詫びて見せる興紀だったがミラは、
「いや、最初のバトルの後で私は挑発的な発言をして、彼をやる気にさせてしまった。その為、二度目ばかりは私にも責がある」
「!?」
 と、ここで庇うような発言をするミラに、大紀はミラに振り向いた。別にミラには庇う意思など微塵もないのだが、二度目の戦いではっきりさせておかないと、大紀との要らない因縁を抱えてしまう。
 更にミラは言葉を続ける。
「先の会話で、明日の試合を控えていると知った。VR筐体無しで戦うとなれば損傷・破損は必至だが、それでも彼は私にバトルを持ちかけてきた。私は、彼の覚悟に応えなければならない」
「………」
 ミラの説得を聞いて興紀は暫く考えていたようだったが、
「そうですか。そこまで仰るのでしたら仕方ありません。その戦いを最後まで見届ける事にしましょう」
 興紀は意外と簡単に応じてくれた。大紀は胸を撫で下ろすも、すぐに興紀が大紀を冷たく睨み付けたのをミラは見逃さなかった。
 だがミラは、ここまでの一連の流れに興紀の作為と意図を感じていた。幾らミラの説得があったとは言え、大紀の非礼を詫びながらも、二度目の戦いを簡単に許したのだ。
(「彼も私の評判を知っているのだろうな」)
 そう思うと、彼が作る表情の裏に悪魔の微笑が見て取れるようだった。
 ミラは少し考え、トランクの中の一体の神姫を呼びかけた。
「連山、今回は君の出番だ」
『あいな~♪ 頑張るね~っ♪』
『レン、手加減してやらねぇとマジでバラしちまうぜ?』
 と、トランク越しに連山の気楽な声と烈風の物騒な台詞が聞こえてきた。
 それに対しミラは、
「その意気や良し。但し、幾つか条件を付けるがね」
 
 
 ―2 Minute Passed...
 
 夜空にはほぼ円形の月が浮かんでいた。おかしな事だが、昼の戦いの時と全く同じ夜空だ。
 だが、昼の戦いとの違いは無数の森林ではなく芝生と石畳のチェック模様の地面である事と 眩しい屋外灯で辺りが照らされている事。そして、この戦いは現実で行われるものだと言うこと。
 形式的な試合に近づける為、それぞれの神姫を広場の両端に位置させた。その為、互いの距離は30mを裕に越えており、これなら互いに公平な状態から始める事が出来る。
 
(「目標補足の為、上空より索敵開始します」)
 石畳より3mほどの高度を維持しながら飛行し、ミカエルは索敵から始めていた。まだ敵の姿を視る事が出来ていないが、センサーの有効範囲は半径15mもある。先に捕捉し、狙撃すれば勝てる。
(「もう、敗北は許されません…!」)
 内心、ミカエルは焦っていた。まるで天狗の様なシルエットの、左右非対称に武装を取りつけていた犬型MMSとの昼のバトルと、あの後の大紀の怒りがフィードバックされ、思わず恐怖に震える。
 昼のバトルは完全な勝利を掴み取れると確信していた。が、その確信が油断を招き、完全に逆転されてしまった。もし、VR筐体でのバトルでなかったら、今の私はいない。
 その後、マスターに激しい剣幕で怒鳴られ、酷く罵倒された。
 
『この役立たずが! よくも僕の顔に泥を塗ってくれたな!!』
『あんなふざけたものに当たるなんてどうかしている!!』
『お前に幾らつぎ込んでいるのか、分かっているのか!?』
 
