第7幕「意思の同調状態」
TEPY SAMURAIのボディーを使用してはいるが、コアパーツにはTEPY DOGの物を取り付けている。ならばTEPYで呼称するのであればその神姫はハウリンであろう。
例えその殆どを紅緒のもので武装したとしても、やはり顔がハウリンならばそう呼ぶのが妥当ではないか。
大本がどうであれ、判別する為の材料としてまずコアパーツを見るのであれば、いくらその個体の大部分がTEPY SAMURAI 紅緒だとしてもそれは紅緒になりえない。
結城セツナの所有する武装神姫、焔はそういう位置に立つ神姫である。
例えその殆どを紅緒のもので武装したとしても、やはり顔がハウリンならばそう呼ぶのが妥当ではないか。
大本がどうであれ、判別する為の材料としてまずコアパーツを見るのであれば、いくらその個体の大部分がTEPY SAMURAI 紅緒だとしてもそれは紅緒になりえない。
結城セツナの所有する武装神姫、焔はそういう位置に立つ神姫である。
そのバトロイは、圧倒的で劇的な、そんな結果を伴って終了に向かっていた。
戦いには相性というものが少なからず存在する。簡単に言ってしまえばジャンケンの様なもの。
グーはチョキに勝てるが、パーには勝てない。
実際はそこまで単純な話ではないのだが、それでも相性というものは戦いにおいて重要だ。
そしてそれは何も相対する敵との相性に限った事ではない。
個体間に差異の大きい武装神姫であるなら、組む相手との相性もまた重要である。
ティキと焔の相性は、元々一つであった何かが再び出会ったのかと言う位良好であった。
M・D・U『シルヴェストル』を装備したティキの姿を見たときは、さすがにセツナも焔も驚いた。
今までのティキとは明らかに違うそのシルエットは、その変化に見合うだけの力を持っていることが窺い知れる。
決して洗練されてはいないのだが、そこには様式美ではない美しさが見て取れた。
一方焔は相変わらずオフィシャルな武装を組み合わせた姿である。それでも今までの装備とは違っていた。
外套を外し、黒き翼、悪魔の翼を装備する事をやめ、ツガルの背部ユニット、レインディアアームドユニット・タイプγに差し替えてあった。起動性能が落ちた分は、鎧の各所にスラスターを増設して補っている。
まるで武者なんとかみたいな有様ではあるが、そこにはある種の洗練されたまとまりが感じられた。
「索敵と援護射撃は任せて欲しいのですよぉ♪」
ゲーム開始直後、焔に自信満々でそう言ったティキは、その言葉を証明して有り余るほどの働きを見せる。
高速で移動し、位置をそのつど変えながらも的確に攻撃。その間にも次の敵を正確に察知する。
その援護を受けながら、焔は自身の得物、斬破刀“多々良”を振るい効率よく敵を殲滅していった。
焔もセツナも、正直二人の成長に驚いていた。もちろん焔は自身の中にある海神の残したデータと比べて、ではあるが。
わずか二月の間に性能任せの力押しはなりを潜め、的確な状況判断の下に行動する姿がそこにはある。
それでも武装は多分に趣味的ではあるのだが。
目の前の敵は、ティキの援護の甲斐もあってか一刀の下に両断された。
焔は初めて実感として経験するティキとの協力プレイに、今まで神姫相手に感じた事の無い頼もしさを得る。
「?」
神姫相手に始めて感じる感情。でもその感情そのものは、決して初めてのものではない。
それに思い至り、焔はしばし動きを止める。
「うに? 焔ちゃんどうかしたのですかぁ?」
不意に動きを止めたパートナーにティキは声をかける。
「あ、あぁ。大丈夫……」
ごく普通の、相手を気遣った当然過ぎるやり取り。
当たり前の反応で、当たり前すぎる行動。
お互いに信頼しあう間柄で交わされる、他愛も無いもの。
だけど
だけど……?
