和の心とは即ち、着物に宿る物也
常日頃から地下にて暮らしている私・槇野晶と三人の“妹達”であるが、
ビルの間から差す陽の光は、毎日きっちり浴びている。皆の精神衛生上、
こういった事を欠かすと陰鬱になっていかんのでな。例え集光タワーから
太陽光を地下に引いているとしても、だ。その手段が、朝の体操である。
ビルの間から差す陽の光は、毎日きっちり浴びている。皆の精神衛生上、
こういった事を欠かすと陰鬱になっていかんのでな。例え集光タワーから
太陽光を地下に引いているとしても、だ。その手段が、朝の体操である。
「いっちに、さんし……にぃに、さんしっ。有無、今日もいい日だ」
「それにしてもマイスター、なんでわたし達までブルマ姿ですの?」
「私だって着替えているだろ?運動には、運動に適した姿が大事だ」
「さんに、さんし……。動かさないと、モーターが鈍りますしねッ」
「それにしてもマイスター、なんでわたし達までブルマ姿ですの?」
「私だって着替えているだろ?運動には、運動に適した姿が大事だ」
「さんに、さんし……。動かさないと、モーターが鈍りますしねッ」
……貴様、じろじろ見るな。私や“妹達”が、ブルマ姿で何が悪いッ!
ジャージ必須という程寒い季節ではなくなったのだしな、人の勝手だ。
更に気分という物もある。ほら、クララにさえも似合っているだろう?
そう言えば、これからは春を過ぎて夏か……それに、連休も遠くない。
ジャージ必須という程寒い季節ではなくなったのだしな、人の勝手だ。
更に気分という物もある。ほら、クララにさえも似合っているだろう?
そう言えば、これからは春を過ぎて夏か……それに、連休も遠くない。
「なあお前達。今日は店も昼までだ、午後から買い物にでも出ぬか」
「お買い物?よい、しょっと……でもマイスター、何を買うのかな」
「まずは、お前達の部屋を増設する。個室がそろそろ欲しかろう?」
「お買い物?よい、しょっと……でもマイスター、何を買うのかな」
「まずは、お前達の部屋を増設する。個室がそろそろ欲しかろう?」
唐突な私の誘いに、背筋を曲げた皆がきょとんとする。勿論、私自身に
腹案あっての提案である。買ってやりたい物は既に決まっているのだ。
それに太陽を浴びる為、私が日頃から行う手段には“買い物”もある。
腹案あっての提案である。買ってやりたい物は既に決まっているのだ。
それに太陽を浴びる為、私が日頃から行う手段には“買い物”もある。
「あたし達の個室、ですか?それ位のスペースはありますけど……」
「それなら、わたしは和室がいいですの♪後はついでに、お着物も」
「こらロッテ。私が思っていた事を、先に言うんじゃない……もう」
「それなら、わたしは和室がいいですの♪後はついでに、お着物も」
「こらロッテ。私が思っていた事を、先に言うんじゃない……もう」
『てへへ』と運動用の壇上で笑うロッテに、私は苦笑いした。その通り。
毎日洋装では飽きると思ってな、和室系の装飾品やクレイドルを買いこみ
更に“個々の和室に似合った和装”を買ってやろうと思うのだ。日頃から
店を手伝う彼女らに、定期的に何かをしてやりたい……それが私なのだ。
毎日洋装では飽きると思ってな、和室系の装飾品やクレイドルを買いこみ
更に“個々の和室に似合った和装”を買ってやろうと思うのだ。日頃から
店を手伝う彼女らに、定期的に何かをしてやりたい……それが私なのだ。
「という訳で、座敷の調度品を選んだら和装を一着ずつ買ってやろう!」
「何だか悪い気がするんだよ、マイスター……でも、甘えちゃおうかな」
「そう……ですね。流されちゃおう、かな?今から楽しみです、あたし」
「体操と朝食が終わったら早速、お出かけの準備しちゃいますの~っ♪」
「何だか悪い気がするんだよ、マイスター……でも、甘えちゃおうかな」
「そう……ですね。流されちゃおう、かな?今から楽しみです、あたし」
「体操と朝食が終わったら早速、お出かけの準備しちゃいますの~っ♪」
はしゃぐロッテを宥め、体操を終えて朝食を摂る。私は、半日仕事だ。
ん、『何故一着ずつなのか』だと?貴様、着物の相場を甘く見るなよ。
僅かな不具合で価格が数段落ちた“B反”でも、バカには出来ぬのだ。
それに洋装や浴衣と違い、神姫用完成品は殆ど市場に出回っていない。
何せ最初から着こなせる神姫等、第三弾の武士型・紅緒位の物なのだ。
いっそ自分で作っても良かったが、やはり私は洋装の方が得意らしい。
……などと色々考えている内に、あっという間に時間が来てしまった。
ん、『何故一着ずつなのか』だと?貴様、着物の相場を甘く見るなよ。
僅かな不具合で価格が数段落ちた“B反”でも、バカには出来ぬのだ。
それに洋装や浴衣と違い、神姫用完成品は殆ど市場に出回っていない。
何せ最初から着こなせる神姫等、第三弾の武士型・紅緒位の物なのだ。
いっそ自分で作っても良かったが、やはり私は洋装の方が得意らしい。
……などと色々考えている内に、あっという間に時間が来てしまった。
「というわけで、昼食も済んだ事だし出るとしよう。準備は良いか?」