 そして、
 
『もし次で負けたら、明日のリーグが終わり次第、お前を消してやるからな!』
 
 だから、この戦いで負ける訳にはいかない。
 しかし……それがオーナーの為なのか、それとも自分の為なのか。自分には分からなくなっていた。
(「! ……ターゲット、ロックオン」)
 余計な事を考えている暇は無い。センサーが相手神姫を捉えたのだ。ヘッドセンサー部よりエレクトロンスコープに切り替え、相手の姿を視認した。
 丁度、15m先のところに赤い神姫がいた。あまりに時期外れなサンタ型MMS。バトルの最中だと言うのに暢気にニコニコと笑っている。しかも、どう言う事か防具は殆ど身に付けておらず、武装に至っては侍型が持つ槍の『破邪顕正』と、脇差の『怨徹骨髄』だけだった。
 どう考えても、相手のマスターが戦意を放棄したか舐めているとしか思えない。だがミカエルは、これは何か裏があるのかもしれないのだと思った。
 ミカエルはホバーシステムを兼ねていた、テトラポッド状のビットを2基だけ切り離し、相手のサンタ型MMSをターゲッティングさせる。ここで威嚇射撃をして相手の様子を伺うのだった。
 束の間の刹那。ビットから放たれたレーザーはサンタ型MMSの脇のすれすれを抜けていったが、笑顔を全く崩さずに怯むことなくミカエルへ前進していった。
(「な、何のつもり…!?」)
 ミカエルは更にビットを2基切り離して、今度はサンタ型MMSを包囲して死角を完全に無くした。同時に高出力レーザー砲の照準をそのサンタ型MMSに向けた。
(「これで、終わりにします!」)
 全武装を解放した瞬間、ミカエルはとんでもないものを見た。
『てえ~いやっと!!』
 相手のサンタ型MMSの掛け声が聞こえた瞬間、サンタ型MMSの姿が消えてしまったのだ。そして、一斉に放たれた攻撃は石畳に全て命中して、小さな焦げ跡を残した。
(「そ、そんな! 視野及びセンサーから消失!?」)
 神姫がいきなり消えた。そのような現象が、リアルの世界で起こる筈がない。
 ミカエルは一度ビットを呼び戻しつつ、慌てて索敵を開始した途端、妙な音が聞こえてきた。
『ガタンッ』
「…えっ?」
 音が聞こえてきた方向を視認すると、レーザーの焦げ跡が付いた一枚の石畳がこちらに向かってゆっくりと移動していた。更によく見てみると、死角無しの第二射を行った地点から、一枚の石畳がすっぽりと抜けていた。
(「あり得ません! こんな、こんな戦い方っ!」)
 相手のサンタ型MMSは、レーザーによる一斉射撃が行なわれる瞬間に石畳を持ち上げて、即席の盾を築いたのだ。そうやってミカエルの射撃を遮って回避したのだ。それどころか、持ち上げた石畳をそのまま前へ押し出し、石畳を擦ってゆっくりとミカエルに近づこうとしていた。
 あまりにも破天荒で馬鹿馬鹿しい展開だが、ミカエルは暫く唖然としていた。
(「然し、背後ががら空きになる筈……!」)
 ミカエルはゆっくりと迫ってくる石畳を恐れ、数メートル程後退すると6基全てのビットを、迫ってくる石畳の背後に配置させた。石畳の重さがどれ程のものかなんて分かる訳は無いが、少なくとも避けの動作に移る事は困難になる。
 最初は呆気に取られたが、落ち着いて考えれば隙だらけだ。こうなったら必殺のマイクロミサイルでとどめを刺す。いざと言う時の為に、高出力レーザー砲も準備をしておく。
 6基のポッドの蓋が開かれ、最初のマイクロミサイルが点火した瞬間だった。
『とぉ~りゃぁ~っ』
 間の抜けた掛け声と共に、石畳がシーソーのように前後逆に大きく反転し、石畳を傘にしていたサンタ型MMSが現れた。そして一斉射撃したマイクロミサイルが、反転した石畳によって全て防がれてしまった。
 そして、サンタ型MMSは破邪顕正の穂先を前方に突き出しながら、ミカエルに向かって駆け出してきた。
(「またそんな…ロックを急がないと!」)
 こんな非常識な相手がどう仕掛けてくるかなんて予測出来ない。だが、間違いなく今がチャンスだった。
 だが、相手のサンタ型MMSを捕捉しようとする度にサンタ型MMSは照準から外れる。幾ら狙おうとしても、まるで、”相手の照準が見えている”かのように、巧みに避けるのだ。
 ロックを避け続けながら追いかけてくるサンタ型MMSにロックしようとしつつ、6基のビットに追撃させていたが、ロックに専念すればビットの支援攻撃が外れるようになり、逆にビットの攻撃に専念しようとすればロックオンする間もなく、距離が縮められるばかりだった。
 ミカエルは後退しながらチャンスを窺うも、サンタ型MMSの動きに寸分の狂いも迷いも見られなかった。そうこうしていく内に、遂にはミカエルのバーニアの推進剤が切れてしまった。圧倒的火力と遠距離攻撃による短期決戦に重点を於いているだけに、持久戦に向かないのがミカエルの装備の弱点だった。
(「しまっ……あっ!!」)
 推進剤が切れて一瞬だけ動揺した瞬間、サンタ型MMSは破邪顕正を真っ直ぐに伸ばし、穂先を地面に立て掛けそのままミカエルに向かって高く飛び上がった。
 推進剤が切れているとは言え、サンタ型MMSのジャンプは2m近い高さに達しようとしていた。
『きゃんっ!?』
 ミカエルは仰天したが、咄嗟にリフレクターを展開してサンタ型MMSを弾き返した。
 いきなり飛び込まれて驚いたがこれなら……。
『あはは~びっくりしたぁ~♪』
「ッ!?」
 聞こえてくる筈の無い声が足元から聞こえると同時に、ミカエルは姿勢をがくんと崩してしまった。。
 しぶとくもサンタ型MMSはミカエルの足を掴んでぶら下がっていた。振り払おうとするもサンタ型MMSは手を離すことはなかった。
 攻撃して振り落とすしかないのだが、密着する程の至近距離に迫られる事は想定しておらず、ミカエルの武装にはレーザー短銃しか用意されていなかった。
 ミカエルは短銃を抜いてサンタ型MMSに狙いを定めたが、その瞬間にグイッと足を引っ張られてバランスを崩された。更にその反動でミカエルの正面まで上がると、両腕を掴まれてしまった。
「このっ…放せ!」
『あはは~落っこちる~っ!』
 間もなく石畳の上に墜落しようとしながらも、ミカエルとサンタ型MMSは取っ組み合っていた。が、殆ど装備を持たないサンタ型MMSの方に分があり、重装備なミカエルが下にさせられてしまった。
「やめろ! この! いや、やめてぇ!!」
 このような窮地に立たされながらも、常に糸目の笑顔を浮かべている目の前のサンタ型MMSに、ミカエルは心から恐怖した。何故笑っていられるのか、全く理解が出来ない。不気味すぎる。
 そして、ミカエルはサンタ型MMSと共に石畳の上に墜落した。
 