戦いには相性というものが少なからず存在する。簡単に言ってしまえばジャンケンの様なもの。
グーはチョキに勝てるが、パーには勝てない。
実際はそこまで単純な話ではないのだが、それでも相性というものは戦いにおいて重要だ。
そしてそれは何も相対する敵との相性に限った事ではない。
個体間に差異の大きい武装神姫であるなら、組む相手との相性もまた重要である。
ティキと焔の相性は、元々一つであった何かが再び出会ったのかと言う位良好であった。
M・D・U『シルヴェストル』を装備したティキの姿を見たときは、さすがにセツナも焔も驚いた。
今までのティキとは明らかに違うそのシルエットは、その変化に見合うだけの力を持っていることが窺い知れる。
決して洗練されてはいないのだが、そこには様式美ではない美しさが見て取れた。
一方焔は相変わらずオフィシャルな武装を組み合わせた姿である。それでも今までの装備とは違っていた。
外套を外し、黒き翼、悪魔の翼を装備する事をやめ、ツガルの背部ユニット、レインディアアームドユニット・タイプγに差し替えてあった。起動性能が落ちた分は、鎧の各所にスラスターを増設して補っている。
まるで武者なんとかみたいな有様ではあるが、そこにはある種の洗練されたまとまりが感じられた。
「索敵と援護射撃は任せて欲しいのですよぉ♪」
ゲーム開始直後、焔に自信満々でそう言ったティキは、その言葉を証明して有り余るほどの働きを見せる。
高速で移動し、位置をそのつど変えながらも的確に攻撃。その間にも次の敵を正確に察知する。
その援護を受けながら、焔は自身の得物、斬破刀“多々良”を振るい効率よく敵を殲滅していった。
焔もセツナも、正直二人の成長に驚いていた。もちろん焔は自身の中にある海神の残したデータと比べて、ではあるが。
わずか二月の間に性能任せの力押しはなりを潜め、的確な状況判断の下に行動する姿がそこにはある。
それでも武装は多分に趣味的ではあるのだが。
目の前の敵は、ティキの援護の甲斐もあってか一刀の下に両断された。
焔は初めて実感として経験するティキとの協力プレイに、今まで神姫相手に感じた事の無い頼もしさを得る。
「?」
神姫相手に始めて感じる感情。でもその感情そのものは、決して初めてのものではない。
それに思い至り、焔はしばし動きを止める。
「うに? 焔ちゃんどうかしたのですかぁ?」
不意に動きを止めたパートナーにティキは声をかける。
「あ、あぁ。大丈夫……」
ごく普通の、相手を気遣った当然過ぎるやり取り。
当たり前の反応で、当たり前すぎる行動。
お互いに信頼しあう間柄で交わされる、他愛も無いもの。
だけど
だけど……?
『結城さん』
セツナにのみ届けられる雪那の声。インカムを通した、極めてパーソナルな通信。焔にも、ティキにもその声は届いていない。
「……何?」
ゲームが終了した訳でもなく、実際にまだお互いの神姫は他の敵と戦っているが、この調子ならしばらく指示を出す必要もなさそうだった。
実は雪那は最初からこのタイミングを狙っていた。焔やティキに話を聞かれない時機を窺っていたのだ。
『いや、僕で結城さんの力になれるのかな、って』
あまり頼りになりそうには聞こえない、弱気な口調。
セツナは少しだけ逡巡する。
そして少しだけの決意をこめて、言葉を紡ぐ。
「うん、ありがとう。……唐突なんだけど、実はもう海神はいないの」
『…………』
インカムの向こうで、息を呑む音。
「それで、新しく焔を起動したんだけど、私あの娘にどう接して良いのかわからなくて、ね」
『……うん』
「別に、海神の代わりにあの娘を起動させた訳じゃないわ。言い訳に聞こえるかもしれないけど」
わだかまっていた感情が、決壊しそうになるのを感じる。
頭の隅にいる冷静な自分が「無様」と言っている。けど、感情が迸るのを止められない。
「ねえ、私があの娘を好きな様には、あの娘は感じてくれないのかな?」
普段とは違う、少し幼い口調。
「私、焔に嫌われてるのかな?」
声に湿り気が混じる。
常識は「神姫がオーナーを嫌う事はありえない」と告げる。が、焔はあの海神のCSCをそのまま使っているのだ。ならば焔が「オーナーに対して好意的な関係を望む」とは限らない。
海神とは、そういう存在だった。
だから
だから……?