「はいですの~♪でも和服買いに行くのに、この姿で大丈夫ですの?」
「こればかりは仕方有るまい。断られたら潔く出ていくしかないがな」
「和服がないと和服を買えない……というのはちょっと大変ですしね」
「とにかくまずは調度品とクレイドル群の調達なんだよ、マイスター」
「はいですの~♪でも和服買いに行くのに、この姿で大丈夫ですの?」
「こればかりは仕方有るまい。断られたら潔く出ていくしかないがな」
「和服がないと和服を買えない……というのはちょっと大変ですしね」
「とにかくまずは調度品とクレイドル群の調達なんだよ、マイスター」
上機嫌で、私達はアキバを後にした。まずは新宿のドールショップで
調度品と和室用の建材調達からだ。そこはMMSも扱っている為か、
東杜田技研製のクレイドルも僅かに揃っていた。そこで、正規販売の
始まった“和壱式”を始めに、壷や掛け軸などのミニチュアも買う。
調度品と和室用の建材調達からだ。そこはMMSも扱っている為か、
東杜田技研製のクレイドルも僅かに揃っていた。そこで、正規販売の
始まった“和壱式”を始めに、壷や掛け軸などのミニチュアも買う。
「え~と……この達筆な文字は“木”って読みますの、クララちゃん?」
「それは“心”だよ、ロッテお姉ちゃん……ボクはこの行灯がいいかな」
「うんと……あたしはこの捻れたツボが欲しいです、造花とか入れたり」
「か、買いすぎではないか?これは、ちょっと持ち運べぬぞ……ううむ」
「それは“心”だよ、ロッテお姉ちゃん……ボクはこの行灯がいいかな」
「うんと……あたしはこの捻れたツボが欲しいです、造花とか入れたり」
「か、買いすぎではないか?これは、ちょっと持ち運べぬぞ……ううむ」
実際に使える陶器の湯飲み等が、皆の興味を惹く。私はそれを見ながら、
四人の箸置きを選ぶ。結局調度品や建材も含め、分量は相当数に及んだ。
その品数は既に、私が一人で持ち運び出来る容量を超えてしまっている。
止むを得ず、殆ど全てを宅配でアキバの我が家に届けてもらう事とした。
次は、同じく新宿の呉服屋。規模は大きくないが、その方が都合はいい。
四人の箸置きを選ぶ。結局調度品や建材も含め、分量は相当数に及んだ。
その品数は既に、私が一人で持ち運び出来る容量を超えてしまっている。
止むを得ず、殆ど全てを宅配でアキバの我が家に届けてもらう事とした。
次は、同じく新宿の呉服屋。規模は大きくないが、その方が都合はいい。
「よし、では着物を選ぶ段だな。店主、電話で頼んだ通り宜しく頼む」
「ああいや構いませんえ、御嬢はん。で、この娘らに着せるんどすか」
「もちろんですの♪浅葱色の着物で何か、いいものはないですのっ?」
「……ん、ボクは青竹色か萌葱色が好みなんだよ。お願い出来るかな」
「えっとえっと。赤色……じゃなくて、桃色系統で何か無いですか?」
「はいはい、少々待っとくれやす。今奥から反物持ってきますさかい」
「ああいや構いませんえ、御嬢はん。で、この娘らに着せるんどすか」
「もちろんですの♪浅葱色の着物で何か、いいものはないですのっ?」
「……ん、ボクは青竹色か萌葱色が好みなんだよ。お願い出来るかな」
「えっとえっと。赤色……じゃなくて、桃色系統で何か無いですか?」
「はいはい、少々待っとくれやす。今奥から反物持ってきますさかい」
店主を急かす様にして、我が“妹”たる神姫達も呉服屋の奥に消えた。
──暫し時が流れて。何故か私を呼ぶ声が店の奥から響いた。何事だ?
言われるままに進んだ私は、そこで予想だにしなかった物を目にする。
──暫し時が流れて。何故か私を呼ぶ声が店の奥から響いた。何事だ?
言われるままに進んだ私は、そこで予想だにしなかった物を目にする。
「決まったのか店主、ってそれは紫系の反物ではないか。誰が着るのだ」
「この娘らが、どうしても御嬢はんにも着物着せたい言いはりますんえ」
「私に!?……お前達な、勝手な事をして……嬉しいじゃないかこのッ」
「この娘らが、どうしても御嬢はんにも着物着せたい言いはりますんえ」
「私に!?……お前達な、勝手な事をして……嬉しいじゃないかこのッ」
困った顔で笑う店主と、その横には思い思いの反物を抱えた三姉妹達。
その前には、“人間サイズの”紫の反物が幾つか並べられていたのだ!
そう。予め私にも着せる事を想定してロッテは承諾したのだな、全く。
その前には、“人間サイズの”紫の反物が幾つか並べられていたのだ!
そう。予め私にも着せる事を想定してロッテは承諾したのだな、全く。
「きゃっ!?だ、だってわたしたちだけなんてちょっと寂しいですの~」
「……ボクらに着せる物はマイスターも着る、いつもそうだったもんね」
「だから、マイスターも着てみてください!……着てくれます、よね?」
「しょうがない娘らめ、分かったッ!店主、私にも見繕ってくれないか」
「……ボクらに着せる物はマイスターも着る、いつもそうだったもんね」
「だから、マイスターも着てみてください!……着てくれます、よね?」
「しょうがない娘らめ、分かったッ!店主、私にも見繕ってくれないか」
──────お財布は厳しいけど、やっぱりお揃いがいいもんね。