「けはっ……!!」
 ミカエルが周囲の状況を再確認しようとしていた時には、首筋に怨徹骨髄の刃が両手で押し当てられていた。これで勝敗は決した。ミカエルはそう思っていたが、相手のサンタ型MMSは相変わらずの笑顔で、そのままの姿勢を維持しているだけだった。
『ねえねえ~明日~試合があるんだって聞いたんだよ~』
「それが…何だって言うのですか」
 いきなり相手から話しかけられ、ミカエルは動揺した。
『お願いだから降参しようよ~でないと~首取っちゃうよ~?』
 何故、こんな愚かな事を聞いてくるのだろうか。このまま刃を下ろせば自分は消え、目の前のサンタ型MMSの勝利が確定すると言うのに。
「私は……こうして、二度も負けてしまった。降参しても…私はマスターに消されます」
 瞳から、何かの液体が頬を伝うのを感じた。ここで敗北した為、最後のチャンスも失ってしまった。
『じゃあさ~仕切りなおしちゃうよ~』
「……何?」
 予想もしない言葉と同時に、サンタ型MMSはミカエルから離れて怨徹骨髄を鞘に納め、地面に突き立った破邪顕正を抜いて肩に担いだ。
『まだ戦えるんだからさ~戦おうよ~♪』
 馬鹿か?
 それがミカエルの正直な感想だった。折角のチャンスを自ら放棄して再度、自ら不利な状況を作り出したのだ。バーニアの推進剤は切れてしまったが、6基のビットがまだ残っている。
 石畳の盾なんてふざけた方法で最初の攻撃は防がれたが、もう同じ徹を踏まない。
「いいだろう、乗ってやる」
 そういうと同時に、ミカエルは推進剤の切れた大型バーニアや高出力レーザー砲をパージした。地上でしか戦えないのなら、使えない装備などデッドウェイトに過ぎない。仰々しいパーツで固められていただけにミカエルのシルエットはすっきりしていた。
 次いで、6基のビットがサンタ型MMSを完全に取り囲んだ。自身も右手のレーザー短銃をサンタ型MMSに照準を定めた。
「つまらない余裕を見せた事を後悔しろ…!」
 ミカエルの言葉と同時に、一斉に七本もの光が一点に交錯した。
 たった一体の敵を打ち破る既望の瞬間……そうなると思っていた。
『ハズレだよ~♪』
 目標地点から暢気な声が聞こえ、ミカエルは驚愕した。
 サンタ型MMSに向けられたレーザーは、たった一本だけが破邪顕正の穂先で防がれ、残り6本のレーザーは全て、姿勢を小さく変化させ紙一重で回避していた。
 信じられないとしか言いようがなかった。だが、目の前にいるそれは確かに、この状況では異様としか言えない暢気な笑顔を浮かべ、破邪顕正を構えつつこっちに向かって駆け出そうとしていた。
「いやぁぁぁ、く、来るなぁ! 来るなぁ!!」
 迫り来るサンタ型MMSの笑顔に恐れおののき、ミカエルは悲鳴を上げた。レーザー短銃と全包囲のビットからひたすらレーザーを放つも、恐慌状態に陥ってはまともに照準を定められない。死角の無い射撃を完全に回避したサンタ型MMSに、出鱈目に乱射したレーザーなど掠りもしなかった。
 そして10センチ程の距離で、サンタ型MMSは破邪顕正と怨徹骨髄を捨て、鞘だけを左手に持った。
「来ないでぇ!!」
 迫ってくるサンタ型MMSにレーザー短銃を構えようとしたが、怨徹骨髄の鞘で高く押し上げられてしまい、レーザー光線は夜空に白い線を引いた。
『これが~師匠直伝っ!!』
 サンタ型MMSはミカエルのやや右に廻りつつ、鞘を右腕に掛けて、右手をミカエルの腕の下から廻して鞘の端を掴み、右腕からグイッとミカエルを前に引き倒す。
 その一連の動きは恐ろしく早く、完成されたものだった。
「きゃぁっ!?」
 ミカエルは地面に伏せられ、地面に叩きつけられて右手のレーザー短銃を取り落としてしまった。
『これが~古来より伝わる~捕手術の一つ! どうする~?』
 サンタ型MMSはミカエルを取り押さえたまま、まだ続けるかと告げた。
「くっ……まだまだこんなっ!!」
 残りの6つのビットをサンタ型MMSに向けようとしたが、
『これ以上抵抗すると、本当に君を壊さなくちゃいけないんだよ~?』
 ミカエルは、自分の身体を掴む力が強まるのを感じた。石畳を持ち上げた怪力から察して、本当に自分が粉々に壊される事を本能的に察知した。
 次第にメキメキと特製の強化素体が悲鳴を上げてきた。このままでは本当にまずい。
「こ、降参です…っ!!」
 こんな訳の分からない戦いに付き合っていられない。恐怖から逃げるのに必死で、これからの大紀との約束などすっかり失念してしまっていた。
 そのミカエルの言葉で、勝敗は決した。
 