セツナにのみ届けられる雪那の声。インカムを通した、極めてパーソナルな通信。焔にも、ティキにもその声は届いていない。
「……何?」
ゲームが終了した訳でもなく、実際にまだお互いの神姫は他の敵と戦っているが、この調子ならしばらく指示を出す必要もなさそうだった。
実は雪那は最初からこのタイミングを狙っていた。焔やティキに話を聞かれない時機を窺っていたのだ。
『いや、僕で結城さんの力になれるのかな、って』
あまり頼りになりそうには聞こえない、弱気な口調。
セツナは少しだけ逡巡する。
そして少しだけの決意をこめて、言葉を紡ぐ。
「うん、ありがとう。……唐突なんだけど、実はもう海神はいないの」
『…………』
インカムの向こうで、息を呑む音。
「それで、新しく焔を起動したんだけど、私あの娘にどう接して良いのかわからなくて、ね」
『……うん』
「別に、海神の代わりにあの娘を起動させた訳じゃないわ。言い訳に聞こえるかもしれないけど」
わだかまっていた感情が、決壊しそうになるのを感じる。
頭の隅にいる冷静な自分が「無様」と言っている。けど、感情が迸るのを止められない。
「ねえ、私があの娘を好きな様には、あの娘は感じてくれないのかな?」
普段とは違う、少し幼い口調。
「私、焔に嫌われてるのかな?」
声に湿り気が混じる。
常識は「神姫がオーナーを嫌う事はありえない」と告げる。が、焔はあの海神のCSCをそのまま使っているのだ。ならば焔が「オーナーに対して好意的な関係を望む」とは限らない。
海神とは、そういう存在だった。
だから
だから……?
だけど自分はご主人にその当たり前をしていたのか?
だから自分は焔を常に信じ切れなかったのか?
ただ決め付けて
ただ望みすぎて
ただ望みすぎて
本当の意味で、自分の事だけしか思いやれずに
私は
ワタシは
ワタシは
『きっと色々思い出して、考えたらそんな事無いってわかるはずですよ』
インカムを通して聞こえる優しい声。
『嫌っている相手のために何かを頑張るなんて事は、人間だって神姫だって出来っこないんですよ? だったら、焔も結城さんも、お互い好き合っているに決まってます!』
そうだ。焔が何で海神のデータを欲しがったのか。
それは焔自身の為ではなかったのだと、セツナはようやく思い至った。
きっとそれは私の為。
インカムを通して聞こえる優しい声。
『嫌っている相手のために何かを頑張るなんて事は、人間だって神姫だって出来っこないんですよ? だったら、焔も結城さんも、お互い好き合っているに決まってます!』
そうだ。焔が何で海神のデータを欲しがったのか。
それは焔自身の為ではなかったのだと、セツナはようやく思い至った。
きっとそれは私の為。
「あ……」
「? やっぱりどこか怪我でもしたですかぁ!?」
ようやく焔は思い至る。
「違う。そうじゃない」
ワタシに海神のデータを入れることになんであれだけ躊躇したのか。
それは焔が海神では無いから。焔は焔でしかない。焔にしかなれない。
だからセツナが見せたあの躊躇は、海神の為ではなかった。
それはきっと焔の為。
「? やっぱりどこか怪我でもしたですかぁ!?」
ようやく焔は思い至る。
「違う。そうじゃない」
ワタシに海神のデータを入れることになんであれだけ躊躇したのか。
それは焔が海神では無いから。焔は焔でしかない。焔にしかなれない。
だからセツナが見せたあの躊躇は、海神の為ではなかった。
それはきっと焔の為。
「本当に、嫌われて無いかな?」
答えは見つかったのに、わざと甘えるように聞く。
自分以外の誰かに、口にして欲しくて。
『当たり前です。こういう言い方は失礼なんですけど、二人とも相手を気遣いすぎなんですよ。……不器用すぎです』
雪那は笑う。
その笑い声も耳に心地よい。
『だから結城さんはいつかのゲームのときに海神に見せた、あの誇らしげな顔で焔を迎えるだけで良いんです』
私はその時どんな顔を彼に見せていたのだろう。
初めて雪那と出会った時の事を思い出しても、うまく思い返すことは出来ない。
『海神の事、信頼していたんでしょ? そして焔の事も信じたいんでしょ? なら考えすぎないで、感じたままに接すれば良いんですよ』
言われて初めて自覚する。
私は海神をパートナーとして信頼を寄せていたんだ……
セツナの目には一筋の涙。
焔、ごめんなさい。私は海神をちゃんと大切に思っていた。
次いでもう一方の目からも涙が零れる。
そして焔。私、貴女の事も負けないくらいに大切に思ってる。
友人として新たな関係を築かねばと、そこに囚われすぎていた。本当はそんな事を深く考える必要など無かった。