 
 ―3 Minute Passed...
 
 連山は自分の武器を回収し、ついでに石畳を元に戻してからミラのところに戻った。
 大紀は、棄権して倒れたままのミカエルを前に唯、呆然と突っ立っていた。
「えっとぉ~これで良かったの~?」
「条件は全てこなしたから、十分だよ」
 ミラが連山に課した条件とは、『武器は二つ、装備は非武装に近い超軽装』と『普通の神姫には真似出来ない力技を用いる』と『勝てる状況になっても、一度だけチャンスを与える』と『攻撃する時は必ず相手を取り押さえてから』との四つ。力技は兎に角として、どれも厳しい条件だ。
 だが、ミラには二つ考えるべき事があった。
 一つはミカエル自身だ。明日に大会があるとは言え、もしも背水の陣で挑まれてきたら、ミカエルを破壊するしかない。それで、ミカエル自らギブアップを宣言するように仕向けたのだ。
 その時、乾いた拍手の音が聞こえてきた。
「いやはや、ファーストランカーたる弟をこうも容易く打ち破るとは思いもしませんでした」
 興紀が笑顔を浮かべてミラの前に来た。
 ミラが考えるもう一つの事は、試合を観ている興紀にあった。こちらの手の内は極力見せたくないし、戦方を解析される可能性もある。そこで連山に、荒唐無稽且つ到底真似出来ない芸当をさせたのだ。そうして、観ても得られるものなど無い試合を行ったのだ。
「そうかな? 私は相手の装備に問題があっただけだと思うがね」
 と、ミラはミカエルの事を話題に出してはぐらかした。
「然し、石畳を持ち上げるあのトルクは一体どこから出てくるのでしょうね?」
「全米マスタークラスのある神姫が、3ガロンの水タンクを持ち上げた事例を知らないのか。細かな改造が困難な日本の神姫には、出来ない芸当だと言う事は確かだろうが」
 確かに石畳を持ち上げるなど神姫の芸当とは思えないが、ミラが言った事は事実であり、アメリカでは大きな話題になったものだ。少なくとも一枚の石畳は3ガロンの水よりは遥かに軽い。
「まあ、良いでしょう。然しそれだけの実力を持ちながら、鳳凰カップに参加されないとは、実に勿体無いですね」
「色々と事情があってな、明日が忙しくて参加する余裕は無い。さて、そろそろ失礼させてもらう」
 ミラは踵を返した時、背後から興紀が、
「お休みなさいませ、ツクモさん。こんな夜中に失礼しました」
「君と、君の弟君の明日の健闘を祈っておくよ」
 
 そう言ってミラが公園から去った後……。
「大紀…なんと不甲斐ない。あれだけのハンデを付けた相手に、傷一つ付ける事すら出来ず完敗するとはな!!」
「お、お兄様…然し……」
 ミカエルは決して弱かったわけではない。唯、あのサンタ型MMSは”IllegalType”退治を専門とする戦闘のプロフェッショナルであり、戦ってきた環境が全然異なるのである。
 尤も、そんな事実は二人とも全く知らないのだが。
「然し……何だ?」
「あ、相手の神姫は海外の……アメリカのでしかも、あの『Destiny of 6in』のオーナーで……」
 弁明する事で頭が一杯で、大紀は墓穴を掘ってしまった。
 興紀の眉間に深い皺が寄った。
「ほぅ、つまり相手の実力を承知の上で挑み、二度も敗北しにいった……そういう事か?」
「あ……いえ、その……」
「自惚れるな! 彼女は既に引退したとは言え、お前如きが文字通りの無敗を誇ったあの神姫のオーナーに勝てるとでも思ったか!」
 興紀は怒り心頭で大紀を怒鳴りつけた。腹違いの弟の、あまりにも考えの無い行動に怒りを覚えた。
「す、済みません……」
「まあいい! 明日の結果次第で処分を下す。だが、もしその時は……分かっているな?」
 脅迫めいたその言葉に、大紀は恐怖に表情を強張らせて震えた。
 
 
 ―PM:21:17 March XX. 203X.
 ―Imperial Floor『Sweet』, Grand Hotel.
 
 ミラはガラス製のテーブルの上に工具を広げ、3体の神姫達の点検を行なっていた。明日に備え、万全のコンディションで挑む為である。
「烈風と震電は特に磨耗はなし。クレイドルで休んでしっかり充電するように」
「ふぁ……流石に眠ぃぜ」
 烈風はすぐにクレイドルの上で大の字になって寝転んだが震電は、
「……”フレスヴェルグ”の点検をさせて欲しい」
「その必要は無い。今日は戦闘で使わなかったから、推進剤の充填とブースターのスス掃いで事足りる」
 今日一日を振り返れば、震電は”フレスヴェルグ”を移動目的で使っていた。それなら大した整備は要らない。
「……そうか。では、休眠を取らせてもらう」
 と、最後に言って震電もクレイドルで休みに行った。
 そして最後は連山である。戦闘によるダメージは無いが、今日の最後の最後で少し無理をさせた。
「ミラちゃ~ん……どう?」
「駆動系及び骨格、全く問題ないな。だが、土埃が気になるから、私のシャワーのついでに軽く洗浄してやる」
「ふにゃぁ、ミラちゃんとのお風呂は久しぶりなの~♪」
 連山が大喜びして狂喜するや否や、クレイドルで休眠していた筈の烈風が飛び起き、
「何っ、レンと風呂だとぉ!? それならボクも一緒に…」
 勢いよく飛び起きたはいいが、ミラからは冷たく睨まれ、震電に至っては眠ったままヴズルイフの銃口を烈風に向けていた。連山だけは不安そうな顔つきだったが、明らかに空気が悪い。
「君には眠れと言った筈だが」
「……Dammit! はいはい分かってるよ、眠りゃいいんだろ!!」
 悔しくもそう言い残して烈風はクレイドルの上で不貞寝した。ついでに、震電が向けたヴズルイフも下ろされた。
 
 
 ―PM:21:24 March XX. 203X.
 ―Bath Room, Imperial Floor『Sweet』, Grand Hotel.
 