答えは見つかったのに、わざと甘えるように聞く。
自分以外の誰かに、口にして欲しくて。
『当たり前です。こういう言い方は失礼なんですけど、二人とも相手を気遣いすぎなんですよ。……不器用すぎです』
雪那は笑う。
その笑い声も耳に心地よい。
『だから結城さんはいつかのゲームのときに海神に見せた、あの誇らしげな顔で焔を迎えるだけで良いんです』
私はその時どんな顔を彼に見せていたのだろう。
初めて雪那と出会った時の事を思い出しても、うまく思い返すことは出来ない。
『海神の事、信頼していたんでしょ? そして焔の事も信じたいんでしょ? なら考えすぎないで、感じたままに接すれば良いんですよ』
言われて初めて自覚する。
私は海神をパートナーとして信頼を寄せていたんだ……
セツナの目には一筋の涙。
焔、ごめんなさい。私は海神をちゃんと大切に思っていた。
次いでもう一方の目からも涙が零れる。
そして焔。私、貴女の事も負けないくらいに大切に思ってる。
友人として新たな関係を築かねばと、そこに囚われすぎていた。本当はそんな事を深く考える必要など無かった。
「いきなりで申し訳ないが、ティキ。ワタシは焔以外の誰かになれるだろうか?」
振り返り、焔は真っ直ぐティキの目を見る。
「? 焔ちゃんは焔ちゃんなのですよぉ? 焔ちゃん以外の誰かになんて、なっても意味が無いのですよぉ~♪」
意味が解らないながらも、ティキははっきりと答える。
「ティキはそう思うのですよぉ♪ それに……」
ティキは少しだけ間を開ける。
「海神ちゃんも、そう言ってたのですぅ☆」
焔の内に海神の『記録』はあっても『記憶』は存在しない。だから、その『記憶』は焔の中には存在しない。
だが
だが、海神がそう言ったのであれば、それはセツナの意思と同じなので、それは焔の中にも受け継がれているのではないのか。
思い至り、そして焔は思い出す。
『正式名称の方はただの飾りだから』
その言葉は一番初めにセツナが言った言葉。
それは何よりも焔が海神とは違う存在だと宣言していた。
セツナが焔に望む事。それは焔が焔でいるという事だった。
「は……ははは。ワタシはただの飾りに振り回されていたのか」
到ってみればその答えはあまりにも単純で。
ゲームの最中だと言うのに焔は声を上げて笑った。
振り返り、焔は真っ直ぐティキの目を見る。
「? 焔ちゃんは焔ちゃんなのですよぉ? 焔ちゃん以外の誰かになんて、なっても意味が無いのですよぉ~♪」
意味が解らないながらも、ティキははっきりと答える。
「ティキはそう思うのですよぉ♪ それに……」
ティキは少しだけ間を開ける。
「海神ちゃんも、そう言ってたのですぅ☆」
焔の内に海神の『記録』はあっても『記憶』は存在しない。だから、その『記憶』は焔の中には存在しない。
だが
だが、海神がそう言ったのであれば、それはセツナの意思と同じなので、それは焔の中にも受け継がれているのではないのか。
思い至り、そして焔は思い出す。
『正式名称の方はただの飾りだから』
その言葉は一番初めにセツナが言った言葉。
それは何よりも焔が海神とは違う存在だと宣言していた。
セツナが焔に望む事。それは焔が焔でいるという事だった。
「は……ははは。ワタシはただの飾りに振り回されていたのか」
到ってみればその答えはあまりにも単純で。
ゲームの最中だと言うのに焔は声を上げて笑った。
最初から、セツナと焔はお互いを思いやり、大切に思っていた。
そして、だから、どうしても、どうしようもなく、すれ違ってしまった。
絆は初めから判りやすい位に堂々と存在していたのに。
そして、だから、どうしても、どうしようもなく、すれ違ってしまった。
絆は初めから判りやすい位に堂々と存在していたのに。
「『ありがとう』」
セツナは雪那に
焔はティキに
その同じ刹那に同じ言葉を送る。
雪那は照れたように笑い
ティキは満面の笑みを浮かべて
『『まだゲームは終わって無いですよ』ぉ♪』
「そうね」
『その通りだ』
そう、まだゲームは終わっていない。
『敵機確認したですよぉ~♪』
そういうなりティキは再び空へと舞い上がる。
そのティキを確認することなく、焔は迎撃体勢に移った。
セツナは雪那に
焔はティキに
その同じ刹那に同じ言葉を送る。
雪那は照れたように笑い
ティキは満面の笑みを浮かべて
『『まだゲームは終わって無いですよ』ぉ♪』
「そうね」
『その通りだ』
そう、まだゲームは終わっていない。
『敵機確認したですよぉ~♪』
そういうなりティキは再び空へと舞い上がる。
そのティキを確認することなく、焔は迎撃体勢に移った。
セツナと焔はやっとスタートラインに立つ。ゲームは、これから。