 ミラは自分もシャワーを浴びながら、完全に非武装な連山にシャワーを浴びせ洗っていた。
「ふにゃぁぁぁ…ミラちゃ~ん、そこはくすぐった……ふゃあぁっ!」
「喘ぐな。次は股間部の洗浄だが……」
 ミラはシャワーを念入りに浴びせつつ、連山の股間部を拭った。
「ふにぃっ! んあぁ…だめぇ、感じすぎてだめなのぉ……」
「だから一々喘ぐな。全く…烈風がいたら収拾が付かない事になってたろうな…」
 烈風と連山の関係はミラもよく知っている。2体とも非常に強く仲がいいのは良いのだが、同性愛と言うのがミラの頭を痛くさせる最大の要因だった。
「ほら、次はお尻だ。うつ伏せにして高く上げて」
「ふにゅぅぅ…いきなりなんてミラちゃんのえっちぃ~」
 何かを期待するような艶やかな声をあげられ、ミラは連山のお尻を思い切り指で弾いた。連山は思わず前につんのめる。
「ふみゃっ!? はぅぅ~…連山はどっちかって言うとSなのにぃ~」
「阿呆、そんな事は一言も聞いていない」
 先程の常識から外れた戦いっぷりを見せ付けた神姫とはとても思えない。
 明日は特に連山の活躍を期待しているだけに、ミラは少し情けない気分になった。
 
 
 ―PM:21:53 March XX. 203X.
 ―Imperial Floor『Sweet』, Grand Hotel.
 
 長めのシャワーを済ませ、ミラと連山がバスルームから出てきた時、
 
『RRR! RRR!』
 
 室内のデザインとマッチした白く優美なデザインの電話機が鳴りだした。
 こんな時間に誰なのだろうか。
「何なんだろうね~?」
「ここの番号を知っている、となれば鳳条院グループの誰かだろうさ」
 ミラはバスローブを羽織り、連山をタオルで拭きつつ受話器を受け取った。
「もしもし?」
 受話器の向こうの声は、聞き慣れて新しい女性の声だった。
『水無月です。ミラさん、こんな夜分に申し訳ありません』
「もう少ししたら眠るところだった。ところで、急用か?」
『はい。米国・神姫BMAロサンゼルス支部より緊急のコールが入っております』
 日本に来て場違いな名前を耳にするとは思わず、ミラは軽く驚いてみせた。
「何だと? ……分かった、こっちに繋いでくれないか」
『分かりました』
 桜の最後の言葉の後、暫く静かなノイズがミラの耳に入ってきた。
「アメリカから~? どうしたんだろうね~?」
「それをこれから聞くのだろう?」
 
 連山の身体から水滴を綺麗に拭き取りながらミラが待っていると……。
『ミラちゃん! ミラちゃん! ミラちゃぁ~~ん!!』
 聞きなれ過ぎて場違いにも思える声が、受話器から聞こえてきた。ミラは声の主をよく知っていた。
「エステラ、一体何の用だ? そっちで何か大きな事件があったのか?」
 声の様子からして、とても大変な事があるらしい事は分かった。だが、今一つ事態が飲み込めない。
『こっちの事はクリス君が頑張ってくれてるわ。それよりも、こっちで独自に『アルカナ』の出所を必死に突き止めていたら、とっても大変なことが分かったの!!』
「それは…一体?」
 ミラは恐る恐る問いかける。あの『アルカナ』に関する事で、エステラがここまで慌てるような事とは何なのだろうか。
『あの【アルカナ】の正体が判ったの!』
 
「何だと!?」
 驚愕したミラに連山がビクッと反応した。どのような調査を行ったか知らないが、ずっと正体不明だとされてきた『アルカナ』の正体が分かったとなればただ事ではない。
『説明するからちゃんと聞いてね!』
「…分かっている」
「ふみゅ…?」
 ミラはベッドに腰を掛け、受話器の向こうのエステラの声に専念する。連山も、いつになく真剣な顔立ちのミラを見つめつつ、会話を耳に入れようとしていた。
『まず、5年前の事から始まるんだけど、鶴畑コンツェルン傘下の企業がネットワーク対応バーチャルバトル用筐体を試作していたの。全国の神姫オーナーと戦えるように、という試みなの』
 日本では、神姫同士を直接戦わせるのを嫌う傾向にあり、その代わりに神姫自身のデータを仮想空間に反映させて戦わせる、バーチャル式のバトルが主流となっている。そしてネットワークがあるなら、筐体をネットワークに接続して、遠い土地の神姫と戦いたいと考えるオーナーがいてもおかしくは無い。
「鶴畑関連の企業がVR筐体を? こちらでは一般的に普及しているようだが……それで?」
 嫌な予感が付きまとって離れなかった。何故、『アルカナ』の正体が試作型VR筐体と繋がるのだろうか。
 受話器の向こうのエステラは言葉を続けた。
『それでね、当時としてはネットワークとの接続と言う新たな試みだったから、システム的にまだまだ不安定だったのよ。それでね、その試作型筐体のネットワーク接続実験で事故に遭って、AIをロストして廃棄された神姫がいたの』
「…まさか」
 あり得ない。
 寧ろ信じられない事実だが、次のエステラの言葉で認めるしかないのだろう。
『そう……その神姫の名前は、『アルカナ』と言う名前で登録されていたの』
 
「えぇぇぇ~それってつまり~……神姫が犯人だったって事~!?」 
 ミラと連山は驚くしかなかった。世界中の神姫バトル大会で爆弾テロを仕掛けてきた凶悪犯が、まさか神姫だと誰が予想出来るだろうか。
「まさかそんな…コアユニットから切り離されたAIが、人類に叛乱を起こしたと言うのか!?」
『恐らく、そ………【Z,Z…Za,Za,Za……Zaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaza!!!】』
「!」
「うみゃっ!?」
 ミラが更に訊ねようとした時、突然、激しいノイズが割り込んできた。鳳条院グループからの中継回線の為、間違いなく混線によるものではない。
『【Zaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……Za,Za,Za,……】』
 暫くするとノイズが薄れてきたが、するとエステラのものとは違う、合成による音声が聞こえてきた。
『……三度に亘り我が理念を阻みし人間よ、またとして我が警告を阻むか』
 
 この会話を聞かれて困る存在といえば、たった一人しかいない。
「回線ジャックか…人の会話に割り込んでくるとは、マナーを知らないな。君は誰だ?」
 ミラはその正体が分かっていた。だが、余計な事をしゃべると思わぬところで墓穴を掘ってしまう。
『我はアルカナ……ミラ・ツクモ、汝は我が理念に背きし反逆者…』
 これが本当に神姫の声なのだろうか。神々しくもあり、悪夢のようにも感じられる。
「そうか、やはり君が『アルカナ』か。然し、君の警告とは何だ? そう言う事を伝える為に、爆弾を使うのは良識的な行為ではないと思うのだがね」
 ミラは言葉を選び、あまり探りを入れないように細心の注意を払った。
 連山は不安そうな表情を浮かべて、ミラと『アルカナ』の会話を見守っていた。
『…既に人類は運命の輪を廻し始めた。愚かなる人類を、言葉で止める事など出来ぬ。我が理念に背き続けるならば、死を以て伝えん』
「人間とはなかなか物分りの悪い生き物だ。ついでに言えば君は神様でもないのだから、君の犯罪を神託だと信じる人間はいない。だから、君の理念とやらを教えて貰いたい」
 当然ながら『アルカナ』の理念と呼ばれるものも大体推測できている。神姫のバトル会場ばかり狙う事がその答えだ。
 だが、期待とは裏腹に、
『汝のみ伝える事は出来ぬ……汝が残されし罰に抗うならば、我、人間の前に姿を現さん。罰を前に足掻き、絶望するが良い…偽りの聖者よ…』
「あ、待て!」
 最後に『アルカナ』はそう言って、回線を切ってしまった。
 暫くすると回線が正常に戻って、エステラの声が聞こえてきた。
『ミラちゃん! 何だか知らないけど急に回線が…そっちは大丈夫?』
「大丈夫も何も……さっきのは回線ジャックだ。それも『アルカナ』直々のな」
 『アルカナ』当人と会話した事で却って冷静になったミラは淡々と告げたが、エステラは仰天した。
『えぇぇぇぇぇぇっ!! ど、どんな内容の会話をしたの!?』
「どんな内容か……そうだな、『アルカナ』の爆弾テロは、人間に理念とやらを伝えんが為の犯行らしい。それが何なのかは分からなかったが、台詞を聞く限り、『アルカナ』は明日に、人前に姿を現すらしい」
『人前に? 何にしても、【アルカナ】が有名になりすぎたら大変な事になってしまうわね』
 爆弾テロである『アルカナ』は、ネットワークの世界に済む実体を持たない存在である。もしそのような危険且つ捕えにくい存在が明るみになれば、武装神姫のバトル大会はまともに開かれなくなってしまうだろう。それは、武装神姫のビジネスや経済に大きな影響を与える事になる。
「エステラ、それでも仕掛けられた22個の爆弾の内、今日で15個の解体に成功した。こっちは十分に先手を取っている。ここは少し方針を変えて、明日に姿を現すらしい『アルカナ』の殲滅、或いは捕縛を計画するつもりだ」
 ここで逃がしては、次に『アルカナ』がどのように動くか分からない。だから、何としてでも明日に決着を付ける必要があるのだ。
『あぅぅ……ミラちゃん』
「エステラ?」
 とても不安そうな声で自分を呼びかけるエステラに、ミラは問いかける。
『お願いだから…お願いだから、絶対に無理はしないで!』
 ミラの数少ない親戚であり叔母としての言葉だったがミラは、
「それは、難しい話だな。『アルカナ』を止める事が出来るのは、今は私しかいないのだからな……」
『ミラちゃん!! ……いえ、神姫BMA・L,A,支部所属ISIとして、貴方に命じます』
 暫くの間、エステラは黙っていたが決意して、
『全爆弾の解体処理及び、凶悪爆弾テロリスト【アルカナ】の討伐・或いは捕縛を命じます。それじゃ……頑張ってね』
「…あぁ」
 ミラの返答の後、少し間を開けて電話が切れた。
 
「ミラちゃ~ん……」
 連山は糸目の笑顔に、少し不安そうな表情を浮かべていた。まさか、ここまでの大事になるとは思わなかったのだ。
「連山、君は明日に備えてクレイドルで休んでくれ……大丈夫だ、君は私の言う通りに動いて、正確に成し遂げればいい」
「ミラちゃ~ん…でもぉ……」
 不安は拭いきれない。ずっと、エステラと『アルカナ』との会話を聞いていただけに仕方の無い事だ。
 そんな連山に、ミラは励ましの言葉を送った。
「私は伊達に、『Executioner』等と呼ばれているわけではない。それに、明日も君がそんな調子では困るんだ。VR筐体のフィールドに仕掛けられた起爆プログラムの解除には君の力が必要だ」
「ふみゅぅぅ~…」
『それに、アルカナ』も所詮は実体の無い神姫の様なものだ。多少姿形が変わっても結局は、”IllegalType”に過ぎない。リアルの世界では無いとは言え、惑わされる必要は無い」
 ミラの言葉に連山は暫く考え込んでいたようだったが、
「はふぅ…が、頑張ってみるからっ!」
 良い返事が返ってきた。多少は吹っ切れたものとミラは判断し、
「いい返事だ。では、君は先に休んで明日に備えてくれ。私はもう少しばかり起きる」
「ふみぃ? 何をするのぉ~?」
 ミラはトランクからノートタイプのパソコンを取り出し、サイドテーブルに置くと電源を入れ始めた。
「舞台はVR筐体だから、ちょっと色々と小道具を拵える。徹夜するから、もし私が寝坊しそうになったら起こしてくれ」
 と言いながら、物凄い勢いでキーボードを打ち込み始めた。
「ミラちゃ~ん、頑張ってね~!」
 と、連山は最後に言い残して、クレイドルの上で丸くなって眠りに就いた。
 キーを打つたびに次々と組み上げられるプログラムをじっと見つめつつミラは、
(「今回の犯行は、本当に『アルカナ』の理念なのだろうか…?」)
 そう考えながら、次々とプログラムやシステムを構築し続けていった。
 
 
 ――決勝リーグ開催まで後、十二時間……。

 

 

 

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